FC2ブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

--/--/-- --:-- | スポンサー広告  TOP

「ごめんなさい」その百二_第九十九話_ハッピーハロウィン

 こんばんは、お久しぶりです。三日月です。

 Q、ずいぶん待たせたけど、その分いいものに仕上がっているんだろうな?
 A、平常運転です・・・ごめんなさい。
 Q、しょうがないね。どう、これから定期的に更新できそう?
 A、すみません現時点では不可能と言わざるを得ないです。
 一応、ハロウィン分は書き終わり、今回が前編、次回百話が後編のような形で更新できると思います。そこまでは書けているので、次話は来月更新予定です。
 しかしそれ以降はまたいつになるかわかりません。本当に申しわけないです。
 せめてものハッピーバレンタインです。チョコはありませんがエロはあります。これからもそれしかないです。あといちゃいちゃ、らぶらぶ、とか・・・
 Q、ところで、前回目次になにかクイズ出したんだって? 正解者はいたの?
 A、あれは目次コメント書くときに少し酔っていたようなそうでないような、とにかく勢いで書いてしまったので難易度に難がありまして申し訳ないです。一応、正解者はいませんでした。さすがに適当に過ぎたと思いますので、今後はもうちょっとなにか別の方向でお遊び要素を取り入れていけたらなと・・・
 最後に、次回は百話更新なのでちょっとした発表があります。
 いつも拍手コメントメール、ありがとうございます。こんなでも送って下さる皆様に本当に感謝です。
 それでは第九十九話です。どうぞ


 










 九十九 ハッピーハロウィン

 

 

 

 

 

 

 

 

 ざらりとした舌が背中を過ぎ去る。産毛をかすめたかと思えば汗までを舐めとり、味わうように吸ってさえくる。

 

 

 目隠しをされたまま四つんばいで拘束された状態での愛撫は、切ない快感を伴って自分を苦しめてくれる。敏感になって、るかも。

 

 

 最近せんせ、道具いっぱい使うようになってきた気がする……変態だぁ。

 

 

 でも静香(しずか)こそ、あたしこそ。中学生でセックス漬けにしあわせを感じる、ド変態だ。

 

 

 お誕生日に犯されて、これ以上ないって感じる、正真正銘の変態だ。

 

 

「どうだった修学旅行? やっぱり調教メニューがないと味気なかったかい?」

 

 

 暗闇の向こうから聞こえる、大好きな人の声。春花(はるか)さんはテノールって言ってた、綺麗な低音。

 

 

「いえ……いつご命令が来るか、どきどきしてました。結局来なくって、どぎまぎするばっかりで」

 

 

 四つんばいの両手両足は一つずつ縛られて固定されていて、動くこともできない。裸の全身は前から後ろから、きっちり録画されている。

 

 

「それはごめんね」べろりと、舌が首筋を這いずる。「今月は抑えようと決めたんだ。(めぐみ)もきちんとしていたし。実は、いいのが思いつかなかったのもあるんだ」

 

 

「そう、っ、ですか……」

 

 

 鼻息がかかってくすぐったいのに、肌色はかすめる程度にしか同じ肌色と触れ合わなかった。暗闇の向こう、せんせがなにをしているか、どうしているか、わからない。

 

 

 下を向くおっぱいが身じろぎのたびに揺れて、跳ねる。自分でも薄いと思う色の乳首が興奮でとがっているのに、焦らすように責められるばかりですごくじれったい。

 

 

 高めに掲げたお尻が挿入を待ってる。大事なところはじんわりと濡れて、お水が垂れかかっているのに。

 

 

「この前もやり過ぎて悪かったね。気絶するほどまでしてしまって」

 

 

「いえっ、いいえっ」

 

 

 むしろその、ひどく興奮したっていうか、思い返して胸が熱くなるっていうか、すごくよかったっていうか。

 

 

 めちゃくちゃ気持ちよくって、なかったもの。

 

 

 あれを連続して毎日毎晩受けて、狂いたくなるくらいには。

 

 

「だから今夜は普通にするよ、お前がどう思っていようがね。誕生日だし、一緒に寝てあげる。久しぶりに静香の谷間に腕も貸してあげよう」

 

 

「あ、ありがとうございます……あ、あの」

 

 

「でも」くい、と顎が持ち上げられる。「いつ挿れていつ射精()すかは、私が決める。静香に主導権はない、いいね?」

 

 

「はい、それはもう」

 

 

 言うまでもなくドMなあたし。むしろ渡されたら困る。

 

 

「実は今日もどこまで自分が我慢できるか試しているんだ。軽い前戯だけでどれだけ時間を潰せるか、ね。我慢できなくなって生膣内射精(なかだし)したくなるまで、焦らしてみるのも悪くないってね」

 

 

 舌だけがまたほっぺを通り過ぎる。フラッシュが焚かれ、部屋の空気だけが触れる時間になってしまう。視線は目隠しの向こう、感じるのに、触れ合いがない。

 

 

 我慢できなくなったのはあたしのほうだった。前後に身体を揺すって、胸を揺らしてお尻を振って、無意識に誘ってた。

 

 

 でもなにも起こらない。真っ暗闇は孤独で、耐えがたいものだった。

 

 

「静香、もしかして君も胸が大きくなったかな? 測ってみよう……八十、三センチ、だね。一センチ大きくなってるね」

 

 

「ああ……どうりでなんだかちょっとブラがきついなって。まだ替えるほどじゃあないんですけど」

 

 

「へぇ、よかったね。まだ下着のサイズは平気なんだね? 実はプレゼント用の下着を買ってあってね、それも着れそうだな」

 

 

「……」えっちなのですかって、聞こうと思ったけど多分意味ない。きっとそうだから。

 

 

「あ、言っておくけど、無駄遣いじゃあないからな? きちんと月の小遣いから出してるから、平気平気」

 

 

「ふふ、はい。あたしはその点、信頼してますから」

 

 

 金づかいが荒いって、いつかの占い通りだけど、最近はよくなってきてるもんね。

 

 

「それよりその、せんせ……ね? まだ我慢できちゃいますか? 子作りしたいです、赤ちゃん、一人でいいから産みたいですっ」

 

 

「私主導、言った通りだ。犯されたいならいやらしい台詞なり行動なりとってみろ」

 

 

「はい。静香は修学旅行中、えっちなご命令を待って悶々としてました。いやらしいことをいつも期待してる淫乱中学生です。犯して、おま○こ、また気絶するくらい犯してえ!」

 

 

「嫌だね。先しゃぶれよ」

 

 

「んうっ」

 

 

 いきなり口におっきなモノを突っこまれる。妾女房の性か、すぐにそれを丁寧にフェラチオしちゃうあたしもあたしだけど、気ままに好き放題するせんせもせんせだ。

 

 

 素敵なの。うふふ。

 

 

「んっ、はぁ……ん、ご主人様、好き……すごい、いっつもおっきい、なぁ、んぅ……はぁ、はぁっ」

 

 

 最近わかってきたの。こうしてほおばってフェラするときは、下のほうに舌を這わせて、ぺろぺろするとびくびくってなって、気持ちよさそうだって。今顔が見られないからわからないけど、ぎんぎんにまた硬くなってってくれてるから、合ってるはず。

 

 

「いいぞ、このまま射精まで導けたら生膣内射精してやる」

 

 

「あん、うれしい、がんばります、ふふ……んっ、ふう、はぁ、ん、ああ……」

 

 

 目でも楽しんでもらわないといけないから、わざと全身を揺らして、胸もお尻も揺らして体全体でご奉仕していくの。揺れるのが好きだってわかってからはついやっちゃう。それでせんせが、いいぞとよしよし撫でてくれちゃうから、余計に。

 

 

 それでお口にいっぱい精液を注いでくれるから、やってしまうの。

 

 

「んっ♥ はぁ、あん♥ ん、んん♥」

 

 

 またこぼしちゃった。どくどくと注がれる熱い精子はおいしくてたまらない。飲みこむのが追いつかないほど大量にやってくる。むせるほどの量。しあわせ……

 

 

「よしよし、よくできたね。フェラもうまくなったもんだ、淫乱中学生め」

 

 

「んっ……」キス魔。精液も舌もミルク味なんだから。

 

 

 そうしていよいよ挿入してくれる。また焦らすように表面を擦りつけ、愛液をまぶしてから、一気に。

 

 

「あっ! あ、ぁ、ぁ……ぁん、せんせ、好きい……っ」

 

 

 また生でえっちしちゃうの。すぐおっきくなったおち○ちんがあたしのおま○こいじめて、奥まで一気に突き刺さったの。

 

 

 気持ちいい。しあわせ、しあわせぇ……

 

 

「ああ今日は締まるね。静香は焦らしたほうが具合がよくなるのかな? えっちな中学生だ」

 

 

「はい、そうかもっ、しれませんっ、ぁっ、ぁっ」

 

 

 開発されたお尻に腰を何度も打ちつけられ、激しくバックで犯してもらうの。寄せては返す波のように、行って戻ってを繰り返すおっきなおち○ぽがおま○こを揺らしていく。よく締まるっていうのは、自分でもきゅんきゅんしてるからわかる。おま○こが、女性器が泣いてるの。

 

 

「あぁ、気持ちい……気持ちい、です、せんせっ。もう、もうイク、すぐイク、イッちゃうっ」

 

 

 焦らされて我慢できなくなってたあたしはすぐに果てようとしていた。口からだらだらと精液交じりの涎を垂れ流し、痛いほどしこりとがった乳首を揺らして、なぞられっぱなしのヒップを弾けさせ、高らかに。

 

 

「いいよ、誕生日くらい好きにイきなさい。かわいいよ、お前」

 

 

「ああ♥ ぁん、せんせ……♥ はん、うあ♥ イッちゃいまし、たぁ♥ ああん、気持ちいい……♥」

 

 

 あたしが全身をびくびくさせると、小休止してくれるやさしいせんせ。よしよしとなでなでをくれ、ちゅっと今度は、背中に愛のある口づけ。満たされていくの。

 

 

 あたしはほんとに淫乱だ。この愛のあるセックスも、激しく調教される父の日プレゼントのセックスも、どっちも同じくらい、甲乙なんてつけられないくらい気持ちいいもの。

 

 

「ふふ、いい貌してるぞ、静香。いいよがり方だ……じゃあ、いいね?」

 

 

「……」こくん。

 

 

 最後はせんせの思うがまま。激しく好き放題犯され、子宮が壊れるほど強くピストンしてもらう。イッた直後の体はまた敏感に感じ、すぐに達した。

 

 

 同時に赤ちゃんをもらうの。誕生日だから、きっと受精したの。

 

 

「静香っ」

 

 

「ああ! せんせ、ああ、うああ♥ またイク、静香また、イきます! んんっ♥」

 

 

 生ナカダシで全身をしならせ、絶頂に浸るの。お腹があったかいもので満たされ、しあわせの最中、またキスしてもらっちゃって、うふふ……

 

 

 最後の一滴まで注いでもらうと、子作りは終わり。また何枚も写真を撮られ、ご満悦のせんせがようやく拘束を外してくれた。目隠しの向こう、久しぶりに見るせんせはまた、カッコいいの。

 

 

 今夜は二人だけでベッドに入り、ぎゅっと腕を谷間に挟んで眠った。あったかい男の人の体温を包んで包まれて、ぼーっとした、なんていうか不思議な感覚で眠りにつけたの。

 

 

「お誕生日おめでとう、静香。プレゼント渡す暇がなくてごめんね、先にえっちしちゃって。朝見てくれ、そこの紙袋だよ」

 

 

「はい。もう、いらないって言ったのに、せんせったら」すりすり。

 

 

「ダメだよ、私がやるといったらもらうのがお前の仕事だ。もらわないと怒るからな」

 

 

「もう……♥ ふふっ、大好きです、せんせっ」がばぁ。

 

 

「ああ、私も大好きだよ、静香。おやすみ」

 

 

「はい、おやすみなさい」ちゅっ。

 

 

 しあわせ……すやすや、眠れちゃう。

 

 

 きっと明日には、鼓動が聞こえるの。お腹の、奥から。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局のところ深町(ふかまち)様ときたら、我慢できなくなったからハロウィンの今日は張り切ると宣言なさりました。お祭りを楽しみつつ、またみんなと交わりたいとの、仰せ。

 

 

 胸がまたどきどきしております。また、またあの、ああ……

 

 

 恥ずかしいと、愛されたいが混ざる、悲しい女の性。三十九にもなって、この春花、情けのない話でした。

 

 

 十月三十一日、末日。ちょうど土曜日の本日は世間様もお祭りで沸いているようでした。

 

 

 この国ではハロウィンはあまり馴染みがないと思われていたのですが、最近はそうでもないらしく、県内でもお祭り会場がいくつか設置されたようでした。そこまでみんなで遊びに出かけますの。

 

 

 ハロウィンということで、こすぷれの衣装に着がえて。そう、い、いやらしい、セクシーなこすぷれ衣装で。ゆ、柚香里(ゆかり)さんは以前から言っていたからよいものの(だからこそ一番きついものだそうですが)、私たちまで……

 

 

 いい年をして、黒猫の格好をさせられるのです。胸元を黒フリルのチューブトップにされ、白黒のスクエア柄のミニスカートを穿かされて、猫耳まで。はぁ。でき得るなら二の腕も膝小僧も露出したくはないのですが、肌を見せろとの仰せに、従ってしまいましたの。

 

 

 娘たちも含め、妾女房一同、全員がハロウィンらしい服装を用意して会場に向かってゆきました。

 

 

 お祭りといってもやはり無節操ではいけないと考えられたようで、今回向かう会場ではある程度公序良俗に反することはいけないとの注意喚起がなされていました。野外での催しとしても開催されていることでしょうが、ここではそれよりは室内の会場に留めて、そこだけでお祭りを知る人たちで楽しもうという趣旨のようでしたの。

 

 

 それでも会場はかなりの賑わいで、オペラの劇場よりも遥かに大きな場所に、大勢のすでに着がえた方、衣装を持ち込む方がいらっしゃっておりました。中には本場外国の方も多く、多種多様な人々で溢れかえっておりましたの。

 

 

 時刻は九時を回り。いよいよと熱気に包まれてゆくのです。

 

 

 会場に用意された更衣室で着がえを粛々と行ってゆきました。人の視線が本来なら大変でしたが、そこは大勢の強みを生かし、隠しながら順繰りにと、なんとかかんとか。

 

 

 そうして会場へこすぷれ姿で向かうと、すでに牧師姿になった深町様が。

 

 

 ずっしりと大量のお菓子を抱えて、にっこりと笑っていました。

 

 

「じゃあ、私は最初に言った通り、適当にあちこち渡り歩く感じでいるからね。会いたければ探しなさい、ふっふっふ」

 

 

 そうして、あの深町邸アトラクションの日のように、各々でやりなさいとの、ご命令でしたの。

 

 

 できるかしら……一応、思いを文にしたためて伝えはしましたけれど。

 

 

『私はここ最近の、落ち着いた夜の営みがとても好みですの。ですので、今後ともこの調子でなるべくお控えになられると助かります。隣に座ってじっと手を重ねて下さる深町様が好きです。これからも末永くご一緒したいです』確か、このような文面で伝えたはず。お返事に、『大事にとっておくよ、ありがとう。返事はちょっと待ってくれ』と。言って頂きはしましたけれど。はぁ。結局このような格好、うう、じろじろと人の目がまあ、恥ずかしや。

 

 

 ただそれは、私個人目当てでは決してなく。今日この日を楽しもうと、ただ好奇心で多くの人がお互いを見つけ、親しくなろうという始まりの視線だというだけ。ですから、決して色めき立った、うう、でもやっぱり、肌に刺さりますの……

 

 

 広い会場はまさに劇場のホールのように天井が高く、これだけ人口密度が高くとも空気が澄んでいるようでした。かぼちゃやおばけをあしらった飾りつけがあちこちを彩り、まさに雰囲気抜群の、お祭りがそこにあったのです。

 

 

「ではお母さま、いっぱいお菓子をもらってきますわ! ごきげんよう」

 

 

 ぱたぱたと花織(かおり)が行ってしまいました。ほかにも桜園の皆さんも駆け出し、まゆさんみゆさんら、幼い子らはすぐに散り散りに。花雪(かゆき)もそっと歩き出し、ちらりとだけ振り返ってこう告げてくれました。

 

 

「私も行って参りますわ。お母さま、がんばってくださいな」

 

 

「……ええ」

 

 

 手を振り、困り顔で見送っておきます。用意したお菓子は重く、肌に着けた衣装は軽く。

 

 

 できなければお仕置き。考えただけで背筋がぞくりと、寒気を感じますの。

 

 

「春花さん、しばらく一緒にいていい?」

 

 

 それぞれが小グループに別れる中、可奈(かな)さんが話しかけてくれました。まだ仲間入りをしてから日も浅く、こういったイベントも普通に楽しめる高校生さん。

 

 

「ええ。可奈さんはハロウィンは初めてですか?」

 

 

「どうだろ、あたしが小学校の頃とかにはそんなに流行ってなかったかなぁ」

 

 

 可奈さんもドレスという印象が強いのか、デコルテを強調するデザインの魔女の扮装に平然としておりました。とんがり帽子がとてもかわいらしく。

 

 

「そもそも前まで人ごみが苦手だったから、お祭りとかあんまり参加したことないんだ」

 

 

「まあ……それは難儀ですわねぇ。お祭りはとても素敵なことですわ。学園にも学園祭がありますでしょう、あれなど素晴らしい催し物ですわ」

 

 

「う、はは、そ、そうですね……」

 

 

 あら、どうしたのでしょう。なぜかぎくしゃくとしたぎこちない表情。不思議に思っていると、早速お子さんがやってきてにっこりと大きなお声を出しました。

 

 

「とりっくおあとりーと!」

 

 

『お菓子をくれなきゃいたずらするぞ』という意味の言葉。ハロウィンを象徴する一言がもう、あちこちで響いていましたの。

 

 

「はい、ではマシュマロをどうぞ」

 

 

「あたしクッキーね」

 

 

「わぁ、ありがとー!」

 

 

 かぼちゃの帽子をかぶった男の子はまたにっこりと笑い、全力疾走で向こうへ行ってしまいました。

 

 

「お祭りってよくわかりませんよね。これもどうしてこうなったのやら、なんでかぼちゃなのかとか、さっぱり知りませんもん」

 

 

「まあ、諸説あるようですが、今日を楽しめるのなら細かいことはよいでしょう。お祭りは楽しんだもの勝ちですわ」

 

 

「そうですね。カフェみたいなところもあるみたいですし、撮影場所もあるんですよね。グッズみたいなのも販売してるし、いろいろしてるなぁ」

 

 

 せっかくの大きな会場は、フルに活用されて種々様々な催し物があるようでした。パンフレットとにらめっこする可奈さん、なにか思案気なご様子。

 

 

「あ、春花さんこれ、ここ行きましょうよ」

 

 

 可奈さんが指示したのは『かぼちゃカフェ』なるお店のようなところでした。カラフルなポップで目玉商品なのか、『かぼちゃラテアートと抹茶パンプキンパイセット』を売り出している様子。これが食べたいのですね。

 

 

「おいしそうだし、ね?」

 

 

「ええ、行ってみましょう」

 

 

 そこでその、可奈さんにお手伝い頂ければ、きっとテーブルの下で……ああ、うう。見られないとよいのですけれど。

 

 

 広い会場でしたが案内もわかりやすく、すぐに辿り着けました。繁盛しているようで同じようなこすぷれをした店員さんたちが忙しなく動き回っておりましたの。

 

 

 幸いな(不幸な)ことに、丸テーブルは並びがかなり密着しており、その下に潜ろうと、あるいは下を覗こうとするのは目立つ上にかなり難しい様子。これなら、楽かもしれませんわ。けれど、うう。

 

 

 私がそんなことを考えているとは露知らず、彼女もご命令を受けているはずですがわくわくと順番を待っておりましたの。

 

 

「あ、あのう……よ、よろしいですか、少々」

 

 

「え、なに?」

 

 

 考えていることを話すと、完全に頭から抜けていたのか真っ赤になってきょろきょろしだし、それでもかすかに頷いてくれたのでほっとします。しかし、彼女もまた妾女房の一人、よく、できたお人でした。

 

 

「そ、それだと簡単すぎません? 春花さん最近深町先生が穏やかだからって、甘えてます、それ」

 

 

「ええっ、そ、そのようなことは決して」

 

 

「ううん、甘いです。あたしなんかまだ一週間でいきなり公園で露出させられましたし、この前なんかノーパンミニスカメイドで自分からスカートめくりですよ、その程度なんかダメです、ずるです」

 

 

 小声とはいえなんてことを仰るのでしょう。私のほうがまた赤くなるも、ではと代案を訊ねてみました。

 

 

「えと、実はちょうどいいなと思ったので、一緒にしましょう。せーので──」

 

 

 ふんふんと頷いてしまいましたが、お若いからか発想も柔軟で大胆でしたわ。花雪も花雪で大変なことを自らしたりするものですが、可奈さんも可奈さんで、その、すごいですの。私には考えもつきませんわ。

 

 

「いいですか? 露出はタイミングが命だそうですよ、いいですね?」

 

 

「え、ええ。うう、私、最近の営みがぴったりだったのに……」

 

 

 ぼやいていると順番がやってきました。案内された椅子に座り、背後の人に挟まれて座ります。頼みました注文は少しかかるよう。

 

 

 会場内での撮影は基本設けられた撮影スペースで行われており、それ以外での場所ではNGです。そのためか、ここで知り合った方々は向こうで一緒に撮りませんかと、よく話しておりましたの。

 

 

 私たちはいけない女、こっそりとしてしまうのです。自分たちだけですからご容赦願いたいですが、そうは問屋が卸しませんでしょう。うまく隠れて行いませんと。

 

 

 お互いを正面に見据え。合図はばっちり、すぐに機を見て、動きましたの。

 

 

 ぐいとチューブトップを下ろし。乳房を露出しました。同様に可奈さんもドレスの胸元をずらし、たわわに実った豊かなおっぱいを披露しておりましたの。互いに黒い、ひどく透けるシースルーのランジェリー。可奈さんもご命令を受けたのか、聞けたものではありませんけれど。

 

 

 テーブルの下では更にこっそりとスカートの中を、椅子に置かれた携帯電話のカメラが覗いておりました。それはすぐに可奈さんの手で現場を離れ、自然な仕草でテーブルの上に舞い降り、私共の痴態を記録しておりましたの。

 

 

 前後左右、話し声は乱舞し。人通りも激しい、最中に。とんでもないことをする淫らな女が二人、見つめ合っていました。

 

 

 可奈さんの桃色の実りが、透けてわかるほどに恥を主張しております。私の大きいだけのだらしない肌色もまた、恥ずかしいと、叫んでいました。

 

 

「は、春花さんこういうときの、その、イメチェン、いいですね。たまにはそういう、ウェーブかかった髪形も悪くない、です、ぜ」

 

 

「そ、そうでしょうか。か、可奈さんこそ、とんがり帽子がお似合いですわ。そちらの髪形は?」

 

 

「あたし? あたしは普通に、まとめてます」

 

 

 すっととんがり帽子を下ろし、ポニーテールを見せてくれましたが、帽子の行方はおっぱいに被せるように置いてはにかんでいましたの。大変かわいらしいのですが、ずるいのです。私はそうやって胸を隠すのは卑怯ですわと、じとっと見つめてみました。しかし彼女もやはり恥ずかしくてたまらないのか、帽子を動かそうとしませんの。

 

 

 けれどもさすが、お若いからでしょうか、妾女房となっての日も浅いはずの彼女は、そうして隠してある胸をカメラで捉えて、この帽子の中はこうだと、教えるようにして撮影して露出をこなしておりましたの。ほとほと感心しますわ、まったく。

 

 

「こ、これくらいで充分かしら。じゃあ今度は春花さんを……」

 

 

 くいとカメラがこちらにこんにちは、と挨拶をしてきます。私はつい、胸を腕で隠そうとしますが、いけず。深町様のことだけを思って、その下に置いて身じろぎをするだけにしておきました。

 

 

「わ、そうしてるとおっきいおっぱいめっちゃ強調してるみたい」

 

 

 そう言われては恥ずかしくてたまらずすぐどかしましたけれど。ふいとそっぽを向いて、思わず意識を遠くへやろうとします。

 

 

 ああ、ああけれども……どこを向いても人波が、雄牛の群れが如く暴走し押し寄せてくるようでした。幸い、皆様興奮の最中にいるのか、こちらに気づいた方は未だおりませんけれど、これも時間の問題。タイミングが大事なのならば、そろそろ……

 

 

「こういうの、喜んでできたほうがいいのかな……」

 

 

 同じように半分泣きそうな可奈さんが軽く震えながら言いました。「そ、そっちのほうが、深町先生は好き、かな」

 

 

「その質問には残念ながら誰も答えられませんわ。自分で見つけないといけないことですの。でなければ結局、深町様はお気に召しません」

 

 

「……なるほど……も、もうやばいかな、人増えてきたし、見つかる」

 

 

「うわっ」驚く他人の声。

 

 

 気づかれましたっ。私たちは慌てて衣類を着直し、ふうとため息をつきましたの。

 

 

 ちらりと向こうを見ると、首を傾げながら通り過ぎる男性がお一人。こちらを何度も見やりながらも、遠くへ行ってくれましたの。

 

 

 時間にすれば二分にも満たぬ間。露出の時間はとても長く、大変でしたの。

 

 

 これだけで終わらぬのが。本日の大変さの極みでしたわ。うう。

 

 

「あたしのほうはこれでいいかな……ま、まだお叱り受けるかなぁ。うぅん。どうしよう」

 

 

 一人一人個々への指令は違っており、私は一つではなかったのですが彼女はお一つか、羨ましや。

 

 

「と、とりあえず席は立ちましょうか。ここにいると、その」

 

 

「は、はい。あっ。でも頼んじゃったし、せめて食べたいです」

 

 

「う、そ、そうですわよね。お店の方に、ご迷惑、ですし……」

 

 

 言葉はか細く消え入ります。迷惑というのならすでに大迷惑でした。幸いにも騒ぎはお祭りのもののみで、淫行を咎めるものはまだ発生しておりませんでしたけれど。

 

 

 ……不幸、なのは。この状況の、発端は決して嫌なことではなかったということでした。私は咎められるべきなのです。なぜならば、楽し気に笑うあの方の望みを叶えてやりたい。一緒に楽しんでもみたい。またいやらしい言葉を言われて、淫行の始まりにどこか安心している、いえ期待していた? どこかよくわからない感情が芽生えていました。

 

 

 本来ならば止めるべきことなのです。嫌なのならば断わればよいのです。ここは人が大勢いる。迷惑をかけるなどもってのほか。咎めるべきところで咎めず、窘めの言葉を忘れた、私こそ罪人でした。

 

 

 進んでお話に乗りかかる、どうしようもない女。それが私でした。

 

 

 そこで携帯電話が声を出しました。慣れぬ手つきで取り出すとそこには一文だけ。

 

 

『今すぐ下着を撮って送って見せろ』

 

 

 図ったかのようなタイミングでした。本来ならば化粧室を使えるのに、今は抜け出すこともままならず。いえ、化粧室に立つくらいならいいのかもしれません。けれど私はやはり愚かで、ここでこなすことしか頭に浮かびませんでした。

 

 

 撮影機能だけは皆さんにお教え頂き、なんとかこなせるようになっています。一つ深呼吸をして、そっと携帯電話を、チューブトップの真上に位置させました。

 

 

 軽くずらす一瞬を捉え。上から谷間の全景が写真として残ってしまうのです。

 

 

「すみません、撮影は指定されたスペースでお願いしますー」

 

 

 言葉と同時に全身の血液が沸騰し、思わず冷や汗が流れていました。幸い、私の後ろから店員さんはやって来、口調も軽いものだったので気づいてはいない様子。ほっと胸を撫で下ろしながら、テーブルの下でこそこそとメールを送信しておきました。

 

 

「ご注文は以上でよろしかったですか? ではごゆっくりどうぞー」

 

 

 すぐにばたばたと立ち去る店員さんはお忙しそうでした。私がなにをしたかしっかと見ていた可奈さんはなにも言わず、ただ少しだけ目を輝かせてパンプキンパイを食べていっておりましたの。はぁ。

 

 

「わぁ、おいし。ふふ」

 

 

「……」

 

 

 この状況で味のわかる、あれほどの笑顔になれる可奈さんは大物かもしれませんの。

 

 

 そんな彼女を急かすようにしてその場を去り、ちょうどよい場所を見繕うために会場を歩いてゆきました。もう二つ、やるべきことはあり、一つはまだ平気なほう(でもありませんけれど)でしたがもう一つが大変に難しく。騒ぎにならぬようの露出行為はただむつかしく、盟友たちの人垣でもないととてもとても。はぁ。

 

 

「もう一回くらいかなぁ。あれはあれとして、なにすればいいかなぁ」

 

 

 と悩みっぱなしの彼女はおそらく具体的な指令が下りてきてはいないよう。パーティーを楽しみながら、二人で思案していました。

 

 

「よっし! じゃあ思い切ってやってみよう! 春花さん、ご協力をごにょごにょ」

 

 

 本当にごにょごにょと言わずともよいのに、時折口調がおかしくなるのは癖でしょうか。なくて七癖、可奈さんもおかしな方。

 

 

 そしてその言葉はまだ簡単なほうの指令と等しい言葉でした。私は頷き、実はと打ち明けて二人、赤くなってしまいますの。

 

 

「じゃ、じゃあ交代で。そのあと、一人だけ……ねっ」

 

 

「え、ええ」おかしな笑みにもなりますの。

 

 

 二人はそうして、指定された撮影スペースまで歩いてゆきました。こすぷれを楽しむ方が多いのか、こちらも思いのほかご盛況。うう。

 

 

 これほどまでに待ち望まない順番待ちもないでしょうが、それでも時間は流れます。やがて私たちの番となり、よく映るよう光量の多いところへと案内して頂きました。

 

 

 お洋服屋さんの更衣室のような場所ならばよいのにと、淡い期待を抱いていましたが間仕切りは申しわけ程度のもので、お隣の方の肩から上が丸見えでした。全体像こそつかめないものの、覗こうと思えば覗ける。現にお隣に興味を持って話しかける方も多くありました。親密になりたいという純粋な思いでしょうが、一緒に撮影しませんかという。そういった交流の場であり、それはよいことなのでしょうが……

 

 

 私たちには最悪で、最高に好都合でした。

 

 

「終わりましたら係の者へナンバープレートをお返しください。ほかの方と撮影をご一緒など、なにかありましたらその際もプレートを持って係員へ一言お願いします」

 

 

 そう言ってこちらも慌ただしく係員さんが去ってゆきました。左右からのフラッシュ音は絶え間なく、よくは見えませんが簡素な柵の向こうでは順番待ちの方が雑談しておられます。こちらからアクションをとらない限り、係員さんからはなにも言われないでしょう。問題はお隣さん。

 

 

「じゃ、じゃあまずは春花さんから撮りますね」

 

 

 うう、こういうときにうすのろな私は先手を取られてしまいました。しかしいずれにせよ順番はやってくるもの、踏ん切りをつけてなるたけ笑顔を作ってみます。

 

 

 本日はこすぷれ、お祭り。楽しむのですわ。黒猫さんを笑わせて。

 

 

 まずはふわりとスカートを翻らせて。一回転をこなします。深町様に見て頂いていると思って、心を込めて。

 

 

 それから、いつも彼の前でするように、スカートをたくし上げるのです。いつものようにご挨拶。カーテシーは、淑やかに。

 

 

 下も透けに透ける、ベビードールのような夜のショーツが、女を隠して、丸裸にしていました。シースルーと混ざる黒が、恥に塗りたくられ嫌でもわかるのです。ガーターまで丸見え、ああ……紅に色づく頬が、羞恥に染まった証拠。身をよじりでも隠さず、陰唇の奥まで見据えられたような錯覚に酔い痴れるのです。

 

 

「うわぁ、いろっぽぉい……」

 

 

「よ、よして下さいな。も、もうよいでしょう。交代ですわ」

 

 

「うん。すごいなぁ。大人の色香だ……」

 

 

 しきりに感心する可奈さんはやはり大物ですの。軽いカメラを受け取り、こちらも操作にまごつかないようになった指先でファインダーに彼女を収めました。

 

 

 慣れぬ仕草に戸惑いを隠せもしないものの、ご命令を受けること自体には早くも順応している様子の可奈さん。しっとりと漆黒のドレスをたくし上げ、なんと一気に胸が半分覗くところまで見せてしまっていました。同じように上下ふりふりのシースルーレースは、黒が女を引き立ててくれ、色気と妖艶さを醸し出しています。恥じらう彼女がまたそれを一段と美しく飾り付けていました。ああ、太ももにまで落書きが、なにをかはよく見えませんが。ぱしゃり。

 

 

 そして。一旦撮影を止め、二人見つめ合い、こくんと頷き合い。そろそろと、左右の人々に目を凝らします。

 

 

 右隣は若い女性のみのグループでわいわいとはしゃぎながら撮影に夢中でした。愛さんのような、こういったことに協力的と思える方は見受けられず(そもそも彼女以外お見かけしたことなど皆無でしたが)。

 

 

 左隣は男女が混ざっていました。というよりも男性はお一人だけで、しかも撮影のみを専門に請け負っており、顔には疲労と呆れの匂いが浮かんでいました。明らかに女性たちに付き合わされているのが明々白々で、つまらなそうな顔つきからうってつけの人材に見えます。

 

 

 これならば。彼だけをその、スカウトのような形で招くことができれば。絶好のお相手かもしれません。可奈さんもそう思ったのか、ようく左隣の方々を観察し、何度か頷いて考えを組み立てているようでした。

 

 

 こういうときに私は弱く、交渉事など不得手の極みです。それこそ文をしたためる時間と、間柄を構築するのが理想なのですが……もちろんそのようなわけにはいかず。可奈さんがじいっと見つめていると、やがて視線は交錯しました。

 

 

「どしたの? 一緒に撮るー?」

 

 

「すごいっしょ、これ手作りなんだよー」

 

 

 笑う三人の女性はお揃いの凝ったお化けの格好をしておりました。頭だけフランケンシュタインのようにネジの付いた彼は苦笑しながら待ちぼうけにため息。確実と、心の中で太鼓判を押した可奈さんはぐいと一歩前へ進みましたの。

 

 

「すいません、こっちの二人一緒の写真がほしいんですけど、お願いできますか? 自分たちじゃうまく撮れなくって」

 

 

「ああ、そーなんだー。じゃあタク、行ってこいよ」

 

 

「えーせっかくだし一緒に撮りません?」

 

 

 向こうが気さくに話しかけてくるのを慣れたもので可奈さんがいなしました。

 

 

「はい、ぜひ。でも記念に二人仲良しの写真もほしいんです。なのでそちらもお願いできたらなと。どっち先でもいいんです、時間はありますから、一緒にみんなで撮るのが先でも、あとでも」

 

 

「みんなで集合写真と、そっちの二人だけの写真両方撮りたいってことか。いーよー。じゃどうしよっか」

 

 

「先先、みんなで。終わったらタクだけ残してあたしたち一回外出ようよ。ショーもいろいろやってるみたいだしさ、弓道なんて珍しいじゃん」

 

 

「そだね。じゃあそれでいいですか?」

 

 

 こっくりと頷いた可奈さんと私に、向こうの方が手はずを整えて係員さんに話をつけてくれました。すぐに合流した六人、うち一人だけの男性がカメラを持ち、面倒くさそうに残りの五人の女を捉えます。

 

 

 綺麗に撮って下さいね──私たち二人が言うとカメラマンは少しだけ表情を和らげ、けれどつまらなそうにシャッターを光らせてくれましたの。

 

 

 先程と同じ行動をとった私たち二人に、仰天し。何度も目を瞬かせていました。ああ、見られてしまいました……

 

 

「んー今の角度どうだった?」

 

 

「いやーやっぱり自分に夢中っしょ」

 

 

「やーだ見とけよー」

 

 

 言葉通りこういった集合写真となると自然視線はカメラに集中し、隣を意識する人はいませんでした。彼女たちはこすぷれした自分たちがどう映るかが主眼のようで、私たちをあまり気にしてもいないご様子。これ幸いと、私たち二人はまだ続ける意思を確認し合いました。

 

 

「も、もう一枚いいか」

 

 

「お、どうしたタク、ようやくいい女を三人も撮影できる栄誉に目覚めたか」

 

 

「あはは、いいぞいいぞ、撮れ撮れー」

 

 

 今度は五人の位置を入れ替え、淫売は両端に位置しました。再度カメラを見つめ、またシャッターが押される瞬間。

 

 

 今度はブラを披露しましたの。カフェでのときのように、胸元をはだけさせ。緊張で硬くなった胸を突き出してできるだけの笑み。

 

 

 呆然とする彼が目撃者の真実を伝え、また恥ずかしくなりますの。うう。深町様……帰ったら寄り添ってほしいですわ。

 

 

 すぐに元通りになると誰も指摘などせず。今度はどうだった今の角度はかわいかったなどと、また騒ぎ出しました。私たちもお礼を言い、彼女らの話に混ざるフリをしながら、そっと彼を盗み見ていました。

 

 

 指摘はしない。咎めもなにもなく、ただ次を待っていました。この前の建築士の方といい、もしかしてこのような男性が一般平均なのでしょうか。うう。ありがたいやら、ありがたくないやら。

 

 

「うーんでも、三人でお揃いにするのはちょっともったいなかったかもねー」

 

 

「ねー。おねーさん方みたく別々で、黒猫はいいかもー」

 

 

「ていうかお姉さん、びじーん。わおわお。おっぱいおっきーしいーなー。モテるっしょ? あたしたちももー若くねーしなー」

 

 

「まだ二十二だろ、なに言ってんだ」

 

 

「言うなっていっつも言ってんだろー」

 

 

 はしゃぐ仲良し三人組は常に喋っており止まることがありませんでした。

 

 

「なあ、そろそろ行かなくていいのか。ショーだかの時間は大丈夫なのか」

 

 

「ん? へーきへーき、まだ全然あるよ。ははぁ、これはあれか、美女二人とお近づきになりたいと、撮影を通して?」

 

 

「い、いや、別に……」

 

 

 問い詰められると否定するも、声色は完全にその通りでした。私たちの痴態を見たい。もっと、と。願っているのが丸わかりでした。

 

 

 悲しいことにそれに乗りかからなくてはなりません。これまた悲しい女の性でした。

 

 

「すみません、私共も二人仲良しのお写真がほしくありまして」

 

 

「ああうん、いーよいーよ。結構撮ったし。じゃあタク、めーわくかけんじゃねーぞ。なにかあったら大声出してください、ぶっとばしてもいいです」

 

 

「お前ほんっと従兄弟に厳しいなー」

 

 

 嵐のようにあっという間にお三方はいなくなってしまいました。残る三人、見つめ合い。なにかしっとりとした時間が流れ、半ば閉じた空間が変化していくよう。

 

 

「い、いいですか」

 

 

「ええ」二人、にっこりと。「また綺麗に撮って下さいな」

 

 

「はい」

 

 

 今度はサービスにと、シャッターを押す前からすでに二人ともが胸を晒け出していました。何度も外気に触れ下着ごと胸が震え。たぷんと揺れるのです。心内同様に。

 

 

 撮られていくたびに。証が残るたび、削り取られていく守るべき操は、ただ儚いだけのものでした。

 

 

 今日初めて会ったばかりの男性に肌を晒している。これほどまでの恥はそうそうありません。けれど可奈さんはさらに一歩進み、あのお方の女である責務を果たそうとしていました。

 

 

「もっと……見たいですか?」

 

 

 爪先は躍り、またスカートをつまみます。そして私を見て、続いてほしいと協力を願い出ていました。ワンテンポ遅れて、けれどどこかクレッシェンドになるように、自分も声を出しましたの。

 

 

「貴方の見たいものを見せてあげますわ」

 

 

 正面ではなく横を向けて。カメラに二つ膨らんだ上下を強調(できているとよいのですが)し、視線を艶めかせてみせます(できていると、その、よいのですが)。

 

 

「……いいんだな? 残るぞ、これ。デジタルだから消そうと思えば消せるけど、残してもいいんだな?」

 

 

 素直に頷く、可奈さんのようにはなれません。躊躇が浮かび、逡巡しているとその彼女に急かされ、ようやく。二人から許可を得て、彼の顔色にも赤みが差し、とてもよくなります。

 

 

「その代わりご内密に。あたしたちだけのヒミツで。騒がずそうしてくれるなら、いっぱい見せて、あげ、ます」

 

 

 うまくやれているとはいえ、可奈さんも羞恥に眉を歪め、慄きながらではありました。

 

 

「な、なんならお仲間、もっと呼びましょう、かぁ? んっ、あたしたち、露出同好会のメンバーで、すからっ、まだここにきてる子、います、ぜ?」

 

 

 言い終わる前に彼はぶんぶんと首を縦に振っていました。そ、そのような、ああ、でもどこか安心してしまう、心強いと、お仲間が増えることに思ってしまいますわ。

 

 

 不意にそこで、あまりにもタイミングのよいお声がかかりました。

 

 

「あり? やっぱし可奈ちゃんじゃない。おーい、あたしあたし、(いずみ)ちゃんでーすよー?」

 

 

 なんと目の前の男性たちメンバーのいた左隣から、泉さんご本人が顔を出して覗いていました。順番がつかえていたとはいえ、まさか次に彼女がやってくるとは……ある意味僥倖で、ある意味災厄でしたわ。

 

 

「なーんだ、やっぱり考えることおんなじねー。楽しーもんねー、コスプレ。撮りたくなっちゃう、うんうん。てーわけで一緒に撮ろ? ねーねー、いいでしょ、おにーさん?」

 

 

 カメラマンが泉さんのことかと、さっきのお仲間かと目で訊ねていました。すぐに頷いた可奈さんは指でOKサインを作り、こちらに招きました。

 

 

 泉さんだけでなく、良子(りょうこ)さんと静香さんがご一緒されていました。お三方のこすぷれは泉さんがドラキュリーナ、良子さんが包帯メイド(ミイラメイド?)、静香さんが黒猫さんでした。

 

 

「まず最初に言っておくけれど、あたくしたち全員ご主人様がいて、日々これ調教の日々だから、あんた様なんかには指一本触らせないんだからね」

 

 

 泉さんお得意(と言っては失礼かもしれませんが)のあっかんべーをすると、今日だけ生やした特大の犬歯がきらりと光りました。

 

 

「え、あ、ああ、はい。そんな、なんていうかAVみたいなのは逆にいいです。引きますわ」

 

 

 よくわからないことを仰いましたが、私は胸を撫で下ろし、これで隠れてできると安堵していました。

 

 

「いやあーた、それならこの状況こそAV的でしょ。意味わかんないわ」

 

 

「噂を聞いたことがあるんだ。最近この界隈、痴女が現れるって。その痴女は見せる専門でお触り厳禁だって。しかも集団、男つき。あんたたちだろう?」

 

 

 会場は深町様の宅より遠いとはいえ、この近辺まで遠出して野外露出をしたことがないとは言えないでしょう。他の方のことは知りませんが、あり得る話ではありました。噂が広がるというのも納得です(既に静香さんの学校で広がったことですし)。

 

 

「今日はその、彼だか旦那だかとは別行動、とかかい? 俺には好都合だし、どうでもいいけどさ。そういう話があって、実物に遭遇したら儲けもんだろ? ここでさらに噂以上のほうが不気味だし、ドン引きだよ」

 

 

「えー……男ってそーゆー、よくわかんないとこで理論的なの理解できないわ。ねー?」

 

 

「え? あ、はぁ、まあ」

 

 

 曖昧に返事をしているとそわそわしだした彼がまだかまだかと急かしていました。

 

 

「ま、いーわ。協力的なのはありがたいっちゃね。ふふん、どんなポーズがいい? 言っておきますけども、あたくしたち調教されてやってるだけで、自分たちが愉しいからとかじゃあ、ないんですからね。嫌なことは嫌と言うわよ、いいわね?」

 

 

 まったくその通りですわ。けれども他の方の泉さんを見る目つきが少々、嘘つきを見る疑わしいものでしたのはなぜでしょう。ただただその通りですのに。

 

 

「いいのか? さすがだね。じゃあ……なにがいいかな、あれ、あれを、エロでしか見たことない、おっぱい同士をくっつけるやつ」

 

 

「えっろー。変態ね、君」

 

 

 不敵に笑う泉さんですがしかし、ご要望は果たすよう。

 

 

 最近しきりに膨らんできたと豪語する胸を、私に向けて。さあ押しつけなさいと迫る、しようのない方。期待に満ちた視線と、できるなら自分以外でとそそくさと遠ざかる皆様を恨めし気に見つつ。なにごとも経験と言い聞かせながら、泉さんにぶつかるようにくっつきましたの。

 

 

 震える胸がたわみます。シャッターの音にまで惑わされ、変形して揺れ続け。気づけば泉さんはトップレス。直に肌を感じれば、また夜の香りが女をぐらつかせますの。

 

 

 今日だけの危険な尖った犬歯が、嗤っていました。

 

 

「どう? 上手に撮れたかしら? ふふふん、あたくしのベストサイズのおっぱいは美しいでしょう?」

 

 

「うん。お姉さんのが一番好みだ。俺それくらいが一番好きなんだ。でかいのももちろんいいけど」

 

 

 すっと正直に言われるとなぜか照れ出す泉さんはすぐばっと離れ、そそくさと胸元を正し吸血鬼のドレスを纏います。どうやらぐいぐい前へ出て、殿方を萎えさせる試みは失敗のよう(殿方はやりすぎると引いてしまうと紗絵子(さえこ)様が仰っていました)。

 

 

 あれほど尖らせておいて。

 

 

「あん、もう、悪い子はこれでおしまいねっ。ふんだ、ほめて脱がそうなんてカメラマンっぽいことしてんじゃないわよ」

 

 

「え、もう終わり? もっと見たいな、撮りたい。そっちのお嬢さんとかまだだし」

 

 

 矛先が向くと良子さんはさっと両腕で胸の包帯を隠し、静香さんもそっぽを向き知らんぷり。泉さんが思案気にしていると、可奈さんがそこへ耳打ち。なにやらそこで相談が始まり……

 

 

 まとまると。お二人の顔が愛しあの方へ想いを馳せて、きりっと引き締まっていました。覚悟を決めたようです。

 

 

「いいけど、悪い子には素直に脱いであげません。ゲーム方式ね、クイズをしましょう。答えられたら、脱いだりポージングするわ。ダメならなしの勝負よ、どう?」

 

 

「むむ、はい。わかりました、タダでいいもの見ようなんて甘いもんな」

 

 

「そーそー。こーんな美女のあられもない裸をタダで見ようだなんて千年早いわ。んじゃまず第一問。この包帯メイドちゃんはさらしだけでしょーか? ブラしてると思う?」

 

 

 良子さんの背後に回り、両腕をぐいっと後ろへつかんで胸元を強調させる泉さん。良子さんは悲鳴を上げる間もなく、あまりの早業にぐっと喉を詰まらせるだけでした。

 

 

 その大きなバストの揺れ具合はぶるんぶるんと激しく、同性は容易に下着を着けていないことがわかります。しかし男性は違うのか、考えこんでじろじろと包帯の向こう、おっぱいを見つめていました。

 

 

 羞恥焦がれ、哀れ良子さん。俯きながらしかしされるがままに抵抗せず、務めを果たそうとしていました。

 

 

 ぱしゃりと、手持ち無沙汰な彼が一枚撮ったところで泉さんが痺れを切らし、答えをせがみます。彼は悩みつつ願望か希望か「白、のブラしてると思う」と告げました。

 

 

「ぶっぶー。正解はノーブラでーっす。ね、良子ちん?」

 

 

「……答えたら、脱がなくていいですか?」

 

 

 うんと泉さんが答えると心底恥ずかしそうにわずか肯定し。彼女も彼もぞくっとするものを感じているようでした。

 

 

「あと色も違うよ、下だけ穿いてるけど黒だから」

 

 

 そう言ったが早いか、泉さんは背後から包帯メイド服のミニスカートをぺろんとめくり黒レースのシースルーショーツを見せてしまっていました。悲鳴を上げてしまうと思ったのですが泉さんは一枚上手、周到に口を塞ぎ、一瞬で戻して落ち着かせていましたの。はぁ。なんという手際でしょう。

 

 

「もう、や、やめてください」

 

 

「ごめんごめん。でもこっちのがご主人様がね? わかるっしょ?」

 

 

「……はい」

 

 

 消え入るような声もまた、愛する方を想ってのものでした。はぁ。会いたいですわね。

 

 

「ごめん、撮り損ねた。パンツもっかい、お願いっ」

 

 

「ダーメ。では第二問」

 

 

 彼の懇願を一蹴して、次の問いを出したのは可奈さんのほうでした。

 

 

「あたしと静香さん、えっとこの子でじゃんけんをします。どちらが勝つでしょう? 当てられたら、じゃんけんは野球拳になります」

 

 

 野球拳とは確か、負けたほうがぬ、脱ぐといういやらしい遊戯だったような……深町様がお好きでないために私共の経験はありませんが、果たしてどうなるのやら。

 

 

「君に負けてほしいから、勝つのはその、静香ちゃんだ」

 

 

 あまりにも欲望に忠実な男性にまた可奈さんもかあっとなりつつ、静香さんと向かい合います。泉さんが茶化すような音頭を取り(実はあれが野球拳では定番だそうな)、二人の右手がぐーとぱーに分かれました。

 

 

 負けたのはしかし静香さん。ご希望には添えず、男性はがっくり、当人たちはほっと胸を撫で下ろし。

 

 

「ざーんねーん。ギャンブルには強くないようね。それじゃあ三問目、ラストよ。ずばり、あたくしの性癖は? いやらしい意味よ、露出以外で、ね?」

 

 

「以外でとなると……鞭でぶったりぶたれたりが好き、とか?」

 

 

 ま、まあ、そういったものも、その、あるのでしょうか。深町様はお好きでないのでしょうか……し、調べたら引かれるでしょうか……

 

 

「ぶっぶー。そーんなけったいな趣味はございません。あーあ、これでおしまいねー? さ、着ましょう着ましょう。あとあんた、もう撮影厳禁、おしまいっ」

 

 

「ええ……泣きの一回、もう一問だけっ」

 

 

 んー、と泉さんは状況を楽しんでおられる様子。私たちは気が気でないので、いそいそと仮装を直して、身支度を整えておりました。

 

 

「じゃあ、ちょっといじわるなこと言っていい? 今すぐそこでオナニーしたら、裸になってあげる」

 

 

「へっ」

 

 

 少しだけ深町様のような、ご命令口調をまねておりました。

 

 

「たまにはSになってみるのもいいかも、ってね。どう? できるの? できないの? できないならおしまい、さよならね。さーん、にーい、いーち」

 

 

 秒読みが始まると彼は意を決した表情をして、なんとその、その場で、うう……取り出して、いましたの。ああ、一斉にみなの視線がずらされ、明後日を向きます。

 

 

 わずか擦る音。それだけ。それだけが耳朶を打ち。

 

 

「す、すとーっぷ! ストップストップ、もう、いいわ。ありがと。あなたの覚悟は、わかりました」

 

 

 泉さんがすぐに制止し、ごそごそとチャックが戻る音がしたので恐る恐る彼を見るとその、履いていましたの。はぁ。

 

 

「あたしやっぱSにはなりきれないわ。ちょっと、不憫っていうかかわいそうに思っちった」

 

 

「あはは……」可奈さんも耳まで真っ赤で、隠すようにポニーテールを何度もかき上げていました。

 

 

「どうする? あたくしはいいわよ、脱ぐけど。みんなは?」

 

 

「……」

 

 

 みながみな、柚香里さんのように快楽を感じすぎるほど感じるわけでは、なく。泉さんのように、とろんとした瞳で恍惚に浸れるわけでも、なく。

 

 

 返事をしないままでいると泉さんは一歩前へ進み出、「じゃあ、先、やるから」と、続いてほしい、一緒に脱いでほしいともとれる言葉を残して、仮装に指をかけ。

 

 

 ドラキュリーナのドレスはまるで魔法のように簡単に剥がれ落ち。緩やかな曲線を描く肢体が、白日の下に晒されます。撮影用のライトに照らされた裸は白く輝いて見え、芸術の場ならなんと美しいことでしょうと感嘆するものでありましたのに……

 

 

 羞恥と悦楽に顔も全身もよがらせ、喘ぐように身をくねらせる泉さん。唇が危ういのか、伸ばした指先が口元を覆い、なぞり、どこか妖艶な美を醸し出していました。

 

 

 先ほど以上に尖りしこる、一部分。さまざまな汗に塗れ、惑う肢体。潤む瞳はちらちらとカメラのレンズを窺い、逸れて、また戻って色めいていました。

 

 

 隠さずに両腕を何度も後ろへ回し、しかし戻して、会陰へと指を伸ばしかけるも、また背中へ。それを繰り返し、くなくなと身体を揺する泉さん。気づけば見られるばかりで、撮影は止まっていました。男性の視線を一身に受け、泉さんは至上の悦びを得ているよう。お尻が左右に振れ、その感覚をこちらまで伝えようとさえしてきます。

 

 

 しかし私共はそれに続くなどできませんでした。あまりにも圧倒的な彼女の裸体に気圧されたとでもいいましょうか、なにもできず、動けずにいたのです。ハッと彼の意識が戻り何度も何度も何度も撮影をされ、そのたびにまた泉さんは肢体を揺らし、陰部を強調するかのようにポーズさえ取り出してしまいましたの。

 

 

 いやらしい……ああ、けれどどうして……あんなにも美しいのでしょう……

 

 

 どくん。

 

 

 指先が少し、躍りました。

 

 

 おっぱいを持ち上げるようにその下で腕を組むところを撮影され一息つくと、泉さんはそこで息が荒いことに気づき、なにも言わずドレスを着直しました。彼もなにも言わず、黙っているばかり。泉さんの肌が隠れると、場はどことなくおしまいの空気が流れていました。

 

 

「……ありがと。またね」

 

 

「うん」

 

 

 短く挨拶を交わし、全員がその場を立ち去ります。ぞろぞろと女たちが頬染めて、そそくさと。

 

 

 帰り際、思い出したように可奈さんが言いました。

 

 

「おかず一回百円でいいですよ。今度会ったときもらっちゃいますから。そのときまた、いっぱい見せてもあげますからね。楽しみにしててください。連絡先はこちらです。撮って、さっきのじゃわかんなかったでしょ、早くっ」

 

 

 慌てた彼のカメラには可奈さんの太ももに描かれた電話番号かメールアドレスが収められていました。可奈さんは微笑み、ばいばいと手を振ってその場をあとにします。

 

 

「これ、言われてたの。ふう。やれてよかったぁ」

 

 

 ほっと胸を撫で下ろす可奈さん。まあ、ほんに大変ですわね。

 

 

 それ以降はしばらく、誰も口を開けず。騒がしい場内を歩きながら、お化粧室を探してなだれ込み。それぞれ個室へ入ってゆきましたの。

 

 

「……ああっ……恥ずかしかったですわ……」

 

 

 そう、全員が呟いていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうにか落ち着いた頃にお化粧室を出、そろそろと視線を交わすと、誰ともなく散り散りに別れ、ひとまず一人になって頭を冷やすべく歩き出しました。

 

 

 はぁ……一人になり、冷静になればなるほど、先程の羞恥に焦がれてしまいます。ああ、私ったらなんてこと……ああ、うう。

 

 

 愛娘がおれば思い切り抱きしめていたものを。そうすれば心安らぐ。気づけば無意識のうちに娘二人を探していました。すると見つかったのは、家族は家族でも娘ではなく。

 

 

 父親に。お父様に出会い、ましたの。

 

 

「お父様……」

 

 

 呆然と呟いた言葉に気づいたお父様は、この場に相応しく仮装しており、執事服に狼の被り物をしておりました。髭を蓄えた狼男の老紳士になったお父様は、普段の威厳を保ちつつも、どこかコミカルで、私の苦手意識も軽減されます。

 

 

「春花か。久しいな。こんなところで会うとはまた偶然だな。元気でやっているか」

 

 

「え、ええ。お父様はどうしてこちらに?」

 

 

「ああ、そういえばお前には言っていなかったかもしれん。わしは昔からこういったイベントには連れ共々ちょくちょく顔を出していたのだよ。イメージは大事だからな」

 

 

「ああ、それでこういったお祭りに」

 

 

「そうだ。長が自らこういった軽い催しに直接参加する、そういったグループであるという心象を与えることは有効なのだ。まあ、とはいえそれは建前でな。本来は慰労目的だ。連れもそうだし、下の者もな。特に若い連中はこういった行事ごとを好む傾向があるし、こういった場でしか聞けぬことも案外と多い。馬鹿にできぬほどメリットがある。尤も、わし自身が楽しめるかはまた別問題だ。正直、幼子の相手は疲れてしようがない……」

 

 

 珍しいため息を目にするとなんだかくすりとしてしまいますの。こうした場でもっとお父様と共にいられたのなら、今少し恐怖のイメージが拭い去れていたでしょうに。

 

 

「お前は一人か? 花雪たちはどうした」

 

 

「一緒ですわ。どこかにいるでしょう。もうずっと見ておらねばならぬ時期でもありませんし」

 

 

「そうだな。……あれは、相手方はおらんのか」

 

 

 もうすでに私と深町様との真の関係は耳にしているはず。八尋(やひろ)の中では愛人を囲うことも珍しいことではなく、私がその一人になったとも、恐らくはご承知のはず。

 

 

 ですので、私は努めて冷静に答えました。

 

 

「ええ、おりますわ。きっとどこかでお祭りを楽しんでいることでしょう」

 

 

「そうか……お前は……」

 

 

 なにやら言葉を選んでいるお父様は、眉根を寄せてなにか悩んでいる様子でした。また珍しい表情、続きを待ってみます。

 

 

「お前は、あやつが怖く、ないか。あやつからなにか、言われてはおらんか」

 

 

「? いえ、怖いなど思ったこともありませんわ。特別なことも言われた記憶はありません。なにかとは、具体的には?」

 

 

「いや、気にかかることを言われてはおらんのならよい。わしは……実はな、春花。わしはな、あいつが怖くてな」

 

 

「……?」

 

 

 意味するところがわからず、ひとまず二人で腰を落ち着けられる休憩所まで歩いてゆきました。ゆっくりと腰を下ろすお父様の瞳は遠くを見つめているよう。

 

 

「お前との一件以降、火消しに奔走して暇ができてすぐ、お前たちの関係を耳にしたよ。卑しくも八尋の女が情婦に成り下がるなどと、許せんくてな。今度こそはと徹底的に調べた。あいつの弱点、恥部をな。だが……調べられていたのはわしのほうだった」

 

 

 一度目を瞑り、開いて、また重い荷を下ろすように疲れた、声でした。

 

 

「そもそもの深町家の歴史を知ったが、これは弱点にはなりそうもない、やつは最近まで知らされておらなんだようだしな。それは置いておいて、やつ自身に関するならやはり女関係と、桜園という孤児院だ。しかしそこを洗い出したところで……手紙が届いた。あいつの名でな。そこにはなんとあったと思う? わしのその日一日のスケジュールすべてだ。秘書以外知るはずもないことだ。そこに、この会合のときにここから狙われたら簡単に襲われる、暗殺され得るから気をつけろ、と書いてあった」

 

 

「……」

 

 

 最初のお言葉に聞きたいことがありましたが、まずは黙って聞いてみました。

 

 

「最初は陳腐な脅しだと思ったよ。スケジュールだけなら、調べようと思えば大体は把握できるし、予想もなんとかなる。入念な下調べで脅しをかけ、お前などいつでも殺せるから手を引け、と言いに来たのだと思った、わしが調べていることを知ったのだと。セキュリティーを調べさせると確かに甘い箇所も該当した。もしもやつが本気ならば、と一応警戒してな。その日一日は静かにしたよ。ところがだ……」

 

 

 どっかりと背を後ろにもたれさせるお父様。

 

 

「その日はなにもなかった。しかし、手紙はそれから十日間、毎日届いた。毎日だ。それも一日の予定を寸分違わず、毎日当ててきた。毎日警告をしてきたのだ。襲われることこそなかったがな。急な予定変更もそれはやめたほうがいいと助言付きできた。誰もわかるはずのない、わしが突発的に変更した予定も、そのときに恐ろしいほどタイミングよく手紙が届き、その変更を当ててくる。手紙でだぞ? 送付して届くまでに時間差があるはずなのに、だ。これが……これがいかに恐怖を、煽るか。わしの行動すべてが監視されておるのだ。一挙手一投足、すべてが把握されておる。わしの考えることまで、何手先までも読まれておる。これほどの恐怖はない……いや、監視の経験自体はある、しかしなにもかもを見通されている経験はない。それがわしは、怖かった……」

 

 

 がっくりとうなだれるお父様のお姿は今まで見たことも聞いたこともないものでした。私自身、驚愕に目を見開いていましたの。深町様がそのようなこと……私たちには素振りなどおくびにも出さずに(そういったことができることには疑いを持ちませんけれど)。

 

 

「わしは手を引いた。下手を打ってやつの機嫌を損ね、本当に命を狙われたら、このような相手にはなす術がない。正直言って、春花が情婦なのは我慢ならなかったが、しかし恐怖が勝った。お前の処遇より、わしはわが身がかわいかったのだ。すまん……」

 

 

「いえ、それは私自身が望んだことですわ。あの方のお傍にいたいと。それが幸せだと、お父様はわかっておられるかと思っておりました」

 

 

「うむ、そのようだな。わしはわかっておらなんだ。それもすまぬ。……して、お前はやつの一面を知ってはおらんのか? そういった裏の事柄に加担はしてはおらぬのか?」

 

 

「……いいえ。深町様はそういったことから私たちを遠ざける傾向にありますわ。協力を希ってほしいとさえ、私たちは多く願っておりますけれど」

 

 

「そう、か。わかった、ありがとう。そうか……その点では、奇しくもわしとあやつは似ているところがあったということか」

 

 

「? どういうことでしょう?」

 

 

「ああいや、なんでもないことなのだ。わしはお前を、お前に限らず女子供は、なるべく会社での争い事から遠ざけようとしてはいたのだ。言いわけになるかもしれんがな、厳しくしたのもその一端でな。お前の前夫にも厳しく言っておいたのだ、仕事には最低限しか関わらせるな、と」

 

 

「……まあ……」

 

 

 そういえばそういった会社でのことにかかわった記憶があまりありませんわね。社交でのお付き合いもそういえば、数えるほどだったような。まあ、そういうこと。

 

 

 不器用な人、ですわね。遠ざけることでしか、守ることをできぬなんて。深町様にも一言、箴言めいてしまうかもしれませんが、みなの総意ではありますし言っておきましょうかしら。わかってはいて、頼らぬうちは私共に頼ろうとはしていないとは思いますけれども。

 

 

 いえ。この年になるまで気づけぬ、私のほうこそ愚かですわね。そう、確かに、そういった場に巻きこまれれば、私など吹いて転がされる紙切れのごとく脆いことでしょうし。

 

 

「そういったわけだ。今では邪魔をしようという気はない。安心してお前の好きにしなさい」

 

 

「ええ。そうですわお父様、始めに言われた、深町家の歴史というのは?」

 

 

「ああ……いや、それは深町自身の口から聞いたほうがよいだろう。こちらでの調べは裏を取る間もなく、向こうに先手を取られたものでな。確実とは言えぬ。以前お前との婚約をさせようとした際に調べた時点でも、深町家が由緒ある家庭だとは知っておったのだ、だから申し込んだ。まあまあ、その辺りは本人から聞くとよい」

 

 

「はあ、わかりましたわ」

 

 

 なにやら釈然としませんが、これ以上聞いても意味はないようなので追及はしないでおきましょう。

 

 

「それはそうと、春花……その、なんだ。今さらわしに孝行しろとは言わん。その資格もなかろう。ただ……あれはお前を大事に思っている。お前の娘、あれからしたら孫もだ。たまには顔を見せてやってはくれんか」

 

 

 口下手というよりは、こういったことを言った覚えがないのでしょう。常に勝者で上の立場だったお父様からしたらしょうがないことかもしれません。けれどそれで、お母様に対する言い方がよしとは、できませんでした。

 

 

「そう思うのでしたら、まずはあれやこれなど、冷たい物言いをおやめになったらいかがでしょう。名前で呼んであげて下さいまし。お母様もかわいそうですわ」

 

 

「う、ぐ、うむ、そうだな……そうだ」

 

 

 なにやらその深町様の一件以来、思うところでもあるのか、今まで見たこともないほどお父様は素直でいらっしゃいました。

 

 

「それに私は、八尋のお家に対して嫌な感情は持ち合わせておりませんわ。育てて下さったお家ですもの。言われずとも、家には顔を見せます。今年もお盆には戻って参りましたわ、お父様には会えずじまいでしたけれど」

 

 

「うむ。すまんな、忙しくてな。わしももう、楽隠居をしたいとは思っているのだ。後継が不甲斐なくそれもままならぬが、お前の前夫など」

 

 

 遮って「お父様に対しての苦手意識もそうは消えません。けれど、いつかはお茶の席をご一緒できればとは、思っておりますの。私は下戸ですので、お酒は勘弁願いますけれど」

 

 

「ああ、そうだな。いつかは実家の囲炉裏を囲みたいものだ……」

 

 

「あら、お父様なら願望ではなく叶えられるでしょう? これまでに不可能なことなどなきに等しい身の上ではありませんか」

 

 

「……そうだな……」

 

 

 少しわざとらしさが過ぎたでしょうか。機嫌を損ねるかと思いきや、お父様はまた遠くを見つめ、なにかを決心したお顔をなさっておりました。

 

 

 向こうでは弓道のデモンストレーションが行われているよう。花織などまゆちゃんを連れて楽し気に見入ってそう。私も気分転換に見に行こうかしらと腰を上げると。

 

 

「春花」

 

 

 呼び止められました。不審に思い再度座りこむとだんまり。なんなのでしょう。

 

 

「……春花、その……」

 

 

 ハロウィンの狂騒はいかにも楽し気で、見ているだけでもわくわくが止まらないよう。参加者はみな、めいめいに楽しんでいます。

 

 

 そんな中で険しい顔をするお父様はしかし、ふっと力を抜いて手を振りました。

 

 

「なんでもない。じゃあな」

 

 

「? では、ごきげんよう、お父様」

 

 

 ぐっと顔を伏せるお父様が最後、去り際になにかを言ったような気がしましたが、聞こえませんでした。

 

 

 お祭りは近く、走り回るお子様たちのなんと多いこと。あちこちで人々は湧き立ち、踊っているようでした。

 

 

「……」

 

 

 歩みを止め、振り返り。そしてやはりと、思い返してお父様の元まで戻りました。

 

 

 そして同じ体勢の父親に、言うのです。

 

 

 今夜はハロウィンパーティだ、と。

 

 

「とりっくおあ、とりーと!」

 

 

「……」

 

 

 まさにあんぐりといった感じで口をぽっかりと開けたお父様は大間抜けで、不覚にも笑ってしまいましたの。

 

 

「ぷっ、うふふ……」

 

 

「わ、笑うな、こら」

 

 

「こほん、すみません。お父様?」

 

 

 手を差し出すと、それとにらめっこしたお父様は、ふ、と笑い、立ち上がりました。

 

 

「お前は変わったな、春花」

 

 

「いいえ、なにも」

 

 

「いや、変わったよ。もしくはわしが気づいておらなんだだけだ。はは。よかろう。くれてやる。お前に相応しい最上のものだ」

 

 

 すぐに携帯電話を取り出すお父様に眉を顰め、無駄遣いならお断りですわと言おうとすると遮られます。

 

 

「違う、お前がただの高級品を嫌うことくらいは知っておる。お前に相応しい、お前だけが特上と感じるものだ。待っておれ」

 

 

 するとやってきたのは、なんとお母様でした。同じように仮装をして、慌てて走ってきたのか軽く汗をかいておりましたの。

 

 

 私を見た途端、にっこりと笑い。差し出すお菓子は、お手製のものでした。

 

 

「はいどうぞ、春花。貴女にならいたずらされてもいいけれど」

 

 

「……ありがとうございますわ。お母様……」

 

 

 カラフルなお菓子袋にはクッキーが入っていました。一口食べれば、温かい母の味。

 

 

 何年ぶりでしょう。お母様の手料理を味わうのは。なんだか感慨深く、懐かしくて、思わず少し涙ぐんでしまいました。

 

 

 本当に私には、私にだけは、特上のお味。

 

 

「おいしいですわ。本当に」

 

 

「ありがとう。はぁ、ようやく渡せたわ。よかった」

 

 

 ようやくという言葉の重みに気づきつつ、けれどそれで、なにを言えるわけでもなく。ただ、おいしいとだけ、言うばかりでした。

 

 

「ところで春花、花雪と花織は? 一緒じゃあないのかしら」

 

 

「ええ、めいめいに遊んでおりますわ。きっと今も会場のどこかを走り回っているのでは」

 

 

「そう。見つけたら言ってね、これ、私の携帯電話の番号よ。めーるはやめてね、わからないから。あっ、持ってなかったかしら?」

 

 

「いえ、私も最近覚えましたの。拝見しますわ。……お父様は?」

 

 

「こちらから連絡はほとんどできんぞ」

 

 

 言いつつも、親子で連絡先を交換しました。この年になると逆に文明の利器は遠く、しかしさすがお父様だけは扱い慣れたものでしたの。

 

 

「はい。ありがとう春花。会えてよかったわ。元気でやっていて?」

 

 

「ええ。お母様も息災でなによりですわ。仮装もよくお似合いで」

 

 

「ふふふ。ありがとう。じゃあね、私今日は忙しいから」

 

 

 ぱたぱたとドレスの裾を持ち上げて駆け出すお母様の横顔はとても、輝いているようでした。

 

 

 ただ、背中に一礼を。するだけの、情けない娘。

 

 

「……お母様、楽しそうですわね」

 

 

「ああ。こういった催しは本当に好きなようでな。困ったものだ」

 

 

「でも、お父様もお付き合いなさるのはきっと、お母様のためもございましょう?」

 

 

「ふん、この年で夫婦間になんぞ、求むるものもないわ」

 

 

 そうはいっても、先のご様子から少し、変化は見られますの。変わったのはきっと、私たちみんな、ですわ。

 

 

「では、私もそろそろ。ごきげんよう、お父様」

 

 

「ああ、達者でな」

 

 

 賑やかしい弓道のショーへと、歩いていきました。

 

 

 今度は本当にいたずらをするようになにか、考えておきませんと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 風を切る音がうるさくても聞こえる。

 

 

 たんっ、と、矢が的に当たるのが見えた。

 

 

 えっちなことをしてるなんて忘れちゃうくらい、きれいだった。

 

 

 すごく暑かったあの父の日ぷれぜんとみたいに、胸がどくどくしてる。

 

 

 やりたい。やって、みたいって。

 

 

 弓道って、すごい。

 

 

 矢をうった女の人がぺこりとおじぎをすると、黙ってた周りのこすぷれしたお友だちがこほんと話し出す。

 

 

『はーい見ての通り、そんなかしこまったものでもありませーん。怖くないですよー、危なくないですよー。どなたでも始められます。難しく捉えないでまずは見てみましょうやってみましょうー。はい、というわけで体験コーナーです。細かい作法なんてこの際無視! やりません! さあお手本の先生に手取り足取り教えてもらいながら一射、射ってみませんかー? やってみたいという方、挙手!』

 

 

 すると何人か、みゆよりちょっぴり年上くらいの子が手を上げてぴょんぴょんステージに走ってった。弓道をする場所はこの広い会場でも特にたくさん作ってあって、たくさんのこすぷれした人たちが弓を持って案内してくれてる。お外でのくつじゃ歩いちゃいけないところ、同じ場所なのに別の場所みたいなところ。

 

 

 みゆも、みゆもしてみたいな。うずうずしてきた。高校生のお姉さんたちもやさしそうだし、失敗してもからかわれないかも。どうしようかな。どうしよう。

 

 

「でもすごいねぇ、ハロウィンのコスプレで弓道のショーだなんて。コスプレに胴当てだからゲームみたい。どこの高校かなぁ。レオンくんたちのとことは違うんでしょ?」

 

 

 愛さんがわぁって感心した顔で言うと、レオンさんがうなずいてた。

 

 

「ああ、別の高校だね。弓道をもっと身近に感じてもらいたいからってこんなところでやるなんて、いくら緩いうちでもなかなかやらないのに」

 

 

 レオンさんとルーシーさんは確か、千歳(ちとせ)さんと同じ学校だったはず。ゆるいとかきびしいとかたまに聞くけどよくわかんない。

 

 

「確かに敷居は高く感じるかもねぇ。弓道もそうだし、剣道とか、茶道華道、どれも生半な気持ちで入ってくるな、っていうイメージあるなぁ」

 

 

「そういうの払拭したいんだろうな。わかる気はする。偏見ってよくないからね」

 

 

「やってみるかい、レオンくん?」

 

 

「いやいいよ、みんな見てるところで恥ずかしいとこ見せたくないし。そうだ、みゆちゃん、どう? (しん)(まい)もどっか行っちゃったしさ」

 

 

「えっ。い、いいですかぁ? 実はみゆ、やってみたくって……い、行ってきますねっ」

 

 

 そわそわしながら次の人を待って、はいと手を上げると案内してもらっちゃう。ちょっと前へ出るのはミニだから恥ずかしいけど、見えないと思うしだいじょぶだよね。

 

 

 くつをぬいで、すべすべの床に上がると、ふんいきがなんだか違って、いいなぁ。あ、まん丸な的、あんなに遠い。ちっちゃいなぁ。お姉さんたちみたいに胸に当てる硬いものと、てぶくろみたいなのを着けてもらって、準備はばんたん。

 

 

「はい、どうぞ。大人の使うのは危ないからね。子供の練習用のやつだから、お嬢さんでも使えると思うよ」

 

 

「は、はぃ」

 

 

 わたしてもらった弓はほんとにさっきの人がやってたのとは全然違くて、ちっちゃいけど、でもみゆにはおっきく感じた。きれいな大根の半分みたいな形に、ぴんと線が入ってて、まっすぐな矢を合わせるとすごくカッコいい。でも、片手で弓と矢をいっしょに持つのはむつかしくって、ぐらぐらしちゃう。あんなぴん、ってきれいに持てないの。

 

 

「ここ持つといいよ、支えてあげる。あんまり力入れ過ぎなくていいよ、最初だから気楽にいこうね」

 

 

 背中から回ってぐるぐるされるみたいに支えてもらうと、きちんと持てた。近いほうの的でも遠いけど、しっかり見て、当たるように引っ張って、どうにか……えいっ。

 

 

 ぴょん、って。かえるさんがぴょこぴょこはねるみたいな感じだったけど、矢が飛んでったの。

 

 

「わっ、と、飛びましたっ」

 

 

「うん、飛んだね。すごいぞ」

 

 

「と、届かなかったですけど……む、むつかしいですね、えへへ……」

 

 

 でもできた。これ練習したらいつか当たるもんね。わぁ……いいなぁ。いいないいなぁ。もっとやりたいなぁ。

 

 

「あ、あの、みゆもおっきくなったら、お姉さんみたいに当てられるようになりますかぁ?」

 

 

「うん、きっとなれるよ。お嬢さんは筋がいいから、あたしよりずっとね」

 

 

「わぁ……ありがとうございますっ。えへへ」

 

 

 ……きれいな弓。

 

 

 きれいな、まっすぐな矢。

 

 

 きらめく弓道の制服。

 

 

 遠い、でもいつか届く、待っててくれるがっしりした的。

 

 

 空気の違う床と、人たち。

 

 

 いつかみゆも、ここに立ちたい。立っていたい。

 

 

 かがやいている、から。

 

 

 何回かやらせてもらって、いっぱいどきどきできたの。はぁ。楽しい。

 

 

「ありがとうございましたっ」

 

 

「はい、こちらこそ。青陵高校弓道部、よろしくねっ」

 

 

「はいっ」

 

 

 たいけんが終わってぬがせてもらって、レオンさんたちとのとこへ戻ると紗絵子さんと、知らない男の人が一緒だった。外国人だ。

 

 

「おかえりなさいみゆちゃん。よかったわね、ちゃんと飛んで」

 

 

「はい。あの、そっちの人は?」

 

 

「ああごめんなさい。こちらはスティーブ。スティーブ、こちらがみゆちゃんよ」

 

 

 あくしゅしようとして、背がおっきいからすぐにしゃがんでくれたスティーブさん。ぶんぶんってすごく力強くあくしゅするからちょっとびっくりする。

 

 

「ハジメマシテ、キュートなお嬢さん。スティーブいいます」

 

 

「は、はじめまして。あの、日本語話せるんですね」

 

 

「はい。私通訳。英語と、日本語と、中国語、それとスペイン語、話せます」

 

 

「それで私が外国に行っていたときに通訳をしてくれていたのよ。今日はね、わざわざ私を訪ねに来てくれたんだって。もちろん観光も兼ねてね、スティーブ?」

 

 

 ふわってなんだか、肩を浮かべるみたいなことして、スティーブさんは笑うの。体もおっきいけど、なにかするのもすごく大振りっていうか、おっきいなぁ。

 

 

「メイン、アー、サエコ、キミだよ。キミ会いたかった。来てみたらハロウィンをやっていると聞いて飛んできたしまったよ。まったく、いつ来ても日本は素晴らしい! Wonderful!」

 

 

「はいはい。私に会って日本贔屓になったって本当? まったく、目新しいものはなんでも好きなんでしょ?」

 

 

「とんでもナイ! 日本はすごいよ! 食事はうまい、木は花はキレイ、そしてみんなは優しい! その上こんな楽しいパーティーを開くだなんて、まったく!」

 

 

 すごくぐいぐい行く人だなぁ。みぶりてぶりっていうのかな、手も肩もぶらぶらあっちこっち動いちゃってる。

 

 

「今はキュードーだってそうさ。So、言葉にできないんよ。なんて言えばいいか、アー……とにかく感動した!」

 

 

 でも、言ってることはわかる。みゆでも変だなってわかるけど、なにが言いたいかは伝わってくるの。

 

 

「はい。みゆもとっても、感動しました」

 

 

 まだ弓道の体験をしている人はいる。自分で飛ばしたまっすぐな矢を見て、目がきらきら、気分もきらきら。わかるんだ。

 

 

 いつか行くんだ。あの場所へ。絶対に。

 

 

「シカシ日本は若い人間が頑張ってるんだね。サエコを初めて見たとき思い出すよ。まさか日本はここまで医学が進んでるとはね」

 

 

「もう、またその話?」

 

 

 みゆやレオンさんたちがきょとんとすると、スティーブさんは得意げに胸を張って(なんでだろう)話してくれた。

 

 

「驚いたんだ。日本ではこんな幼い学生がドクターなんて、ってね。日本は進んでる、先端医療じゃあ我が国が一番だと思ったは違うようだと」

 

 

「……ああ!」ぽんとルーシーさんがわかったみたい。手をつないでる(なかよしさんだ)レオンさんに説明して、レオンさんもわかったみたい。みゆがまだ首をかたむけてると、言ってくれた。

 

 

「あのな、紗絵子さんって、外国の人から見ると、僕らよりもっと若く見えるものなんだ。だから、スティーブさんからみるとそのときの紗絵子さんは大人じゃなくて高校生くらいの学生に見えたってことなんじゃないかな」

 

 

「あ、なるほど。そういうことなんですか」

 

 

That’s right、その通りさ。あとで年齢を聞いてまた驚いたよ。今でも信じられないさ、こんな若く美しいレディが、僕とそう年が変わらないなんてね」

 

 

 スティーブさんは四十三歳だって。紗絵子さんより三つだけ上だ。でもみゆからすると、スティーブさんもいくつかよくわかんないけどなぁ。四十三って聞いてもわかるし、五十三でも、三十三歳って言われてもそうだなぁって思っちゃう。

 

 

「さらに驚いたのはそれでいて腕は確かだったということさ。信じてもらわなかったよ、こんな若い女の子が、あんなに手早く正確に処置をしているなんて、誰に話してもさ。本当だよ、母国の人間は僕を嘘つきだって言ったら、いくらサムライニンジャジャパンだっておかしいってさ。本当さ」

 

 

 ちょびっとおしゃべりが変だけど、なんとなく意味はわかるからみゆもふんふんうなずいていた。紗絵子さんだけ恥ずかしそうにやだもうって言って止めようとしてたけど、スティーブさんはべらべら、口が止まらないの。

 

 

「とにかくサエコはすごいよ、尊敬する。今日のファッションもとってもキュートだね。結婚しよう」

 

 

「しません、ノー、ノーよ」

 

 

Oh god……」なにか英語でよくわからないことぺちゃくちゃ言ってた。落ちこみながら。変なの。

 

 

「これでサエコにプロポーズを断られるのは何度目かろうか。はぁ……」

 

 

 何回もしてるんだ。外国人ってすごいのかなぁ。

 

 

「それよりみゆちゃん、弓道体験どうだった? 楽しかったかしら」

 

 

「はい、とっても。みゆ、大きくなったらやってみたいです」

 

 

「そう。いいわねぇ」にっこり笑う紗絵子さんにわしゃわしゃされちゃう。頭にわっかが乗っかった天使の紗絵子さんになでなでしてもらうと、なんだかお祝いされてるみたい。

 

 

「みゆちゃんの小学校っていろいろ部活、クラブ活動があったはずだけど、弓道ってあるの?」

 

 

「うぅん……ちありーだーはあるんですけど、弓道はなかった気がします」

 

 

「そうかぁ。うちもないけど、確か部活は増やせるはずだし、やってみてもいいかもなぁ」

 

 

 レオンさんがしげしげ言ってた。そっか。作るのもいいんだ。みゆも小学校……ああでも、くらぶに入るのは早くって三年生からだっけ。

 

 

「レオン、ああいうの、萌え?」

 

 

「……ルーシー君、君は一体そういう言葉をどこで覚えてくるんだ」

 

 

「萌え?」

 

 

「……うん」

 

 

「そう。してあげて、いいよ?」

 

 

「うん。ありがと」

 

 

 またぎゅっと手つないでる。二人はなかよしさんだ。

 

 

What? モエ、ってなんだい?」

 

 

「スティーブ、あなた相変わらず落ちるのも早ければ立ち直るのも早いわね」

 

 

「ハハ、元気だけが取り柄だからね。ところで、モエとは?」

 

 

「うーん……愛さん、説明してやって」

 

 

「え? えーっと……」

 

 

 やじるしみたいなしっぽをくっつけたあくまこすぷれの愛さん。ちっちゃいこうもりみたいな羽根が背中に生えてて、動くと揺れてちょっぴり面白いの。

 

 

「男の人が、かわいい女の子に感じる、言葉にしづらい妙な感情、かな? 口で言ってわかるものでも伝わるものでもないって、誰かが言ってた、インターネットの人が」

 

 

 それ、ほーむぺーじで聞いてたんだっけ。愛さんのとこに『萌えとエロスが混ざり合って最高です!』ってきて、わかんないパティさんと愛さんが質問したんだっけ。みゆもわかんないなぁ。

 

 

Hmm……興味深いね。ジャパンのカルチャーは独特だ。サエコ、よければ今晩泊めてくれないか? 実は泊まるところの当てがないんだ」

 

 

「いいわよ。ただし、うちは子供も多いから気をつけてね」

 

 

「とてもありがとう。またサエコと話せてうれしいます。モエもほかも勉強したいな」

 

 

「いいわよー? でもびっくりしないでね? ほら、私だってあなたたちの国の文化を知って驚いたしさ、あんまり大仰に大声出さないでね、こっちはそっちと違って、家と家の距離が近いんだから」

 

 

Yah、『キンジョヅキアイ』だね。わかったるよ」

 

 

 い、いいのかな。泊めちゃっても。こんばんはとってもがばぁ、な予感がするんだけどなぁ。ほかの人がいるのはみゆはちょっと困るなぁ。ううう。

 

 

Oh、そうだ、連絡忘れない、っと。……ん? サエコ、なにかこっちに走ったくる」

 

 

「とりくおあっとりー!」

 

 

 どかん、と走ってきてまゆちゃんがスティーブさんにぶつかってた。まゆちゃんも泉さんと一緒のどらきゅりーな。にかって笑うと今日だけのおっきい歯がいっぱい見える。

 

 

「へへへ、外人だー。ね、ね、日本語話せる? お話しよーよー、ねー」

 

 

Oh、キュートなお嬢さん、はな、離してくれ、苦しいよ、Ouch

 

 

 ぎゅううってつかむのをはなしたまゆちゃんがたんたんって足ぶみしながら手を出すと、まずはスティーブさんが困った笑いしながらお菓子あげてた(キャンディーかな?)。またにっこりまゆちゃんしまいこんで、またぴょんぴょん飛びながら話すの。

 

 

「話せるじゃん。ねーねー、お名前なんてーの? あたしまゆ」

 

 

「スティーブ言います。キミは元気ですねー」

 

 

「うんっ。元気いっぱいがいいっていっつもみんな……あり、みゆちゃんもいるじゃん。こんちー」

 

 

「こんにちは、まゆちゃん。お菓子いっぱいもらえた? みゆもいっぱい」

 

 

「あたしもいーっぱい! こんなにもらっちゃったぁ。なにから食べようっかなぁ、ねー?」

 

 

「ねー」

 

 

 話してるとおくれて詩音(ふみね)おね、え、ちゃんがやってきて、はぁはぁ言いながらまゆちゃんを見て、ほっとしてた。あ、別れて迷子になっちゃうとこだったのかなぁ。詩音おねえちゃんはちょっぴりあこがれだったかんごしさんにちょびっとあくまてきようそう? っていうのを足してて、しっぽ生えてるの。

 

 

 スティーブさんはみんなお友だちだって紗絵子さんに説明してもらってる。

 

 

「ほうほう、大量だね。どうだい、パーティーは楽しいかい?」

 

 

「うんっ。このお祭り、外国のなんでしょ? おじさんとこでもやってる?」

 

 

「ああ、もちろん。日本でもやってると聞いて飛んだきたんだ。日本のほうがカワイイ仮装をしているね。こっちだともっと、Ah……怖く、こわめ? サエコ、どう言えばいいんだ?」

 

 

「おどろおどろしい、とか?」

 

 

Yah、それだ。オドロオドロ、なんだ」

 

 

「ふぅん、おもしろいねー。見てみたかったなー」

 

 

「そうだ、今度ウチへおいでよ。今度に私をホストがやります」


 

「ほんと? 行ってみたーい。ね、ね、いーい?」

 

 

「それはお母さんたちと相談ね」紗絵子さんがよしよししながら言ってくれる。「一人旅は一人旅でいい経験だし、いいと思うけど。かわいい子には旅をさせないとねぇ」

 

 

「あ、それは知ってるぞ、日本版のProverbだ。いいねぇ、共通するものがある。こちらにない、さっきの、ah……オドロオドロ? もだが、そういったことを、カルチャーを知れるというのはやはりいい。旅は最高だよ」

 

 

 いっぱいしゃべる人だなぁ。つうやくの人ってみんなこうなのかな。

 

 

「通訳をしていてよかったよ、本当にね。知らないこと、違うことを知ることはできる。知っているかいマユちゃん、オドロオドロ、や、雨を降る音、日本にはあるだろう? あれは私の国にはないんだ。面白いだろう?」

 

 

「へぇー、そうなんだ? じゃあじゃあ、雪がしんしんってつもるっていうのもないの? 牛さんがもーもーも? 手たたいたらぱちん、も?」

 

 

Wow、とても興味深いね。あるものもあるし、ないものもあるんだ」

 

 

「ほえー……ね、ね、おじさん今日うち泊まってきなよ。もっとお話しよ?」

 

 

 紗絵子さんが一緒に住んでるって言うとスティーブさん喜んでた。またぶんぶんまゆちゃん振り回すみたいにあくしゅして、またキャンディーあげてる。

 

 

「あんがと。はぁー……走ってきたらあっちーねー。んしょっと」

 

 

 まゆちゃんあっという間にどらきゅりーなのミニスカドレス脱いじゃった。あ、あ、憲邇さまのだ。ううう。

 

 

 まゆちゃんのは上と下が半分こしてるので、今上脱いじゃったからお腹丸出し。おっぱいも。下になんにも着てないのも、そう言われてるから。

 

 

 ……あれ。でも、まゆちゃんの、顔。

 

 

 柚香里お母さんに、似てる。まさか……

 

 

「こらこらリトル・レディ、こんなところで脱いではいけない。それじゃあ児童ポルノだよ」

 

 

 ? スティーブさんへんにあせってて、あわててまゆちゃんにドレス着せようとしてた。

 

 

「スティーブ、ここは日本よ。第一まゆちゃんとは今日はじめて会ったんだから、あなたになにか責任、いえ罪があるわけじゃあないでしょう」

 

 

 ちょっと紗絵子さんの言っている意味はわかんなかったけど、汗かいてたスティーブさんはなんでかほっとしてた。

 

 

「そうとも、僕を脱がせたわけじゃない。ところで日本でこれはありなのか? 犯罪じゃあないのか?」

 

 

「むしろこの程度で児童ポルノだって騒ぐそっちの捉え方を疑うわね。前にも言った気がするけど、日本じゃあ児童の裸はかわいらしいものとして、おおらかに笑い飛ばすくらいのものよ。なんでも性的に見るそっちの風俗、風習の土壌が悲しいとさえ思うわ」

 

 

Oh……それについては弁明の余地にないよ。わが国には悲しい歴史があるんだ」

 

 

「はいはい、あなたのその自国自分たちをダメだダメだと言う癖はわかったわ。でも、自分を卑下しているだけじゃあ成長しないわ、そうでしょう?」

 

 

 あれ、なにか今の言葉、どっかで聞いた気がする。どこだったかなぁ。あ、おんなじ感じ、よく憲邇さまが言ってくれたっけ。

 

 

 ……あれ。まゆちゃんは? スティーブさんの声はおっきいし、つい聞いちゃってたけど、脱いだまゆちゃんがいない。あれ、あれ。

 

 

「みゆちゃん」

 

 

「わっ」

 

 

 後ろからまゆちゃんが声かけてきた。ひそひそ声。

 

 

「ね、これ持ってて。ぬれちゃうとあとで着るのやだからさ」

 

 

「う、うん」

 

 

 ミニスカドレス、もらっちゃう。まゆちゃんは全部脱いじゃってて、はだかだった。ぬれるって、あ、まゆちゃんお水持ってた。

 

 

「あっちー。水かぶっちゃおーっと」

 

 

 ばしゃばしゃって、まゆちゃんは頭からお水をかぶってった。それも憲邇さまのなのか、顔まっかっか。

 

 

 まっかっか、なの。そのほっぺが、やっぱり柚香里お母さんそっくり。

 

 

 ……みゆみたい。もじ、もじ。

 

 

「あーきもちいー」

 

 

 その言葉も。そっくりなの。

 

 

「こおらまゆちゃん、ダメだぞ。もう、びしょ濡れじゃない」

 

 

 愛さんが(わかってて)まゆちゃんとぬれちゃった床をふいてた。すたっふさん? っていう人がやってきて紗絵子さんと一緒にぺこぺこあやまってる。まゆちゃんもごめんなさいしてて、向こうも困った顔だけど笑ってた。

 

 

「会場の空調、ちょっと調子悪いんですよ。暑かったね、お嬢ちゃん。ごめんね、なるべく涼しくしてるんだけど、でもお水でびしょびしょはダメだぞ?」

 

 

「うん、ごめんなさい」

 

 

「いい子だね。かわいいですね、ふふ。じゃあ、お祭り楽しんでね。ばいばい」

 

 

「ば、ばいばい」くね、くね。

 

 

 裸のまゆちゃんはタオルかけてもらって、ちぢこまって恥ずかしそうだった。

 

 

 いっぱい、人にわざと、見られたから。きれいなはだか、みんなに。

 

 

 つんって、してたもん。えっち。

 

 

「みゆちゃん、気づいた?」

 

 

「え、な、なんのこと?」

 

 

 急にまゆちゃんがまたこしょこしょないしょ話してきたから、いちおう、気づいていないフリしたの。

 

 

 だって知られたく、ないよね。えっちだってことに。

 

 

「うぅん、だったらいいんだ。よかった、におってないんだ」

 

 

「?」

 

 

「おっと、お洋服着ないとねっ。せっかくカワイイんだもんねっ」

 

 

 またきゅうけつきになったまゆちゃんはもらったお菓子を見てにんまりしてから、すぐ駆け出しちゃった。かと思ったら急ブレーキかけて戻ってきて、あれなにあれなにと弓道を指さしてぴょんぴょんしてる。すぐそっち走ってって、弓を持った人にあれこれ聞いてた。はぁ。元気だなぁ。あ、あれ春花さんかな? なんだか最初よりはろうぃん、楽しんでそう。

 

 

「……」

 

 

 そろそろ時間、だよね。スティーブさんも紗絵子さんと話しこんでるし、ほかの人たちもみゆなんか見て、ないよね。

 

 

 かしゃり。今日の憲邇さまご命令の黒れーす、こっそりとっちゃうの。はぁ。

 

 

 こっそりって、いいね。えへ。みゆもぶら着られてうれしいなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一回みんなでお休みしようってなって、きゅうけいじょって書いてあるところに座っておしゃべりしてた。スティーブさんは本当にお口がよく動いてて、よくしゃべるの。

 

 

 いきなりそこで紗絵子さん、後ろからがばぁって抱きしめられちゃった。憲邇さまかなって思うと、別の、また外国の人。

 

 

「……イアン!」

 

 

「サエコ! また会えてうれしいよ!」

 

 

 うわぁ、この人ものっぽさんだぁ。憲邇さまよりでっかいなぁ。みゆが二人でも届かないかも。着てるの、かいぞくさんかなぁ。カッコいいかも。

 

 

「うわぁあなた、よく日本に来れたわね。驚いたわ……その後どう、体の調子は。あ、スティーブ、通訳お願い」

 

 

Non、必要ないんだ。イアンはもう日本語ぺらぺらさ。私よりうまいだ」

 

 

「そうさ、日本語だけならスティーブより通訳ができるよ。サエコ、キミのおかげさ。おかげで体もばっちりだよ、こうして旅行もできる。ありがとう!」

 

 

 また手にぎってぶんぶんしてる。外国の人ってぶんぶんするんだねぇ。

 

 

「いやねぇ、私は手伝いよ。治療は先生がしたじゃない。あ、ごめんなさいみんな、こちらはイアン。以前私たちのチームが診た患者さん。仕事は当時配管工、だったかしら? 今はどう?」

 

 

「今も同じ仕事をしながら日本の勉強さ。将来はスティーブなんか超える通訳になって我が国と日本との懸け橋になるつもりさ。もっとも、さらに目標は大きく掲げてある。それは……医者になることだ」

 

 

「あら」「わぁ」「Oh……」

 

 

 みんないいねって顔するの。うふふ。お医者さんっていいもんね。

 

 

「イアン、それは初耳ぞ。なんだい、こっそり隠れて、その年で医者かい?」

 

 

「そうさ。悪いかな?」

 

 

「全然まったく! 最高さ、Fantastic!」

 

 

 あ、男の人同士なのに抱きあっちゃってる。やっぱり外国の人って面白いなぁ。いくつくらいの人なんだろ? 見てもよくわかんないなぁ。

 

 

「素敵ねイアン、応援するわ。頑張ってね」

 

 

「……ありがとう! サエコ、キミに言ってもらえると勇気百倍だよ、ハハハ」

 

 

「でもイアン、せっかくサプライズを作っていたのになんだい、ぶち壊しだ。驚かせたかった」すぐころころ表情も変わるなぁ。

 

 

「すまない、サエコの顔を見たらいてもたってもいられなくなってね。忘れようもない女神の顔だ。思わず駆け出してしまったよ」

 

 

「あんたたちはほんと大げさなのよっ、もう。図体ばっかりでかくって、まったく」

 

 

 紗絵子さんにぱんぱん背中叩かれてもイアンさんたちうれしそう。

 

 

「まったく! じゃあ愛さん、メイド長に連絡! もてなしの準備ね、でかい男二人分! あなたたち食べられないものとかないわよね? 日本食は大丈夫なんでしょうね?」

 

 

「もちろんさ! それが楽しみで来たようなものだよ」スティーブさんがなんでかぐっとこぶしをにぎりしめて言ってる。

 

 

「よろしい。ではお願いね。さて、それじゃあお菓子持ってるんでしょうね? くれないといたずら、しちゃうわよ?」

 

 

 紗絵子さんがにっこり言うと、天使の笑顔にめろめろな外国の人。スティーブさんはごそごそお菓子落としながらあげてて、イアンさんはもじもじしながら知らない言葉でなにか言ってた(スティーブさんがおんなじような言葉でつっつきながらそれになにか言ってた)。

 

 

 あ、そうだ。この人たちなら、外国で紗絵子さんがなにしてたのか知ってるよね。聞いてみようっと。

 

 

「あ、あの」

 

 

「ん? ああすまない、サエコでSold Outだ。もうないんだ、ごめんね」

 

 

「あ、いえ、お菓子はいいです。あのぉ、紗絵子さんは外国でなにしてたんですか? くわしく知りたくって、ええと、かんごしさんでけがとか治してたって」

 

 

 みゆが言うとなんでか二人ともわっていきおいついて、つかみかかってくるみたいにずおおってなってべらべらまくしたててきちゃった。

 

 

「聞いてくれるかい! そりゃもう、サエコの功績ときたらないよ!」

 

 

「ああ、まさに救済の天使、女神そのものだったんだ! ボクは彼女に命を助けてもらったようなものなんだ、お嬢ちゃん」

 

 

「ちょ、ちょっとみゆちゃん!」ばたばたと天使さんがあわててる。「なに聞いているの、いいのよそんなこと知らなくて」

 

 

「とんでもない! ボクは本当にサエコに助けてもらったんだ! 言わせてくれ、とても大事なことだよ」

 

 

「う……」もじもじ。「あ、あとでにしましょう? ここではなんだわ、二人とも家に招待するんだから、そこでもいいでしょう? ねぇ?」

 

 

「なるほど、それもそうだ。こんなところで話すことじゃあない。いいねスティーブ?」

 

 

「もちろんさ。夜を明かして話すこんでやるよ。私もサエコには助けてもらってばかりだった……」

 

 

 ふぅん。やっぱりすごいことしてきたんだ。紗絵子さんぜんぜんそっちの話しないから。憲邇さまも自分がどれだけいっぱいかんじゃさん治してきたかなんて絶対言わないもんね。親子だ。

 

 

 みゆ、もっといっぱい知りたいな。紗絵子さんのこと、憲邇さまのこと、みんなのこと。

 

 

 いっぱい知って、いっぱい大きくなるんだ。お母さんみたいに。

 

 

 ……えっちにだけは、ならないようにしないと。憲邇さまみたいなえっちにだけは、絶対絶対、ならないようにしないと。

 

 

 なりそうで怖いもん。

 

 

「は、はいはいはい! しんみりなんてしない! お祭りよ、楽しみましょう! そうだわ二人ともおごったげる! あんまり旅費でお金ないでしょ大変でしょ、なんでもいいわさあほら立った立った!」

 

 

「いいのかい? ではマッチャ味のキットカットをだね……」

 

 

「ボクはオベントウがいいなぁ。サエコが手作りだっていうオベントウをあのとき見て、とても食べたかった。あんまり食べられなかったあの頃が本当に悔しいんだ」

 

 

「作る作る! さあ行きましょう、ほらほら」

 

 

 なんだかごまかす気ですね。こんな紗絵子さんも面白い。ふふ。

 

 

 ぞろぞろ会場をまたみんなで遊んでくの。

 

 

 そっと愛さん、外国の人の背中に向けてスカートをめくりながら。

 

 

 すけすけの黒れーすの下着が、笑ってるみたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第九十九話なかがき的戯言

 

 

 

 

 こんばんは、三日月(みかづき)です。

 

 

 描きたいことをまとめていると、時間足りないと嘆きそうになります。いえ、うまく使えていないだけで、本当は時間は平等なのですけれども。はぁ。

 

 

 欲望に任せているとなにごとも収拾がつかないものです。書きたいことをつらつらと書き殴っていても終わりは見えません。どこかで冷静になる必要があります。書きたいことだけをキーボードを連打するようにただ続けるだけでは、なんにもなりません。

 

 

 そんなわけで、次回は百話ですが特になにがあるわけでもなく、いつもどおりのお話が続きます。よしなに。

 

 

 最後に、上にあります通りこれはなかがきで、このあと幕間としておまけがあります。本編とはまた違った形になってしまったので、まあ、あまり細かいことは気にせずに楽しんでもらえたらな、と。

 

 

 それではここまでお読みくださり、ありがとうございました。また次回もよろしくお願いします。

 

 

 

 

 20170129 三日月まるる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 幕間 おふざけおまけ売り子編 ~露出妻絵里(えり)の受難~

 

 

 

 

 杉尾(すぎお)は困惑していた。かわいい子を求めてハロウィンパーティーに参加したはいいものの、多くはグループを作っていて警戒心が強くとても近づけやせず、それ以外はほぼ例外なく彼氏つき。見通しが甘かったかと、ぼやくと同じ目的の連れは早々に帰ってしまった。

 

 

 一人で仮装してぶらぶらするのも悪くない、そう思えた。なぜならかわいい子自体は非常に多く、そこかしこに楽しそうな美少女がいて、見ているだけでも鼻が伸ばせた。何度か声をかけようとも思ったが、どうもかわいい子は相当なグループで来ているらしく話しかけようとすると知り合いと思しきまた別の美少女たちと合流し、きゃっきゃと話し合っては別れ、また合流しと、タイミングが難しかった。僥倖なのはガードが緩く、油断した肌を何度も覗けたことで、それでいいかと杉尾は満足しかけていた。

 

 

 そうしてそろそろ杉尾が帰ろうとしていた頃。そのかわいい子集団のリーダー格と思われる、子供に付き合って無理をしたであろう人妻がいきなり杉尾に声をかけてきたのだ。それもどこか挙動不審に。そのリーダー格も例外でなく文句ない美女で、杉尾はどぎまぎしていた。

 

 

「ちょっと話せます? 時間、いいかしら」

 

 

 ハスキーな声色もまた魅力的で、人妻の色気を(そんな格好だというのに)増していた。一も二もなく杉尾が頷くと、きょろきょろと辺りを見渡した人妻に人の目が少ないところまで連れて行かれた。

 

 

「あなた、うちの女の子たちじろじろ見てたでしょ」

 

 

 ぎくりと背筋を伸ばすと、おろおろした杉尾は言いわけを羅列し、みっともなく焦って変な声を出してしまった。しかし人妻はそれを途中で制止し、「いいの」と落ち着いていた。

 

 

「お一人? 誰か一緒にいます?」

 

 

 首を振ると人妻は急に声を潜め、どこか瞳と唇を艶めかせて杉尾を見上げてきた。比較的背が高いであろう人妻だったが、杉尾は百九十センチの長身で、自然そうなると、また自然、ぐっときていた。

 

 

「あなたを見込んで、お願いがあります。聞いて、くれない、かしら」

 

 

 なにを言われるかさっぱり予想もつかない杉尾はとにかく話を続けたくて、この人妻と少しでもお近づきに、あるいは一緒にいたくてまたぶんぶんと頷いていた。

 

 

「買っていただきたいものが、ありますの。あなたの言い値で構いませんわ、千円でも百円でも、そ、それこそ価値がないっていうのでしたら、タダでも構いません、から」

 

 

 不審に思った杉尾だったが、見るだけ見ようとバッグから取り出されたものを渡され驚愕した。

 

 

 目の前の人妻が、裸を晒している写真。それも一枚や二枚でない。目を見開いて凝視した杉尾は目の前の美女もまた凝視する。美女は恥ずかしそうに身をくねらせていた。

 

 

 リアルな、経産婦のヌードグラビア。グラビアアイドルとは違う、AV女優とも違う、しかしそれと見紛うほどの美しい裸体。均整の取れた肢体が扇情的なポーズをしている。フォーカスの当たった乳房は程よく小ぶりで、しかしだからこそか垂れてなどいず、凛として持ち上がっていた。同じくヒップも重力に逆らって起立していて、柔らかく丸みを帯びていた。熟しているであろう陰部はどれもわずかしっとりと濡れていて、見るだけでいやらしい気分に誘われてしまう。

 

 

 勃起したまま、固まった杉尾。それを見ながら人妻はもじもじとして、なにも言えずにいた。

 

 

 けれどその頬は、興奮と甘美に紅潮していた。

 

 

「え、これ、どう、え?」

 

 

「いくら? おいくらで買ってくださる? あん、焦らさないで早くお言いになって」

 

 

 わけもわからず、状況も飲み込めないまま杉尾はただ目の前の人妻を見ているだけだった。ここがどこかも忘れて、仮装からはちきれんばかりに陰茎が勃起している。

 

 

「ですから、私のいやらしい写真を買ってほしいの。いくらなら出せるかが知りたいの。ねぇ、やっぱりこんなおばさんの裸なんてそそらないかしら」

 

 

「いや、すっげぇ興奮する」

 

 

 思わず反射的に言った言葉に人妻は過剰反応し、耳まで真っ赤になって俯いていた。自分から見せたくせに恥じらう、女らしさがまた一段と麗しい。

 

 

「あ、ありがとう。ねぇ、買ってくださるなら、今ここでも、脱ぎますわ……」

 

 

 そっと衣装の裾をつまんだ、人差し指。しなやかに躍る指先にまた目を奪われた杉尾はようやく、事の理解を果たした。

 

 

 手持ちはいくらもない。しかし目の前の人妻、いや痴女は極上の女だった。こんな経験はめったにできぬ。もしかしたら抱けるかもしれない、そう考えた杉尾は躊躇なく財布からありったけの金を取り出した。

 

 

「これで買うよ、買わせてくれ。一、二……六千しかないけど、いいかな? 何枚売ってくれる?」

 

 

 そう言うとなぜか観念したようにまたくなくなと肢体を揺らし、吐息をこもらせて人差し指を紅唇に当てて軽く俯いていた。

 

 

「買われるのね……ほしいのね、ああ……恥ずかしい、持っていかれる……」

 

 

 売りたいのか売りたくないのかどっちなんだ、と思わず前のめりになった杉尾だったが、この反応はこれでいいものだった。

 

 

 要するに自分を抑えられない女なのだ、こいつは。恥ずかしいと思いつつやめられない。よせばいいのについスリルを追い求め、辱めを受けたくてたまらない。見られたくてたまらないのだ。おそらくここ以外でもやっているのだろう。旦那にも内緒だろう。自分という適材を狙いつけたあたり、ある程度こなれている、少なくとも初めてではあるまい。

 

 

「嫌か? 買ってほしくないなら諦めるよ」

 

 

 わざと引いてみせるとまたわかりやすく痴女は左右に身を振って、長い髪を振り乱して諦めないでと潤んだ瞳で懇願してきた。押してほしいのだ、自分から迫れないのだ。それなのに誘うのだ。淫乱女なのだ。

 

 

 ふと周りのかぼちゃだらけの会場に目がいった杉尾。ここはハロウィンパーティーの会場で、少し歩けば人ごみがある。人の目も気にして、誰か来ないか気にかけつつ、目の前の女と視線を交錯させる。

 

 

 杉尾は一つ思いついて、痴女の背中を押してやろうとした。

 

 

「売ってくれなきゃ、いたずらするぞ」

 

 

 最後に崖から落とされた痴女はぐっと喉を詰まらせ、震えながらかすかに頷き、「どうぞ」と蚊の鳴くような声で返事をした。

 

 

 震える細い指先がお札を捉え、つかむと、受け渡された写真の行方に痴女はただ、唇を噛んでいた。

 

 

「全部いいのか? 六千で足りるか?」

 

 

「ああ、いや、全部はやめて……返して、ください、何枚かは……」

 

 

「じゃあ脱げよ。さっき言ったろ、見せてくれるんじゃあないのかよ」

 

 

 びくっと震えた痴女はしかし痴女らしく、断らずにただそっと奥を指し、さらに人気から遠ざかろうとした。

 

 

 その場所で。話し声の遠い、誰も来ないであろう場所で。シスターの格好をした美女が、ストリップを始めた。

 

 

 薄手の黒い修道服が肩から外れ、はらりと下りていく。このお祭りのための肩を出したキャミソールに近い修道服は、神秘の要素よりも遊びの印象が強く、こうして脱いでいても違和感はない。ただ、背徳が場と、一人だけの観客によってもたらされているだけ。

 

 

 そして露わになった肌色はキャンバスとなり、太ももには日付と正の字がいくつも書かれ、ここ連日この痴女が犯され続けということが如実にわかる。下着は着けておらず、代わりに乳首の周りに真珠が散りばめられており、写真と等しい陰唇は茂みの奥にきらりとラビアリングを潜ませていた。ガーターベルトのようにそこから伸びた鎖が腰回りを飾り、ジュエリーで装飾された裸体は暗がりに眩しいほど輝いて見えた。

 

 

『性奴隷 絵里 三十三歳』と書かれている文字は、生々しさに溢れていた。羞恥に歪む美貌は官能に塗れ、男をそのままくすぐるよう。一刻も早く逃げ出したいという感情を瞳の奥に押し殺し、局部を指先で隠さず起立する絵里。舐め回すような視線を一身に受け、どろどろとした恥辱に責められていった。

 

 

「私、綺麗?」

 

 

 耐えきれず発せられたハスキーヴォイスは色っぽさしかなく、杉尾の目は充血していく。陰茎は射精しかけるほどの怒張を果たし、もう我慢の限界に思えた。

 

 

 いや我慢の限界だった。杉尾は目の前の女から視線を逸らさないまま、仮装の上からいちもつを扱き出す。やめてと首を振る絵里を無視して、いちもつを取り出す暇も惜しみ布の上から一心不乱にオナニーを続けた。

 

 

 荒い息が吐精を果たすと、ぐっとこもる。下着の中に射精した杉尾はかがんで、しかし絵里だけを見て満足いくまで扱き続けていた。

 

 

「……えっち」

 

 

 責めるでもなく、絵里はただ感想を述べるに留めていた。頭がくらくらとするのはお互いさまで、杉尾は射精後の空しさや後悔が訪れず、高揚したまま絵里の瞳を見つめていた。

 

 

 その訴えがわからぬほど絵里は鈍感ではない。わかるからこそ、絵里は己の身体に描かれた文字をなぞり、自分には主がいること、身体を許すわけにはいかないということを示すが、滾る杉尾には通じなかった。

 

 

「いけませんわ、ごめんなさい、見せるだけなの。私には主人がいますの。裏切るわけにはいきませんわ」

 

 

「自分から誘っておいてなにを今さら」

 

 

「ここはパーティー会場です。離れたとはいえ、声を出せばすぐです。いくら私がこんな姿だからって、この場を見られたら困るのはどちらかしら? わかるでしょう、我慢して。こんな格好、主人にも見せたことないの、あなただけ……我慢してくれたら、触るのはいけないけれど、それ以外ならいろいろ、させてあげられますから……」

 

 

 一発抜いて少し冷静になっていた杉尾は、なだめすかす言葉に焦れるも、言葉どおりこの場を見られたらどちらが困るかもわかっていた。調子のいい逃げの言葉だとわかってはいたが、しかし裏を返せば、節度を守ればこのままを楽しめる。連絡先をどうにかして聞き出せば関係を維持することもできるかもしれない。そうすればいつかは抱けるやもしれぬ。射精後の脳の回転は早く、ここはぐっと抑えて絵里に合わせることにした。

 

 

「わかった、これ以上は望まないよ。それで? 具体的にはなにをどうしてくれるんだ?」

 

 

「あん、続きをご所望なのね……いいわ……」

 

 

 絵里は脱いだ服から携帯を取り出し、誰かに連絡しているようだった。まさか人を呼んだのでは? と杉尾が疑問に思ったのはわずかな時間、すぐに人がやってきた。

 

 

 絵里のグループからだった。あれだけ大勢でつるんでいたのは、そうきっと、彼女ら全員が(幼女、娘たちは違うとして)『そういう』女だからなのだと、杉尾は理解した。

 

 

 理解したからこそ、やってきた清楚な黒髪ロングの美少女にも仰天した。目の前の絵里も美しいが、こんな趣味なのは女盛りで性欲が強いためもあろう(人妻は欲求不満と相場が決まっていると、杉尾は固定観念もあった)。しかしやってきた全身かぼちゃに仮装した美少女はとてもそんな雰囲気に見えない。

 

 

 けれど……『そう』なのだ。そうと思えば、また杉尾は勃起が始まってしまう。かわいらしい格好と備わった見た目とのギャップはスパイスだった。

 

 

「こんにちは。絵里さん、急用って?」

 

 

「この格好見てその問いができるあなたが羨ましいですわ……」

 

 

「すみません、お祭り楽しくってちょっとからかっちゃいました。えっと、見たい人ですか?」

 

 

 なにを言わんとするかなど、それこそ聞くまでもない。かなり微妙で気持ち悪くなりつつある股間の感触をまたよいものに変えようと、興奮した杉尾は勢いよく頷いた。

 

 

「内緒でお願いしますね。あなただけに見せるんですから、特別なんですからね? それじゃあ……やっぱり裸は恥ずかしいので下着までで……ダメですか?」

 

 

「いえ、千歳ちゃん。ちょっと耳を貸して……」

 

 

 二人がこそこそ内緒話をするのもわずかの間。かあっと赤くなった千歳はもじもじとしつつも、こくんと頷いて振り返った。

 

 

 覚悟を決めた表情。思わずどきっとした杉尾は、これから始まる情事にわくわくが止まらない。

 

 

「では、二人でれずぷれい? を見せますね。お触り厳禁の代わりです。ええっと、おなにー? をしてもいいですよ。それか、五分間我慢して白いの出さなかったら、連絡先教えてあげますね、もちろん私たち二人の」

 

 

 俄然やる気が出てきた杉尾は、もちろん我慢するほうを選んだ。ぐっと扱きたい気持ちを堪え、妖艶に舌を外へと突き出した二人を、目を皿にして真っ赤に充血させながら凝視していった。

 

 

 もちろんそんなことは不可能だった。妖しく舌を絡ませ合い、うっとりと瞳を潤ませて絵里が千歳を脱がせていくと、もう堪えられない。また激しく扱き出した杉尾に二人は慄きつつ、お互いの身体をまさぐり合っていった。

 

 

「千歳ちゃん、ん、いいわね……若くて瑞々しい肌、羨ましい。ほら、すべすべ、あん」

 

 

「ふふ、絵里さんこそ美肌ってやつですよ、この前教えてもらいました。ん、はぁ、綺麗です……おっぱいも、お腹も、大事なところも……」

 

 

「やだ、言わないの、んっ」

 

 

 かぼちゃのパンツを膝まで下ろされ、引っかけられた状態の千歳はうまく身動きが取れないまま愛撫を交わしていた。かわいらしい仮装の下に隠されていたのは似つかわしくない黒レースのシースルー。そういえばガードの緩い彼女らのグループは黒い下着が多かったと、ぼんやり頭の隅に浮かべながらしかし胸尻陰部にしか目の行かない杉尾だった。

 

 

「はぁっ……」

 

 

 千歳は耳が弱いらしく、そこを責められるとそこはダメ、そこはダメと甘く連呼していた。お返しとばかりにジュエリーをくすぐられると絵里は身震いし、艶めく吐息をこぼす。二人ともの白い肌が暗がりにくっきりと浮かび上がり、扇情的な光景を醸し出していた。

 

 

 人妻の美貌が、こちらに見ないでともっと見てを訴えてくる。杉尾はその視線を受け、また興奮し通しだった。二度目の射精感が近づいてくる。いつしか男のオナニーのリズムと、レズプレイのリズムが合致しかけていた。女たちが合わせようと努力をしていたのだ。しかしいつもの主とは勝手も違い、なかなかうまくいかない。

 

 

 二人分の小ぶりなバストが柔らかく重なり合い、光る宝石以上に輝いて揺れ、ほぐれていた。互いの首筋に舌を這わせ、互いの臀部を引っぱり合って喘ぎ合うと、どこか女の香りが漂ってくる。いやらしい蜜の匂いが充満していくのだった。

 

 

 それを互いで掬い合い、互いの口に蜜に塗れた指を突っこみ舐め合えばクンニリングスのような卑猥な音楽が奏でられた。くぐもった喘ぎがそれに混ざり、びくん、びくんと二人の肢体が跳ねると、杉尾は射精した。

 

 

「五分、持ちませんでしたわね。いけない子、んっ……はぁ、はぁ。千歳ちゃん、いいわ、すごく……あん、主人のほうが、何倍もいいけれど」

 

 

「ふふ、私もです。絵里さんは素敵ですけど、大好きな人のほうがいいですね。これじゃあ多分、ほんわかいい気持ちにはなれそうもないです」

 

 

「そうよ、当たり前だわ。愛する人に愛してもらわないと……子を授かることをしないとね。ふふふ」

 

 

 頭が真っ白になる感覚を得つつの、快感の射精に杉尾はなにも考えられずにいた。幸せそうにお腹をさする絵里は妊婦だと気づかず、行為に耽っている。

 

 

 徐々に杉尾の性的嗜好は変わっていった。犯すこと、直接行為への興奮もそうだが、今彼を支配しているのは、視姦しながらのオナニーの快楽だった。これはいい、と、目も眩むほどだった。

 

 

 女二人は本当に手を出してこないことを確認して、次を選択した。絵里がまた携帯をいじり、荒く息をつく杉尾に上から声をかける。

 

 

「悪い子には連絡先は教えてあげません。けれど、私たちで興奮するというのは純粋に女として嬉しいですわ。なのでもう一度チャンスをあげますわね。もう一人呼んで、今度は三人で。時間は三分におまけしてあげますわ。いかが?」

 

 

「ぜひ」

 

 

 言葉だけで杉尾はまたむくむくと起き上がり始めていた。直視できない女はふいと目を逸らし、汗に塗れた互いの身体をハンカチで一度拭いて時間を潰していく。

 

 

 すぐにもう一人がやってきた。長い黒髪を優雅になびかせる、これまた清楚な若い女性。仮装と丸わかりのピンク色のミニスカナース服に、メイクで顔に大きく縫合の痕をつけたフランケンシュタイン風の格好。大人の気品が溢れる絵里とは違うものの、こちらもまた魅力的な女だった。挙動不審で明らかに赤面しているのもまたかわいい。

 

 

「こ、こんにちは……絵里さん、違ったりしませんか?」

 

 

「いいえ、連絡した通りよ。見てわかるでしょう」

 

 

「うう……」ちらりと杉尾を見やり、また俯くナース。豊かなEカップはあろうかという乳房を下から抱え、恥ずかしそうに唇を噛んでいる。

 

 

「三人でやるわよ。いい?」

 

 

「は、はい……」

 

 

「広子さんはしないとなんて言われてるんですか?」

 

 

 千歳と呼ばれたかぼちゃちゃんが無邪気に訊ねると、広子と呼ばれたナースは明後日を向きながらわずかに呟いた。聞こえないと言われ耳もとで囁くと、千歳はああと手を叩く。

 

 

「そうですねぇ、コンドームっていうの、着けるって言われたら悲しいですもんねぇ」

 

 

「ちょ、ちょっと千歳ちゃんっ」

 

 

「あ、ごめんなさい。ふふ。生ナカダシしてもらいたいですもんね」

 

 

「千歳ちゃんっ! わかってないでしょ、もうっ」

 

 

「こらこら、声が大きいですわ。静かにしましょう。さあ、広子さんもいらっしゃい……たったの三分よ」

 

 

 愛を奏でる二人の指先がしなやかに躍る。新たな参加者を包み込み、心地よい女同士の協奏曲を奏でていく。コスプレだからか脱がしやすいナース服はすぐにピンク色を崩し、肌色と混ざっていく。広子の下着もセクシーな黒レースのシースルーだった。ハーフカップの大きなブラジャーを転がすように手のひらで揉まれていく広子は艶めいて、せめて外からの闖入者に見られぬよう会場には背を向け、しかし杉尾には正面を向けて堪能させていた。見られたい露出狂の本能が自分で自分の肌を隠すこともせず、両腕を遊ばせてただ、されるがままにしている。

 

 

 新規の広子を重点的に責めようと、絵里と千歳は協力して若い肢体を責めていった。正直にいって千歳の愛撫はうまくはなかったが、胸を担当する彼女に揉まれて広子は呻くように喘ぎ、声を我慢して耐えていた。自分から二人にお返しとはいけない、こんな趣味を持ちながら貞淑が残っている(あるいは露出専門だろうか)。絵里は絵里でかがんで広子の秘部をまさぐり、スカートに潜り込んで舌先を転がしていた。

 

 

「あん、ずるい、絵里さんそうしていると男の人に見られてないです」

 

 

「大丈夫ですわ、先ほどお写真を購入していただきましたもの」

 

 

「わ、うわぁ、すごぉい……んっ、私、とても無理です。ホームページとか、不可能です、ああっ」

 

 

 知りたい。杉尾は扱きながら会話も逃さずにいられた。二度の射精は落ち着きと冷静さを興奮と併せ持つことを可能にし、しかし剛直の反りかえりは増す一方だった。もはや直接行為は雲の彼方へ消え、歪曲した欲望が杉尾を支配していた。

 

 

 それは口に出る。

 

 

「教えてくれ、連絡先は諦める。誰のだ?」

 

 

「……んっ」「ふう……」「……や……ん」

 

 

 三人はトライアングルで卑猥なおしくらまんじゅうを胸で作り上げていた。ジュエリーが激しく自己主張し、絵里は自分から顔を出して立ち上がり、焦がすようにバストを寄せている。その三人が目線を合わせ、どうするかを考えあぐねいているようだった。

 

 

 そこで携帯が鳴った。絵里のだ。彼女はすぐにそちらに手を伸ばし、ちろちろと舌を絡めながら応対する。

 

 

「はい、もしもし……あっ、あなた」

 

 

 驚きに染まる絵里の演技は、簡単に杉尾を騙していた。夫に隠れて情事に耽る人妻に興奮しない男はいない。レズプレイとはいえ、背徳の匂いにまた杉尾は滾っていた。

 

 

「え、ええ、今ちょっとお化粧室に……うん、そう……んっ、あ、ん……い、いえ、なんでもありませんわ……ええ……そう、そちらも、愉しんでらっしゃるのね、あん……ま、まゆを見かけたら、あんまりはしゃいじゃって怪我のないよう、注意してあげてくださいな、んんっ……」

 

 

 ねじくれた興奮がそこで発生していた。秘密は毒と蜜の味を併せ持ち、空間を湾曲していく。いけない空気が流れ、だからこそ三人の手つきはいやらしくうねり、乳首を激しく求め合いぶつかっては弾けていく。

 

 

「ご、ごめんなさいあんまり長電話は、ううっ……え? ほ、ホームページの件? ええ、はい……教えていいんですの? ええ、確かに先方さんはかなり乗り気でいらして……はい、わかりましたわ。では私もすぐに合流します。あまりハメを外しすぎませんよう、あうっ」

 

 

 絵里の膝が折れる。かくんとくずおれた彼女にしかし、千歳も広子も追従を止めなかった。杉尾にはそれが主人には秘密の情事に性感を高めているようにしか見えない。

 

 

 面を上げる絵里。顔の右半分に黒髪がかかり、揺れ惑う。いちもつを擦る手つきが激しくなる。

 

 

 絵里の乳首がぴくんと上向いた。しゃん、と、ジュエリーが嗤う。

 

 

「今のお返事でこちらもよしとしますわ。お教えいたします。ええ、主人がいけないんですの……」

 

 

「いいんですか絵里さん? 今の電話、別の普通のホームページでしょ? 絵里さんはホームページなんてあん、してないんでしょ? ほかの子のになっちゃいます」

 

 

 千歳の問いにまた身体を震わせる絵里はしかし、しっかりと首を振った。

 

 

 そのままがぶりと、広子の乳房を噛みつける。甘い喘ぎを我慢する広子の、情感が伝わってくるようだった。

 

 

「主人がいけないのよ……私より娘なんだから……ご無沙汰な毎日にもううんざりですの……ううっ」

 

 

 それは刻まれた射精回数の正の字とは矛盾するも、杉尾はまったく気づかない。絵里の演技に微笑みながら、千歳も広子も手伝った。しとどに塗れた陰唇を開いて、男に向けて披露させる。黒い樹林の向こうがひくひくと蠢き、卑猥に愛液を垂れ流していた。

 

 

 三分は長すぎた。即席麺よりも簡単にまた、杉尾は射精していた。興奮の渦の中ただ、ただ目の前の女たちが魅力的だった。

 

 

「……はぁ……はぁ……」

 

 

 どちらからともなく、場が落ち着きを取り戻す。荒い息が収まり、そそくさと衣類が肌を覆い直していく。

 

 

「我慢できませんでしたわね……悪い子には連絡先もホームページもお教えして差し上げられませんの。と、言いたいところですけれど、私たちの乱れるところを見てくださったお礼は差し上げますわ。一人だけ、お選びください。連絡先をお教えします。ホームページもおまけしますわ。見てくれるだけの良いお客様ですもの。今後ともごひいきに、うふふ」

 

 

 次がある。杉尾はまた滾る気持ちがあったが、さすがにもう限界だった。

 

 

 誰かを選べと言われ、結論はすぐだった。杉尾はすぐに絵里を指さし、また身をくねらせる。

 

 

「やん、いけない子。こんなおばさんと知り合いたいだなんて……いけないわ。言っておくけれど、プライベートとは別の、えっちな専用のほうですから、あまり連絡はつかないと思ってくださいね」

 

 

 バッグから名刺大の紙を二枚取り出して渡される。杉尾は印刷されたものをまじまじと眺め、そこに書かれた名前(恐らくは偽名だろうが)とスリーサイズ、そしてメールアドレスと電話番号を眺め、片方にはホームページのアドレスがきちんと明記されており、これが現実だと教えてくれていた。

 

 

「信じられません? なら、確かめるまでお待ちしますわ。汗も拭きませんと、はあ」

 

 

「うふふ、絵里さん綺麗でした」「ええ、とっても」

 

 

「やだもう」

 

 

 三人がまたじゃれあうように汗を拭き合っている中、ならばと携帯でホームページのアドレスを入力すると確かにアダルトホームページ、それも記載されていた名前の女がモデルだった。恐る恐る電話をかけ、メールを送るとどちらも絵里から返事が来る。目の前で楽しげな瞳が電話に出てくれたのだ。それでホームページの女のほうも確かめると、確かに繋がり、こそこそと声を潜めて答えてくれ、お礼まで言われた。

 

 

 杉尾は驚愕に次ぐ驚愕で身が持たない思いすら感じていた。しかし、これからは楽しい毎日が待っていると思うと心が躍りそうだった。何度もお礼を言い、お礼を言われ、仮装に身を包み直した彼女らと別れる。

 

 

 別れ際、またありがとうと言われ、最後にもう一度おっぱいを披露してもらい、揺らしてくれた。桃のようにたわわな果実が、柔らかく。そのままくすりと笑う三人の美女に見とれていると、杉尾は一人取り残され、現実感を失う。慌ててまたホームページにアクセスするときちんとまた繋がり、また恐る恐るメールをすると『またすぐにいけない子ね。本当よ、安心してくださいな』と返事をもらう。

 

 

 頬をつねろうかと思った杉尾だったが、それ以上に下着の感触が確かな証拠だった。気づけば全部はダメと言われたはずの写真がすべてポケットに収まっている。

 

 

 ヌードグラビアは扇情的にこちらを見つめていた。

 

 

 ……また、会いたい。会えば話もできるかもしれない。こんな女の知り合いを増やせるかも……そう杉尾が考えるのも無理からぬ話だった。

 

 

 一度男子トイレに入り、処置をしてそれからまた、杉尾は出会いを求めて会場内に戻っていった。本来の目的からは外れた、ある意味外れてはいない目的で。





 第九十八話へ    目次へ    第百話へ

 

2017/02/14 19:47 | 小説COMMENT(0)TRACKBACK(0)  TOP

コメント

コメントの投稿



管理者にだけ表示を許可する

 | BLOG TOP | 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。