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「ごめんなさい」その百四‗第百一話‗泉のバースデーネットデビュー

 こんばんは、三日月です。

 夏はホラーよりエロス! だと思うのですがみなさんいかがお過ごしでしょうか。ひとときの納涼にぜひ今回のお話を読んで涼しくなってくださいね。え? 一部分が熱くなる? 逆に考えましょう、それさえ発散できれば涼めると。これで興奮しないし熱くなんてならないよ、と言われたら悲しい・・・頑張ろう。
 お誕生日、祝っていますか? いい年をすると恥ずかしいものですが、しかしお祝い事は乗っかって存分に楽しむとよいと思っています。ハッピーバースデーと言えることはハッピーなのです。
 前回発表しておいてなんですが、いつ頃完結予定かも未定です・・・ごめんなさい。一応の目処と見通しは立ちましたが、どういう結果になるのかはまだ。がんばります。
 次回予告のコーナー! 作中でちょびっと重大発表があるかも。作品内でのことです。
 拍手コメントメール、いつも励みになっております。ありがとうございます。
 それでは第百一話です、どうぞ。






 

 百一 泉のバースデーネットデビュー

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハロウィン会場でのいけないことも終わり、ようやく憲邇(けんじ)さん宅にてみんなで落ち着いて夕食の場を囲む。幸せな時間。お客様もいて、いつもの三倍も男の人がいる空間は賑やかしい。ちょっと、その、このあとを思って心ここにあらずな子もちらほらいるけど。

 

 

 本日のハロウィンは純粋に楽しい部分も多かったから、みんなその熱気でいつもよりすごく笑顔だわ。私も看護師のお仕事から解放されるお休みをとても有意義に使えてよかったよかった。

 

 

広子(ひろこ)さんもお家に連絡なくていいですか?」

 

 

 声をかけられて、そうだと自宅に連絡を入れておく。いつも憲邇さん宅に泊まるときは誰かしら連絡を忘れるため、メイド長良子(りょうこ)さんがみんなに夕食頃に聞いて回るようになっていた。

 

 

 戻ると憲邇さんはいつも以上にばくばくむしゃむしゃ。お腹が空いていたのかたくさん食べていた。今日の献立はお菓子ばっかり見たからと、ラーメンが食べたいと言われたので豚骨ラーメンになった。もちろん人数もあるしそれだけではなくおかずも盛りだくさん、なんだけど、またそれ以外に主食でカレーライスがある。これはまゆちゃんら子供たちが、一度カレーとラーメンというごちそう(彼女らにとって)を一緒に食べてみたい、今日はお祭りだからいいでしょと迫ったものだ。なんともこれでいいのかと思うようなメニューだけど、その代わりお野菜もたっぷり食卓に並んでいるのでセーフ。セーフなの。私もたくさん食べて、いいの。

 

 

「ああーラーメンうまい! 最高! たまにはこういうご飯も食べなきゃだよ、まったく。おかわり!」

 

 

 憲邇さんが楽しそうにでっかい器を持ち上げると苦笑しながらもうれしそうに絵里(えり)さんが取ってあげてた。今日はお客様の目もあるため、やはり正妻が正妻らしくしないといけない(やっぱりちょっぴり悔しいけど)。

 

 

 そのスティーブさん、イアンさんたちはというと……

 

 

Heyリョーコ、このかりー? かれー? というのはいったいぜんたいどういうこただ? 信じれない、Unbelievable! なんてデリシャスなんだ」

 

 

「まったくだよリョーコサン、こんなおいしい食べものったらないよ。しかも家庭料理ときた。日本人はみんなこんなおいしいものを毎日食べてるっていうのか? 作れるっていうのかい?」

 

 

 と、カレーになぜか大興奮。箸を使うのは大変だろうとそっちを先に勧めたんだけど、大好評だった。

 

 

「ありがとうございます。これは普通の家庭料理ですよ。ルー使えば誰でも作れます。日本ならどの家庭でもよく作られてます。どのお家訪ねても作ったことはあるって言いますよ。簡単でとってもおいしいですから」

 

 

 お館様相手ならふんと(大きな)胸を反らせて自慢する良子さんもお客様相手には普通に接してる(当たり前か)。

 

 

Oh my God……」外国の人って本当にああ言うんだ。「しかし、しかしだ。この料理は、カレーは世界を救えるよ。これで紛争はなくなる」

 

 

 大真面目な顔でイアンさんは続けた。

 

 

「この料理はみんなを笑顔にできる。こんなにおいしいものが食べられるなら、毎日が幸せだ。誰と争う必要もない、特に食料ではね。ボクの故郷ではこんなに温かく、おいしいものはとんでもないごちそうなんだ。冷たくて固い食べ物を食べざるを得ないときも多いからね。これが難しい料理ならともかく、簡単なんだろう? こんな、こんな神の作ったようなおいしい料理が、誰でも簡単に作れるなら多くの問題は解決する。そうだろう、サエコ?」

 

 

「あら、材料はどうするの? 作るのは簡単でも、材料が高かったり手に入らなかったら意味ないじゃない」

 

 

 紗絵子さんちょっぴり意地悪そうに言ってる。お客さんたちと以前からの知り合いだって言うけど、からかってるのかな。

 

 

「なんてこった、そうだ、そのとおりだ。リョーコサン、これは作るのは高いのか?」

 

 

「いいえ、紗絵子様も変なこと言わないでください。家族四人分のが128円……えっと、アメリカのドルでわずか1ドル20セントくらいです。安いですよ、とっても。だから家庭料理なんです。主婦の味方なんです。あ、お野菜とかは別ですけど」

 

 

1ドル これが? たったの? ……God existed……

 

 

 スティーブさんは盛大に驚いていた。外国の人だからかすごく大仰みたい。

 

 

「大げさよう。スティーブは何度も観光に来てたんでしょう? カレーくらい知らなかったの?」

 

 

 パティちゃんにあーんしながら紗絵子さんが笑う。

 

 

「噂を聞いていたがまだ食べてことになかったんだ。しかしおいしい……帰国しても食べたいよ、我が国のアジアンマーケットにあるだろうか。あそこのはどれも高いんだ」

 

 

「ああそうか。私適当なこと言ったけど、カレーの安さって日本の流通でのことだものね。外国だとまた違うのかしら。イアンの母国で流行らせるのには大変なのかも」

 

 

「サエコ、日本は先進国だ、間違いなくね。流通のよさはボクの国とは比べものにならない。ここで1ドル程度でも、向こうでその境地に達するにはどれだけかかるか……経費も、時間もね。ただ、このカレーにはその価値があるよ! 間違いなくね! おいしい!」

 

 

 いい食べっぷりをするイアンさんだった。可奈(かな)ちゃんといい勝負かも。

 

 

「よかったです。今日は私もお手伝いしましたから。えっと、イアンさん、スティーブさんたちから見て、日本のお料理で珍しいのとか、興味深い、あーえっと、おいしそうなのってありますか?」

 

 

 千歳(ちとせ)ちゃんが興味津々で聞いている。

 

 

「もちろんさ! 自分は観光でも仕事でもこの国にはよく来るのだ。そうだなぁ……そうだ! なんといってもスシ! スシだよ! これを勝るものはなしね。はじめは生魚なんて、と思ったけど、騙されたと思う食べる、なんておいしいのだ、と! 母国でも流行り出してるんだ。ただし、まだ食べられたものじゃあなし。はっきりいって本場日本とは比べものになるない」

 

 

「へぇ……」

 

 

「甘いなスティーブ、ボクはなんといってもこのサエコのベントーさ! ふふん、あげないよ」

 

 

「まだ一口も手をつけない、っていうかまだ開けてすらないじゃない」

 

 

 イアンさんは得意げに紗絵子さんお手製のお弁当箱を持ち上げたけど、せがまれて泣く泣く作ったという作成者の呆れ声での指摘通り、まだ封を成されたままだった(ちなみにスティーブさんにも作ったし、そっちもまだ開けてもいない)。

 

 

「当たり前だよ、最後に大事に食べるんだ。なんていったかな、日本語で、Ah……もったいない、だ」

 

 

「そんな大層なものじゃあないわよ。まったくもう。なんなら帰国するときにも持たせようかしら? 機内食の代わりに食べるのも乙かもしれないわよ? 器は返さないでいいから」

 

 

What’s」「ナンダッテ

 

 

 二人して身を乗り出してしまう。本当にリアクションが大げさ。どうどう。

 

 

「本当か、サエコ?」

 

 

「いいわよ別に、そのくらい。せっかく来たんだし、おみやげは多い方がいいでしょう?」

 

 

Wow……Oh……」二人して呻き出した。大の大人が。ともすれば憲邇さんよりでっかいのに。

 

 

「さ、サエコ、そこまでしてもらってなんだが、で、できたら機内でなく、帰国して家で食べられるようには、できないか? 一日くらい、日本の技術力なら持たせることはできないだろうか……」

 

 

「日帰りでも難しいわねぇ……一日置いて、か。かかるの?」

 

 

「直行便がないからね。丸一日、二十四時間は絶対にかかってしまうんだ……なんとかならないか?」

 

 

「うぅん……どうしても多分無理ねぇ。お弁当ってほとんど生モノみたいなものなのよ。ほかほかのご飯はそんなに置いておくと固くなっちゃって食べれたものじゃあないわ。生卵だってすぐ食べないと痛んじゃうでしょう? 絶対にお腹壊しちゃう。無理ねぇ、残念だけど。機内で食べなさいな、それでいいじゃない」

 

 

「そうか……残念だよ……いや、帰国して食べたいというのは、向こうの家族に見せてあげたいし、食べさせてもやりたかったんだ」

 

 

 残念そうに言うイアンさんに紗絵子さんもちょっとだけ顔を曇らせたけど、すぐに明るく振る舞った。

 

 

「なら今度そっちへ行くわ、私。ちょうど海外旅行もしたかったしね。もう海外支援は参加しないつもりだけど、また機会があったら絶対行くわ、イアンの国にね」

 

 

「本当かい? それは楽しみだ。ああ、楽しみだ! ありがとう!」

 

 

「いいえ。それまではそうね、写真とかで我慢してもらえるかしら。なんならほら、今だとインターネット使ってテレビでその、お互いを見て喋ってとか、できるんでしょ? イアンの国でもできないかしら」

 

 

「もちろん写真は撮るさ。ネットもそろそろ繋ごうと思ってるんだ、ぜひ頼みたいね。ああそうだ忘れるところだった。アドレスを交換しようサエコ」

 

 

 携帯電話を取り出してアドレスを交換しておく。スティーブさんも。その紗絵子さんを通じて憲邇さんたちにもイアンさんたちのアドレスが登録された(私も初外国人だわ)。

 

 

「ん? イアン・カーマ? んー……どこかで聞いた名前だな」

 

 

 憲邇さんがそのフルネームを見てラーメンをすする手を止めた。「えーっと、どこかの国の大統領じゃあなかったかな」

 

 

「ああ、ボクは南アフリカ出身だが、隣国のボツワナの大統領と同姓同名とも言えるんだ。正確には向こうはセレツェ・カーマ・イアン・カーマだから違うんだがね」

 

 

「へぇ……同じ苗字なら同じ一族って印象が勝手だけどアフリカにはあるんですが、違うのですか?」

 

 

「ああまったく違う、ただの偶然の一致さ」

 

 

 南アフリカかぁ……あそこ、だよね。うぅん、複雑そう(ボツワナは申しわけないけどまったく知らないわ)。

 

 

「南アフリカってどんな国なの?」まゆちゃんがラーメンとカレーを交互に食べながら聞く。

 

 

「そうだナァ……大きな国さ、アフリカのうちじゃね。良くも悪くも、だが。ボクは見ての通りブラックだが、南アフリカじゃあ相当に恵まれたほうなんだ、これでもね。サエコの治療を受けられた、とはまた別の意味で、だ。それだけ、言いたくはないが未だに例の政策の影響は強い。オット、これはリトル・レディにはちょっと早かったかな」

 

 

 さすがにまゆちゃんはじめ、ちびっ子たちはちんぷんかんぷんみたいだった。説明も大変なので、みんなには大人になったらわかるよとだけ言っておく。

 

 

「驚いたわ、正直、ね。私の見聞の狭さも見せつけられたものよ。あんな、失礼だけどイアンの当時の集落に行って、あそこはまだ全然裕福なほうだ、って。だから支援にもまだ行ける、南アにはそもそも、当時の私たちのメンバーが所属した団体程度では支援のしようもないほどひどいところも多い、って、現地の人から聞くと戦慄したわ。危険だからっていうのもあるけどね、私たちアジア人のような黄色人種は、その、まだ平気だけど、特に日本人は」

 

 

「悲しいがボクたちブラックの、そういった更なる貧困層の地域に入って行って無事に帰ってこられるノンブラックはほぼ存在しないのが現状だろう。唯一、日本人ならわずかな希望があるが、それも美しいサエコのような女性は逆に危険すぎる。当時別の危ないところへ行こうとしていたガイドを無視したサエコたちの団体を止めるのには苦労したよ」

 

 

「へぇ……やっぱり大変なんですね。私は授業で聞いた程度の知識しかないですから」

 

 

 ちょっと雰囲気が暗くなったので、私は別のほうへ水を向けた。

 

 

「それで、紗絵子さんはそっちでなにをやってたんですか? 大活躍だったんでしょ?」

 

 

「あああちょっとやめてやめて」

 

 

「そうさ!」またがたんと立ち上がるイアンさん。

 

 

「まずボクたちの村には医者がいなかった、ドクター不在さ。ケガをしたり病気をしたら何十キロも離れた都会へ行かなくちゃあいけない。みんなちょっとしたケガ、風邪にさえどうしていいかもわからず、なにもできなかった。呪い師がいたが、まったくわからない病気で亡くなって以後、村は病気になったらおしまいだ、という雰囲気に包まれてしまった」

 

 

「まじないし? え、病気を治すのにまじないってことは、占いとかで治そうとしてるんですか?」

 

 

 きょとんとする静香ちゃんにイアンさんは大真面目に頷いた。

 

 

「はっきり言うが、アフリカ諸国の田舎へ向かえば呪術師が未だに強い権力を持っている。これは本当だ。呪いで病気は治ると多くの民は未だに、本当に、信じている。エイズすら儀式で治ると信じ込んでいる人のほうが多い。これも悲しい現状だ。ボクもサエコたちが来るまではそうだった」

 

 

「……」

 

 

 憲邇さんと絵里さん、春花さんと柚香里さん、そして当の紗絵子さん以外のみんなが、絶句してしまった。日本にいると知らない、信じられないことだった。

 

 

「そのために多くの命が失われてしまった。ボクたちの村も不安に襲われていた頃、サエコたち日本人がやってきたんだ。正直、スティーブはホワイトだ、通訳とはいえ疑惑に駆られたが、それも誠意ある日本人たちによって払拭された」

 

 

 熱弁を振るうイアンさん。本当に日本語が堪能で、すごく勉強したのが伝わってくる。思わず襟を正した子もいた。

 

 

「ボクたちの現状を調べて、聞いて、同じような村々を回っていると、熱心に説明し、受け入れてほしいと訴えてきたんだ。自分たちの目的は医療の整っていないところへ、医療の手を届けること、最終的には現地に医者を作り上げることだと言っていた。そのためにみんなにケガの治療方法、風邪など病気の基本的な対処法を教えて回っている、と。そこで治療法を学び、医者のいない村に医者を目指す人が出てきてほしい、少なくとも、医者の代わりができるくらいまでは教えたいと、言ってくれたんだ。それも無償でだ、金は要らないと。リーダーの人は堂々と言ったよ、自己満足だからやらせてくれ、ってね。所詮自己満足で、根本の解決にはならない、なっていない、けれどもなにもしないでいるにはいられない、だから行動を起こした、自分のためだ、でも迷惑はかけないから、お願いだから受け入れてほしい、と、深く深く、頭を下げたんだ……今でも覚えているよ」

 

 

 当時を思い出すのか、スティーブさんもうんうん頷いていた。

 

 

「そこからだよ。奇跡のような日々だった。最初はみんな半信半疑さ、信じられなかった。でもお金が要らないのなら治療を受けるだけ受けてみようって話し合って、ひとまず転んだくらいの軽いケガから頼んでみたんだ。みんなでそこでじっとどうするのか見たよ、村中の人がいたと思う。そこで、Angelサエコが治療してくれたんだ」

 

 

「やめてって言ってるでしょう! せめて、その恥ずかしい呼び名いい加減やめてちょうだい!」

 

 

 紗絵子さんが珍しくまっかっかでぱんぱんイアンさんの背中を叩いちゃってるけど、当の本人はしれっと平然と続けた。

 

 

「こんなに若い子供がよくこんな遠くへお手伝いに来たな、と思っていたがまさか治療してくれる側の人だとは誰も思っていなかったんだ。同時に日本という国はこうも進んでいるのか、これだけの若さで医学を修めることができているのかとね。もちろん腕も確かだった。看護婦歴でいえばもう十年以上と聞いて衝撃だったよ、今でも実年齢は信じられないがね。とにかく丁寧で、痛みを抑えてくれ、柔らかい物腰で大丈夫だと、安心していいと励ましてくれながら治療をしてくれたんだ。いや、確かに本格的な医者としての治療はサエコの手ではなかったよ、そっちの本職がいたさ。しかしその補佐できびきびとよく動き、笑顔を振りまいてみんなに元気をくれた。これに勝るものはない。子供の治療は特に優しくて、痛いのをよく我慢したね、偉いねと撫でながら微笑みかけてくれたんだ。みな口々に言ったよ、あれが天使なのだと」

 

 

 きらきらと目を輝かせて言うイアンさんとそれに同調するスティーブさんに比べ、当の紗絵子さんはげっそりとしだし小声で「部屋に戻っていいかしら」と逃げようとしたけど、愛娘二人(三人かしら)がいてとせがむので泣く泣くその場に座り続けてくれた。

 

 

「手術のときの凛々しさ、激しさもよく覚えている。優しいだけでは救えない命もあると教えてくれた。正しい知識を身に着けることが大事だと、正しい知識とそれを正しく使えることが大事だと。困ったら医者に頼れ、放っておくな、知らずに適当なことをするな。こうなったらこうするんだ、それはなぜならこうだから、よく見ていなさい……みなで聞き入り、見入ったよ。呪いでは救えない、儀式で人は助からないとそこでみんながようやく理解したんだ。だってサエコたちの言う通りしたら、どんな病気もケガも治ったからね」

 

 

 どんなとはきっと言い過ぎだろうけれど、イアンさんたちの思いとしてはそれでまったく正しいのでしょうね。わかります。なんだか看護師になったばかりの頃を思い出すなぁ。こんな患者さん、いたかも。

 

 

「ボク自身もサエコの治療を受けたんだ。配管工の仕事は都会でがほとんどだ。狭いところでの仕事ばかり、さらにそのときは真夏で、熱くて疲れ切っていたボクは、難しい仕事をなんとかこなしたが、その直後緊張が抜けて、日陰で休もうと焦って低い段差で足を挫いた。情けない話だが打ちどころも悪く骨折してしまってね。とても痛かったよ。幸い仕事は終わりだったからすぐに医者に行けばよかったんだが、そこでボクはサエコたち日本人の医者を思い出した。彼らは治療費は要らないという。そう、ボクは遠い都会から村へわざわざ戻って治療を受けようとしたんだ、お金惜しさにね」

 

 

「さすがに徒歩でに来なかったがね。びっくる驚いたよ」スティーブさんが続きを引き取った。「実はイアンだけじゃあなく、町の医者はお金のかかるからサエコたちに頼んだ、っていう人は多かかったのだ」

 

 

 どこの国にも同じような人はいるんだなぁ。私も似たような人に会ったことあるけど(相良(さがら)先生思いっきりげんこつしてたっけ)。

 

 

「ドクターはかんかんさ。さらにケガしたらどうすると怒鳴られたよ。ボクは少々ムッとしてね。なにしろ貧困の度合いがまったく違う。日本人は見る限り、食べるものに困ったことなんてないように見えた。ボクの貧しさがわかるわけないとケンカしてしまってね。……そこでサエコに、ゆっくりと、そして優しく諭されたんだ」

 

 

「ほんとはビンタしてやろうと思ったけどね。イアン筋骨逞しいのと、背が高すぎてね」

 

 

 茶化すように言う紗絵子さん。

 

 

「いや、それくらいされてもよかったよ。とにかく、言ってくれたね。今でも覚えている。ありがとう。サエコはボクに同調してくれた。貧困の辛さは自分もわかる、同じ気持ちになったことや、お金惜しさにボクのように医者に行くのを我慢したこともある。けれど、けれどね、自分を大事にできない人はなにも大事にできないと、言ってくれたね。イアン、あなたは家族の稼ぎ頭で、家族のために稼ぎのいい、けれどきつい配管工になったのでしょう。わざわざ車で何時間もかかる都会まで毎日往復をして、家族の笑顔のために身を粉にして働いている。家族が大事なんでしょう、と。そうだ、そうだともと、ボクは鼻息荒く答えたよ。サエコはね、だったら、自分のことも大事にしてやりなさい、自分を大事にできないのは、家族を大事にできないのと同じだわ。なぜならあなたが倒れたら家族が、みんなが困り、悲しむのよ……落ち着いた声だったが、とても力強かった。日本を学んで知った、『言霊』というのが宿っていたよ」

 

 

 みんな聞き入ってしまうほど、その情景が目に浮かぶようだった。紗絵子さんだから言えたこと。紗絵子さんだから、芯を打ったということ。

 

 

「直後にやってきた家族の心配でたまらない顔を見て、ボクは自分のミスを悟ったよ。同時に、大丈夫かと不安そうに言ってくる家族が、とても愛しくなった。目が覚めた心地だったよ……『自分を大事にできない人は、なにも大事にできない』。サエコ。ボクは今、日本語でサエコの言葉の意味をわかり、日本語でサエコと同じ言葉を言えることに喜びを感じるよ」

 

 

「私のは受け売りよ、安い言葉だわ」

 

 

 そんなはずはなかった。さっきのイアンさんの言葉は、紗絵子さんが自分を大事にしてこなかった結果、家族を大事にできなかった悔恨の念が滲む、痛切な言葉だと思う。紗絵子さんからアルバムを眺めながら語られた過去を聞いた人はみな、神妙な面持ちで紗絵子さんを見てしまっていた。

 

 

「だがサエコが言った言葉だ。受け売りでも、それでいいんだ。受け売りだろうがなんだろうが今、ボクの言葉になった。イアン・カーマの言葉になったんだ。実を持ったんだよ」

 

 

「……本当、日本語が上手になったわねぇ。うまい言い回しまで使えるようになっちゃって」

 

 

 照れてる。ふふふ。

 

 

「そこからサエコたちにもっと興味を持つようになったんだ。サエコを好きになったよ、純粋にね。村のみんなも同じ気持ちだった。サエコたちは本当によくしてくれた。サエコは特に優しかった。彼ら日本人たちの助力で、ボクたちの村ではひとまずの応急処置は誰もができるようになった。ボクのように医者を目指す人も出てきたよ、子供の中にだってね」

 

 

「まあ、それは素敵ね。応援するわ。あなたも、村の子も、みんなね」

 

 

 そっとイアンさんの大きな手を、両手で包み込む紗絵子さん。なんとイアンさんは感極まって泣いてしまった。大の男が、そう、あんなにも大きな、男の人が。

 

 

「ありがとう……嬉しいよ……」

 

 

「泣かない泣かない、あなたたちはいつも大げさよう」

 

 

「すまない……年をとったかな、ボクも。ハハハ」

 

 

 夕食の場がとても和やかな雰囲気に包まれる。スティーブさんがわざと陽気に、「ではそろそろサエコのベントーと食べるわよ、イアン」肩を叩きながら言う。

 

 

「ああ、そうだね。あのときも食べたかったよ。みんなはひどいやつだ、ボクの分を残すと言って一切合切食べてしまった」

 

 

「サランのとこの子がねぇ、ちょびっと食べすぎちゃったのよねぇ。元気にしてるかしら」

 

 

「あいつは今大学で必死に勉強をしているよ。子供たちはお陰で、多くが学校に通えてる。サエコたちが勉強も見てくれたし、いろんなことも教えてくれたお陰だ」

 

 

「そっちは私の管轄じゃあなくって、三菱(みつびし)さんのお陰ねぇ」

 

 

 ぱかっと開けられたお弁当箱はなんとキャラ弁だった。外国人二人はまた大仰に驚きの声をあげてる。イアンさんのほうはポケモンで、スティーブさんのほうは、つま先立ちでポーズを、あああれだ、マイケルジャクソンだ。二人ともこぞって写真を撮ってる。

 

 

Wonderful! Awesome!」「Cool!

 

 

 何度もぐっと親指を立てて絶賛する二人につられ、みんなでお弁当箱を覗き込む。まゆちゃんが「うちのお母さんよりかっくいーね。こい、あたしも作れるかなぁ」としげしげと見ては感嘆してる。

 

 

「サエコ、日本では学生の昼食がこういったベントーが多いと聞くが、本当か? 本当に子供たちはこんな素晴らしいものを毎日食べてるっていうのかい?」

 

 

「これは手間がかかるほうだから、みんながみんなこうではないわ。けれどお弁当自体はごく一般的よ。ほらたとえば、ここはポケモンじゃあないでしょう? こういうのでおかずが埋められたものは普通に多いわね」

 

 

 卵焼きとミニハンバーグを指さして紗絵子さんがイアンさんに説明していた。彼は何度も首を振りつつ、ぎこちない手つきでわざわざ箸を使い(スプーンあるのに)、そっとお弁当を食べていった。

 

 

「おいしい……いや、おいしいよ、サエコ。うん、おいしい! これで作りたてじゃあないんだね。冷めてもおいしいのか……」

 

 

「これがランチだって? 日本の学生は贅沢だ! タマゴヤキが甘くてうまくて最高だ! ずるい! うちでは冷えたウインナーが精々だぞ! ずるい」

 

 

 スティーブさんが口いっぱいに頬張りながら怒ったように言う。そして二人ともがばくばくと口を動かしてものすごい勢いで平らげてしまった。

 

 

「これはおいしいねぇ。みんなが当時サエコのベントーを奪うように食べたのもわかるよ。ああ……」

 

 

 そしてしみじみと味わい、余韻に浸る。なんだか紗絵子さんの苦笑いが伝染してしまうの。

 

 

「でもちょと量が少ないね。ベントーの、箱が小さくないかい? 日本人は少食だな」

 

 

「あんたが大食いなのよスティーブ。それならラーメンもどうぞ? まだまだおかわりあるからね」

 

 

「ヘイ、いただきます……噂は聞いていたしいつか食べたいと思っていたが、やはり不思議なカラーだ……」

 

 

 これまたしげしげと豚骨ラーメンを見つめ、そして一気にぐいっとあおるようにスープを飲んでしまうスティーブさん。カッと目を見開いてまたごっくごっくと喉を鳴らしてスープばっかり飲んでしまう。かと思えば麺をフォークで(さすがに箸は使えないとスティーブさんはわかっているらしい)手間取りながらも口へ運び、また大きく目を見開いて次々と具と一緒にも食べだした。横目で見ていたイアンさんも気になっていたのか、憲邇さんのラーメンの食べ方をじっと見たあと、同じようにしてラーメンをすすり、スープを飲み、一息ついて天を仰いでいた。

 

 

「これはまるでアンブロシアだ……Oh my God……」

 

 

 さっきから連呼しすぎな気もする。けど、それだけ衝撃なんだ。ふぅん。国内旅行で私が感じる驚きとはまったく別ね。

 

 

「これは作るのは難しいのか? まさかとは思うが、これもカレーと同じで安いのか?」

 

 

「お安いですよ。なにせただのインスタントですから。ラーメンを本格的に作ろうとすると家庭では大変ですので、こういう即席麺を買ってくるのです。ええっと……五袋で大体五百円ですから、一袋百円、一人前1ドルといったところでしょうか」

 

 

1 dollars Really?」

 

 

「日本では、ですけど」

 

 

「……まったく今日は驚きの連続だ。日本の初来訪だから覚悟していたが、こんなにもカルチャーショックがあるとはね」

 

 

 イアンさんはバターになっちゃうかと思うくらい首を振っていた。

 

 

「火と水と鍋があれば作れるというのは画期的だ。日本で空腹に困る人がいない理由がわかったよ」

 

 

 いえ、それは多分違うかと……スティーブさんはラーメンをおかわりして、熱々のスープを冷まそうと必死だった(よく食べれるなぁ)。

 

 

「保存もききますから、これはそちらの国でも、どこでも普及の道はありますよ。というかもうあちこちで売られてるんじゃあないですか? 私もニュースとかでちらほら、カップラーメンとかインスタントが世界に広まって、お腹空いた人のご飯になってるって見たことあります」

 

 

「ボクの故郷の近くではまだ見たことないナァ……パッケージはあるかい? 目にしたことはあるかも、あと保存がどれだけきくかも知りたい」

 

 

「どうぞどうぞ、今持ってきますよ」

 

 

「あ、あたし持ってくる」まゆちゃんが言った。「なんかみんなめっちゃ食べるからあたしも食べたくなっちゃった。卵かけごはんたーべよっと」とたとたと駆けだしていく。

 

 

 今晩は確かに箸が進んでる子が多かった。わかりやすく、進んでいない子は憲邇さんばっかりチラ見してる。私はいつもどおり、食べすぎてむちむちも割とダーリンの好みということで、抑え過ぎず食べ過ぎずをベターな感じでごにょごにょ……

 

 

「おかーさーん、台どこー? なーい」

 

 

「え? ああ、そういえば今日の夕食準備でどかしたかしら。ちょっと待ってなさい」

 

 

 ぱたぱたと絵里さんもキッチンへ。まゆちゃんたち子供用の台のことかしら。冷蔵庫は彼女らには高いからなぁ。

 

 

 戻ってきたまゆちゃんは両手に生卵とインスタントラーメンの袋を持ってきて、ほいとイアンさんに渡してくれた。じっくりとひっくり返して観察したイアンさんはやっぱり見たことがないのかまた首を振ってる。

 

 

「このようなものは見たことないなぁ。ラーメンは、英語だとなんだい、スティーブ」

 

 

Noodleだね」

 

 

「ああ! だったら知ってるよ、いやお世話になってる。こっちではカップヌードルで有名だ。これは別のバリエーションってことだね。そうかぁ、日本のものだったのかぁ。これと同じと思い込んでしまった」

 

 

 インスタントラーメンは日本初だったかしらと思いつつ、やっぱり世界的に広まっているみたい。イアンさんの国でもよく食べられているそう。

 

 

「しかしうちとは味が段違いだ、うちのカップヌードルはこんなにおいしくないよ。保存がきくのは同じだが羨ましい」

 

 

「国でそんなに違うもんかしらねぇ。カレーだってインドのとは全然違うって言うんでしょう?」紗絵子さんが言う。

 

 

「日本のカレーはもう日本料理といっていいくらいインドとは違うって聞くね。インド人に日本でのカレーを食べさせると、おいしい! これインド料理のカレーに似てるね、って言われるくらいだしね」

 

 

 憲邇さんがむしゃむしゃと唐揚げを平らげながら言ってくれた。それくらいやはり、同じ料理でも国で違うものみたい。

 

 

「なんだって、あのカレーは元々日本料理ではないのか?」

 

 

「元はインドらしいよ。いや? 本をただせばイギリスだったかな? ラーメンだってそもそもは中国じゃあなかったかな。日本に伝来して、日本流にアレンジしていった料理は多いんだ。ピザとか、イタリアの人に言わせたら日本のはピザじゃあないって聞くね」

 

 

「ほう……それはまた興味深い食文化だ。スティーブ、君も食べてばかりいないで──おい! マユチャン! なにしてるんだ」

 

 

「へ?」

 

 

 手際よく卵かけご飯を作って醤油を垂らしたまゆちゃんが口をつけようとすると、イアンさんが慌てて止めに入った。スティーブさんもよせよせと言っていてみんなきょとんとする。

 

 

「なにって、卵かけごはんだよ? おいしいよ?」

 

 

「いやいや、生卵なんてそのまま食べたらお腹を壊すよ、サルモネラ菌というのがあってだね……」「うちの国でもそうだ、やめてほうがいいぞ」

 

 

 二人に迫られ、本当にそうなの? と絵里さんを見るまゆちゃん。絵里さんも首を傾げて、紗絵子さんを見る。紗絵子さんは一瞬呆けたように見つめ合ったけど、すぐになにか思い出したのか、苦笑いをした。

 

 

「二人とも、日本だと生卵をそのまま食べても平気なのよ。思い出したわ、賞味期限がそっちとは全然違うの。日本だと一週間もないけど、そっちだと二、三週間は平気っていうでしょ? 確か火を通す前提だからなそうね。日本だと違うのよ」

 

 

「本当かい? 怪しいなぁ、食中毒は大変だよ?」「ロッキーじゃあないんだから」

 

 

 訝しがる二人を尻目に、まゆちゃんは大丈夫と太鼓判を押されすぐにぱくぱくと食べていった。疑心に満ちた二人においしいよ、とお茶碗を見せつけるも二人はノー、ノー、と拒絶した。不思議なものだわ。

 

 

「……はぁ……外国ってやっぱり、そんなに違うんですねぇ。私こそいっぱい驚きです」

 

 

 千歳ちゃんが相変わらず無邪気に言う。外国へよく行ったはずの(ともえ)さんもここまで細かいカルチャーギャップは経験していないのか、同じように驚いていた。

 

 

「通訳であちこち行った上に言わせてもらうなら、やはりジャパンは特別だね。世界的に見て不思議な部分は多い。特に若々しさは東洋の神秘さ。なあサエコ? 君は本当はハタチそこそだろう?」

 

 

「あらー、ありがとー。未だにそうやって言ってくれるのだけは本当嬉しいわー。違うけどねー」

 

 

 紗絵子さんがほっぺに手を当てて本当に嬉しそうに微笑む。お世辞じゃあないとわかっているからだ。

 

 

「信じられないナァ。ミス・ハルカ、あなたがサエコと一つしか年が違わないというのも、ボクたちをからかっているんじゃあないのかい?」

 

 

「いいえ。私は正真正銘、もうすぐ四十路のおばさんですわ。お言葉は嬉しく思いますけれど」

 

 

 春花さんも柔和に笑いながら答えてくれた。

 

 

 今日のハロウィンコスプレでちょっと若者のエネルギーに当てられ、落ち着こうと今はかすりのお着物に身を包んでいる。春花さんは割と普段から和装をすることもあり、着がえて出てくると外国人二人はしきりに撮影許可を希い、シャッターチャンスと(常に)連呼しながら撮りまくってた。

 

 

「ふむ……ではレディ・ユカリ、次は日本のスクールについて聞きたいんだが、いいかね?」

 

 

「え? どうして、わたしに?」

 

 

 ハロウィン中知らない人からは全員中学生扱いされたのをもう忘れたんですが。

 

 

「どうしてって、君はハイスクールガールだろう? いや、日本人は童顔だからジュニアハイスクールかい?」

 

 

「ああ……ええっとですねぇ、わたしこれでも二児の母で……」

 

 

 そこでまた何度か同じような問答が繰り返されてしまう。特に柚香里さんは童顔の極みと言ってもいいので、納得してもらうのにひどく苦労していた。初対面のあの、大人びた年相応の雰囲気を取り戻そうと最近踏ん張っているものの、愛娘二人につい引っ張られてしまうみたい。

 

 

 それからも異文化交流が続き、お互い知らないことを教え合って楽しく歓談を行っていった。二人ともしばらくは滞在するようで、せっかくなので憲邇さん宅を使ってもらうとのこと。また二人は大げさなまでに感激していた。

 

 

 その夜はハロウィンのせいで、激しくなったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 十一月六日は誕生日なのでおねだりをして、夕食はハンバーガーになりました。忙しい先生なので夕食一緒に、二人きりで食べるだけでいいですよと言ったんだけど、先生も頑固なので聞かず、またプレゼント。はぁ。でも嬉しいと思っちゃうの。ふふふ。早速イヤリングを着けさせてもらう。きらりと光る真珠のような輝きは、私にはもったいないくらい綺麗だった。

 

 

 谷津(やづ)千歳は今日で十八歳になりました。えっちなこともいろいろOKになったみたい。実感沸かないけどなぁ。赤ちゃんできたらわかるかも。

 

 

「しかし本当にハンバーガーでよかったのかい?」

 

 

「はい。一度食べてみたかったんです。おいしいですね」

 

 

「そう? ならいいけど」

 

 

 場所は夜の海。潮の匂いを感じながらお外で食べるハンバーガーとポテトは、なんだかとてもおいしく感じた。ほかほかポテトもなんだかいい匂い。ハンバーガーもちょっと食べづらいけど、なんだろう野性味溢れるっていうか、男の子のご飯って感じで新鮮。

 

 

 二人きり。なにを話すでもなく、ただそこでもぐもぐとしながら、海を眺め、星を眺め、風を感じ、お互いの温もりを感じ。それだけで、よかったの。

 

 

「あ、流れ星」

 

 

 綺麗に一筋、新体操が踊られたみたいにすっきりと流れていった。あ、お願い事。うーん短すぎるなぁ。

 

 

 ……願い、かぁ。

 

 

「ねぇ先生。私卒業したら看護師になって、先生のお手伝いするものだってばかり思ってました」

 

 

「うん」

 

 

「でも最近、桜園の子らとか、特にみゆちゃんを見ていて、思ったんです。子供たちと共にありたいって。将来に思いを寄せる、未来への願いを、叶えてあげたい、手助けしてあげたい、って。それは先生のように多くの患者さんを助けたいっていう、今までの願いと同じくらい、大切で」

 

 

 でもどちらかを、選ばないといけない。二足の草鞋を履く技量は、恐らく私にはない。

 

 

「どちらがいいと、思いますか」

 

 

「難しい質問だね、進路か……私は悩まなかったからね」

 

 

 涼やかに潮風が頬をくすぐるようになでていく。髪と裾がわずか、互いに揺れ。

 

 

「私に言えることは、きっとないよ。千歳が、自分で探して、自分で見つけなければならない問題だ。答えは、他人から預かるものではないと思う」

 

 

「やっぱり、そうですか。父も母も学校の先生も同じこと言ってました」

 

 

「そうだろう、そうとしか、言えないよ、きっと。誰も他人の道を決められないんだ。その人自身で決めるしかない。そして決めたのなら、それに反対できる人はいないんだ。親だって誰だってね。そりゃあ助言なんかはできるだろうけれど、でも、自分の行く先を決めるのは、誰にだって保障されてあるべきだ。悩みなさい。ゆっくり大学に通いながらでもいい、それくらいは時間があるよ」

 

 

「……はい」

 

 

 ざざあ、ざざあって波が寄せては返していく。潮の満ち引きのように、時間で決められたものでもない。早いこと遅いことはあるかもしれないけれど、決定を下すのは自分の意思だ。

 

 

「そうだ、せっかくだし公園で先生たちと連絡先交換した子たち、私が個人的に会ったりしてもいいですか? いろんな子供たちと出会いたいです。話を聞きたいなって」

 

 

 あとは教師なら、静香さんのお姉さん、大口(おおぐち)先生にお話聞きたいな。聞いてみよう。

 

 

「いいとも。見識を広げるのはよいことだ。世界は広いからね。たくさんのことを見て、聞いてきなさい。なにを選んでも私は応援するよ、悪いことじゃあ、なければね」

 

 

「はい。ふふ、悪いことも知りたいです。どうすれば男の人をたぶらかすことができるのか、とか」

 

 

「ははは。千歳にそんなこと学ばれたら敵う気がしないなぁ」

 

 

 そうかな、そんなことないと思うけど。

 

 

 そのまままた少し、二人はしじまと仲良しさんになる。水平線の向こうから光がやってきて、夜に漁を行う船だった。遅くにすごいなぁ、と眺めていると、ふっと寒気を感じ体が震えた。

 

 

「冷えてきたね、帰ろうか」

 

 

「はい。プレゼントありがとうございました。大事にします」

 

 

 手を繋いで車へ戻る。車中の窓から、夜の暗がりがしばらく風景を流し、やがて人の営みが作る光源へと変化していくと、なぜか先ほどの夜の海を思い出して目が離せなかった。

 

 

 暗い中にも明かりは生まれる。眩いのもいつかは黒塗りに染まる。不思議だった。

 

 

 窓に手を触れると、ぴったりとくっついた。

 

 

 すぐ傍にあるもの。目に見えずとも。

 

 

 どちらを選ぶのか、どちらを選んだら明るいか暗いのか。わからないけれど。それこそ、暗中模索かもしれないけれど。

 

 

 でも。どちらを選んでも、光を生むことはできる気が、する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 えっちもおねだりしたの。二人っきりでいちゃいちゃするの。先生独占、ふふふ。みんなもだから、誕生日の特権なの。

 

 

 そして……

 

 

「あ、あ、あ……あなた……」

 

 

「なんだい、お前」

 

 

 どきどきする。『あなた』って、呼ぶだけで胸が高鳴っちゃう。奥さんなりきり、はぁ。すごい。すごいや。

 

 

「似合います、か?」

 

 

「ああ、綺麗だよ……」

 

 

 ため息くれる、先生大好き。

 

 

 夜に先生の寝室で、奥さんになりきってえっちだ。そして、先生がみんなにプレゼントして回ってる(誕生日のとは別の)えっちな下着を着けての、らぶらぶ子作り(これはえっちっちだから誰もお小遣い使い過ぎって怒れないの)。

 

 

 下着はほぼ紐だけ。ブラとショーツなのに、ブラはおっぱいの周りを囲うように紐で結んであるだけ、ショーツは後ろも前もTバックみたいに、細い紐が通るだけ。お股に食い込んで挟まっていきそうでちょっぴしえっちに怖い。当然、上も下も丸見え。ついでに今日はガーターリングじゃあなくって、ガーターベルトとストッキング、黒。大人だ。

 

 

 ほんのわずか飾るためのフリルが上下にあり、私はスカートの裾を持ち上げるように、紐ショーツのフリルをちょんとつまんで、ご挨拶したの。

 

 

「嬉しい。恥ずかしいけど、あなたのために着たんだから」

 

 

「私のほうが嬉しいよ。君のまた別の一面が見られて。すごくぐっとくる、セクシーだ」

 

 

 目前に迫る、深い深い海の瞳。吸い込まれそうになるほど見とれると、いつの間にか唇が奪われているの。

 

 

「んっ……ちゅっ、えへ、ちゅっちゅっ……はぁ、あなた、好き……」

 

 

「私も好きだよ、千歳。お誕生日おめでとう。いっぱい仲良ししようね」

 

 

 どさっと押し倒される。弾むベッド、私の気持ち。

 

 

「ちゅっ……はぁ、はぁ……ふぁ、あ……」

 

 

 ちゅっちゅしながら大きな手のひらが紐下着をなぞる。おへその下へ向かい、ぐっと紐を掴んで、引っ張り上げる。途端にお股の割れ目に食い込んで、軽い痛みと共に心地よさを届けてきた。

 

 

 ぐい、ぐいとそれが左右に振られる。お股が引っ張られるたびに鋭い刺激が訪れ、痛いはずがどこか気持ちよく、どこか甘痒い。すっかり期待していた私は開発の末、くちゅくちゅとあっさり濡れだした。

 

 

「期待してるだろう、千歳」

 

 

「はい。いっぱいいっぱい、あなたにかわいがられたいの。奮発し、したんだからっ」

 

 

「ふふふ。そうだね、いっぱいかわいがってあげるよ……」

 

 

 ツンて尖がりだしたお豆さんをいじられ、ぷっくり包皮がめくられてしまう。ピンって爪弾かれると、ぞくぞくって一気に気持ちいいのがお股から頭の先まで突き抜けていく。私はとろとろと大袈裟に濡れだした。愛液がたっぷりと溢れ出し、期待にお股がひくひくと動き出す。

 

 

 続けてお口からお耳をはむはむされちゃう。私は「ダメ、そこダメ」と精一杯の抵抗をするのに、いじわる先生はダメなところばっかり舐めてくるの。軽くくにって噛まれちゃうとぞくぞくぞくって気持ちよくって、あわあわしちゃう。

 

 

「ふぁぁ……あん、あなた……あなたによくされちゃったところ、そんなにいじって、変な顔させて……あ、あなたの、せいよ」

 

 

 む、難しい。絵里さんのまねっこ、大変だ。

 

 

「いいじゃないか、喘ぐお前の顔が見たいんだ。見せてくれ」

 

 

「ふぁっ」

 

 

 今度は丸出しのおっぱいをぺろぺろされちゃうの。えっちに最適な下着はすぐに先生からいたずらを受け、胸のつま先周辺をちろちろと舐め回され、じれったく思うとかぷってとんがりを咥えられる。そのままじゅぷじゅぷ舐めて吸われ、カリッとかじられると全身が震えた。またとろおって、おつゆがたらたらする。

 

 

 同時にずるって指先が紐ごといけないところへ侵入してきた。くにくにあそこを弄りまわし、具合を確かめるようにあちこちを弄んですぐに外出する。真ん前にかざされたてらてらとぬめる指先が、自分を通過してきたとはいやらしくて思えなかった。

 

 

「舐めてみる? お前の味だよ」

 

 

「い、いい……そ、それより、私、あなたと一緒にイキたいわ。このままだと……」

 

 

 自分だけがよくなってしまう。それは嫌だと、そっぽを向きながら言うと先生はにんまり。わかってるよと紐をずらされた。

 

 

 ぱっくりと開かれたあそこ、なんだかむわってしてる。いやらしい、自分の、女性器……

 

 

 亀頭(と教えてもらった)がその女の唇を上辺だけ、つるつると滑る。焦らすように、愛液と男性器のおつゆとを馴染ませながら。

 

 

 わかって、いるの。

 

 

「挿れて、あなたのおっきいおち○ぽ、私のおま○こに。私を孕ませて、赤ちゃんちょうだい?」

 

 

 それだけでいいの。今日はらぶらぶえっちなんだから。

 

 

 ずぷって嬉しそうに先生がこじ開けてくる。すんなりと奥まで到達するともう形が先生のものと等しくなったため、ただただ気持ちいい。大歓迎、してる。自分でも一つになりたいって、絡みついてまとわりついているの、わかる。

 

 

「あっ、あっ……ふぁっ、あん、あなたっ……好きっ、えへ、好き好き大好きっ、愛してるっ、ふぁぁっ」

 

 

 じゅぷじゅぷってすぐにお互いの愛液であそこは泡立っちゃう。お互いの陰毛と下着の紐とが絡まり合い、それらが時折お豆さんをくすぐるからいけない官能が頭を灼いちゃう。先生に教え込まれた、性的な知識が自分の状態をより把握してしまい、より昂らせてくれていた。

 

 

「私も大好きだよ、愛してる、千歳っ。今日のお前に大興奮だ、一回や二回じゃあ収まらないぞっ。そのたびに正の字刻んでやるっ」

 

 

「はい、はいっ。刻んで、えっちした証拠、刻んでっ。あなたに愛された記録、いっぱいとりたいわっ」

 

 

「千歳!」

 

 

「あなた!」

 

 

 ぐるぐる先生の背中に両脚が絡みついていた。いつでもいい準備をしながら、私の女性器はぎゅっと締まり続けている。先生の雁が襞を掻き分け進み、壁をいじめながら戻るたびに頭がぐらぐらするほど気持ちよくって、じゅっぷじゅぷ濡れ放題だ。ぱちゅんぱちゅんって先生の男性器袋が打ちつけられるのもよくなってしまう。ぎゅんぎゅん強い性感が押し寄せてときどき目がちかちかする。なにかが光って、オーガズムの頂へ登りつめようとしているの。

 

 

 お互いの息遣いが合う。夢中でキスをする。ねっとりと唇が濡れる。おっぱいが震えてとんがりを主張する。絡まり合うお互いの性器はもう一つの生き物のよう。そんな別の生き物がお腹で暴れて、私を狂わせるの。

 

 

 もう、イクって。

 

 

 教えてもらったの。イクときは、イクって思いっきり叫んだほうが気持ちいい、って。

 

 

「あなた、あなたっ」

 

 

射精()すぞ千歳っ、ほらっ、孕めっ」

 

 

「ふぁぁ♥ あん♥ 気持ちいい♥ イク♥ いっぱいイクっ♥ イク、イク、あんイク♥ えへ♥ あなた♥ 気持ちい……っ♥」

 

 

 どっくん、どっくん、射精はながぁく続いた。しあわせ……

 

 

 ずっと唇が重なり続け、両脚が絡められたままの生ナカダシ。二人ともとっても気持ちよくなって、らぶらぶえっち大成功なの。

 

 

 ごぽお、って抜けちゃうとやっぱりもったいない。ダマになった精液がベッドを汚しちゃう。こんなに……嬉しいなぁ。

 

 

「はぁ……あなた……素敵でした……」

 

 

「お前こそ、最高だったよ」

 

 

 火照りと気怠さに包まれる間もなく、先生はぐっきりさん。むくむくと湧き出てきた情欲に衝き動かされ、びりびりとストッキングを破いた。

 

 

「やっぱり、これはセクシーだ。いいぞ千歳。もう一回、いいよな? まずは一画……」

 

 

 正の字が刻まれ始める。私はお嫁さんとして、旦那様に奉仕したの。

 

 

 対面座位でがっしり足を絡めてまたちゅっちゅしながらどくどく生ナカダシされ着床を願い。

 

 

 疲れる前に騎乗位で腰を振らされ、自分のリズムで気持ちよく、かつずしんと体重をかけ奥深くまで突き刺さる男性器に酔わされ、うっとりと愛を囁きながら生ナカダシされ受精を祈り。

 

 

 犬さんみたいに四つんばいを後ろからぱんぱんされてぐっしりとつかまれたお尻は痕ができるくらい、強く抽送してもらって生ナカダシされ子種汁をたっぷりと受け取り。

 

 

「イクぅ! あなた、イク、またイッちゃう! ふぁぁぁ♥」

 

 

 何回も何回も気持ちよさのあまり、叫びながら。私はオーガズムの波に何度もさらわれちゃいました。

 

 

 へとへとになって横になり、ようやく終わったと腕枕してもらうの。うふふ。しあわせ、あん、また溢れてる、もったいない……でも動けないや。はぁ。先生すごい。

 

 

「今日はありがとうございました、先生」

 

 

「ええ、もう呼んでくれないのか?」

 

 

「も、もう、変な人なんですから、あ、あなた……」すりすり。大好き。

 

 

 二人で夜中、ベッドのシーツにくるまり、寄り添う。またなにを言うでもなく、沈黙と団欒しながらうとうとと夢心地。

 

 

 ふと、先生が思い出したように言った。

 

 

「千歳は十八か。じゃあ節目だしこれからもっとたくさんのことに挑戦してもいいかもね。えっちなことももちろんだけど、ほかにもさ」

 

 

「はい。まずは一人で牛丼屋さんに入ってみたいです」

 

 

「なるほど、それは冒険だな。ちょっと心配だぞ……」

 

 

 顎をなぞりながら言われてしまうと、自分でも少し心配になってくる。けれどやってみたいから。頑張るの。

 

 

「そうだ、せっかくだし十八禁コーナー利用しようね」

 

 

「……はぁい」

 

 

 すりすり、すりすり。先生の胸板、大好き。

 

 

 最高のお誕生日でした。プレゼントのイヤリングが、微笑んでるの。うふふ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

沢田(さわだ)さん、お誕生日おめでとう!」

 

 

 クラッカーが鳴らされ、盛大に拍手してもらう。

 

 

 二十四歳になるお誕生日、十一月十五日。職場のみんなから祝福され、受け取る花束にちょっぴりじんわりとしてしまう。

 

 

 自分の祖母が逝去したことはみんな知っている。祝わないという選択肢もあったろうけれど、元気づける意味で派手にしてくれているのがわかる。だからこそ、とってもうれしかった。広子ちゃんがお休みなのがちょっと申しわけない、あとで個人的に祝ってくれるだろうから、ここで一緒にしてくれてよかったのに。

 

 

「ありがとー。ふふっ。あたくしはしあわせものですなー」

 

 

「はいこれ、プレゼント。みんなで選んだのよー」

 

 

「わー、なんだろー」

 

 

 小さな小包を開けていいか許可をもらい、がさがさと開く。お、アロマオイルだ。

 

 

「えーあたしにこんなフェミニンなの似合うと思ってんのー?」

 

 

「最近はまってるんでしょ? たまたま買ってるところ見たの。いくつも選んでたじゃない、それに結構うっとりして商品見ててさ、あ、これはプレゼントいけるな、と」

 

 

 すまんっ。それはせんせーのやろーのお手軽簡単十五分露出調教クッキングなのだっ。すまんっ。

 

 

 でも、まあ? あたくしに所謂女子力とやらが? ないはずもなく? うれしいに決まっているのだ。へっへっへ。

 

 

「バレてはしょーがない。ありがたくいただくよ、皆の衆。本当にありがとね」

 

 

「いえいえ。沢田さんこそ愛しの深町(ふかまち)先生いなくて残念じゃあない?」

 

 

「いえ、あとで個人的にせびるつもり満々ですので平気です」というかあの宿六はいらないっつっても強引に手渡してきそう。

 

 

「あ、そう。そうだ深町先生で思い出したけど、うちの三人衆最近なにかこそこそしてるみたいだけど、あれなにか知ってる人、いる?」

 

 

 ああ、せんせーのお医者さん増やそう大作戦、相良(さがら)先生は言い出しっぺだし当たり前だけど、五十川(いそがわ)先生も参加してるのか。

 

 

「なんかいろいろ働きかけてるみたい、医師とか看護師とかの処遇改善? 賃上げとか、諸々。このままだとよくねー、なんかせななんかせな、っつって」

 

 

 あたしが言うとまたみんな勝手な噂話を始め、根も葉もないことをさも真実のように低く語り合いだした。この辺井戸端会議そのままで、こんな人って本当に職業年齢関係なくどこでもいるのねー。

 

 

 ふむ、光にかざすとなんだか綺麗よねー、アロマオイルって。ライトブルーの色合いと、ラベルも含めて、ただのビンがとっても綺麗。あのとき買ったものもこれもぜーんぶせんせーの部屋に置いてやろうかしら。

 

 

 ノーパンミニスカでお尻何度も掲げさせられたのよ、店頭で。それで平静を装いつつアロマオイル買ってきなさいだの。それくらいさせてもらいたいわ。

 

 

 ……恥ずかしかったなぁ……十五分、長いようで、短くって……はぁ……

 

 

 おっと、軽くトリップしそうだったわ。受け取ったプレゼントと花束はしっかりと持って帰りましょー。いそいそ。

 

 

「若くして医師になれるって、あれも大変革だったのにねぇ。医療に革命の波が来ているのかしら」

 

 

「ねぇ。院長先生が体調崩して入院もその影響ね、きっと」

 

 

「んじゃあたくしお仕事戻りますんで、よろしくー。ありがとー、愛しておるぞよ、皆の衆」

 

 

 噂話は尽きそうになかったので、先んじて手を打ちその場を立ち去る。

 

 

 あまりその話は、長々と聞けるものではなかった。祖母が尽力したと、せんせー越しに聞いてしまっている。また、あのおばあちゃんの笑顔が不意に浮かんでしまう。そんな、みっともない顔を見せたくはなかった。

 

 

 でも帰りにお墓参り行ってこよう。おばあちゃん、あたしまた一つ大人になれたわよ、って。

 

 

 まだまだ小娘だよ、って笑われそう。ふふ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 実際小娘である。せんせーからのお誕生日プレゼントにヘアバンドをもらい、早速着けて褒められ放題に浮かれ放題ときたもんだ。へっへっへ。

 

 

「泉は前から飾りっ気がないと思ってんだ。アロマオイルもそうだけど、もう少し物を持ったほうがいい気がしてね。喜んでくれてよかったよ」

 

 

「いえいえ、あたしこそありがとーございます。うーんどーですかね、あたくし物持ちがそもそも悪いんスよー。どーかなー」

 

 

 このヘアバンドだけは絶対に大切にするけれど。

 

 

 自分はバカなので高いところは大好きだ。今夜もせんせーに誘われ、この辺では都会のビル十階のレストランからの夜景を眺めている。高い飯をおごれと、迫っただけのことはある。ちょっとお堅い空気だけれど、雰囲気はすごくいい。もちろんディナーもおいしくいただけ、しあわせの絶頂といったところ。

 

 

「泉」

 

 

「はい?」

 

 

 食後に落ち着いた語らいでもしましょーかしらとるんるんでいると、せんせーはふと静かに語りかけてきた。

 

 

「誕生日くらい、羽を伸ばしてもいいんだよ。私に甘えてもらってもいい」

 

 

「へ? いやいや、じゅーぶん甘えてますから」

 

 

「胸なら貸すよ、場所も気にすることはない。素直になっていいんだ、君にはそれだけのことが起きた」

 

 

「なーに言って──」

 

 

 海の深さというのは、潜って見ないとわかるものじゃあない。

 

 

 瞳を推し量ると、あたしの、心の奥底を見抜いて、いいんだと穏やかに包んでくれるような、温かいものが宿っているのが、わかった。

 

 

 途端、肩が強張る。目頭が熱くなる。黒瞳がおろおろしだし、焦点が定まらない。指先が震え出し、顎が下がっていく。

 

 

「……いいんですか?」

 

 

 自分でも驚く、か細い声。頭上から降って来たテノールの雨は、あまりにもやさしかった。

 

 

 あたしは場も弁えず恥も外聞もなく、愛する男の胸へ飛び込んで、盛大に泣いた。

 

 

 喚いた。悲しさの、あまり。

 

 

 無理をして明るく振る舞って、元気に装っていたって、それは仮初めだった。

 

 

 四十九日が過ぎ、ようやく二か月。悲しみが過ぎ去ったわけなんてない。でも泣く暇もなく、明るく振る舞うほかなかった。

 

 

 だから溜まっていたんだ。せき止めていたものが、悲しいって、泣きたいって、泣いて、悲しみたいって、素直な感情が。小娘は隠しきることもできず、

 

 

 爆発した──

 

 

 

 

 

 

 

 

 すっきりしたため、これからせんせーに対してだけ、素直にいくことにした。素直に、かわいらしく、ね。

 

 

 露出を。おねだりするの。

 

 

 過激な行為に没頭すれば悲しみを忘れられる、なんてわけじゃあない。

 

 

 素直になるの。やりたいことをやるの。言いたいことを言うの。

 

 

 泣いて、一時的かもしれないけれどすっきりしたの。だから今度は、愛する男の胸に抱かれている、充実感を得たいの。

 

 

 ……露出行為が、恐らく、多分、ちょびっとだけ、ほんとほんのわずかだけ、好き、だから。自分からは決してできないし命令されたときはすごくすごく嫌な感じだけれど、好きは好きだから。多分、絶対多分だけど。確定してないけど、そんな柚香里さんみたいな、違う違う。

 

 

 じゃあ今日はせっかくだしちょっと趣向を変えよう──そう告げてくれたせんせーの瞳が妖しく光ってくれ、あたしはぞくぞくした。

 

 

 いじめられ、たい。愛されている実感が強烈に湧き上がるから。

 

 

 せんせーの運転する車は都会を走り、少し入り組んだところに入っていった。車中で着替えさせられ、裸にコート一枚にしてもらう。

 

 

 コインパーキングに停まった車から出て五分。歩く先はどう見てもいかがわしい、アダルトなショップの雰囲気。ここで脱がされるんだわと、期待に胸が躍る……いえ、その、せんせーのほうがね? あたくしじゃあないんですからね?

 

 

 素直になると言ってもなりきれない部分もある。自分から淫売とはやはり認めたくない。そうなのだ。露出はあたくし、好きなのだ。でも認めたらおしまいな気がする。女として……

 

 

 地下へ続く階段を下り、オープンもクローズもわからない目印なしの扉を開けたせんせー。

 

 

 お店はアダルトのグッズショップのよう、だった。店内にずらり陳列された大人のおもちゃの数々は、見たことがあるものもあればないもののほうがやはり多い。いやらしい衣装も数多く並び、よくわからないいったいなにに使うかという、大袈裟な機械もあった。ほかにお客は見当たらなくほっとする。

 

 

 出迎えたのは品のよさそうな紳士だった。およそこんなお店に似つかわしくないほど柔和な微笑みを湛えている。おひげがよく似合ってた。

 

 

「いらっしゃいませ。おや深町の旦那様ではありませんか、毎度ごひいきくださり誠にありがとうございます」

 

 

 どうやら常連さんのようだった。というかきっとここであたしらへのおもちゃを買ってるのね。

 

 

「そちらのお連れ様は?」

 

 

「以前話していた愛奴です。泉、ご挨拶なさい」

 

 

「……はい」

 

 

 わかった。あたしはここで愛奴としてお披露目されるのだ。見知らぬ店員に愛奴として紹介される、その意味くらいあたしにだってわかる。

 

 

 ふわっとコートの前をはだけた。金色銀色桃色吐息、じゃあないけど、あたしらしくもない艶めいた吐息とともに肌色が晒される。フルヌードの全身は恥ずかしいと震えるも、ニップルは、そしてヴァギナは正直者だった。

 

 

「はじめまして、深町憲邇ご主人様の愛奴四号、泉です。今夜はよろしくお願いしますわ」へへ、絵里さんのやろーのものまね。

 

 

「これはこれはご丁寧に。船木(ふなき)と申します。以後よしなに。愛奴の皆様につきましては深町の旦那様からようくお聞きしておりますよ」

 

 

 なんというか意外というか拍子抜けの、まったくいやらしくない微笑ましく見守る視線で全裸を見られていた。なんだかくすぐったく、なんだかじれったい。

 

 

「今夜はどのようなご用件で?」

 

 

「こいつの誕生日なんですよ。プレゼントをと思いまして」

 

 

「それはそれはおめでとうございます。首輪はもうお買いになられましたから、ハーネスはいかがでしょう? 最近新作が入りまして身体への負担がずいぶん減りました」

 

 

「ふむ。そちらもいいですね。ああでも、泉が強姦魔に襲われる危険性もありますから、貞操帯がまずはいいかなぁ」

 

 

「ああ、深町様の愛奴はご主人様一途でしたな。なるほど、貞操帯はこちらです」

 

 

 いやもーなんてーか、すごいわ。あたくしの知らない世界。なぜだか体温がぐんぐん上がっちゃって、よくわからない会話なのに卑猥にしか聞こえない。

 

 

 まるで自分を、愛玩具としてしか見ていないような、会話。

 

 

 ぞくぞくする。濡れてきた……

 

 

 試着室でなどさせてもらえるはずもなく(そもそもないのかも)、紳士の目の前で貞操帯を試着させられる。かっちりと嵌まる金属に包まれ、冷気に身が引き締まる思い。なのにアンダーヘア―がはみ出ていて、いっそう卑猥さを加速させていた。

 

 

「よくお似合いですよ」

 

 

 まるでドレスの試着をほめられているような温かい言葉だけに、ものすごいギャップに羞恥がひどかった。たらたら、太ももが乾かない。

 

 

「うん、これなら安心かな。ひとまずこれ一つ、あとは……そうだな、泉はほしいのはあるかい?」

 

 

 貞操帯は着けたまま帰宅することになるようで、そのままにされた。質問にどう答えようと思っているとふと、ハロウィンでの絵里さんが思い浮かべられる。

 

 

「……ね、ネックレス、あの、おっぱいに繋がる、あの」

 

 

「ニップルネックレスでございますね、こちらです」

 

 

 すぐに老紳士は理解し、案内してくれにんまりと笑うせんせーもついていく。その三歩後ろをとことこ続きながら、あたしは興奮が収まらなかった。

 

 

「ご主人様、コートを脱いでしまってもよろしいでしょうか」

 

 

「店内だけだよ、はしたない。外に出るときは着なさい、まったくだらしのない」

 

 

「はい、すみません」いつになくしおらしいあたしはあたしでないようで、きっちりと沢田泉だった。

 

 

 邪魔なコートを脱ぎ、脇に抱える。全裸に貞操帯と靴(とヘアバンド)だけの淫売が店内を闊歩する。爽快な解放感とともに、大きな羞恥が押し寄せてきた。ああ、誰かほかに来たらどうしよう……あん、やだ、妄想で感じちゃう、あたしったらどうしちゃったのかしら、これも素直になったためかしら……

 

 

 もじもじとお尻を振りながら、いくつかのニップルネックレスを紹介され、乳首にくっつくいやらしいネックレスを肌に合わせられ、また興奮がいや増していく。なにしろおっぱいをまじまじと観察されるのだ。今日初めて出会った人に、じろじろと……やん。

 

 

「どれがいいんだい、泉」

 

 

「……これに、します」

 

 

 選んだのはゴールドの鎖。乳首から鈴がぶら下がりしゃらしゃらと音を立ててくれる。そして服従の証としてか、アルファベットの文字も首元に提げられるようで、別個に文字がいくつも用意されていた。あたしのIを選ぶ。愛の、I

 

 

「わかった。着けてあげよう」

 

 

「……ひゃっ……あん……」

 

 

 正面から(わかっててね)ネックレスを着けさせにくるせんせー。見つめ合いながら首を周回した鎖が、するりとデコルテを滑り乳首を飾る。泉のIが中央に座る。しゃらん、鈴が笑った。微流な電気が、流れる。

 

 

「綺麗だよ、泉」

 

 

「ありがとうございますわ、ご主人様……」

 

 

 二人の世界を邪魔しない紳士に感謝しながら、そのままじっと見つめ合うの。えへへ。しあわせ……

 

 

「勤務中はさすがに難しかろうが、これからはプライベートではなるべく着けてなさい、いいね?」

 

 

「はい」

 

 

 鈴もいい子でお返事をしてくれた。汗と汗じゃない液体。ぷっくり膨らんだ乳房。見下ろすと自分の身体なのに別人のようで、いけない官能の薫りが漂ってくる。はぁ。

 

 

「ありがとうございます、船木さん。さすがにいい品揃えですね」

 

 

「感謝の極み。旦那様も素晴らしい愛奴をお持ちですし、なにより旦那様ご自身の調教がよいのでしょう、よく躾けられた牝ですな」

 

 

 紳士然とした態度から放たれる、さも当たり前といった風な淫語の豪速球。あたしはまたぞくりとして、くなくなと身をよじった。

 

 

 やめていやらしい──などとは、微塵も思わなかった。言われて、うれしいと、さえ。

 

 

「船木さんもお持ちになればよろしいのに」

 

 

「ははは、いえいえいとんでもない。自分の愛奴は亡くした妻ただ一人ですから」

 

 

 おお、意外と一途ないい人なんだ。だからこそこんなことしてても嫌悪感を感じないのね。

 

 

 ……でも、つーことは奥さんになんやかんやすごいことしてたのか、この人。すげー……

 

 

「なるほど。それは余計なことを言ってしまって申しわけない」

 

 

「いえいえ。ところでせっかくのお誕生日ですし記念撮影していきませんか? お値段はサービスしますので」

 

 

 え、ちょ、そんなこともやってんの? うお、奥からものごっついカメラ持ってきた。つーか奥に撮影スペースある、ハロウィンのときみたく周り白い板張りみたいな、映りよくなるやつだ。

 

 

 よく見たら店内にはその、主と愛奴との写真が、いやらしいの含め多種多様に飾られていた。額に入っていて元々店主がカメラが趣味もあったそう。これが好評なのだそうだ。それでせんせーもここを選んだのね。このちくしょーめ。

 

 

 大好き。えへへ。撮ってもらおうっと。

 

 

 せっかくの記念撮影なのだからと、首輪も装着することに(ネックレス邪魔じゃあないかしらと思ったけれどなんとかなった)。今日は初お披露目なのでフルヌードにしたけれど、やはり首輪がないとと、変態様の仰せ。

 

 

 はい、そのとおりですわ。あたし、いっそずっと首輪で繋がれたって、あん、んふ、いやん。

 

 

 白く切り出された空間へ二人、入っていき。まずは立って連れ添って一枚、大仰なカメラで撮ってもらう。麗しいスーツ姿のご主人様と、裸に首輪、ニップルネックレスと貞操帯という愛奴のツーショット。

 

 

 続けてもう一枚いかがですかと言われ、あたしがお願いしますと思わずねだっていた。次は奴隷らしいポーズと、服従の証に四つんばいに這い、外の土埃に晒された靴を、舐めたところで。

 

 

 ぱしゃり。撮ってもらっちゃった。あたしの被虐願望が満たされた瞬間。

 

 

 じゅんと、濡れまくるの。

 

 

「はい、よろしいですよ。少々お待ち頂ければお写真は本日にも出来上がりますが、いかがいたしますか?」

 

 

「待ちます。ああ、その間の店番は平気ですか?」

 

 

「ははは、ご安心を。こんなところへちょくちょくやって来るのは旦那様のような酔狂な方のみで、誰も来ない日のほうが多いのですから。では失礼します」

 

 

 去り際、ふと振り返った老紳士はにっこりと告げた。

 

 

「店内のもので商品でないものでしたら、お暇つぶしにどうぞ、但し書きがありますからご自由にお使いください」

 

 

「感謝します」

 

 

 男二人に通じた目線。あたしも二十四になった。さすがにわかる。

 

 

 プレイしていてもいいよ、と。わかるのだ。

 

 

「ここはアダルトグッズショップでもあるけど、それ以外にも店主が、さっきの人ね、趣味でいろいろ手を出しているんだ。道楽だって言ってね、儲け度外視さ。けど、だからこそ私のようなニッチな層に受けて、リピートする人が絶えず黒字なんだって。通販もやっているから本当助かってるよ」

 

 

「まあ、そうですの」やばい。絵里さんのものまねすげー楽しい。「ご主人様がここであたしどもへの愛を育む道具を入念に選んでいると思うと、あたしも愛着が湧きますわ」

 

 

「そうだろう。試しにお前を連れてきてはみたが、大丈夫そうだね。この調子ならほかの愛奴を連れてきても平気そうだ。ところで、なんで四号なんだ?」

 

 

「順番ですわ。みゆちゃん、まゆちゃん、広子ちゃん、そしてあたし」

 

 

「ああ、なるほど」

 

 

 ごろごろと猫でもあやすように顎をなぞってもらう。しゃらしゃらとくすぐったく鈴が揺れ、わずかながら性感もくすぐられる。

 

 

「さて、誰かが来店してくれれば話は早いんだが……なにしようか」

 

 

「ご主人様、あたし……」

 

 

 言えるはずもない。けれど、上目遣いで訴えればきっと伝わるはず。そう、じっとりと潤んだ瞳で懇願する。

 

 

「わかった、露出させてやろう。ご厚意を無下にするのも悪いが、お前がかわいいからね」

 

 

『写真が出来上がりましたらこちらにお電話ください』と番号と共にメモを残し、せんせーが店内から出ようとする。

 

 

 ふとその途中、足を止め。コートを着直したあたしが怪訝な顔をしていると、ちょいちょいと指が差される。その先は……

 

 

『配信部屋』とプレートがかけられた扉があった。利用料金が併記され、店内でお買い物されたお客様は三十分無料、とある。

 

 

 気になったのか、外へ出る前にそこへ入っちゃうせんせー。あたしも続いて室内へ入ると、そこにはこちらを向くこれまたカメラが。大画面のテレビ……と思ったけれど単なるモニターかしら? それもある。

 

 

 あとはコンドームほか、いやらしい道具もいくらか。靴を脱いで入るようで靴置き場もあり、床はふかふかカーペット、当然のようにお布団がある。

 

 

 なにを配信する部屋なのか。わかりきっている。

 

 

「へぇ、映り具合もこのモニターでわかるのか、なるほど。パティも頑張っていると聞いたけれど、ここまで詳しくはないろうなぁ」

 

 

 配信のやり方も説明書があった。パティちゃんに教えてもらっていた部分もあったろうけれど、機械に強い男性でもあるせんせー、あっという間に理解しちゃったみたい。

 

 

 つまり。

 

 

「露出これでいいね? 泉」

 

 

「……はい」しなと、頷いちゃう。

 

 

 あとで詳しく説明してもらったけれど、ここでの配信はこのお店利用者専用アカウントを使っているということで、すでにある程度お客さん? というか観てくれる人が担保されていたらしい。そのため、突発的に始まったはずの生配信も視聴者数が結構いてびっくりした(それがわかるのもすごいと思ったけど)。

 

 

 このときはまったくなにもわからずただ飛びこんだ。着けろと言われたマイクを着け、見ろと言われたカメラを見ながら、しどろもどろに始まった配信を、自分が映るモニターを見ながら(なんて恥ずかしい!)やっていった。

 

 

「こ、こんばんはー……」

 

 

 電話に出るときみたいな高い声が上ずっている。自分のこの、あられもないというのもおこがましいような痴態が、インターネットに配信……さすがにその辺の知識もわかるあたくし、沢田泉は背後で腕を組んでにやにやするせんせーを何度振りむこうかと思いながら、頑張ってカメラのほうを向いて喋っていった。

 

 

 最近の科学進歩はすさまじく、見ている人がパソコンなり携帯なりに打ち込んだ文字がコメントとしてあたしにも見えた。あたしの挨拶に同じく『こんばんは』と、返って来たのだ。

 

 

 繋がっている。どんな形であれ。そう思えば、また羞恥に身が焦がれる。

 

 

『新人さんですか? 見ない人ですね』と文字が流れ、おろおろするあたしはどうしたものかと、まずこの格好に突っ込まないのが驚きでなにも言葉が出てこなかった。

 

 

『素敵な衣装ですね。自分で選んだんですか? それともご主人様が?』

 

 

『お一人ですか? ご主人様はいらっしゃる?』

 

 

 次々と文字がモニターに映り、追うだけで精いっぱい。どうしたらいいのか、混乱しっぱなしでいると見かねたせんせーが助け舟を出してくれた。

 

 

「こんばんは。ずいぶんと多くの人が観てくれているんですね、ありがとう」

 

 

 すぐ隣に座ってくれた。にっこりとカメラに向けて笑顔を振りまき、ぎゅっと肩を抱いてくれる。

 

 

「ええっと、すみません私たちこういう場は初めてでして。視聴者のみなさんほど慣れていないんです。ご容赦を。よければこういった場がどういったものか、ご教授願えませんでしょうか」

 

 

 もちろんあたしたちはせんせー専用だ。せんせー自身、調教してもそれがSMだとはあまり思っていないといつも言っている。こんないやらしい社交場のようなところは知らないし、そういった世界がどうやらあるということも今知った。SMの世界ではどうも愛奴をご主人様同士紹介し合うこともあるし、そういったお披露目パーティーもあるそうで、このインターネットを使っての交流もそういった流れを汲む、最近の時流に沿ったもの、らしい。

 

 

 コメントは異常なほど優しかった。ご主人様と愛奴の世界をかみ砕いて教えてくれる。あたしたちはあたしたちで築いた、あたしたちだけの大切なものがあるけれど、外ではこういった形もありますよ、ここはこういう場ですよ、と丁寧に教えてくれた。それを聞くに、どうやらあたしたちも立派なSMの関係と言っていいらしい。定義とかそういうのはよくわからなかったけれど、どうも他人から見るとSM、らしい。ただ本人たちがどう思うか、どんな関係を大事にするかが大切なことなので、呼び方など気にする必要もないそうだ。あたしたちがSMと思わなければそれはそうなのだ。

 

 

 愛とは、お互いの間にだけ育むものであり、どのようなものかはお互いだけが決めればいい。他人が言ったからそうなのだ、と思う必要もない、と。

 

 

 ご主人様と愛奴の調教を配信する場とはいえ、あたしたちのような人も珍しくないらしく、あまりにも画面の向こうは親切だった。先ほどの紳士といい、ちょっと拍子抜けする。

 

 

 けれど、これは紛れもなく、いやらしい社交場だった。

 

 

『ということは貸し出しもなしですか? 残念です、うちのはそちら様のような慈しみに満ちたご主人は大変好みですし、きっと悦んで奉仕すると思いますが……』

 

 

 あたしがせんせー専用と言うと画面の向こうはとんでもないことを言ってのける。思わず見上げると海の瞳はほんと興味深そうに頷くだけで、まったくもう底知れないわ。あーやだやだ。

 

 

「泉は」「舌噛みますっ」

 

 

 なにをかいわんや、である。言うまでもないはずなのにっ、もうっ。

 

 

「だそうです、すみません。ここではスワップもありなんですね、勉強にはなりますが……ああでも、NGがあんまり多いと、ここの利用も厳しいですか? 実は私、愛奴が結構数いるのですが、あ、いえ、愛奴というかパートナーですね、この感覚だと」

 

 

 すぐに返事が来る。不思議ね、インターネットって。

 

 

『いえいえ、そのようなことはありません。SM好きがみな一様に同じことをしているなどもありえませんから、ここではお二人だけの調教を見せて頂ければそれで充分です』

 

 

 ほっとする。そりゃー、そーでしょ。

 

 

 ……でも『貸し出し』とか、してる人たち、いるんだ。信じらんねー……ああいや、せんせーがほかの子を預かってなら、確かにあたしたちなんにも文句なんてないけど……

 

 

『しかし愛奴が複数いるということは、今の素敵なネックレスに飾られた婦人もご承知ということでしょうか?』

 

 

「ええ、みな知って私のものとなってくれています。複数でのプレイももう慣れたものです。今度連れてきてもいいかもしれませんね」

 

 

『なるほど、でしたらそちらの愛奴を借りることはできずとも、こちらから貸すことは可能ですか?』

 

 

『待ってくださいそれならフリーのほうが始めはいいはずです、お試しで私を使ってはみませんか? 実はご主人様がいないんです』

 

 

『あたしもいません、後腐れないですしちょうどいいと思いますっ。複数プレイは初めてですけど頑張りますからっ』

 

 

『拾ってくれませんか、はしたない牝犬です、二十一です』

 

 

 出会いの場になっちゃったぁー。おいおいおめーら、いーのかよ。初対面だろーが。つーか話したこともねーだろーが。

 

 

「意外と女性も多く見てるんだね、不思議だなぁ」

 

 

「あたしに言われても……ていうか配信中ですから全部聞こえちゃってます」

 

 

「ああそっか。うかうか泉にこっそり命令もできないね」

 

 

「だから聞こえてますってば」

 

 

『仰る通りここではMの女性が多いんですよ。というより、全国的にですね。Sの男性よりMの女性のほうが圧倒的に数が多いんです』

 

 

 事情通かこの人はっ(多分この人だけ男性だわ)。ツッコミたい。でも絵里さんのようなしゃなりお嬢様になりきっているとさすがにできないし、やりたくもない。

 

 

 早く、犯されたかった。

 

 

『ですのでここはお互いの出会いを求める場も兼ねているんです。よければ拾ってやってもよいと思いますよ。連絡手段もそちらに記載されているはずです。ここを見ているということは、そのお店に行ける距離でもあることが多いですから』

 

 

 せんせーが辺りを調べ出したので、あたしはぎゅっとその裾を握って首を振った。

 

 

「さ、三十分、ですから……」

 

 

 言いたいことはすぐ伝わる、素敵な人。

 

 

 かちゃり、貞操帯の鍵が外された。まずは胸でもカメラにようく見せつけてこい、おかずにしてもらえ、と顎をしゃくられる。あたしは言われたとおり立ち上がってカメラに近づいた。

 

 

 モニターからコメントが減っていく。突然調教が始まったためか、じっと見てくれているのだろう。ああ、見られてるのね……んっ。

 

 

 下乳を持ち上げ、強調して鈴をしゃらん。カメラに隆起したニップルを見せつけ、桃色果実を見せつけて身をよじり、明後日を向く。恥じらいをなくしてなどいない、当然の二十四の乙女が、裸身を晒していくの……あん、カメラ、せんせー見てると思っちゃうわ、いやんもー、えっちー……

 

 

「い、いっぱいおかずにして、くださいね……そうしたら悦びます、あ、あたしがじゃあなくって、ご主人様が……っ」

 

 

 マイクが拾えているかぎりぎりの囁きがうなじを駆け上がる。あたしは復唱した。

 

 

「オナニーした人はコメントください、男女問わず、その数であたしお仕置きされちゃいますから、お願いします助けると思ってっ、どんなポーズでもしますっ」

 

 

 さらに耳たぶがくすぐられる。「リクエストどうぞっ、コメントの指示をご主人様のものと思って誠心誠意こなしますっ」

 

 

 減ったコメントがまた急に増えた。さすが勝手知ったる、でもないけど、画面の向こうでもお楽しみみたい。はぁ、はぁ。あたしはどきどきしながら、下乳から揺らしてぷるんぷるんさせた。

 

 

『オナニー見せて』

 

 

『縛られて欲しい』

 

 

『セックスがいい、早く』

 

 

 などなど。欲望が羅列されあたしは恥ずかしくてじゅんと濡れ、腰が揺れ惑うの。

 

 

「これじゃあ収拾つかないから、アンケート機能使って集計できるみたいだしそれで一番多いのにしよう」

 

 

 言うが早いかせんせーはあっという間に設定をしてしまった。モニターに先の三択が表示され、ボタンのように向こうの画面で押すと投票になるみたい。あれよあれよと、一分と区切った時間で投票が行われ、あたしはなにがなんだかと思っていると結果が出た。

 

 

『オナニーが見たい』

 

 

 堂々の一位だった。過半数を超えてて圧倒的。

 

 

 せんせーに見てるからやってみなさい、と命じられた……

 

 

「んっ……で、では今から一人えっちします……どうぞ見て、いっぱいおかずにして、くださいね……あ、あっ」

 

 

 試しに鈴を弄ってみる。乳首が目いっぱい擦れて気持ちいいし、これがせんせーだと思うと別格だ。クリトリスをなぞってみるとぞわぞわ内側から痺れる感じで気持ちもいい。

 

 

 けれど、一人えっちは苦手だ。したこともないのを強制的にやれと、迫られるのはいいけれどうまくできない。まごまごして、濡れが収まりそう。ああ、もう。

 

 

「すみませんあたし、オナニーほとんどしたことなくって……未経験のときにご主人様にしてみろって、言われて、それだけ、んっ……どうしたら気持ちよくなれるか、いやらしいかなんてなにも……」

 

 

 実際自慰はしたことがなく、せんせーとこういった関係になってから一度お試しでやってみろと言われたっきり。そのときもうまくできずいいよとあやされながらその後仲良しえっちっちだったので練習にもなってなかった。どうしたらいいのかさっぱり。

 

 

 するとコメントは助け舟を出してくれた。

 

 

『ご主人様がしてくれているのをまずは真似てみたらどうだろう。どこを弄られると弱いか、一つずつ思い出していこう。ご主人様にしてもらっていると思い込んでしまうのもいいと思う』

 

 

『あたしはオナニーをご主人様を想ってしています。頂いたお言葉、して下さったこと、想い出があるならそれはおかずになりますよ』

 

 

 もちろん親切心なのだろうけれど、一緒になって調教されているみたいでくらくらしてきた。こんな世界過激かも……

 

 

 でも。いい。せんせー、好き。

 

 

 うなじをぺろぺろがすっごく好きなんだけど、一人だとできないから、とするとやっぱりヴァギナだし、うーん自分で挿れ、挿れちゃう? いろんな人が観てる、前で……

 

 

 ふと横を見るとそろそろ辛抱堪らんかったのか、せんせーがいちもつを取り出していた。

 

 

「カメラに正面じゃあなくて、横向きになろう。一人じゃあ泉はよくなれなさそうだから、咥えながらしてごらん。お互いよくなれたら素敵だよね」

 

 

 大勢が観てる前で、と。深海は緑色に濁っていた。

 

 

 モニターにはせんせーの男性器だけをうまく映し、あたしは横向きになって全身を見せつけていた。四つんばいになってぷるぷるし放題のおっぱいが鈴と遊ぶところ、指がしなやかに滑り濡れた蜜が弾けるところとお尻を、見せつけ。ピンク色の舌を伸ばし、ちろりと這わせて血管が浮き出た筋を裏側から、いやしくいやらしくけれども、おいしそうに舐めとっていくの。

 

 

 この浮き出たきのこの傘みたいなところが、自分のお腹を突き上げていくのをつい、目前で見つめると想像してしまう。するとちゅくちゅく弄る自分の指が加速し、興奮していく。これが内側から己を破壊して、快楽の宴へ誘う導……ああ、あたしなんだか詩人だわ。絵里さんのまねっこが楽しすぎるのよ。

 

 

「んっ、ちゅぶっ、ちゅぶぶ……はぁっ……ご主人様、気持ちいいですか? あん、ダメだったら遠慮なく言ってくださいね、ご主人様はいつもお優しいですから……」

 

 

 そう撫でっぱなしなの。どうもこの状況を愉しんでいるのか、ずっと微笑んでる。あたくしも嬉しくって甲斐甲斐しくご奉仕しちゃうの。舌を目いっぱい伸ばして蛇みたいに巻き付けて、べっとりと唾液をまぶしてからじゅるじゅる吸い上げちゃう。えっちな白濁液じゃあない透明なお汁が漏れ出し、それもおいしく、盛大に音を出して啜るの。まさしく愛奴の、口唇奉仕ってやつだわ。ふふ、ふふふ……

 

 

 また濡れが加速する。くっ、くっと腰が持ち上がり、どんどんと高くなる。それは挿入を待ち望み、しやすくするための自然の摂理。女は、牝であり、男を、牡を欲するもの。

 

 

「見てごらん、あの数字。あれが観てくれている人の数だよ。泉は今、三千人を超える人に見られて、おかずにされているんだ」

 

 

 ぶるぶるっと全身が震え、軽く達してしまう。小さなオーガズムはさらなる快楽への呼び水となり、あたしは過激になり、指を擦らせるだけでなくとうとう挿入してしまった。

 

 

 イけそう──

 

 

 そう思った瞬間糸を引いてペニスが遠ざかった。あたしはお預けに物欲しそうな目でご主人様を見上げ、ふりふりとお尻を振っていた。自然に、媚びを。

 

 

 あたしは自分でも性奴隷として、それほど従順でなく、それほどらしいとは、思っていなかった。

 

 

 けれど今、環境が整えられると、こうも変わる、いやあたしは最初からこう、だったのか……

 

 

「ご主人様……」

 

 

 カメラがあることを忘れるほど、今は目の前のペニスに夢中、海の瞳に、夢中。

 

 

「画面見なさい、すでに規定数報告がある。お前が魅力的な証拠だ」

 

 

 み、見たくない、わね。オナニーしましたって報告でしょ。自分がおかずとか、ああは言ったけれどやはり好き好んで見に行くものじゃあないわ。

 

 

「今日はお前の誕生日だしね、あまりひどいこともしたくはない。そろそろ三十分だ。出ようか」

 

 

「……」

 

 

 わかってる。手練手管、さすがに鮮やかな手腕だわ。この人は自分がコントロールされているとかよくうそぶくけれど、絶対に違う、あたしたちがコントロールされているの。

 

 

 支配されて、いるの。それがいいの。

 

 

「ご主人様、誕生日だというのなら、今ここで犯してください、それがなによりのプレゼントですわ」

 

 

「いやいや、それよりもう一品なにか選ぼうか。今の泉を見ていると──」

 

 

 素直になるの。

 

 

「にゃあん」

 

 

 ほっぺを膝小僧へすりすりさせる。言葉を話さなくし、ただ表情でのみ語る。

 

 

 なりたかった。別のなにかに。絵里さんのように、あるいはあのときの静香ちゃんのように、あるいは、めちゃくちゃにされたみゆちゃんのように。単に泉のままではいけない、変わらないとダメと、ハロウィンの夜にわかったもの。

 

 

「なぁー、なぁーお」

 

 

 泉の殻を脱皮したあたしに、せんせーはわかりやすくズボンの上から勃起を見せつけた。せっかくしまったのにすぐまた取り出し、びんと屹立を見せつける。

 

 

「いい子だ」くにくにとほっぺを揉みまわし、また撫で放題を味わわせてくれたあと、すぐお尻に覆いかぶさるご主人様。とろとろの秘部は結合を待ち構えていて、また一段とやりやすいよう臀部を高らかに掲げる。

 

 

「お誕生日おめでとう、泉猫ちゃん。孕ませてやるよ、発情した牝猫を、なっ」

 

 

「にゃあああ!」

 

 

 ずぶずぶっと挿入ってきたおち○ちんは完全にいきり立っていて、硬くって逞しくって、すごかった。あたしはまた軽くイッちゃってびくびくっと官能に痴れ、だらしない顔をカメラに晒すの。

 

 

 見られてるの、えへへ……ああ、気持ちいいわ……

 

 

 先ほど目に焼きつけたきのこの傘が、自分を突き下ろしぐりぐりとこじ開けに来るのもよく、さらにそれが引き戻って引っ掻いて引っ掻いて、この人が言うツブツブを擦れていくのはとっても気持ちいい。快楽がぞくぞくっと局部から全身を駆け巡って、あたしをおかしくしてくれる。内側から熱が暴走し膨張して、溶けてとろけて乱れて混ざって消えていく、そんな絶対的な、快感。

 

 

「にゃっ、あっ、あっ……あ、あ、ああー……はぁ、はぁ、なぁお、なぁ、なぁー……あっ、ああっ」

 

 

 唯一の不満は猫さんになるとどうしても愛していると言えないことだけれど、そんなことはご主人様は猫語も解するので問題なさそう。現にあたしが振り返って愛を囁くと、にっこりと頷いてお尻ぱんぱんぺちんぺちん、強くあそこもぐっきり、あ、あ、ダメイク、またイク……っ。

 

 

 べろり。舌がうなじを這うと同時にあたしは絶頂した。

 

 

「ふにゃああああ!」

 

 

「ああ牝猫のま○こ気持ちいいよ。きつくて締まってどろどろでさすがミミズ千匹だ。もっといい声で鳴けたら射精()してあげる」

 

 

 人に見せるプレイだからかせんせーのなじり方がいつもと毛色が違う。じっくりと味わうように抽送が行われ、ごつごつって膣奧にぶつけながら適度に愛蜜を引っ張り出す手際は、早々に射精する気配から最も遠かった。

 

 

 それだけに。あたしはじっくりと悦に耽ることができた。お腹を貫く陰茎の逞しさを、はっきりと感じ取りながら気持ちよく喘ぐ。ぺちぺちと大事な袋が液体塗れの繊毛とぶつかり、軽く陰核を掠めるのもあわあわと気持ちいい。ぶるぶると震える小ぶりなバストを鈴ごと指先で弄ばれるのもまたよがってしまう、腰を振ってしまうの。どろどろと愛液が自己表現して、とろっとろの貌と同じくらい、いやらしく濡れるの。

 

 

「なぁ、なぁー……にゃ、あ、あ……」

 

 

 わざと腰使いを緩められ、あたしは鳴こうにも鳴けない状態が続いた。言葉責めで画面の向こうでどんなコメントがあるのかと言われても聞こえないフリをする。ただ、お前がかわいいよと、気持ちいいよと、よく締まるねなどと褒める言葉だけを受け取るの。主にうなじから耳たぶを超えて伝わるテノールの響きに、あたしはさらに酔い痴れ、より高く強い快感を目指していった。

 

 

「あっ、あっ……にゃあ、ふう、にゃあ……にゃあん」

 

 

 じゅぶじゅぶいやらしい水の弾ける音をかき消すように喘いでしまう。どれだけずぶ濡れになっているかを、わざと教えるようペニスが擦れるものだから恥ずかしくて気持ちいい。ああん気持ちいいの、いいの、いい、いいっ…叫びたいっ、イきたいっ。みんなに見られながら、見てもらいながらあ……っ。

 

 

 がっとよがり貌が顎からつかまれた。そのままカメラに向かされる。自分のだらしない、よだれ塗れの変態貌が画面に映る。

 

 

 あたしはきゅううっと、膣が締まっていた。

 

 

「にゃ、い、にゃ、やにゃ、やにゃあっ」

 

 

「いい子だ、わかったよ牝猫」

 

 

 体位が変えられる。バックからの大好きなものから、カメラに正面向いての後背座位へ。直視しなければならない現状が淫らすぎて、思わず目を閉じた。

 

 

 すると無理矢理奪われた唇から強引な舌先が侵入し、ざらざらと歯茎を力強く舐めてくる。

 

 

「むぐっ、むう、むーっ」

 

 

 絡まる唾液と舌で目もくらむ心地よさに、思わず目は開いてしまう。

 

 

 視界に入る己自身の痴態、画面に映る淫語の切れ端。なにより目の前にあった男の人の端正な顔が、じゅんと濡れを加速させてくる。

 

 

 気持ち、いい。

 

 

 鈴ごと乳首と、クリトリスを抓まれ、同時に上唇を甘噛みされながらごんっと突き上げられると、あたしはどうしようもなくまたイッてしまう。

 

 

「んむっ、にゃあんっ。あん、にゃ、にゃああ」

 

 

 文字通りの猫なで声。ご主人様は満足そうにそこでぐっと腰を入れ、一気に精を解き放った。

 

 

「やにゃああああああ!」

 

 

 本日最高の絶頂に至る。多大なオーガズムの波に呑まれ、あたしは息が止まるほどの快楽に溺れていった。瞼が瞬いているような、ちかちかした感覚。心地いい。

 

 

 宣言通りいい声で鳴いたからか生ナカダシが一気に行われ、とぷとぷと濁流が子宮を襲い、満ちていく。膣内は嬉しそうにぎゅうと締まり、精液を吸い上げていた。自分でもわかる、しあわせな時……あん……

 

 

「ほら、見てもらったお礼を言いなさい」

 

 

「あ、あん……み、見てくれてありがとうにゃあ。牝猫のイクところ、いっぱい見てくれておかずにもしてくれてありがとにゃ。うれしいにゃあん、えへへ……あん、まだ射精()てるにゃあ……生ナカダシだにゃん♪ あたし妊娠しちゃうかも……

 

 

 ああん猫語と混ざって変な言葉。しょうがないわね、あたくしったら。絵里さんのようになるのも、静香ちゃんみたいに猫になりきるのも楽しいわ。

 

 

 満足した彼のいちもつを綺麗にしてから(そこもなぜかコメントが賑わった)、ご命令通りカメラに向けて大股開きのM字開脚をし、白濁に塗れた大陰唇を広げ、ごぽごぽと溢れる精子を見せつける。こんなにも愛されたと。またコメントは賑わった(直視はしない)。

 

 

「思ったよりコメントが増えないね、泉が指輪しているからかな」

 

 

「あ、奥さんだと思われちゃいましたか。あはは、違いますわ、あたしはただの愛奴で、これはご主人様の許しがもらえたから着けているただの男除けですの。ご主人様以外の殿方とあまり親しくなりたくはないですから」

 

 

 煌く指輪をなぞるとこっちでもしあわせが満ちてくるよう。えっへっへ。妾女房だから奥さんでもあるけど、それは言わないの。

 

 

 でもそうとわかるとなぜかまたコメントが賑わった。いやらしい牝だ、変態だ、と、いくらか瞳が捉えてまた腰から悶えちゃう。えっちね、みんな。

 

 

 そこでドアがノックされ、紳士の声が聞こえた。せんせーはあたしにそのまま開脚していろと言いながらドアを開ける。

 

 

「こちらでしたか。お写真のほう出来上がりましたのでご連絡にあがりました」

 

 

「ありがとうございます。こちらで飾ってもらえるんですよね? 楽しみだなぁ」

 

 

 うっきうきのせんせーに微笑みながら、じっとあたしも見下ろし、うんうんとまた笑みを絶やさない紳士。ここで行われたプレイに一切突っ込まず、ただ見守るだけ。

 

 

「ほう、これはこれは。これほど主を求める方が多い放送は初めてですよ」

 

 

 せんせーをご主人様として仕えさせてくれないかというコメントが未だ絶えず、その数に紳士は驚いていた。あたしはいそいそと帰り支度をはじめ、コートを着込む(貞操帯はなぜか許された)。

 

 

「如何です、連絡を取り合ってみては。迷える子羊を導くに相応しいと、いえ私が勝手に持つ旦那様への期待ですが」

 

 

「うちはもう大所帯ですしね……一度愛奴全員に聞いてからにしますよ。それに私は、私を好いてくれる女でないと嫌なわがままものですから。もちろん、私が気に入るという大前提もありますし」

 

 

 それって普通じゃーないのだろーか。好きでもないのに愛情注ぎあう愛奴の関係なんて築けるのかしら。

 

 

 愛奴なのよ。ただのセックススレイブじゃあないんだから。

 

 

 一応のメモを取ったせんせーは紳士に礼を言い、あたしにも礼を言わせ、ようやくお店から出ることができた。はぁ。濃い時間。ああ、お腹まだあったかい。妊娠しちゃったかも。

 

 

 子供。ほしい。今なら、切にほしい。きっと大切に育てられる。うちは産休もしっかりしているから。

 

 

 家族が増えるのだから。

 

 

 ばたんと車に乗り込み、好き好き大好きと目線をずっと送りっぱなしでいると、せんせーはふと窓の外を見やってこう言った。

 

 

「せっかく遠出したし、もうちょっとあちこち散策じゃあないけど、見て回ろうか。といっても時間もあまりないから、どこか一か所だけ」

 

 

「はい、どこでもお供しますわ」

 

 

 楽しすぎる。あとで春花さんにご教授願おう。

 

 

「あ、ご、ごめん泉。ガソリンがない──そうだ、ガソリンスタンドで遊ぼう。見て回るのはまた今度だ。そうしよう」

 

 

 うふふ。かわい。「はぁい」

 

 

 のろのろと走り出した車は最寄りのガソリンスタンドを見つけ、入っていく。セルフだったのでどうしようといった表情の彼をまたうっとりと見つめながら指示を待った。

 

 

「いや? セルフのほうがいいか。よし、泉、コートの前を開けたままで給油してくれ、はいカード」

 

 

 こっくりと頷いてカードを受け取る。車内でコートをはだけ、しっかりとニップルネックレスが輝いていると教え、軽くなでなでをもらってからドアを開けた。

 

 

 ぷるん。しゃらん。おっぱいと鈴が共演するの。ああいやらしい。

 

 

 恥ずかしい。

 

 

 夜のスタンドは混んでいるわけでもないが、定期的に車がやってきていた。今もあたしが外へ出ると同時に一台、隣へつけ停止した。ごくんと軽く生唾を飲み込みながら、給油機へ近づき、静電気を取って、支払いにカードを選択する。レギュラー、満タン、ホースを取って……

 

 

「うおっ」

 

 

 お隣さんが気づいた。男性だ。あたしはじっと見つめる視線に焦がれながら、車中の人が微笑むからにっこりと同じように微笑み返しをしてあげるの。

 

 

 誤魔化すように鼻歌を歌いながら給油を行っていく。ズンドコ節は歌いやすくて好きでよくリズムだけ口ずさんでいた。あ、窓も拭いちゃいましょう、ついでに。ふきふき。

 

 

 しゃらん。身を乗り出してフロントガラスを拭くと鈴も歌う。あたしは恥じらって身をよじり、それでも隠さずに続けた。

 

 

「やん、あん……ふふ、ふんふんふんふん……」

 

 

「……」

 

 

 男のぎらついた視線がずっと刺さるのを感じていた。ニップルがまた尖り出し、乳輪から主に色づきだす。いやらしく実る己の肢体に、くっと頬染め。

 

 

 とろぉ。愛液でないなにかが、お股から漏れた。

 

 

「やっ、あーん……あん、やーん……」

 

 

 うふふ。

 

 

 給油が終わると、レシートを取りにわざと遠回りをした。もう一台やってきたため、見せつけるよう海が囁いてきたため、わざとその必要もないのに車体を大きく迂回し、ゆっくりと歩いて乳房を揺らす。茂みもしっかり見せつけろとの仰せにまたわざとコートの裾を除け、脚を無駄に動かして角度をつけてやる。これでとろとろの陰部も丸見えね。はぁ。

 

 

「おいあれ、まさか、せ──」

 

 

 いやん、んふふ、にゃんにゃん、せんせーご主人様大好きにゃん、にゃん……

 

 

 飾られた裸を存分に見てもらった。

 

 

 濡れながら。

 

 

 窓の外でいいですかと小首を傾げると、よかったよと窓が開き、鈴を転がす。あたしはまたくなくな、身を揺すっていやらしく微笑むの。

 

 

「なぁお、なぁ、なぁー」

 

 

「いい子だ、入っていいぞ」

 

 

「にゃんっ」

 

 

 あたしは助手席に座り、コートをはだけたままシートベルトを着け、谷間にスラッシュさせ強調し、すりすりと猫さんよろしくすり寄る。よしよしとなでなでしてもらい本当にしあわせの絶頂。

 

 

 最高の誕生日でしたわ。うっふっふ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第百一話あとがき的戯言

 

 

 

 

 こんばんは、三日月(みかづき)まるるです。

 

 

 別段変わり映えなく、いつもどおり過ごす毎日。けれどそれはかけがえのない、大切な時間なのですよね。私はそう思います。

 

 

 お誕生日が続きますね。誕生日を祝えるということはとても幸せなことだと思っているので、できるだけ描きたいと頑張っております。誕生日に泉さんがこんなことになってとてもほくほくです。いろいろと楽しみだ。

 

 

 それではここまでお読みくださり、ありがとうございました。また次回もよろしくお願いします。

 

 

 

 

 20170803 三日月まるる

 


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2017/08/18 21:40 | 小説COMMENT(0)TRACKBACK(0)  TOP

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