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「ごめんなさい」その十六_第十六話_父親は男、母親は女

 こんばんは、三日月です。
 「臨場」が終わりました。キキョウの花言葉は私も大好きです。それと最終話に登場した児童たちはかわいかったですね。倉石さんの初の涙姿にもらい泣きしそうになりました。ハッピーエンドは続くものですね。
 拍手ありがとうございます。嬉しいです。頑張ります。
 長々とすみません。それでは第十六話です。どうぞ。














 



 十六 父親は男、母親は女



 



 



 彼の裸が見たい。ここのところ、一緒にお風呂に入っていない。まあ、まだ四日だけど。もっと手っ取り早く美白効果の出る化粧水を出すべきよ。そうすれば、あいつだって私と混浴したいって、自分から言ってくれるはずだから。それとメイドさんのお料理がおいしすぎるのも考えものね。いつまでたっても体型が変わらないわ。髪もせっかくだし伸ばしたいけど、この際だからエクステでも買おうかしら。ミニスカも種類増やしたほうがいいわね。下にレギンスもズボンも、パンストすら絶対に履いてやらないから。こう見えて若々しいから、かわいらしい格好だってしてやるわよ。ありがたく思いなさい。思ったなら襲いなさい。私自身、自分から迫ったことなんてないし、どうしたらいいかなんてわかんないんだから。自分からあそこに顔を近づけて、ズボン脱がせようとしたらいいのかしら? そして上目遣いに「……いい?」って聞くのね。よし、やってみよう。



「無理に決まってるじゃない」



 バシャン、とお風呂の水を顔に浴びせかける。一人きりの入浴が普通なはずなのに、まゆも彼もいないことに物足りなさを感じてしまう。そのせいか、色々と一人で余計なことを考えてしまう。



 このままの同棲生活が嬉しくも苦しくもある。三人での就寝がすごく楽しみで、朝に手を繋いで食堂まで歩くのも楽しみね。この前ベッドに入ったとき、彼が寝たあとにそっと手を私の胸に押しつけてみたら、まゆがしたがるのがよくわかってしまった。バカみたいに赤くなってすぐ離したけど、でも、またやりたい。向こうから迫ってほしい。これ以上がないのは苦しい、ここまでができるのは嬉しい。二律背反が胸を締め上げ、余計に口が余計なことを言う。それでも彼は気にせず、どころか楽しげにあしらったりのってきたりするから、それがまたもやもやしてならない。本当にそのとおりなのか、どうでもいいからそんな態度なのか。わからないくらい、私は恋愛から遠ざかっていた。



 でも、彼が私の料理をおいしそうに食べてくれるたび、黙ってそれを眺めていたい気持ちがいつまでたっても湧いてくる。たまに朝、私が起こしてあげるときの顔はいつ見てもかわいらしい。顔ばかり追って、目が合っても逸らさない彼にこっちが気恥ずかしい。ので、私は逸らしてしまう。買い物に出かければ間違いなく手を握って、帰りは荷物を持ってもらってるのにそれが楽しいと言わんばかりの顔をしてくる。たまに商店街で食材を買えば、お店の人のお世辞が綺麗な奥さんもって幸せだな、って言ってくれる。そのたびに誇らしげに胸を張り、即座に腕を組むと彼が自慢の妻と娘ですって、言うから……またぺらぺら、私はいらないことを言いもする。まゆはお父さんだっておじさんよりカッコいいよって言っちゃうけど。彼がまた、自分から話さず私の話を聞きたがるのも調子に乗る原因だわ。最初は断るけど、彼が聞きたいと迫るからつい滑ってしまう。仕事の愚痴になったり、生活の愚痴になったりもするのに、親身に聞いてくれるから安心する。というより、あの人は話を聞かないことが滅多にない。仕事柄かどうか知らないけど、前の夫や交際相手と違ってうまく相槌を打っては話を掘り下げてくれた。私は彼の話を聞きたいのに、それより君のが聞きたいと言うから、また、つい……卑怯よね。もっとも、それはまゆに対してもだけど。



 大体、裸見たくせにキスもまだなんてどこの少女漫画の設定なのよ。ああいう非現実的なハプニングなんて実際起こらないのに、私から裸を見せたのに、それだけなんて……やっぱり、小さいかな? 身長の割にこの程度なんて。手にすっぽり収まるサイズ。ほかの、広子(ひろこ)さんや良子(りょうこ)さんのようなはちきれんばかりの巨乳とは違う。欲情できるものじゃないのかも。でも、まゆやみゆちゃんを好きなら、胸のサイズじゃないと思いたいけど……コンプレックスなのよね、これ。昔っから、大きいと不便だのセクハラの的になるだのが、羨ましくてなかったのに。……感度はいいと思うんだけどな。触ってみると、そこそこ柔らかいし、少し気持ちいいし。形だってちゃんと張ってるんだから。ロケットがロマンなの? ちっちゃいお椀だっていいでしょうに。



 試しに自慰にでも手を出してみようかしら? でも、欲求不満なわけじゃない。ほしいのは快感じゃなくて、彼の愛情だから。



 愛情? ふふっ、この年でそんなこと考えるなんて思いもよらなかった。



 ……娘の『女』の顔を見れば、彼がどれほど深いもので愛してくれるのかなんて簡単に想像がつく。お互い協力するとしか思えない。前夫のように、自分が尽くしたのだからお前はもっとそれらしく振舞えというのはちょっと嫌かな。気持ちよくないときは気持ちよくないから。私は気持ちよくなくてもいい。どこか一瞬、お互いの気持ちが一つになる、心が通じる瞬間があれば。ああ、ガキみたい。



 ああそう、毎夜毎夜、彼を訪ねる女子たちの目がきらきらしてるのが嫌でたまらないわ。夜が明ければ、自分が世界で一番幸せだって顔に書いて出てくるのも腹が立つ。あんな関係で満足できる彼女たちが心底憎らしい。



 一つになってる彼女たちが。



 そうしてたくさんの女のお願いを聞いてる。好きだから奴隷扱いでいいです、抱いてください、子供がほしいです。なんて。



 まゆが、まゆの……まゆの望みを、あの人は叶えてくれる。お願いも、どんなことでも聞いてくれる。



 私は、私の……私の望みは、まゆのためじゃなければ叶えてはくれない。お願いは、まゆのためのものしか聞いてはくれない。



 彼にとっては私はまゆの母でしかなく、母であり女である私の葛藤に踏み込んではくれない。まゆと共に暮らす以上、母性の匂いを消すことなど不可能で、二人きりでいるときに別の匂いを匂わせることもできていない。そもそも、色香がない私。二人きり、など、なにか事件でも起きなければできたりはしない。女である側面をもっと、もっとっ、見せたいのに。



「奴隷になります」と言えれば、どれほど楽か知れない。そんなの嫌よ。私は対等の立場じゃないと嫌なの。お互いがお互いを高めあう、とまではいかなくても、少なくとも、向こうの命令に一方的に従うことは嫌。私が一方的に従わせるのも嫌。そりゃあ、プレイでたまにはいいけど。



 理想は……私が姉さん女房だけど、夜だけ誘ったりせずあの人にちょっと強引にされるの。彼の仕事の愚痴を聞いたげて叱咤激励してあげて、家事ができない彼を掃除機でどかしたりとか、たまの休みなんだからまゆにかまってあげなさいよと口うるさくするとか。娘の手前だから苦手なものをたくさん出してやるけど、彼は献立に文句も言えないの。お酒は週に一杯。お出かけしてくれるなら、二杯飲んでいいかな。門限は絶対に八時。破ったらお小遣い半額にする。元々のお小遣いは月一万円が限度だけど、稼ぎは順当に上がってかないと許さないから。まゆの運動会や行事ごとには強制参加よ。当たり前だわ。誕生日や結婚記念日を忘れたら一週間ご飯抜きね。自分で作ってもらいます。面倒でも町内会なんかはあなたに行ってもらいます。ごみ出しは男の人の仕事よ。やってもらいます。新婚しばらくは二人でデートもときどきしてくれないとダメね。腰抱かれるのはちょっと嫌だから、肩抱いて歩いてほしいな。



 その代わり……お仕事で患者さんが感謝の訪問をしてくれたら、褒めてあげるわ。まゆを喜ばせてあげても褒めてあげる。運動会でカッコいいところ見せられるなら、お酌してあげてもいい。誕生日にサプライズを続けてくれたら、私もケーキ作ったげていいわ。



 それから。あなたが夜に相手しなさいって言うなら、絶対に応えるから。絶対に断らない。朝昼にどれだけ辛辣に当たっても、夜だけは粛々としてあげる。嫌がったりなんてしません。枕はずっとYESが書いてあるから、誘わないけど、どんどんきて。どんなプレイでも、何回でも相手をします。壊れるくらいまでやったって、むしろ嬉しくてたまらないの。だって──



 ……わかってる。今の理想の、ほとんどを彼は実現してることに。家庭を顧みすぎるほど顧みてる。どれだけ遅く帰ってきても、まゆが寝るまで相手をして、そのあとに家での仕事を片づけてる。その仕事もできるだけやってるから、門限だけは無理だけど。褒めることが多すぎて、彼があまりお酒を飲まないからお酌したい私が飲みなさいよと勧めるくらいだもの。



 今まで暮らして知ったこと。彼が超のつくフェミニストだってこと。女性を優先しすぎてる。先のとおり荷物は絶対に自分で持ちたがるし、道路側を歩かせたりしない。まゆと三人歩くと必ずまゆのペースに合わせてくる。家庭を大切にすること。それこそなによりも。それでも仕事も両立させるくらい、器用なこと。最近例のお嬢様を通じて知ったけど、児童養護施設の子供たちを、家族として扱っていること。大切に大切にしていること。児童の一人が病気にかかると、必ずと言っていいほど看病に行くのだそうだ。児童たちからは完全に父親扱い。ただでさえ忙しい合間を縫い、話を聞いてあげ遊んであげている。……それはそれとして、好き嫌いが少ない。焼きキャベツとお味噌汁、トマトサラダとコーンポタージュが好き。食べられないものがほとんどなくて、しっかり噛むお手本のような食べ方をする。なぜか果物の皮を剥くのが得意で楽しいんだって。私と同じで、あまりお酒に強くない。以前の結婚生活ではよくお酌したものなのに、彼は飲めないからと遠慮をする。試しに一度強そうなお酒を飲ませたところ、一口でギブアップした。情けないわ。携帯の履歴に、今外国にいるという母親のものが着信メールともに多い。中身は見てないけど(まゆが見てないって言うんだもの)。タバコは吸わない、行きつけの理容店の店員さんに目をつけられている、仲のいい同僚は一人ぐらい、男の人らしく機械に強い、趣味の小説はやはり恋愛小説。



 まだまだいっぱい、知りたいな。知ったとしても、



「好き……」



 だと思うけど。こんなことばっかり考えてる。女学生かっていうの。でも、こんな辛い恋は初めてなの。ここまでしてるのに、叶う予兆が全然ないなんて……



 好きであることが間違いだと、ほかの人は言うでしょう。私にとってもまゆにとっても。でも、まゆに関して言えば私に言う資格なんてない。私に関してなんて、間違いだって言われなくてもわかってる。誰かに相談すれば、夏野(なつの)は簡単に頭を冷やしなさいと言ってくれるでしょう。……でも、でもっ、好きに、なったのよ。普段は強くて冷静な人が、ちょっと私が適当なことを言うと、見たことない顔、したのよ? 私にだけ、見せてくれたの。弱いところを見せてくれたの。本当の自分を垣間見せてくれたの。私には見せていいって、思ってくれたのよ。それがただの偶然でもいい。それは私が選ばれてることだって、そんな、気……したんだから。大体、あいつだって、私、のこと、美しい、って、言った、から、あいつが、悪い、のよ。



 ……彼が、まゆを好きなことに対して。一般論は間違いなく間違いであり犯罪だと、言うでしょう。でも私は、子供の純粋な願いを、悲しい願いを叶えてやったにすぎないと思う。それが犯罪だっていうのは、所詮他人の、一般倫理だ。私は、親だけは、認めてもいいはずなの。その権利がある。親の責務放棄だって、あの人はまた言うかもしれない。でも……



 簡単でわかりやすい例がある。あの人はまゆを愛した。そして、この町の町長はみゆちゃんを陵辱した。実際私はみゆちゃんが本当は心から愛されていたとしても、それを知る術はない。人伝しか知らない。彼女の態度からしか。そして、まゆの態度と、みゆちゃんの態度。一目瞭然なのよ。……そう、彼ともう会えないと、父のところで暮らしたとき。まゆの顔に、あの日のみゆちゃんの面影が浮かんでいたことを、私は知ってる。



 好きだから擁護してる気がする。結局その補正だけで、彼が私たちを家から追い出したら赦さなくなるのかもしれない。……もしかして彼は、そのことに気づいてほしいと、思ってる? そうでなくても、本当にじっくり考えてほしいと、思ってる? 私のため? いいえ、まゆのためよ。じっくり考えないと、まゆが悲しむから。結局そこ。



 娘も母親も女も、全部救える悪魔的方法があるなら教えてほしい。女を優先すれば、彼は絶対に私を許さない。娘をないがしろにする母を彼は好きになったりなんてしない。これはどう転んでもダメな、最悪の手。かといって娘と母を優先したら、一人の女は母であることを守れなくなるかもしれない。今はまだ、平気だけど。擦り切れる可能性がある。支え合っていく人がほしくて私は結婚した。手を差し伸べてほしい人に自分から手を出し、今宙ぶらりんの状態。これにいつまでも耐えらえるわけ、ない。今だって……



憲邇(けんじ)……」



 名前を呼ばなきゃ、喉が詰まったまんまなんだから。



 



 



「お母さんも、つらいよね」



「なあに、お風呂上りにいきなり」



「あたしだって、えっちしたいもん」



「あのねえ、そういうことはもう」



「名前呼んでたでしょ? 何回も何回も。あたしとおんなじだから」



「……」



「呼んじゃうよね。うらやましいもん。ほかの人はいっぱいしてるし、そのたびにたくさん呼んで応えてもらってる。ずるいよねー」



「一緒にお風呂入ったり、キスで我慢、できない?」



「……お母さんはできるの?」



「できるわよ」



「嘘つくなよ。キスしてほしげに、よく唇なぞるくせに」



 ……気づかなかった。そんなバカなこと、してるなんて。確かにまだ、一度きり、それもほとんど事故だけど。



「自分ができないこと言うなよ。憲邇さんは自分のできないこと人に押しつけたりしないんだから」



「……ごめん、ね」



「あ……ご、ごめんなさい」



「いいの。謝らないで」



 娘は確かに親に敏感だ。私が苦しいと、辛いと思ったら即座に謝ってくる。自分が悪くないのに。



「……あたし、ね、憲邇さんにだけ、触ってほしいのに、ほかの男子に、たくさんちょっかい、かけられるんだ。憲邇さんに、えっちなことしてほしいのに、してほしくない、人たちに、されるんだ。この前、スカートめくられそうになって、その次、お尻触られたの。でも、ハーフパンツは、はきたくないの。だから狙われるってわかってても、やっぱりあたしにとって、一番は憲邇さんだから」



「……」



「今プールでしょ? あたし、全部休んでんだ……ほんとは泳ぎたくてたまんないけど、でもみゆちゃんみたく見られるの怖いよ。みゆちゃん、すごいよね、前にあたしよりもっとひどいことされてんのに、ああやっていられるなんてさ。みゆちゃんカワイイから、すっごい男子から見られてんだよ。なのに……あたし、全然ダメだ」



 ……ああ、ああそう。彼のしたことは赦したわ。でもこれからのことは、赦してない。ええそう。起こったことは変えられず、またそのとき止められもしなかった。でも今現在のことは選ぶことができる。そして母としての本能が、娘が一桁の年齢で性行為をすることを赦してはくれない。過去のことだから赦せるのね。それとも彼を好きだから? わからない。でもダメ。セックスしていいわよと、絶対に言えない。その一言で娘は、また娘らしく笑顔になれるとわかっているのに。



「そんなことないわ。まゆは偉いの」



「じゃあえっちしていいよね?」



「……」



「……んだよ。無理ならそういうこと、言うなよ」



「でも、まゆは偉いわ」



「指輪はめてもらってくる」



 振り切るようにまゆは走っていってしまった。終始、左手の薬指を撫でていた。



 好きな男にだけ入れ込むと辛いわよ、と、七歳の子供に言えるわけなかった。



 



 



 好きな男に尽くしすぎ、重いと断られる子がいるらしい。夏野が「うちの子でね……」とよく言ってくるのだ。



 尽くされすぎて重い、か。よし、私もやりすぎは注意しよう。



 この男の人は逆に女性に尽くしそうに見えるけど。



「初めまして、私、八尋(やひろ)春花(はるか)さんの元婚約者で、小村(こむら)(みのる)と申します」



「はい、初めまして」



 名刺にはどこぞの会社の社長と書いてあった。社長? こんな若い子が? 多分、深町(ふかまち)より若いぞ。



「あなたがこちらで働く手伝いのものでしょうか?」



「……いーえー。こちらでちょっと厄介になっているものです。ご用件は?」



「春花さんに会いたいのです。それと、こちらのご主人に」



「どっちも今いないわ。あの人は今日も帰りが遅いだろうし、春花さんは出ていったしね」



「出て行った?」



 あ。しまった。ここであの日の出来事が実は芝居だったって、この人に教えるのはいけないのかも。



「まあ、詳しくはあの人から聞いてください」



「はぁ。ではこちらで待たせていただいても?」



「どうぞどうぞ。でも、私家事がありますからあんまりお相手できませんけど」



「いえ、お構いなく」



「ではどうぞ」



 かまわず家に上げてしまった。しーらないっと。あなたが悪いのよ。始末は自分でつけなさい。



 家事があるのは、今日は良子さんが風邪でお休みなせいだから。幸いにも私の休みが重なったおかげで、やれることになってる。久しぶりに掃除機を手に取り、洗濯機を回し、畳んでは鼻歌を歌っていた。ああ、楽しい。私ったら、まるで家内みたい。



 時折様子を見てみたけど、特に問題はなさそうだった。結構待つけど、苦でないみたい。社長さんは暇なのかな?



 一通り終わらせたあと、試しに少し話を聞いてみることにする。



「小村さんは八尋さんのこと好きなんですか?」



「……はい。もちろんです」



 間があったわね。なにかありそう。



「じゃあ、どこが好きです? 外見以外で」



「え、っと……世間知らずなところがあるので、守ってあげたくなります」



 普通の答えね。つまんない。



「でも八尋さん、どんなときでも日傘差すんですよ? ほしいと思ったものなんでも買いたがりますし」



「育ちですから。大丈夫です」



「でも、男の人としてはプレゼントされるんじゃなくてしたいんじゃありません?」



「そんなことないですよ。高いものをいただける価値が私にあると思えば、嬉しいです」



「……」



 ふ、ん。こいつはそうね、確かに社長さんね。八尋さんとは反りが合わなさそうだわ。自分がお金を稼ぐこと、持っていること、地位の高いことに誇りのある人だわ。今、高いプレゼントをされることが嬉しくてたまらない顔を、一瞬だけしたわね。なにより口が、そんなプレゼントをされる自分が大好きですと、言ってるわ。そんな自分でなければ彼女に見合わないって言ってる。釣り合う釣り合わないを考えてるわね。釣り合わなければダメだって、努力をせず合う人だけ探す人だわ。ふふん、目は口ほどにものを言うわよ?



 こりゃあ、うちの人に勝てるわけないわ。最悪、嫌なやつかも。



「ただいまー」



「お帰り、まゆ」



 玄関に出迎えに行くと、まゆがきちんと靴を揃えていた。



「お母さん、ちゃんとできてる? 久しぶりでしょ?」



「うるさいわね、できてます」



「手伝おっか?」



「そうね、今からお夕飯の用意だから、手伝ってもらおうかな」



 食材は前日にまとめて買ってある。なんとかなるわね。



「あれ、だれか来てるの?」



「うん。八尋さん、覚えてる? あの人の元婚約者だって」



「ふぅん……」



 その人の姿を見てきたまゆは「憲邇さんのがカッコいいね」とぼそっと言った。そりゃあ当たり前よ。あの人よりカッコいい人なんてそういないわ。



 まゆがカレーライスを食べたいというので作ってみた。個人的にはシーフードカレーが好きだけど、まゆは「あんなの邪道だよ」と言う。なぜか、カレーに対するこだわりがあるらしい。よくわからなかった。



 今日は誰も来ないのね。それとも、向こうで相手をしてあげるのかしら? 看護師さんたちなら簡単だしね。仕事を一緒にできるんだから。いいわねぇ……



 しばらくまゆと話し続ける。そのうち九時になり十時になり、まゆがうとうとしだした頃。車の排気音が聞こえて、まゆが飛び起きた。あっという間に駆け出していく。私は一応、小村さんに「帰ってきましたよ」と言ってみた。ずっと客間のソファーに座っていた彼はすっと立ち上がり、なにも言わずについてきた。



「おかえり、憲邇さん」



「ただいま、まゆちゃん」



「お帰りなさい、あなた」



 後ろに彼がいる。「ただいま、絵里(えり)さん」



「あら、ただいまのちゅうは?」



 とまたふざけてみると、



 頬に軽い唇の感触。



「……」



 嘘。嘘。な、なにしてるのよ。ええっ? あ、あなた、いつもなら冗談はやめてくださいよって、言うのに……あああ、真っ赤だ、私。やだ、お客様もまゆもいるのに……



「に、荷物よこしなさいっ。あ、あと、上着、持っててあげる」



「いいよ」



「こらっ、憲邇さん、あたしにもしてよ」



 あ、まゆにもしてる。いいえっ、でも、なんであたしにまで……あ、あなた、私のあやふやな気持ちになんて、応えないはずじゃ、なかったの?



 あやふやじゃないって、固まったって、思ってくれた?



「そちらの方は?」



「……初めまして。八尋春花さんの元婚約者の、小村実と申します」



「ああ、あなたが……すみません、少々お待ちいただけますか」



「ええ……」



 あ、あの、だったら、さ、まゆ、寝かしつけたあと、こっそり別の部屋、行かない? あ、ううん、いきなりよね、そ、そうだ、唇からにしましょう。それと、早めにデートね。いいでしょ? どう?



 ああ、また微笑んでる。



 ご飯は後回しにして、私たちは小村さんの向かいのソファーに座り、この人を中心に隣に座った。まゆが腕を組もうとするより早く、私は彼の腕を巻き込んでいた。ああもう、どうして私これだけしか胸がないのよ。



「あの、絵里さん、今はちょっと」



「……」



 離せなかった。今しかない。例えどれだけ周りに人がいても、離す気にはなれないと思う。まゆだってそうよ。いいからおとなしくしてなさい。私の胸、存分に味わっていいから。



「……すみません、こんな格好で」



「いえ、あなたがそうだと、こちらとしてもやりやすいです」



「二股ではなく、元からあれは狂言です」



「……本当ですか?」



「ええ。八尋さんに確認を取っていただいても結構ですよ。父親が強引に決めた結婚に反発して、一芝居打っただけです。その父親に告げてくれても構いません」



「……そうですか」



 彼はそれなりに気落ちしてるようだった。どうかな、これ、好きの度合い小さそう。確かにあの人を好きだったのかもしれないけど、どうかな。この人も社長だし、元からお金になんて困ってないでしょうけど。



「では、春花さんのお腹にお子さんがいるというのも?」



「ええ、嘘になります」



「あなたのこともなんでもない?」



「いいえ、八尋さんはこの人のことが大好きよ」



「絵里さんっ」



 うふふ。いいじゃない。気分いいから、つい口が出るのよ。



「言ってたのよ、彼女。隣にいるだけで力をもらえた、心で繋がってる気がしますって」



「……そんなことを……」



 おい、なんで二人して言うんだよ。



「なあに、浮気したいの? いいわよ? あの人と一回につき、私に三回ね」



「お母さんっ!」



「ふふ、ごめんなさい」



「……そちらは奥様?」



「いいえ。こちらに住んでもらっているだけです。少し事情がありまして」



「そうですか。でしたら、彼女にもまだチャンスはあるんですね。私にしろ、あなたにしろ」



「はい。もちろんです」



「それを聞いて安心しました。これで失礼します」



 なんて急に元気に立ち上がった。見送りに玄関まで(腕を組んだまま)行くと、去り際、「そうだ。お似合いですよ、あなたたち三人は」ってにっこり笑って言ってくれた。



「いい家族に見えます」



 一礼をして、戸を開いた。私とまゆもずっと、笑顔で手を振っていた。



「いい人ね、あの人」



「うんうん」



「お似合いって言われちゃったね」



「うんうん」



 まあ、あれは手を出さないでくれっていう嫌味なんだけどね。まゆには言わなくていいから。



「お似合い、か」



 お? なによその、意味深な台詞。



「そうだ。今日はありがとう。家のことしてもらって」



「あらあら、どういたしまして。メイドさん並とはいかないけど、それなりにやったつもりよ。さ、ご飯食べましょ。ずっとまゆったら待ってたんだから」



「お母さんだってぇ」



「……」



 ああ、本当に家族みたい。ごっこも続けてたら真剣味ばっかりになりそう。勘違いしそう。今度お名前は? って誰かに聞かれると、深町絵里ですって答えそう。答えたい。深町絵里、深町まゆ。いいわ。最高ね。



 カレーライスを頬張る彼を、ずっと眺めてたい。まゆもじいっと見つめてた。終始くすぐったそうに、「おいしいね」と言いながら食べてくれる。まゆがあーんをすれば躊躇なく口に入れる。結構頻繁にしてるのに、私がしても同じなの。両方が口を開けると、そっと食べさせてくれる。ふふ。この人が二人いればいいのに。そうしたら取り合いっこしないな。ああもう、もっと不器用にやりなさいよ。そっと口にカレーをつけるくらいがいいわ。そうしたら指でそっと掬ってね。ああダメ、引かれるわそんなこと言ったら。もっと段取りをしっかりしないと。計画性がないと一気に転がり落ちそう。



 この人があんまり魅力的だから。



「ね、憲邇さん、今日お風呂一緒に入ってくれるよね? 髪洗ってほしいな」



「うん、いいよ」



「あら、じゃあ私があなたの髪を洗おうかな」



「ダメだよ、あたしがやるの!」



「そう? じゃあちゃんとわしわししてあげるのよ?」



「任せてよ」



 三人で後片付けをして、沸かせてあったお風呂に入る。脱衣所で先にさっさと脱ごうとする彼に、わざと「あらまゆ、ちゃんと脱げないの? ほら、この人にやってもらいなさい」と言ってみた。一瞬不思議そうな顔を娘がしたけど、すぐに「うん、脱げないなー。手伝ってほしーなー」ともたもたしだした。上半身裸になった彼が苦笑して(きっとわかってて)脱がすのを手伝ってくれる。……久しぶりに見たけど、着やせするのよね、この人。意外と肩幅広いし、胸板も薄くないわ。



 カラフルな靴下を立ったまま脱ごうとするまゆが、ぐらぐらとバランスを崩そうとしたので彼が支えてくれた。ふふん、上出来よまゆ。そうやってできるけどできないフリをするのは常套手段だからね。それと先に靴下を脱がず肌を見せるのもいいわ。



 まゆが残り下着だけになる頃には、私も同じように下着だけになっていた。もう少しお腹へこませないと。この人にはいいけど夏に外で泳ぐときが恥ずかしいわ。この人はきっと連れてってくれるから。



 あ。視線逸らしてる。ふぅん? 見ると勃っちゃうのかな? あれだけ毎日やって下着なんてたくさん見てるくせに、反応するんだ?



「憲邇さん、なにしてんだよ。タオル巻いちゃダメだからね」



「え、だって、この前したば」



「もう七月だよ。一ヶ月に一回はしてくれるって言ったでしょっ」



「う……」



 あれれ、本当に勃ってるのかな? さすがに恥ずかしいのかな? 仕方ない。



「まゆ、男の人には色々あるのよ。今日は我慢できない?」



「えー? この前平気だったじゃん」



 この前は確か、誰か来てたのよね。一回やれば確かに勃ち辛くなるから。今日は誰も来てないし、ってことは、外でやってきてもいないのね。あらあら、大変大変。



「ちょっと、向こう向いててくれるかな」



「ほら、向いててあげましょう」



「え、あ、うん」



 そそくさと反対側を向いた。その間にブラを外して畳む。まゆもまっしろなスリップとパンツを脱ぎ、丁寧に畳んだ。後ろで衣類が落ちる音がして、そのままノブを回す音が聞こえたので「ちょっとあなた、なにしてるの、脱いだのくらいちゃんと畳みなさい」と言ってやった。扉は開かれなかった。



「いいよお母さん、あたしやりたい」



 最後の一枚を脱ぎながら「ダメよまゆ、男の人のだらしなさはちゃんと矯正しなきゃ。いつもきっちりできてるのに今日だけなんてダメ」と律儀に動こうとしない彼の肩を叩いた。



「……ごめんね。先入ってていいよ」



 局部を隠しながら脱いだものを畳んでいく。私はそれとなく体を手で隠しながら、まゆと一緒に彼が終わるまでそこで待っていた。バカね、この人。……? なぜか、まゆはちらちらと私を窺っていた。



 ちらりと見えた彼のモノは、初めて見る形をしていた。思わず目を逸らし、隠していた手を少しだけずらした。



「……」



 この人ったら立ち上がりこちらを見ようともせずすぐに浴室へ入っていった。まゆは肢体をさらけ出したままあとに続く。私は隠してるけど隠れてない状態をうまく作りながら、そっと最後に扉を閉めた。彼は適当に湯を浴び、さっさと浴槽に入っていった。私たちはまるで気にせず、しっかりと身体を洗い流してから彼の両隣に座った。



「……」



「……えへへ」



 まゆったら嬉しそうに右手を抱きこんでる。よし、私もやろう。



「憲邇さんのうで、かたくてあったかいね」



「そうねえ。いい腕だわ」



「……」



 二人ともがちらちらと視線をやっていた。まゆはいつものように膝の上に座ろうとはしなかった。やっぱり、屹立したモノと触るのはダメだと思ってるんでしょう。でも、自分の体で興奮してくれてると思うから。嬉しいのね。私──首を振る。



 生殺しね。ある種罰ゲームだわ。目を閉じたってもう遅いわよ。むしろ、両腕に感じる感触で想像して、余計我慢なんてできないんじゃないかしら。ここで襲われたらどうしよう。底にある手の、すぐ傍に愛撫すべき対象があるのに。そっと座る位置をずらして、太ももを彼の左手にぶつけた。



「……あの、なにか話そうよ」



「そうねえ……ね、まゆ、この人にご奉仕したい?」



「うん、したいっ。つくしてあげたいの」



 どこでそんな言葉覚えたのかしら。まあいいわ。「ね、あなた、勃ちっぱなしで辛いなら、ぬい──」



 私、なに言ってるのよ。それじゃまるで、まゆと二人で相手してあげるみたいじゃない。ああ、目を覚ましなさい。そんなのダメよ。



「ぬい? つらいって、なに?」



「なんでもないわ! やっぱりなし。ごめんね」



「?」



 あ……どうしよう、かしら。この状況って、この人にとってみたら相当苦痛よね。かといって、どっちかを犯していいわよなんて言えないし(私ならいいけど、でもまゆが悲しみそう)、二人で抜いてあげるなんてセックスの手前になってしまう(私はいいけど)。とすると我慢してもらうか、もしくは……



「ね、まゆ、お母さんの髪も洗ってほしいな」



「そう? じゃ先お母さんやるね」



 湯船からあがり、鏡面の前に座った。まゆが後ろに立ちシャンプーを手に含ませる。



 まゆが見てないうちに、こっそり一人で済ませないかしらと思って切り出したけど、横目で見る限りまったくその素振りはなかった。あ、そうか。お湯の中でできるはずないっか。しまったわね。どうしましょう。



 ……さっきからずっと、頭の中を最悪の想像がよぎってる。この人が抑えきれずに、私を襲ってくれることに。娘を忘れて、嫌がりながらも私は大いに喘いで、応えてしまう想像。それを希望する女と、そうなったときのまゆを考えて断らなきゃと思う母親。でも、彼の目が、唇が、指先が、まっすぐなモノが、頭を離れない。



「はい、おしまい。憲邇さん、次あたし洗ってよ」



「うん、わかった」



 ザバザバと大きな音を立てて上がる彼をじっと見てしまう。隠してはいるもののグロテスクなモノが天井に向かっていて、我慢できるこの人を純粋にすごいと思ってしまった。



 だから、八尋さんたちに対して紳士であれるのね。



 また彼が繊細な手つきで娘の髪を撫でるように洗っているのを湯船から見つめる。あんな大きなモノがまゆの中を蹂躙した。娘の大きさを何度も見てる私からすると信じられなかった。写真はもうあまり覚えてないけど、実際に初めて勃起したものを見てあれよりも大きい気さえする。ひどい男。最低ね。よく裂けなかったもんだわ。



 つまり、それくらい慎重にやった。きっと何度も慣らしたんでしょうね。激痛に顔を歪ませ、涙したとしても嬉しかった。お互いに。



 彼は本当にただ、愛しただけ。お互いが望んだから結果がああなっただけ。犯罪だけど。なぜかしら、今はもう、怒りも悲しみもあまり感じない。



 指の綺麗な人を知ってしまったから、かな。



「ね、憲邇さんおっきくなるのって、気持ちいいからでしょ?」



「う、うん」



「お母さん、今もおっきい?」



「おっきいわよー。ほんっと下品なくらい」



「やっぱり。なんで? さっき着替えてるときからおっきかったけど、なんでなの?」



「男はね、気持ちよくても、興奮しても大きくなるんだ。女性の下着姿や裸を見ると、興奮するんだよ」



「へぇ……朝さ、憲邇さんのあそこ、すっごいかたい感じすんだけど、あれは?」



「男は朝はどうしてかそうなるんだ。私もよくわからない」



「ふぅん。じゃあ男の人ってデパート行くだけでおっきくなって、しゃせいとかしちゃうんだ。大変だね」



「……いや、それは」



「そうなのよー。私ももういつ射精()るかいつ射精るか心配でねー」



「二人とも、こういうの下ネタって言うんだ。人前で言わないでよ」



「あなたの前ならいいんだ?」



「そういうわけじゃ……」



「憲邇さん、もういいよ。次あたしね」



 ザパっと髪を洗い流し、彼の後ろに回った。



 背の高い彼が椅子に座ると、まゆは立ってちょうど彼の頭ぐらいね。髪を洗ってあげるには最適かも。あ、じっと見てる。



「うーんでてこないなー。あたしね、いっぺん白いのでるとこ見てみたいんだけどなー」



「まゆちゃん、そういうのも下ネタっていうんだ」



「憲邇さんの前じゃなきゃ言わないよ。あんなにえっちなこと言わせたくせにぃ」



「……ね、男の人ってそうなるとえっちなことしたくなるんでしょ? えっちはダメだけど、私たちにえっちなこと、言わせるくらいならいいわよ?」



「そうなの?」



「そうなの。おっきくなると、一回白いのださなきゃ興奮したまま苦しいのよ。射精させてあげよっか?」



 二重の意味を込めて、言ってみた。今日のキス。もしかしたら、この人は一歩距離を詰めてくれる気がして。



「いや、いいよ。それだったら一人で別の部屋でするから」



「えー、いいよ、言うくらいならいいでしょ? あたしもくわ──あ、ううん、なんでもない」



「……」



 聞かなかったことにしよう。「いいわよ。言わせなさい。なんなら、ポーズだってとってあげるわ」



「い、いいよ。言葉だけで達するなんてできないから」



「じゃあ、自分でやっていいわ。私たちをおかずにすればいいのよ。不本意だけどね」



「おかず?」



「まゆにはあとで教えてあげます。ね、どう? 見ないであげるから。私たちで興奮したなら、私たちの前で、私たちでやるべきよ」



 無茶苦茶な理論ね。大体、十中八九興奮したのは私ではなくまゆでよ。すべすべの娘の肌を押しつけられて興奮したに決まってる。でも、今なら冗談のように二人でできるから。冗談を本気にしたい。ここでいっそ、私を選んでくれたらっ。



「……それは、同義だよ」



「いいえ。私は自慰は自由にさせます」



「絵里さんの娘で興奮して? 娘とやるところを想像して果てて、違うとでも?」



「……それは……」



 ああ、まゆが赤面してる。自分で興奮したって、彼が自白したから。嬉しいのね。嬉しい、嬉しい……「私で、興奮したんでしょ? 私で勃ったんじゃない。私の下着姿で、私の胸を押しつけられて興奮したんでしょ? あなたがどう思ってようが関係ないわ、私たちはそうとります」



「うんっ。そうだよ、お母さんみたいな美人の裸見て興奮しない人いないよっ。気持ちよくなってよっ。なんでも言う、どんな格好もするよ? つくしたいの、ごほうししたいっ」



 当然の賛成をした。まゆは自分でしてくれたと、セックスに近いことをしてくれたと思っている。そしてそれが正しい。でも建前は私。私で抜いた。そう、彼が言いさえすれば。私だって満足できる。



 娘も母親も女も満足できる、最悪の方法。彼だけが真実を知っている。でも、私たちにわかる方法はない。だったら、これでいいはずよ……それがどれだけ、欺瞞に満ちてたとしても。



「……」



 彼はシャワーを出し頭の上の泡をすべて洗い流していった。まだ途中だった娘が困惑していると、その背中に手を回し強引に自分の膝に乗せた。そのままぎゅっと、片手を胸に置いて抱き締める。真っ赤になったまゆが上を見上げると、こういうことだと、私を貫いてきた。



「違うわ」



「違わない」



「あんっ」



「──」



 右手、が、いやらしく娘の平らな胸を揉むと、むす、めが、聞いたこともない声を、だし、た。



「やっ、あっ、やめ、おかさ、み、あうっ」



「やめて!」



 思わず立ち上がった。まゆの閉じた股の間に彼の指が向かってる。それが動きを止めないから、感じているまゆを強引に引き剥がした。



 胸の中に抱いたまゆは、かすかな恍惚にわずかに涙を滲ませ、七歳児とは思えない眠たげな色気で彼を見つめた。



 見つめる先にあるモノは、さっきよりずっと直立をしていた。



「許せないなら、同じことです」



「……」



 言い返せなかった。まゆが、無邪気な子供だったまゆがもう、完全に開発されてる。以前は体を洗ったって、くすぐったそうにするだけだった。今は、そう、絶対に一人でやる。成長した、わけじゃない。いいえ、成長したのかもしれない。でもそれは……



 調子に乗るんじゃなかった。彼が見せたことのない『男』を見せるから、思わず調子に乗ってしまった。帰宅時に余計なことを言うんじゃなかった。淡い期待が、娘でなく私だと、希望として勘違いをした。



「やだ……あ、あたし、えっちになってる……」



 恥ずかしさに身体を丸め、た。ありえない光景。七歳の女子が、身体の感度に恥ずかしさを覚えてる。



 この現実に、私は……どうすればいいのかわからなかった。彼を引き離せば、ほぼまゆは立ち直れない。同居を続ければ、いずれ彼はまゆを襲う。そうなったとき、私はまゆを守れない。わかっていたこと。まゆは何度も夜を経験し、大人の人並みに達していることに。愛があった、必要だったと思っても、いざ目の前で繰り広げられるとやはり母が顔を出す。まだ早い、って。



 どう転んでもいけない気がする。どうしたら、いいのかし、ら。



「……お母さん。まだ、ダメ? 今、見たでしょ? あ、あたし、すっごく気持ちいいの。ほしいってすぐわかる。うれしくて……しょうがないの」



「ダメ、よ。気持ちよくなんてないでしょ。久しぶりだから、つい嬉しいだけだわ」



「う……そうだけどおっ」



 ほんと、に? まさ、か。まゆが演技、を、するなんて。私に嘘を、つく、なんて。



「ちょっとはほんとだもん。気持ち悪く、ないもんっ。憲邇さんに触られると、あんな声出ちゃうの。お母さんだってしてもらえばいいじゃん。まだあっちこっちキス、されてないんだから」



「ダメ、だって……」



 そんな方法であなたの傷を癒したくないのよ。あなたが大きくなったら、きっと後悔するわ。今は傍にいるだけの、安心で少しずつがいいの。現にうまくいってるじゃない。この前スカートめくられたって、でも平気な顔してたでしょう。



「すみません。今度からはちゃんと対処してから入ります。でも、自分たちでするからなどとは、言わないでください」



「……」



 私はまゆを湯船に戻して、自分はそこから上がった。まゆのほうからは見えないように、彼の局部を隠して、彼の前に座る。



 逸らさない彼に、私は目を閉じて一気に顔を近づけた。



 熱いお酒のような感触がする。



 すぐに押しやられた。



「……嫌な感じ、した?」



「しません。ですが、娘のために自分を犠牲にする母より、女の人のほうが好きです」



「子供が、でしょ。よく言うわ」



「はい。あなたと一緒でなければいいと、ずっと思っています」



「憲邇さん……」



「私はあなたと一緒で嬉しいって、ずっと思ってる」



 そっと、右手を、彼のまたぐらに、近づけていった。



 バシッ、と弾かれる。でも、諦めない。



「なんていうんだっけ、したことないけど、手で、やってあげる」



「あ、お母さんずるい」



「許せないのではないのですか」



「許せないわ。でもそれと想像は別よ。想像や妄想は止められないし、そこは自由でしょ? あなたがどう思っていようとも、現実は、私が相手をしてる。さっき言ったとおりよ。あなたは、私で、興奮してるの」



 そこから、本当にしていってよ。嫌な感じしないなら。



「……そこまでして、やっておくことでもないじゃないか」



「憲邇さん、ひどいな。やってあげたいんだよ。ほんとはおそってほしいんだから」



「そうよ? せっかく裸なんだから、この欲棒を突き立ててくれていいわ。娘の前で淫らに乱れるのを見られて、きっと私も興奮する」



 どう、かな。えっちかな、今の台詞。あ、ちょっと目逸らした。



 ……グロテスクな彼を、そっと包んだ。初めての感触。熱く、変に蠢く性の塊。……こんなものを、手で触ってる。娘の前で。官能がこみ上げてきて、私の吐息を惑わせた。



「こんなことを続けたら、いずれ同じことをするよ」



「甘いわ、ここでなら止められるもの」



 そんな自信ない。この人が最近運動をしていることは知ってる。体格もいい。デスクワークばかりとはいえ、男の人に力で勝てるとは思えなかった。でも、ここはこう言って、思い留まらせるしかない。



「え、えっと、どうすればいいの? セックスのとき、ああなってるから……上下に動かせばいいのかしら?」



 試しに擦ってみる。硬いけど、ぐにぐにしてるような、不思議な感触ね。ちらりと、彼を窺ってみる。あ、さすがに恥ずかしいんだ。変な顔。ふふ、かわいい。



「いーなーお母さん。ね、それくらいあたしでもできるよ。ダメ?」



「ダメよ」



 今日は私がやるんだから。



 気持ちよくなったら射精るのよね? いつかしら。声あげてくれるとわかるんだけど。



「なにか言わないの? そういえば男の人って声上げないけど」



「……言わないよ。少なくとも、私はね」



 あ、すごい脈打ってきた。びくびくしてる。もう射精るのかな? あれだけ焦らしたものね。この人はまだ若いし、早漏でも何回もできればいいわ。



 手でしてあげる関係って、どんなのかしら。風俗嬢? 身体だけ? でも私は好きよ? こうしてると、胸がチカチカ点灯するくらい。指先に全神経が集中してるもの。あなたを感じるの。興奮、してるわ。……乳首、勃ちそうだもの。



「喘いだほうがいい? 私がなにか言う?」



「い、いいよ」



 じゃあこうしましょう。左手で彼の右手を取り、無理矢理自分の胸に押しつけた。



「お母さんずるいよ、もおおっ!」



「我慢して? この人をこんなにしたの私たちなんだから。さっきまゆが興奮させたでしょ? 次は私よ」



 ああ、湯気で顔が熱い。



「……ちぇっ」



 彼の右手は、ぴくりとも動かなかった。じっと見上げて「心臓の鼓動、感じない? あなたに奉仕して、ドキドキしてるの」体も前にのめらせた。この人の大きな手の中にまるまる全部入るサイズ。自由に揉みしだけるわよ?



 びくっとなった。出ては、ない。興奮してるんだ。そっぽ向いちゃってまあ。



「ねぇ、こっち向いてよ。私の身体、見て」



「……」



「嫌なら嫌って言ってよ。跳ね除ければいいじゃない。気持ちいいくせに、我慢しなくていいのよ?」



 その一言で吹っ切れたのか、急に右手が動き出した。「もっと激しく動かしてよ」



「う、うん……っ」



 い、けない。私も声が出そうになった。さすがにまゆの前で喘いだりなんてしたくない。や、やだこの人、ぐねぐね揉み、すぎよっ。



 気持ちいい……ため息が出る。ただ胸を揉まれるだけのことが、こんなにも感じるなんて……ただ彼の性欲を、処理してるだけなのに、おかずにされてるだけなのに……自分で触るのと、どうしてこんなにも違うのかしら……んっ。



 あ。いけないいけない。負けないわ。さっさと射精しなさいっ。これくらい? もっと早く?



 ……ああ、目と目が合った。お互い、口付けを交わしたい顔をしてる。でも、さっきのは試金石で、今やる必要なんて、ないでしょ。そりゃあ、私はしたいけど、ほっぺなんて言わずに、唇で……



 首筋にキスを、された。今度は私の身体が跳ねる。舌が肩を這い、鎖骨に向かった。ほとんど、これ、セックスよ。最後の砦を守ってるだけ。ほぼ同じ。拒絶できない。ああ、後ろでまゆが息を呑む音さえ聞こえる。まゆに見られてる。私たちの営みが、子供に……



 めちゃくちゃに右手を動かした。早く終わらせよう。嬉しくて愉しくてたまらないけど、まゆの前でなんてやだ。まゆの前だから、興奮して乳首を勃たせた私を、まゆにだけは教えたくない。



「あ」



 射精、した。二人で声をあげる。……初めて、見た。喜んで咥えると以前言ったものの、一度それを試し誤って噛んでからは二度とやりたいと前の夫は言わなかった。私もあまり乗り気じゃなかった。断続的に出てくる精子を、じっと眺めてた。ちらっと彼を窺う。やっぱり恥ずかしそう。こんな風に出るのね。



 手足にかかった白濁液はとても熱かった。「どろどろね」そしてとても強い媚薬の匂いがする。……これ、なら、別に、飲める、かも。『飲んで』って迫られたら、『咥えろよ』って頭をつかまれたら。できるかもしれない。この人なら従ってしまいそう。従順に頷いてしまいそう。『試しに舐めてみて』と言ってみてよ、なんて目線で訴えようと彼を見たら、



「すぐ洗うよ」



 とシャワーの蛇口を捻ろうと身体を反転させた。頭の中にもやがかかっている私は、彼に見えないように急いで右手についた精子を左手で掬って広げた自分の膣の中に滑らせた。



 濡れてた。



 あっさりと指を咥え込んで、抜き取るとついてた精子のほとんどはなくなってた。今度は膣内にこの人を感じる。外の陰毛に付着したものを慌てて指で掬った。聞こえてない、よね? かすかに音したけど、蛇口を捻る音と、まゆがお湯を跳ねらせる音で消されたはず……私、なんてことしたのかしら。これで着床したら、妊娠してしまう。でも今シャワーで流されれば、もう確認する術はない。この人もまゆもなんの疑問も抱かずに白濁液を洗い流すのを見つめていた。それが余計に、私の身体を熱くする。



 もちろん、この程度で妊娠する可能性は低い。けど、下着を履いた上から精液をかけ、妊娠したケースだってある(産婦人科で聞いた)。ゼロじゃない。これで、これでできちゃったら……この人なら、責任とってくれると思う。私の気持ちが、本物だって気づいてくれるはず。愛してくれるはず。私一人を。



「あの、こういうのはもう、やりたくないな」



「えー? あたしやりたいな。来月裸で入るの楽しみんなったもん」



「ふふ。そうね。次はまゆの番だものね」



 高揚していた。陰険なことをして。でもこれは、娘も母親も女も悲しまない。彼が父親になればなったで、娘が悲しむはずがない。勝手に子を作ったことは釈明しなければならないけど。女は喜びしかない。



 また二人、彼の腕をとって。微笑みながら体の中から温められる時間を過ごしていった。



 



 



 どうもこの人はメイドさんがいないなら昼食は適当に済ませるみたいだった。



「ダメよ、ほら、お弁当作ったから持ってきなさい」



「……ありがとう」



 嫌がらせにピンク色の包みで包んでやった。ふふふ。中を見て唖然とするがいいわ。



「お母さん、用意すんの大変じゃなかった?」



「なに言ってるの。遠足のときだってしっかりしたの作ったげるから。それにね、この人が私たちに尽くしてくれてるのよ。ちょっとでも、返したいじゃない」



 それは偽らざる本心だった。まゆの父親役を、怖くない男の人役をしてくれる。教育者としても一流のこの人がともにあってくれるのに、なにもしないなんてできなかった。



「尽くせてるかな。私はまだまだ足りないと思う」



「あらあら。そう思うなら、はい、あーん?」



「……おいしい」



 こうしてくれるのは、尽くしてるっていうのよ。



「憲邇さん、あたしも。あーん」



「……おいしいよ」



 結婚していないから。いつまでも新婚気分でいられるのね。仮初めの状態だからこそここまで求め合っていける。結婚してしまえばこうはいかないと思うわ。



「ふふ、両手に花ね」



「うん。どっちも美しくて、私にはもったいないよ」



 そんな風に褒めちぎるの、あなたの悪い癖だからね。



「ありがと」



「まあお上手」



「お世辞じゃないよ」



 彼の手がそっと、二人の手に重なった。



「まゆちゃんも絵里さんも、綺麗だ。眩しいくらい」



 なに、言ってる、のよ。あなたほど眩しい、人、いないわ。目が眩んで、よく見えないの、私のほう、だから。



「……えへへ、ありがとっ。憲邇さんだってすっごくカッコいいよっ」



「そうよ、あなたは素敵だわ。信じられないくらい……ありがとう。本当に嬉しい。帰ったらマッサージしたげる」



「ありがとう、頼むよ」



「あたしもするっ」



「うん、お願い」



「そうだ、まゆ、膝の上に乗せてもらいなさい。昨日乗れなかったでしょ?」



「いいの?」



「いいよ。ほうら」



 まゆの軽い体が彼によって持ち上げられる。ふわっと膝の上に着地して、仲のいい親子にしか見えなくなる。



「わぁ……ねっ、ねっ、食べさせてっ」



 漆塗りの箸がタコさんウィンナーをまゆの口元に運んだ。小さく口を開けた娘がそれを食べ、目尻をゆるませる。



「っへへ、おいしいなぁ」



「ありがとう。……そうだ、今度私が料理をご馳走しようかな」



「ほんと? 憲邇さんお料理作れるの?」



「そうだよ。とても絵里さんたちには敵わないけどね。おいしくできるよう、手伝って欲しいな」



「うん! 任せてよ!」



「あらあら、そんなにまゆの喜ぶ顔が見たいの?」



「うん」



 力強く即答した彼にまゆは目をきらきらさせて抱きついた。嬉しくてたまらず、頭をぐりぐりさせる。そばかすが彼を見上げ白い歯を見せて笑う。……本当にいい父親だと思う。自分の手料理で娘を喜ばせたい。当然の、歓迎すべき感情。けどこれは、異性に対してのものでもある。彼の手が腰にいっていることをそう捉えてしまう、そしてそれは間違ってない。



 ……これも、あやふやな今の関係だからこそね。一線を越えてないお付き合いの関係。実際に親と子にまで至っていない。だから娘は希望を捨てず、こうして元気に笑顔であれる。彼の絶妙なさじ加減に舌を巻きそうだわ。



 一瞬、まゆに涙のようなものが見えたのは、気のせいと思って。



「うれしいなぁ……ね、あたしにしてほしいことあったら言ってね? なんでもするよ」



「特にないよ。いっぱいしてもらってるから」



「あら、あるでしょう? 元気でいなさいって」



「……そうだね。元気でいて欲しいな」



「うん! そーだな、憲邇さんがキスしてくれたら元気になれるかも」



 あはは、いいぞまゆ、もっとやれ!



「……目、閉じて」



 ぎゅっと力強く目を瞑ったまゆに、彼はそっと口付けをした。



 さっき見えたのは気のせいじゃないみたいだった。



「……好きだよ、憲邇さん」



「私も好き」



 私だって。



「えへへ。お母さんにもしてあげなよ。お母さんも元気でいてほしいから」



「い、いいわよ」



「えー? お母さんも元気ほしいでしょ?」



「いいの。まゆが笑顔なら、お母さんは元気です。大体、恥ずかしいもの」



「あはは。へんなの」



 まゆはそれ以上追求せず、朝食に戻った。



 玄関で彼を見送る。



「いってらっしゃい、憲邇さん」



「行ってきます」



「いってらっしゃい、あなた」



 この台詞、実は言ったのは数回だけのような気がする。慣れは恐ろしいものだわ。



「あれ、いってらっしゃいのちゅうは?」



「……ば、バッカじゃないの、あなたったら!」



「あはは。冗談だよ。じゃあ、行ってきます」



 軽やかに車に乗ってそこから手を振り、スピードを上げていった。



「そういやそうだね。いってらっしゃいのちゅうしてあげなよ」



「な、なに言ってるのよ」



 こんな人の目のあるところでできるわけないでしょ。ただいまのちゅうは、家の中だからできたのよ。



「ふぅん? じゃああたし明日からしてあげよーっと」



「そうよ。まゆだけで充分だわ」



「……憲邇さん、昨日あんなこと言ったけど、ほんとにあたしだけであんなんになってたのかな」



「え」



 くるっと、踵を返す。「じゃ、あたしもそろそろ行かなきゃ」



「……」



 強風に木々がざわめく。しなやかに揺れる向かいの大きな木と、私の気持ち。緑の匂いが心落ち着かせる。恐ろしく広い、真っ青な空。



 ……買ってこよう。すぐには出ないけど、でも。



 まゆを送り出し、私も出ようかと戸締りをしていると電話がかかる。なにやら今日は機械が故障しメンテナンスを急遽行わなければならないそうで、私たちは休みだそうだ。昨日の私の休みと重なり二連休。肩透かしをくらい、荷物を片づけていると……



 ピンク色の包みがキッチンに置かれたままなのに気づく。あらま。あの野郎、忘れていきやがって。



「仕方ないなぁ、届けなくっちゃ」



 なにやらうきうき気分でよそいきを準備しなくちゃならなかった。



 



 



 作戦その一、深町の家内ですと言ってお弁当を渡すだけ。作戦その二、深町先生の家で働いてる家政婦ですと言ってお弁当を渡すだけ。



 作戦その三。ただならぬ仲なので直接渡したいんですと言って場所を教えてもらう。



「……そ、そうですか。えっと、先生は多分、診察室かと……」



 なにじろじろ見てんのよ。やだやだ、この人も狙ってんのかしら。甘いわよ。あの人が独身なのは夢を見させるだけで、心に決めた人はもういるんだから。



 その中にまだ私はいないから安心なさい。



「どうもありがとう」



 にっこり笑ってその場をあとにして見る。少し歩いてこっそり振り返ると、ばっちり見られてた。ん、受付けの人以外も結構見てるぞ。くそ、人気ありすぎじゃねぇのか。



 そういえば直接彼の診察室とやらに行ったことはない。案内板と受付けの人の言葉を思い出しながら、淡い色合いの壁を歩いていった。



 彼の名前がついた診察室の前には、以前見た小学生の女の子が座って待っていた。入院してる服だから外来じゃないみたいだけど、診察待ちなのかな? なにか紙を持ってるけど。



「こんにちは。また会ったわね」



 びくっと肩が跳ねた。もしかして、対人恐怖症とかいうやつなのかしら。あんまり親しげだと悪いかしらね。少し間を空けて同じ椅子に座る。「今先生は診察中?」



「……は、はぃ」



「そう。じゃあ待ってようかな」



「……」



 彼女の視線が私の膝の上にくる。「ああ、これ? うちの人がね、忘れてったの。せっかく私が作ってやったのに、ひどいと思わない?」



「……」



 呆然とした。あ、しまった。この子もあいつのことが好きなんだっけ。ううん、この際諦めてもらったほうがこの子のためとは思うけど、それは私のエゴかな。



「私の名前は尾方(おがた)絵里です。よろしく。決して、深町じゃないわ」



「……ぅそ……」



 でもこの子は微動だにせずに震えだすだけだった。ぱらりと、紙が彼女の膝の上に乗る。そこには彼の、深町の似顔絵が描かれていた。彼の雰囲気を如実に表している、とても、綺麗な。



 あさってのほうを向いて誰に言うでもなく喋っていった。



「私ねー、ある人にフラれたのよねー。それでも諦めきれないうざい女だから、おしかけてお弁当まで勝手に作ってるの。勝手に掃除までして、色々尽くしすぎると面倒で重たいって男の人は思うのかしら」



「……そ、そういう嘘、いいです」



「ん? 嘘じゃないわよ。本当」



「嘘です、絶対嘘です、そんなはずないもの、そんなはず……」



 なんでこの子は自分に都合の悪い情報を信じるのかしら。若い子は盲目だと思ってたのに。



「だって、今あなた、『尾方絵里』って、言いました。聞きましたから。その人が、同じ家に住んでるって、お子さんと一緒に、家族みたいにしてるって」



 う、しまった。そりゃあ噂は立つわよねぇ。へたなごまかしは逆効果みたい。



「半分は本当よ。フラれたのは本当。今暮らしてるのは事情があるの。家族ごっこをする必要があるのよ」



「ぁの、こ、この前、憲先生はすごくかわいい人と手をつないでとっても仲良さそうに歩いてました」



「あらま。やだやだ、うちの人ったらモテモテね。誰? 教えてよ。懲らしめてやらなきゃ」



 こういうことなの。こういう、ごっこをしなきゃいけないのよ。



「……ぉ、怒らないんですか? し、嫉妬、しないんですか? キスしてました、肩抱いて、好きって言いあってましたっ」



「あなたと?」



「そんなわけないです」



 大きくかぶりを振る。



「そんなわけ、ないじゃないですか。ぁ、あなたみたいな美人の妻がいて、わたしなんか……」



 妻じゃないって、言葉は水に流れていく。



「怒らないわよ。叱るけどね。どれだけ浮気したって、私のところに帰ってきてくれるもの。それはね、愛されてる証拠なのよ。ちょっとくらい許容できるひろーい心を持ってるから」



「……っ」



 なぜかまた、怯えだした。私のくだらない嘘が、どうしてかこの子を傷つけてるよう。わからない。この子は一体、なんの病なのか。



「なんてね。嘘々。嫉妬し通しよ。好きなだけにね。その子が憎いわ」



「……わたしもです」



 優しく、紙を抱いた。「その子も、あなたも、憎い」



「深町先生が好きだから?」



「……」



 口にはしない。すると壊れそうだから。言外に言ってる。でも頬がすべてを雄弁に語ってるわ。うわぁ、白い肌が染まるのって、かわいらしいわねぇ。まゆもあと二、三年したらこれくらいかしら。



 扉がスライドした。患者さんにしてはおめかしした女の子(中学生くらい?)がぺこぺこして去ろうとする。ウサギのポシェットなんて提げてかわいらしい。そういえばうちの人は制服好きじゃないのかしら。着ろって言うんなら喜んで嫌がるのに。そこを甘い言葉でうまいことのせて着させてよ。こんな若い子ほど似合わないけど、でも興奮するはず。ふふ、これくらいの子が平日私服で来てるのね。この女ったらし。



「お大事に」



 ……この声に、そりゃあ酔うわよねぇ。この人がまゆに向かって『好き』と言うたび、心臓が飛び上がるもの。いいテノールだわ。この人は顔も性格もいいわ。でも目を閉じて声だけを聞いて、そのよさに現実を想像する。そして目を開けると、それを超える人がいるから、相乗効果がすごいのよねぇ。きっとあの子、帰ってから反芻するに決まってるわ。この落ち着く音色で愛を囁かれて、心が喘がない女はいないでしょう。まるでしっとり甘い和菓子みたいだもの。甘いものは別腹だから、いくらでも食べられるし。



 彼が私たちに気づき、こちらまで歩いてきた。



水村(みずむら)さん……と、尾方さんも」



 あ、赤面してるから顔見れないみたい。先にこっち済ませちゃうわよ?



「はいあなた。忘れてくなんてサイッテーよ」



「あ、本当だ……ごめんね」



「……」



「お詫びに今日はサービス残業ね。ここで私の質問に答える義務があります」



「いいけど、手短にね」



「はーい。あなたは六つ年上のお姉さんを好きになれますか?」



「なれます」



「では、例えば十一とか十二歳ぐらいの子は、好きになったりできない? 将来的に相手をするっていうのでもいいわ」



「なんでそんなこと聞くの?」



「ふふふ。あのねえ、施設の子たちがね、『いくつになったら先生とおつきあいできますか』って、聞いてくるの。モテモテね」



「……」



 彼女がはらはらしてるのがわかる。うふふ。



「そうだね……好きになるのに年齢は関係ないとは思うけど、難しいかな。大人になるまで待ってもらう形になるよ」



「具体的に大人になるというのはいくつですか?」



「やっぱり僕は男性だから、十六歳かな」



「では、小学生とはお付き合いできない?」



「そりゃあね」



「例えば、遊園地に一緒に遊びに行くのもダメ? 二人っきりでよ」



「それはダメじゃないよ。一緒に遊んでるだけじゃないか」



「ふふふ。参考になるわ。あなたにとって遊んでるだけでも、向こうはどう思うか知れないしね。一緒にお買い物して回ったり、自作小説を読んでもらったり、学校の課題で自画像を描かせてあげるのも大丈夫?」



「もちろんだよ」



 ああ、希望に胸高鳴らせてるのがわかるわ。



「じゃあ施設の子たちとも、もっとマンツーマンで遊んであげなさい」



「うん、わかったよ」



「よろしい。じゃあ私はこの辺で退散しようかな。またね、水村さん」



 手を振って別れた。曲がり角でターンし、そこから覗き見をする。あの絵。どうするのかしら。



「……ぁ、あの、これ……」



「これ……? また描いてくれたの」



「は、はぃ……」



「ありがとう。嬉しいよ。すごいね、上手だ……どこか飾っておくよ」



「……」



花雪(かゆき)ちゃんとは、仲良くしてる?」



 あ、バカ、そこでどうして別の子の話をするのよ。空気読みなさい。まさかあいつ、あの子の気持ちに気づいてないとでもいうの? 犯罪者め。



「は、はぃ。いろいろ教えてもらいました」



「……ありがとう」



 あ、気安く頭を撫でたぞ。変態め。



「君が回復してくれて嬉しいよ。これ以上のことはない」



「……ぃ、いえっ、と、とんでも、ないです……ゎ、わたしのほうが、感謝しどおしで……」



「ありがとう。でも、私にも感謝させて欲しい。君とこうして会話をできることが、嬉しくてしょうがないんだ」



 お、おいあいつ、バカじゃねぇのか。完全に口説き文句だぞ。



「……ぁ……ぅ……」



 その後彼女は、なにも言えずにただ俯くだけだった。もちろん真っ赤で。優しく撫でられるのをもっと感じてたいとすら読み取れるほどに。しばらく経ってから彼が別れを告げると、ようやく見上げて……上目遣いで、うるうると無言の愛を囁いた。



 深町はそれも嬉しいと、最上級の微笑みを返す。それで彼女は充分のようだった。髪を照れ隠しにかき上げると耳まで赤を伝染させてるのがわかった。深く、何度も礼をしてからゆっくり後ずさりをしていった。彼がずっと見てるもんだから、彼女も見たまま、後ろ歩きを続ける。やがて誰かにぶつかりそうになってようやく、踵を返した。



 ありゃひどいわ。あれで病気の患者さんに好きになるなって言うほうが無理ね。最悪の医師だわ。でも、本人にその気はないのよね。そして相手をするにしても治療が終わってからだから、あんまり問題ないのかも。



 自分の似顔絵を見つめる表情は、好意への嬉しさよりも安らぎのほうが多く見える。あれが治療の成果なんでしょうね。今度聞けるなら、あの子のことを聞いてみるのもいいかもしれない。まあ、それはさておき。いつまでもここにいるといけないから、薬局に向かおう。



 目当てのものを買うのに羞恥心があるのは、多分結婚してない人だけだと思う。もっとも、結婚してるなら夫婦揃って買いにくるのもおかしくなんてない。うちはそうだったけど、それでもあいつは照れてたっけ。以前なら絆創膏がすぐ切れてたけど、おしとやかになったまゆは怪我することも少なくなった。と、見つける。手に取ろうとして、



 誰か男の人の手とぶつかった。思わずすぐに引っこめる。「すみません」



「いえ……あ」



 ん? なにか私の顔についてるかしら。



「あの、失礼ですがもしかして、尾方まゆちゃんのお母さんですか」



「はい、そうですけど……?」



 この人は一人でこんなものを買いに来てる。買ってと彼女に頼まれたのかしら。



「やっぱりそうですか。初めまして、僕、まゆちゃんの学校で教師をやっています上山(うえやま)といいます」



「あらまあ。どうも初めまして」



 世間は狭いわね。この人も近くに住んでるのかしら。



 まゆは学校でカッコいい人がいるなんて決して言わない。そこそこいいけど、でも憲邇さんには勝てないよ、ぐらいなら言う。この人についても聞いたことなんてなかった。外見はまあ確かに美形かもしれない。かなり今風な歌のお兄さんみたいで、しかも若い。恐らく奥様方から人気は高いんでしょうね。髪がぴんぴん跳ねてる。鼻が高く細面で目がきりっとしてる。背も百七十はありそうな及第点。腕時計がちょっとオシャレかな。ちょうど白いシャツを着ているので襟元を見てみると、綺麗に漂白されていた。靴も綺麗だし、清潔な印象を受ける。点数をつけるなら九十五点ね。うちの人はもちろん百点よ。



「そちらは新しいお子さんですか」



「ええまあ。先生はご結婚は?」



「いえ、まだです。これで確定したら、籍を入れようかと」



「へぇー? できちゃった婚ですね。私も最初の結婚はそうでした」



「やっぱり、そうなりますよね? ああいうことは、計画的にやるものじゃないと思うんです」



 私が元夫とそうなったのは結婚する気があったからになる。実は少し、結婚をまだ許されておらず、子供ができたら許してくれるだろうと作り出した結果に婚姻届を手に入れたの。今考えると、若かったわねぇ。



「確かに、子を授かることって狙ってできることじゃありませんから」



「そうですよね。嬉しくもありましたけど、やっぱり少しプレッシャーもあります。僕が父に、なれるのかどうか」



「失礼ですけど、おいくつ?」



「二十四になります」



 あいつより三つ年下なのか。うぅん、あいつ童顔なのよねぇ。こういう年相応の若さを振り撒くようなタイプじゃないし。でもその年齢なら普通ね。頑張ってほしいものだわ。



 二人して同じものを購入した。さすがにあそこでずっと話すのも恥ずかしい。



「できれば、父親とはどういうものか先輩方の意見を聞きたいのですが」



「そうねえ……タバコは吸われます?」



「あ、はい。たまには」



「じゃあ禁煙してください。これは絶対です。妊娠してる女性の前で吸おうものなら、私だったら即別れてもらいます」



「……はい」



「逆に、その女性が吸うんでしたら、その人にも禁煙は絶対ですよ。できないならいっそ中絶したほうがマシです。自分たちのせいで子供にいらない障害を与えて産みたいのなら別ですけど」



「……そうですね。そのとおりです」



「子供が生まれてからもですよ。タバコを手の届くところに置いておいたら、惨事にしかなりませんし。これは父親どうこうというより、私も吸っていたので経験からの忠告です。いっそ家からタバコをなくすくらいのほうが安全です。外で吸えばいいだけですから」



「はい、なるほど。参考になります」



「ていうか、この手のことは妊娠したら女性のほうがまず習うんで心配ないとは思いますけどね。あとはまず目先のこととして、つわりがあったらとにかく女性を優先してあげてください。どんな理不尽なわがままにも耐える精神が必要です。これは男の人には一生理解できないので気をつけてください。ない人もいますけど、ある人は本当に大変ですから」



 実際私は普通だった。食べづわりで食べて吐いてを少しやった程度。電話であたしはひどかったのよー、というのを聞いた程度。結局、それも夫がこう尽くしてくれてねーと、惚気られたんだけど。



「わかりました。確かに、男のほうが楽なんだから支えてあげる必要がありますよね」



「そうそう。あれね、実際死ぬほど痛いから。経験しない男のほうがなるべく負担を肩代わりしてあげてください。これを機に家事に手を出して、おいしいお料理を作れるようになってると絶対に愛想尽かされませんよ」



 まあ、私のとこは多分に漏れずなにもしてくれなかったっけ。仕事仕事の仕事人間。ときどき向こうの母親が様子を見に来てくれたけど、最初に来て大丈夫そうねとすぐ来なくなった。乗り越えられたからよかったけど、実際よく夏野を頼りにしたっけ。夏野のやつ、料理うまいのよね。



「料理、ですか。正直、忙しいのでそこまで余裕があるかどうか……」



「あら、小学校の先生でも忙しいんですか?」



「ええ、忙しいです。もっと生徒たちと関わりを持ちたいのですけど、色々としがらみが」



「あらまあ。大変ですねえ。家がご近所でしたら差し入れしてあげるんですけど」



「いえ、そこまでしていただかなくても。ただでさえ、まゆちゃんは大変だというのに」



「うちの主人が尽くしてくれてますから大丈夫です。信じてますから」



 彼がまゆを、愛しているのは。もはや疑いようがなかった。イコール、ほかの子たちもということになるけど。



「ちなみにお住まいはどちら? 一戸建てですか?」



「ええと、実は……」



 どうやら彼の住所は深町の自宅とそう離れたところではない、というより、同じ町内だった。一人暮らしでも同棲中でもないけど、ともに暮らしているのは父のみの男だけ。彼女は別の町に住んでいて、病院が遠いので彼が来たみたい。



「あらあら。じゃあぜひ差し入れに伺おうかしら。若い男の人ともっと話をしたいしね。まゆのこともあるし」



 私だって、魅力があるはずよ。こういうことをすれば彼に嫉妬されるくらいには。そして、こんな人でもちょっとは私に好意を持ってくれるくらいには。



「……では、お言葉に甘えて。こちらもまだ学びたいところがありますから」



 かかった。「ふふ。じゃあ、甘えさせてあげます。そういえば昨日、カレーライスを作りすぎたんだっけ。どこかお裾分けに行こうかしら」



 人差し指を唇に当て、あさっての方向を向いてみる。



「はい。そうしてくれると喜ぶ人がいると思いますよ」



「ふふ。じゃあお夕飯前には届けなくっちゃ。どこに行こうか考えておきますね。それじゃあ」



「はい。またどこかで」



 彼の教師スマイルを見送って、私はあの人のいる診察室を見上げた。



 早くお弁当箱を開けなさい。そして驚いて、帰宅時にお礼のただいまのちゅうをするの。私が言わなくてもね。そのときにお裾分けのことを話してあげる。あなたはまた微笑むのかしら。それとも嫌がる? 少し機嫌を悪くしてくれると最高なんだけど。



 ああ、夜が待ち遠しい。



 



 



 



 



 弁当箱を開けると、黄色茶色緑赤と、実にカラフルだった。卵とひき肉かな、これ。プチトマトとタコさんウィンナーにブロッコリーと焼きキャベツだ。どちらかというとこの派手さはまゆちゃんに向けてのもののような……あ、おいしい。



「せんせー? 奈々穂(ななほ)ちゃんが呼んでますよー? 今静香(しずか)ちゃんも来てるみたいで」



 と、そこで(いずみ)の動きが止まる。「ほほーう? それは一体全体、なんですかな?」



「なにって、お弁当だけど」



「ふぅん……ふた、よーく見てください」



「ふた?」



 試しに取ったふたを見てみると、そこに海苔で、『スキ』と書いてあった。……どこかで見たような……



「良子さんなら今さらそういうことしませんよねー? 誰ですか、それ作ったの」



「尾方さんだよ」



「ちっ。やっぱりか」



「あ、あの、沢田(さわだ)さん?」



「奈々穂ちゃんが一緒にお昼ご飯食べたいと言ってます行ってあげてくださいさあ早く!」



 てきぱきとお弁当を元通りにし、包んで渡してくれた。「あ、あの……?」



 どこかうんざりした顔で「今日えらく着飾った美女がこの辺歩いてたっていうの、同僚から聞いて見たんですけど、まさかやつだとは……」とため息を漏らした。



「そんなにこういうの、嫌かな?」



「いーやーでーすー。あの人、真っ白なレースでティアードのワンピースを着てきやがったんですよ? ストール巻いてブレスレットつけてパンプスまで同じ色でかつリボンパンプスだそうですよっ。しかも生脚で。けっ。足が綺麗な人はいいですなー。そんな人がですね、愛妻弁当を作りやがってころっといかない男なんていません!」



「……いや、あの……」



「あの野郎エクステも着けてたな……最初別人かと思ったぜ……胸まで長さがあったし、控えめな胸なのが救いだけど、おまけにリップはほのかにピンクだったような……ムカつく、あれが似合う三十代ってどうよ……近寄られるとふんわりいい匂いがしたそうだが、くそ、どんな香水を使った? いや、石鹸か?」



「もしもーし? 沢田さん? 大丈夫?」



「それもこれもせんせーのせいですよっ! せんせーに恋したから、前は普通だったのにあんなに美人に変化したんですっ! 恋したせいでホルモンとフェロモンが出て、誰もが振り向く美女に変わったんですっ。ずいぶん若返りもしましたねっ、このとうへんぼく!」



「私は美人だから好きになったりしないよ」



「へーそーですかー? でもですね、彼女がそれだけじゃないの、せんせーがいっちばんよく知ってるでしょー? 子を思い遣るいい母親です。愛する人を大切に看病できるいい妻になれます。仕事と家事を両立できて、一人で別天地で暮らそうとする度胸もあります。それよりなにより、せんせーのことを心から好きなんですっ! 愛してるじゃないですかぁ! ちくしょう、ちくしょう……」



 なぜか、泉はそこで泣き崩れた。私は思わず抱き寄せてしまう。



「……最初にあんな状態から好きになるってことがどういうことか、わかりますか」



「……」



 わからない。



「あなたのいいところも悪いところも全部ひっくるめて好きになってるってこと、わかりますか」



「……」



「最悪が最高に変わる、理想の恋愛感情だってこと、わかりますか」



 わからない。



「あたしたちみんながどれだけ胸が張り裂けそうな思いであの人たちの同居を妬んでるか、わかりますか」



「……」



「あの人があなたに気軽に触れるたびに、妻の役を演じるたびに声が枯れるの、わかりますかっ」



「……」



 わからなかった。



「あの人はいっぺん誰かを愛しました。愛するってことがなにか、よくわかっています。あたしたちは初めてです。よくわかってないし、また愛せてもいないんです。愛してるんです。あなたがあたしたちを包む愛を、彼女はあなたに向けています。あなたのそれが愛でしかないとわかって、ほしいと思った、自分もあげようって、深く……敵わないって、思いました。あんなことをしたときは優越感がありました。でも、こんなすごい変化されると、揺らぎます……」



 ごめんなさい、取り乱したりなんかして。でも、怖いんですと、ぽつりと漏らした。あの人の快活な魅力が、怖いんです。ごめんなさい、奴隷の癖にこんなこと、言っちゃって。わがままなのはわかってるんです。でも、ダメなんです。あの人があなたを、奪っていくんです。あの人だけのものになる。このままだと、きっと……



 少し背の高い泉が、こんなに弱々しくなったのは初めてだった。あんな求め方をした、つまり、苦しくてない。彼女とは距離を置いたほうがいいのだろうか。それとも、泉にもっと近付けばいいのだろうか。



 この肩の、小ささといったら。



「せんせーを叱れる人ってそうはいません。せんせーを知れば、好きになれば叱ったりなんて、できない。あの人はできるんです。(ともえ)ちゃんのと似てるけど、もっと深い、本当に想ってるからできる叱りを、する……あたしにはそう見えました」



「……」



「あなたの荷を、背負いたいって。あたしたちみんなが、言いたくても言えなかったことを、あの人はあっさり言いました。それくらいあなたを愛しているんです。そうなんですよっ、あの人は、あの人だけは言えるんです。あの人だけは胸を張って、そんなずるい台詞が言えるんですっ。あたしだって背負いたい。分け合って支え合って歩きたい。あの人が羨ましい。あなたと関係を結んでもいないのに、そこまで深い信頼を寄せられるなんて……」



「私がそれを背負わせたいと思うのは、今のところ一人しかいないよ。それは尾方さんじゃない」



「……ほんとですか? 誰です?」



「言えない。想像に任せるよ」



「じゃああたしですね。決まりです。いつでも言ってくださいね」



 ああ、そんな顔されると、求めるしかないじゃないか。



「うん。じゃあ早速だけど、大事な人の下着が見たいな。扉一枚隔てただけのここで」



「はーい」



 泉は喜んで衣類をはだけさせた。楽しそうだが、かすかに頬が染まっている。胸を完全に露出させたところで、こっちが強引にスカートを捲り上げた。「あっ。もー」



 最初に押さえようとしたが、くすぐったそうにそのままにした。



「どうですか? 今日はライトグリーンのブラとショーツです」



「かわいいね。奈々穂ちゃんに呼ばれてなかったら危うく襲うところだよ」



「……いいですよ。手早く済ませてあげましょうか?」



 その言葉に手を離した。にんまりとし、自分からすっとスカートをたくし上げ、私の胸に顔を預ける。きちんとショーツが見え、すぐ触れるように。



「そんなもったいないことしないよ。今は君のちびっこい胸の感触だけで我慢する」



「あーっ、ひっどー」



 露出した胸をそっとなぞった。嬉しそうに笑う彼女の乳首をそっとつまんでお終い。



「やっ。もーお?」



 今度は私から服を着せていく。



「柔らかいからこれ以上は辛いよ。後でね」



 ちょっと揉んだだけなのに泉のはぐしゃっと潰すとすぐ乳首を隆起させるほど感度がよかった。こうしてわずかな触れ合いで焦らすと悶々としてくれるだろう。実際、これ以上触ると本当に危ないのだ。泉のは確かに小さいが、小さいながらも張りと弾力に溢れ揉むのが気持ちよくてならないのだから。



「……うふふ。はーい。今度もナース服でご奉仕しますねー」



「そう? 楽しみだな」



 泉が直し終わるのを待ってから扉を開いた。幸い、誰も聞いてはいなかったようだ。奈々穂ちゃんのところに向かおう。



 そう思ったとき、泉は急に正面に回って辺りを確認せずに唇を奪っていった。にかっと笑顔でそのまま逃げていく。まったく、かわいいったらありゃしない。誰もいないからいいものの、本当、無茶をやりたがる。



 ピンクの包みを見つめる。私がまゆちゃんにした事実を受け止め、尚ここまでやりたいと。やはり、母親の強さに敵うものなどこの世には存在しないのだろう。



 ……私が彼女以外を頼ろうとしたことなど、殆どないだろう。確かに、彼女たちの誰かを本当の意味で頼るときがそろそろきたのかもしれない。ゆっくり考えよう。



 いつか、会えるときを信じて。私は待っているのかもしれない。



 



 



「あ、せんせぇきたぁ! ね、ここ、ここっ。ここすわってぇ」



 泉に指示された中庭に、静香と奈々穂ちゃんがシートとお弁当箱を広げて待っていた。



「こんにちは、せんせ」



「こんにちは」



 いつの間にか、静香も奈々穂ちゃんに会いにくるようになった。広子が『友達は多いほうがいいに決まってます』と私と関係を持つ子たちを全員紹介したのだ。奈々穂ちゃんは全員と仲良くできるくらいには成長していた。特に仲がいいのはまゆちゃんで、良子もよくセクハラされるらしい。



 ……静香は常に着けてるんだな。まったく、どいつもこいつもかわいいぞ。



「あー! せんせぇそれあいさいべんとうでしょ?」



「違うよ。普通のお弁当」



「えへへ。ななほもね、おにぎりつくったの」



 彼女は後ろに隠していた大きなおにぎりを取り出した。……ちょっと、大きすぎるような。



「しずかおねえちゃんはね、ななほはまだぶきっちょだからおにぎりからはじめなさいっていうの」



「そうでしょ? いきなりお魚三枚に下ろせる?」



「おろすってなぁに?」



「お料理のやり方よ。いつか教えてあげる」



「はぁい。ね、こんなんなっちゃった。たべてみて?」



「うん」



 むむ、これはかじりつくのが難しい……



「あれ、意外とおいしい」



「いがいとってなぁにっ!」



「あはは。奈々穂ちゃんぶきっちょだから、塩加減間違えてるかと思って」



「むぅぅ! お兄ちゃんってひどいんだね。むかしはあんなにやさしかったのにな」



「お兄ちゃん?」



 静香の箸も止まる。



「奈々穂ちゃん、言ったよね、私は君の兄ではないよ」



「ほんと? わすれてるだけじゃない? ななほね、ついこないだお兄ちゃんとはなればなれになったの。ちがうおうちの子になったんだって」



「……」



 いや、違う。確かに私が子供の頃、母親が別の子供を何年か預かったことはあった。だがそれは、誰だったか忘れたけど別の人の子供で、けして妹ではなかったはず。兄として慕われてはいたが、それは血縁ではない。その子は確かに五、六歳で元の家に戻っていったけど……!



「いや、そんなはず……」



 そうだ。確かに名は、『ななほ』と言っていたかもしれない。漢字までは覚えてないが、そう彼女は言っていた。よくある名前、ではあるが、こんな狭い間柄で同名など、確かに滅多にはないはず。私の勘違いか? もしかして、母があれは妹じゃないと、別れがくるから最初から違うと教えたのか?



「せんせぇ? どうしたの?」



「ごめん。ちょっと席を外すよ。すぐ戻る」



 院内に備え付けの電話まで走っていく。確かめなければ。もし、もしも私が実兄なら。家族がまだ二人も残っていることが明らかになる。それは彼女にとっていい情報だろう。



 何度かのコール音。やがて、時差がある電話に出てくれた。



『もしもし』



「もしもし、私だよ。憲邇だ」



『憲邇くん? やだ、ママが恋しくなったの?』



「私に妹はいるか?」



『いないわよ。なに言ってるの、ほしかったの?』



「本当に? 真実を言って欲しい。今私の目の前に、患者として、真崎(しんざき)奈々穂がいるんだ」



『だぁれ、その人?』



「……昔、同じ名前の子を預かっていたじゃないか。あの子だって、ななほといったはずなんだ」



『ああ、偶然でしょう? あの子は預かっていただけです。そりゃあ、憲邇くんはお兄ちゃんなんて言われてたけど』



「……そう、か。ごめんね、急にこんなこと」



『私はいずれ別れるからって、実の妹が別の子だなんて嘘はつかないわよ。信用ないわねぇ』



「信用してるからそう思うんだよ。母さんの優しい嘘を、最近ようやく理解できるようになったから」



『あらま。嬉しいわねぇ。あ、ちょっと呼ばれちゃった。ね、もう切るけど、そう言うなら嘘でいいから早く会いたいって言ってくれる?』



「さすがにもう嘘じゃないよ。本当に会いたい。一年は長いな」



『……ふふふ。ありがとう。もうちょっとだから。おかげで頑張れそうだわ』



「うん、頑張ってね。待ってるから」



『うん……』



「呼ばれてるんでしょ?」



『……』



「母さん?」



『……そっちから、切ってよ』



「わかった。じゃあね」



 電話を置いた。違った。もし真実をつかれているのなら、わずかなりでも動揺が走るはず。それがないなら……



「おといれいってたの? だめだよ、おしょくじちゅうに」



 この子は私とは関係がないのだろう。



「違うよ。ちょっと確認を取ってたんだ。奈々穂ちゃんはやっぱり、私の妹ではないよ」



 ただ、一応市役所などで調べることもしておこう。出自になにか秘密があれば、もしかしたら本物の家族がどこかにいるとわかるかもしれないのだから。



「そっか。ざんねんだなぁ。せんせぇがお兄ちゃんだったらきんだんのかんけいなのに」



「……奈々穂ちゃん、どこでそんな言葉を覚えたの? ダメよ、そういうこと言っちゃ」



「そうなの? でももうちゅうまでしちゃったしなぁ。らぶらぶぅ」



 んー、と目を瞑った。仕方なく頬に軽くする。



「……あのおんなのにおいがするぅ。きゃあーっ、いってみたかったぁ」



「な、奈々穂ちゃん……」



 えらく偏った知識を誰かから得ているようだった。誰だろう。思いつくのはまず真っ先に泉で、次は千歳(ちとせ)なのだが。千歳の無頓着は吸収の面白さにとんでもないことを教えている気がする。聞いておこう。



「ひるどらをみてるの。せんせぇみたいにね、いっぱいこいびといる人いるんだよ」



 そこか。あれは教育上あまりよろしくないと思うのだが。病室に備え付けのテレビを禁止するわけにもいかないし。



「でも、ほんとにおんなの人のにおいするよ? このまえのめがねのおねえさんのにおい」



「ごめんね。ちょっと会ってたんだ」



「あとねぇ、まゆおねえちゃんのお母さんのにおいもするな。いいにおいだねぇ」



「……すごいね、よくわかるなぁ」



「せんせぇはおんなの人のいいにおいでいっぱい。でもね、せんせぇのにおいもするよ? しょうどくえきじゃなくて、なんかね、おとこの、くらくらぁってなるにおいする。あったかくなるにおいだよ」



「そう?」



「そうです! そんな匂い、言われてみればします!」



 袖を嗅いでみる。そう、かなぁ? やっぱり自分の匂いなんてわからないものだな。



「しずかおねえちゃんはさわやかなかんきつけいだね」



「うん、ありがとう。奈々穂ちゃんは甘い苺の匂いがするな」



「ほんとぉ? いちごきのうたべちゃったからかなぁ。ふぅん……」



 同じように嗅ぐが、やはり自分では気付けないのだろう。私はここでようやく大きなおにぎりを食べきることができた。



「おいしかった? おだいはさんびゃくえんになります」



「出世払いでツケといてよ」



「もう、おきゃくさんったらしょうがないんだからぁ。ちゃんとしゅっせしてくださいね」



「っふふ。よく即興でそんなのできるわね」



「おべんきょおしたの。だらしないおとこの人をみすてれず、どうしてもめんどうをみちゃうおんなの人のやく」



 ……本当に恐ろしく偏った知識だな。この際思い切ってテレビを見るのは時間制限をつけてもいい気がしてきた。



「でもね、せんせはだらしなくないのよ。二人の親子を自分のお家に住まわせても、お金いっこうに受け取ろうとしないの。お人好しのしっかりした人でしょ?」



「……ごめんね」



「いいえ。そのことでせんせが苦しんでるのわかってます。そういう、痛い思いをすることが責任だってわかってますから。あれだけ責められた相手と家族ごっこをすることがどれだけつらいか、想像するのは簡単です」



「違うよ。そういう辛さじゃない」



「じゃあお金ですか?」



「それも違うよ。尾方親子と今までのような振る舞いを、こんなことをしていると、君たちが辛そうだから」



 特に、泉は。



「……そこまで、わかってるんだ、あの人」



「?」



「ごっこじゃなくて、ほんとのつもりなんですね、尾方さんは」



「……そうかな」



 あそこまで尽くそうとしてくれるのは逆に迷走してるからだとも思える。がそうでなければ確かに、固まった地面なのかもしれない。



「やっぱり、同棲はつらくないんですね。ちょっとその答え、期待してたんですけど」



「どうせいってあれでしょ、おとことおんながふたりっきりになるんでしょ? いいなぁ」



「そうよ。二人っきりで、ずーっといちゃいちゃしてるの」



「ほんと? いいなぁ、ななほもせんせぇとどうせいしたいなぁ」



「……」



 彼女のこれから住む先。もちろん自宅はある。だが、共に住む人はいない。もしそこに戻ることになったときに、彼女が暮らしていけるかどうか。誰か一人、面倒を見る必要がある。そしてそれは確かに広子が適任だが、彼女には父親の世話がある。そのときになって慌てないよう、今から考えておく必要があるな。



 できるなら。みなが許すなら、パティたちのいる児童養護施設は選択肢の一つではある。名目上そこで生活できるのは十八歳までだが、一年で一人でも暮らしていけるよう教育をすることはできるだろう。してみせなければ。



 これぐらいのおいしい料理を作れる人が、あそこにはいるのだから。



「……ふぅん。なるほど、そういうお弁当を作ればいいんですね」



「あ、ななほね、キャベツすきなの。ちょうだい?」



「いいよ」



 あんぐりと口を開けた。苦笑して運んでみる。もぐもぐと食べ、「おいしぃ」と笑った。



 やっぱりこの子の笑みは、ひまわりだ。



「……せんせ」



 静香までやりだした。本当にみんな、食べさせてもらうのが好きなんだなぁ。かわいくってしょうがないぞ。同じものを運ぶと彼女も笑顔になる。初対面のときには考えられなかったような、柔らかい笑顔に。



「このあじでおとこごころをがっちりつかむんだね。よおし、ななほもがんばらなきゃ」



「そうね。一緒にがんばりましょう」



「そんなことしなくても、私の心はもうぞっこんだけどなぁ」



「ぞっこん?」



「好きってことよ。せんせは、奈々穂ちゃんのことが大好きって言ってるの」



「ふふふ。ありがとぉ。でもね、そんなのもうわかってるの。すきじゃない人をぎゅってしたりしないし、かみのけさわさわしないもん」



「でも、もっと好きになってほしいもんねー?」



「うん! もっともっとすきんなって、ななほがいないとだめなんだ、おれのそばにいてくれっ! って、なさけないおとこになってほしいの」



「うんうん! あたしも!」



「……参ったな」



 子供の吸収力が空恐ろしい。いけない方向にいかなければいいが……



「せんせはどっちかっていうと、そうなるよりカッコよく、いいから俺の傍にいろ、いいな? みたいになるといいなぁ」



「あ、いいかもぉ」



「……」



 期待の視線が突き刺さる。私は、演技は苦手なんだけどな……仕方なくなるべく強引に、二人ともを両手で抱え込んだ。



「お前らごちゃごちゃうるせぇよ。いいから俺の傍にいろ。幸せにしてやる」



「……っ!」



「うんっ! ずっといっしょにいてっ! しあわせになりたいっ!」



 思いっきり抱きつき返してきた奈々穂ちゃんのすぐ後にそっと静香も寄り添ってきた。感極まって、少し涙ぐんでさえいる。



「……ご、ごめんなさい。うれしくて……」



「ずっと一緒にいよう。ずっとね。幸せにするよ」



 何度も頷いて私の肩に顔を伏せた。静香の体温が涙を通じて伝わってくる。そうだな、静香が言って欲しいときに、このようなことは言うべきなんだな。



 奈々穂ちゃんもぐりぐりと身体を寄せ、嬉しさを体中で表していた。



「せんせぇ、うそついたらしょうちしないからね」



「うん。奈々穂ちゃんの怒るのは怖いからね。頑張るよ」



「うん……ななほね、せんせぇがそんなふうにおとこっぽいとこあるの、しってるんだ。たまにみるとどきどきしちゃう」



「そう? 恥ずかしいから、他の人には内緒だよ?」



「うん。もったいないからいわないよ。せんせぇとななほたちのヒミツだもん」



「あたしも、っ、そうだな、ヒミツにしようかな。せんせのそういうとこ、大好きだし。あんな風にされると痺れちゃうから」



 そ、そうかな? ああいうことを言えるほど、大した男じゃないよ、私は。



「そんでさ、ごちゃごちゃってなにを?」



「お料理頑張るとか、そういうことしなくていいってこと」



「あの、解説は恥ずかしいから……」



「がんばっちゃいけないの?」



「そうじゃないの。頑張らなきゃ傍にいさせてもらえないなんてことないよって、言ってるの」



「そっか。でも、ななほはがんばるよ。ね、おねえちゃん?」



 彼女の視線が私の後ろにいった。振り向くとそこに、水村さんがいた。そよ風が彼女の長い髪を揺らし、俯く視線の先が一直線に奈々穂ちゃんを貫いていた。



「おねえちゃんがんばってるもんね? ななほしってるの。おねえちゃんがいっしょうけんめい、はなそうとしてるの。なんかいもなんかいもひとりでれんしゅうして、だいじょうぶっていいきかせてる。ななほね、カッコいいなぁっておもうの」



「……」



 胸の奥に例えようもない喜びが湧いてきた。気付かなかった自分が憎らしい。同時に、気付いた奈々穂ちゃんに、そして水村さんに感謝の気持ちで一杯になってしまう。どうしよう。今はなにも、言えそうにない。



「ぁ、あなただってがんばってるの、わたし知ってる。ぁなたのほうがきっと、えらぃ」



「そっかなぁ。ななほね、おねえちゃんすっごくきずだらけにみえるの。いたいよいたいよって、しょっちゅう泣いてる」



「……そんなこと、言わないで……」



 両手を顔に当て、かすかに首を振った。



「……ぁなたを、きらいに、なりたかったのに……」



「えー? ななほね、おねえちゃんといっかいおはなししてみたかったのに。きずだらけなのにがんばれるの、すごいなぁって」



「……ぁ、あなたは、ずっと傍にいてもらうんでしょ?」



「うん」



「恋人、なんだ」



「そうだよ」



「……この人にはそのお弁当を作ってくれる人がいるの。ふた、見て」



「ふた……あ」



「あ」



 そこで二人はそこに書いてあるものに気付いたようだった。



「ほかにもいっぱい、先生のことを好きな人はいるの。それでもあなたは先生のこと好き? 先生はみんなにやさしくて、あなたにやさしいのだって特別じゃないの。わたしにだって」



「とくべつだよ」



 力が入る。「そりゃあ、ほかにおんなの人がいるのはやだけど、でもななほはこいびとになれるほうがうれしいもん。ななほといるときはななほのことみてくれてるから。それでいいの」



「嘘よ、嘘、そんなの、嘘に決まってる……嫉妬しないのは好きじゃないのよ、ひとり占めしたいと思わないのは恋じゃないのよ。わたしなんか……」



 奈々穂ちゃんは首に回していた腕を解き、ゆっくりと水村さんに近付いていった。びくつき、一歩後ずさる彼女の右手を取り、そっと自分の心臓に向かわせた。



「おねえちゃん、ほら、ななほのおっぱいさわって」



「……」



「おこってないでしょ? ななほはまだこどもだから、せんせぇがぎゅうってしてくれたりきすしてくれるだけでじゅうぶんなの。それだけでしあわせ。このさきのしあわせは、もっと大人になってからにするの」



 水村さんは奈々穂ちゃんが『おねえちゃん』と呼ぶことに違和感を感じていない。奈々穂ちゃんのことを知っているのだろう。今の子供だからというのにも困惑はしていないようだった。



「……ひどい……ぁなた、なんてひどい……」



「ななほひどい? なんでぇ?」



 震える小さな少女は力なく地面にへたりこんだ。不思議がる奈々穂ちゃんを尻目に、両手で顔を覆い……自らの顔に、爪を立てた。



「やめるんだ!」



 ようやく私は動き出し、彼女の両手を掴んだ。血が額に滲む。恐ろしく細い手首。恐ろしく白い肌。恐ろしく蒼白な……瞳。



 歪んだ笑みをとり、それは激しい自嘲と自責が混じり、頬に透明なものを伝わせた。



「さい、最低だ、わたし……わたしに、振り向いてほしくて、こんなこと……」



「違う、最低なのは私だ。責めるなら私にしてくれ。お願いだ」



「……無理、ですよぅ……七歳の子とも、恋人なんでしょう? あの子は嘘だって言いますけど、でも、わたしは……わたしは先生が、憲先生がやさしいから、罪と傷ごと包んであげてるだけだって、わかるんです」



「それは優しさなんかじゃない」



「嘘つき……去年、十三のあの子を、抱かなかったくせに。抱かなくちゃいけないから、ううんどうしても抱きたくなったからやったんでしょう? 本気で、あ、愛してるくせに」



 受け手が違うと、こうもとられ方が違うものなのか。信じて欲しい人に信じられず、信じないと思っていた人が信じている。



「やさしくない人は、七歳を、子供の女の子を、ほん、本気で愛せないんです。のちの恐怖に身がすくんで、リスクだけ、考えて、その子のことを忘れます。それがやさしさだって、勘違いするんです。自分と関係を持てばあの子が不幸になる、そんな勝手な、男が考えそうな理屈で思い遣ったフリだけ、して、自己満足の偽善で傷、つけるんです。罪と罰を、か、覚悟で背負ってるんです、憲先生は」



「違う」



「じゃなきゃ真崎さんに会いにきた、み、みゆとまゆっていう少女、あなたと、え、えっちして、しあわせだって、言いません。真崎さんにどんなえ、っちしたか、恥ずかしそうに言ったり、しません。ろ、ロリータコンプレックスなだけで襲ったならそうなるはずないんです。一時の感情でかわいそう、だと思ったからやる必要があったなんて、そんな理屈で子供が満足なんて、するはず、な、ないんです。そうでしょう? あれだけ変態的なセックスをして、び、ビデオまで撮られて、め、命令には絶対服従で、それが、し、しあわせだって声、出しませんよ」



「だから」



「本気で好きだから」



 たじろぐ、目線。「憲先生が本気で自分のことを、す、好きだって確信してるから、これが愛、愛の形なんだってわかりきってるから、うれしいんです。少女をだ、抱きたいだけじゃない、同情でもなんでもない、『好き』っていう、魔性の響きを含む恋愛感情を、『女』に注いでくれるから、た、ただそれに応えたいだけなんです。そうでしょう? 大口(おおぐち)さん」



「……うん」



「……」



 ここまで知られている。私たちがしたことなど全て筒抜けと思っていいだろう。通報しないでくれたことに感謝すべきだろうか。いや、それよりも。



 心の奥に潜む核心を突かれると、人はこれほど動揺するものなのだな。ああ、本気で私はみゆもまゆちゃんも、誰もかもを好きだろう。その理由はけして、彼女たちが少女だからという理由ではないと、私も感じている。そして、同情なだけなら、あれほど私の趣味を押し付けたりはしないのだろう。



「わたしは、違う……わたしだけを見てほしい。ほかの女の子と楽しげに会話なんてしてほしくない。お弁当を作ってくれる人なんていなくなってほしい。憲先生の患者さんはわたし以外みんな、消えちゃえ……」



「おねえちゃん……」



 悔しそうに水村さんは嗚咽を繰り返した。わかっていたこと。私の似顔絵をあれだけ描いたということ。鈍感な私でもここまでくればわかる。



 私を、好きだということ。



「……っく、ご、ごめんなさい、みにくいな、わたし……最悪だなぁ……わたしこそ、いなくなっちゃえばいいのに……」



「醜くなんてない」



 顔を上げる。「君は普通の人間だよ。嫉妬しない聖人君子ばかりじゃない。彼女たちだってしてるけど、うまく隠せるだけなんだ」



「でも、わたし、今日あなたにありがとうって言われて、それだけで充分だったのに、これ見て、勝手に、あんなこと言っといてって怒ってるんです。お、おかしいです。わたしと話せてうれしいって、嘘つきって勝手に、最低なんです」



「今も嬉しいよ」



「っ……」



「君とケンカできて嬉しい。水村さんが目に見えて治っていくことが嬉しくてたまらないよ」



「ど、どこがですか」



「君が怒るようになったことも、嫉妬するようになったことも嬉しくてたまらないんだ。感情をこうやって表現してくれてる。これは進歩だよ。目覚しい進歩じゃないか」



 それは本当だった。水村さんに限って言えば、ここまで人間らしい感情を表すことは治療の段階が一段階進んだと言っていいだろう。



「は、話をすり替えないでください。だ、だからって、嫉妬していいはず、ないんです」



「いいよ。君の主治医の私が許す。君はいくらだって、他人を妬み、憎んでいい。自分を憎みさえしなければ」



「……ううう……どぅして、あなたはそんなこと言うんですかぁ……ううう……ひっ、ひどいですよぅ……わたし、自傷(こんなこと)をしたんですよ? どうして、赦してくれるんですかぁ……心が、不安定で、他人をき、傷つけるのが怖い、から、自分でやってる、だけなのに……っ、普通じゃないんです、おかしいんです、卑怯なんです」



「黙りなさい」



 強引に抱き締めた。……なんという、細く、小さな身体だろうか。物理的なものももちろんだが、精神的にも。



「言ったろう、私は君の医者だ。私が普通だと言ったらそうなんだ。医者以外誰が患者を判断する? 私が赦すから、君はそのままでいなさい。すぐに退院できるようになる」



「……っく……ううう……ううう……ううう……ぁぁ……」



 以前に比べて格段に大きくなった声で、水村さんは泣いた。ここには殆ど人がおらず、誰も通りがからなかったが、病院から見ることはできる。この子がこうして泣けることを、五十川(いそがわ)にも見て欲しいものだ。



「せんせぇのまわりには泣きむしばっかだね。ななほもつよくならなきゃ」



「そうね。あたしも泣き虫は卒業したいな」



「いいよ、そんなの卒業しないで。水村さん、私がおかしいと思ったら、別の医師に相談してください。病状を理解してもらうのに時間はかかるかもしれないけど、私よりうまく治療できる人がいるかもしれない。なにより、私の治療方針がおかしいと思ったら、医者は変えるべきだしね」



 私のこのやり方の正否は、私にはわからなかった。このままでいけないとこの子自身が思うのなら、別の院を訪ねてもらいたい。



「……先生、わたし、一ヶ月くらい前に、あと一ヶ月で治らなかったら退院しなくちゃならないって、聞きました」



「ああ。だが今は病院側も君の治療に時間がかかることを納得している。気にする必要はない」



「ゎ、わたし、退院したい、です」



「……え」



 彼女はぎゅっと、自分の右腕を掴んだ。



「わたしは、あなたのことが、す、好きです。あなたとおつきあいしたいんです。退院して、変わりたい。あなたの傍じゃないところで、がんばってみたいんです」



「……」



 無上の喜びとはこのことだろうか。ああ、ああっ! 思わず力の限り抱き締めてしまった。



「……ぅ……」



「あ、ごめん」



「……せ、先生はそうやってすぐ患者さんをなでたり、抱きしめるからいけないんですよ?」



「う、そ、そうだね。よく言われるよ」



「そ、それで、いいですか?」



「ああ、もちろんだとも。まだまだ私が診る必要があるが、それはなにも病院である必要はないしね。ただ、学校に早まって行く必要もないんだよ?」



「は、はぃ。わかってます。もう少し、なんていうか、り、リハビリしたら、退院します」



「うん、わかった。ありがとう」



「……ありがとう。大好き……」



「せんせぇ? すきっていってるよ? ちゅうは?」



「え? あ、いや……」



「ぃ、いいの。まだ、その、恋人は、早いから……き、気持ちだけ、知っててください」



「返事は、お断りかもしれないよ?」



「いいえ、きっとOKです」



 ……笑った。信じられないくらい、可憐な……フリージアのような、笑顔。



 なんて強さだろう。



「水村さん、名前はなんていうんですか」



 彼女ははっきりと、誇らしそうに告げた。



詩音(ふみね)です」



 



 



 



 



 まゆちゃんはこの前、憲邇さまにちょっとだけ大切なところ触ってもらったって言ってた。憲邇さまが、自分の裸見て興奮してくれたって、うれしそうに。お母さんがヌイてあげて、来月は自分がやるんだって。



 やっぱりみゆはぜいたくな気がする。今までいっぱいえっちなことしてもらってる。毎日がしあわせすぎて、ちょっと不安かも。



 まゆちゃんにもしてあげればいいのに。お母さんも憲邇さま好きだからってダメなんて、変だよ。一緒にしてもらえばいいのに。



 憲邇さまと一つになるときにちょっとだけふくらむお腹が、大好き。早く赤ちゃん、ほしいから。



 今日はなんでかランドセルを持って来てって言われたから学校帰りにそのまま憲邇さまのおうちに来てみる。なんでこれ、いるんだろ? しばらく宿題したりして待ってると今日は早めに憲邇さまが帰ってきた。あ、いいことあったみたい。うれしそう。



「ランドセル持ってきてすぐ乗って」



 それだけ言ってすぐ消えちゃった。慌てて準備して走ってく。



「早く乗りなさい。時間なくなっちゃうよ」



「はぁ……」



 助手席に座って、ピンクのランドセルを憲邇さまがうしろへやってくれた。今日はまゆちゃんは臼田(うすだ)くんと遊んでる。みゆだけ、いいのかな。憲邇さまと一緒で、いいのかな。



 指輪つけてて、いいのかな。



「ちょっと遠くへ行くよ。しばらくかかるから、眠いなら寝てなさい」



「あ、いえ、もうあんまり眠くないです」



「そう? ちょっと前まではすぐ寝てたけど」



「はい。最近はそうでもないです」



 えへへ。憲邇さまちゃんとみゆのこと見てる。



 車が少し早めに動き出した。憲邇さまの運転はお母さんより揺れない。でも、眠くもならないから不思議。



「さて、今日はずーっとやりたかった野外露出をするよ」



「やがいろしゅつ?」



「みゆは私以外の人に下着を見られたい?」



「いいえっ、いやです。憲邇さまだけです」



「恥ずかしいの?」



「はい。当たり前です。それが、なにか……?」



「しょうがないなぁ。やっぱり今日はさわりだけにしよう。野外露出っていうのはね、外で下着を見せたり、裸になったりすることなんだ」



「え……」



 あああ、憲邇さまへんたいだぁ……



「あ、あの、み、みゆが、その、お外で、裸に、その、なるんですか?」



「今日はそこまでしないであげる」



 いつかするんですかぁっ。



「それと、野外露出はなるべく外でのセックスとセットにするよ。露出した後は外でね」



「え、え……そ、そんなの無理ですぅ!」



「他の人に見られちゃうかもしれないのは恥ずかしい?」



「恥ずかしいです! み、みゆの裸も、大切なものも全部憲邇さまだけのなんです。ほかの人なんて、いやです」



 あ、憲邇さまの顔がいじわるな顔になったぁ。



「じゃあやらないとね」



「……ううう……」



 で、でもみゆは、ちょっとだけうれしい気持ちもあるな。憲邇さまの、へ、へんたいなことをするときの、えっち、ほんとに憲邇さま気持ちよさそうで、うれしそうだから。憲邇さまに、え、えっちなことささやかれるの、ちょ、ちょっとだけだけど、き、気持ちいいし、びくって、なっちゃうし……憲邇さまの声、みゆは大好きだから。逆らえないし、逆らいたくない。



 これからみゆはお外で下着とか見せちゃう、へんたいになっちゃうんだ……うああ、顔が熱いよぅ。



「じゃあ、手始めに今スカートめくりなさい」



「……」



 赤、信号です。いっぱい人、います。車、止まってます。



「今スカートめくるか、それとも下着全部脱ぐか、どっちかしか許さないよ。ああ、みゆがどうしてもっていうんなら、今から裸になってもいいけど?」



 いちごのケーキより甘い憲邇さまの声に、みゆはもう、よっちゃいそう。



 憲邇さま……好きだってわかる命令、えっちな命令、もっとしてください……



 手がスカートの裾をそっと、つまんだ。



 



 



 



 



 



 



 



 



 



 



 



 



 



 



 



 



 



 



 



 



 第十六話あとがき的戯言



 



 三日月(みかづき)まるる、以下作者「お風呂シーンは大好きなのでたくさん書きます。全編お風呂でもいいくらいです。あ、性描写がない……すみません」



 尾方絵里、以下絵里「死ねっ」



 尾方まゆ、以下まゆ「お母さん、今日は変なこと言ってないじゃん」



 作者「こんばんは、三日月です。このたびは「ごめんなさい」第十六話を読了くださりましてありがとうございます。今回は尾方親子です」



 絵里「こんばんは、絵里です」



 まゆ「こんばんはー、まゆだよー」



 作者「正直、三十三にもなって白のワンピースだのリボンパンプスだの」



 絵里「まゆ、こいつ殴っていいわよ」



 まゆ「そうだよ、お母さん前のお父さん起きてからすっごくきれいになったんだから」



 作者「そういう余裕が生まれたせいか身だしなみに気をつけるようになったのですか?」



 絵里「まあ、そうね。あのときはほとんど余裕なんてなかったから、化粧なんてスキンケアぐらいだったかしら」



 まゆ「そんなお母さんだからね、本気でお化粧すると化けるんだよ」



 作者「いますね、そういう人」



 絵里「失礼ね。お化粧しなくても、私はそれなりに見られる顔してます」



 まゆ「若返ったよね、憲邇さんに会ってから」



 絵里「そんなことないわよ。あの格好だって、めちゃくちゃ無理してんだから」



 作者「んー、まあ、馬子にも衣装と言いますし」



 絵里「……今から目玉焼き作るからさ、お前ずっとフライパンに手乗せといてくれる? その上に直接焼いてあげるから、落としたらやり直しね? できたの食べてよ」



 まゆ「……」



 作者「……すみませんでした」



 絵里「はいはい、よろしい。それじゃあ靴脱いで? 中にカミソリ入れるだけで許してあげるから」



 作者「いえ、あの、本当にすみません」



 絵里「え、爪楊枝入りのパンが食べたいの? しょうがないわね、ちょっと待ってて」



 まゆ「お、お母さん」



 作者「すみません、胸が大きくないとか言ってすみません」



 絵里「その話はすんなっ!」



 まゆ「え、お母さん結構あるのに……」



 絵里「よーし、お前ここに正座。今から三時間説教な」



 作者「絵里さん、キャラ変わってますよ……それでは今回はこの辺で。さようなら」



 まゆ「さ、さいならー」



 絵里「今回の話も一切本編と関係はありません。本当よ? じゃっ、さよならっ。大体、登場するキャラが若いからって三十三がおばさんみたいな表現やめてくれる? あいつと六つしか違わないのよ? あいつらが若いすぎるだけなのよ。三十すぎたら恋愛するなっていうの? アラサーで仕事する人は一人の時間も大切にしたいし恋愛にばかり労力は割きたくないとか言うけどね、私は違うの。結婚は恋愛結婚。それしか認めないから。夢なんて見てないし結婚してしまえば向こうなんて異性と見やしないわよ。今だってそうだし小言小言の連続だわ。そろそろ姑が帰ってくるみたいで憂鬱ね。ともかく、私だって着飾ればそれなりになるの。不細工じゃないんだから。そりゃあ、肌はメイドさんにも女子高生にも勝てないけど、私には私の魅力があるのよ。そこを描きなさいよ。作者でしょう? いい加減にしないとストが起きるわよ。よし、今からそれぞれの子の今後の幸せな展望を書きなさい。今すぐ! 書かないなら今後全員ここに出たりしないからね! ほら、早く書く!」



 



 20090605 三日月まるる



 




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テーマ : 官能小説 - ジャンル : アダルト

2009/06/24 23:16 | 小説COMMENT(0)TRACKBACK(0)  TOP

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