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タイトル「ごめんなさい」その零_序章_序章といいますか始まりは大体こんな感じでよろしくお願いします

 こんばんは、三日月まるるです。
 それではこちらをどうぞ。タイトルはまだ未定です。

 追記:あとがきを載せ忘れていたので載せておきます。
 追記の追記:ルビをちゃんと振って明朝にしました。すみません。タイトルも「ごめんなさい」とします。一話二話もそれからもルビを振ります。ご了承ください。









 



 罪だと思う。



 でも、笑顔に……罪はない。



 



 



 零 序章といいますか始まりは大体こんな感じでよろしくお願いします



 



 



 笑顔で裸の少女を差し出してくる老人たちが目の前にいる。先生なら初めてでも安心だなどと言っている。笑顔だ。だらけきった笑顔だ。老人たちの名前は覚えているが今すぐにでも忘れたくなった。今日は先生に大切なプレゼントがあると言って少女を出してきた。その意味を、最初はかりかねていた。衣服をすべて脱ぐようにと少女に言った言葉で、ようやく理解する。ああ、なるほど。



 こいつらは女の子を泣かせるのが楽しくて楽しくて仕方ないんだなと。



「今まで大切に純潔を守ってきた甲斐があったなぁ。まあ、後ろと、口はやっちゃったが」



「口と後ろと、後かけるのだけにしてたしなぁ。前もやれれば最高だったんだが」



「まあ一年間楽しかったよ。これからはもっと楽しくなるじゃろう?」



「さ、先生、どうぞ。これも習わしですよ。ほら、みゆ、言いなさい」



「……」



 無表情に虚ろな、色のない瞳でじっと前を見続けていた少女は、肢体を隠そうともしていない。それが、ゆっくりと口を開く前に、私は先にそれを制した。



「町長、胃の調子はどうですか」



「なんじゃ先生、今はそんなのどうだっていいでしょうに」



「食後に膨満感、あるでしょう。以前胃潰瘍だって診断されましたよね」



「ああ、それが?」



「私の同期が担当だったので聞いてしまったのですが、先日判明したんです。胃癌の恐れが、あります。一度検査させていただきたいのですが」



「……そ、そんなこと、なんで今……」



 彼は、呆然としていた。彼一人で大丈夫だろうか。他の人間も言ってあげなければ彼女はこれまでと変わらず、いやそれ以上の目に遭ったりしないだろうか。彼女を守るには、どれくらいのことが必要だろう。



「彼なら、治せますよ。胃癌でしたらかなりの症例を経験しましたし、今なら早期発見になるでしょう」



 まあ、出任せだが。



「ほ、本当ですか?」



「ええ、ですが……彼は、古い慣習で小さな女の子を傷付けるような人は、診たくないですよ。この事実を知らせたら、どう思うでしょうか」



「! で、ですが、巫女にはわしらを癒してもらうという古くからの役目が……」



「失礼ですが、会計の方は不眠症でしたよね? 私でよければ無料でカウンセリングさせていただいても。ええ、もちろん今通ってらっしゃる方より、私のほうがより適性が高いと思います。投薬よりもカウンセリングのほうが、完治しやすいと思いますよ」



 もちろん、出任せだが。



村貞(むらさだ)さんは糖尿病でしたね。インスリンを低価格でお譲りするよう取り計らっても構いません」



「……なにが、仰りたいのですかな」



「大切な古くからの習わしを取りやめてくださるのでしたら、これからもこの町に献身しますし、お代を抑えて治療いたしましょう。それだけです」



「……」



「もちろん、今までのこともすべて水に流しましょう。ですが、お断りするのでしたら……」



 私は穏やかな笑みを浮かべた。私は知っている。彼らが今までなにをしてきたのか。まさかこういうところで役に立つとは思っていなかったが。そういうことは、私自身が危うくなったときに使うものだと思っていた。だが、今カードを切らなくてどうする。目の前の少女が、崩れそうになっているのを止められなくてどうする。私は脱ぎ捨てられた彼女の服を彼女の上からかけた。……みゆ。確か、まだ小学一年生のはずだ。巫女、つまり養子にとられた女子ということ。親は、このことを知っているのだろうか。恐らく、今まで一年間、老人たちの慰み者となっていたことを。もし、知っていてなお手出しを……ああいや、そうか。なにか理由があって当然か。これほどの幼い頃に、これほどの目に遭わせたい親がどこに……ああいや、そのための両親か? だとしたら、彼らにも言っておく必要がある。



「……先生には言ってもわからんかもしれませんが、巫女には色々と重要な役目があるのです。これが最も重要なのです。町に一番貢献している方の子を授かる。そのためには、早いほうがいいでしょう? 練習も必要です。どうか、わかっていただけませんかな?」



「では死んでください。私や看護師は激務に疲れ、うっかり医療ミスをしますから。誰が死んでしまうのかはわかりませんが、この先この町の人以外診ないようにしますから。安心してください。投薬を間違えた場合、長時間苦しみながら息絶えるだけですので」



 私はみゆちゃんを抱きかかえて部屋を出ようとした。彼女はやはり、前しか見ていないものの、かすかに震えていた。もう大丈夫だよと、私は笑いかける。



「先生! その子は力を持っとるのです。その力で、今までも多くの町民が救われてきました。そりゃあ、性交に近いことですのでひどいことかもしれません。ですが、それによって救われる人がいるのです」



「私は料理ができないから、みゆちゃんの好きなものを食べに行こうか。ちらし寿司は好きかな?」



「……」



「先生! ……そのまま行くというのでしたら、わしらにも考えがあります」



 私はふすまを閉じた。



「立てるかい? 服をちゃんと着ようか」



「……」



 彼女は呆然と、私を見上げるばかりだった。その瞳が、七つとは思えないくらい、暗くなっているように見えるのは、気のせいではないのだろう。……私で、癒してあげられるだろうか。望まない性行為は、私が毛嫌いしているものの一つだ。過去に、強姦された女性が屋上から飛び降りるのをどうして止められなかったのかと、悔いるときもある。あのときはまだ私も未熟だった。今でもきっと、同じ場面になれば取りこぼすのだろう。……けれど、今は。



「……先生、しないの? みゆ、ちゃんと飲めるよ?」



「…………」



 ああ、だから虚ろに見えたのか。慣れてしまったのか。それに。……どうして私は、知らなかったのだろう。一年の猶予があった。だが確かに、各自の家の中でなにがあったかなど、把握することは難しい。だが、それでも。



「もう、君は飲まなくていいんだよ。だから、ちゃんと服を着て。これからおいしいものを食べに行こう。遊園地にでも行くのもいいね。いっぱい遊ぼうか」



「……」



 彼女はまだ、私がなにを言っているのか理解していないようだった。なら、大丈夫だとわかるまで言い続けるしかないだろう。私は彼女の服を取り、順に着せていった。



「……ほんとに? もう、あの苦いの飲まなくていいの?」



「君が望まない限りね。もう、家族と好きな人以外の前で、裸になる必要もないよ。体を触られることも、君が許さない限りしなくていい。もう、大丈夫だよ」



「……」



 服を着せ終えると、彼女の小さな手をとって歩き出した。今は強引にでも、連れ出してあげたほうがいいと思う。とりあえずこの家にいる必要はないだろう。



「でも、町長のおじいさんはえっちなことでもやらなくちゃダメなことだって、お父さんお母さんもやらなくちゃって、言ってたよ」



 そうか。ならば話をつけておく必要があるな。人間は、養子でも子供には絶対に情が深くなるものだとばかり思っていたが。



「……私が、やらなくてもいいようにしたんだ。それじゃダメかい? 君だって、嫌だったんだろう?」



「……」



 玄関に着いた。靴を履きながら、さてどこへ行こうかと思案する。やっぱり彼女のよく行くお店がいいだろう。当惑しながら靴を履こうとする彼女に、そっと訊いた。



「なにか食べたいものはないかな? どこによく外食に行くの?」



「本当なの? みゆ、えっちなことは好きな人同士でしかやらないって聞いたことあるけど、嘘だって思ってた」



「……本当だよ。君が今までやってきたことは、好き合う人同士でだけでやることなんだ。君がやりたくないって思うのなら、やる必要はないんだよ」



「……誰も、そんなこと言ってくれなかった。みんな、やらなくちゃやらなくちゃって、巫女だからって、気持ち悪かったのに……違うの? やらなくて、いいの?」



 洗脳は嫌いだ。人権や諸々の理由があるが、意思を尊重しない。必要でないことなら、嫌であるならやらなくていいはずだ。それが例え、人を救う結果を壊すのだとしても。



 私はなるべく、作り物でないように笑顔になった。「ああ、もうやらなくていいよ。君がやりたい人と、やりたいようになるまでね」



「……先生が、そうしてくれたの?」



「そうだね、私が説得した形になるかな。ごめんね、今まで気付いてあげられなくて」



 本当に、一年間私はなにをやっていたのだろう。もっと情報を集めなければ。救えるものは、救うべきだ。



「ううん、ありがと。ありがと……っ……」



 彼女は緩やかに涙を流した。私はそれを、じっと見つめていた。頭など触れれば、彼女は嫌がるかもしれない。今まで散々触られてきたんだ。男の手は、それだけで嫌だろう。さっき抱きかかえたことだって嫌なことかもしれない。それを、治してくれる人を見つけてもらわなければ。私がそう、なれればいいのだけれど。



「あ、あの、どうしてみゆを助けてくれたの?」



 それは青臭い正義感かもしれない。ただ気に食わなかっただけかもしれない。老人たちに報復するチャンスだと思ったからかもしれない。いずれにせよ、それらは語る必要はないだろう。



「君みたいなかわいい女の子が好きだからだよ」



「……」



「さて、どこ行きたい? 行きたいお店があるんだったら、遠慮なく言って欲しい」



 車の鍵を開け、運転席に乗り込んだ。彼女も、少し躊躇していたものの、助手席に乗ってくれる。



「ちゃんとシートベルとしないとダメだよ」



「……あ、あの、お名前はなんていうんですか」



深町(ふかまち)憲邇(けんじ)。好きなように呼んで欲しい。君は眞鍋(まなべ)みゆちゃんだね?」



「あ、うん。み、みゆって呼んでください」



「よろしく、みゆちゃん」



「……よろしくです、憲邇さん」



 私が笑いかけると、彼女はぱっと顔を逸らした。あれ、どうかしたかな。



「じゃあ、どこ行こうか」



 



 



 彼女はまだちらし寿司というものを食べたことがないそうだったので、割とリーズナブルな料亭へ行って頼むことにした。子供用に量を少なくしてもらって。



「おいしい。すごく」



「そう。それはよかった」



 彼女の頬にご飯粒がついていたので、それを取って自分の口へ持っていった。お茶を一口。



「……」



 次にアジの握り寿司を食べた。やっぱりお寿司はおいしい。でも次は、私もちらし寿司にしようかな。



「あっ、ご、ごめんなさい。みゆ、食べるのへたで……」



 彼女は目を瞑った。



「気にしないで。次から気をつければいいんだから」



「……?」



 そっと目を開ける。「あ、あの、叩かないんですか」



「…………」



 それは彼女の両親の躾だろうか、それとも、老人たちの? どちらにせよ、それを当然のように受け入れる、彼女が少し、悲しかった。



「叩かないよ。そんなことしなくったって、みゆちゃんは自分で直せるだろう?」



「……」



 おどおどする彼女。そうやって、人の機嫌ばかり窺ってきたんだな。まだ七歳なのに。まだまだ、どこまでも子供なのに。



「で、でも、みゆ、とろいから、ぐずぐずしてるから、すぐ失敗ばっかりやるから、ちゃんと叩かないとダメだって、みんな……」



「私は叩かないよ。叩かずに、ちゃんと君を直していってあげられると思う。私は臆病だからね。叩くには、勇気がいるから」



 傷付ける、勇気が。



「……」



「それだけで足りる? なんだったら、追加でなにか頼もうか。ここ茶碗蒸しもおいしいよ」



「あ、い、いいです。あんまり食べちゃ、太るから」



「ダメだよ。子供はお腹いっぱい食べないと」



「……じゃ、じゃあ、それもほしいです」



「うん、わかった」



 お店の人を呼んで、それとついでに厚焼き玉子も頼んでおく。このお店の厚焼き玉子は絶品だ。私は訪れるたびに必ず頼む。ほんのりと和菓子のように甘いそれは、噛むたびに柔らかくとろけるのだ。



 届けられた茶碗蒸しを珍しそうに眺め、恐る恐る掬うその姿から、茶碗蒸しも初めて見たのかとふと思う。もしも、彼女があまり料理の種類を知らないのなら、これからたくさん教えていってあげたいものだ。



「ちょっと熱いよ」



「えっ、あ、そうなんですか」



 その言葉に何度か息を吹きかけ、ゆっくりと口に運んでいった。やっぱり熱かったのか渋い顔をする。がそれはすぐに、驚きに変わった。



「……はじめて食べました。こんなの」



「おいしい?」



「うん、とっても」



 少しずつ掬っては食べていく彼女は、やがて、わずかだが、笑っているように見えた。それだけで、どこか救われる。やっぱり女の子は笑顔がいい。涙は嬉し涙だけにしたい。きっとそれは無理なのだろうけど。



 運ばれてきた厚焼き玉子にも彼女は興味を示した。これも知らない? 確かに、家庭では中々でないだろうけど……一体、どんな食生活を送っていたのだろう。



「食べる? 甘いよ」



「え、え? い、いいんですか?」



 玉子を半分に割って、片方を彼女の前に置いた。彼女は恐る恐る、それをそっと箸でつまんだ。



「……甘い」



「でしょう? すごいよね、こんな甘さが出せるなんて」



 日本人でよかったと思う瞬間だ。料理がおいしいというのは、それだけで偉大な文化だと思う。こういうものには、大枚をはたくのもいいと思える。



「ごちそう様」



「ごちそう様でした……あ、あの、それでみゆはなにをすれば……」



「? なにって?」



「だ、だって、憲邇さん、みゆに食べ物くれた。食べ物もらったら、お金ないんだからなにかしてあげなくちゃダメだって、みんな……あ、あの、憲邇さんなら、みゆ、なんでもするよ。助けてくれたし、やさしいし……」



「…………」



 彼女の言う、みんなが一体誰と誰を指しているのか、調べる必要があるな。ああ、でも、でも! なんで、こんなに……くそっ! くそっ! いやダメだ。怖い顔をするな。抑えろ。優しさを身にまとえ。彼女を癒すんだ。私は、医者だろう!



「……じゃあ、笑って欲しいな」



「え?」



「君の、笑顔が見たい」



「あ、はい」



 彼女は慣れた様子で、作り笑顔を取った。……これは、やらされ慣れている。そうわかる程度には、私も大人だった。どれだけひどい目に遭おうとも、笑えと言われて、仕方なく作れるようになった、嫌な笑顔だ。



「違うよ。さっきのを食べたときに見せたような、もっといい笑顔だ」



「あっ、ご、ごめんなさい。へたで……」



 それでも彼女はわからないのか、仮初めの笑顔を作り続けるのだった。それは正直、泣き顔よりもひどく私の心を突き刺してくる。今までのどの患者よりも、彼女の心は傷付いているのかもしれない。



「もういいよ」



「ご、ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい……」



「謝らないで欲しい。私は、これからもたくさん君と食事をするけど、でももう、なにもいらないよ。私は、君と食事できるだけで充分嬉しいから。それだけでもう、君から充分に色んなものを貰っているからね」



「……」



 彼女は上目遣いで私を窺い続けていた。それに、笑顔を返す。そうすると彼女はふいと顔を逸らすのだった。ああ、やっぱり傷は深すぎる。私で癒せるだろうか。誰か他の人が必要かもしれない。とにかく、根気よくやっていかないと。今日が休みでよかった。たくさんの経験をさせて、彼女に楽しんでもらおう。辛いことばかりあったんだ。これから、いいことが起きなくてどうする。



 



 



 どこかで遊ぼうか、と言っても、彼女は首を傾げるだけだった。



「……今までなにして遊んでた?」



「遊ぶって、なんですか?」



「…………」



 ああそうか。やっぱりあいつらは泣かせるのが楽しくて楽しくてしょうがないんだな。本当にわざと起こした医療ミスで殺してやろうか。やってみる価値は大いにある。



 ……しかし、私は嗜虐的な気持ちが、湧き上がってくるのを感じていた。私は、私も、同じ……



「楽しいことだよ」



「あ、はい。それならやったことあります。やっぱり、憲邇さんもするんですね。あ、あの、手がいいですか、口がいいですか」



 元に戻る瞳の奥深く、私は、やはり眉をひそめてしまう。



「……違うよ。それじゃない。他のこと。よしわかった。とにかくどこか行こう。やっぱり遊園地かな」



「……?」



 



 



 少し遠いところにある遊園地にやってきた。土曜日なのでそれなりに混んでいる。それほど大きくはないが、定番のものは一通り揃っているので、遊ぶにこと欠かないだろう。



「はぐれるといけないから、手を繋ごうか」



「はい」



「……嫌じゃ、ないのかい?」



「どうしてですか?」



「……いや。ならいいよ」



「あっ、ご、ごめんなさい。いやがったほうがいいですか」



「君の好きにしていいんだよ。嫌なら嫌って言って欲しい。……もう、君は自由なんだから」



「……よく、わかりません」



 じゃあ、わかるようにしよう。



 近くにあったのがお化け屋敷だったのでとりあえずそこに入ってみる。手作りの精巧な模造品が目玉だそうだ。手作り……尊敬する。



 暗くおどろおどろしい雰囲気に、彼女は戸惑っているようだった。心なしか、繋いだ手に力がこもっているような気がする。



「怖い?」



「……少し……きゃあっ!」



 突然現れた吸血鬼に、彼女は私に抱きついてきた。……どこか震えが、尋常でない気がする。



「……ごめんなさい……ごめんなさい……助けてください……なんでもします……ごめんなさい……」



「…………」



 間違えた。こんなところに入るんじゃなかった。私は彼女を抱きかかえ、足早にそこを後にする。



 外に出てから彼女を降ろし、もう大丈夫だと語りかける。なるべく、優しく。彼女は、必死に私に抱きついていた。



「……ごめんなさい……ごめんなさい……お願い……はなさないで……」



「うん。ごめんね」



 そのまま二人、抱きしめあった。



 心地よかった。



 しばらく経って、彼女も落ち着いたのかようやく体を離してくれた。それでも手をしっかりと握っていたけど。



 彼女は今不安定だ。前のように無感動でいればいいのか、それとも元に戻っていいのか、わからないのだろう。必死に無表情を取り繕うとする、今の彼女が、痛い。



 私はただ笑って、アイスクリームを買ってみた。



「……甘いです」



 おいしそうに食べる彼女を見ていると、ほっとする。和やかな顔をしてくれていれば、どれだけ救われるか。



「ごめんね、怖かったろう」



「でも、ちょっと、もう一回見てみたい気もします」



「そう? 怖いもの見たさってやつかな……」



 私はああいうの、まったく興味をもてないのだが。ああ、造形美はいいとおもう。しかしそれだけだ。



「次はなににしようか。なにか、乗りたいものとかある?」



「……よく、わかりません。はじめてだし……」



「……そっか。じゃあ、全部やろう。そんなに数多いわけでもないし、この町は大きくもないしね。すぐ回れるよ」



 アイスクリームを食べるのを待って、色々と回っていった。……彼女は、それにさえなにかしなくてもと、問いかけてきた。私はまた、気にしないでと笑うばかりだった。



 彼女は、遊んでいくうちに少しずつ打ち解けていった。相変わらず手をずっと握っているままだけど、初めて見て、体験するものに純粋に驚いていた。こういうところ特有の着ぐるみをじっと見つめていた。握手してもらうといいと話すと、彼女はいいんですかと言ってきた。大丈夫だよと諭すと、彼に近付き、おずおずと手を差し出していた。オーバーアクション気味にそれに応える着ぐるみに、彼女は何度もお礼を言っていた。そして少し、笑みを作る。



 数ある乗り物に乗っても、彼女は決して嬌声を上げなかった。大声出してもいいんだよと言ってみても、彼女は、そういうのはうまくできませんと、言う。……それが少し、悲しい。



 最後に観覧車に乗った。やはりこの遊び場はそんなにアトラクションが多くなく、全部回っても夕食の時間にはまだ少し余裕がある。緩やかに上昇していく箱の中で、二人は隣り合い、まだ手を繋いでいた。



 そうしていなければ、今すぐにでも二人は別れてしまうとでもいうかのように。



「楽しかった?」



「はい。とても楽しかったです」



「そう。それはよかった」



 沈みかけの夕日が差してくる。鮮やかに赤いその色合いに、目を細めてしまう。町は、あんなにも小さく遠くなってしまった。



「……すごい、高い……海が、きれい……山も……町も……」



「……」



 私も彼女と同じものを見る。確かに、綺麗だった。手を伸ばせば届きそうなものなのに、実際はずっと遠くにある。それがこんなにもたくさんある。その事実は、どこか心躍るのだろう。



「……そうだね。それでも、君の笑顔には敵わないよ。きっとね」



「えっ」



 彼女はきょとんとしてこちらを振り向いた。ああしまった。私はなにを恥ずかしいことを。慌ててそっぽを向いてしまう。だが事実だ。子供の笑顔ほどの、宝物はない。



「……あ、あの、こっち向いてください」



 ……ちらりと目線をやる。



 そこでようやく、彼女は心からの笑みを見せてくれた。



 私も、暖かな笑みになる。



 



 



「あ、あの、今日、お父さんもお母さんもいないから、あの、け、憲邇さんの、お家に、泊めてもらえませんか。なんでも、お手伝いしますから」



「……わかった。泊まってくといい。一応着替えだけはお家から取ってこようか」



 頷いたので、そちらに車を走らせた。



 ……傷は、深すぎる。なにかをするときに、必ず報酬が必要だと考えている。それはある種間違っていないのかもしれない。だが、こんな幼少の頃からそれでは、なにも……



 彼女の家に着いた。もし両親がいるのなら、この場ですぐに話をつけたかった。だがいないというのならそれも仕方ない。彼女が用意をしてくるまで、私は車の中で待っていた。彼女は、大きなボストンバッグを持ってきた。やっぱり、女の子は色々と用意がいるのだろう。



「ごめんなさい、遅くなって」



「いや、いいよ」



 エンジンを再起動させた。



 そろそろ女中さんは夕食を作ってくれていると思う。先んじてもう一人分用意しておいて欲しいと言っておいたので、大丈夫だろう。



 家の門を開けると、夕食の匂いがこちらまで漂ってきた。なんの料理かまではわからないけれど。



「お、お邪魔します」



「ただいま。葛西(かさい)さん? 帰りました」



「あ、はーい」



 ぱたぱたと彼女は駆けてきた。「お帰りなさいませ、ご主人様」



「やめてくださいよ、私のことは名字でも名前でも構いませんっていつも言ってるでしょう」



「私が呼びたいんです。メイドといえばご主人様でしょう?」



「女中でしょう。勘弁してくださいよ……」



「……」



「あ、もう一人って、この子のことですか?」



「ええ、眞鍋みゆちゃんです」



「は、はじめまして。眞鍋みゆです。今日は一日、お世話になります」



「はい、初めまして。葛西良子(りょうこ)っていいます。よろしくね。あの、ご主人様、一日って……?」



「今日はご両親が不在なので、泊めて欲しいって頼まれてね。後で寝所も用意して欲しい」



「はい、わかりました。あの、じゃあ、私もご夕飯ご一緒してもよろしいでしょうか?」



「ええ、それは嬉しいですね。夕食は?」



「もうできています。それじゃ、みゆちゃん、お荷物置いてこよっか」



「は、はい」



 繋いでいた手を離して、彼女は葛西さんについていった。一度、不安そうにこちらを振り向いたので、大丈夫だよと、笑いかけて手を振っておいた。会う人会う人、君を傷付けるわけではないのだと。



 そんなこと、当然なのに。



 まだわからないのか。



 私は夕食前に、書斎でニュースをチェックしておいた。今のところ、老人たちに動きはない。なにか企んでいるのだろうか。一応手は打っておこう。私はメールを配信しておいた。道具もあるはずだ。使い方も教えておかないと。



 夕食は豪勢なものだった。料理の種類など、私には理解できない。ああ、多分スープはコーンポタージュだ。葛西さんは本当に家事がうまい。私も、見習っておきたいぐらいだ。



「みゆちゃんは小学校にあがったばかりだよね? どんな友達できた?」



「まゆちゃんっていう、同じクラスの子」



「そう。なにして遊んでるの?」



「……遊ぶ、のはしてない。お話なら、少し……」



 葛西さんが怪訝な顔になったので、私は慌ててフォローを入れる。「まだ打ち解けてないんだよ。それに彼女は家の手伝いが忙しくてね、大変なんだ」



「そうなんですか。でもまだまだみゆちゃんは子供なんだから、たくさん遊ばなきゃダメだよ?」



「……うん」



 先ほどまで微笑んでいた顔が、少しくすむ。



 それがまた、私を……いや、いや。



 今日は久々に小説を書こうか。ここのところ、医者のほうにかかりっきりで書く暇がなかったし。小説といっても、同人的なレベルで、本こそ数冊出しているものの、自費出版な上にそれで食べていけるほど評判はよろしくない。趣味だ。好きなものを書ければそれでいい。ただの自己満足。だからこそ、楽しいのだけど。



 ……しばらくタイプの音だけが部屋の中を支配する。音楽を聴きながら書くときのほうが多いが、今日はなぜか、なにも聴きたくなかった。……色々なことがありすぎた。彼女のことを知りすぎてしまった。これから、彼女を普通の女の子らしくできるのだろうか。それとも、私の手で……



 ノックの音がする。それに気がつき、どうぞと声を出す。多分、葛西さんがお茶でも淹れてくれたんだろう。それともそろそろ風呂に入って欲しいだろうか。だったら、彼女に先に入って欲しいものだけど。



 けれど、扉を開けたのはみゆちゃんだった。私は文章を保存して、彼女のほうを振り向く。



「どうしたんだい?」



「あ、ご、ごめんなさい。お仕事中だったのに……」



「そんなことないよ。どうしたの?」



 彼女は黙って、後ろ手に扉を閉めた。なぜか鍵をかける。私が不思議そうに彼女を見つめると、思いつめたような表情で、こちらを貫いてきた。



「ほ、本当ですか? みゆを、す、好きだっていうの」



「……」



 私はできるだけ、優しく微笑み、できるだけ、真摯に答えた。「本当だよ。私は、君が、好きだ」



 そう、──したくなるほどに。



「……」



 彼女は視線を逸らさないまま、頬を染めた。ああ、もしかしたら彼女は、いやもしかしなくても彼女は、そうして誰かから似た言葉をかけてもらったことがないのだろう。ならば、私が降り注いであげなくては。できるだけたくさんを。



「ほ、本当ですか? 好きな人同士で、えっちなことをするの」



「本当だよ。だから、君はもうやらなくてもいいんだ」



 確認が必要なら、いくらでも言ってあげよう。不安が支配しようとしてくるのなら、それを跳ね除ける言葉くらい、いくらでもかけてあげよう。私は嘘つきだから。



「……み、みゆ、も、みゆも、憲邇さんのこと、す、す、好き、です。あ、あの、ごめんなさい、迷惑だって、わかってます。ごめんなさい。で、でも、でも、好きなんです……」



「謝らないで欲しい。好きだっていう気持ちが、迷惑だなんてことはないんだから。ありがとう」



 もし抱いてあげられるのなら、それで彼女が安らぐのなら、それをしてあげたかった。それ以上に、それ以上に、別のことをしてやりたくなっているのに。……もしも彼女が望むなら、私はそう、変わりたかった。



 彼女は涙を、流した。



「……っ……ど、どうして、憲邇さんは、そんなに、やさしいんですか。やさしすぎです……っ……叩いてください。無理矢理、気持ち悪いことしてください。このままだと、みゆは、ダメになっちゃいます……」



 一歩一歩、ぐらぐらと揺れながら近付いてくる彼女に、私は、一体なんと言ってあげたらいいのか、考えあぐねいていた。彼女は、普通に接されることに慣れていない。それが逆に感じてしまう。これでいいのかと勘ぐってしまう。前はこうだったのに、急に変わっておかしくないのかと。……それは違う。前がおかしいんだ。今が正しいんだ。それを、教えてあげないと。それこそ、彼女はダメになっていくばかりだ。



 だが、ダメにしたい自分もいて、私は、泣いている彼女に、情を……



 彼女は、座っている私に、飛び込んできた。ぎゅっと首に手を回され、しっかりと抱きかかえられる。耳元で、嗚咽が聞こえる。小刻みに震える。彼女を、私は……



「ごめんなさい。ごめんなさい。こうしていたいです。ごめんなさい。ごめんなさい」



「……いいよ。君のしたいことを、するといい。私がちゃんと、受け止めてあげる」



 私も、彼女を抱きしめてみた。小さかった。小さすぎた。こんな体に、私は……していたかと思うと、ぞっとする。同時に……



「あ、あの、あの、す、好きですよね? みゆ、好きです。だから、あの、い、今までたくさんの人、したから、き、きれいじゃないけど、で、でも、好きだから、き、き、キス、して、も、い、いいですか……」



 顔を離した彼女に、そっと笑みを浮かべ、目を閉じた。



 小さな唇だった。



 そこから舌が入ってこようとした。……私は、一瞬突き放そうかと思った。が、が……それを受け入れて、二つの舌を絡ませた。目を開ければ、彼女は嬉しそうに顔を綻ばせていた。



 ……こう、したかった。こう、されたかった。それでよかったのか? このままだと、私の希望どうりに……



 一息つくと、彼女は恥ずかしそうに笑った。



「不思議です。他の人だと、気持ち悪かっただけなのに、ただ、憲邇さんだっていうだけで、その、よかったです。とっても」



「……」



 私は今すぐ彼女を押し倒したい衝動に駆られた。欲望のままに陵辱をしてみたくなった。それぐらい、今の彼女は、哀れで……泣きたくなるほど、だった。



「……ごめんなさい。本当は、お父さんもお母さんもお家にいるんです。でも、憲邇さんのお家に、どうしても泊まりたかった。どうしても……」



 彼女は、艶のある瞳で、私の望む台詞を言う。



「憲邇さんと、えっちが、したかった」



 私は呆然とする他なかった。



 これも、彼女の傷だ。散々やられてきた、深く刺さりすぎた棘。私の力では非力すぎて、抜けるかどうかもわからない大きな棘。それを、私は……



「好きな人と、するんでしょ? 好きだから、するんでしょ? みゆがやりたかったら、してもいいんでしょ? だったら、みゆは憲邇さんと、えっちがしたいです……だって、幸せになれるって、お母さんが言ってました」



 彼女は赤く上気した頬のまま、ゆっくりと衣服を脱ぎ始めた。先ほど見た、柔らかそうな白い肌が露になっていく。



「み、みゆを、犯してください。みゆが今まで大切に守ってきた、じゅ、じゅんけつを、憲邇さんにあげます。あ、ご、ごめんなさい。今日、おじいさんたちにこう言えって、言われてて……」



 最後の下着を脱ぎ捨てて、恥ずかしそうに手で局部を隠している。目がこちらをちらちらと窺う。期待に満ちた目。加虐心をくするぐる、若干怯えた表情。すべてを受け入れようとする、柔らかい口元。それはまた魔法の言葉を告げてくる。



「み、みゆは、なんでもします。なんでも言うことを聞きます。な、なんでも命令してください。み、みゆは、どれいになりたいです」



 それは耳を通り抜けていって、



 私は、



 私は、



 私は、



 君を、



 (おか)して、



 いいのか?



「……ご、ごめんなさい。きゅ、急に言われて、め、迷惑ですよね。ご、ごめんなさい。ごめんなさい。で、でも、みゆ、憲邇さんのこと、好きだから、好きだから、だから、一度でいいから、好きな人と、え、えっちが、したかったんです。ごめんなさい。ごめんなさい。そうすれば、それがあれば、幸せになれて、なれるから、その後捨てられても、生きていけるから……」



 泣くな。



 泣くな。



 泣いていたら、



 もっと、



 泣かせたくなって、



 しまう。



 ああ、



 そうか、



 だから、



 私は、



 本気でみゆが好きなんだ。



「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい……」



 私はひどくていい。



 ひどければひどいほど、恐らく彼女は喜んでくれる。



 もちろん、愛はいる。



 それは私にもわからない。



 けれど、わからなくても、彼女がそう感じてくれれば、それでいい。



 だから。



「……っ」



 もう一度、軽いキスをして、それから彼女に告げる。



「私はひどい人間だよ。そういうことをするなら、君にひどい命令を繰り返す。それでも、いいんだね?」



「……は、はいっ」



 その笑顔が、どこか心からのような気がして、とても、



 (かな)しくなる。



 だけど、それでも。



 私は……



「愛しているよ。みゆ」



 



 



 



 



 



 



 



 



 



 




 第零話あとがき的戯言



 



 こんばんは、三日月(みかづき)まるるです。



 読んで頂いたとおりのヒロインです。気に入ってくださりましたら、是非第一話へと。なるべく早く公開しますので。



 ここまで読んでくださり、ありがとうございました。



 それでは。



 



 20081029 三日月まるる



 



 




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テーマ : 官能小説 - ジャンル : アダルト

2008/11/05 05:02 | 小説COMMENT(0)TRACKBACK(0)  TOP

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