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「ごめんなさい」その二十八_第二十七話_夜の終わり

 こんばんは、三日月です。
 祖母の作ってくれるお味噌汁がとても、本当にとてもおいしい。味は父は濃いだけと言うのですが、私は味オンチなのでわかりません。でも、とてもおいしいと思うのです。優しくて、温かい。料理は愛情だと、私は本当に思います。単純な味の良し悪しでは、ないと思うのです。こんなにもおいしいお料理を毎日作り続けることができる、祖母に感謝し通しで、なにもしてあげられない自分に情けないと思うばかりです。
 毎日口にするお味噌汁がどれだけおいしいか、口にできることがどれだけ幸せか、しみじみ考えます。
 駄文でした。それでは第二十七話です。どうぞ
















 二十七 夜の終わり








 叫び声が聞こえます。悲鳴ではなく、いいえ嬉しい悲鳴です。
紗絵子(さえこ)様の、深町(ふかまち)様に愛されている。


 あれほどまでに卑猥な言葉を叫びなさいと命令されるのでしょうか。私はそれを叶えられるのでしょうか。不安です。


 激しく、乱暴にされる覚悟ならありましたのに。深町様の愛のあるセックスとは別の嗜好性を持ち、まったく予想もつかないことばかり。この年齢まで生きてきてもまだまだ青い自分にしっかりしなさいと叱咤をしなければとても、耐えられそうにありません。


 け、けれど、皆様も同じようですのね。赤面したままかすかに震え、あの方のセックスが恥ずかしいのですね。そういえばみゆさんと
(めぐみ)さんが見えませんわ。静香(しずか)さんとまゆさんは眠りにつきましたし、詩音(ふみね)さんは熱を出して寝込んでいるのに。


「先生……えっちです……」


千歳(ちとせ)ちゃん……そうだよね、ご主人様、とんでもなく変態です……」


「あの人、いずれみんなと一緒にえっちするなんて、言ってたけど……」


「……」


 全員が同じ想像をし、かあっと身を熱くしました。
柚香里(ゆかり)さんなどできるわけないと塞ぎ込んでしまいます。ひどいですわ絵里(えり)さん、そのようなこと言ってはなりませんのに。


「あらみなさん、おいやなら別れればよろしいのに」


 きょとんと
花織(かおり)は無邪気に言いますが、別れられるはずはないのです。あの方にとても大事にされているのに、こ、この程度の夜の嗜みを耐えられないなど、か、仮にも妻の名折れですもの。


「黙ってなさい花織。そ、それよりあとお風呂に入っていないのはどなたでしょう?」


「柚香里さんだけですね。どうして皆様とご一緒しないんですか?」


「えっ、そ、それは、その……汚いからっ」


 ぴんと私はすぐに思いつきました。これ以上追求してはいけません。


良子(りょうこ)さん、よいじゃありませんの。柚香里さんはただ自分の身体を深町様だけにお見せしたいのですわ」


「同性同士もダメなんて珍しいですよ。まあいいですけど」


「ご、ごめんなさいっ」


 すぐに駆けてゆきます。……私の予想を話しておきましょう。少しは上から漏れ聞こえる嬌声を無視できます。上に羽織ってあるケープを正し、告げました。


「彼女はきっと──」








 傷一つない、純真無垢な女性がいたとして。綺麗に咲いた花を、自然に散らすのではなく、人はごくごく当たり前に摘み、ときに踏みにじります。


 私がその花だとは言いませんが、柚香里さんはそう見えます。きちんと育てられる、深町様のような方と巡り会えなかったのでしょう。わかりますわ。私の育ちも似たようなものです。


 皆様よく理解してくれました。暗黙の了解として、それとなくこの場にいない人にも伝えておきます。誰もが我が身に降りかかり得る災いです。先日もだからこそ、あの方はご指導して下さったのですから。


 紗絵子様の声もじきにやみました。それと共にみゆさんと愛さんが現れ、その手にはビデオカメラがあります。……? こんな時間になにを録っていたのでしょう。まあ、顔が赤いですこと。


 とにかく今のことを伝えました。神妙に二人とも頷いてくれ、以後触れないようにと念を押しておきます。特にみゆさんはよく理解できるのか、浴室へ駆けて行きました。


 少し重い沈黙を良子さんが淹れてくれた紅茶が和ませてくれます。花織は夜食にクッキーが食べたいとまあ、太りたいのですね。


 やがて深町様が現れました。「紗絵子も寝かせたよ。そろそろいい時間だし寝ようか」


 こちらを見やる、愛しい人。この胸を射止められてから早一年と少々、いつも貴方は私を惑わせます。


「ふ、深町様、もう少しお話したいですわ」


「いいよ。私も紅茶が飲みたいな」


「はい、ただ今」


 よい女中ですわ。寝巻きに着替えてもその心を忘れない。ああ失礼、私ったらまた。


花雪(かゆき)も花織ちゃんもそろそろ夏休みだよね? なにするの?」


「深町さまのお宅でお泊り会です。ずっと」


「お姉さまったら……私は自由研究に海へ貝がらを集めに行きますわ。どんなきれいなものがあるか楽しみですの」


「うわぁ、いいなぁそれ。楽しそう」


「千歳さんも手伝ってくれます?」


「ええ、ぜひ」


 にこにこ笑い合う娘と、その、まさに純真無垢の綺麗な花。この人は早くに出会えたのですね、目の前の方に。


春花(はるか)たちはお休みはいつ頃かな」


「私はお盆しかありませんわ」


「私もそんなもんねぇ。愛さんは?」


「私も同じですけど、有休がたくさん残ってますから、その、
憲邇(けんじ)様のご命令は、たくさん聞けるかと」


「ああ、そういう意味で言ったんじゃないよ。ただみんなでどこか旅行にでも行きたいなぁって」


「いいですね。ご主人様にどこか行楽地に連れてってもらいたいです」


「お盆は帰郷しないとダメだよ。だからうまく休みが合う日があるといいんだけど」


 実家には帰れませんわ。今さら……ああ、おばあ様の実家は別でしたわね。そちらにしましょう。なるべくお父様たちと会わない時間帯に……


「はーい、海も山も混雑してるから私は温泉がいいな。家族温泉よ」


「絵里さん、悔しいですがナイスアイディアですね。ご主人様、家族温泉ならいけますよ」


「悔しいってなによ」


「いけるって、なにが?」


「わかってるくせにっ。あ、あんなに紗絵子様にした、くせに……」


「……」


 また皆様黙り込んでしまいます。ちらちら、上目遣いに深町様を覗き込み、どうですかとお伺い。


「ふむ、温泉はいいね。ただ今からだと予約もないだろうし、一応取れるかどうか試してみて、贅沢言わずそこでいいなら行こうか」


「はいっ。さすがご主人様、すけべ」


「とりあえず今月来月の休日を教えて欲しいな。それから予定を立てよう。みんな一緒にね」


 頷き合います。そうですわね、それなりにぽつぽつとお休みを頂けているはずですし、確認しておきましょう。


 柚香里さんがお風呂を上がりました。みゆさんと手を繋いでおります。出て行ったときとは正反対の落ち着いた表情で。


「個室があるところがいいね。できたらだけど、個室の浴槽があるところ」


 彼女が見えたからでしょうか、知っているかのように深町様はそう仰りました。先ほどの会話を終えた我々はただ相槌を打ちます。


「なんの話?」


「温泉に行こうかと思ってるんだ」


「ああ、いいわねぇ。個室とか贅沢よ。家族温泉でいいじゃない。ね、みゆ?」


 同じことを仰りますのね。それよりも……平気なのでしょうか。


「おんせんって、なに? みゆ行ったことないの」


「……決まりだね。絶対に行こう。みゆ、温泉はね、自然に湧いてでるお湯にみんなで入るんだ。自然にできるお風呂だよ。銭湯みたいにみんなで入ったり、家族で入ったりするのがあるんだ」


「え……で、でもみゆ、憲邇さま以外の男の人とお風呂一緒は無理ですっ」


「大丈夫よみゆ。わたしだって無理だもの。温泉は普通男女別々なの。まあ、たまに憲邇みたいにすけべなのが混浴っていって、男も女も入るのに入りたがるけど」


「ふぅん……楽しいの?」


「楽しいわよー? 入ればわかるわ。ぜーったい、楽しいの」


 ……予想が違っていたのでしたら、それはそれで結構なことですわ。ほっとします。


「わかった。みゆも行きます」


「決まりだね。さて、問題は空いているかどうか、それと私の休みだな……」


「良子さん、お料理にお腹下すもの出しちゃいましょうよ。それなら公然と休めるわ」


「絵里さん、本末転倒です」


 どうにかこうにか、この大人数をご一緒できる方法はないかとみんなで考えます。どうしても働いている方のお休みが合うことは難しく、今からどうにか動かせないかと交渉せねばならないようです。一応、二日ほど今の面子は大丈夫な日がありましたが、はてさて。


 けれどこういった楽しいことの計画立案はとても、それだけで楽しいものですのね。


 後に来る夜の出来事を忘れそうになるほどに。








 扉が閉まり、邪魔が入らないようにと鍵をかけてもらいます。深町様のお部屋。お仕事も趣味も書物が必要ですから、必然印刷物の匂いがします。この方の匂いはこれも混じっておりますのね。ああ、カメラがあります。もう録画が始まっておりますのね……


 覚悟などもう、とうの昔に決まっております。


「深町様……今宵はご迷惑ばかりおかけになると思いますが、不束者ですがどうぞよろしくお願いします」


 いつものように裾を上げてのご挨拶。どうぞ、気に入って下さらないのでしたら、そう仰って下さいませ……ああ、言えませんけれど。


「私のほうこそ、痛くさせたらごめん。気持ち悪かったらすぐに言って欲しい」


「そんなこときっと思いもしませんわ。私二度も貴方の性行為を見ましたもの」


「二度? あれ、愛は見せたけど、もう一回は?」


「……じ、実は……」


 こっそりみゆさんとの情事を覗いてしまったことを告白しました。最低な行為でしたけれど、戸が開いておりましたのでと言い訳をして。


「そうか。春花が見ててくれたんだね。ありがとう」


「ひ、ひどいですわ。みゆさんはきっと誰にも見られたくはないのでしょうに」


「黙っててくれる?」


「はい。もちろんですわ」


「よかった。春花は見られたくないんだ?」


「当然ですわっ。私は愛さんとは違いますの」


「わかってるよ。みんなそれぞれ違う。春花には春花に似合いのことがあるだろうし」


「……ご満足頂ければ幸いです……私、頑張りますわ。ほとんど初めてですから下手かもしれませんけれど、紗絵子様のようにはできませんけれど、でも頑張ります」


「無理しないでいいよ。ゆっくり慣れてけばいい。殆どじゃない、春花は『初めて』なんだから」


「……深町様っ」


 我慢できませんでした。奥ゆかしさを忘れ自ずから抱きついてしまいます。高い高い、撫でて下さる方に年を忘れ、はしたなく……


「好きです、好き、貴方が、好き……」


 だだ漏れの、積年の想い。どうしてあれほど勇気のいったことが、今となれば容易いのでしょう。


「ありがとう。私も好きだよ。お淑やかで可憐な春花は大好きだ」


「っ、わ、私、もうそのような年ではありませんのっ。ふ、っ、深町様は言いすぎですのっ」


「言わせてくれよ、好きな女にくらい」


「はぁっ……



 こんなにもときめかせて下さるなんて、ああ言葉だけでここまでなんて、生娘同然ですわっ。もっと大人に、私この方とは一回りも年が違いますのにっ。


「これだけ好色の助平な男を好きだと言ってくれる女性はいくら褒めても足りないよ」


「まあ……っ。助平ですけれど、褒めて下さらなくて結構ですの。ただ傍にあって下さればそれで充分ですわ」


「嫌だよ。目覚めたときに横で寝ているだけじゃ嫌だな。デートしないとね。二人きりで」


「結構です。今の関係でもう」


「楽しいことを一緒にたくさんやらないと。辛いことがあったら慰めて欲しいな」


「……もう、充分すぎますの。私、幸福すぎてはちきれますわ」


「どうして? まだまだこれからだよ。春花の先は長いんだ。ずっと一緒にいようよ」


「……はい……っ」


 思いっきり背伸びをしました。それでもこの方に首を傾がせてしまう背の低さが嫌になりますがでも、でも……


 甘い、お菓子の味がします……


「……っ……っ、ん……っ」


 すっと顔を離し、開けた目に舌が見えます。入れてもいい? と訊ねる瞳に、ゆっくりお願いしますと、小さく口を開け、招き入れました。


「……ん……ふぁ……んっ……っ」


 他人の舌を見ることも舐めることも金輪際ないかと思っておりましたのに……腰に手を回され、上から襲い掛かってくるピンクの物体におののきながらも受け入れてしまいます。ああ……不思議ですわ。あんなにも嫌だった舌がこんなにも恍惚とさせる。のぼせ上がっていきます。この方に求めて頂いているのですから。


「はぁ……」


 これでよろしいのでしょうか? みゆさんのようにはできません。交わらせることなどできはしないのです。ただ口内を走り回る舌を受け入れ、噛まないようにするだけ。今はまだ、ですの。これから応じられるようになりますから。


「やっぱり春花は初々しいね」


「あっ……そ、そんなことありませんわ。一度経験しておりますもの。二児の母です」


「舌は初めてだね?」


「見ましたっ」


「いやぁ、初々しいよ。これから私が色んなこと教えてあげる」


「……はい……」


「君の娘にも教えるけど、いいんだね?」


「ええ……構いませんわ。これほど多くの女を娶られるのですもの。どうぞ貴方の色に染め上げて見せて下さいませ」


「任せなさい」


 おいしい、お菓子。これからたくさん食べさせて頂けるのですね。私のほうはおいしいでしょうか? 目を開けて確かめたいです。けれどそんなこと、とても恥ずかしくて……


「……っ……ん……ふぁ、ふぅ……ん」


「脱ぎなさい。自分で脱いで見せてご覧」


「無理、ですわ……どうぞ脱がせて下さいませ」


 そんな破廉恥にはできませんの。


「仕方ないね」


 キスを止め、深町様はネグリジェのリボンを外し始めました。……この格好は、如何ですか? これほどデコルテを強調するのは、皆様の前ですと恥ずかしくもあるのです。水玉です、深町様。す、好きなのでしょう? 絵里さんとは違いわかりづらいかもしれませんが、思い切って試してみました。似合っていないのでしたら恥ずかしいのでやめたいのです。貴方のお言葉が欲しい……


「もったいないね、脱がすの」


「えっ」


 腰のリボンが解け、ネグリジェを支えているのが体だけとなりました。少し下に落ちそうになり、胸に引っかかるように露出が、ああ恥ずかしい。


「結構着たままセックスをするのも好きだし、こんなに長くなければこのままするんだけど」


「ま、まあ、裸にならないのにできるのですか?」


「うん。こんなによく似合うかわいらしい格好をしてくれたんだから、脱がすのももったいない」


「……似合い、ますか? そ、その、そそられますか?」


「触ってみる?」


「っ!」


 手が、大きなものに、誘われ、下腹部へ。じりじり近付くことに耐えられず、すぐに引っ込めてしまいました。


「無理、ですわ……い、いきなり、触れません」


 絵里さんはおかしいのです。


「いいね。ますますそそられるよ。やりがいがある」


「……はぁっ、も、もう……」


 おかしいですわ。要求に応えられないのは不徳の致すところでしかないというのに。どうしてそんなに笑顔になるのです?


「似合うよ。白のネグリジェなんて最高の組み合わせじゃないかな」


「あ、ありがとうございます」


 やっぱり水玉ですのね。水玉、もう他にないのです。どうしましょう。買うしかありませんわ。普通のそれほどデコルテを強調しないネグリジェなら、白いのばかりになるほどあるのですが、水玉となると年も年ですし持っていないのです。どうしましょう。


「あ、じゃあとりあえず一回転してよ、ふんわり」


「? はい」


 くるりと回転して見せました。なるべく裾のフリルは翻さないようにつまんで、淑やかに。


「ああダメダメ、もっと裾をふわっと持ち上げないと」


「え? で、でも、脚が見えてしまいますわ」


「私の前だけでいいから、して欲しいな」


「……」


 今度は少し、勢いをつけて、ダンスを踊るときのようにしてみせました。ああ裾がふわふわ、危なっかしい。


「うん、やっぱり春花はいいね。天性のものがあるよ」


「そ、そうでしょうか」


 よくわかりません。……ああ、とうとうカメラを持ち出しました。喉が鳴ります。


「じゃあ、次は写真を撮るからもう一回、同じ感じで回って」


 考えてみればまゆさんがなにかにつけくるくる踊るようにしていたのはこの方の影響なのですね。この方が好きだから。……私とダンスを、踊られると嬉しいでしょうか。今のように回ることばかりです。淑女の嗜みとして紳士についていける程度には学んでおりますの。


「そうだね。間近で見るのも楽しそうだ」


 次にそのまま立ち姿を一枚、そして……ネグリジェをめくり上げなさいと、ご命令が下ります。羞恥に身を赤くし、一度したことですと何度も心に呼びかけ、そろそろとめくり上げました。自ら下着を露出している、変態のおばさんが見られるだけでなく、写真まで撮られます。恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい……! 貴方がそんなにも嬉しそうでなければ、耐えられませんの。直視できません。


 それからカメラを一旦置いてまた手が、今度は袖から脱がしにかかります。……この日のためにと、極上の下着を用意しましたの。私にはこれが精一杯です。ピンクに薔薇とフリルが散りばめられた、年に不釣合いのかわいらしい、私が平素より着用しているものです。平素より私は、レースとフリルがふんだんにあしらわれているものしか着ていないのです。値段より質感より、貴方の好みと、私の好みです。二人が好きなものだと、信じて選びました。私を、らしい私を、自分で選ぶ私を好きだと仰って下さいました。貴方も水玉が好きで、きっとかわいらしい、いつもの私を好きだと信じております。教えて下さい。こんなみっともない三十九の女を、抱けますか?


 さらりと音もなくネグリジェが床に、落ちました。今や私は下着だけしか、身を包むものもなく殿方の前に立っております。お腹も、腕も、脚も自信がありません。花雪を産んだ頃と比べるべくもないほど、ツヤも張りも失われました。柔らかくももうないでしょう。教えて下さい。じっと見つめてないで、教えて……


「この前スカートめくらせたときと同じような下着だね」


「……はい。私は普段から、このような下着ですの。三十九にもなってまだ、このようなものに身を包んでいるのです。ごめんなさい、気持ち悪いを通り越して、醜くないですか」


「なんで? 綺麗だよ、よく似合ってる。……しばらく、見惚れさせくれ」


「そ、そんな……いけません、早く、いっそ裸にして下さい」


 右腕で胸を、左手で下腹部を隠そうとしてしまいます。「どけて」と真剣に告げる、愛しの王子様に……顔が溶けそうなくらい熱くなりながら、少しずつ自らの下着姿を晒しました。


 見られています……私の身体の隅々まで、余すところなくご覧になられています……どうしましょう、体温が際限なく上昇していって、このまま沸騰してしまったら。気絶してお流れになることだけは避けたいです。どうにか耐えて、じっと深町様の瞳を見つめて、それで忘れましょう。深い、海に……


「春花は下着が似合うね。下着姿がもしかすると一番美しいかも」


「……そう、ですわ。着飾らないと私はもう美しくないのです」


「春花にはトップレスブラと
Tバックがきっと似合うんじゃないかな」


「っ……無理ですわっ、そんなの、み、淫ら過ぎますっ」


「わかってるよ。じゃあ、撮るね」


「……っ」


 唇をぎゅっと噛み締め、私の、私の……白いフラッシュが頭も白くします。こんな、こんな醜態……ひどいですわ。あんまりです。


「……ごめん。春花は自分に自信がないのかい?」


「ある訳ないでしょうっ! あんなにもかわいいお相手がたくさん、いるのに……っ」


「私は初めて出会ったときに三十後半だとはとても思えなかったよ。今も違う。下着姿の顔を赤くした君は、二十歳にしか見えない」


「どこがですのっ。こんな、この年でピンクが好きで、下着なんて白とピンクしか持ってないのです、気持ち悪いですっ。分相応というものを」


「似合ってるじゃないか。文句を言うな。例え自分でも、春花のことで文句は言わせない」


「……っ! ま、まあ、なんて傲慢なのでしょうっ」


 どうしてこんな、頭に響くのでしょう。気が付けば深町様がカメラを置き、目と鼻の先でした。


「私は見た目がすべての嫌な男なんだ。綺麗な春花の姿をとっておきたい。だから写真が欲しいんだ」


「綺麗じゃありませんっ」


「文句を言うな。春花は私の女だ、誰にだって文句は言わせない。他の誰あろう、主人の私が言ってるんだ。誰がなんと言おうと関係ない、例え本人だろうと。春花は、綺麗だ」


「……貴方が、っく、なにを仰ってくれようとも、自信など持てませんの。っく、私は、こんなにも老いて、昔の輝きが失われているのです。他の誰あろう、私が一番よくわかっているのですっ」


 胸の奥に温かさを感じる。息の届く距離にいる方から、温もりを頂いたから。口では、ああこんなにも文句ばかりで、わがままな女を気取っているのに、その実、もう自分の身体が誇らしく、背筋をぴんと伸ばし、胸を張り、口付けを下さいませと自分から、上を向いて目を閉じます。そしてあまつさえ、


「キスをくれたら、その先に抱いて下されば、持てそうな気がします」


 などと言い出す始末。もう手に負えません。


 深町様以外は……


「っふふ、はい、現金なお姫様」


 このお菓子は口解けがふんわり過ぎますの。きっとムースですわ。それもレモンがトッピングしてありますの。


 おいしさに我を忘れ、ホックを外されたのにも気付きませんでした。ぐっと身体を抱かれ、そのままベッドに倒れ込みます。上から覗き込まれ、覆い被さる深町様はとても大きく感じました。


「……私は、このようにして守ってもらうしか能のない女です。誰かに庇ってもらって生きてきました。ぐずな私でも本当によろしいですか? 今ならまだ」


「私は春花のような女に支えられないと生きていけないしょうのない男だ。頼む、ぐずだなんて言わずに一緒に歩いていこう」


 右手を左手で掴まれます。左手を右手で。両手にこの方の体重を感じ……


「君が隣にいないと寂しいよ。傍で笑ってないと不安だよ。自分をぐずだと言ってしまう自信のない君を笑わせるのが楽しんだ。君のピアノを演奏する姿に惹かれてたんだ。かわいいと思う。頼む」


 お菓子がふんわり、落下してきました。


「守らせてくれ」


「……ぁ……



 じわじわ、泣いてしまいます。食べさせてもらう時間が終わり、唇が離れると笑っている貴方がいる。涙が一筋、零れ、


「はい……っ」


 それでも笑っている、私がいる。


 二人きりでない、他に女の人はたくさんいる。けれどそれがなんだというのでしょう。この人の下さるものを独り占めするほうがおかしいのです。いいえ、一人ではとても受け止め切れませんわ。焼けて、はちきれて、ばらばらになってしまいます。それくらい、ああっ、嬉しい……!


「……んっ、もう、キス好き、ん、ですのね」


 涙を拭いてもらい、また足りないと口付けを迫られます。目を閉じ、離れた手を背中へ伸ばし、この方の手はとうとう、下着を脱がしにかかりました。


 上が、脱げます。大きいだけの胸が力なく揺れました。昔はあんなに張っていたのに。


 下が、脱げます。黒いものに覆われた私の女性器が明かりの元に、ああ、消して下さいっ。


「嫌だ。明るいところで春花の肌が見たい。こんなにいい身体してるじゃないか」


「そ、そんな……ひどいですわっ」


「すごくえっちだ。胸も腰もお尻も、白い柔肌も全部」


「あっ! 嫌、嫌です……っ、消して下さい」


 愛撫が始まりました。頭を撫でられ、胸に触れられ、力が入りびくんとなります。そして、そろそろと空いたほうが黒いものに近付いて行くのです。


「自信持っていいよ。春花の身体柔らかい。すごく触ってて気持ちいい」


「やっ、やです、そんなこと、言わないで、えっちっ……」


「二児の母なのにずいぶん弾力あるよ、この胸。触るとどんどん触りたくなる」


「嫌ぁ……っ、えっちですっ、変態ですわっ、声に出さないで下さい」


 そして私は高鳴らないでっ。この方の甘いアマリリスのような声に惑わされ、耳に届く卑猥な言葉におかしくなりそうです。


「嫌だよ。春花に自信をつけてもらうためにも、この身体がどれだけ気持ちよくて立派で若々しいか、感想を言い続けないとね」


 そうして、下に行くはずの手まで上に伸ばすのですね。


「結構ですわっ。んっ、ふぁ、やめて下さいっ」


「こんなに豊満なバストを自由にできるんだよ。嬉しくて感想も言いたくなる」


「大きいだけ、ですわっ」


 馬乗りになっているはずの深町様が両手で私の胸を揉みあげてきます。それでも、ああ大きいだけの私のものは手のひらから零れてしまいます。するとこれは、この感触、ああ舐められておりますわ、す、吸われ……! なんと卑猥な音が流れるのでしょう。恥ずかしくてたまりません、深町様っ。


「いいや、なんて柔らかいんだって驚いてるよ。マシュマロなんかよりずっと柔らかい。その癖揉んだらしっかり弾いてくるんだ」


「嫌ぁ……っ! えっちです、えっちです、えっちですの……ふぁ、ん、ぁ……」


「えっちなことしてくださいって、抱いてくださいって言ったの誰?」


「ちがぃ、嫌、違いますっ、違うんですの、そんな意地悪なこと、ふぁっ、ぁ、ぁ……」


 閉じて真っ暗とした部屋の中で、深町様に責め立てられております。私の胸がここまで変化するなんて、おかしいと思うほどに揉まれ舐められていきました。そしてあそこを指が這うのです。私の入り口をまさぐっている……いや……回した腕に力が入ります。脚もできるだけ閉じようとしてしまうのです。首を何度も振りました。拒絶してしまう。忌まわしい記憶がちらりとでも頭の隅を横切れば、もう嫌です嫌ですと一点張り。


 心は完全に受け入れているのに。ほっとした安堵感さえ抱いているのに。体はまったくついてきてくれませんでした。あの頃の気持ち悪いとしか、不快感しか湧き上がってこないのです。また同じことをされる……ありえないとわかっているのに、恐怖が抜けません。呪縛が重すぎて、ごめんなさいと謝りかけました。


「……怖い?」


 震えのたうち、ただこくりと、頷きました。


「わかった」


 一言のうちにあれほど動き回っていた指先が止まりました。そして隣にどさっと重いものが落ちる音がし、その方向から思いっきり──けして苦しくはなく──優しく抱きしめてもらったのです。


 厚い胸板の中、愛しい人の胸の中、先ほどより大きな安堵感が、温もりがありました。


「怖いのが治まるまでこうしてるよ。治まらないならやらない」


「え……」


 恐る恐る目を開けました。瞼の向こうに、どうしてこのような顔ができるのですかと理解の追いつかない、目も心も奪われる風景が広がっていました。


「私は春花の白い柔肌を抱きしめているだけで気持ちいいからね。春花が慣れるまでいくらでも待つよ。今日でなくともいい。どうせ長くをともにするんだから」


 そうして、また思い切り、ぎゅうっと……温かい、この方の鼓動を感じます。どくん、どくん、と。温もりがこちらの心臓にまで伝わってきそうなほど、でした。おまけにインクの混ざる書物の匂いがして、暴れる私を落ち着かせます。


 気持ちいい、お方でした。そうしているうちに先ほどまであった恐怖や、縛られていたものから解放されていく気がしたのです。晴れやかな、といっても普通は当たり前でしかない気持ちで、今度は自分からこの方を抱き寄せました。自分の肌に沈む硬い男が、先ほどまでと違う心地よい重力を伴っていました。


 嬉しい……ただ抱き寄せて、待ってくれると仰るこの方が嬉しい。たまらないほど、泣いてしまうほど。


 欲しい、と、まあはしたなく思ってしまうほどに。


 ……実は他の女性の華やかな匂いもしましたのですけれどね。気になりません、この腕で。


 けれど。


「私は今日でなければなりませんわ。今日が記念日なのです。貴方に自信をつけさせて頂く、『初めて』を奪って頂く記念日ですの」


「優しくできないよ? さっきみたいに意地悪をする」


「……や、優しくして下さいっ。先ほどのような淫猥な言葉で責めるのは卑怯ですわっ」


 苦笑される。「あれくらいで淫猥って、本当に春花は初々しいね。わかった、優しくする」


「はい……好き……」


「好きだよ、春花」


 もう一度抱き合い、それからじっと見つめ合い、ようやく私は脚を広げられることに抵抗をしなくなりました。


「……ん……ふぁ、もっと、優しく……んっ」


「『私の秘密の花弁を男の荒ぶる指が開かせていきます』、はい、リピートアフターミー」


「っ……えっちっ、嫌ですっ、もうっ、あっ」


 はしたない……高い声など上げたくはありません。ただ慎ましく、声を押し殺すのが嗜みだとおばあ様は仰りましたし、殿方は悦ぶと……どうして時に声が漏れるのでしょう。聞かせたくはないのに。


 くちゅくちゅと、なんて卑猥な音が流れるのでしょう。私の女はこんなにも乱れやすいのでしょうか。それともこの方が引き出しているだけ? だとしても潜在は私です、恥ずかしい。


 再度馬乗りになった深町様に、私はお願いして手を繋いで頂きました。重力を感じたいのです。この方の重さを実感で。右手を繋ぎ、余った左手はシーツを握り締め、荒ぶる指の辱めに耐えます。


「んっ、はぁ、ふぁ、深町様、深町様っ」


「春花の巨乳がすっごく揺れてる」


「嫌ぁもう! やめて下さいと言いましたのに!」


「じゃあ舐めるよ」


「んっ! はぁ、ふぁっ! ん、ぁ……」


 押し込まれるたびに確かに身体は揺れておりますから、も、もしかしたらそのようなこともあるかもしれません。もちろん目を開くなど、情事の最中に女性がやるべきではありませんので確認できませんが、深町様のことです、意地悪をして言うてくるのかもしれません。動くのを掠めるように舐めて頂いているので、一瞬だけ触れ合うこの方の舌先にびくびくしてしまいます。まあ、ど、どうして先のほうばかり……


 そ、それより、濡れてきましたわ……あんなに、どれほど男性に苛め抜かれたとしても、もっと激しく急所を責められたとしても濡れてこなかった身体が反応したのです。ああ、私は女だったのですね……嬉しい……ありがとうございます、深町様……だからこんなにもはしたない声が出るのですね。


「濡れてき」


「やめて下さいったらぁ!」


「ごめん、黙るよ。春花が綺麗な顔して喘ぐからいけないんだ」


「っ! 嫌、や、嫌……」


 喘いでなどおりませんの。快感に喘いだりなどしておりませんの。私は……快楽に溺れたいですわ。貴方となら、どこまでも……けれどごめんなさい、まだ気持ちよくなど、ないのです。声は反射ですわ。びっくりする驚きだけですの。ごめんなさい、いずれ感じる本物の女になります。それまで導いて下さいませ……


「本当っ、春花はかわいいなっ。ごめん、我慢できないっ」


「ああっ
 嬉しいっ、その言葉が、なによりっ!」


 硬いなにかが、私の女性に侵入しようとして、きました。今の言葉で女を欲しがる深町様に、じんと一瞬だけ、頭を痺れるものが走ります。……その間に、
挿入(はい)って、きました。少しだけ、ですけれど、ずぶずぶと男の人が、私と一体になったのです。シーツがずいぶん、乱れました。


「……ぁっ……ぁ、ぁ……っ」


 やはり、痛くありました。すんなりと侵入されたのはほんの最初だけで、すぐに以前のずきずきとした痛みが下腹部から襲い掛かってきました。……こんなに好きな相手なのに、どうしてこの身体はわがままなのでしょう。なにが嫌なのでしょう。どうして挿入を拒むのでしょう。なかなかうまく挿入りません。ぎちぎちと、もう二度とあんなことは嫌だとでもいうように愛しい方を拒んでいました。


「ぁ……ぁ、ぁ、ぁぁ……っ、ふぅ、ぁっ」


「痛い?」


 思い切り首を振ります。痛いなどと絶対に言いません。やめて欲しくなどないのです。どうかこのまま、我慢できぬままに犯して下さい、お願いします。


「すごいね、本当、いい身体してる……少しずつやってくよ、苦しかったら叩いて」


「……はぃ……っ」


 動いて、きます。こんなに思い遣ってもらっているのに、どうして私は、あまりにも少ししか身体を許さないのでしょう。あの男は無慈悲すぎるほど強引に突いてきましたのに、この方は苦しみに喘ぐ、ああ嫌な意味での喘ぎに即座に止め、慣れるまで待ってくれるのです。その間も愛しいと口付けをくれるこの方に、少しでも満足して頂きたい……お願いします、もっと濡れて下さい、みゆさんのように乱れろとは言いません、どうか、この方を困らせるようなことにだけはしたくないのです。……声を出しましょうか、演技をしましょうか。どうしたらいいのでしょう。


「楽にしなさい。そんなに緊張してもしょうがないよ。少しずつできてきてるから」


「……は、い、ぁ、ぁ……ん……っ」


 そうなのでしょうか。感覚ではまるで進んでいないようにも思えます。けれど言われるとずいぶん進んだような気も、ああわかりません。


 でも、でも……温かいですわ。この方の体温を直に感じます。涙も、痛みや苦しみなどではなくなっています。徐々にならされていく自分に、優しく優しくしてくれる旦那様にありがとうの涙ですわ。とても大事にされています。


「……ぁ……んっ、ぁ……ふぁ、ん……っ」


「本当、かわいらしい喘ぎ声だね。初めてだからかな。すごく興奮する」


「やっ、やっ、ぅっ、ぁ……っ、はぁ、ふぁ、ん……」


 よかった、嬉しい……なによりです。それで充分です。私はいずれ貴方に、淫乱に調教されますから……


 少しずつならされていった私は、遂に膣内を全部深町様で埋めて頂きました。できたことが嬉しくて、これ以上入らないところまで全部この方のものとなったことが誇らしくて、妾らしくあれることにまた涙が落ちていきました。


 ぐちゅぐちゅしています……下のほうから卑猥な音がずっとしていますわ。深町様が一定のリズムで突いてくるから。


「ねぇ、これ言ってよ。春花の言葉に変えていいから」


「え……! 嫌、や、や……」


 口はそう言います。けれど心は、どのような声色で告げようか悩んでいるだけ。きっと困ったように笑っている硬い人に、私は。


「はい、聞いて下さいませ……私は貴方の愛奴隷です。いかなる命令にも仕打ちにも耐えます。私が望むのはただ、貴方の思うがまま、私を蹂躙して犯して下さることのみです。私はすぐ孕みますから、貴方の赤ん坊を何人でも産んでみせます。どうぞお子を授けて下さいませ、深町様……っ、愛しています、本当に、嬉しい……!」


 支配されました。この言葉で、みゆさんではありませんが忠誠を誓ったのです。きっとどこか私は今のような台詞を言わされることを望んでいたのでしょう。なにか震えてしまうものが下腹部を襲いました。それは心地よく、また安心する……


 耳もとで。「いいの? 前の男と同じことをするかもしれないよ?」


「はい……貴方を、信じています」


 心から、ええ誰より。


 それにそうなったらその時は突き飛ばしますわ。三行半です。見下げ果てて仕方ありませんねと、しょうがなくゆっくりやらせるのです。その際は私が主導ですの。私のペースでやらせて頂きますわ。


「ありがとう。愛しているよ、春花」


「私も、ぁ……んっ」


 少しばかり早くなっていきました。思いのままが始まります。えぐるように奥を、突かれ、硬いものがごりごりされるのを感じていました。


 痛みがもうどこかへ飛んでいきました。いえ時々、ふっと痛く感じることもあります。けれどこの人の体温に消えてなくなるのです。交わりに身体がようやく順応し始めたのですわ。心なしか女の体液が増えているような気もします。ああ、この方に犯されている……


「んっ、ふぁ、はぁ、ふぅ、んっ、ぁ、ぅ……」


 擦れていくぬちゅぬちゅという、淫靡でたまらない音が聞こえます。目を閉じる女性は不利ですわ。男性は視覚がありますからまだ気にならないかもしれませんのに。ああ深町様、そんなには激しいです……ああはしたない。身体がベッドがぎしぎし揺れますの。


「春花、すごい、えっちな身体だよ本当っ。たぷたぷのおっぱいいやらしい」


「っ! はぁ、やぁ、嫌ぁ、やです、のっ、んっ、んっ、ぁっ、ふぁ、ぁっ」


「腰だってこんなにくびれてる。あそこも最高だよ、ぎちぎちで気持ちいい。ごめんね、春花の初めてもらったよ。ずっと覚えてる」


「……っ! ぁ、ぁ、ぁ、ぁぁ、ぁ、ひど、い、ひどいです、っ、ふぁ、ん、ふぁっ」


 どうしましょう。深町様の言葉が響きますわ。こ、心地いいですわ。聞いていたいと、嬉しそうな殿方の発声が待ち遠しくなります。動かされるのに合わせて自分も動きたくなります。力さえ入ればできるのですけれど……


 ぬちゅぬちゅが続きます。なんていやらしい……膣内に旦那様の硬く尖った棒が擦れて擦れて、私の女性を苛め抜きます。それに合わせて声が漏れ、悦ばせているのでしょうか。だとしたらとても嬉しいのに、目を開けられないのがとてももどかしい。


 気持ちいいと仰って下さる。それだけで満足です。いつでも、子供を下さい。私はどうも、初めてでは気持ちよくなれそうにありませんの。貴方の言葉は嬉しいですわ。体温も温かいですし、十二分に過ぎます。


「ぁ、ぁ、ぁ……っ、はぁ、ふぁっ」


「春花……」


 速く、強く、一定だったリズムが不定期に、アトランダムに私の女性を貫いてきました。ごりごりに犯され、奥に到達する淫猥な音を体の中から聞かされます。そのたびに私の女性はどうやら逃がしたくないとするらしいのです。その癖、また入り口から奥まで貫かれる際には待ち構えるのです。収縮に歯を噛み締め、溢れ出る涙で想いを伝えました。


 好き……


「春花……初めてで妊娠してよ、いいね?」


「は、っい……っ! ぁ、ぁっ、ぁぁ、ふぁ」


 終わりに近いのかごりっ、とされます。今まで一番力強く、壊れるのではと思えるほど硬い力で女性を貫かれていくのです。ぬっちゅぬっちゅ、ああなんてえっちな淫行なのでしょう……声がたくさん、出て、旦那様がとても、激しく、なさり……ああっ……


「春花……!」


「んんっ……
 ふぁぁ ぁ、ぁ、ん……っ


 射精して、頂きました。どくどく、と……どく、どく、っ、温かい、ものが、どく、どく……っ……はぁ……どく、どく……っ、はぁ……なにも、考えられません……
 幸せ過ぎて、いいのでしょうかと一瞬だけよぎり、どくどくに身を任せて、零れていくのが悲しく思いました。入りきらない、ああそういえば旦那様も挿入りきっていなかったようで、小さい私が悔しく、背の低さを恨みました。終わるまで深く深く、旦那様は突き刺して下さいました。きっと妊娠しやすいようにです。多幸感に顔がにやけてしまうのが止まらず、だらしない顔を見られたくなくて逸らしてしまいました。


 ずるずる、抜けて……気が付いたら自然と深く折っていた両脚を戻し、ゆっくりと目を開けました。……私の女性器から、こぽこぽとまあ淫猥な音を出しながら白濁液が流れていきます。あまりの淫靡さにそっぽを向き、でも愛の営みの正しい結果ですとちらちら、流し見してしまいました。黒いもので覆われていたはずの恥部が、少し白いもので塗り替えられていく様はまさに官能の世界でした。部屋の空気まで白く染め上げ、白濁としたものの匂いに目眩を起こしそうになります。


「……血、流してごめんね」


「え」


「処女なのによく頑張ったね。ありがとう」


 口付け……本当に、血が流れておりました。まあ、なんという……大きすぎて裂けたのでしょうか。少々心配です。ですが、旦那様の言葉ですとないことでもないそうです。ほっと安心して、またのお相手ができることを嬉しく思いました。これで壊れてしまったのでしたら──ええ激しくされましたもの──本当にショックで、懐妊していなければ三日三晩泣き呆けますもの。


「……深町様こそ、ありがとうございます。この身体、使って下さって」


「とんでもない。いい身体してるって」


「……し、信じませんわ。気持ち、よかったのですか?」


「うん。とっても気持ちよかった」


「……ありがとうございます……嬉しいですわ」


 ほんの少しですけれど、自分に、ああえっちな方面ですけれど、自信が持てそうです。胸を張れそうですわ。


「全部録ってあるから。後で観ようね」


「……っ! 変態っ、えっちっ、助平っ」


 ああ、かあっと顔中が真っ赤になります。なんてことでしょう……どこか一瞬、嬉しいと思ってしまう自分が嫌ですわ。


「ごめんね。でもこれからもずっと録れるときは録るよ。覚悟しておきなさい」


「……は、はい……深町様、そのたびに深く、激しくて結構ですから、愛して下さいませ……」


「もちろん」


 二人後始末を終え(私は立てなくなっておりましたので拭くだけでしたけれど)横になって眠りにつきました。旦那様の腕の中です。よしよしと頭を撫でてもらうのはやはり心地いい。


 いちゃいちゃ開始です。キスをして、抱きしめ合い、ころころとじゃれ合いました。うふふ、素晴らしい時間です。


「深町様、私は今後他の殿方に指一本触れさせませんわ。身体と心はすべて深町様のものです。貴方になら支配されたいですわ。……その、ミニスカートや肩を出すことは私できませんが、し、下着は選べます。今日を気に入って下さってありがとうございますが、どのようなものがお好みなのでしょう、お教え下さい」


「春花、私は春花を好きになったんだ。今さら下着でどうこうなったりしないよ」


 ……どうしてこんなにも震えるのでしょうか。ぞくぞく、と言いましょうか。


「で、ですが、深町様にもっと気に入ってもらいたいのです。私の下着姿に目を奪われて欲しいのですわ」


「今日充分奪われたけど……じゃあなおさら、自分に似合うのを自分で選びなさい。そっちのほうがいいと私は言ったから」


「……はい。わかりました。好き……」


「私も好きだよ。あ、ミニスカート令は守ってもらうよ? そうだ下着を着けないように命令もするから、そのときは下になにも着けないでね?」


 ま、またですの。はぁ……


「は、はい……」


「それで興奮したらちゃんと私に報告しなさい」


「し、しませんわっ」


「ふふ、楽しみだ。春花はかわいいから」


「深町様のほうが何倍も素敵ですの」


 胸と胸を合わせます。温かい、お互いの胸同士。


「世界中の誰より、きっと」








 翌朝。目覚めたときに隣にある、愛しくてたまらない殿方に。なにものにも代え難い安堵感に包まれ、「私の旦那様……」と幸せいっぱいに呟いてしまいました。貴方の寝顔はかわいいのですね。あんなに愛してくれるときは違うのに。愛しさに溢れ、満ち足りていく心のまま、もう少しとまた眠りに落ちました。
















「……この惨状をどうしたものでしょう、ご主人様? 私は頑張ってこのコスプレっぽいミニスカートのメイド服を着たというのに」


「ごめん、私には違いがわからない」


「中世にこんな格好してたら魔女裁判ですよ。それか娼館を紹介されてお先真っ暗です」


「それはそれで偏見だと思うけど……」


「とにかくっ、そんなことはいいんですっ。見てくださいご主人様っ。全員ミニとはとても言えないスカートですよっ」


 確かに結局ミニスカートを三日だけでいいからやりなさいと命令したにもかかわらず、本当にミニスカートを実行したのは良子と愛、千歳に静香、紗絵子にまゆ、それとなぜか花織ちゃんだけだった。だけというのもおかしいが、全員に実行させるほどの強制力を持っていないとは主人失格である。なんて。


 本当は……やっぱり柚香里のが見たかったのだけれど。みゆも。あの親子が私は大好きで、ああ変態で、どうしようもないほどに。


 だがしかし、見方を変えればそれだけ羞恥心の強いということだ。それはそれでよい。これからもう一度告げて、強引に着替えさせればそれでよい。問題は遅刻するかどうかというだけの簡単なことだ。


「そうかな、半分以上はミニだけど」


「言えないこともない人はいますけどねっ。絵里さんはいいですよ、最終日にすれば。でも、柚香里さんにみゆちゃん、春花さんに花雪ちゃん親子はどうしてこう、それに詩音ちゃんもです。メイド長としてみんなに命じます、ご主人様の命令は絶対ですよっ」


 怒っている良子のスカートがふりふり揺れる。まあ、予想はしていたけど本当に短く、階段の下にいればそれだけで中がのぞけそうだ。膝を超える長さのソックスとミニの間にちらちらガーターがのぞきしゃがめば普通に見えるだろう。良子は意外と、というより普通に露出ができそうだな。ふむ、どうしようか……しかし朝からお盛んな脳になってしまったな、私は。


「私から言わせれば千歳ちゃんも静香ちゃんも甘いです。どうせ後で制服に着替えるんですから、今くらいどかんとやっちゃいなさい」


 そうかな、きちんと膝上十五センチは守っているぞ。


「……良子ちゃんがえっちなだけ、だよ。私はこのスカート、穿くのにすごく勇気がいったから」


 愛はオフィスでは通用しなさそうなグレーのミニタイトスカートを穿いていた。いや、最近は普通なのだろうか? 丈以外はごくありふれたものだし……というよりもやっぱり女性はおしゃれとして、色んな種類の服を持っているのだな。千歳は今まで見たこともないのにすぐシンプルな白いミニスカートを用意している辺り、私の好みを押し付けすぎているのだろう。抑えたいものだ、あんなに美しい太ももを見損ね続けていたのだから。


「愛ちゃんこそえっちでしょっ、それで出社する気のくせに」


「っ……そ、そんなこと、ない」


「ダメだよ愛、まだ早い。会社では極力隠さないと」


「……はい」


 職場で働けなくなるのはいけない。この三日のお勤めが終わったらしばらくはお休みだな。愛は暴走しそうだ。ゆっくりとやらせたいのだ。


「そうだね……ここで甘やかして、頑張って膝丈まで短くしたのを評価したいけど、一応命令は命令だしね。私が見たいのはふくらはぎじゃなく、太ももだし」


「憲邇ぃ……無理よぅ、わたしもう高校生のときとは違うの、若々しくなんてない、肌が全然違う……」


「私の家だけでいいんだ。誰に見せることもない。進んでしたがる良子以外はね」


「だってっ、ご主人様がすけべだからっ」


「うん、だからみんなのミニスカート姿が見たいな」


「あ、あの、深町様、私実は、花雪もですけれど、ミニスカートは持っておりませんの」


「ああ、そうだね、春花たちはそうか。仕方ない、今日はその膝丈でいいけど、明日明後日は穿いてもらうよ。今日買ってきなさい」


「はい……」


「深町さま、私まだ傘下に入るとは決まっておりませんの」


「でも膝丈にしたよね?」


 ぐっと返事に詰まる。私自身花雪に命令したつもりもなく、白いワンピースの裾を膝の長さに合わせたのを着て、どちらか試したくはなった。


「それは私の言葉を受けて? それとも今日の気分かな?」


「……だって、見たいとあなたが仰るから……」


「ありがとう。短いのも悪くないよ。どんどん新しいのにチャレンジしていくといい」


「はい……お母さま、ご一緒しましょう」


「ええ」


「詩音も持ってないのかな?」


 春花たちの言葉に同意を示しかけた、熱の引いた女の子に声をかける。「はぃ……ない、です、そんなの」


「わかった。良子……に任せると大変なことになるから、春花たちと一緒に選んでもらいなさい」


「はい」


「じゃあ柚香里とみゆ、さっさと着替えるんだ。君たちが所持していることは知っているんだから。早くしないと朝に見られないまま仕事に行かなくちゃならなくなる」


「……で、でも」


「憲邇さまぁ」


「着替えろ、と言ってるんだ」


「えぅ……お、お母さん行こ?」


「憲邇のバカッ、変態っ。最低、あとえっちしてくれてないのわたしと花雪ちゃんだけなんだよっ? こんなに、えっちな命令聞いてるのに……」


「ごめん。今夜は寝かせない」


「っ……やだぁ、そ、そこまであんなことされたくないよぅ、ううう、ばかぁ……」


 泣き出しそうな顔で二人とも小走りしていった。……まずいな、本当に。家族なのにこんなにも女として扱っていいのだろうか。


「あなた。今のは聞き捨てならないわね」


「そうね憲邇くん。黙ってれば調子に乗って」


「ご主人様?」


「冗談だよ。そんなにやるつもりも体力もない。できたらとっくにやってる」


「……」


 ……ああ、そうだね。大所帯になったからみんなへの頻度は少ないか。どうにか問題を解決する手段が欲しいな……パティに言って私を分割してもらえば早いんだが。


「それじゃあ、そろそろ朝食にしよう。ミニにしなかった二人は後だな」


「憲邇さんひっどいなー。みゆちゃんあれでもがんばったんだよ? あたしくらいのはいちゃうとすぐめくられちゃうよ」


「そりゃあね。ひらひらふわふわ、見えそうなのが悪いんだ」


 まゆは赤くはなるものの子供にしても短い明るいオレンジのスカートをつまみ、ひらひらさせて健康的な太ももを見せてくれる。


「サイッテー。しょうがないなぁ憲邇さんはっ。いい? 今のかっこでぱんつ脱いでお散歩とか言わないでよ? 言うならあたしだけにするんだね」


「あらまゆちゃん、勇ましいわね。言っておくけど憲邇くんの辱めを受けきれるのは母である私だけよ。譲らないわ」


「ほー? 言うじゃん。あたしと憲邇さんはね、壮大なロマンスとたくさんの苦労を乗り越えてきたの。このきずなに勝てるやつはいないね」


「まあ、負けませんわ。私と深町様も多大な敵対勢力と戦い、今の関係を勝ち取ったのです。私のほうこそ深い絆で結ばれていますわ」


「せんせはっ、あたしが好きだから暗闇から抜け出させてくれたんですっ」


「言ったなー? ダメだよ、憲邇さんの好きはみんなに一緒だけど、一番憲邇さん好きなのあたしだかんね!」


「私よ!」


「あたし!」


「わ、私ですわ!」


「まあまあ、みんな好きなんですから」


「千歳ちゃんは黙ってて!」


 ……とうとう、年下にまでちゃん付けされてしまった。苦笑いもするか。


「いやぁ、私を一番好きなのは詩音だね。夜に様子を見に行ったときに私のことを『お父さん』と間違えたんだから」


「ぇっ……あ、ご、ごめんなさい」


「いいよ。頑張ったね、詩音。偉いよ」


「……ぁ、あのあの、みんな、同じです。同じくらい、好きで、憲先生と、同じで、いいじゃない、ですか」


「……仕方ないわね、ここはかわいい詩音ちゃんに免じて許してやろう。まあ、憲邇くんが私たちみんなに等しく愛を降り注いでくれてるのは周知の事実だしね」


「そうかな。私はひいきばっかりだよ。今ミニスカートで駆けつけてくれたみゆが大好きだ」


「えぅ、憲邇さまぁ」


 みゆはよっぽど恥ずかしかったのかずっとピンクのワンピースの裾を下に押しやっていた。みゆは短いスカートは実は持っていない。丈が短くなるワンピースしかないのだ。多分。私がこの前プレゼントした、走るだけで下着が見えてしまうのはまだ穿けないだろうし。


 そして後ろからとぼとぼ歩いてくる柚香里も娘とほぼ同じで、ミニ丈になる程度の白いワンピース姿だった。それも恥ずかしいのか真っ赤で、なんというかかわいいなぁ。俯き加減にこちらをちらちら、窺う上目遣いの反則加減といったら。やっぱり私は好きなものは最後にとっておくタイプのようだ。


 寝かしたくない。


「二人ともよく似合ってるよ。みんなありがとうね、きちんと言うことを聞いてくれて」


「あ、ありがとう、憲邇」


 みんなもそれに続く。頷いてとりあえず、と、考えていたことを切り出した。


「さて、じゃあ朝食が終わったら朝の挨拶をしてもらわなきゃね」


「挨拶? みんなやりましたけど」


「いやいや、この家に泊まった女の子は全員きちんと朝は挨拶をしないとね」


 みなまで言わず食事を再開した。不思議がっている面々を尻目に自分のバカさ加減に呆れ返る次第だ。しかし……やりたいのだ。うん、みんなに慣れさせない程度、少しがいい。あ、全員はまずいか。慣れてもらっては困る。なにごとも、もちろん野外露出に慣れてしまっては意味がないしな。あれは慣れずに羞恥を煽らなければ意味がないのだ。そう考えるとこの面子は奇跡のようだと言える。特に柚香里。君にできるのは最高だよ。子供の頃のは遊びだったし、幼かったからね。今なら本物ができる。少しずつ、やっていくから。


「……? な、なに、憲邇」


 そうやって、おどおどしつつ強気でいてくれ。


 大好きだよ、ゆぅちゃん。








 食べ終わった食器を片付けようと立ち上がった春花は少しもたつき、歩くのもなにか不自由そうだった。


「お母さま? どうかいたしましたの?」


「じ、実は、その……き、昨日深町様がは、激しく、なさるから……」


「ありがとう」


「褒めてませんわっ、もうっ」


「……お、お母さま、帰宅なさいましたら、で、できたら、詳しく……」


「まあお姉さま、えっちですわ。もっとていしゅくになったほうが」


「で、ですけれど、殿方の求めに応じるのも婦人の努めですのよ」


「花雪、皆様以外に口を漏らしてはいけませんよ? 相談されても答えてはなりません」


「わかっておりますわ」


「……その、これだけは言っておきますわ。幸せに、なれますの。痛いのは最初だけで、深町様に愛のあるセックスをして頂くと、とても……幸せになれますの」


 そうだとは思えない、のは私だけか。みなが言うのだから彼女たちにとってはそうなのだろう。もちろん私にとってもだ。ならばいいか。


 親子で食器を洗いながら、心底──そう見えたいだけなのかもしれないが──嬉しそうに娘に語る母親は、女でもある不思議な存在に見えた。……加えて言うなら、いまだに少女の面影の残る。


 微笑みになれるのならよかった。春花には本当に、優しく笑っているのがよく似合う。コスモスのようだ。綺麗だと、思う。


「憲邇くん? なに見てるの、とっとと支度なさいっ」


 紗絵子も春花を見て、ちらちらと自分の下腹部を見つめてもぞもぞさせていたがなんなのだろう。やはりミニスカートが気になるのだろうか。


「なに、自分の女を見てて悪いの? 私はもう二十七になるんだ、いい加減子供扱いはやめてくれ」


 もう少し話はしたいよ。食後にほんの少しは。


「いーえ子供よっ。スカート症候群から抜け出せない息子はまだ子供だわっ。ジーンズのラインを美しいと思えるようにならないと」


「紗絵子が穿いても、外国の方のように撫でたりしないよ」


「むうっ。まったく、サイッテーねっ。どうして憲邇くんにしてほしいことをどうでもいい人たちがしてくるのかしら……世の中はままならないわ」


「紗絵子さん、されるうちが華ですよ。私なんて痴漢されなくなって何年経つと思ってるんですか」


「今されてるでしょ」


「されてません。職場はきちんとした仕事着ですし、通勤は車です」


「嘘つけ、絵里さんは近所に住む小学校の、それもまゆちゃんの通ってる先生に痴漢されてるくせに」


 お、まゆも驚いた。「え、え、お母さんモテんの? だれ? だれ?」


「紗絵子さん、この件はなかったことにしましょう」


上山(うえやま)先生よ。あの美形の」


「えーっ! 信じらんなーい!」


 全員が振り返るほどの大声を出した。上山……ああ、あの先生か。


「ウッソ、マジ? あの人すっげー女子に人気なんだよ? 最近結婚するからって泣いた子もいるのに」


「マセた小学校ね、ふ、ふふん」


「ていうか、この辺に住んでたんだ。ふぅん……お母さん、うわきは犯罪だよ」


「してないっ。痴漢とかされてもないわっ。私がしたのは相談に乗ってあげたことと、夕飯のお裾分けだけよっ」


「うわ、浮気の最も多いパターンじゃない。憲邇くん、知ってたの?」


「そりゃあね。別に教師と仲良くなるくらい普通じゃない? それもまゆが通ってるならなおさらだと思うけど」


「憲邇……甘いわね、これから結婚する男は、独身最後にいろいろ遊び尽くすものなのよ。最後に他人の女、人妻に手を出す男をこの絵里さんは止められないわ……」


「大丈夫」


 私はにっこり笑った。「絵里を信じてる」


「……」


「大体、私がこんな状態なのに君たちが浮気とか、責められた義理じゃないと思うんだ。もちろん、されたら悔しいさ」


「憲邇様っ」


「まあ、愛はそれが嫌みたいだからそうしてるけど、基本はね。……ただ」


 もう一度笑う。「絵里を泣かせたらどうなるか知らないけど」


 無理矢理とか襲い掛かるならどうなるのか、私でも想像はつかない。単純に暴力に訴えそうだ。私はそういう軽い人間なのだから。


「……や、やだもう、怖いわよ、あなた。泣きません。あなたが……いるんですもの」


「ありがとう」


 困ったように笑う絵里。間にある温かい空気に満たされて、この人は素敵だなと思う。


「憲邇さん、あたし泣かされても怒る?」


「怒る。当たり前だ。みんなもだよ。私のかわいい女の子たちを泣かせるやつは誰であろうと許さない」


 私自身を含めて。


「……」


「だから、みんなも気をつけてね。なにか不安なことがあったり、騙されそうだとか、怖いとか思ったら相談していいんだ。自分の手に負えないときはみんなの力を借りよう。ね?」


「はい……」


 あ、あれ。みんな赤いぞ。どうしたんだ? もじもじするなっ、かわいいじゃないか。


 え、えーっと、そうだな、よし、今やってやる。


「ではそろそろ挨拶の時間だね。今日は良子とみゆにしようかな」


「挨拶?」


 こっちへおいでと手招きをして、熱でもありそうな顔のまま近付いてくれる二人にそっと耳打ち。見つめ合った二人は、どうしようかとおろおろし始めた。


「早くしないと遅れるから、すぐしなさい」


「えぅ……あ、あっちのお部屋、使っていいですか?」


「ダメだよ、みんなに見えなくていいから、ここでやりなさい」


「ご主人様……」


 あれ、そんなに恥ずかしいこと言ったかな。割と普通に挨拶の意味で、私たちは頻繁にセックスができないからさわりだけでもというつもりだったのだが。というより、知ってやりたくなりたいのだ。


 ごくんとみゆが唾を飲み込む音が聞こえる。


「お、おはようございます、良子さん」


 そして短いワンピースの裾をめくっていった。


「お、おはよう、みゆちゃん」


 良子もそれに応じてメイド服のスカートをめくる。


 みんなに見えない、私にもよく見えないのだが、みんながなにをしているかぐらいは見えている。お互いに向き合い、スカートの中を見せ合っていることぐらいは。


 熱が高くなった二人はお互いの下着をしばらく確認し、それからすぐに下ろしてから私のところへ走ってきた。


「おはよう、良子」


「お、おはようございます、ご主人様」


「うん」


「……」


「で?」


「あっ、あの……今日のみゆちゃんは、白いぱんつにリボンがついてるのでした」


「そう。おはよう、みゆ」


「お、おはようございます、憲邇さま。えと、きょ、今日の良子さんは、ぴんくで、ふりふりがいっぱいついてて、えっと、それから、お、お花の模様がいっぱいでした」


「そうか。ありがとう二人とも」


 頭をぽんぽん撫で、順にキスをしていった。良子は赤いままそそくさと離れていったが、みゆはふにゃふにゃと顔を変形させ、頬に手を寄せた。


 一部始終を聞いていたみんなもすぐわかるだろう。特に説明はいらないな。


「と言う訳だから、これからこの家に泊まってく女の子は毎朝挨拶は欠かしちゃいけないよ」


「まあ……深町様、わ、私、恥ずかしいですわ、皆様に、知られるなど……」


「え?」


「憲邇、わ、わたしも、恥ずかしいよ」


「あたしはいけっけどなー? お母さん?」


「う、私もきついわね。秘密にしたいところよ」


「え、あれ? でも、お風呂に一緒に入るだろ? しかも同性だし、恥ずかしいものなの?」


 おかしいな、こんなはずでは。私は単に下着の様子を言わせるだけの意味合いだったのに。


「憲邇くんはよっぽど下着フェチなのね……それもぱんつばっかり。あのね、学校や職場で着替えるのとは違うの。そこだと、着替えるっていうことがもうあるってわかってるんだからいいわ。でもここは違うの。確かにお風呂には一緒に入るかもしれない。でもね、憲邇くんは一緒にお風呂入る私たちを知らないのよ。ほぼ全員、下着は隠しながらなんだから」


「え、そうなの?」


 ほぼ全員頷いてる。そんなに羞恥心が強いの? うわぁ……やばいな、それ。


「学校なんかの着替えは慣れもあるし、いいやと思うわ。でもここは愛しい愛しい憲邇くんのお家で、いつあなたに求めてもらえるのかわからない戦場なのよ。あなたに見てもらう覚悟はあるわ。でもそれはあなただけなのよ。学校での着替えは学校のみんなに見られてもいい覚悟ができるけど、ここではあなただけなの。ほかの女にだって見せたくない、あなただけでいたい、恥ずかしいって思うわ」


「紗絵子様、私は単に恥ずかしいですわ。家族と好んだ方以外に下着などという恥部を教えたくは絶対にありませんの」


「うん、そうね。そういう女の子も多いのよ。ていうか、女こそ着替えでもないのに下着を見られるのは同性こそ恥ずかしいの。ううん着替えこそ恥ずかしいのよ。着替えるときは学生時代からずっと今でいう見せパン見せブラなんだから。憲邇くんもまだまだね、私たちを全然知らないわ」


「よし、じゃあやろう。決定だね。下だけに限らず上も時々しようか」


「えっ」


 そこまで言われて取り下げることなんてできやしない。


「恥ずかしいと思うならぜひやっていただこうじゃないか。何度も言うけど、君たちには拒否権なんてないんだ、私にならされていきなさい」


「……」


 そんな目で見ないでくれ、ぞくぞくする。


「大丈夫、一日に二人だけにするつもりだし、嫌なときは泊まっていかなければいいんだしね」


「憲邇ぃ、わたしここに住んでるのよ? ううう、確立すっごく高いじゃない」


「そう? だったらテニスみたいにアンダースコートでも履けばいいんじゃないかな」


「え、あなたいいの、それ」


「いいよ? 別にそんなの気にしないさ。好きにするといい。要は君たちがどうしたいかだ。隠して私を落胆させたいのか、教えてくれて今日やりたいと思わせたいのか、どちらかね」


「ううう……ずるいよ、憲邇っ」


「そうですご主人様、相変わらずドスケベですねっ」


「うぅん、この前みんなで下着を見せ合いっこさせたのにどうしてそんなに嫌なのかよくわからないな。まあそろそろ時間だし、自分の中で心の整理をつけてなさい。私は出勤します」


 立ち上がり、たじたじとどうしようか悩んでいる彼女たちを尻目に自室へと歩いていった。


 ふむ、愛にやらせるとたまに履いてないとかありそうだな。それはそれで面白いし、履かせないときにやらせるのもいいだろう。いろいろとできそうだ。道具をつけさせるのもいいし、思ったより幅が広そう……
















「あ、あのみなさん、そろそろ支度しないと遅れますけど……」


 皆様ぼうっとしております。私もこのスカートをめくり、あの方でない人に見せて下着の細部までじっくりと見られるのは……


 昨日の写真も、録画も、あの方だからこそ受け入れられ、そして嬉しかったことですのに。他の方にされる……ああでもそれは、誰あろう深町様のご命令ですのね。この先にあの方の笑顔があるのでしたら、苦労をする価値はありますわ。


 やがて……皆様も覚悟が──ほんの少しではありましょうが──決まったようです。当座になればきっとおろおろすることはわかっておりますが、ひとまずの心持ちは決まったと言えましょう。


 ああ、愛さんやまゆさんが羨ましいですわ。


「花雪、花織、参りましょう。遅れてしまいますわ」


「……はい、お母さま」


「お母さま、無理なさらないでください。お体が不自由でしたらおやすみしてください。また……帰った途端にああは、なってほしくないですわ」


「ええ、重々承知しております。これはありがたい痛みですの。以前とは違いますわ」


 あの……耐え難い痛みとは違います。心地よいとさえ、思うようになれる……なにより、あの方を感じる、印ですもの。


 それはそれとして。


「花織、そのような格好で登校はなさらないで下さいね」


「はい、わかっております」


 短すぎますわ……あの方の前でないところでどうして、このまま外出できるのでしょう。


「……お母さま。たまにはそのような格好でお仕事なさってもよろしいのでなくて?」


「花雪……」


「私、私も、このまま登校しようかと思うのです」


 膝丈のスカートは確かに、どうして気付かなかったのでしょう、学校のものでした。上が制服でないために気付けなかったのでしょうか。


「このくらいの長さはむしろ普通ですの。以前は長すぎるとさえ、よくクラスの方は仰いましたわ」


「……そうですわね」


 一度だけでも、試してみるのはよいかもしれません。この年の女の脚など、見たいと思う方も、ああ一人の例外を除いて、いないでしょうし。


「私もそうしますわ。時間も余りありませんし、このまま学校へ行くこととします」


「はい。花織は短すぎます」


「今着替えておりますわっ」


 くすりと二人で笑い、鏡の前を順番に使って、それから出発といたしました。


 本日も深町様は。


「いってきます」


「いってらっしゃい」


 と、皆様全員と唇を合わせました。私の番のときにこっそり耳もとで、「昨日は楽しかったよ。また激しくね」と囁いて頂きました。また俯きそうになるのを持ち上げてもらい、にっこり笑いかけてもらいました。


 幸福に焼けそうです。私の旦那様。


 勤め先への順路が、とても楽しく感じました。








 夏休み直前、これからのわくわくに胸を高鳴らせる児童たちが予定を立ててどこへ遊ぼうかと、そればかりが聞こえてきます。よいことですわ。やはり子供は遊ぶべきですの。


「ねーねー先生ー、お返事どうだった? 夏休み入る前に教えてもらわないと」


「はい、
OKでしたわ」


「わぁ、やっぱりー!」


 皆さんきゃいきゃいと黄色い歓声を上げます。喜んで下さるのは嬉しいですわ。


「先生一年生の子供がいるように見えないもんねー」


「そうそう。二十五とか、その辺だよ」


「あら、ありがとうございますわ。けれど大人の女性の年齢を、みだりに噂してはなりませんの」


「ごめんなさーい。じゃあみんなに言ってくるねー」


 ぱたぱたと、子供は風のように走っていきます。廊下は走るべきではありませんが、夏休み前くらい、浮き足立つのを止めたくはありませんわ。


 ええ、お世辞に参っているのです。


 少し……歩きにくいですわ。以前の、忌まわしい初めての出来事よりは幾分楽ですけれど、やはり深町様は激しいのです。それは絵里さんも文句を言いたくもなりましょう。お仕事をこなすのがほんの少し苦しいです。


 職員室で雑務をこなしていきました。今日のスカートはやはり短いのか、殿方の視線をよく感じます。膝丈など短いです、恥ずかしいですわ深町様……誰も問うてこないのも逆に怖いのです。着替えなさいと、むしろ言うて欲しいくらいですわ。児童にめくられたらどうしましょう、こんなに短い……もうっ。深町様、今夜も家族三人でお泊りします。じゃんけん、勝ちたいのです、朝、挨拶をさせて頂きたいですわ……


 喜ぶ貴方のお顔が見たい。


八尋(やひろ)先生、先生の娘さんは尾方(おがた)、あ、深町まゆちゃんと親しいそうですね」


「はい」


「少し彼女の親御さんとお話がしたいので、娘さん伝で構いませんからお伝え願えませんか?」


「あら、まゆちゃんご本人にお話なさればよろしいのに」


「いえ、それが捕まらないんですよ。僕も時間が取れなくて、探すときに限って見つからないんです」


 確かにまゆさんは少々やんちゃですものね。仕方ありませんわ。


「わかりましたわ、お伝えしておきます」


「お二人ともお忙しいそうなので、向こうの都合のいい時間をと。よろしくお願いします」


「はい。その後どうですの、婚約者の方とは」


 若い青年の先生は照れたように笑い、


「ええ、おかげ様で。年内に式を挙げたいって猛烈に押されてます」


「まあ、おめでとうございます」


「ありがとうございます。あ、どうも」


「おめでとう! よかったなぁ」


 同僚の職員が聞きつけ、口々に祝福の言葉を受けておりました。


「心配しましたよ、厄介そうなカミさんで」


「いえ、あれでかわいいとこもあるんですよ」


「はっはっは、いいですなぁ本当に!」


「式にはお邪魔してもいいですか?」


「ええ、もちろん。盛大にやりたいって向こうが口うるさいので、そうしてやろうかなと」


「あっはっは! いいですねぇ本当に」


 しばし仕事を忘れみなで祝福しあいました。よかったですわ、本当に。結ばれない二人など悲しすぎますもの。


 この優しげな面持ちの方なら、相手の方もさぞ幸せでしょうと微笑むばかりでした。


「そういえば八尋先生も恋人ができたそうですね」


「えっ」


「噂になってますよ。だから今日は無理してるんですね」とにっこり。矛先を変えるつもりですのね。ですが私も笑顔で。


「はい。とっても素敵な方と交際を始めましたの」


「えっ……」


「?」


 なぜかざわつきました。どうしたというのでしょう。


「ほ、本当ですか?」


「? はい」


「……」


 なぜか男性の先生方の顔が青くなっていきました。女性はそうでないというのに、どうしたのでしょう。


「八尋先生、生徒たちに無闇に嬉しいからと報告してはいけませんよ」


「そうでしょうか」


「そうです。学校に新たにやってきたマドンナが誰かの彼女となる。心の奥では彼氏持ちだろうとわかっていても、公言されるとファンはショックなんですよ」


「まあ、私ももう四十ですのよ。本物のマドンナは確かに五十を過ぎましたけれど、本来私のようなおばさんがそのような言われ方はやめて欲しいですわ」


「生徒にスカートをめくられたショックのあまり授業ができなくなるのはマドンナです」


「い、いえ、その前にちゃんと叱りましたの」


「八尋先生、おめでとうございます。男どもはざまあみろだわ」


 女性の先生に言われました。「早くその人とくっついて、また寿退職してください」


「あ、いえ、その方とは例え結婚してもこの道は続けますの。二人で決めましたから」


 ピアノを弾いている姿に惹かれてました……寝物語は真実ですから。


「ああ、そうなんですか。そうですよね、今のご時世専業主婦は難しいですからね」


「わかります、私も恋人の稼ぎだけで暮らしてけそうにないって思ったからこそ公務員を選びましたし」


 女性の方々が頷き合います。そうなのでしょうか。不況の波は私にはとんと理解できないのです。今のところ家賃を納め、娘二人との暮らしは私の稼ぎだけでなんとかなっておりますし。それも公務員だからでしょうか?


「上山先生のところはどうなんですか?」


「僕も共働きです。やっぱり、生まれてくる子供に苦労はさせられませんから」


「まあ……立派ですわ。きっと素晴らしい父親になりますわ」


 立派なお考えです。あの男とは違い、普通の、ごくごく当たり前の素晴らしい考えだと思います。


「ありがとうございます」


 微笑む仕事姿に、以前の青いという表現は取り下げなければと思いました。男子三日会わざれば、ですわね。


 でも、深町様には一辺も敵いませんの。ああ、もぞもぞしてしまいましたわ、はしたない。


 もしこれで……お腹が大きくなるまで、確かめたりはしません。する必要もないのです。すぐに私は、旦那様のお子を授かるのですから。


 軽くお腹をさすり、その日が楽しみでなりませんでした。なぜだか、皆様の視線がぎょっと変化し、どうしたのですかと訊ねても誤魔化すように別の話題を持ち出され、よくわかりませんでした。


 私は笑顔であり続けました。
















 もうすぐ夏休み。憲邇さまにかってもらえる夏休み。初めての夏休み。楽しみ……


 今日と明日で終わり。今日も明日も半日で終わり。すぐ憲邇さまのおうち行こ。おうち行ってミニスカートっぽいワンピースにお着替えして、憲邇さまを待つの。お義父さんもお義母さんも許してくれたから毎日お泊りしたいけど、週に一回くらいは帰ろうかな。もうすぐ憲邇さまにかってもらえるんだから、今のうちに会っとかなきゃ。それで報告して、みゆはもう憲邇さまのものだから夏休みはずぅっと憲邇さまのおうちにかわれてますって、言っとかなきゃ。たくさん、今日の朝みたいに、えっちなこと、されてきますって……


 はぁ。憲邇さまえっちだよぅ。でもやったあとにキスもらえるのうれしいな。毎日、みゆにしてほしいなぁ……あっ、ううう、またえっちだよぅ。この前めちゃくちゃ声出しちゃっておさえようって思ってるのに、みゆもへんたいだぁ。


 み、みゆは憲邇さまのお母さんみたいに大声で名前言っちゃったり、ないよね。みゆはまだ子供だし、言うと大変だし。ここでえっちしてますなんて、前に言ったからもうないよね。


 ようし、今日のブログ、朝のあいさつのことにしよ。しばらくみゆはえっちないと思うし、こういうこと書いてこ。


「ニュースニュース! 姫に彼氏できたって!」


「ええっ!」


 みんながざわざわ走ってきた女子たちに近づいてく。姫……春花さんのことだ。春花さんはあんまりにもお姫さまっぽいから、みんな姫って呼んでる。彼氏って憲邇さまのことだね。春花さん言っちゃったんだ。やっぱり言いたくなるよね。


「男の先生ショックみたい。あははっ」


「バッカだよね、あんなさえないやつらが姫とくっつけるわけないじゃん」


「おれもなんかショックだなぁ」


「あははは! そう? 当たり前だよ、あんな美人に恋人できないわけないって」


「世の中ふこーへーだ」


「そんなこと言ったら上山先生だってもう結婚確定なんだって。今年中に式あげるらしいよ」


「ふーん、はなよめすがたは見てみたいなぁ」


「あたしもあたしもっ。あこがれるよねぇ」


「あー、姫の式見てみたいなぁ。どんなドレス着るんだろ」


「似合いそう……一番似合うよね、姫に」


 結婚式かぁ……憲邇さまとは結婚できないけど、式はしてくれるって言ってたしみゆも楽しみだなぁ。十六になったらかな? 待ち遠しい。


 チャイムが鳴った。今日最後の授業……あれ、春花さんだ。


「すみません皆さん、急に担任の先生は用事ができたので、代わりに私が見ることになりました」


「先生ー! 彼氏できたんでしょー?」


 あ、うれしそうににっこり笑った。


「内緒です。どうしてもと言うのなら、そのお話は連絡事項を終えてからにしましょう。まずは先生の話をお聞きになって、ね?」


「はーい!」


「では明後日から夏休みですが……」


 春花さんもやっぱりえっちしてもらったあとって変わってる。まゆちゃんも変わったって言われてるし、良子さんはますますきれいになって、まゆちゃんのお母さんはかわいくなった。春花さんからはすごくしあわせそうなオーラみたいなのを感じるな。やっぱりそうだよね。みゆもなの。


 ひととおりお話が終わるとみんな次々春花さんのことを聞きたがった。


「彼氏どんな人ー?」


「カッコいい?」


「皆さん、今のお話にご質問はありませんの?」


「ないでーす!」


 いつも返事をする声のおっきな女子が答えて、先生に質問を繰り返した。


「……まったく、しょうのありませんこと。お話は終わりましたので、ご質問がなければ皆さん帰宅して結構ですのよ」


「先生ー、教えてよー!」


「……嫌、ですわ、恥ずかしい」


 そっぽ向いて、ほほ赤らめて。うわ、ああいうのだ。ああいうのみゆに足りない。くやしいなぁ。


「や、やめろよ女子! 先生いやがってんだろ!」


「あー! のうさつされてんじゃねぇよマセガキ!」


「んだと!」


「やめなさい、隣のクラスはまだ授業中ですわ」


「……はーい」


 すごすご、立ちそうになった人たちが座ってく。


「皆さん、人の交際関係を無闇やたらに訊ねるものではありません。プライベートですので、親しい間柄にだけ留めておきましょうね」


「先生と生徒は親しいよー?」


「ええ、ですが先生は恥ずかしいのです。私の大切な人を皆さんに披露したくありません。気恥ずかしいのですわ」


「……よくわかんなーい」


「わからないのでしたら、お止めになって下さいな。……でも、そうですわね、とても、優しくして下さる方ですわ。大事にして頂いておりますの。私は守ってもらうばかりの能のない女ですけれど、あの方はそれでもいいと、一緒に歩いていきましょうと手を繋いで下さりましたの。一生を傍で、過ごしたいと、尽くさせて頂きたいと思えるお方ですわ」


 あ。みゆ、気づいちゃった。春花さん、そっとおなかさすってる。うわぁ、もうできたのかな? うらやましい。まゆちゃん、気づいてる?


 お姫さま、っていうより、女神さまみたいにおだやかでしあわせそうなほほえみをした春花さんに、みんなしーんとなっちゃった。


「皆さんもそう思えるお相手が見つかるとよいですわね。それでは本日はこれでお終いです。時間もいいですわね、では……ああ、まゆさん、上山先生がご両親にお話があるそうなので、ご両親のお休みの日を上山先生に教えておいて下さいね。では、さようなら」


「……」


 黙ったまんまの教室から、女神さまは出て行っちゃった。ようし、早速帰ろ。憲邇さまのおうち行かなきゃ。椅子を引いて席を立とうとするとみんながこっち見た。


「えぅ、な、なに?」


「あ……ううん、帰ろっか」


「そーだね……なに言ってるか全然わかんなかったけど、しあわせそうだったな」


「うん……よくわかんないけど、うらやましいって思っちゃった、あたし」


「スカートいつもより短かったね。似合ってたけど、姫にはへんだと思ったんだ。そっか、彼氏かぁ」


「足きれーだったよね……細くってさ」


「でも大丈夫かな? おなかさすってたから、痛かったのかもしんない」


「え、嘘、大変だ、姫は体が弱いんだよ」


「よーし、昼飯前にひとっぱしりだ!」


 ばたばた数人が駆け足で出て行った。同じくらいにチャイムが鳴って、みゆもまゆちゃんのところへ準備万端で近寄ってく。


「あ、みゆちゃん、すごかったね、姫」


「うん。しあわせそう」


「いいなぁ……へへへ、みんなおなかさする意味わかってないんだよ、バッカでー、子供だなぁ」


 まゆちゃんだって同い年なのに、もう。


「お、なに、違う意味あんの?」


「そうだよ
(たける)。知りたかったら先生に聞いてみな」


「へぇー、お前意外にものしりなんだな」


「見直した?」


「ああ。よし、聞いてこよう。そだ、昼飯食ったらサッカーやろうぜ」


「おう!」


 
臼田(うすだ)くんも速い足でびゅんびゅんどっか行っちゃった。


「きしし。武驚くだろうなー」


「驚くよ、きっと」


 二人並んで、みんなとさよならを言いながら校門に向かってく。


「上山先生なんだろね。忘れないうちにメモしとこっと」


 ケータイにぴっ、ぴって。すごいなぁ、憲邇さまに教えてもらったって言ってたけど、みゆまだそこまでは難しいよ。


「……ね、みゆちゃん、今日はえっちなこと言われてなかったの?」


「う、うん。大丈夫、なんにもないよ」


 あ、朝にちょっとえっちなこと言われたけど。まゆちゃん、昨日すごくひさしぶりにえっちしてもらえてうれしそう。ときどき足、もじもじさせてたし。


「そっかぁ。憲邇さん絶対みゆちゃんひいきしてっからまたなにか言われてそうな気がしたんだけど」


「そんなことないよ。まゆちゃんのお母さんとか、みゆのお母さんひいきしてるよ」


「むむむ、そだね、お母さんはひいきしてっかも。ミニスカじゃなくていいし、腹立ってきた」


「それはきんしん中だからだよ」


「そうかなぁ。せっかくあたしもこんなミニでひらひらなのにさっ」


 ふわふわ、オレンジのすそつまんでひらひら、くるって、あああ、見えちゃってるよぅ。


「えへへ。ついやっちゃうんだ、憲邇さん好きだし」


「あ、うん。みゆもわかるかも。でもみんないるんだよ、見えちゃダメだよ」


 まゆちゃんかわいいんだから、めくられちゃうよ。ほら、みんな見てる。


「わかってるって。みゆちゃんもサッカーしようよ」


「うん、いいよ」


 みゆも運動できるようになりたいし。


「決まりだね。じゃあ帰って良子さんのお昼ご飯食べなきゃ。みゆちゃん、いちいち着替えてる時間ないから、おうち帰ったらミニにして、そのまま行くからね?」


「えっ、む、無理だよぅ、ボールけったら、ううう」


「うふふ。どうしよっかなぁ。そっちのが面白そう」


「まゆちゃん昨日あんなこと言われたからでしょっ。え、えっちだよ、もう」


 最後は小声で。


「ごめんごめん。そのままでいいよ。憲邇さん帰ってきたらどうしてくれるのか楽しみだね。せっかく三日もミニスカなんだからさ」


「う、うん。楽しみ」


 えっちになっちゃってもいい。恥ずかしい命令、憲邇さまなら聞きたい。よ、夜も寝る前にあいさつかな。なにするんだろ……


 おなかさすってもみゆはただぺこんとふくらんでるだけで、春花さんみたいに赤ちゃんを感じない。太っちゃっただけの当たり前が少しいやで、早く早く憲邇さまの赤ちゃんがほしかった。あ、ぐるぐるなってる、おなかすいてるのかな……
















 甘かったかなぁ。先生、もっと短いほうが好きでしたか? ううん良子さんが短すぎるの。あんなのしゃがんだらすぐ見えちゃうじゃない。お仕事柄、しゃがみまくるくせに。


 ひとまず私は先生に家の中だけ、と言われたので学校でもミニスカートでいようと思った。高校だし、私くらい長い人のほうが珍しいくらいで、よくよく見てると今日の良子さん並に短い人だって多い。みんなすごいなぁ。あれ全部命令されてるのかな。


 最近とっても増えちゃったから私はちょっとの空白の時間ができちゃってる。先生にえっちなところ触ってもらったり命令は受けてるから余計、先生にえっちなことされたい。誰かと一緒でもいいな、紗絵子さんみたく大声出してえっちなこと言わされてもいい。ああもう、ちょっとやってないだけでこんなにはしたないんだ。抑えよう抑えよう。


 私が通ってる学校の夏休みまで後一週間足らず。前期中間試験も終わり、結果も普通だった。小中と違い長い休憩もここは少し遅い。だから先生の家に夏休み中合宿できるのも少し遅くなる。でもいいな。母は許してくれたし、後は父を説得するだけ。祖父はなにも言ってこないし、年の離れた兄はそれどころじゃないし。


 そういえば先生に家族の紹介はほとんどできてないな。病院にも自分一人で通いつめたし、いつか両親ぐらいは紹介しておきたい。お付き合いしているっていうと結婚できないから問題ありそうだしどうしようかな。うぅん、赤ちゃんできちゃったときもいろいろあるよね。難しいなぁ……


「ちとーせちゃんっ」


 後ろから近付く気配を感じてさっと右へ避ける。「ちっ、気づかれたか」


「なに、
東野(ひがしの)さん」


「ねぇその、スカート、どうしたの?」


「好きな人がたまにはミニもどうかって言われて、試してみてるの」


「ふぅん、ますます染められてるのね」


「うん」


 それが嬉しいの。


「どう、男の視線感じるのって」


「視線? 全然感じないけど」


「そう? みんな恥ずくて千歳ちゃんのは見れないのか。情けない男どもねぇ」


「似合ってるかな」


 席を立って裾をつまんでみる。ちょっとくるり、回転しようとして「ちょっとちょっと、やめなさいこの天然女っ」止められる。


「てんねん?」


「いいから、そんなにスカート翻させるな、座っていつもどおり脚を閉じてなさい。似合ってるから」


「うん……」


 座らせられる。どうしたんだろう。


「慣れない格好で慣れないことするんじゃありません。お母さん泣いちゃいます」


「あ、ごめんね。いつもの癖で勢いよかったかも」


 そうだね、まゆちゃんみたく慣れてたらもうちょっとそれなりの回転でふんわりできたかも。


「なに、アイススケートのリンクに立ちたいの?」


「え? ううん、スケートは私運動音痴だし無理かな」


「じゃあ癖って?」


「私、好きな人にくるくる回ってるとこ写真に撮ってもらってるの」


「……!」


 急に顔を怒らせた東野さんは一直線に
住田(すみだ)くんの席へと歩いていった。


「おうお前、いい度胸してんじゃねぇか」


「え、なに?」


「学祭で優勝予定のクラスのアイドルをどんな手を使って落としたんだ?」


「え? 話が見えないんだけど」


「そりゃあ隠したくなるのもわかるわ、あんなにいい子だもの。今どき珍しいくらいの淑女っぷりにあんたがイカレちゃうのも理解できる。でも! その毒牙で彼女を汚すのだけは許せないわね……!」


 あ、あ、首絞めちゃまずいよ、なにしてるの。止めなきゃ。「東野さん」


「千歳ちゃんは黙ってなさい! あなたは悪くないわ、悪いのはこいつっ」


「なに言ってる、く、苦しい……」


「やめて!」


 ぴたっと動きが止まる。無造作に手を離した東野さんが少し怖く、慌てて住田くんの様子を見てみた。


「大丈夫?」


「う、うん。ありがとう」


「……っ! なによ……千歳ちゃん? そんな男のどこがいいのよっ! カメラをエロいことにしか使えない男のどこがっ!」


「? 住田くんには変な写真撮られてないよ? そんなの嫌だから」


「えっ? でもさっき、好きな人に写真って」


「うん。好きな人に、くるくる回るのがかわいいねって写真撮ってもらってる。けど、それは住田くんじゃないよ」


「……な、なんだ、ワリ、住田、あたしの勘違いみたい」


「勘弁してくれよ……」


 襟元を正しながら住田くんはふうと一つ息をついた。


「東野さん、ちゃんと謝らないとダメだよ」


「う……ごめんなさい、住田くん」


「いや、いいよ。東野が早とちりでお節介なのはよく知ってる」


「うっせぇな、もういいから向こう行けよ」


「ここが僕の席なんだけど」


「うっさい! お前はいちいち一言多いんだよ、あたしにだけっ」


「東野が突っかかってくるからだろ。なにかにつけ僕を目の敵にしすぎなんだよ」


「まあまあ、いいじゃない。ねぇ住田くん、これ似合ってる?」


 くるくるがダメならつまむだけにしよう。どうかな? って見ると目を逸らされてた。


「似合ってない?」


「あ、いや、似合ってるけど……」


「こいつも恥ずかしくて見れないのよ」


「うるさいなぁ、いい加減にしてくれっ」


「あー? あたしたちもこれくらいよ? 千歳ちゃんのときだけ現金に照れやがって、ムカつくんだよっ」


「そりゃあ、
谷津(やづ)さんはギャップっていうか、初めてだし、目新しいだけだ」


「そっか。じゃあ見れるようになったらこの格好で写真撮ってくれない?」


「えっ」


 あ、ハーモニー。「ど、どうして?」


「住田くんの写真はすごく綺麗に写ってるから、この格好を切り取ってせ、好きな人にあげたいの」


 私を持っていて欲しい。いつか、そうだな、時間があるときに先生の写真も欲しいな。住田くんのおかげで写真っていいものなんだって気付いたから。


「私もちょっと、あはは、恥ずかしくて、無理しちゃったし、しばらくこんなのできそうにないから」


 先生の家ではやるけど、学校は無理だな。夏休みが明ける頃に私がどれだけ先生に変えてもらってるか次第。


「あ、う、うん、いいよ、もちろん」


「ほー? よかったなぁおい。お前カメラの腕だけはいいんだから、取り柄を生かして好きな女子と仲良くできて」


 肩組んだ。なんだかんだケンカばっかりだけど、東野さんと住田くんって仲良しだよね。羨ましいなぁ。


「……うん。嬉しい」


「バカ正直に言うな、アホか」


「だってレアだし。よければ東野も撮ってやるけど?」


「バーカ、お前ごときの腕じゃあたしの美しさは表現しきれないっつーの」


「言ってろよ。東野は逆に膝丈にだってしたら余計似合わないんだから」


「うっせぇな、ドレスが似合いそうなうちの子がおかしいんだよ」


「うちの子じゃない」


「うちの子よ。あたしが育てたの」


「違うよ。大好きな人に育ててもらってるの」


 温室栽培過ぎて困ってるんだから。


「……多分、いい人だろうな。見てるとわかる」


「ああ、僕は目星ついてるからよくわかるよ」


「おおっ? 教えろよ、誰? 誰?」


「東野の水着姿撮らせてくれたら考えてもいいぜ?」


「んなっ……バカかお前!」


 まっかっかだ。新鮮だな、東野さんって結構怒りんぼだから、照れてる顔かわいい。


「グラビアのポーズもだな。最低で」


「結局お前はそれか。高い道具は欲望を満たすためだけのなんだな」


「単純に見たいけどな。お前体は綺麗だし」


「……っ」


 あれ、熱でもあるのかな。おでこ、あっ、すごく熱い。


「綺麗なものは撮ってて楽しいんだ。どれだけ僕がそれを反映させられるか。より美しくなんて無理なんだ。どれだけ対象をファインダーにうまく収めるかだと、はは、生意気だけどね、思ってる」


「ふぅん……大丈夫、住田くんの写真とってもいいよ」


「ありがとう」


「……しょうがないなぁ。そんなに住田くんが言うなら、撮らせてやっていいぜ?」


「え……いいのか?」


「お、お前が言ったんだぞ」


「あ、うん。わかった。もうすぐ夏休みだし、時間が合う日にでも」


「おお。とりあえずメアド教えろよ」


「うん」


 あれ、なんだかクラスのみんながくすくす笑ってる。どうしたのかな? 仲良しさんになった二人が面白いのかな?


「ま、まあでもさ、千歳ちゃんの恋人は変態だね。くるくる回るところを写真に撮るなんて」


「そうかな? 好きな人に写真撮ってもらうのってとってもいいよ。嬉しいの」


「へ、へー。そうなんだー」


 ちらちら携帯と住田くん見比べてる。どうしたのかな、そわそわしてて東野さんらしくない。


「ふぅん。被写体がそこまで言うなら、その写真見てみたいものだけど」


「ダメだよ。二人だけの秘密だから」


 えっちな写真も多いし。


「その人にはたくさんミニスカとかコスプレとかさせられてるんでしょ?」


「ううん、私に選ばせてくれるの。好きなお洋服で撮ってもらってる。こすぷれって……?」


「……えーっとね、意味は彼氏に教えてもらいなさい。でも彼が好きな服とかないの?」


「ワンピースとか、ドレスみたいなのが似合うねって言ってもらってるけど、基本はスカートが好きみたい」


「うげ、やっぱ変態じゃん」


「そうなのか? 男はスカート好きだろ」


「んなの気持ち悪いわよ。心の奥に秘めとくのはいいけど、彼女に公然と言うのはキモイって」


「気持ち悪くないよ。ちょっとえっちだけど全然気持ち悪くない。好きな服装ちゃんと言ってもらうほうがいいのっ」


「あ、うん、ごめん。そんなムキになんないでよ」


「私にとってあの人はすごく雲の上の人だったの。だから好みを先に聞いて、きちんと答えてもらったから合わせてるだけなの。嘘ついて誤魔化されるほうが嫌だよ」


「わかった、ごめんって。そんなに好きなんだ……ますます聞きたいね。す、住田くん、早めにしようよ。今度の土日どう?」


「日曜ならいいよ」


「じゃあ昼前、駅前でいいよね。昼ご飯おごってよ」


「しょうがないな」


「……」


 デートだ。デートのお約束。いいなぁ。私も先生と早く次のデートがしたいな。夏休み早くこないかなぁ。そしたらこっちはいつでも大丈夫なのに。


 あ、ようやく授業時間終わった。先生いなくって自習だったけど、すぐ終わっちゃって話し込んじゃった。もうしばらく話してたいな。


「よし、そんじゃ谷津さん、写真いいかな」


「うん、いいよ。綺麗に撮ってね」


「セクハラされたら大声上げるのよ」


「うん」


「まじめに答えないでくれ……」


 二人で教室を出て行った。あ、扉閉めると女子がすぐ東野さんとこ行った。どうしたんだろ?


「屋上開放されてたらいいんだけどな……どこがいい?」


「どこでも。花壇の前とかでいいよ」


「わかった」


 先に立つ住田くんについてって、出来上がりをプレゼントしたら先生喜んでくれるかなって、わくわくしてた。








 さすがに今日は一度自宅へ帰宅した。先生のお家に私の私物は増えてきたけど、まだまだだし、この辺りで帰っとかないとお父さんが雷になるかも。


 田舎だってみんなは言うけど、私の家はまだ築十年にもなってない新築で、家がある町も最近人が増えてきてる。おかげで先生のお家からは自転車でちょっと走らないといけないんだよね。困るなぁ。


 同棲したいな。家族が許してくれるなら、一生をあのお家で過ごしたい。あ、でもお部屋の問題があるから、増築ができてからでいい。木の匂いがたくさんあるお部屋が増えてからがいい。自宅は木造でもなんでもない最近の造りでよくわからない。住み心地も私からすると普通で、よく親戚の人は羨ましがるけどピントが自分だけ違う。住みやすいかもしれないけど、広くて不自由しないかもしれないけど、もう少し家族が簡単に触れ合える家のほうが私は好き。両親の部屋と自室は階が違うから、行くのがちょっと億劫だった。


 そのせいで……とは、思わないけど。


「ただいま」


「おかえり」


 珍しく三つ声がする。お仕事中の父は別として、祖父はいつもいるし、母も兄もいるんだ。とんとんと階段を駆け上がり、少し振りの自室に入る。鞄を置いて制服を着替えながら、今日はさすがに行くのはよしといたほうがよさそうかな。今日やめて、明日行こう。明後日は先生お休みだし絶対行かなきゃ。


 それでも今日はミニスカートでいようかな。


 着替え終えた頃にノックの音。「はーい」


「千歳。ちょっと話がある。下に来なさい」


 兄の声だ。わかったと返事をしてすぐに扉を開けた。


「……」


「なに?」


 じろじろ体を見られる。くすぐったい。


「どうしたの?」


「いや……本当変わったよな、お前」


「そうかな? 女子高生らしい?」


「ああらしいらしい」


 何度も頷く兄が面白くてつい笑っちゃう。先に立って階段を降りてった。


 リビングには祖父と母が座っていて、私に気付くと居住まいを正した。


「そこに座りなさい」


「はい」


 母の正面に座る。


「あら、ちーちゃんかわいいの着てるじゃない。どうしたの?」


「母さん、今日はその話はいいだろ」


「そう? じゃあお兄ちゃん、話してやって」


 くるりと兄は横からこちらを向いた。


「千歳。二日連続泊りで家に帰ってもこないのは問題だぞ」


「お兄ちゃんは固いねぇ。いいじゃんいいじゃん。ぶらぶらしたい年頃よ」


「母さん、連絡ありとはいえ、千歳はまだ十八にもなってないんだぞ? 俺とは違うんだ」


「お兄ちゃんももう二十五なんだからそろそろお嫁さんをもらってきてほしいなー」


「母さん!」


「ふふふ、ごめんごめん。えーっと、ちーちゃん、うら若き乙女が他人のお家に泊まり歩くのは、家族の心臓に悪いの。どうしても泊まらなきゃならない理由はある?」


「ううん、特にない。ごめんなさい」


「そう。わかればいいの。でもお母さんは女子高生は奔放であるべきだと思うのよね」


「母さん……」


「私、これからも泊まってくと思う。心配もかけると思う。許して、欲しい。私こんなに毎日が楽しいのは……初めてなの」


 家族にはもちろん病院に通ったことは教えてる。一人で行きたいと、むしろ母は連れ立って行きたいというのを断ったくらい。一人で克服したかった。今までの、怖くてなにもできなかった日々と違う、きらめく飴細工のような毎日を、あのお家で過ごしたい。


「男ね? 男の人でしょ?」


「うん」


「千歳……」


「やぁーっぱり。そうだと思った。変わりすぎだものねー。よく今まで隠しとおしたもんだと逆に感心するわ。うふふ、嬉しいわねぇ、お父さん失神するなぁ」


「母さん……まあ、千歳もそういう年頃だったな。ただ夜遊びは心配する、うちの親父がな」


「ごめんなさい。でもあの人の傍がいいの」


「ああ、いいんだいいんだ。俺だってうるさく言うつもりはない。親父が心配性なのさ、今日とりあえず集まってお前にあれやこれや言うってさ。俺だって好きにしたらいいと思ってる。お前の人生だ。なぁじいちゃん」


「ああ。浮いた話の一つや二つ、こんな美人さんに育った孫にないはずないからなぁ」


 そういえば祖父はずっとにこにこしてた。きっとなにもかもお見通しだったんだな。亀の甲より年の、だもんね。


「お母さんも確信はなかったけど、下着のプレゼントを断られだしてからおかしいなーとは思ったのよ? 本当よ?」


「嘘つけ、母さんは新しい手品作りに忙しかっただろ」


「いいえ、ちーちゃんの好みを把握するのに忙しかったのよ……大変でねぇ、手品は趣味だし、買ってくれる人がおかしいのよ」


 母は手品を見せるのも作るのも好きだけど、手品のタネって、お金を出してでも欲しい人がいるみたい。母は誰にでもタネを教えて、みんなで楽しんでもらいたいんだって。それでもってお礼にお金を出してくれる人がいるみたい。元々専業主婦だった母が暇を持て余して始めたことだから本人が一番驚いてる。なにより、本当はお洋服や下着を集めるのが趣味だったそうだし。


 でも今や、放っておくと知らぬ間にするする、なにもない手から万国旗を取り出しては兄に怒られてる。


「それじゃああとはあの人を説得するだけね。気合入れてかないと」


「俺は面倒くさい。言うことは言ったし、仕事があるから」


「ちゃんと寝るのよー? ご飯も食べに下りてらっしゃいねー?」


 後ろ手に手を上げて応える。兄は仕事に──芸術関連だって──没頭するとなにも手をつけず瀕死にしばしば陥る。ちょくちょく様子を、主に私が見に行かないと死にそうになる。母が夢中になって祖父に手品を披露したりしてなければああは、へろへろになって階段から落ちることはなかったと思うけど。


「さぁて、あとはうちの人を待つだけだね。今日は早く帰ってくるって言ってたけど、どうなることかしら」


皐月(さつき)、あいつは親バカだぞ。どうにかせんとな」


「そうねー、どうしようかしら」


 なんて言っているとすぐに玄関が開き、インターホンも鳴らさないで入ってこれるのはもう父しかいないので、母は楽しそうに玄関に迎えに行った。すぐにスーツ姿の父を連れてくる。


「お帰りなさい、お父さん」


「ただいま。千歳、お前二日もどこほっつき歩いてたんだ。心配したんだぞ」


「ごめんなさい」


 ネクタイを緩めることもせずに正面に座り込んだ。


「年頃の娘になにかあったらと、泊めさせていただいているお宅に電話しようかとやきもきした」


「お父さん、そんなに心配しなくてもちーちゃんはもう高校三年生よ? 花の女子高校生なの。好きにさせてあげたら?」


「そんなこと言われてもなぁ……確かに門限なぞ作りたくもないが、千歳はこんなに美人なんだ、男が放っておくはずないだろう」


 あ、親バカだ。


「ちーちゃん彼氏できたもんねー?」


「うん」


「なにっ、彼氏? まだ早い、千歳には大学を卒業してからゆっくり、相手を探してもらってもいいと」


「お父さん、ダーメ。結婚するときに決めたでしょう、女の子が生まれても束縛しない、好きにさせるって」


「そんなこと言われても、不安で眠れやしないんだ」


「ねぇちーちゃん、その人、優しくしてくれる?」


「うん、とっても」


「夜、痛くなかった?」


「お前っ、なに言って」


「うん。優しくしてくれたの」


「……」


 がーん、とでも言えばいいのか、すごくわかりやすい顔をした父はがっくりとうな垂れ、よしよしと母に肩を叩かれてた。


「そうか……もうそんな年か……まだ子供子供と思ってたのに、もうそんな年か……」


「お父さん、今夜は付き合ってあげる」


「おお、頼もうか……久しぶりに朝までどうだい?」


「ええ、もちろん」


「そうか、もう……そうか、そうか……」


 父はまるで抜け殻のようになってしまった。どうしたんだろう。よくわからないけど、その後お泊りについて許してほしいって言うと二つ返事で(力なく)許してくれた。


「……千歳。お前が頑張ってきたのはお父さんよーく知ってる。頑張ったお前にひどいことを、もしもだがしてくるやつならお父さん認められない」


「お母さんもよ」


「だから今度、夏休みにでも紹介しなさい。向こうさんに都合のつくときでいい。な?」


「うん。わかった」


「それで認められたら、もう好きにするといい。結婚する段になって反対とかもしない。できちゃった婚だろうが、あれ俺もどうして眉をひそめるのかわからんでな、いいと思う。お前が幸せならそれでいいよ」


「お母さんもよ」


「じいちゃんもな」


「うんっ。ありがとう、みんな」


「泣かされたらすぐに言えよ? 相手をぶん殴ってやる」


「お父さんケンカ弱いくせに、なに言ってんだか」


「披露宴の前にも一発、絶対に殴るな」


「我が息子ながら古いのう。男ならどんと構え、でかい器を見せつけるぐらいの度量がないと恥ずかしいわい」


「みんな、気が早いよ……」


 この様子できっと結婚はできないよなんて、言えっこなかった。折を見て、いつか言おう。赤ちゃんできてからなんて最悪以外に、どうにか……


 その後にできるなら婿がいいとか、盆正月は欠かさず帰って来いとかすごく先の話にまで発展して、せっかちさんすぎる家族に苦笑してしまう。


 でも、許してもらえそうでよかった。先生ならきっとおめがねに敵うから。


 ね、先生?
















































































 第二十七話あとがき的戯言




 
三日月(みかづき)まるる、以下作者「深く突っ込んではいけない。そんなこともあるものです」


 八尋春花、以下春花「なんですの、それは」


 谷津千歳、以下千歳「なんでしょうね」


 作者「こんばんは、三日月です。このたびは「ごめんなさい」第二十七話を読了くださりましてありがとうございます。今回は……人選を間違えました、このお二方です」


 春花「ごきげんよう、春花ですわ」


 千歳「こんばんは、千歳です」


 作者「深く突っ込んではいけません。この人選にもです」


 春花「はぁ……」


 千歳「春花さん、どうでした、えっち」


 春花「っ、いえ、そのようなこと、べらべらと言い触らすことではありませんの」


 千歳「そうですか? でも娘さんには言ってるみたいでしたけど」


 春花「娘は経験もありませんし、一応ある程度は教えておいたほうがよいかと思いますの」


 千歳「そうですね。恥ずかしくなかったですか? 私はすごく恥ずかしくて、今でもえっちは恥ずかしいです」


 春花「わ、わ、私もですわ! とっても恥ずかしくてしょうがなかったのです! ああ、思い出しただけでも恥ずかしいっ」


 千歳「ですよね、先生はちょっとえっちですから」


 春花「ちょっとではありませんっ。一歩間違えれば鬼畜ですのっ」


 千歳「そうかなぁ。あ、でも確かに紗絵子さんの声、あそこまで言わせてるのはえっちですよねぇ」


 春花「……っ!」


 千歳「大丈夫ですか? 震えてますけど」


 春花「……思い出したくありませんの……っ。あのようなこと、私にもされると思ったらとても、耐えられそうになくて……」


 千歳「あ、私もです。できるかなぁ、愛さんみたいなことも恥ずかしいですよね」


 春花「……っ! ち、ち、千歳さん、みだりにそのようなこと、言うものではありませんわ! はしたないですの!」


 千歳「ごめんなさい。……? 脚もぞもぞさせてどうしたんですか? あ、やっぱりじんじん残りま」


 春花「千歳さんっ!」


 作者「では今回はこの辺で。さようなら。いやぁこの二人だと楽ですねぇ」


 春花「ごきげんよう皆様っ。はぁ、千歳さんは爆弾ですの」


 千歳「さようなら。よく言われます。でも私も、ついできてないかなぁってお腹さするんです」


 春花「……します、よね。うふふ……」


 作者「そうか、オチはなくなるのか……仕方ないですね」




 
20091009 三日月まるる



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2009/11/18 19:17 | 小説COMMENT(0)TRACKBACK(0)  TOP

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