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「ごめんなさい」その四十_第三十九話_男の嘘つき、女の狼

 こんばんは、三日月です。
 一月前は肌寒いはずだったのに、もう暑いこと暑いこと。梅雨もまだまだ終わる気配がなく、雨模様が続く毎日ですね。こうなると堂々とテレビ三昧できるので最近は適当な番組をちらほら見ています。やっぱりドラマは、汗の匂いを感じないとダメですね。適当に見てはいるものの、汗の匂いを感じない番組の多いこと。完全に好みですが、画面の向こうに汗を感じないとどうも好きになれないようです。自室の未だにブラウン管の向こうから、汗が滲み出るような男の人をもっと見たいと思います。次の水曜九時は、予告だと全然……
 どうでもいいですね、それでは第三十九話です、どうぞ。
 拍手ありがとうございます。これからも頑張りますので、どうぞよろしく。
 ついでに謝罪といいますか、実はお話はずいぶん先までできております。わかっている方は多いと思います。こちらのブログでの更新が滞るのは、ひとえにお話に没頭するのが楽しくてしょうがないためです。ついついこちらをやらなければとは思うのですが、それより続きを、早く続きを書きたいと思い筆を(キーボードですけれど)下ろすことができないのです。こちらを更新にはそれなりに手間がかかるので、いささか面倒だとついつい、蔑ろに。すみません。
 ひとまず、作者が個人的に絶対に書きたかった海でのおふざけは、せっかくちょうど夏本番の七月八月中には終わらせたいと思います。四十二話で海が終わるので、あと三話はなんとか……
 長くなりました、それではもう一度、第三十九話です、どうぞ。






















 三十九 男の嘘つき、女の狼








 そりゃあ必死でスカートを押さえるしかないわ。わたしも自分のパレオを抱え込んだみゆに押さえてもらい、
紗絵子(さえこ)お母さんに知られないように素潜りをするしかないの。幸い二人とも元からこんなだし、わたしはシャツごと潜るしかないからあんまり不審に思われちゃいないけど、海中の素敵な景色がろくろくわからないのは考えものだわ。憲邇(けんじ)が悪いのよ、海でこんなことさせて、夜だけにしてくれたらいいのに。それもわたしだけならまだしも、こんなちっちゃいみゆにまで。


 でも、嬉しいな。またこういうことできるのって、とっても嬉しい。憲邇に『やって』って言われると逆らえないよね、『はい』って言っちゃうよね、みゆ?


 ちょっと動き辛いけど紗絵子お母さんがあれあれ、とあちこち面白いものを見つけては教えてくれるからそっちに夢中で、ほかの女の子たちにも気づかれっこないみたい。よかったわ。


 なにしろ
詩音(ふみね)花雪(かゆき)ちゃんも同じようにスカートを押さえてるからね。(めぐみ)さんがパンツなのが羨ましいわ。堂々としてる。紗絵子さんは元からああで、憲邇の前だけ淑やかになるの。


 海洋世界は、みゆにはとても心躍るパノラマのよう。時折泳ぎ回る見たこともない魚たちに目を奪われ、押さえる手が離れることもしばしば(危ういときはわたしがガードしてる)。沖縄の海ほど澄んではいないけど、濁りきっているわけでもない。潜ってよく目を凝らしてみれば、きちんとなにが泳いでいるか、底にはなにが生えているかがわかる。手に取ることだってできる。海底をせかせかと動き回るかには捕まえられないけど、そっと座り込んでいる貝は拾うことができる。初めて見る貝がらをまじまじと眺め、手触りを感じ取っては感嘆していた。


 海に来たことも、ないのね。それは七つからしたら珍しくないのかもしれないわ。けどこれからはどんどんたくさんの景色を経験させていきたい。それは詩音も同じ。……詩音はあの年まで、こんなこともやらずに生きてきた。わたしはとても恵まれていて、みゆくらいの頃には憲邇と連れ立って近くの海で遊んで、いたっけ。……小さい娘と同じような驚きを浮かべる、大きい娘。純真な心の揺れ幅は小さく、傍から見るとみゆほどわかりやすくはないかもしれない。でも同じように驚いて、同じものを感じ取っているわ。


 ええ、楽しそうに、微笑んでいるもの。


 一度みんなで海上に顔を出す。みゆの足のつく深さでないから、きちんとわたしが支えておかないと。詩音は花雪ちゃんと一緒になってるから大丈夫ね。


「綺麗ねぇ……海の中って」


「ええ、驚きましたわ」


「ぅん……」


「すごいねぇ、お母さん。憲邇さまに見せたいな」


「ふふ、そうね」


 四六時中憲邇のことが頭にあるのね。仕方ないか、こういう時期は誰でもあるから。


「近場でも捨てたもんじゃないわ。久しぶりだから楽しいものねぇ。ふふふ、花雪ちゃんなに取ってきたの?」


「綺麗だったのでつい貝がらを」


 彼女の手には綺麗な波の色のついた貝がらがあった。うっすらピンクのパールみたい。そんなわけないけど、そう見える。


「わぁ……」


 みゆがまた感嘆の声をあげる。水の中から上がったものはまた別格に見えるわよね。喜んではしゃいでるみゆはかわいいわ。ああもう、詩音もそっくりね。お友達から貝がらを見せてもらい、ため息ばかりついてる。わたしもなにか取っておけばよかった。


「ねぇ詩音ちゃん、ちょっと見せてくれないかしら」


「はぃ、どうぞ」


 こっちまで泳いできた少女たちから綺麗なパールを受け取る。自然がつけた模様が虹のようでとても美しいわ。


「はい、みゆも見てご覧」


「うん……きれい……」


 光に乱反射する貝がらと同じくらい、愛娘の瞳も輝いていた。


 なんて、かわいい。これは将来ちびっ子アイドルになるわね、そうよスカウトされて芸能界に華々しくデビューだわ、ふふ。


「……憲邇さまの色だ……」


「そうね、そのとおりだわ」


 あいつは海の色をしている。全員一致でそう結論がついてるから。


 わたしの夫で弟は浜辺で……えーっと、あれはどこをどう見てもビーチバレーをしているわね。それも一対六で。なにやってるのかしら。あれで憲邇がついてけないようなら完全に女たちに遊ばれてる情けない男だったのに、翻弄してるのはむしろ憲邇のほうに見えて少しほっとする。そりゃあそうよ、それくらいしてもらわないと困るわ。結局高校時代だってわざとわたしにはたかれたり蹴られたりしてたけど、それじゃ嫌だってすぐ体を鍛えるようになったっけ。まあ、あのときはまだ実を結んでなかったけど、今は違うのね。地道だけど着実に体を動かす練習をしてたのかしら。今度試してやりましょう。


 こっちがわざと見せた隙に不意打ちで押し倒してくれるかどうか、今度はきっと……


「ようしみゆ、わたしたちも取ってきましょうか」


 貝がらを持ち主に返して、みゆもこくこくと頷いてくれた。


「じゃあわたしたちは貝がら探しの旅に出ますね」


「そう? そうねぇ、私たちはどうしようかしら」


「紗絵子さま、私たちをもっと沖へ案内してくださいな」


「ぉ、お願いします」


「そう? わかったわ、その貝は持ってける?」


「ええ」


「私も行きます」と愛さん。


「ではご案内しましょうか。お互いちゃんと確認してきましょうね、足がつったら大変よ。憲邇くんに助けてもらわなきゃ」


「ちゃんとライフセーバーの人がいますよ、ほら筋肉むきむき」


 みんなで沖のほうへ泳いでいった。詩音は大丈夫かしら、体動かすのがあんまり上手じゃなさそうだけど。


「いこ、お母さん」


「ええ、たくさん見つけましょうね」


 みゆなら綺麗にして髪飾りにもなるわね。一度やってみたいわ、こんなにかわいいみゆならきっと似合うわよ。ああでも、詩音も童顔だからいけるかしら? やってみたいわ、我が子を着飾ってあげたい。嫌がるかしら、うぅん難しいところねぇ。


 深呼吸一つ、海の深くへと潜り込んでいく。急にすいすい目の前を横切った魚にみゆがおののいたものの、すごいすごいとはしゃいでくれた。もう、笑うととってもかわいいわ。これはホームビデオにフル活動してもらわないと。


 しっかりとみゆを抱きかかえ、海底を探索していく。あれでもないこれでもないと、貝にこだわらず(そうと気づかないことも)綺麗なものを探していく。一度綺麗なヒトデを捕まえ、急にくねくね動き出すと思わず空気を漏らし慌てて水上へ急上昇し、激しく咳き込むみゆを撫で続けた。それでも海にはあんなのもいるんだと感心しきりのみゆによしよしとなってしまうわ。かわいい、これは骨抜きよ……


「ううう、なですぎだよぅ、お母さんお父さんそっくり」


「ああごめん。あんまりにもみゆが無邪気だから。海は初めて?」


「本とか、テレビとか、広くって大きいのは知ってる。一回遠くから見てきれいだなって。でも来るのははじめて」


「そっか。思いっきり楽しみましょう。興奮と好奇心の赴くままに冒険しなきゃ」


「う、うん」


「ああ、でも今度は二人っきりで来たいのね?」


「そ、そんなことないよ。家族みんなで来たいな」


「ふふ、そうね。家族みんなでちょっとした小旅行をたくさんしましょうね。夜はみんなで川、は無理だけど、お父さんを真ん中にして寝なくっちゃ」


「うん……あ、見てみてお母さん、お父さんバレーで勝ったみたい」


「あらほんと?」


 振り返ると確かに終わった様子で、女の子たちが悔しそうにしていた。あ……どさくさなのかそれとも憲邇のほしがるご褒美なのか、
千歳(ちとせ)ちゃんと静香(しずか)ちゃんが横からキスしてる。いいな、ずるい、公然と……


「すごいね、あんなにたくさん……そ、そうだお母さん、お父さんに勝ったごほうびあげたいなぁ」


「うふふ、いいわよ、綺麗なの探しましょうね」


 最初からそのつもりのくせに、もう、わざとらしい声がへたすぎよ、憲邇を見習いなさい。


「う、うん。お母さんもちゃんと探してね?」


「ええ、もちろん」


 深く息を吸って、再度海中へと旅に出かける。小魚の群れが近くにあり、あんなにたくさんとまたみゆが初めてに驚いてくれた。


 ああもうかわいい、かわいすぎる……顔を見ようと見下ろすと、押さえてないスカートの下がずれ、みゆの子供の……隠して、憲邇のばか、許さないわと憤るの。気づいた娘も慌てだし、誰も見てないよねと辺りを見渡す。もう、これは戻ったらお小言ね、かわいい恋人に家族サービスしてもらわないと。


 自分の秘部が、水と直接触れていることには、目を瞑り続けた。みゆのことだけを考えるようにし、ことさら頭の隅へ追いやるようにしていた。


 でも、興奮は冷めやらない。








 あれでもないこれでもないと、こだわりだすとみゆもきりがないみたいだった。わたしも憲邇に見せられるものじゃないとあれもダメこれもダメなんて、ちょっと時間を使いすぎたかもしれない。気づくと疲労で息がかなり上がってしまい、次で最後ねとみゆに言ってしまった。


 焦ってたのかもしれない。少し遠くで潜り、みゆがあっちこっちへ誘導するに任せていくと……


 右足に突っ張ったような妙な痛みが走り、動かせなく、なった。間抜けなことにつった、みたい。泳げ……顔が青ざめるのがとても早く、わたしがこんなことになったらみゆが大変なことになるって気づくのは一瞬、次はあっちと動けないわたしに振り向いたみゆに、憲邇を呼んでとアイコンタクトをとる。思うように身動きがとれないことにみゆが気づくとすぐに上へ押し上げ、まだバタ足をできるようになったばかりの娘のほうが溺れないか不安で引き戻そうとしたけど、みゆの、みゆが予想外に強い意志で首を振ってくれた。……冷静なみゆがいてくれたおかげで、わたしはもがくこともせず呼吸も落ち着いていけたのかもしれない。さっきできたばかりの泳ぎ方で一生懸命に遠くへ行くみゆに励ましをもらった。


 それでも怖い、ものが襲い掛かってくる。静かな心でもしっかりと吸えない空気がにじり寄ってきて、青いパノラマが恐怖に塗り変わっていく。どうにか浮き上がろうとして、も、体は言うことを聞かない、痛いからやめろと、そこで止めてしまう。しっかりと海面へ上がったみゆに安堵すると、みゆが溺れず沈んでこないのを見ると安心してしまい、途端に息が漏れ、海水が口の中へ浸入してきた。すると焦りと不安が一緒になって喉の奥に滑り込んでき、大好きな人と、愛しい娘たちの名前をつい呼んでしまう。でも答えてくるのは、しょっぱい海の味だけで……少し、もがき、やがて……


 ゆらゆらする青い空も、真っ黒に塗りつぶされてしまった。








 昔に一度だけ、溺れたことがある。そのときは確か一緒に泳いでた憲邇がすぐ助けてくれて、一命を取り留めたっけ。よく覚えていない。憲邇がわたしの王子様すぎて、すごくカッコよく華麗に助けてくれたっていい思い出に変えてるかも。なんてったってわたしだし、憲邇だし。あのときの景色が浮かんでる……名前を何度も呼んでもらって、人工呼吸と心臓マッサージ……温かい声、温かい指……気づいたら青い空に仰向けで、憲邇がよかったって左手を握り締めてて、笑顔のくせに泣き出すからどうしたの、しっかりしなさいって、言うと咳き込むの。


 ……今も喉の奥から、しょっぱいものが出てきた。喋ろうとしたら、慌てて傍にいた憲邇が大丈夫? って近くに寄り、軽く頷くと右手もみゆと、詩音が握ってる。


 周りにはたくさんの人たちが心配そうな顔をしていた。……あのときときっと同じように、憲邇が傍にいる、憲邇が助けて、くれた。みゆが助けて、くれた。


 起き上がり、飛び込んでくる愛娘を抱え込み、丸い頭を、頬を撫でる。かわいい……温かい……ああ、安心する……


 左にいる男の人に、そっと寄りかかった。こっちも、あったかい。そろそろと近づく大きいほうの娘も、おいでって目線を送る。よかったですと、右手を包む温もりも、嬉しい。


「あ、けほっ、ありがとう」


「いいえ、本当によかった」


「……よかった……お母さん……今度は、たす、助けられたよぅ……」


「うん、ありがとうみゆ。ありがとう」


 泣きじゃくるみゆが嬉しいわ。なにより。


 落ち着くとライフセーバーの方が形無しのようで少し申しわけないわね。でも無事でよかったと白い歯を見せてくれて、こちらも笑顔になるの。


 さすが憲邇はお医者さん、少しの問診で異常なしってその場で診断してくれた。さっきはあんなに痛かったはずなのに、目が覚めたら治ってるだなんて不思議ね。こういうこともあるんだ。


「ほんとですか? お母さん大丈夫ですか?」


「大丈夫だよ、安心して」


「でもお母さん体弱いです、一回病院行きましょう?」


「みゆは心配性ねぇ、大丈夫よ。ねぇ紗絵子さん?」


「ええ、私が太鼓判を押してあげるわ。どうしても心配なら病院からお医者さん呼んであげる」


「い、いえ、紗絵子さんも言うならいいです」


「あらあら、憲邇くんは信用ないのねぇ」


「そっ、そういうことじゃありませんっ」


「わかってるわよ、心配してくれてありがとう。大好きよ、みゆ」


 もう一度しっかりと抱き締める。柔らかいみゆの感触に、生を実感するの。


 この子がいてよかった。心底感じるわ。


 ……思わず、詩音も抱き寄せてしまった。震えてたから安心させたいなんて言いわけ、どうでもいいから抱き締めたい。溺れたわたしより青白い唇になってるのをあっためてあげなくちゃ。


「大丈夫よ、安心して」


「……ぅん……」


 ひとしずくの涙が、とても温かい。


「ぃなく、ならないでください、絶対、絶対」


「ええ、約束するわ」


「……」


 離れてもまだ、指を髪から離さなかった。


「憲邇、本当にありがとう」


「いいえ、とんでもありません」


「またこの子の顔が見れてよかったわ。本当にありがとう。今度ご馳走しないとね」


「いえ、とんでもないですよ。よかった……」


「……」


 またあなたの顔が見れて嬉しいわ。嬉しいよ、憲邇。やっぱり弟は、わたしのヒーローだね。


「憲邇さんすげーんだよ、いきなりびゅって飛んでって、ざばざばおよいで、あっという間!」


「うんうん、せんせぇすごいね!」


「ほんと、見直しました、ねー千歳ちゃん?」


「うんうん、意外ー。あんなに俊敏に動けるのね、いざってとき」


 千歳ちゃんの同級生たちだ。ありがとね。


「そうです、先生素敵です」


「あたしたちを打ち負かしただけのことはありますね、ふふ」


 そうだそうだ、みんなもっと言っちゃえ。


「違いますよ、すごいのはみゆちゃんです。あんなに遠くで溺れずに泳いで、お母さんの代わりに助けを呼べたんですから、みゆちゃんのお手柄です」


「違いますぅ、憲邇さ、さんのおかげですぅ」


「私がいなくとも、ライフセーバーの方が」


「憲邇さんですぅ」


「……ありがとう」


 膨れっ面にまでなったみゆにたじたじの憲邇。うふふ。昔から押しの強い女に弱いわね。成長しなさいばか。


「お、お母さんを助けてくれてほんとにありがとうございました。みゆも前に助けてもらって、ありがとうございました」


「あら、そうなの? ありがとね憲邇」


「無事でよかったよ。笑顔がまた見れてこちらこそありがとうだ」


「お、お礼がしたいです。なにかみゆにしてほしいこと、ないですか?」


「特には思いつかないなぁ」


 嘘つき。たくさんたーっくさんあるくせに。


「ね、みゆちゃん、この後帰りに先生とお風呂入るんだけど、一緒にどう? きっと先生背中流して欲しいと思うな」


「あ、はいっ、やりますっ、ぜ、ぜひやらせてくださいっ」


「そう? ありがとう、じゃあお願いしようかな」


「あー、ダメだよお嬢ちゃん、その役目はあたしたち女子高生がやるの」


 くすくす笑って、うちのみゆを困らせるんじゃないの。


「だっ、ダメですぅ、みゆが恩返ししますっ、ねっ、憲邇さん?」


「あはは、冗談だよ。お兄さんいいッスねぇ、使われる代わりにいい思いしてんじゃん」


「そうですよ、楽しいものです。ただ恋人にがみがみどやされるなぁ」


 そうねぇ、みんなじとーってなってるわ。ふふん、それくらい我慢なさい、男の子でしょう?


「こんなことしてっからいけないんですよ。裸の付き合いでじっくり教えてあげますね」


「ああ、それはぜひお願いします」


「ちょっと憲邇、あんまり鼻の下伸ばすんじゃないの、でれでれしちゃって」


「してませんよ」


「してるわよ、うちのみゆに色目使って、鼻の下伸び伸びじゃない。ダメよみゆ、騙されちゃいけません。あの人はね、あなたが考えてるようないい人じゃないの」


「で、でも好きなんだもん。いいでしょっ」


「あっはははは」


 ほうら、笑われてる。憲邇のせいよ。


「ううう……憲邇さんっ、かがんで、目、閉じてくださいっ」


「はい」


「……っ」


 ちゅっ、って。かがんで憲邇に、背伸びをしてみゆが唇をくっつけた。昔わたしもよくしたわねぇ。憲邇がぐんぐん背を伸ばすから、どうしてもつま先で立っちゃったわ。ふふ。


「こ、これでみゆのくちびるうばいましたっ。責任とって、みゆと結婚してくださいねっ」


「ああしまったな、ついキスしちゃったね。仕方ない、みゆちゃんが大きくなったらプロポーズするよ」


「絶対ですっ、憲邇さんのバカッ、大好きぃ」


 少し涙ぐみながら自分からぶつかっていく。ぐりぐりと体中で好きと表現して、離そうとしない。かわいいわねぇ、わたしにもこないかしら。


「うははは、おもしれーっ。子供って面白いねー、千歳ちゃん」


「うん、かわいいね、みゆちゃん。私もあんな子供が欲しいなぁ」


「あははは、千歳ちゃんの子供ならあんな風になるよ、絶対」


「そうかなぁ。だったら早くできないかなぁ」


 ぴたりと、ばか笑いをしていた同級生が止まる。またも爆弾発言、ちょっと誰か止めないと、爆発するわよ?


「……なに、え、マジ?」


「あれ、前に言わなかったっけ? 私ね、みんなと違ってずっと生で」


「はいはいはいはい、すいか割りを始めます! こらそこのメイスン、すいかを持ってきなさい、今すぐ!」


 紗絵子お母さんの大きな声に紛れて、こっそり静香ちゃんがフォローに回る。なにかをごにょごにょと、きっとなんとかしてくれてると信じながら、みんなを連れて憲邇とともにすいかを割りに行った。紗絵子さんタイミングばっちりです、やっぱり頼りになるなぁ。


 立ち上がったわたしは、そういえばと水着の下がどうなっているか気になり、確かめるときちんと隠されていることがわかった。……誰だろ、憲邇かな。今さらだけど、あんな変態的なままで死ななくてよかったな、本当。


「うわ、すげ、そりゃえっちだね千歳ちゃん」


「そう? そんなことないよ、みんなだってときどきするんでしょ?」


「するけどさぁ、すごいね、さすが千歳ちゃん」


「度胸あるなぁ。あたしとてもできやしないよ、ついやっちゃうことはあってもさ」


 ……フォローしてないのかも。まあほかのみんなに聞かれないからいいか。


 憲邇のやつは子供たちがたくさんいることをきちんとわかってて、ちゃんとすいかは三つ用意してくれていた。偉いねぇ。


「えーっと、じゃあやりたい人?」


「はいはいはーい! ななほやるぅ!」


 明らかに桜園の子供たちがやりたげな顔でうずうずしてるけど遠慮がちに黙ってる。ほらほらダメよ、仕方ないからわたしが持ち上げるわね。


「あっ、
柚香里(ゆかり)さん、ちょっとっ」


「ベッキーちゃんもやりたいってさ」


「私もやりたいですわ、ぜひっ」


 これで
花織(かおり)ちゃんも含めて三人ね。あれ、珍しいわね、まゆちゃんが黙ってるなんて。


「まゆはいいの?」


「いやーあたしがやるとすいか粉々になっちまうでしょ? やめといてやるよ」


「食い意地張っちゃって」


「じゃあ憲邇くんを埋める人ー?」


「本当にやるんですか……」


「あっ、はいはい、あたしやるー!」


 ここでまゆちゃんが名乗りを上げる。ついでにそっと手を上げた愛さん
良子(りょうこ)さんの同級生ペアが憲邇を埋めることになりました。ああかわいそうに憲邇、骨は拾ってあげるわね。


「三人もいれば充分ね、観念しなさい憲邇くん?」


「わかりました、埋められますけど、すいかを割る際は力加減に注意してくださいね」


「わかってるわよ」


 紗絵子お母さん、本当にすいかの横に憲邇を置くんだね。そりゃあはらはらするけど、やっぱりちょっとかわいそうになってきた。


 あっ。なに言ってるのよ、みゆにあんなひどいことして、埋められるべきだわ。みゆだけじゃない、良子さんにも確実にやってたからこうして報復を受けてるのよ。ざまぁみろだわ。


「じゃあすいかは向こうのシーツの上に置いてきて。憲邇くんはパラソルの傍がいいわね」


「? あれ、それでいいんですか?」


 子供たちの黄色い声を導き、紗絵子お母さんはにっこり、息子に向ける優しい笑顔。「楽しいわよ、ゆっくり砂に埋もれるのも。やぁねぇ、本当にすいかの横に置くと思った?」


「はい、紗絵子さんならやるかと」


「むう、ひどいわねぇ。そんなことしません、なんならずっと傍にいて、いたずらから守ってあげます」


「そうですか? それはありがたいです」


「ほらほら、横になって、そろそろ休みなさい。執事にも休息は必要よ」


 砂の海に憲邇を寝かせた紗絵子お母さんは、ゆったりした憲邇にそっと、「ありがとね」と囁いた。そのままみんなの注意がすいかに向いてるのをいいことにそっとほっぺに。……お母さん、憲邇がキス魔なの、確実にお母さんのせいだからね。


 じっと大好きな人を見ていたわたしたちの家族は、その様子に確信に至るんだから。


「ねぇねぇさえこさんっ、これそのまんまたたいていいの?」


「あらあら、ちょっと待ちなさい。
(ともえ)さん私の代わりにあとお願いね」


「え、はい」


 急にお鉢が回ってきた美人さんは、驚きつつもしっかり憲邇を見守っていった。「じゃあ、埋めちゃいましょう」とはしゃぐ子供たちを見ていた良子さん愛さん、まゆちゃんを引き戻し、後ろ髪を引かれる子供がちょっとやりたい、どうしようかなぁなんてちらちら見てるのをしっかり監督。いたずら心を抑制する役を仰せつかったものの、主人である憲邇にみんなは優しく、いつも憲邇がしてくれているように優しく砂で包んであげていた。


「ふふ、これで憲邇さん逃げらんないね。ちゅうし放題だ」


「ああそうか、それは怖いなぁ」


「そうだ、せっかくだから写真撮りましょうよ。愛ちゃんカメラとって」


「うん」


 なんと無様な姿が記録されるのでしょう。苦笑いするしかない憲邇を、埋め立てした女の子三人ともう一人で囲み、せっかくなのでわたしがシャッターを押した。これはいいわ。焼き増し候補筆頭ね。


「どうなの? こういうの苦しくない?」


「いや、気持ちいいよ」


「ふぅん。あたし暑そうだからいいや」


「あはは」


 向こうでは紗絵子さんが娘の
奈々穂(ななほ)ちゃんに目隠しをしているところだった。わくわくを体全体で表現している彼女は踵を持ち上げ、下ろし、つま先を上げ、下ろしを繰り返している。ふっくらとした胸がきちんと揺れる高校生の体とミスマッチ、もしていない。彼女の持つ雰囲気ぴったりだった。知っているから、かもしれない。それだけにビーチでは少し注目の的だった。なにしろ飴玉一つでころってついてきそうなダメな女の子(スタイル抜群!)に見えるのだから。


 ちゃんと守ってあげなきゃダメだよ憲邇? それと、お母さん?


「あはははははは」


 くるくる回されると大声で笑っていく。それが終わるととても楽しそうによろよろとふらふら、あっちあっちとみんなの声で一歩、二歩と危うい歩きを見せる。


「うおお、これはきついぞ……どっち? こっち?」


「そっちそっち! 右手のほう!」


「これか? そりゃあ!」


 手に持った軽い棒切れは見事に空振り、体重を持っていかれた奈々穂ちゃんは転んでしまう。子供たちは笑ってしまい、紗絵子さんが慌てて駆けつける。


「大丈夫? 残念、失敗ね」


「ほんと? あーあ、あたったとおもったのに……」


「難しいでしょ? ほら、こっちよこっち、もうちょっと右」


「うーん、とあーっ!」


 ぱこん、今度は見事に命中して、見るも無残な形にすいかも負けましたと様変わり。


「おめでとう。ほら持ってきましょう。今度は奈々穂ちゃんが声で教えてあげるのよ」


「うん。えへへ、さえこさんもお母さんみたい」


 どきりとする、珍しいお母さん。動揺をいつもは冷静に隠し、憲邇の前だけだったのが最近、そうでもないことに気づかされるの。


「……そう? うふふ、そりゃあ私も息子と娘がいるもの、本物の母親よ」


 なんとか取り繕ったはずの笑顔は、とっても綺麗なものだった。嬉しそうな当惑と、わずかのはにかみ。わたしたちは親子で、思わずちょっとだけ抱き締めるの。


「さえこさん?」


「なんでもないわ、奈々穂ちゃんがかわいいからくっつきたくなったの」


「そお? ふぅん、ななほもね、お母さんとくっつきたいこといーっぱいあるよ。お母さんのおうちからでちゃったけど、またあえるかなぁ?」


「会えるわよ、こんなにかわいい娘さんだもの。毎日顔が見たいって飛んでくるわ」


 うん、わかるよ。お母さんが飛んで行くんだね。
広子(ひろこ)さんにはちょっと悪いかな。ちゃんと話しとかないと。


 戻ってきた親子二人は、そっと手を繋いだまま、大声ですいか割りを楽しんでいった。


 ……一応、いたずらな風でめくれた紗絵子さんのパレオの中は、ちゃんとしていた。ほんの一瞬でやっぱり紗絵子さんもすぐ隠したけど、あの人にはしてないんだね、憲邇。みんな一気にはさすがにやらないのかな? だとすると今は誰だろう……さすがに全員を見るのはできなくて、でもみんなきっちり押さえたみたいだから誰とか、わからないかなぁ。水着なのにみんな恥ずかしがりすぎだよ、くせだね、憲邇につけられた。……誰もしてないなら、助けてもらったお礼くらい、簡単だけどなぁ……


「はい憲邇、冷たい飲みものまだあったけど、飲む? 飲むでしょう飲みなさい」


「あの、ちょっと体勢をととの、
草薙(くさなぎ)さんっ」


 でないとわたしがいたずらしてやるから。
















「あれが終わったらトイレに立つから、ついてきて。そのときに」


 ……遅いです。ご主人様は焦らしすぎの放置プレイ好きです。私には最適ですから、改善を願います。


 もう準備なんて……今の大きな声に紛れる囁きでもう、ダメなのです。ご主人様が颯爽と助けに行くのがいけません。不謹慎で本当に柚香里さんには申し訳ないのですが、助かったとわかった後の安堵感、よりは、男らしいご主人様に砕けているのです。……先ほどから立ってお子様たちの応援もできず、ただ柚香里さんみゆちゃんたちと同じように、盛り上がった砂に沈んだご主人様の傍で座り込んでいます。動けません。傍で、わずかな男性の匂いを嗅ぎ取ってやるのです。


 そうすれば公然と、倒れこめますから。


 向こうでは二番手のベッキーちゃんが、柚香里さんに急かされる形でもとても楽しそうに目隠しをされ、くるくると回っていっています。……ああいけない、私ったらどうしてこう、愛ちゃんみたいな思考に陥ってるっ。ご主人様っ、お叱りくださいっ、お仕置きが必要ですっ。でも、ない、ないよ、ご主人様の手、いつもなら伸ばせばすぐ見つかるのに、今日はどこかへお出かけです……顔を見ずに探してもすぐに見つかるはずなのに、遠くで見事すいかを割ったお子さんに拍手を送らなければならなくなりました。ああまた、遠くへ……


「すごいわねぇベッキーちゃん。ほらほら、割ったやつはあっちへ持ってきましょう」


「はい……へへ」


 またも男の子のような叫び声を上げた奈々穂ちゃんが楽しそうに一番大きな欠片をこちらまで持ってきました。大きかったはずのすいかもこうなると無残に、あっさりと子供たちのお腹へ吸収されていくことでしょう。とりあえず砂がつくといけませんので、皆様にお配りしなければ。


「おめでとうベッキーちゃん。食べないの?」


「……」ちらちらご主人様のほうを見ます。しかしわざとご主人様はなにも反応せず、おめでとうと言うばかり。


「お塩をちょっとかけると甘くなるんです、早く食べましょう? 砂混じりもおいしいけどね」


 小さな両手に乗せてようやく、口をつけるのです。気にしないでいいのですと、何度も教えなければいけませんね。……ふんわりと笑顔になるハーフの子供たちに、「早い者勝ちです」と急かしていきました。


 自宅で食事を振舞ったときも、ご主人様が食べるか、食べていいんだよと言うまでけして自分から手をつけようとしませんでした。二年もお勤めしていればそれくらいのことは経験があります。彼女たちをこう虐待した親が多いと、今では悲しい事実もあるのですね。あるいはご主人様が助長したり、ご主人様のせいでこうなったのかもしれません。だとしたらご主人様をきちんと叱って、これから
絵里(えり)さんや紗絵子様のようにきちんとした母親の元、教育を受けさせてあげたいものです。


 この子たちがいけないなんて、絶対にありえないのですから。


 わいわいとすいかの位置を声に出しているところは、元気のよい子供たちなのです。予定は三人ですから、みんなこれくらい元気がいいですね。


「あらまあ、ベッキーちゃん口の上に種ついてるわよ」


 すいとそれを取ってくれる絵里さん。なぜかベッキーちゃんはかあっと赤くなり、そっぽを向いてすいかを食べ続けました。


「きしし、きらわれてやんの」


「うるさいわね、まゆは食べないの?」


「花織ちゃんの食べるよ。いっぱいいるからみんなで分けなくちゃ」


「ふぅん、お姉さんぶっちゃって。本当はまゆもやりたいんでしょ?」


「んなことねーよ。あ、でも静香さんがしてるのは見てみたいな」


「え? どうして?」


「こーゆーのうまそうじゃない? なんていうかあっさりぱっくり割りそうでさ」


「そうかしら」


 いけいけと楽しそうに静香さんもはやしています。そうでしょうか。お子様は鋭いと噂はありますが、同じくらいミスの嵐です。どうしてそう思ったのでしょう?


 三番手の花織ちゃんは目隠しをされると自分からくるくるしだし、回転を増す紗絵子様の押しに楽しそうに悲鳴を上げ、ふらふらと歩いて……いきませんでした。ふふふとにっこり笑い、ほぼまっすぐすいかへ、あっさりと何度かぽかぽかと叩いて、ぱかっと割ってみせました。みんなも驚きの声を上げます。


「すごいすごぉい! かおりおねえちゃんすっごいね、どうしてぇ?」


「うふふ、これくらい回る程度なら簡単ですの。これでもお母さまからバレエの指南を受けておりますの。お姉さまも簡単でしょう?」


「ええ、でも花織はまだまだつたないのに、よくできましたわね」


「ふふふ、夏に向けてのとっくんを重ねましたの! これができたらいいことがあると願かけにしましたの」


「あらあら、どんなこと?」


「そうですわね、お母さまがチョコレートのアイスクリームをおなかいっぱい食べてもいいとおっしゃいますっ」


「花織、いけませんわ。誕生日になさいませ」


「いいえ、夏休みにいいとおっしゃる日がきますのっ」


「そうよ、くるわよねぇ? はい、見事割ってみせた花織ちゃんの取り分よ」


「ありがとうございます」


「これで全部ね。さあせっかくだからみんなで残さず食べましょう」


 綺麗に切り分けられないでこぼこに割られたすいかの欠片たち。けれどそれをみんなで分け合いながら仲良く食べていくのもまたいいものですね。仲のいい家族のように……


 甘いですね、とっても。


「みゆ、みゆもほっぺついてるわよ」


「えっ、あああ、しょ、しょうがないでしょ」


「……千歳ちゃん……」


「え? 嘘、あ……」


 まあこのお二人は無邪気な少女ですので、致し方ありません。


「ほらほら花雪ちゃんも詩音ちゃんも、もっと大きく口を開けないといつまでたっても食べきれないわよ? そんなちっちゃい口して、がぶっといきなさいがぶっと」


「む、無理ですわ、これ以上広がりませんの。ねぇ詩音さん?」


「ぅ、うん……大きいです……」


 明らかにそれほどでもない大きさのすいかを、二人でちまちまとついばむように食べ進んでいました。……すごいですね、すいか食べてるのに口元をあんなに綺麗にできるのは。


「そんなことじゃこの先苦労するわよ、特に恋人とね」


「え? なにがですか?」


「紗絵子様、口を慎んでください」


「あらぁ? 良子さんも耳年増ねぇ。どうして今の言葉で慎まなくちゃならないの? ほらほら、具体的に説明してよ」


「うっ……」


 さすがは親子です。こういうことをやらせるとベテランの域ですね。ぐうの音もでませんでした。


「? そ、そぅです、このままだと、好きな人とキスするとき大変ですよね」


「ああ、そうですわ。外れたらがっかりですの」


「ぷっ……」


「くくくく……」


 千歳さんの同級生、
東野(ひがしの)さんと上岡(かみおか)さんが笑いを堪えています。おかしいですよね、こんなに年相応になりきれない二人というのも。


「千歳ちゃんさぁ、こんなおもろい友達いるんなら早く教えてくれればよかったのに」


「ごめんね、私は好きな人のことでいつも頭がいっぱいだから」


「あー、まあそれはしゃあない、千歳ちゃんはそういう子ね。箱入り娘は健全に、彼氏にたーっくさん愛されてるもんねー?」


「うん。……? 箱入りじゃないよ?」


「はいはい、そうね、違うかもね。それよりさー、千歳ちゃん
住田(すみだ)と親しいでしょー? あいつさー、やっぱり千歳ちゃんみたいな格好が好きなのかなー? それみたいな水着だとよろこ、千歳ちゃんの彼氏教えてくれるかなー?」


「うぅん、どうかな。これは私の趣味だし、好きな人は気に入ってくれてるだけだし、住田くんのことはわかんないよ」


「……あいつじゃあ、ないの?」


「違うよ。年上の素敵な人なの」


「くそー……やっぱり年上にほれ込むのが普通なのかなー」


(ひかる)、じたばたしない。明日はなにしてても来るの、なにするかだけを考えなさい」


 私からすると現役女子高生もずいぶんと面白いものですね。


「あああの、静香さんの彼氏さんも年上で素敵な方ですよね?」


「うん、あ、パティちゃんちょっと口汚れてるよ、はい、綺麗になった」


「あ、ありがとうございます……じゃなくってっ、その、年上の男の人がなにに喜ぶのか、よくわからなくって、同じクラスの男子はゲームとかなんですけど、静香さんの彼氏さんはどんなことをすれば喜んでくれますか?」


「うぅん、そうだなぁ……やっぱりボディタッチよ、自分から親しく、あちこち触ってやればいいの」


「じじ、自分から?」


「そうそう、女と肌をぶつけていやがる男の人はいないよ。まあ、相手によるけど、好きな人が年上だったら大抵許してくれるから、そこにつけこんでやるの」


「つけこむ……」


 なんだかいけないことを静香さんが得意げに吹き込んでいるような気がしますが、やっぱりかわいいものですねと放っておきます。くすくす東野さんたちもまた笑っておりますし、微笑ましいだけのものですね。


「わた、私、ば、晩酌につきあってほしいって言われたんですけど、そのときにきっとうっかりこぼしちゃいますから、どさくさに紛れるのもいいですか?」


「うん、いいと思うよ。ていうか、晩酌頼まれたんだ、ふぅん……」


 耳ざとく、今の言葉は全員に伝わっていきました。なるほど、たまの晩酌に付き合って欲しいのですね、わかりました。絵里さんのようにぐいぐいと勧められるのがお好きなようで。


「でもパティちゃん、その人ロリコンだよ、パティちゃんみたいな小学生に晩酌させるなんて」


「でで、でも、頼まれましたし、きっと誰でもいいんです、ほかにもしてもらえる方がいらっしゃるんでしょうけど、私にもさせてくれるってだけで」


「そうかなぁ。きっとパティちゃんのこと狙ってるのよ、気をつけなさい、ね?」


「そそ、そんなことありませんっ。そそ、それに、だったらうれしいです、遠慮なくボディタッチしますから」


「ああもう、また汚しちゃって、ゆっくり食べていいのよ」


「すみ、すみません……」


 静香さんも変わりましたねぇ。ふふふ、いつの間にあんなにお姉さんらしくなったのでしょうか。やっぱりふっくらしてきたのも、きっと……


「ね、ねぇお母さん、憲邇さんの分は?」


「みゆ、残念だけど、すいかは売り切れよ」


「えっ、そ、そんなのダメですっ」


「いやいや、いいよ。昼食で満腹だから。
葛西(かさい)さん、トイレに行きたいんだけど、出してくれませんか?」


「はい、お任せください。まゆちゃん愛ちゃん、手伝って」


「うん」


「はーい」


 ……この砂が全部どかされた後、私はそんなところでしてしまうのですね。ああご主人様のろくでなし。指に触れるさらさらのものは混ざらないようにどうぞしてくださいませ。どうなるかは知りませんけど、いいはずありませんから。


「ありがとう。ちょっと行ってきます」


「……私も席を外しますね」


 砂を払った背の高い男の人に、ついていきます。三歩後ろ、どうしていつも歩くペースは同じなんでしょう。合わせてくださらなくとも結構ですのに。


 大きなパラソルに、声の届かぬ距離で。


「いいのかい? 戻るなら今だよ、私は姉と」


「構いません。もう整理はつきました」


「そうか。ありがとう」


「いいえ」


 顔の見えないその言葉で、充分です。


 すぐに、人の出入りの激しい、海の家まで。不自然でない程度に時間差で中に入り、ここから人目を盗んでご主人様の後に続くのは無理みたいです。ご主人様も外で待っててと合図をくれたので、メニューを眺めるフリをしながら待ちます。……その間に声をかけていただいたのですが、けんもほろろにしてやりました。


 だって夫が、いますもの。


 すぐに出てきたご主人様と、隣の更衣室へ。いいかと無言で訊ねられもちろんですと二つ返事。ここなら化粧室ほど人は来ませんし、そっと二人で入ることも可能です。タイミングもよく、すぐに手引きしてくれるご主人様のままに、男子更衣室へ突入しました。


 二畳もない狭い空間に、好きな人と二人っきり。視線をぶつからないようにするほうが難しく、海の近くでまた海を見て、うっとりと目を閉じました。


 口付けで、もう興奮の渦です。








 本当にただ着替えるだけの空間です。申し訳程度の鍵と扉のみで、薄い壁に向こうの声がこちらまで聞こえてきます。つまり、逆も真なり。声は我慢すればいいのですが、別の音が、漏れたら……輪姦されるのでしょうか。ここは男子のほう、ああどうしてご主人様は女子のほうにしなかったのでしょう。女子のほうは扉を開けても防波堤で、そこに用のある女性以外が来ることはなく、万一扉を開けられてもその人以外に見られることはありません。声が漏れようとも立ち去られることが主でしょう。けれど男子更衣室は女子と隣り合わせで海側にあり、扉は隣の海の家との間に出ます。万が一にも突然開いたとしたら、海側へ開き隠してくれるとはいえ、近くに寄れば見えてしまいますし、男性は声を聞けばその場に残ることもあるでしょう。


 恨みます、私の望むほうを選ぶご主人様を恨んで恨んで、ついていきます。


「……っ……ん……ぁ……」


 人がすぐそこにいるところでのキスは、格別の味がします。静香さんも私がすぐ隣の部屋にいるところでのえっちは、とっても興奮したんですね。こんな風に仲良しをするのも、いいですね……やっぱり塩の味……でも、ご主人様の汗の匂いが、狭い室内にすぐ立ち込めてきます。私を酔わせる最高の麻薬です。汗をかかない人じゃなくてよかった。身体中に染み込ませてくださいね。


「……はぁ……」


 ひとしきり唇を味わってもらいます。大好きな人と久しぶりの、えっちのキス。唾液の流れた川が二本三本、できても放っておいてまた、キスをねだりました。


「……っ……はっ……んっ……」


 口の中で好きを言います。ご主人様、好き、好きと。この人だけに聞こえる声で言うと、私にだけ聞こえる声が返ってくるのです。それが嬉しく、どうしても貪ってしまいます。メイドのくせにこんな、自分から……


 それを抑えつけるようにご主人様のほうからも、奪い、吸い、舐め上げてもらいます。お互いの目を見つめたまま舌を絡め、自分のものとご主人様のものが交わる様をまざまざと見つめ、またうっとりと。


「おいしいね」


 びくっとなる、ご主人様の声。低く、色っぽく、小さいけれど、確かに言いましたよね、今。ご、ご主人様だけ、言うんですね。ここが男子更衣室だから、ご主人様だけ、好きに……ああどきどきしてきました。こんな仲良しのし方は卑怯です。興奮しちゃいます……


「おいしくないの?」


「……おいしいです……」


 震える声に、なりました……優しく訊ねるのが逆に怖い、とても嬉しくさせるお言葉です……喋らせるのですね、わかりました、従います……けど声を出したくなくて、また目を閉じました。キス魔のご主人様とまた、橋を架けにゆきます。


「……っ……ん……っ、ん……」


 いけない人です。キスの最中に目をこっそりと開け、楽しみに閉じるご主人様に微笑みます。かわいいと思う瞬間、きっと皆様もですね。あっ、ダメです、歯まで舐めようと、しないでください……舌だけをお互い味わいましょう、ご主人様……


「はぁ……」


 垂れていく脆い橋。上気した顔。いけないところへ向かう男の指先。ずらすだけに、しましょうね。外して床に落とさないでくださいね。


 あっさりホックが外れました。首も解かれ、ブラが落ちます。ずらすのがしたいのに、スカートもひらひら落ち、下も膝まで下ろされました。じわじわ泣けてきます。言い逃れのできない、見られてしまう格好にされ、嬉しいとむせび泣きそうでした。


 裸の上半身を抱き締めてもらいます。ずっとくっついていましょう、それなら見られません。お互いの乳首を重ねて気持ちよくなりましょう。


 もうこれまでの積み重ねで、何度快感を得たか知れません、けど。


 ぷっくりしてしまっていた胸を、硬い胸で押し潰されていきます。形を変えるほどの圧迫に声が漏れていきますが、全部ご主人様の身体に吸収してもらいます。ぐりぐりと転がされると強く抱き締めたくなるほど気持ちよくなっていくのです。自慢の胸を変形させられるのはとても気持ちよく、ずっとご主人様の身体に声を届け続けました。


「……んっ……さまっ……っ」


 背中をつかむ指も、腰を滑る指も、ぐりぐりと転がっていきます。おかしいです、久しぶりの愛撫は、普段感じないところも性感帯へと変化させていました。指が触れるところは敏感に、それが髪ごと背中を落ちようとも、腰を引き寄せようとも気持ちいいとなるのです。引き寄せられた身体が男性の下腹部の、とても熱いところに触れるとつい、離れようとするのですが、許されるはずもありません。より強く引き寄せられ、まだ隠されたままの部分を、こちらの素肌で感じさせられるのです。


「良子の胸大きいから、揉んでもいないのにこうなったけど、どうしよう?」


「……っ……も、揉みました、揉みくちゃに、してます……」


「したっけ? でも下が大変なんだ、どうしよう?」


「……」


 ご主人様の背中に回した手を、下のほうへ。そうして、男性の水着を、下ろしました。


 勢いのいい、ご主人様が目に、入ってしまいます。


「ありがとう。さすが自分から胸を見せたがる良子だね」


「ちが、います……っ……あれは、ご主人様にお仕置きされたく、なくて……っ」


 話しているときに足音が聞こえるとびくびくします。つい声を潜めますが、それだとご主人様が聞き返してくるので、必然的に張らなければなりません。砂を噛む音が通り過ぎるたびに、ほっと緊張を解くと髪を撫でられ、喘ぎ声を漏らすのを必死で我慢しなければならず、こんなに気持ちいいのにと、涙がたまる一方でした。


「本当は人前で裸になりたいんだろう? 自慢のバストを披露して見られたいんだろう?」


「……ち、ちが……」


「違わないよ。せっかくだから良子の願望を満たしてあげるね、扉を開けようっと」


「やっ、お願いします、やめてくださいっ」


「じゃあこれ、言えるよね?」


 ぼそぼそと聞こえる低音の囁き。きちんと意味を反芻するより早く、ノブに手が伸びたご主人様を止めようと声を上げました。


「私は見られたがりの変態女です。こんなところでセックスするととっても興奮してしまいます。どうか今すぐ扉を開けて、私の痴態を皆様に晒してください」


「わかった、知らない男たちに見られると興奮するんだね?」


「……っ、ご主人様ぁ、違いますってば」


「あはは、かわいいね良子。よく言えました」


 ふんわり抱き締めてもらいます。えぐえぐと涙をご主人様へと伝わせます。


「この後もあるしさすがにね、開けてしまうのはまずい。けれど」


 かちゃ、と。鍵は開けられました。「これくらいなら大丈夫だろう」と信じられないことを言うのです。


「……っ、ごしゅ、じんさま……」


「女中なんだから主人と会話を、してくれるよね? 話しかけても返事をくれないと悲しいな?」


「……はい……よろこん、で……っ」


 せめて声がすれば、人は来ないかもしれません。けど来たなら、あっさりと扉は開きます。鍵のある無しは向こうで把握できます。そうしたら私の背中は、お尻は丸見えです。どんな格好をしているかまで……この時間に海に来る男性が少ないことを、祈るしかありません。もし、もしも扉が開いたら、そこで私は……



「好き、ご主人様、好きです……」


「私も好きだよ、良子」


 口付けのままに、鍵もそのままにして、おきました。


「ん……は、ん……ん、ん……」


 キスをしながら、背中を撫でていた指が下へ向かい、お尻をつかんで揉み上げながら、そのまま大事なところへ伸びていきました。


 もう汗だくです。先ほどまで直射日光に焼かれていましたから、身体中汗だくです。


「……あ……ん……あ、あ……」


 唇が遠く、頬を伝いそのまま首の下、胸に向かいました。髪をどかしぴんとなった自慢のバストに吸い付いてもらいます。「あっ」ちゅっ、ちゅぱって、音を立てて……「嫌……」ひどいです、感じます、そんなこと……


 胸に噛んだ痕が、付きました。甘噛みにじんとした疼痛を感じ、恍惚とご主人様の背中を撫で回します。こちらが責める術など知りません。そこもご教授いただきたいのです。


「あっ……ん……あっ……っ」


 あそこに入る指も濡れに濡れ、汗だくです。どちらの準備も整いました。いえ最初から整っていたのです。ご主人様に解いていただいたときから既に……


「どっちからがいい? このまま? 後ろから?」


「……っ、このまま……お願いします……」


 後ろからとなると私をひっくり返されて、もしものときに闖入者と目が合ってしまいます。なによりご主人様以外に見られたくなどない(本心です)自慢の肉体を晒したくなどないのです(本心なのです)。それに一応、後ろからは若干、恥ずかしいものがあるのです。


「わかった、このまま指がやるように後ろからだね。ほら回転して」


「ご主人様ぁ……っ、許してください、お尻までなら、私」


「後ろを向け」


「……はい……



 頭ががんがんしてきました。いえ痛いのでなく、心地よくてです。言われるままに後ろを向き、薄い壁に手をついて後ろから、犯されます……



 挿入で軽く、唇を噛み締めました。でないと声が高いものとなって羽ばたいてしまいそうだったからです。予想以上にぬるぬるとなった私は簡単にご主人様と一つになりました。


 侵入者は、とても気持ちいい……です
 


硬くていやらしいものが私の体内を擦りながら進んでずぷずぷしていくのは、とっても気持ちいいですご主人様。


「久しぶりだけど、良子の味は覚えてるんだ。ちょっと見ない間にずいぶんおいしくなったね。ごめんね放っておいて」


「いい、え……っ、とんでもありません、っ……でも、待ち遠しかったです……っ」


 放置されればされるだけ、その後にくるものを想像してしまいますから、構わないのです。むしろ今、存分によがれるのでいいのです。ああ、お尻が、ぱんぱん鳴らされます。うるさい耳鳴りに近く、私の耳を揺らします。聞こえたらどうしよう……妄想好きの私は、考えるだに快感を、自らいや増していくのです。私たちがこんなところで仲良しをしていると、誰かに知られたらどうしようと自分から悶々としだすのです。手に負えません。考えれば考えるほど、この壁の向こうに男の人が見えるのです。そんな想像をしてしまったが最後、汗の量がまた増えて、唇を噛んでしまうのです。声に出したい、ご主人様が好きですと、気持ちいいですと……すごい、好き、です



「そうか。それなら終わった後もきちんとみんなの前でこっそり脱いでくれるんだね、ありがとう」


「えっ、ち、違い」


「待ち遠しかったんだろう? 露出するのが」


「……ぁっ……違い、ま……っ」


「すごく嬉しそうにしてたじゃないか。今だってこんなに濡れてる」


「それは……っ、ご主人様に……っ、責めて、いただいてるから……」


 見られてるかも、などと妄想をかき立てることが嬉しいはずありません(本心ですっ)。見ず知らずの人に胸を見られて快感を感じるような恥知らずではないのです(本心なのですっ)。ぱんぱん、わざと弾けるようにお尻を叩かれるほうが何倍も気持ちいい……です。


「そうか、それは嬉しいけど、仕方ないね。じゃあどちらでもいいように人前でこっそり責めるぐらいにしておこう。戻ったら試してみようか、こっそり、やっぱり胸がいいんだよね、良子は」


「……っ、ぁっ、ごしゅじ……さま……」


 違いますとも言えず、後ろから胸をわしづかみにされ返事が嫌な声になります。右と左でまるで別のものになるほど揉みしだかれ「あっ、あ」乳首をぴん、と弾かれると嫌と首を振ってしまいます。きっと気に障ったのでしょう、せっかく胸にきていた指が顔を上げさせにきて、わざわざ唇を運んでもらいます。腰にあった片方も一休みをし、お腹をすべすべとさすり上げていきました。今日はおかしいです、お腹は性感帯でないのに、あたかもそうであるかのように、びくつき、跳ね、キスが、外れ……


「じっとしてもいられないのか? 口付け一つまともにできないんだな、女中のくせに」


「あっ
 嫌です、そんなこと言わないでください……っ


 なじられると感じます……そんな楽しそうに苛めないでください。仲良しな二人だからって、仲良しなちょっとしたいじりはいけません。ああでも私、プレイでこうしてなじられたり悪辣に扱われるの好きだな……っ、乱暴に、されたい……少しずつエスカレートして欲しいかも、ああでもでも、エスカレートしたらどうしよう……人前で裸になんてなれません、ご主人様……好き……


「罰だよ、今から扉開けるから、自分が無理だと思ったら閉めなさい」


「……え……? さ、さっき開けないって」


「早すぎたらまた開けたくなるけど、君次第だよ。それじゃあ開けるね」


「えっ、ごしゅ」


 宣言どおり、扉が開かれました。


 立ち込めていた熱気がすぐに冷え、のぞく外の景色に卒倒しそうになります。扉が開いて目に映像が入ってくるまでの間に、本当に誰かいたらどう説明しよう、完全に私の胸も、お尻も丸見えで、もしかしたら仲良ししていることまでわかるかもしれない、いいえ丸わかりだわなんて、一瞬の間に想像がぐわんぐわんと頭を揺らしていきました。


 身体が硬直し、なにもかもをきつく、締め上げます……



 けれど……そこには隣の壁があるのみで誰も、いませんでした。扉の角度的には、早々見えたりはしないでしょう。ほっと硬直が解け、途端にまた熱気が肌を汗ばんでいきます。悲しい涙がぽたぽたと流れ、ぐすぐすとご主人様を見上げました。


 にっこりと微笑む、天使のような悪魔です。


「ダメだよ、罰で感じちゃ」


「かっ、感じて、ませ、もっと小さくっ」


 ご主人様はわざと通るように声を出しています。外の喧騒がたくさん聞こえるようになった今、そんな声を上げたら……


「あっ」


 出ちゃったぁ……ご主人様が、動くの、また、こんなときに、するから……お尻が、ぱんぱん……腫れちゃう……


「こんなにきつくしといて、身体は正直ってやつじゃないか」


「違い、ます……っ、んっ、ぁっ、んっ……」


 海辺の風が流れてきました。ここが外であることをまざまざと知らしめる、興奮剤……っ、口を強引に開かせようという作用のある、今だけは当たりたくない風です。


 身体をぐいと起こされ、またキスをします。胸の上に乗せた自分の手をずらされ、固定させてくれません。そうして歯を舐められながら、乳首をまたぴん、ぴんと弾かれ、ぐしゃりとめちゃくちゃにするのです。


「……好き……ご主人様が好きです……」


「ありがとう。私も好きだよ、良子」


 だらだらとなった涙を大きな指でそっと、拭いてもらうと、どうしてか今日の私はおかしく、照れと、うずきと、快感を……感じるのです……


 まだ、閉めたくありません。


 そんなことに感けるよりも先に、大好きな人と手を重ねたいのです。手を重ねて、肌を合わせていたいのです。他のものになど触りたくありません。ただただ熱い男性の体温を受け取り、与え、一つになりたいのです。


「良子の身体、気持ちいいね」


「私も……ご主人様が、気持ちいいです」


 重ねた手が、手が、気持ちいい、です。絡まる指が、気持ちいいの、です。見つめ合う瞳まで……気持ちよく、なりそう、です。


 耳朶に響く声が気持ちいいのは、もうずっと前からですけど。


「ふぅん、私のなに?」


「……え、えっと……んっ、ご主人様です……」


 ゆっくり、じっくり、お腹の奥まで、突き上げてきました。これだろうって、いやらしい……ぱんぱん、鳴らしてくれません……


「私は良子の胸が気持ちいいかな、柔らかいし揉んでて楽しいよ。良子は私の、なにが気持ちいいの?」


「……ぁっ、あのですね……んっ、はっ、えっ、と……っ」


 今は無理です、今は、近くをわいわいとお喋りをしながら歩く人が、聞こえます。すぐそこを歩いています、ここでそんなこと言ったら聞こえてしまいます……「あっ」


「ほら、こうすると揺れるのが見えてとても興奮するけど、良子はなに?」


「……ご主人様です」なるべく、小さく。


「言え」


「っ……
 ご主人様の、身体全部です、全部気持ちいいんです……嘘じゃありません、許してください……」


 本心です。ご主人様のもうなにもかもが、気持ちよくなりました。声も、肌も、性器も、なにもかもです。苛める素敵な性格も好きです。優しく妖しい瞳も気持ちいいんです。本当です、許してください……あ、脚が、がくがく震えて……


「そうか、そうだったのか。ありがとう、それは嬉しいね。何度も言わせようとして悪い」


「いいえ……あっ!」


 いけない、かなり大きく、だってご主人様が……っ。


「まだ閉めないでくれるいい子の良子に、ちゃんとしてあげないとね」


「あっ! ご主人様ぁ
 好き、好きですっ、ご主人様の身体が好きっ


 ぱんぱん、激しく鳴り出しました。ご主人様の硬いものが私のお腹を駆け回り、ずんずんと突き上げていきます。声を大きく出しすぎ、これからもたくさん喘ぎそうなのでもう必死で唇を噛み、それでも無理と手で押さえ込みながら、立ったままで仲良ししました。後ろから勢いよくずぷずぷが進み、お腹の奥まで簡単に到達しては私の自慢の胸と、髪を大いに揺らします。がっしりと持った腰がしっかりと突き上げさせ、片方だけ繋いだ指を離しそうになります。どこかに手を置いて楽な体勢を取りたいですけど、この限定的な状況もいいものですね。


 もう終わるまで閉めようとは、絶対に思えませんもの。


「私も良子が好きだよ。身体だけじゃないけどね」


「……っ……んっ……っ」


 荒い息遣い、下腹部のいやらしい音、跳ねていく水。そしてお腹をぐいぐいと進み、刺激していくとても大きく気持ちのいいもの……それが進むたび、戻るたびの気持ちよさといったらありませんでした。緩急があり、一気に早くなると覚悟ができず、塞いだ手から高い声が漏れていきそうです。思い切り喘ぎたい、大好きな人の名を叫びたい。何度この衝動に駆られたことでしょう。


 でも、我慢することの気持ちよさといったら



「……っ……んっ、ん……ん……」


 もうダメです、少し無理のある体勢に疲れてきました……なによりもう、ダメです、私が、ダメになります、ご主人様ぁ……


「良子、辛い? ごめんもう、いくから……いくよ、良子……っ」


「……っ
 ん はっ、あ…… んっ


 射精して、いただきました
 ナカダシ……ナカダシ……生ナカダシです…… あっ あーっ あーっ ……久しぶりに、真夏の日差しよりずっとずっと熱いものを、いただきます…… よかった、一緒 ……に、イけましたね、ご主人様…… びくびくと痙攣するように白いものを受け止め、落ちていこうとするのを吸収しようとします だってこんなに気持ちいいもの、逃がしたくありません 達したままに叩きつけられた液体は、どうしようもないほどの快感によがらせてきました 久しぶりだからですね、長く、多く 大量に感じますっ、ああーっ ま、まだっ あーっ あーっ ああーっ


 ……しばらくそれを放心したまま感じると、ぐったりとうな垂れ、崩れ落ちそうになります。やっぱりこの体勢は結構きますね、なにか手をつくところが欲しいものです。で、でも、こうして無理な体勢でちょっと強引にやらされるのも、私は好きかも……メイドらしいもんね。挿入が終わるとどろどろ落ちていくものもまた、私をにやにやと笑顔にするのです。赤ちゃん……ようやく一人目かなぁ。


「ご主人様……」


「良子……」


 きいと扉が閉まります。なんとご主人様が閉めてくれたのです。身に余る光栄です。その上抱きかかえてもくれました。どうしよう。


「偉いね良子、ずっと開けたままでよく我慢できた」


「いいえ、そんなことありません」


「だろうね、良子は露出癖があるから」


「違います、もう、ご主人様ったらぁ」


 ちゅっ。ちゅっ。「違わないさ、気持ちよかっただろう?」


「……」


「私は気持ちよかったよ? 良子だってこんなにずぶ濡れだけど、どうだったのかな?」


「……ちょっとだけ、です……久しぶりだから、身体は反応しましたけど」


 嘘。とっても気持ちよかった。これ以上ないほどの快感を感じてしまってた。ご主人様にお仕置きされたり、言わされたり言ってもらったりと、とっても気持ちよかったです。でもですね、それはけして、こうしてお外で仲良ししてることや、お外で身体を露出してることなんかでは、ないのですよ?


「ふぅん、そうなんだ。でもまあ関係ないよ、戻っても露出はしてもらう、いいね?」


「……はい



 口付けのままに、付き従います



 そのまま少し、いつものようにちゅっちゅしました。こんなときでもやりたがるご主人様はしょうのない人です。頬擦りをして、後ろから抱き締めてもらって、背中を味わわせてもらいました。


 ため息が出るほど、とろけてしまう時間です。この時間も楽しみだなぁ。皆様も同じですよね、ふふ。


「ご主人様……久しぶりにするのはとてもいいのですけれど、その、毎回これくらい間隔が空くと、メイドとしてはとても嬉しいのですけれど、一つだけ問題が……」


「なに?」


「三人……欲しいです……最低、三人……」


 三本指の、家族計画です。慎重に、でも最低三人です。贅沢はさせられませんけど、三人くらい食べさせる甲斐性はありますから。


「わかったよ、これは大変だな」


「よろしいのですか? メイドのくせに無理を言っているのはわかりますから、無理なら無理と仰ってください」


「いや、公然と良子を犯せるから寧ろ嬉しいよ。頑張ろうね」


「はい」


 ぎゅう……



 ……さて。現実に引き戻されます。ここはただ着替えだけをするところで、お股を伝うどろどろとしたものをどうにかするものなど、ないのでした。もちろんそれはご主人様もなので、こんなことにも気付かなかった私はメイド失格で、今になって慌てる始末。ああどうしよう、これはお仕置きですね……シャワー付きのところくらい、下調べしておくべきでした。


「別に私はこのままでもいいよ。面倒だし、ぱっと見わからないし、海で流せばいいしね。良子もそれでいいんじゃないか」


「で、できるわけありませんっ。私のとご主人様のは違います、ぴったりくっついて、とても海じゃあ」


「じゃあ、スカートあるし下は履かないで海まで行こうか。ちょうど軽い露出にもなるし」


「ごっ、ごしゅ……! 冗談はやめて、ください」


 感じます……妄想癖のある私は、こんな状態をお外に晒すなんて考えるだけでまた、くらくらです。


「別にスカートあればわからないよ、堂々としていればね?」


 やれるだろう? と目が言っています。卑怯ですご主人様、仲良ししたばっかりなのに、こんなすぐ……


 でも、頷きました。我慢させられるのが、どうしても嬉しい私。暗にほのめかされることに絶対服従するのが、嬉しくてたまりませんでした。


 ご主人様の、強い言葉と弱い言葉のコントラストにめろめろです。強制しないところがまた、最高なのです。それこそが最高の強制力を持つと、きっと直感でわかっているのですね。


 水着の上をきちんと結んでもらって、スカートまでは穿かせてもらいます。けれど膝のところにあったショーツは、逆に脱がされてしまうのです。それを最悪自分で履くこともできぬようにご主人様が握り締め、大きな手のひらに隠しました。……いつも穿いているような、ひらひらしたスカートでなくてよかったと、心底思います。これは裾部分はかなりのひらひらですが、水着なのでやはり風ではあまりめくれないのです。けれど、丈はかなり短く、なによりヒップが、ぎりぎり隠れる程度の短さしか、ないのです。歩けばもちろんわずかですが、揺れます。後ろから見れば……ご主人様はどろどろをくださいましたから、流れは緩やかですが早くしないと……後ろから見られるともしかしたら……私の、お尻が……


 というよりもう、遅かったようです。とっくのとうに……私は痴女でした。それはそう、です。起立すれば、重力に逆らえはしないでしょう。漏れたものが……内股を……伝っているのが……丸わかり……ナカダシしていただいたと、丸わかり……それは透明だから、遠くからなら、とはいえ……


 海は許しを、くれませんでした。


 ごくりと喉を鳴らし、今度は自分で開けなさいと甘く囁くご主人様のままに、ナカダシ直後にノーパン状態で真夏の海岸へ一歩、踏み出していきました。幸いにも扉の向こうには誰もおらず、ほっと一息し、気付かれないようにと早足になりますが、ここで声が。


「ゆっくり歩きなさい、風でふわふわして危なっかしいよ、ああでも押さえちゃ、もちろんいけないからね」


 ……低音はいけません。大嘘つきの言うことはきっとわかっていてのもので、私に恥ずかしい思いをさせようとしているに過ぎないのです。


 嬉しい……まさに、ご命令のままに動く、メイドだわ……ゆっくり、ゆっくり、歩いて、スカートを抑えることもできず、目伏せもできず、胸を張って歩かされているのです……ああ、嬉しいなぁ……ご主人様の、見えてないよね、大丈夫だよね……近付かない限り……きょろきょろ、辺り見ちゃう……見られてるかも……視線感じる……どきどきする……恥ずかしい……恥ずかしい……恥ずかしい……私ノーパン、こんな短いので……こんなやらしいの、垂らして……匂いとか……距離も短いのに、早足にさせてくれない……後ろについてきてるご主人様の鬼畜……やっぱりこれ、ひらひらふわふわ……海までの道に男の人、いないけど……女の人がいる……気付かれないかな……後ろ姿を、見られたら……知られたら軽蔑されちゃう……ひそひそ、囁かれたらどうしよう……ああ向こうから、男の人たちが歩いてくる……お願い、こっち来ないで……ああ逆から、子供たちが走って……こっち来ないで、ご主人様、守ってください……輪姦されたくありません……見られたくありません……おかしくなりそう……裸より恥ずかしい……いっそ裸なら覚悟も、決まるのに……おかしくなります……くらくら……


 羞恥と悦楽に、顔が歪みそうになりました。仲良しした後だというのに、また感じる、変態極まりない私。メイドのくせにこうしてノーパンで歩かされるだけで感じているのです。しかしそれは決して、露出の快感ではないのです。ご主人様のご命令に、感じているのです。勘違いしないでくださいね、ご主人様?


 全身に目がついたようでした。あちこちと目が会話をしたような錯覚に陥り、とてもじゃありませんけど早足になることすらできませんでした。誰もこちらを見てなどいないのに、過剰に意識してしまいうまく歩けなかったのです。徐々にあっという間に動き回るご主人様の白いのが、見えていないでと何度も確認しそうになりました。


 けれど。その感覚は……



 気が付くと海に足がついていました。ほっと胸を撫で下ろし、すぐ後ろにいたご主人様とひとまず身体を隠せるところまで。そうして海中が見えないところまで行ってようやく水着を返してもらいました。


「よくできたね、偉いよ」


「……ありがとう、ございます……」


 海で洗い流すのはとても変な感じで、大丈夫か不安になりました。大丈夫だとは思いますけど、それより水着を着けましょう。こんな状態でいたらすぐに壊れてしまいます。


「戻ったらなにか飲みものでも買ってあげるよ、なにがいい?」


「……なんでも、いいです……」


「そっか。今度は私をこき使ってくれ」


 首を振る。「できません、そんなこと。とてもじゃありませんけれど、こんに優しくしてくれるご主人様を使うだなんて」


「優しくないだろう、まったく、君たちの言うことはおかしいよ」


 ご主人様のほうがよっぽどおかしいです。信じられないくらい、優しく苛めてくださったじゃありませんか。あんなに……ああ、思い出すとぼうっとしちゃうな。やめようっと。


 家に帰ったら一人、また悶々としよう。今日のおかげで、思い返して悶絶できます。


 唇をなぞると、鮮烈に蘇ってきますから。


「ご主人様、大好き」


 今度こそ、本当に響く声で言いました。


「ありがとう。私も大好きだよ」


 周囲に人がいないのをいいことに、二人して。


 太陽で輝く笑顔に、いちころです。
















 ……いいなぁ。向こうから良子さんと憲邇さまようやく戻ってきたけど、あれ絶対、いいなぁ……良子さんわざと知らない人みたいにしてるけど、とってもしあわせそう。いいなぁ……


 みゆは、いつかなぁ。早く、じゃないじゃない、早くしないと、お日さまがどこかいっちゃうから、憲邇さまが忘れちゃう。み、みゆ今日ちょっとおなかの調子悪いけど、きっとお昼に食べすぎて、今もすいか食べちゃったから、け、憲邇さまにあったかく、してもらわないといけないもん。こんなにふくらんじゃったし、良子さんとおんなじこと、赤ちゃんできないけど、やらなくっちゃ……


「みゆ、お腹さすって、痛いの?」


「えっ、ち、違うよ、なんでもない」


 ううう、どうしよう、くせになっちゃった……くちびるなぞっちゃうし、おなかさすっちゃう。だってそうすると、憲邇さま思い出せるから。


 あ、あれ、またおトイレ、行きたくなってきたな。ど、どうしてだろ。最近おしっこ多いよね、どうしてかなぁ。すいかかな? おいしいから食べたくって、たくさん食べすぎかも。だからこんなにおなか出ちゃうのに、どうしてか食べたいって思うの。


 だって、ご飯っておいしいから。憲邇さまに教えてもらった。ご飯は、おいしいの。前は味しなかったけど、あれからおいしくってたまらないから。ついつい食べちゃうし、もうちょっとおさえなくちゃ。


「ちょ、ちょっとおトイレ行ってくるね」


「うん。すいかの食べすぎね」


 お母さんに言ってからおトイレに行く。


 憲邇さまがいなくなったとたん、たくさんの男の人たちが話しかけてきて、やっぱりみんな美人さんなんだなぁって思うな。もでるさんの巴さんがこんなとこにいるって、知ってる人が結構多かった。今も二人組の男の人たちが話しかけてきてる(こういうの、くどいてるって言うんだって。よくまゆちゃん知ってるなぁ)。でも、憲邇さまがいるからって断るの。


 みんなそうなの。絵里さんもお母さんも千歳さんも、みんなみーんな、憲邇さまが、恋人が、夫がいるからって、断るの。さ、紗絵子さんだけ、冗談っぽく『不倫もいいかもねぇ』って言ってついてこうとしてたけど。ふりんってなんだろ、うわきのことかなぁ?


 みんな憲邇さまが戻ってくるまで砂浜の上でわいわいしてた。良子さんから話も聞きたいんだって。奈々穂さんと花織ちゃんだけ二人でまたおよぎに行ったけど、体力あるよね、すごいなぁ。パティさんたちの桜園の人たちもあとで行くんだって。すごいなぁ。


 おトイレをすませてく。えっと、髪飾りのお花、大丈夫だよね? うん、へんじゃない。水着もずれてないよね? うん、へんじゃない。……す、スカートの中、へんだけど。


 お母さんの、戻しといたけどよかったのかなぁ? こっそり、海から憲邇さまがお姫さまだっこで運ぶときに戻しといたけど、よかったのかな? 憲邇さま怒んないかな、お母さんのこと。で、でもあのままだと見られちゃうし、お母さんがへんたいさんだって思われるのダメですよね、憲邇さま?


 ……みゆは、思われてもいいけど……憲邇さまの、言うことだから、いつまでも守ってたい。風は今日弱いからいいけど、それでもずっとおさえちゃうくらい、怖い、です、憲邇さま。でも、恥ずかしいけど、戻そうなんて思えません。これから水着のときは絶対スカートで、おんなじことずっとしてなさいって言われても、やりたいって思うの。


 だって……みゆだってあんなしあわせそうに、笑いたいもん。


「ふぅん、良子さんもナンパされたのね。羨ましいわ、私もあと十年若かったらねぇ」


「紗絵子様だって声をかけられたんじゃないんですか?」


「うちの夫がこれだけど、って頬に指で線入れたらね、すぐどっか行っちゃった。向こうは乗り気だったくせにねぇ」


 ? どういうことだろ。ほほななめになぞっただけでどうしてどっか行くのかな?


「……紗絵子さん、結構えぐい断り方しますね。素直に言えばいいじゃないですか、わざわざ夫をやきもきさせるようなこと言わないでも」


 絵里さんは夫がいるからって、ぴしゃりってすぐ断ってた。『私はあの人だけのものなの、ごめんなさいね』って、同じことずっと言ってる。


 ……指輪、見せびらかしてもいいのにな。なんでやらないんだろ。憲邇さまからまだプレゼントしてもらってないからって、せっかく自分でわざと持ってた普通の指輪、薬指にしてるのに。『男の人除けに必要だから』って、みんなの前で聞こえるぐらい大きな声で言って、車の中でしてたっけ。少し、ほほ赤くして。憲邇さまに『いいわよね?』って確認して、『いいよ』って。静香さんは堂々とだけど、絵里さんはどうしてかちょっと隠そうとするの、なんでだろうな。


 みゆもかばんのやつ、つけようかな。どうしようかな……両方、持ってきてあるし、どっちでもつけます、憲邇さま……おっきなやつ、こんなとこでもつけます、憲邇さま……


 まだしないよ、もう少し、って。目で言ってくれる、憲邇さまが好き。


「ふふん、うちの人は半分そんなものよ。怒ると怖いんだから。それにまだ夫じゃないしねぇ、嘘八百並べないと」


「私もつい夫って言っちゃいました。早く結婚したいですけど」


 良子さん……いいなぁ、みんなおんなじ顔してる。早く結婚したいって、いいなぁできる大人の人。


 ほんとじゃなくっていいですから、みゆも結婚式やりたいです。ドレス、あのプレゼントしてもらったの、着たいなぁ……で、でも、デートのときにあれは、その、恥ずかしいですけど。


 
(いずみ)さんはおばあちゃんのためにって、ほんとに結婚式するって、この前メールもらったけど……いいなぁ。みんなの前で堂々とあんなきれいなドレス、着れるんだ。そりゃあおばあちゃんも見たいって思うよね。もうすぐ死んじゃう、じゃないけど、へんになっちゃうんなら、その前に見たいって、なっとくしちゃった。……泉さん、どんなのだろ。おいろなおしとか、するのかな。見たいなぁ……泉さんはオレンジとか、レモンみたいな色の人だから、そんなのがいいと思うなぁ。お母さんは桜色だし、良子さんはクリーム色でしょ、静香さんはぴんくだし、まゆちゃんは赤色で、詩音おね、詩音さんはみずいろ。みんなそれぞれの色があるの。


 憲邇さまは海の色なの。深くてきれいで、広い海の色。すんでて、吸いこまれそうなくらい、きれいなの。


「へー、結婚とか考えてるんですね。やっぱ学生とは違うのかなぁ」


「光もそうだけど、あたしたちって暗いビジョンを結構見てるから、結婚までしたいとは思えないんですよね。そこまで好きっていう相手も、出てくるとは思えなくて」


 千歳さんの同級生さんたちはみゆたちが結婚とか、夫とかって口にするとすごく感心ばっかりして、そんなことよく考えますねって顔、する。結婚したいなんて思わない、っていう人がいるなんて、みゆには信じられなかった。


「逆ですよ。暗いビジョンがあるから結婚したいって思うんです。披露宴までしなくていいから、二人で手を取り合って協力して生きていこうって、考えるんです。半分は現実的なことも視野に入れてるんですよ? 相手の人を好きだって言うのもありますし、それが一番大きいです。けど、二人協力したほうがこの不況を乗り切りやすいっていうのがあるのも、事実ですしね」


「へー、信じられませんよ、一人暮らしのほうが生活楽じゃないんですか?」


「意外と食費とかは多いほうが節約できますよ。それになにより、張り合いが違います。頑張ろうってとてもとても思えるんですよ? 気力の差は大きいです。やる気がないと本当になにもできませんでしたし、私は」


「そうよー? 私みたいな年寄りにはやる気があってもダメだけど、でもね、あるといいものよ? 一人より二人、二人より三人、文殊の知恵なんて言うし、多いほうがいいのは事実なんだから」


「はぁ……あの、あなたお年寄りじゃ、ありませんよね?」


「こう見えても四十よ、ありがとう」


「ええっ? マジ? 嘘、見えねー……」


「すごーい、美容の秘訣教えてくださいよ、あたしたちも千歳ちゃんみたくなりたいんです」


「うちの人と愛し合うことね、これに尽きるわ。ここだけの話、セックスが一番美容にいいわよ」


「マジスか、うわー、彼氏ほしー」


 なんだろ、なに言ってるのかな、こしょこしょないしょばなし。


「ちょっと紗絵子さん、娘の前で変な話やめてもらえますか」


「あら絵里さんこそ、今の夫にずいぶん若返らせてもらったそうじゃない?」


「うちの旦那は面食いだから張り切らないと機嫌悪いんです。お化粧をもう一度やってるだけで、若返ったわけじゃ」


「えー? お父さんめんくいかなぁ? 『すっぴんが一番かわいいよ、絵里』って、あまーく言ってた気がすっけど」


 言ってたっけ。言ってそう、絵里さんになら。


「まゆは黙ってなさい」


「ああ、男ってなんかすっぴん好きですよね」


「見たがりますよね」ちらり、良子さん憲邇さま見た。そっか、良子さんあんましお化粧しないのそれでなんだ。


「なんでだろうね。あたしたちは割と男が着飾るのも好きなんだけどね」


「そうそう、スーツはいいよね、単に髪形整えてくれるだけでもだいぶ違うしさ」


「ああわかります。でも男の人で眉を整えてるのはちょっと気持ち悪いですね」


 あたし? ってまゆちゃんが首かしげてる。良子さんが違うよって。あっちの眉だ。良子さんって、結構眉いっぱいありますよね、静香さんは細いけど、こっちはこっちで、お化粧上手だから似合うのかなぁ。あれ? お化粧してないんだっけ? わかんなくなっちゃった。


「あれほんっとやめてほしいんだけど。気持ち悪いのよね」


「男のくせにとか言わないけどさ、似合ってないだけなのよねー。似合うはずないのよ、男が女みたいな綺麗な眉してたところでさ。似合ってるならいいの、そういう人もいるけどさー。うちの野球部は壊滅だね、ああ気持ち悪い」


「見たことないけど、見たくもないわねぇ。私はね、個人的にお祭りのときの男の人って大好きよ。格好もやることも、かけ声とかもう、最高ね! 神輿を担ぐ男性のたくましさといったら、見惚れるしかないわ……」


「わかります! 汗臭い男が嫌いな女なんていませんよ!」


 良子さん……そうかなぁ。みゆは子供だからよくわかんないや。


「あー、そこまでじゃないですけど、体育祭の男子って、なんか、いいよね」


「あー、そうね、そうかも。静香さんもそんな気しません?」


「言われてみるとそうかも。千歳さんは」


「あーあーダメダメ、うちの子は箱入りだから、そんなのわかっちゃいけないの」


 がっしり光さんだっけ、千歳さんを抱きかかえてる。「箱入りじゃないったら」


「いやー箱入りっしょー? 巴さんもそう思いますよね?」


「思う思う。千歳さんは世間知らずと言っていいわ。白馬の王子様を未だに信じてそう」


 でもでも、巴さんはお姫さまです。きっとだれより、一番ドレスが似合います。


「さすがにそこまでじゃあ……あ、でも私の好きな人は私にとっておうじさ」


「はいはいはいはい、めでたいですねー。千歳ちゃん? いい加減にしといたほうがいいよ? そろそろぶん殴られても文句が言えないレベルだから」


「どうして?」


「……静香さんはわかってくれますよね?」


「ええ、とってもよくわかります」


 なんだろ、みゆにはよくわかんない。憲邇さまは王子さまだし。


「私もそれなりに千歳さんとはお付き合いがありますけど、箱入り娘と呼ぶに相応しい人だと思います」


「良子ちゃんも相当だけど、千歳さんすごいですよね、本当に高校生ですか?」


「え、あ、はい」


「見えませんよ、そこがいいところですし、多分、悪いところでもあるんですね」


「そうそう、千歳さんはね、危なっかしいのよ。彼氏とお友達に助けてもらわないと、そこのバカみたいな男にころっと騙されそうで」


「お母さん、憲邇さんバカじゃないでしょっ。もう、ほっとくとすぐそーゆーこと言うんだから」


 言いながらまゆちゃんひざに乗っかった。まゆちゃんどうしてあんなに簡単に、みんなの前でくっつけるんだろ。どうしたらああなれるのかなぁ。


「いやぁ、私はバカな男だよ。いつまでたっても彼女には頭が上がらないし、それもいいかななんて思ってるんだから」


「えー? そうかな、憲邇さんの彼女さんのがたじたじじゃない?」


 そうです、たじたじです。あ、みんな言ってる。


「そうかな、そんなことないよ」


「へぇ、どんな人なんですか? ここにいる人じゃないんでしょ?」


 光さんはやっぱり、れんあいにきょうみしんしんだなぁ。やっぱり女の子って、恋って、好きだよね。


「あんね、いっつもこうして、後ろからぎゅううってされてめろめろになってんの」


「そ、そうかな? 普通の人ですよ。強くて美しくて、それでかわいいんです」


「うーん、いまいち伝わりませんね、面白くないです」


「ねぇねぇ、あたしにも後ろからぎゅうって、して?」


「こう?」


 あ、あ、いいないいなぁ。うう、みゆも、みゆも乗っかりたい……憲邇さまが後ろからぎゅって、抱きしめてくれるの、みんな大好きなのに。「えーっと、家事が得意なんです。家庭的で、それからいつもしっかりしていて、なにかあると助けられているんです」


「へへ……ん……ふふ……」


「やっぱり勝気で男勝りな人なんだ? ぴったりお似合いなんですね」


「あたしもそんな気した」


「ね、次首がいい、首にこう、ぐるってして?」


「うん。そうですね、言われるとそうかもしれません。でもかわいいところがいっぱいなんですよ、仕事帰りに会うと、笑顔に癒されて疲れが飛んでくんです」


「……この人も割とメルヘンね……つか、あの……? みなさん? 子供がされてる、だけなのに……」


「……」


 絵里さんがしてもらってた、やつ。いいなぁ。いいなぁ。二人きりのときは結構、してもらったけど、みんなの前でするの、いいなぁ。自分の手をそえて、ほんわりになるの。みんな、見ちゃうの。みとれちゃう、の……


「本当ですよ。会うだけで違います。会えるだけでそれはそれは幸せなんです。私はきっと遠距離恋愛はできないでしょうね」


「……はぁ……」


「……」


「……」


「……」


「あの、みなさん?」


「……」


「……」


「……」


 うらやましい、から、みんなちょっとずつ、憲邇さまに近づいて、る。次は自分、やりたいですって、目がみんな、言ってる。


 憲邇さまのおうちや、二人きりとは、違うんです。みんなの前は、特別なんです、憲邇さま。みんなの前で、恋人になれるのは、それはそれはしあわせなんです、憲邇さま。みんなの前でのキスは、それはそれは……


 絵、みたい。どこかに飾ってある、きれいな絵、みたい。憲邇さまはだれにしても、絵みたいにきれいに、見える。みゆたちみたいな子供でも、お母さんみたいな大人でも。絵みたいに、見えてくるの……


 まゆちゃんが本当にふんわり、ほほえんでるから。目を閉じて、天使みたいに。


「憲邇さん……ね、キス、しよ……」


 振り返りながら上、向いて。目を閉じたまま、くちびるを、上げるの。困った顔した憲邇さまは、でも、そっと……


 やっぱりそこだけ、見れなかった。恥ずかしい、もん。


 ……憲邇さまにだけ、見えるとこで、スカートめくったらして、くれ……あああ、ううう、そんなのダメだよ、いんらんっ。そ、それに、スカートめくりなさいは、憲邇さまに言われたいしじゃないじゃないっ、違う、違うの。もう、どうしてこんなになっちゃったのかなぁ、うう、憲邇さまにちょうきょうされたからだよね。みんなもおんなじだよね? ほ、ほら、目そらしてる。千歳さんのクラスメイトたちが不思議がってるから。


「ん……んっ、ん……ん……あん、もっとぉ……へへ、ん……んっ……はぁ……」


「……」


「……」


「……」


「んっ……ありがと、憲邇さん……好き……」


「私も好きだよ」


「うん、もうちょっと、強く……うん、はぁ……」


「……」


「……」


「……」


 気がつくと指が、くちびると首。おんなじことしたくてたまんない。首にほしい、憲邇さまのうでや、あの、かっちりしたの。


 ずるいな、良子さんだけ、おんなじみたいなふんわり、ほほえんでる。さっきやってもらったからだ。きっとそうだ。


「……あんがと。もういいよ」


「そう? それは残念だ」


「へへへ……」


 ……憲邇さま絶対くせだよ、なでなでするの。絶対だ。ひざの上に女の子いたらだれでもしてるもん。
春花(はるか)さんにもしてた。おんなったらしっ。


「マセガキねっ。絵里さん一体どういう教育してるのかしらっ」


 紗絵子さんもうらやましそう。


「だ、旦那に言ってやってくださいっ」絵里さんも。


「いやーでも子供はあれくらいでちょうどいいかわいさだね。それより後ろから抱きすくめられるのって、まあ、いいよね」


 自分でやるまねする、光さんもちょっぴしにやにや。


「あれに憧れない女はいないわよ。みんな好き。あたしもね」


 巴さんもやっぱしだ。みんなもうんうんって、頷いてる。


「あー彼氏ほしーっ!」


「光、じたばたしない」


「じゃあみなさんに聞きますけどっ、どうやって彼氏作ったんですかっ?」


「私は職場になりますかね」良子さん。


「良子ちゃん伝、かな。同級生の友達を紹介してもらって」愛さん。


「私くらいになるとお付き合いがあるのよ。長くお付き合いをしてくとね、芽生えるものがあるの」紗絵子さん。


「わたしは昔の恋人とよりを戻したの。昔も昔の、小学校のときだから、そのときは普通に告白して」お母さん。


「あたしは病院で知り合いました。お医者さんですからね」静香さん。


「私は前に話したよね? あの人」千歳さん。


「あたしの彼もまあ、前からの人よ。二年前に居酒屋で出会ったときに口説かれたの」巴さん。


「私はちょっと色々あってね。知り合ったのはまゆからだから。最初にまゆが仲良くなってね、この人なら父親でもいいよって、ね?」


「ふぅん、あたしのせいにするんだ?」


「そりゃあ、その、初めて見たときもカッコいいなぁとは、ちらっと思ったかしら? でも最初に仲良くなったのはまゆだし、お付き合いしてくうちに好きになったのも本当よ」


 絵里さんはほんとにいろいろあったなぁ。ちょっぴり大変だったかも。


 ぜーんぶ、憲邇さまのことだけど。みんなごまかすの上手だなぁ。


「出会いは様々ですねぇ、ううむ。じゃあじゃあ、告白は? どうやって恋人同士にもっていきました?」


「……」


「雰囲気でなったりとかも、やっぱりあるんですか?」


「……向こうから、ねぇ? 告白してくれたわよねぇ?」紗絵子さん、嘘ついてる。


「そうそう、旦那のほうから言い寄ってきたわ」あー、絵里さんもだ。「ねえまゆ?」


「そだね、お父さんお母さんに骨抜きだからすぐいちゃいちゃしに来たよね」


「あたしもよ。彼は積極的だったわぁ」巴さん。「私もほんの数ヶ月で押し倒されかけましたね」良子さん。「私なんか出会ってすぐだよ、ひとめぼれなんだって」ああ愛さんも。「あたしもあの人は、いい雰囲気にこっちでもっていって、それから押し倒されましたね」静香さん。「わたしも帰郷した途端よりを戻さないかって、懐かしむより先に成長したわたしに言い寄ってきたわ」お母さんまでっ。


「私は自分から告白したよ。勇気をもらったから」


 ……千歳さんだけ、にっこりほんとのこと言ってた。やっぱり、よくわかんないけどはこいりな気がする。


 みーんな、憲邇さまのことなのに。嘘つくのも上手だなぁ。全部憲邇さまに自分から言ったのに。憲邇さまにっこにこだからいいんだろうけど。


「……まったく参考にならないわね……」


「光も認めたら? 黙ってればかわいいっていう、男子の現実を」


「うっ……でもねぇ、猫被ってまで男ほしくはないのよ、そこまで落ちぶれてないわっ」


「ねこかぶる?」


「みゆにはあとで教えるわ」


 なんだろ。ねこさんかぶると、落ちちゃうと思うけど。


「みなさんだって『自分』を好きになってもらったんでしょ? 『相手』を好きになったんでしょ? あたしだってそれがいいに決まってるんですっ。作りものや紛いものの恋に意味なんてありませんっ」


 うんうんしてるけど、みゆにはよくわかんなかった。


「ああ、それはあなたの周りにいる男がいけないんですね、間違いないです。私も高校の時分はバカ丸出しでしたから、大目に見てやってください」


「……あのー、あの人って、あれが、素?」


「そだよ。憲邇さんいっつもこんなこと言うの。バカだねっ」


「うわ、いるんだ、天然のタラシ……」


「え、いえいえ、身に覚えがあるからわかるんですよ。高校の頃は恋愛に夢を追っていましたから。相手もなるべく理想をって、自分が好きなのと、他の男友達が羨む相手にしよう、なんていうのは。所謂高嶺の花ばかり見てるんですね」


 そうなんだ。知らなかった。


「へぇ、そうなんですか。そっちのが参考になるぞ」


「要は同学の男子はバカと、そう思っていいんですか?」


「まあ、ありていに言うと。成長した今ならわかるんです、もうざくっと、学生の男は同学年の女子に比べて子供過ぎる、っていうのは、もう断言していいです。私は今も変わってないですけどね」


 そうなんだ。知らなかった。


「憲邇くん、誤解を招くようなこと自信たっぷりに言うのは火傷の元よ」


「そう、ですか? 少なくとも私の周りはみんなそうでしたよ。大人になって再会すると、笑い話の種になってますし」


「へぇ……女にも少なからず、あるけどねぇ」


「あるわねぇ。わたしも昔は魔法少女に憧れてたっけ」


 お母さん……み、みゆも、日曜日の朝のやつはね、観れるときは観てるよ? なりたいなぁって、思うときはあるから。


「ああ、誰もが通る道ですね」良子さんもだ。よかったぁ。


「でも良子ちゃん今でも同じような格好し」


「してませんっ! お仕事はきちんと割烹着ですっ」


「あらあら、隠すことないじゃない。家政婦の求人募集に応じたらメイドの格好させられたって」


「うお、マジ? それで出会いが職場、と」


「……そこだけなんです、私の彼氏様のいけないところは……他はいい人なんですよ? お勤めしていて本当に素敵な方だなと。そこだけなんです」


 ……大嘘つき。逆なのに。


「仕方ないわよ、男の子のコスプレ好きは今に始まったことじゃないわ。亡くなったうちの人もね、バニーガールの衣装が大好きだったから着せられたのよ。ああ恥ずかしかった」


 ばにーがーる? お母さんに聞こうとするとなんでかまっかっかで「あとにしなさい」ってぷいってなった。どうしたんだろ?


「まあ、メイドくらいならいいよね。実際かわいいし」


「それくらいはね。……巴さんの、ちょっと見てみたいかも」


「そう? ああいうのはあたしは、逆に恥ずかしいかな。際どい衣装なんて散々着たけど、ああいうのは、その、方向性が違うでしょ? 彼がどうしてもって言うまでは、やりたくないかなぁ」


 ちらちら、憲邇さま見てる。良子さんとおんなじ格好しなさいって言われたら簡単にしそう。


「でもあたしも見てみたいです。巴さんだとどうなるのか知りたいんです」


「そ、そう? じゃ、じゃあやるなら、みんなでやりましょうよ、ねぇ? みんなでやれば怖くないわ」


「そうですね、私もかんせ」


「千歳さん! そういうの借りれるところがあるんです、みんなで選びましょうか!」


「? うん、そうだね……?」


 なんだろ、静香さん急に大きな声で。また千歳さん大変なこと言おうとしたのかな?


「絵里さんもしてくださいよ? お願いしますね」


「えっ、ちょっと無茶を言うもんじゃないわ。私いくつだと思ってるのよ、できるわけ」


「旦那さんにあたしのほうからお願いしときます。それなら断れないでしょ?」


「なっ、そ、そこまでするの?」


「そうです、こうなったら全員道連れですっ。全員でやって、全員で恥ずかしい思いして、二度とやりたくなくなればいいんですっ」


「ふぅん? 巴さんって恥ずかしがりやだね。ね、憲邇さんあたしもやるから、かわいかったらほめてよね? だっこがいいなぁ」


「うん、もちろん」


「みゆちゃんもだよ、いい?」


「う、うん……」


 憲邇さま、み、みゆは、めいど服も、む、胸が見えちゃうのも、なんでも、着ます、から……


 あのドレスで結婚式、させてくださいね?


「さて、じゃあ決まったところでまたぞろ泳いできましょうか! メイスン、ボートを膨らませなさい、全部よ、早く!」


「かしこまりました」


「あっ、みゆもやりますっ」


「みゆちゃんにはさせられないよ、あ、いいのに」


 無理矢理憲邇さまからボートをとって、空気を入れる道具をつけよう、としたけどどうしたらいいかわかんなくって、ダメだった。ううう、憲邇さまのお手伝い、なんでもいいからたくさんやりたいのになぁ。


「ほら、貸して? ありがとう、一緒にやろうか」


「はい」


 えへへ、やっぱり憲邇さまやさしいなぁ。うれしいなぁ。楽しいなぁ。


「きちんとできてる? そっと見せてご覧」


「……はぃ……」


 ぼそっと、ささやいてくれる憲邇さまが大好き。


 みんながわいわい話してて、みゆたちのことは見てないのをちゃんと確認してから、憲邇さまだけに見えるようにスカートを、ぺろんって、した。


 にっこり笑う、広い広い海にとかされそう。


 みゆおかしいの。さ、最近、憲邇さまに、み、み、見られるの、うれしいのは前からだけど、おかしいよね、き、き、き、き……


「ありがとう。ほらみゆちゃん、これ踏んでみて」


「は、はいっ」


 あわてて戻して、でもスカートの中はずれてて、みゆの女の子が出てるままで、足を動かしてく。け、結構恥ずかしいな、このまま動くのって、海の中じゃないと……


 すぐ後ろに立ってる憲邇さまの温度を感じて、熱くってなかった。つかれちゃったあと、憲邇さまがしてるときも、そっと、つまめるとこなかったから、よりそっちゃった。


 好きです憲邇さま。は、早く、早く……待ってるのも楽しいですけど、じ、じれちゃって……


 一息ついた憲邇さまに、勝手に体が、抱きついちゃってた。


「……あぅ……」


 またふわふわ、憲邇さまがなでなでしてくれるからいけないんです、ううう……ああ、気持ちいいなぁ……目閉じたくなる……すりすり、したくなる……


 憲邇さま大好き。好き好き好き……好き。
















 水平線は、綺麗。


 白い紙の上に広げたわたしのものと本物は、大違いだった。


 海を、描いてみた。とても広くて、綺麗で、深くて……憲先生みたいで、思わず描いてしまった。ちょっと疲れたのもあるけど。


 ……やっぱり、本物と一緒だ。憲先生は、海の色。あの黒い澄んだ瞳は、海なんだ。


 試しに、っていうか海を描くのにどうも黒の鉛筆だけじゃ無理と思って、色鉛筆で色、つけてみたけど、これはこれで難しいな。昨日憲先生の机を描くときも色があるといいなって思ったから持ってきといてよかったけど、色をつけるって難しい。


 まだまだ、もっと、海は綺麗だから。


「すす、すごいです、詩音さん、絵が上手」


「そ、そんなことない」


「いえ、いいえ、上手です、綺麗です。綺麗な色……そ、それとこれ、どうしてか、ます、
深町(ふかまち)先生の瞳に、似てますね」


「そうですわ、深町さまにそっくりですの」


「ううう……やめてください……」


 綺麗じゃない、のに。こんなのただ明るい色を散らしただけなのに。に、似せたつもりもない、のに。パティちゃんも花雪さんも、憲先生がうつってる。ほめすぎなの。


「詩音さん。最初から自分の描く絵にダメだなどと、思わないでくださいな。大丈夫です。私のような素人に美術館の絵はわかりません。それよりも詩音さんの描く、暖かく素朴な味わいのある絵のほうが好きなのですわ」


「そうです。正直、絵のうまいへたはわかりません。いいなって思うか、そうでないかです。いいなって思いました」


「……で、でも、美術館の絵は、じ、実際、綺麗だったし、ゎ、わたしはただ、描いてるだけで……」


 昨日試しにって美術館へ行ったら、驚いたから。綺麗で、引き込まれて、感動、して。
早川(はやかわ)(いさお)さんの言うように、伝わってくるものがたくさんあって、倒れそうになったから。わたしのように生きたいと思うのがたくさん、憎い、悲しい、苦しい、楽しい、しあわせ……いっぱい、伝わってきた、から。


 ああいうのじゃ、ないと思う。これはただの、風景を切り取っただけの、絵はがきだ。こんな絵を見て涙する人は、絶対いない。一応あれを見て、色をつけるのもいいなって、思ったからやってみてるけど。


「まあ、綺麗とわかるのですね、それはすごいですわ。私はお母さまに連れられたことが多々ありましたけど、一つもわかりませんでしたのに」


「そそ、そうです、わかるならすごいんです。大丈夫です、詩音さん。大丈夫です」


「……ぁりがとう」


 なにが大丈夫なのか、よくわからないけど。なんとなくパティちゃんの言いたいことがわかって、お礼を言うのに俯いてしまう。


 温かいお友達も、大好き。


「ああ、あの、で、できたらですね、その、わた、私の、似顔絵といいますか、それを描いて、ほしいんですけど……」


 指をいじいじ、くるくるさせながら、照れくさそうにパティちゃんが言う。「うん、喜んで」きっと憲先生に、見せるんだ。


「あ、ありがとうございます。へへ……あ、そ、それ終わってからでいいですから」


「まあ、綺麗に描かないといけませんわよ? これは大変ですわね」


「うん。パティちゃんはかわいいから、綺麗にできるかなぁ」


「かっ、かわいくないですっ。で、でもっ、絵は綺麗にしてくださいっ」


「ふふふ、はい、がんばるね」


 照れてまっかになるパティちゃんに、二人してにっこりほほえんだ。年下の女の子は自分もなにか被るものがほしそうだったから、わたしの麦藁帽子を貸すとすぐさま深く被って、ずっといじいじと指をいじってた。かわいい。


 ちらりと憲先生のほうを見ると、ボートを膨らまそうとしてる、フリして……みゆちゃんの水着がどうなってるか、知らないけど、下が気になる憲先生のろりこんは、みゆちゃんのスカートをめくらせてた。ここからでもそれがわかって、変態さんがとっても楽しそうだったけどすぐ目を戻して、海を描くのに集中していった。


 すけべ……ゎ、わたしにきたら、どうしよう……裸にされるのかな……パレオめくりなさいも、いっそ外しなさいより、恥ずかしいよね……腕、一応隠してるけど……


 強い風が一陣、わたしの髪をぐわんぐわん揺らし、わたしの心まで揺らしてった。
















































































 第三十九話あとがき的戯言




 
三日月(みかづき)まるる、以下作者「誰しもが通る道などありません。通らない人もいます。一応、言っておきますね」


 葛西良子、以下良子「いいえ絶対っ、誰しもが通ってますっ」


 
眞鍋(まなべ)みゆ、以下みゆ「そ、そうですっ。みんな観てますからっ」


 作者「こんばんは、三日月です。このたびは「ごめんなさい」第三十九話を読了くださりましてありがとうございます。今回はまたまたこの二人、露出狂にお越しいただきました」


 良子「こんばんは、良子です。ちょっと聞き捨てなりませんね」


 みゆ「こ、こんばんは、みゆです。ろしゅつきょうって、なんですか?」


 作者「えー、三十九話で節目なのですけれど、今回はこの形で。何話が節目などは完全に作者の好みですし、また節目のお話のときは真面目に一人でやります。それと先ほどの言葉に異論は許しません」


 良子「なんですってっ? いいですか、あれはご主人様がご命令してくださるからなだけで、ねぇみゆちゃん?」


 みゆ「あ、あれですか。は、はい、憲邇さまが言ってくれるからできるだけです。それだけです」


 作者「そのような言い訳は通じませんよ? 楽しいくせに、男は狼、女は嘘つきですからね」


 良子「引っぱたきますよっ」


 作者「冗談はさておき、私は次に海の家へ突撃してきますね、それではっ」


 良子「……言いたいだけ言って逃げましたね。ふんだ」


 みゆ「……りょ、良子さんは、ステッキ、買いました?」


 良子「えーっと、はい、買っちゃってました。後は衣装も買ってましたね、変身したやつ」


 みゆ「い、いいですよね、あれ。かわいいし、ドレスみたいだし」


 良子「ご主人様は普通のプレゼントばっかりで、ああいうのも欲しいんだ?」


 みゆ「は、はい。お父さんだから、いつかしてくれないかなって、ね、ねだろうかなって、えへへ」


 良子「しときましょうしときましょう。その髪飾りもご主人様でしょうけど、子供らしいのも必要ですよ」


 みゆ「はい。け、憲邇さまには、なにあげようか迷ってるんです。と、時計があるといいなって思うんですけど、あの、うで時計」


 良子「ああいいですねぇ。お小遣い貯まったら一緒に見繕いましょうね」


 みゆ「みつくろう?」


 良子「ごめんごめん、選ぼうねってこと」


 みゆ「はい。でも憲邇さまがおしゃれさんになって、もっとカッコよくなるともてすぎちゃって大変かなぁ」


 良子「……親バカならぬ子バカですね。でもまあ、そのとおりです。そこそこのにしときましょうね。それじゃあ今回はこの辺で。さようなら」


 みゆ「さ、さようなら」




 
20100312 三日月まるる





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2010/06/27 17:40 | 小説COMMENT(0)TRACKBACK(0)  TOP

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