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「ごめんなさい」その四十三_第四十二話_理想の下着は裸って、きっと彼は言うバカ

 珍しくこんな時間にこんにちは、三日月です。
 暑いと言ったら千円な、と、不条理な貯金が始まる季節になりました。というわけで海編は終わり、温泉旅館編に突入します。後で目次のほうでこのお話からこっちはなに編、というのを足しておこうかと思います。多分。しばらく、かなり後で。
 拍手ありがとうございます。いつも励みとなっております。
 それでは第四十二話です、どうぞ。




















 四十二 理想の下着は裸って、きっと彼は言うバカ








 海の浅瀬で作戦会議。
花雪(かゆき)さんと二人でぱしゃぱしゃしつつ。せっかく海に初めて来たから、もう少し海と触れ合いたいとも思ったし。な、なにしろ、海は憲先生だから。


 こんなにも広く、わたしを包んでくれる。……いつか、
絵里(えり)さんみたいに反対ができるかな。できるように、なりたいな。


「そ、それでどうして
詩音(ふみね)さんはご遠慮なさりましたの?」


 ひそひそ声。一応ね。「そりゃぁ、その、やっぱりまだ、早いって。ゎ、わたしはまだ、その、少ないし」


「やっぱりそうですわよね。
(めぐみ)さんはおかしいですの。……い、いっそ深町(ふかまち)さまが押し通してくださると諦めもつくといいますか、その、応じないとと思いますものね」


「そ、そうだよね」


 あんな風にやりたい人を募るのはずるいよね。ううう、わざとやってて、わたしたちに恥ずかしい思いさせようっていう憲先生の魂胆だろうけど、困るなぁ。


 やりたがりの
良子(りょうこ)さんが断ったのはきっと絶対、さっきやってきたから。そうとしか思えない。あんなにやらしいメイドさんなんだから、きっとそう。


 それ以外の人たちは多分、えっちな写真を外で撮れたからいいって、思ってるんだ。きっとそうだ。わ、わたしも若干、そんな感じだし。あああ、思い出したらまたかあってなっちゃう。よしとこう。そ、それよりわたしは、描いてほしいなぁ。じっくりじっくり、何十分も何時間も見て、ほしいなぁ。見つめてほしいなぁ。そうしているだけで、時の経過を忘れるから。


「でも……意外でしたわ。まさか絵里さんが自ら、名乗りでるだなんて」


「う、うん。なにかあったのかな。やっぱり謹慎はつらかったのかな」


「謹慎生活を送っていますと、圧迫感を感じるのはわかりますの。抑圧されるといいますか、経験も少し、直でも見ましたし。ですから我慢できなくなってというのもわからなくはないですわ。でもやっぱり、意外ですの。絵里さんらしくありませんわ」


「そ、そうだよね、なんでだろ……わたしたちが少し、ずるいとか、うらやましいとか、言ったせいかな」


「言いすぎたかもしれませんわね。いびりすぎかもしれません。その役目は姑の
紗絵子(さえこ)さまにお任せして、私たちは控えましょうか」


「うん。絵里さんが綺麗なくせにかわいくて、お似合いの新妻なのはどうしようもないものね。ゎ、わたしたちだってそうなりたくて、いっぱいがんばってるんだから」


 ただ一番があの人だっていう、だけのこと。


「この前のこともありますし、あまり妾どもでいがみ合うのもよくありませんものね。正直、私自身とっても現金ですの。ほかの方を憎く思う気持ちもあるのですが、深町さまと、その、いちゃいちゃをするといいますか、今朝の食事のときはそんなことどこかへ飛びますの。そうしてあの方との触れ合いがなくなった途端、今触れ合っている方を憎らしく思いますの。我ながら恥ずかしくなりますわ、子供すぎますの」


「う、うん。大人はそういうのなさそうだよね。は、
春花(はるか)さんとか絶対ないよね」


「ええありませんわ。お母さまはお嬢さまでおかしいですの。年齢詐称していますわ、私を二十五で産んだなどと、大嘘もいいところですの。きっと姉ですわ、そうに違いありません」


「う、うん。言われても納得しちゃうよね、あの人なら」


「前々から思っていましたけれど、紗絵子さまと一つ違いというのはありえませんの。十は違いますわ、絵里さんより年下です」


「……ふふ、お母さん自慢なんだ?」


「えっ、い、いえ、そういうわけでは……に、憎らしいだけですのっ」


 自慢なんだ。ふふ、家族が仲良しさんだ。いいね、すっごくいいよ。


「大体ですね、お母さまがあのにっくきカップ数になったのは中等部の終わり頃と申されていたのに、いっこうに娘である私に片鱗が表れないのはどういう了見なのでしょう? 本当に私はあの遺伝子を受け継いでいるのか不安です」


「え、む、胸の大きさって遺伝なの?」


「遺伝ですわ、おばあさまも若かりし頃の白黒写真は、それはそれは巨乳でしたもの」


「そ、そうなんだ、ふぅん……」


 わたしは、控え目だけどちょうどいいくらいかなぁ。ふふ、それで充分かな、へへ。


「教師に尋ねても個人差個人差としか答えないのです。一概に言えないとそればっかり。私は早く抱きついたりおんぶで押しつけてやりたいのです。腕を組んだときにはっきりとわかるくらいになりたいのですわ」


「あ、ぅ、うん、憧れるよね、えへへ……み、見るたんびにいいなぁって、なるよね」


「……はい……うふふ」


 ぺたんこはみんなそうだよね。やってみたいなぁって、思っちゃうよね。


 そうしてわたしを、女だと意識してほしい。女ですと教えたい。抱く価値は少しだけどありますって、教えて、抱いてもらいたい。


 抱いてあげたい。最終的には。


「そっか、お母さんが腕組んでるとこ今まで見てきてるからなんだね」


「はい。それはもう見せつけられましたわ。ふんっ、私は同じくらい抱きついてやりましたけどねっ。お母さまは意気地なしですの」


 水しぶきが高くなる。よっぽど不満がたまってるんだなぁ。あのときもやっぱり、お母さんに悔しいって気持ち、いっぱい感じたけど。昔に憲先生のことでケンカしたくらいだから相当なんだろうなぁ。親子で男の人の取り合い……女ったらし。


 女ったらしなのに、春花さんみたいに意気地なし、じゃないけど、奥手だと襲ってくれない、変な女ったらしの憲先生。今みたいにこっちからこっちからって言わせて、やりたい人を募ったりするのにどうしてあんな女ったらしなんだろ。あ、戻ってきた。……絵里さん、この前は胸張って戻ってきたのに、今日俯いてる。どうしたんだろ。ほかの二人はまっすぐなのに。や、やっぱり外は恥ずかしいよね。憲先生のベッドがいいよね、大好きな男の人の匂いのあるとこ、一番だよね。


 あ、
(ともえ)さんが近寄ってる。……なにか話してまた、手を握った。多分どうしたのって、憲先生言ってる。あ、離した。ほんとにどうしたんだろ。ま、まあせっかくだし。「そろそろ戻ろっか?」


「ええ、戻りましょう」


 ざぶざぶと波をかき分けていく。……ふぅん、紗絵子さんの言うことはきっとほんとだな。愛さんの顔、色っぽくなってる気がする。
静香(しずか)さんますますピンクだ。絵里さんは……まだ俯いてるからわかんない。


 なにより憲先生、ますます綺麗に見える。あれ、それって男の人にもなのかな?


「でもみゆちゃん、あたしに来なかったじゃない、バーカ」


 近くに来ると巴さんは明るくとげとげしてたから、ちょっと安心。


「来て欲しかったんですか?」


「ううん、来てたらぶん殴ってた」


「じゃあどうして」


「来ないとムカつくのよ、わかりなさいっ」


「無茶言わないでくださいよ……あれ、
葛西(かさい)さんは?」


「そういえばいないわね。みゆ知ってる?」


「ううん。愛さんと一緒に行ってましたけど」


「ああ、良子ちゃんはなにか買ってくるって。おみやげじゃないでしょうか」


 おみやげ。……今日ももう終わりなんだ。残念だなぁ。楽しい時間ってどうして、早くなくなっちゃうんだろ。


「そうですわ、お母さまにおみやげを買っていきませんと」


「ママがお仕事って大変だよね。あたし一緒に選ぶよ、一応、うちのママにも買っておかなきゃ」


「……」


 わたし、わたしは、どうしよう。こんなに楽しんできたのに、家族になにも……今日の思い出を、分けないだなんて。


「詩音ちゃんもなにか買っていこっか? わたしがいろいろ勧めるわ、今日の記念写真でもいいけど、やっぱりなにかほしいものね?」


「……はぃ……」


 やっぱりこの人、憲先生のお姉ちゃんだ……似てる……やさしく……ぐいぐい、引っ張れる、大人の……


 お母さん。


「お母さん、みゆもほしいな。おこづかい下ろしてきたから、いいの買いたい」


「そう? そうね、みゆの初めての海だものね。じゃあいいの選びましょう、ふふ。ちょっと
憲邇(けんじ)、カメラ寄越しなさい、どこ?」


「えっと、確かこの辺に……あれ、ないな」


「……そこ、その鞄、よ……」


 絵里さん、声すっごく元気ない。弱々しいの珍しいですね。


「ありがと絵里さん。さて、じゃあみゆ、こっち見て」


「さっきとったよぅ……」


「違うのよ、これ動画を録画もできるから、メモリもバッテリーも、ああちょっとしかないわね、みゆ、一言でいいから今日の感想をちょうだい、ほら、三、二、一!」


「楽しかった、とっても」


 ふんわりにっこり、最高の笑顔だ。頭の上の花も、みずみずしく輝いてる。かわいい女の子。うぅん、やっぱりみゆちゃん、妙なお色気、感じるなぁ。女の子らしい、らしすぎてうらやましい。


「そっか、よかったわね。じゃあはい、詩音ちゃんも」


「……た、楽しかったです、とっても……」


 急にこっちに向いたカメラに俯きかけて、でもって、少しだけそっちを向いた。
柚香里(ゆかり)さんの後ろに憲先生がいたから、かもしれないけど、それより柚香里おか、柚香里さんを見て。綺麗な柚香里さんが微笑んでるのを見て、わたしも少し、にっこり。


「せっかくだし憲邇も、あ、切れちゃった」


「結構大人数でしたしね。もうさすがにバッテリーはないですよ」


「残念ねぇ。みんなは楽しかった?」


 全員、しっかり頷いた。


「巴さんが飛び入り参加してくれてとってもうれしかったです。みゆ、もっかい会いたいなって思ってましたから」


「ありがと。いきなりで迷惑じゃなかったかな?」


「そんなことありませんわ。ご一緒していただきうれしいですの。ふふ、聞きましたわ、今度中華をご馳走していただくのでしょう?」


「ええ、そこのバカ野郎にね。来たかいがありすぎて申しわけないくらいね」


「そんなことないわよ、罰ゲームはちゃんとしないとね」柚香里さん楽しそう。


「ふふ、せんせにはちゃんとあたしが中華を振舞ってあげますから、安心してください」


「あ、私も手伝いたいなぁ。お料理の練習も兼ねて」愛さん。


「あっ、み、みゆもしますっ。お、お料理、練習したいです、から」


 へへ、みんななにかと理由つけて、でもただ憲先生に手料理を振舞いたいだけなんだよね。違うお料理にチャレンジして、喜んでもらいたいだけなの。


「ありがとう、光栄だなぁ」


「……あたし、も、中華を練習したとき、試食、してもらおうかな。い、いいわよね?」


「もちろんですよ、最近お腹がすぐ空くので、どんなものでも量が欲しいですね」


「もう、バッカじゃないの。失礼ねーみゆちゃん?」


「は、はい、失礼ですっ。み、みゆはともかく、ほかの人のお料理はきっとおいしいです」


「そうですっ、まずいなんて抜かしたらせんせを蹴り飛ばしますからっ」


 あ、言ってること怖いけど目がすっごく笑ってる。さっきなにしてきたかすごくよくわかるな。ああいうこと、その、すると、距離が近くなるよね。あ、実際近寄ってってる。


「……」


 さっきから絵里さん黙りっぱなしだけど、大丈夫かな? 憲先生とえっちして体調悪くなってないのかな? わたしもなったし、柚香里おか、柚香里さんもだし、心配だなぁ。あ、絵里さんも近寄ってってる。手を伸ばせば届くとこまで行って、ちらっとだけ見上げたけどすぐ、戻した。大丈夫かな?


「決まりましたわお姉さま! 見てくださいな、これで夏休みの自由研究はおしまいです! 遊び放題ですわ!」


「はいはい、今見ますわ」


千歳(ちとせ)ちゃんって、お兄ちゃんいるんだっけ? ほら、美大の人。センス、いいよね」


「そうそう、不思議ー。ぱっと見ダメそうなのも、よく見るといいなってちゃんと見抜いてる」


「そう? そんなことないよ、兄の影響は受けたかもしれないけど。
東野(ひがしの)さんもいるんだ?」


「ああいるいる。うちのお兄ちゃんはシスコンでさー、かまいすぎてもういい加減うざいのよね」


「昔はあんなに好きだったのにね」


「今も好きよ、ただ、ちょっと過保護かなって。六時過ぎたら連絡しろだの、一人で帰ると危ないだの。ねぇ?」


 ふぅん。しすこん……お姉ちゃんのことが好きも一緒かな? だったら憲先生のことだ。


「ふう、泳いだわー。さすがに疲れたわね」


「ななほも、ふらふらぁ……せんせぇひざまくらしてぇ? きゅうけいする」


「はい、どうぞ」


 ……いいな……憲先生の膝の上で、
奈々穂(ななほ)さん眠っちゃった。すぐにすうすう寝息を立てるお子さんに、こっちが笑顔になっちゃう。


「あたしも遊んだねぇ、うぅん……っと、へへ、あたしまだ寝ないよ、奈々穂ちゃんに負けてたまるか」


「……」


 あれ、やっぱり絵里さんだんまりだ。いつもはなにか言ってるのに、まゆちゃんも不思議がってる。


 海のほうからもみんなが戻ってきて、パラソルの下に全員集合。今日はもうこれで終わりかな。まだ日は明るいけど、夏だから夕日がのぞくまでいると遅くなっちゃうし、憲先生は明日もお仕事だから。


「ほんとにあんた、そうしてるとお父さんみたいね」


「この子からもお父さんと呼ばれたよ。それに、施設の子供たちみんなの父親だからね」


「そそ、そうです、深町さんはみんなのお父さんなんです」


「大変ねぇ。彼女連れてきたらよかったのに」


「うん、そうだね。いずれはその人もみんなの母親になってもらわないといけないから、呼んでもよかったかな」


「……」


 千歳さんの同級生がそばにいるから、隠すように言わなきゃいけない。でもわたしたちは、今の言葉がどういう意味か、わかってしまう。こういうところ、だけ。


「……早めがいいわよ。その人はきっと待ってるわ。なによりね、プロポーズなんて男からしてもらえるととっても、嬉しいものよ」


「ああ、やっぱりそうですか。そうですね……私もいい年ですし、身を固めるのに充分な蓄えはありますからね……やっぱり
竹花(たけはな)さんもプロポーズはするより、されるほうが?」


「そりゃあね。別に男からしなくちゃならないものだとは言わないわよ。でも、男の方から言ってもらえると嬉しいわ、とっても」


「そうですか……どんな言葉がいいですかね……」


 あれ、憲先生たっくさん結婚するって言ってるけど、あれプロポーズじゃなかったんですか? え、え、違うんですか? だったらひどいですよ? ほら、みんな眉が曲がってきましたよ?


「憲邇はもう、彼女とは結婚するって、わたしたちの前じゃ言ってるじゃない。あれは嘘だったの?」


「え、あ、いや、したいなぁって。結婚しようとはそりゃあ、言いましたけど。でもやっぱり、プロポーズはきちんとしたいんです。指輪も用意して、台詞もきちんと考えて言いたい。ただ結婚する、しようって、言うだけなら簡単です。それだけじゃダメなんだ、納得できない。口だけじゃなくて、ちゃんとわかるようにしないと嫌なんです。私はあなたと結婚したい、その用意ができましたって。ただこだわりだすときりがなくて、いい決め台詞も浮かばないし、指輪探しにも奔走中なんです」


「……」


 紛らわしいです。一安心ですけど、これは家に帰ってから詳しく事情聴取ですね。


 ただ言うだけとプロポーズは違う。そう言われればそっか。みゆちゃんたちとおんなじになっちゃうよね。大きくなったらお嫁さんになります、って。


 夢物語にしたくないんだ。ふぅん……みゆちゃんまた、憲先生見つめてぽうっとしてる。左手薬指をなぞって、なぞってる自分の手を見て、赤くなって慌てて引き離してた。あ、でもじっと憲先生見てるとすぐ戻ってる。ふぅん、ふぅん。ろりこん先生は一番最初にみゆちゃんだったそうだけど。ふぅん。


 今日の帰りは下着をセミオーダーするから、そのときにねだりたいな。


「へぇ、しっかりしてんのね。あたしそういうの好きよ。ね、やっぱりサプライズでプロポーズが一番じゃない? 忘れられないわ」


「サプライズですか、うぅん、一番難しいですね、私にとっては」


「ね、ね、憲邇さん寝てるすきにこっそりはめときゃいいんだよ。起きてから気づいてさ、朝さ、言っちゃえばいいんじゃない?」


 それまゆちゃんがしてほしいやつでしょ? もう、調子いいんだから、ほら絵里さん、いつもみたいに一言、あれ、どうしたんだろ。


「まゆちゃん、それは気づかれなかったとき悲惨よー? 憲邇くんは同棲してるから一応できるけど、だからこそリスクが高いわね」


「そう? あたしだったら毎日調べるけどなー? 起きたら指輪ついてないかなぁって。毎日の日課ってやつになってるし」


「いいですわね、私も日課にしましょうかしら。ふふ、私の理想のプロポーズはですね、ほかの方の結婚式がいいですわ。そのときに羨ましい、私も結婚したいですわと、ぼそっとつぶやくのです。そのときにきっといい人は隣にいますから、じゃあしようかと、気軽に言ってくれるのが理想ですわ。ああもちろん、そのときに指輪をすっと出していただけると驚いて快く承諾しますの。ふふ、サプライズです」


「ずいぶんと用意周到なのね、花雪ちゃんのいい人は」


「ええ、きっと常に指輪を常備して、いつ言おうかと悩むのです。それがいいですわ、うふふ」


 あ、それいいな、いいな。踏ん切りがつかなくて指輪だけ用意して、ずっと肌身離さず持っててもらえるととってもうれしいな。


「みゆはどんなのがいい?」


「なんでもいい。大好きな人のぷろぽーずはなんでも。け、憲邇さんからなら、いつでも、どんなのでも、いいな……」


「あらあら、期待されてるわねぇ憲邇くん? ふふ、私のときみたく十六の誕生日と一緒くらいじゃダメよ? いきなり突然にやるのは当たり前として、きっちりサプライズ考えなくちゃあね?」


「そうですね、これは大変そうです」


 ふふ、でも奈々穂さんなでる手、しっとり柔らかくなりましたよ? ろりこんさんはそれも楽しいんでしょ? ふふ。


「深町くんからの理想のプロポーズは卒業式がよかったなー」


 上からの大人の女性の声。「卒業と同時に、結婚を前提にお付き合いしましょうって、公言どおりね」


「お姉ちゃん、来たんだ」


 お姉ちゃん。静香さんのお姉ちゃん。確か高校教師だったっけ。今日はそっか、千歳さんも休みだしお休みだったんだ。


 やっぱり姉妹だからこの人もピンクだ。水着はまっくろなのに、肌の色合いがピンク。唇が特に。セミロングくらいの髪を一まとめにして、ビキニ(ちっちゃい、すごく)に谷間、かがんでさっきの紗絵子さんみたいになってる。……わざとっぽい。憲先生によく見えるようにとしか、思えない。女ったらしっ。


「はい深町くん、一言」


「相変わらずお綺麗ですね。学生時代となんらお変わりなく、ご健勝そうで」


「似合ってる?」


「ええ、それはもう」


「ふふふ、ありがとう。……お久しぶりです。静香がお世話になってるみたいでご挨拶に伺いたかったんですけど、なかなか時間が」


「いえ、こちらこそ」


「ふふ、堅苦しいのはよしましょうか。そういうのは診察室だけで充分ね。……ありがとう深町くん。静香のことは本当に」


「いいえ、とんでもないです。彼女の奮闘と回復は彼女自身の力ですから」


「あはは、変わってないわねぇ本当に。あなたが医者になるって言っても全然不思議じゃなかったわ。お世話した甲斐があります」


「お姉ちゃん? さっきのなに? 冗談でしょ?」


「ごめんね静香、黙ってたけど、お姉ちゃんは昔この人とお付き合いしてたのよ。学生時代、担任のときとかにね」


「……ええっ? ど、どうして言ってくれなかったの!」


「言えるわけないでしょ、そのときのあなたのことを思い出しなさい。担当医がこの人だって知っても、しばらく黙ってようって思ったんだから」


「あ、そうか、ごめん」


 ここでようやく説明してもらう。この人は静香さんのお姉ちゃんで、憲先生の高校のときの担任だったんだって。


「……ふぅん、ふーんふーん、そういうことですか」


 視線が柚香里さんに。柚香里さんは明後日向いてる。


「羨ましいわー、こっちは一年足らずだったのに、十年以上お付き合いが続くなんて」びくってなった。


大口(おおぐち)先生、どんな想像してるか知りませんけど、今は違いますよ」


「違う? 違う人とこうして仲良しこよしで海に遊びに? 興味深いことを言うわね」


「今はこの人が私のいい人です」


 ぐいって一番近かった巴さん引き寄せた。目配せして話を合わせてって(多分)してる。ほんの少し頬を染めた巴さんはこくんて、小さく頷いた。


「ほほう? 冗談きついわね、その人竹花巴モデルでしょ? すみませんあとで握手いいですか?」


「からかうのをやめたらいいですよ」


「ちっ。噂はほんとだったのね……まあいいわ。先生からするとちょっと意外だけどね、あんなに好き好きくっついてた
草薙(くさなぎ)さんと、未だに結婚してないなんて」


「わ、わたしももう大人ですよ、先生。いつまでも夢見る女子高生じゃ、いられません。こんなに大きい子供も、もういます」


 みゆちゃんをそっと紹介する。目を丸くして驚いた静香さんのお姉ちゃんは何度も何度も頷いてた。


「へぇ、意外ねぇ。信じられないわ。その子深町くんとの子じゃないの? 実は結婚してるとかじゃないの? ほら、目元と唇深町くんそっくりじゃない」


 言われると……そう? かな? わからなかった。


「私が結婚するなら、学生時代の恩人は絶対に招待しますよ」


「籍だけとかかなって。それにやめてよね、先生は担任である前に深町くんとだけは女だって、あれほど言ったでしょ? 仮にもモトカノを披露宴には絶対に呼ばないで? くたばっちまえアーメンって言うわよ? 先生は嫉妬心と妬みとそねみでできてるのよ、ドレス姿の新婦と、そんなにも大きく成長した……深町くんを見せつけられると悲しくなるわ。泣いて泣いて台無しにします」


「お姉ちゃん今でもせんせのこと、好きなの? ダメだよ婚約者がいるのに」


「思い出の人よ、忘れられないわ。それだけ。好きは好き、晴れ姿を見せられると悲しくなる、それだけよ。今はあっちゃんが一番」


 あっちゃんが婚約者さんらしい。そっか、よかった。これ以上増えると大変だもんね、ただでさえ巴さん、憲先生にぞっこんだから。


「ふぅん。でももう帰る時間だよ、なのにわざわざ水着でおめかしして来るんだ?」


「うるさいわね、お姉ちゃんは意地とプライドしかないの。あなたたちが着飾っているのがわかってて教師の格好で来れる? 嫌よ」


「そうよ、見なさいこいつっ。鼻の下でれでれさせてっ。あたしのほうが美人でしょ?」


「あれ深町くん、モトカノは大事にしなさいって授業で教えたでしょ?」


「いえ、あの、えっと……」


 あー、憲先生たじたじだ。うふふ、見てて面白い。か、かわいいなぁって。


「戻りましたー。おみやげ見繕うのも楽しいですね……?」


 良子さんがなにか紙袋を提げて戻ってきた。おみやげだ、もう買ってきたんだ。ほくほく顔の良子さんに、愛さんが説明してる。わたしなんにしよう。


「まあまあ二人ともよしなさい。奈々穂ちゃんが起きちゃうわ」


「ふん……深町くんこのあとどうするの?」


「みんなで夕食をしてから解散ですかね」


 あ、わたしに流し目。ふふ。


「えー? 憲邇さん銭湯行こうよ、お風呂一緒に入るんでしょ?」


「ああそうか、そうだったね」


「そうですよ憲邇さん?」後ろから
(ひかる)さんたち。「せっかくあたしたちと入れるのに忘れるなんてひどいですよね、先生?」


「ああいたの。補習かわしてこんなとこで遊び呆けてるのね」


 同じ学校みたい。「というよりなに深町くん、堂々と彼女の前で浮気かしら?」


「あの、いえ、違うんです」


「……んん、せんせぇ、いるかのりたい……」


 と今度は胸のふっくら十七歳さんが寝ぼけて腰に抱きつきにいく。それにもお姉さんは目を吊り上げた。


「深町くん、ちょっと職員室に行きましょう、いくらなんでも彼女がかわいそうよ」


「話を聞いてください」


「千歳ちゃんも負けちゃったし言うこと聞かないとねー? あータオル巻いちゃいけないんですよね?」


「そうそう」
可奈(かな)さんさっきと言うこと違ってる。


「ご主人様、でしたら今のうちに手配しておきますね。夕食の予約、あ、銭湯もいいですけど温泉旅館のほうがいいかもしれませんね」


 良子さん呼び方忘れてる。わざとじゃない、あの顔は普通に忘れてる。あ、あ、静香さんのお姉ちゃん、噴火しそう。


「そうねぇ、来たときに憲邇くんに塗らせろ塗らせろって迫られて仕方なく日焼け止めを塗らせてあげたから早く洗い流したいわぁ、いいとこにしましょう」


 紗絵子さんまた大嘘ついてる。楽しそうに、憲先生困ってますよ。


「あ、あの! みんなで一気に話すのは、よくないです」


 みゆちゃんが大きな声を出してみんなを止める。「け、憲邇さんにちゃんと説明させてあげてください。か、勘違いさせるのは、よくないです」


「……あー、ごめんね」


 誰ともなしに謝り、かわいいみゆちゃんがこの中じゃ一番強かった。ようやく怒った顔を戻した美人のお姉ちゃんは、深くため息。


「これだけ女が多いからからかわれるのよ、バカね」


「はい……」


「バカ正直……しょうがないんだから」


 あ、微笑んだ。なんなんだろ?


「ん、ふぁ……あ、あれ、お兄ちゃん?」


「起きた? おはよう、よく寝たね」


「……お兄ちゃん……お兄ちゃんだぁ、わぁい……んぅ、お兄ちゃん、やっとかえってきたんだね、えへへ……」


 なぜか目を覚ました奈々穂さんは、憲先生をお兄ちゃんだと……言い、ぽろぽろと涙を流して、抱きついた。お兄ちゃん、お兄ちゃんと、何度も呼びながら。


 やっぱり子供は、こういうのがわかるんだ。


「よかったぁ、またおきたらお兄ちゃんいる……ななほもうさみしくないよ、お兄ちゃんいたらさみしくないから、泣かないから……もうどこにもいっちゃ、やだ、ななほおいて、みんなどっかいっちゃうのやだ、お母さんもお兄ちゃんもどこにもいかないで、あたらしいお父さんまたくるよ、まもって、くびやだから、ねぇ、お兄ちゃん?」


「……うん、どこにも行かないよ。ずっと一緒にいるから、安心して。もう大丈夫だよ」


「やったぁ……お兄ちゃん……ななほはお兄ちゃんがだいすきだよ」


「うん、私も大好きだよ」


 そっとやさしく包んであげてる。ゆっくりと、なでらかになでて、しっかりと抱きしめて。……寝起きで寝ぼけてるだけのはずの奈々穂さんに、憲先生はきちんと応えてあげていた。


 紗絵子さんのことは、どうしてお母さんだと思わないんだろう。どうして気づかないんだろう……
広子(ひろこ)さんがいるからかもしれない。もういるから、二人お母さんがいるとは、思わないのかな。


 奈々穂さんがこうだと知らない、静香さんのお姉ちゃんもなんとなく雰囲気を感じ取って、なにも聞かずにいてくれた。


 しばらくみんなしてだんまりを続けて、落ち着いた奈々穂さんが涙を拭いて、にっこりと笑顔になった。


「ななほがかていをまもるから、お兄ちゃんがななほをまもってね? またおさらたくさんわるかもしれないけど、かじするの! おりょうりもね、できるようになってきたんだ、お母さんとおねえちゃんたちにいーっぱいおしえてもらってるの」


「わかった、それは楽しみだ」


「……あれ? せんせぇ? お兄ちゃんじゃないの?」


 じっと目を細めて至近距離の憲先生をじろじろと。でもすぐにまたにっこり。「どっちでもいっか。お兄ちゃんじゃないっていってるのせんせぇだけだからね」


「違うんだけどなぁ」


「いいの、ななほにはお兄ちゃんなの。お兄ちゃん……お兄ちゃん……」


「……」


 奈々穂さんは抱きついて、離れなかった。


 同じだね。えっと、異母姉妹になるのかな? だからかな、わたしと同じ。


 確かでなくても、わたしにはお父さんだから。


「ふふ、お兄ちゃんは大変ねぇ。憲邇くん、妹は大事にしないとダメよ?」


「はい、わかっています」


「ねぇ奈々穂ちゃん、あたしも撫でていいかな」


「いいよ」


 巴さんもなでだした。さっきのがうれしいとほかの子にもやりたくなるよね。わ、わたしもたまにみゆちゃんなでたいし、け、け、けんせんせぃ……


「……そうしてると、家族みたいね、深町くん。ちょっと子供が大きすぎるけど」


「そうですね、大きな子供で大変です」


「ななほこどもじゃないもん! ほら、おっぱいこんなにあるでしょ!」


「奈々穂ちゃん、見せなくていいのよ」


 あー、巴さんほんとにお母さんっぽく押さえてる。ほんとに、ほんとにそうしてると家族みたい、ううう……


「お兄ちゃんこどもあつかいしないでっていっつもいってたでしょ! どうしてまた、もうばかばかあ!」ぽかぽか。


「ごめんごめん、お詫びに奈々穂ちゃんの好きなご飯食べに行こうか、なにがいい?」


「ぶうー。じゃあねぇ、ていしょくがいいなぁ。てんぷらていしょくとか、ごはんとおみそしるとおつけものと、おかずのいっぱいあるやつ」


「わかった、それがあるお店にするよ。……もうそろそろ帰り支度をしましょうか。早めに切り上げて夕食を済ませて、ゆっくり銭湯にでも」


「はーい」


 と子供たちみんながいい返事。大人のみなさんも頷いてる。


「じゃあ後片付けは任せてください。お店の手配も私がやっておきますよ、ありがとう葛西さん」


「いいえ銭湯より旅館にします。奈々穂ちゃんの定食にぴったりのところです。はい、もう予約は済みました」


 携帯を見せてくれる。憲先生はびっくり。


「本当ですか? すごいですね、よくとれたものです」


「私がたまに利用してるとこなんです。お料理もおいしいし露天風呂も大きくてお値段控え目の穴場です。予約もこれこのとおり取りやすくって、世間に知れ渡る前にたくさん利用しなきゃ」


「それは楽しみねぇ、ふふふ。憲邇くん、私は着替えるのが早いから後片付け手伝うわよ、一人じゃ大変でしょ?」


「ああ、それは助かります」


 あ、紗絵子さんウインク。なんだろ、親子の秘密のサインかな?


「け、憲邇さんみゆも手伝います」


「ダメだよ、女の子は男と違って時間かかるだろう? 先に着替えに戻っても私のほうが早いくらいだから、ほらほら」


「でも、でも……」


 ほかにも何人も(何人も)手伝いたいと目で言っている子がたくさんいたけど、全部追い払うみたいに。やっぱりなにかするんだ、こっそり紗絵子さんに。


「じゃあ一旦着替えたら駐車場に集合して、向かう先を確認と案内しますね」


「深町くん、私もお邪魔するわよ?」


「ええ、どうぞどうぞ」


「もちろん憲邇さんのおごりですよね?」


「はい、もちろんです」


 あ、言った光さんが目を見張ってる。「え、マジ? 相当な金額になりますよ?」


「そうですよ、自分の分くらい払います」


「でもお二人とも学生ですし」


「いやいや、ダメッスよ憲邇さん、先生も言ってたけど、あたしたちもプライドというものがあってですね」


「払える人には払ってもらうほうがいいと思いますよ。なんでもかんでもおごってたら、相手にも自分にも悪いんです。これは実際にそういう同学年の男子を三年間見続けてきたあたしが言うんです。調子乗りますよ。額も額です、金銭面はきちっとしないと」


「そ、そうですか? 私の蓄えと稼ぎからすると簡単なんですけど」


「それは関係ないのよ深町くん。食事をおごるのとは違うの、その感覚でいちゃダメ。ねぇ草薙さん?」


「ええ、そうだよ憲邇。しっかりしないと巴さんが大変じゃない」


「そ、そうよあんた。女子高生を子供扱いは失礼でもあるし、施設の子供たちと同じにしちゃまずいわよ」


「ああ、そうですね。どうも高校生以下は子供扱いしてしまって、すみません」


「いーえ。じゃあお兄ちゃんに連絡しといてやろうか、誠実そうなお兄さんに逆ナンされたからお泊まりしてきます、っと」


「ぎゃくなんってなぁに?」


「奈々穂ちゃんは知らなくていいのよ、ほら行きましょう」


「えー? おしえてよー」


 わたしも知りたいなぁ、なんのことだろう。「ともえさんお兄ちゃんのこいびとでしょ? だったらななほのおねえちゃんになるから、ななほにはやさしくしといたほうがいいよ?」


「……え、えっとね、話すと長いんだけど……」あ、話してくれるんだ、よかった。


「そうそう巴さん、彼氏あの人だって隠さなくったっていいじゃないッスか」


「そ、それはあとにして……あのね奈々穂ちゃん……」


 明らかにうきうきそわそわしながらパラソルを一緒に片付け出した紗絵子さんと憲先生を置いて、わたしたちは着替えに戻った。絵里さんほんとにどうしたのかな、元気ないけど。憲先生が変態すぎたのかな? 三人一緒で大変だったのかな……


 これからみんなで、お風呂に入る。大きめのタオルを何枚か持ってきといてよかった。柚香里おか、柚香里さんも何枚もあるし、きっと平気。大変じゃあ、ない。


 何度もこうしてこの傷を思い出すことはあっても、前を向いてつきあっていけそう。


 あ、下着のセミオーダーいつするのかな? お流れするのはちょっとやだなぁ、あ、
早川(はやかわ)(いさお)さんにも連絡したいなぁ、今日は休日だし……


 早いと思った楽しい時間は、まだまだ続くみたいだった。
















 ここで露出を撮影するならもう、人の壁は使えない。承知の上で望んだのだ、知らないぞ、どうなっても。


 他のみんなが見えなくなってから、もう一度カメラを取り出した。バッテリーがなくなったというのは嘘で、こっそり残しておいた。


 微笑みながら腕をうーんと伸ばし、先ほどよりは少しの距離を撮ってこちらを見つめた。


「はい、笑って」


「もう笑ってるわよ、楽しみ」


 ふんわりとなる紗絵子の裸を、これから撮っていく。みんな帰りだしたとはいえ、人がいなくなったわけではない。男性も女性も、大人もまだまだ横を通り過ぎていく中、肌を隠している唯一のものを脱がせるのだ。いけないなぁ、うぅん、私のほうが遥かに興奮しているぞ。早めに済ませないといけないのが残念でならない。ホームページの更新の際にまた、こういう写真をたくさん撮りたいものだ、と一枚。手を合わせて微笑んでいる美しい母親を撮るのは楽しい。脱がせるでなくとも、こんなスナップはたくさん欲しいものだ。


「憲邇くんに写真撮影の趣味があったなんてねぇ」


「趣味、かなぁ」


「そうだ、ホームページに自己紹介を出しましょうよ、スリーサイズと、趣味は義理の息子のことを考えて一人えっちにしとこうかしら」


「嘘はいけないな」


「本当よ? 我慢なんてできなかったもの。向こうでの一年、憲邇くんのことばっかり考えて、一人で、しちゃった。何回も何回も、我慢なんてできなかった。あなたと国際電話をしたら必ず、したくなったもの。……でも、そのあとは虚しかったかな。本当、辛かったんだから」


「ごめんね。これからはもっと一緒にいよう。また外を飛び回るまで」


「ええ、と言いたいところですけど、またこうして憲邇くんと関係を持てた今、外国へ飛ぶのは当分先にしようかと思います。危急でないならね」


「ふぅん、いいけどどこで働くの?」


「また医療関係に就こうかしら。柚香里を見てなくてもよいところまで、あの子が快復してからだけどね。白衣の天使っていう年でも柄でもないけど、この不況にそこだけは人手不足だからね。またあの病院にお勤めして憲邇くんと共同作業もいいわね。ふふ、
(いずみ)さんなんてあんなことされたのなら、私だってどんとこいよ?」


「ごめんね、やりたがられたり望んで破廉恥をしたがると、逆にやる気が失せるんだ」


「嘘つき」


「うん、初日にやらせようかな」


「……ええ、いいわよ。うふふ……」


 そっと指を水着にかける。私も頷き、ずらすようボディランゲージをした。


 紗絵子は赤い視線を周囲に張り巡らせ、俯いてひとときだけ停止する。絶妙のためらいを見せた恥じらう可憐さに、駆け寄って隠してやりたくなる、欲求を必死で押さえつけ、カメラを強く握り締めた。


 でも、動く指を追わずにはいられない。しなやかに指がするすると下へ行くにつれ、のぞく谷間が露になり、慌ててシャッターを何度も押しそうになった。危ない、メモリもかなりきているから、ほどほどにしないと。


 と、たくさんは撮れないことを知ってか知らずか、黒の水玉をずらしていく紗絵子は、どこか、色っぽさがずいぶんと増しているように思えた。たくさん撮らせようとわざとなるたけの艶姿にしようというのが、見受けられる。見受けられるのだ。それはホームページで大勢の目に晒すのだから、いい写真である必要はある。あるがしかし、そこまでして周囲を確認して、こっちを見上げたと思ったら目線を海のほうへやり、その間に撮りなさいよとでもいうかのような態度で胸を持ち上げて身を縮めるのは、よくないぞ、紗絵子。かわいいぞ、紗絵子。


「バカ……ありがと……ふふ」


「?」よくわからなかったが、時間も押していることだし次、しなさいと、促した。今ならまだ胸を少し見せているだけの、グラビアに近い。肩から外れた水着を腕が支えているからだ。けれど、その位置を胸からお腹にずらすと。ワンピースがずり落ち、紗絵子の形のいいバストが現れてくる。程よく大きく、程よく柔らかい。いくつになってもこれだからほとほと感心する……ので、シャッターを何度も押してしまった。どうしよう。


 紗絵子はもう、こちらしか見なかった。後ろにいる人以外、なにをしているかがすべてわかってしまう状況、通りすがる人たちに何度も振り返られ、確認され、見られている。特に青年の好奇といやらしい視線を感じるとそちらに見ないでと目線をずらしかけるが、ぐっと我慢してこちらを向いてくれる。それはそうだ、紗絵子も恥ずかしい。恥ずかしいのを我慢してどこか毅然と、裸の胸を張り、笑みを作ろうとしてくれている。いけない、これをホームページに載せたくないぞ……私だけのものにしたい。


 先ほど泳いできたばかりのまだ濡れている胸を、数枚(に堪えて)カメラに収めた。海水が数滴前を向いた胸を伝っていく様をきちんと捉えられたかどうかが問題だな。胸のすぐ下に腕を置いて持ち上げるのも私にはエロスだが、伝わるだろうか……


 せっかくなので後ろにいる人にも見てもらおう。そのままで背中を向けるよう指示をすると、かすかに頷いた紗絵子は顔だけこちらに向け、残りを後方へ披露した。ダメだよと、後ろを向きなさいと言うと軽く唇を噛み、耐えるように束ねた髪を見せてくれる。後ろから見ても水着を下ろしているのがわかりこれはこれでいいな。少し俯いているようで、紗絵子の向こうにも人がいてこっちに気付いていた。見られていることを存分に感じ取り、若干震えているよう。よし一枚。


 いいよと告げると勢いよく振り返り憤慨した顔でこちらを睨む。着いてすぐ同じようなことをしたのに、人にわざと見られるようにするとこうも違うのか。これはみんなも慎重にやるべきだなぁ。楽しみで、楽しい。


 これだけで胸がすぐに日焼けするのだから。


「憲邇くん……」


 誰かが通るたびに、隠したくてたまらずに身体をくねらせては反らすものだから見ていてたまらない。びくつき、手を上げかけては堪えるたびに、これは……


 ぞくぞくする。


 ここで犯してやろうかと一瞬、本気でバカが頭をよぎったが、どうにかそれを追い払った。次を、させる。


 一歩こちらに歩み、先ほどと同じようにパレオをめくり、それで水着を支え、下をずらして水着と同じ色の茂みをのぞかせてくれる。本当なら全裸にさせるところだが、もう一度着るのに時間もかかるのでやめておいた。非常に非常に残念だが。お尻も撮りたかったが仕方ない、またの機会としよう。


 指示するまでもなく紗絵子は隠そうと、見られまいと身体の角度を変えるものだから助かった。私は、すごく、それが見たかったので、言うより先に通りがかる目を見張る人から逃れようと必死で、ただ私にはちゃんと見えるように微妙に斜めになるのが、とても、いい。いいぞ、紗絵子。


「バカ……早く終わらせましょう」


 無理な相談なので自分の胸を揉んでと言う。「また? 好きなのね変態」とぶつくさ言いつつ右手で軽く左胸を包んで、少しだけ動かした。人前で自慰に近しいことへの抵抗に動作がぎこちなく、添えるだけになり、乳首は触れないようだった。まあいいか、一枚。


 いやらしいと思われ、いやらしい視線を浴びせられ、羞恥にかすかに打ち震えるも前を向き続ける気丈な紗絵子にまた、ぞくぞくと。


 しばし撮れずに、ただ見惚れ……


 ふと一歩、こちらに。「ねぇ、そんなに私のやらしいとこが見たいの? こういうこと、前からさせたかったの?」応と大きな声が出かけたが普通に頷き、紗絵子の裸を見たい、外ならなおよしと言っておいた。「……ほかの人に見られちゃうわ」ああ、それが嫌なの? 恥ずかしい? 「ええ、もちろんよ。あなたなら、いいわ、いくらでもって、当たり前でしょう?」そうか、嫌と言いつつこうしてしてくれるんだね、ありがとうと一枚。「……バカ……やってみるとこれ、すごく恥ずかしいわ。あなたの言いつけは守ります、でも、こういうことするなら、夜に……夜にあなたを、ください。控えてほしいし、段階を踏ませてもほしいわ。それとやるなら、夜にあなたがいい。それなら、できるから」


 気がつくと目の前に近い。声も私にしか聞こえない程度。じっとりと汗と水で濡れ、赤く夏で照り上がった肌。露出した乳房と秘部。私を見上げて、誘いの言葉を言う女に断る術を持ち合わせてはいない。そもそもこんなことは控えて、段階を踏ませゆっくりやり、羞恥心を煽らせたいものだと妄想してきたのだ、断ろうはずもない。なによりも露出させたのなら私が我慢できないのだ、頷く他にない。


 そうして花開く笑顔を撮り、終わらせよう。


 紗絵子は美しい。女性のヌードは、特に。


 もういいよと言うとほっと一息をつき、あっという間に水着を戻していく。紗絵子は着替えが早かったっけ、そんな印象はないが、ありがたいことではある。


 着直すと照れ隠しのように髪をかき上げ、また見惚れさせるのだ。思わずシャッターを押したが、メモリはいっぱいだった。残念。


 私の中ではかなりの、濃密な時間を過ごせてよかった。びっくりするぐらい愉しかったよ、紗絵子。


「うふふ、ありがとう憲邇くん。いつでもどうぞ、奴隷なんだからこき使ってください」


 さっきと言っていることが違うよ、まったく調子のいい。


「だって憲邇くんが約束してくれるからでしょ、なに言ってるの、それがなかったらこんなバカなこと言わないわ」


「はいはい、着替え終わったことだし、さっさと片そうか」


「ええ」


 海辺とはいえ携帯を持ち歩く人もいた(濡れてもよいタイプだ)。が、それらの人はなぜか紗絵子を撮ろうとして、紗絵子の視線がちらりと向くと全員、やめていた。寧ろ足早に立ち去っていった。覚悟していたことを誰もやらないので内心ほっとしているが、どうしてだろう。紗絵子にどんな目で見つめたのか聞きたかったがよしておいた。きっと慎ましい日本人の気性だろう、それか田舎のせいだ。きっとそうだ。


 そのかわいい紗絵子が真横を通るとふわりと香る、先ほどの興奮の匂いに、思わず(文字通り)後ろ髪を引いて、しまった。怪訝そうに振り返る紗絵子になんでもないと首を振るが、しかし……


 やっぱり今週の私はおかしい。前は本能を制御できていたはずなのに、もう、赴くがままに自分の恋人たちを求めている。さっきなにをしたかも忘れ、ただ紗絵子の近くで熱い身体の匂いを感じ続けていった。


 紺碧の景色も、水着姿の女性の景色ももう見納めか……また来たいものだなぁ。いい香りにいい景色に包まれていたい。主に肌色の。
















 二人とも同時にこんなことをされているのが、不幸中の幸いと言えますね、先輩。誰かに着替えを見られる心配なく、見張ってもらえますし、万が一にはさりげなく隠しあうこともできますから。


 とはいえ……本日のお勤めは大変でした。移動中や休憩のときが一番、意識してしまってて、なにかをしていれば気にならないのに、化粧室で思い知らされることの、恥ずかしさ。私のほうはまだマシ、先輩のひどさといったら……まだ、まだ私は思い出さなければいいのに、先輩はまざまざと自分の状態を思い知らされるから、化粧室から偶然出てきたところと鉢合わせると、お互い真っ赤になってしまって、俯いてそそくさそそくさ、とにかく大変でした。


 これ……入院患者さんとかの、もちろん男性ですけど、欲求不満な人たちに気づかれて、るんですよね……ああどうしよう、明日また担当の高校生とか、辛いかも……じろじろ胸を見られるのはいつもだけど、より一層恥ずかしい……


 仕事に集中するスキルは高まったのでよし、かな。お仕事ができないわけじゃないから、なんとかなる。もちろん真面目にやることができているから、まだいいかな。エスカレートさえ、しなければ。憲邇さんの良心に任せるしかないけれど。あの人の前だけこんな恥ずかしいことやらせてくれればいいのに。ノーパンノーブラなんでもござれです、あなたの前でなら……


 更衣室で着替える際、必然的に裸になることだって。


「ひ、広子ちゃん大丈夫? ほんとに誰もいない? 来ない?」


「大丈夫ですよ、今のうちですから早くしましょう」


「そんなこと言っても、手が震えて、うまく、あーもー……っ」


 先輩どうして私服そんな
Tシャツとベストに、チェックのひらミニスカート選んだんですか? ワンピースのほうがまだ着替えやすいはずなのに。もちろんそれも簡単でしょうけど、スカートを穿く、シャツを着るだけでそんなに手間取るなんて……それにその、そんな白い、シャツだなんて、その、憲邇さんですか? 憲邇さんでしょ? そうだと言ってください先輩? でないとそれで、そんなミニ、そんな薄い、白……


『わかってるわよ』と、必死な形相の目が言ってきたので思わずすみませんと謝っておいた。これからデートなんですと言わんばかりのかわいい格好を、わざわざこんな日に選ぶなんて。憲邇さんだな、絶対そうだ。


 昨日見たばかりの先輩の裸をもう二度も拝見してしまう。今朝も今も泣きそうな目で『あんまり見ないでよ』と何度も何度も言ってきた先輩。でも着替えが終わったかどうかとか、ありますよ、と言いわけを何度もした。


 その前に私も、同じ目にあったんだから。おあいこです。何度も私の胸、見たでしょ。


「そりゃあね。なんかさ、そっちのほうはそっちのほうでやらしいわよね。トップレスと下着のアンバランスって、ほら、エロ本みたいで」


「言わないでくださいっ、もう」


 思い出したくありません……


 どうにか誰にも見られずに着替えを終え、帰宅の途につきます。私はこれから憲邇さん宅へ寄らせてもらって、また今日も、へへ。あんなことして、こんなことさせたんだから当たり前です。昨日……ああもう思い出したくない、あんなこと、二度とされたく……へへ……あれ、メール……ふぅん、そうですかそうですか。私が明日仕事と知っての狼藉ですか。ってあれ、憲邇さんも明日お仕事なのにそこまで付き合わなくとも、と思いつつ合流しなさいという旨を含まれており、素直にはいと返事を返しておきました。父ももう三日も家に帰らず(というよりまだ帰れないと連絡があり、昨日は驚いた)、一応泊まれるけど、知り合いの家にいるという父が少し心配でもある。旅館かぁ、この辺のには泊まったことないなぁ。


 はたと、下着に包まれていない、胸に、気づく……わかりました、来いと言うのなら行きます、ええ喜んで……そこで確認され、できていたらきっと子作りですね、なんとなくわかってきましたから……


 そっとちょんちょん、先輩をつまみ、携帯の画面を見せる。「ほうほう」と頷いた先輩が追加でまた、返事を送った。まあ、当然ですね。おばあちゃんのこともあるので泊まりはできないそうですけど、無理を押すんだとか。ちょうどよく親戚が(例のあれでおばあちゃんが呼んだみたい)いるので、多少は平気なんだそうな。


「急に決まったみたいね、こりゃあせんせーも大変だわ」


「ほんとです。ほかの女の子は学生やお休みが多いのに、大変ですよね」


「罰よ、あたしたちほっといて海になんか行きやがった罰。忙殺されればいいの。それで」


「私たちが介抱、ですね」


 ふふと笑い合う。ええ、得意分野ですもの。


 ……もうここで介抱、というかお世話ができなくなった、奈々穂ちゃん。今日から桜園へ移るという彼女を訪ねて、退院だと知った彼女の高校の制服が(部活でしょうね)病室に入れ違いでやってきたのを、声をかけたけれど。彼は……すっからかんの部屋に少し呆然とし、治ったんですかと、かすかな声で訊ねてきた。私は事情を少し説明し、これからは施設で暮らすと言うと、沈んだ顔で頷き、持っていた花を渡しといてくださいとこちらに投げやりに持ってきた。……いけないとわかっていても、私は施設の場所を教えて、しまった。自分で渡してほしいな、そのほうがあの子も喜ぶから……


 実際はわからない。それがどう転ぶか、彼がどんな影響を及ぼすのかなんて。でも、私は曲がりなりにも(勢いでとはいえ)母親役をしてしまっている。いけないと、わかっていても奈々穂ちゃんのためにと、訪ねてほしい、あなたが届けてほしいと、思う。本物がいるけれど、とも。


 彼が訪ねたときに奈々穂ちゃんたちがいたのかはわからない。彼が訪ねたのかも。これから聞いておこう、行く先で。


 もし訪ねていないのなら、あのひまわりの花が届けられていなかったとしたら……憲邇さんに話すか、みんなに話すか、目の前でかわいいミニスカートに着替えた先輩に話すか。


 愛しい、奈々穂ちゃんに話すのか。少し、躊躇ってる。


 それから更衣室を出て、お疲れ様でしたと挨拶をすると待ってと声がかかる。同僚の一人が片手になにか雑誌を掲げていた。


「これ誰のか知らない? 休憩室のほうに置いてあったんだけど」


「なんですか?」


 ブライダル情報誌の名前を言われる。ブライダル……あれ、職場でおめでたの人っていたっけ。


 知りませんかと、隣を見ると。俯く先輩の姿が。ちょこちょこと歩き、そそと手を出し、無言でくださいと。先輩……かわいい……


「ああ、そうだったの。こういうことは報告してほしいなぁ、はい」


「……」バッグにしまい込みなにも言えずに立ち去ろうとする。


「羨ましいなぁ、これから相手とデートにその話でしょ? あたしも彼氏がほしいわぁ。ね、相手深町せん、ちょっと
沢田(さわだ)さん?」


 無理みたいだった。早足でせかせかと駆け出しかける先輩は見ていて面白い。私もすみませんと一礼して、追いかけていく。


 病院を出ると、どっと疲れが増したよう。まさかのまさか、関係ないところであんな目に。ドジ踏みましたね先輩。


「……黙っててよ? 絶対よ?」


「はい、言いません、誓います。言うことじゃありませんから」


 二人で話し合いは必須ですけど、私が言うことじゃあないですものね。


「絶対よ? あたしが言うんだから、やめてよね?」


「わかりましたから。車の中に置いていきましょうか。お仲間じゃない人たちもいるみたいですから」


「そ、そうね、そうしようかな……ほんとは今夜じっくり読むはずだったんだけど」


「我慢できずにさわりだけども、開いちゃいましたか」


「できるわけないじゃない、あんなこと、言われてさ、我慢なんて、わくわくしっぱなしよ。こちとら、できるはずないって」


「はい、すごくよくわかります。そうですか、休憩室で挙動不審だったの、あのせいかと思ってましたけど」


「両方かな、あはは……そ、そっちのせいで忘れたのかも、あはははは……」


「……」


 やっぱり先輩、かわいい。男勝りなくせに、めちゃくちゃかわいい。今度メガネ貸してください、私も真似します。


 照れ隠しのようにメガネを持ち上げ、困ったように笑いながら車に乗り込み、いざ戦場へ。きっちりスカートを押さえっぱなしになっている先輩に(普段は気にしてない)負けられない、最低でも私だけはしてもらうとこちらも意気込んで車に乗り込みます。向こうはなかなか発進せず、先に私の車がゆっくりと走り出します。……やっぱり太もも、私のほうが太いよなぁ。どうしよう……むっちり好きにならないかなぁ……
















 憲先生と二人で、お出かけ……で、で、デートかなぁ。まだや、やってない、よね……あ、朝のお散歩、違うと思うし……


 一度旅館で受付けを済ませてから、ちょっと用事があるからって、お買い物もついでにって、何人かでもう一度外出をした。そうしてこっそり、わたしと憲先生だけで、下着のセミオーダーをしに専門店へ向かう。わたしが助手席で車に二人乗り。大きな車を贅沢に。


 彼氏彼女だから、二人で。えへへ。


「後で泉と広子と、それに春花も来るんだって」


「やっぱり」


「やっぱり?」


「不思議じゃないの、憲先生だけですよ」


「そ、そうなんだ? ふぅん……」


 来たいに、決まってる。この人と一緒にお泊り、したいに決まってる。ミニスカートのままで参戦するに、決まってる。


 わたしたちみんなと、同じように。ううう、やっぱり恥ずかしいけど……


「今ようやく髪留めをしてくれるのは不思議じゃないけど」


「……に、似合います、か……?」


 ふんわりの、にっこり。「とてもね。かわいいよ」なでなで……


 二人っきりなら、できるよね。二人きりだから、したくて、見せたくて、今朝のピンクの髪飾りを、こっそり持ってきてたのを、してみた。わたしなんかがって分不相応だと、思いつつも、でも、でもって。


 がんばりたい。がんばれることは、がんばりたいもの。


 で、でも、こうしてると柚香里お母さんみたいですよね、一まとめって。あ、あと、紗絵子さんみたい。み、みゆちゃんみたいな、かわいさは出てないと思うから、出してみたいなぁ。ろ、ろりこんさんだし、この人。


 さらさらと赤信号のたびに、髪をいじくってくる変態さんです。わ、わたしも変態だから、その手と重ねちゃうんです。


「向こうできっとサイズを測ることになると思うんだ、胸のサイズ」


「は、はぃ」


「大丈夫?」


「はい。平気です。柚香里さんに包帯の巻き方教えてもらいました」


 あの人も同じ悩みを抱えていたから。今日の水着へ変身したあと、柚香里さんがもしものときにって、やり方と一式をくれました。彼女もしたこと、あるんですって。下着のサイズに困ってるから、隠してサイズを測ってもらうとき。


 この前は夜中にごめんねと、謝りにも。


 お父さんと同じ、目の前の人と同じ。だから、わたしも同じことしますって、言って、微笑みあったの。


 あんなお母さんに、なるの。自分の娘を、助けるの。巻きながら、ときどきお腹さすっちゃった。


「そうか。それはよかった。うぅんでも、自分で測ったって言って自己申告じゃダメなのかな……」


「そ、そんなのダメに決まってます。ゎ、わたしでさえ少しでもおっきい数字、言うに決まってますから」


 わたしは一応、成長期でもあるし。昨日と今日とでふくらみが段違いなんてことも、あ、あ、あるかも。


 そんなことしてたらあっという間。まだ暗さを感じない外気に出て、静かに輝くお店の中に入っていく。外からじゃなんのお店かわかりにくいけど、中に入ると……


 女の世界に、気後れしそう。わたしはまだ、花雪さんとさえ違う、女で、ないのにって。


 肩に何十センチも違う男の人の手がなかったら、引き帰してたかも。け、憲先生この空間で一人だけの男の人なのに普通に歩いてる。すごいなぁ、女のお客さんのほうがじろじろ見て、恥ずかしそうに持ってた下着慌てて戻してるくらい。そ、そうだよね、来ないよね、男の人。男性用の下着なんて一切ないからね。


 すごいなぁ……わたしにはきらめく色とりどりの宝石に見える。一応わたしみたいな子供用のもほんの少し居場所があるけど、ほかのたくさんの自己主張が多い。


 キャミソールかわいいなぁ、カップつきってすごく便利だなぁ。スリップの種類も豊富でうれしいなぁ。わたしは背が低いから、大抵のが膝まで隠せていいな、ちょっとぶかぶかなくらいのを着たほうがいいもんね。ああパジャマもある、わぁ、かわいい……けど、ズボンは着れないからいっか。わたしもやっぱり、ワンピースがいいし。


 サニタリーショーツって、なんだろ? あんまりかわいくないやつ。多分動きやすいようにっていう下着もあるなぁ。スポーツ用とかなんだ。スパッツみたいなのもある。男の人の下着もないと思ったのに、あるんだぁ、ここは下着の専門店だからかな、少ないけど……あ、あれ、春花さんたちと一緒みたい。ひらひら、ふりふり。うぅんでも、絵里さんの着てた水玉のパジャマ、ないなぁ。ああいうのも下着のはずなんだけど……


 いいなぁ、すごく。何時間でも見ていたいほど、綺麗な光景だった。


「すみません、こちらでオーダーメイドやセミオーダーを受付けしていると聞いたのですけど」


「はい、承っております。そちらのお嬢さんですか?」


 ……こういうお店は店員さんも美人だなぁ。今日の水着売り場の人も、ちらりとのぞいた若い女の人ものばっかりの店員さんも美人ばっかり。下着やお洋服で綺麗になれるのかなぁ。なる気がする、春花さんを見てると。


「はい。市販のものはどれも大きいそうなので」


「どのような下着をご所望ですか?」


 わたしに向けての言葉に、思い切ってわたしが言いますってつないだ手を引っ張った。


「か、か、彼氏に、その、がっかりっ、させたく、なくって、あのあの、いざそういうときに、えっと、ずいぶん先だってわかってますけど、ゎ、わたしももう十四で、そろそろっ、ぶ、ブラをしたくって、あのあの、かわいいやつ、です、普段するのはあります、から……」


 あああ、なんでこういうときにべらべらまくし立てられるんだろう。ごまかすことばっかりうまくなって、言いたいことを隠しちゃいけないのに。嘘でもないけど、ううう……


「はい、わかりました。申しわけありませんが先に言っておきますと、お体に負担をかけるわけにはいきません。お客様はお若いので難しいと思います。できるだけ努力はしますけれど、無理な場合もあると予め断らせていただきます。ごめんね」


「は、はぃ、わかってます」


 花雪さんもお母さんから言われたみたい。無理をしたほうがダメになってあとで困るって、なにしろあんな風に育った実物と一緒に話してくれるものだから、花雪さんもうんと頷くしかなかったんだって。で、でも、憲先生とこうなってから、結構迷って大変なんだって。こ、断れないからね、難しいよね……


 今さら下着くらいで、きらいになったりしないって。憲先生なら言うと、実際そうだって、わかってても……やっぱり、無理したい。なんとか、する日を、見極めて。


「ではご希望のデザインなどお選びください。それとも先に測ってからとなさいますか?」


 先、先がいい。先に済ませたい。


「さ、先サイズ、測りたい、です」


「ではこちらへ」


「はぃ」


 憲先生を振り向き、ほんのちょっとだけどいなくなる男の人を見つめる。


 大丈夫だよと、普通の顔がもう、安心する。この人がいなくても、傍になにかなくても、一人でもできることを、増やしていこう。旅館に戻ったら電話を借りようかな。名刺は持ってきてあるし、うん、やることいっぱい。


 お店のちょっと奥に入る。もう一つ部屋があって、測るものと店員さんが(さっきと違う)一人だけ一緒に、女性しかいないけどこの人だけに見られるようになってるんだ。なるたけ、やっぱり他人にこそ、下着姿って隠したいものね。なんかいろいろ置いてある、椅子とか、鏡も。きょろきょろしちゃまずいよね、えっと、じゃあ。


 チュニックとプルオーバーを、脱いでいく。お、遅いかな。いらいらさせてないかな……ああまだやっぱり、考えちゃうなぁ、ううう……スリップもやっぱり、脱ぎますよね? って聞くとはいって。ううう……


「どのようなボディライン、ええっと、なりたい形ってあるかな?」


「ぇ、えと、谷間を作りたいです。そ、それから、大きくするようなのがいいです」


「はい、わかりました。……頑張ってみます」


 シャツ、も? セミオーダーだから素肌じゃないとダメ? ううう……しょうがないよね、ブラを作れなきゃ意味ないもんね、恥ずかしいなぁ……


 憲先生にやがいろしゅつさせられてなかったら、できなかったかも。


 お腹と右腕の多くの傷痕は、白い布で隠しきれていた。少しだけ変な顔をしたけど、昔の大怪我があるんですって言うと、それ以上なにも聞かずにいてくれる。すごいなぁ、大人ってすごい。


 ほぼぺたんこの、サイズを測って、もらう。自分の胸を丸ごと、見せる人が、ああ知らない人に……何回も……下の周りの大きさ……アンダー、だっけ……さ、触られるのは、や、やっぱり憲先生のほうが、やさしいなぁ……


 それからいろいろ、よくわかんない道具で胸のまん丸さを測ってもらって、測定用のブラを着けて(左右で形違うみたい)測ってもらった。着け方も教えてもらう。ようく覚えとこう。うぅん、ちっこいのでもすかすかだなぁ。わたしまん丸くなかったですよね、ブラは早いかなぁ。なんだか難しい顔してる。早く終わらないかなぁ、ショーツだけの丸裸って恥ずかしいよ、憲先生……


「ありがとうございます、もういいですよ」


「はい」


 すぐに着直す。隣でなにかしてる人の顔、見れないよ、ううう……やっぱり朝の挨拶は大変だなぁ。知ってる人も知らない人も大変。


 受付けのとこに戻ると、さっき測った人と美人さんがなにか話しこんでる。「少々お待ちください」って。夕食に間に合うかなぁ。とりあえず恥ずかしくってしょうがなかったから、彼氏とくっつこう。


 そっと袖を、つまんで。いちゃいちゃだなぁ。いいのかなぁ。


「思ったより早くて助かったよ。正直間が持たなかった」


「ご、ごめんなさい、わたし一人で来ればよかったですね」


「そんなのはいいんだよ、ここは子供には遠い。車で早いならそっちのほうがいいよ」


「そうですけど、でもごめんなさい。憲先生みたいな人にはし、刺激が強いでしょ?」


「うん、かなり。あはは、恥ずかしいかなぁ」


 そうは見えませんけど。くすりと笑っちゃう。


「あ、あれお母さんが着けてたやつじゃないですか?」


「そういうことは言わないでいいんだよ……」


「憲先生はわたしがああいうの着たらどうします?」


「詩音も大きくなったなぁと感慨深い。けれども、こうして彼氏のためだと公言された今は悲しい気持ちでいっぱいだなぁ。そいつに出くわしたときに平静を装えるか不安でしょうがないから、今夜お母さんに同じ下着をねだるかもしれない」


「け、憲先生やらしいですっ。ゎ、わたしをそういう目で見ないでくださいねっ」


 うわぁ、こういうの嘘でも言いたくないなぁ。演技ってやだなぁ、やりたくない。そりゃあ、やらなくちゃいけないのはわかってるし、ここで親子じゃないってほかの人に知られると憲先生をいぶかしまれちゃうから仕方ないけど、いやだなぁ。外ではこうしようって、みんなにそれぞれ言ってあることある、けど……


 反対の意味を言えばいいから、簡単だけど。ちゃんと違いますよ、逆ですからねって、袖を引っ張るの。苦笑した憲先生がわかってるよって、言ってる気が、する。


「お待たせいたしました」戻ってきた。ちょっぴり苦い顔。「大変申し上げにくいのですが、お客様のスタイルに合わせた形となりますと、専用のオーダーメイドで非常に時間と費用がかかります。加えて費用対効果は薄いものとなると言わざるを得ません。ご希望の用途として、バストをふっくらと見せることができるものを作れるとは、言えません。もちろん努力しますが、今のスタイルですと出来上がりを着用したとしても市販と大差ないものとなる可能性が高いです」


「あ、そ、そぅですか……」


 しゅんとする。せっかく憲先生が言ってくれて、ここまで連れてきてくれたのに……そっと大きくならない胸に手を当て、ため息が深く。背伸びが早すぎたんだなぁ。憲先生がろりこんだからこんな悩みができちゃって。


「元々セミオーダーなどはお客様のように市販のものだとアンダーがなくてお困りの方が多いのですが、お客様はその、データにも私共の経験にもないほど細いので……」


「そうですか。残念だね、詩音。どうする? それでも注文する?」


「……ぁ、あの、ほんとのこと言ってください。ほ、細いんじゃなくて、胸が足りないんですよね? 寄せて上げたりできないくらい、ちっちゃいだけですよね? それならそうって言ってくれたら諦めますから」


「……」


 よく黙るわたしは、沈黙でも答えだとわかってしまった。なにを言っているのか、無言でもわかってしまう。俯いて、唇をちょっとだけ噛んでしまった。


「お客様ほど若い方は初めてで、こちらも半分挑戦するような形となってしまいすみません。繰り返しますけれど、お客様はまだ十四の成長途中です。こちらとしましては万が一にも負担をかけるわけにはいきません。それでも好きな人の前でと思う気持ちは非常に、大変よくわかります。私も経験がありますから。それでもこの仕事で心と身体のバランスをとれていないものを提供するわけには参りません。市販が合わずに困っている方のための当店ですから。ご希望の作品を作り出すには、お客様のケースですと現時点では力量不足なのです。申しわけありません。ですので、もう少し大きくなったらまたお越しください。できるだけのことはさせていただきます。お客様が細いのも事実ですし、とても驚きました。そのまま成長してもサイズにお困りになるかと思いますので、ぜひごひいきにしていただきたいなと」


「こちらこそ無理を言ってすみません。またお願いします、ね、詩音」


「……あの、形は普通のでいいですから、水着みたいに飾りつけのあるのは作れませんか? か、彼氏とそういうときにだけするから、ちょっとくらい胸に負担があってもいいですから、ああいうひらひらとか、お花の模様が子供っぽくないやつとか」


「ごめんね、バストはね、一日でも無理をするとくたびれちゃうのよ。今からふっくらしようって頑張ってるところに無理をしちゃうと、思うように膨らんでくれなくなるの。ごめんね、この仕事に携わる者として、それは絶対にできません。下着くらいでがっかりして別れようなんていう彼氏なら別れちゃいなさい、そのほうがいいですよね、お父さん?」


「そうだよ詩音、そういう男はろくな男じゃない。私は認められないな」


「……」違うよって言ってる。自分はそんなの気にしないって。でも、でもですね憲先生、わたしもそれは違うんです。


「こ、こっちの問題です。相手の人はいい人だからそれくらい気にしないってわかってます。けど建て前です。わ、わたしも、お母さんみたいな素敵な美人になりたいんです。背伸びかもしれないけど、お母さんもサイズに困ってるから、こういうのがあるわよって教えてくれたから、せ、背伸びしたくって……」


「そうか、そうだったのか……市販のサイズは
SMでちゃんと合ってるの?」


「え、えっと、
2Sってもっと小さいのでも大きくて、今もちょっとぶかぶかかな」


「だったら負担をかけない、ぴったりのサイズをセミオーダーしようか? 普段着ける用にね。合ってないのはいけないんですよね? 男なものでよくわからないんですけど」


「はい、それはもうひどいんですよ? 痛いしむずむずするし、でも合うのがないから仕方なく市販のもので我慢するんです。恥ずかしくて誰にも言えずじまい、なんて、そういう女性は意外と多いんですよ」


 や、やっぱりそうなんだ。春花さんはお嬢さまだからオーダーメイドが普通かと思ってたけど、柚香里おか、柚香里さんも似たことしてるみたいだし多いんだ。


「じゃあ、ぉ、お願いしていい?」


「いいよ、そのために来たんだ」


「ぉ、お願いします……今度は普段着ける用のやつ」


「はい、かしこまりました。いいのをすぐ作るから、楽しみに待っててね」


 うわぁ、にっこり笑うとほんと美人。憲先生、でれでれしちゃダメですよ? 隣に彼女がいるのに。


「ではこちらに展示の中からお選びください。ほかにリクエストがあればもちろんお受けいたします。少なくてごめんね」


「私はちょっと遠くへ行ってるから、好きに選びなさい。何着でもいいよ、かわいい詩音のためだからお金は惜しまない」


 憲先生すごいなぁ。今の言葉に二つの意味があるの。遠くへ行く男の人を思いながら、案内された場所のやつをじっと見つめていく。やっぱりあんまりかわいくないなぁ。ブラまでおうとつがないよね。味気ないけど、ろりこんさんはこれでいいからどうしようもないよねぇ。うふふ。


 普通のわたしが好きなまっしろと、こ、この髪留めが似合うって言ってくれたから白にピンクの水玉と、あと水色、選んじゃった。い、いいのかな、こんなに。


「はい、かしこまりました。ショーツはいかがなさいます?」


「お、おそろいの、お願いします」


 じゃないとなんとなく、いやだ。


「はい、お揃いのセットを三つですね。お父さん呼んでくれる?」


「ぉ、おとぅさん」ああお父さんって言っちゃった、この人がそう言うからつい、ううう……憲先生なのに。


「ごめん、ちょっと電話だから待ってて」


「あ、うん。すみません、なんか」お店の外へ行っちゃった。


「いいえ。……若いお父さんね、カッコいい。自慢でしょ?」


「は、はい。とっても自慢です」


「羨ましいな、若いからかもしれないけど、娘をこんなとこに連れてきてくれるの。ふふ、あなたもこういうことをお父さんに頼めるのはいいことよ」


「は、はい。えと、ぉ、お母さんは今日都合がつかなくって、お父さんにお願いしたら、いいよって」こんな感じでいいかな。あんまりこういう嘘、思いつかないけど、憲先生に大体こうしたらいいよって教えてもらって、何回もぶつぶつしといてよかった。


「優しいお父さんね。大事にしなきゃダメよ? 彼氏と一緒にね」


「はい、わかっています」


 彼氏でお父さんだから、大事にできるんです。こっちがとってもとっても大事にしてもらってるから、精一杯返さなきゃって。こ、今夜まただって、いいんです。お、男の人ってしょうがないくらいえっちだから、す、少なくとも向こうで電話してる人はえっちだから、そこぐらいは、できるだけしたい。


 したい。えっちなこと、たくさん。


 どこでだって、誰とだって。


 早く女になりたい。


 ……あの辺のかわいいの、えっちのとき憲先生もっと喜んでくれそう。好みっぽいから、こ、興奮しそうだよね……いっぱい、して、く……


「ぁ……あのあの、い、せめて今すぐはける、ショーツ、あの、お父さんいないうちに、こっそり、買っておきたいんですけど、お、お父さんに、その、内緒でこっそり買いたくって、あっちのほうにあるやつ、なんですけど……」


「そう? あなたのお父さん気にしないと思うけど、やっぱり内緒にしたいよね」


 案内してもらう。早めにしなきゃ。


「ぉ、お会計のときにこれもって見せちゃうと、お、お父さんやっぱり悲しみそうだから」


「そっか、そうだね。じゃあ急がないとすぐ戻ってきちゃうよ」


「はい、こ、これ、一番小さいサイズ、お願いします」


 憲先生の好きそうな、わたしもすごく好みのピンクで、ピンクでっ、すごく面積の小さい、やつ。あんまり三角じゃなくって、四角に近いくらい三角の角度が低くて、面積とってもっ、小さいのっ。いろんなピンク色の花がたくさん表裏に散りばめられてて、一つだけ緑色の、多分ハスのお花がなんとなくアクセントみたい。……ほんとに面積小さくって、つややかで、わ、あ、今気づいたけど表のほう、大事なとこを隠すところから横に向かってくとこ、突き出た骨ら辺からちょっとだけだけど、ううう、ほんのり透けてたぁ……今さらだからいいけど、かわいいからいいけど、え、えっちな子って思われないかなぁ、大丈夫かなぁ。


「ありがとうございます。少々お待ちください」


 別の人がお値段を言ってくれる。よかった、お小遣い足りる。で、でももうそろそろなくなっちゃうなぁ。どうしよう。この前自宅で退院祝いにたくさんもらったっきり。紗絵子さんはいっぱいくれるけど使いたくないし、仕方ないから旅館に戻ったら早川さんに連絡して、買ってもらおうかな。ま、まだ買いたいって言ってくれるならだけど。


 あ、お店開く音。「お、お父さんもうちょっと待って、ゎ、わたし選び直してるから」


「ああそう? そっか、充分迷いなさい」


 下着の群れを見れずにお店の外をまた眺め出す憲先生。よかった、い、今のうちお願いします。


「はいどうぞ。危ないところだったわね」


「ぁ、ぁ、ありがとうございます……」


 鞄持ってきといてよかった、すぐ入れとこう。


 もう一度呼んでお会計と手続きを済ませてもらう。こういうとき、わたし専用の携帯ってあると便利だなぁ。こっそり買って、驚かせるのが簡単になるのに。できましたよって連絡、憲先生のお家に届くんだよね、わたしがとりたいなぁ。


「出来上がったら取りに来ます。そっちのほうがいいよね?」


「う、うん。あんまり見られたくないかな」


「そうだよね。えーっとそれで、私も家内も仕事があるのですぐには取りに来れないんですけど、大丈夫ですか?」


「はい。大丈夫です」


「助かります。自宅からここへは車でないと少しかかるので」


 手続きが終わる。「試着してみて、合わなかったら言ってくださいね。何回でも作り直しますから」


「はぃ。ぁ、ぁ、ありがとうございました」


 よし、言えた。もうちゃんと、誰でも言えるんだ。へへへ。


「こちらこそありがとうございました。すぐに仕立て上げますので、その折はまたどうぞごひいきに」


「はい。い、行こ、お父さん……」あああどうしよう、これが癖になっちゃったら。いやだなぁ。憲先生って、どこどこでも言いたいなぁ。


「うん。それじゃあよろしくお願いします、ちょっと詩音、引っ張りすぎだよ」


 早く戻りましょう。でないと、戻ったときに大変ですから。


 ううん。車の中で早く二人きりになりたい。終わった疲労感でちょっとだけ、見せられたってことでちょっとだけ、胸が鳴ってるから。思いっきり、甘え……たい。


 お父さんの彼氏さんに。
















 あんなに大事なところであんなにも大事なものを受け取るんだから、もう身体はあの人に染まってる。色も、味も、匂いも。混ざって、いっている。あの人に侵入され、犯されている。文字通り。あの人のものになっていっている。段々と。


 それは……下だけが、本来普通、よ。下からだけでいい。ものを食べるところで、受け取るものじゃ、ないわ。そこもあの人のものにされるのは、ええもちろん構わないけれど……奴隷ですもの。なにをされても、なにをしなさいと言われても……喜んで……やるわ……でも……いいえ、けれど……


 白いものを飲めば、赤くもなるわ。それは抑えられない。そんなにも恥ずかしくてたまらない、はしたないというよりありえないことをしている倒錯とした混乱に頭を支配されていく、わ。かすかにずきずきと、頭に痛みが蹲り続けてる。居直ってなにをしたかを、忘れないようにさせている。……頭が回らない……口も……ああこの、いやらしい口も……回らない……


 ……フェラチオって……ただ咥えて、大きくするだけ、よね……? あんなの飲ませられ、てるのかしら? みんな……? ありえないわよね、ただの前戯の一種、よね? あの人の準備を整えるやり方の一つ、よね? 口にするはず、ないわよね? まゆのときのあれは、単にまゆに隷属させるためだけにやる、一種のパフォーマンス、でしょ? 違うのかしら? 咥える以上、あの人を達せさせる? そんなわけないわ、だったらあとが大変じゃない。そのあとにもう一回なんて、体力とか。前の亭主とは失敗したから実際はわからないけど、でも……ねぇ? ど、どうなのかしら、みんなやっているのかしら。静香ちゃんは初めてだって言っていたけど、愛さんは明らかにやり慣れている、いいえやらされ慣れている感じがした、けど……


 外はあの人の、深町憲邇のテノールに支配され、中からはあの人そのものの、白濁液で支配されていく。声と白とで犯されて、両方から愛しい人のものにされていく。あの声を聞き、あんな妙な味を体内に入れさせられ、もう、どうしようもないくらい、染まりきっていた。


 ……悲しくも悔しいことに、愛さんとほぼ変わらない表情をしている。ぽけーっと、間抜け面。ああはしたない。くそう。悔しいわ。静香ちゃんはどこか満足げだけど、やっぱりちょっぴりぽけぽけしてる、けれど。……あれ、おかしいわね、割と多いわ、そういう子。


 広い旅館を三部屋使い、みんなでお泊り。部屋割りに手間取っている間にとっととうちの亭主は詩音ちゃんを連れて出て行ってしまった。好きにしていいよと言っていたのでお言葉に甘えさせてもらった。


 深町憲邇先生は、桜園の子供たちと同じ。奈々穂ちゃんだけ一緒にして、ほかの女は誰も入れない。子供たちに奉仕させる。それがいいとみんなで合致した。……まあ、最悪、ごにょごにょ。うるさくはないはず、よね。うん。


 あとは私たちのことだもの、適当に決めたわね。真ん中をあの人たちにすれば文句なく、本当に適当に。誰がどこだったとかはっきりとは覚えてないわ。なにしろこの人数だもの。


 今はみんなで談話室に集まりわいわいと夕食を楽しみにしている。人数も多いしとダメ元でお願いしてみたら、宴会場を使わせてくれるそうでみんなはうきうきそわそわ。二つあってよかったわね、ほんと(というよりそっちのほうが団体客は助かるそうな)。みんなもほかのお客さんとちらほら、楽しそうね。


 ふう。ようやく調子が戻ってきたわ。子供たちの高いはしゃぎ声は目が覚めるものね。……まゆのが、聞こえないけど。元気ないわね、どうし……ああ、ぽけぽけしてる。あの野郎……!


「ねぇまゆおねえちゃん、そんなにおいしいじゅーすってなぁに?」


「まゆ、向こう行きましょう」


「うふふ、教えてあげなーい」


 そういえば奈々穂ちゃんが様子を聞いてたっけ。おぼろげだわまったく。あの幼児の魔の手から逃げるように距離をとり、まだまだにへらとし続けるまゆにしっかりしないとと奮起させてもらった。


 戻ったら小言一時間コースね。ええ場所を問わず夕食の場でしてやるわ。覚悟なさい。


「……へぇ、お母さんもなんだ。ふぅん。ちぇっ。あたしだけのがよかったなー」


「……まゆ、まゆ、ここはお家じゃないのよ? わかってるわよね?」


「うん。だいじょぶ、あたしもお姉さんだかんね! えっへへえ……苦かったなぁ……」


「……」


 二時間延長ね。この際紗絵子さんと協力しましょう。柚香里さんも一緒になってくれるはず、メイドさんは今頼りにならないから、ほかに誰がいいかしら。


 気がつくと、いつもの面子がわんさかほいほい。いつの間にやってきたのかかわいらしいミニスカ姿をお披露目した珍しい泉さんと広子さんに、遅れましたと、花雪ちゃんと花織ちゃんの面倒を見てくれてありがとうと春花さんも合流していた。まあ春花さんは来るわよね、子供を放って一人であの家になんて居られるはずもないし。ああ今日の夕食当番はお流れねぇ、悔しそう。とりあえずいつの間にか増えているエキストラさんを紹介しておいた。学校の先生同士繋がりでもあるかと思っていたけど、小中と高校はまるで違うらしく面識はないみたい。


 娘のおみやげににっこり微笑む、かわいらしいお母さん先生だこと。


「ああそうだ春花さん、明日
上山(うえやま)先生もお休みですよね?」


「ええ、そうですわ」


「じゃあ家も近いことだし、直接伺おうかしら。なんの話かしらね、まゆ?」


「えー知らないよー。そういうのは大人でやってよね、あたし子供だから」


「面倒なときに子供になるんだから。そうだ春花さん、あとでまゆに抹茶を飲ませてやってくださいよ」


「抹茶、ですか。ええ、構いませんけれど……?」


「まゆがどうしても飲みたいんだって、ねえ?」


「うん。どんだけ苦いか試してやるよ」


「まあ、そうでしたの。それほど苦くもありませんわ、おいしいお飲み物ですの。抹茶でしたら花雪が上手ですわ、ねぇ花雪?」


「ええ、そうかもしれませんけれど、お母さまには敵いませんわ」


「まっちゃに上手? どういう意味?」


「お茶を淹れるのにもうまいへたがあるのよ。上手な人の作るお茶はおいしいの。そうねえ、私と良子さんの紅茶どっちがおいしい?」


「あー、そゆこと。お母さんお料理ふっつーだもんね」


「よしよし、まゆはわかってるわね、ありがとう」


「? ほめてないじゃん」


「普通の味のお料理は毎日食べられるのよ。家庭はそれが一番なの。飽きない味っていうのかしら、私のはまゆのおばあちゃんからの手ほどきでね、そう習ったの」


「へぇー。そんなもんなの? でも良子さんめっちゃくちゃおいしいじゃん」


「困ったことにね、あの女はあれが普通なのよ。あれが家庭の味で、あれを維持できるのよ。恐ろしいわ……」


 まず間違いなく舌の肥えた家庭で育っているわ。市販のお味噌汁が濃すぎて飲めたものじゃないときっぱり言い切る辺りインスタントをほぼ経験しておらず、専ら手作りの味に囲まれて育ったに決まってる。飽きなくておいしい、それで普通のお料理を毎日作れる、おかしい女なのよ。……だからダメだったのよ、きっと。ふふん。


「本当ですわ。うちにいたコックさんのものより、毎日食べたいと思わせるのです。胃袋から捕まえに来ていたのですね、彼女は。さすがメイドはあくどいです」


「花雪、その辺にしておきなさい。ここは公共の場ですよ、言葉には気を付けましょう」


「ああすみません、私としたことが」


「……なんか、すごいね、春花さんも花雪さんもさ。花織ちゃんとは違ってさ」


「そうですか? 普通ですわ、ただその、花織は少々おてんばなのです。悩みの種ですわ」


 向こうで桜園の子供たちとはしゃぎまわり駆け回り大声を出しまわり、パティちゃんに怒られていた。……ルーシーちゃんのほうが年上に見えるけど、パティちゃんが年長のお姉ちゃんポジションなのね。


「いいじゃない、元気があるなら。子供は伸び伸び育つべきよ。まゆが塾に通いたいって言っても、低学年のうちは通わせませんからね」予算の問題もありけりだし。


「うん、別にいいよ。なんでそんなこと言うの?」


「もうね、中学からお受験が多いのよ。通わせたい学校が受験だらけでね、そのために小学校のうちからお勉強お勉強で、学習塾に通っていない子のほうが多いみたいよ、都会のほうは。まゆの学校はそうじゃないのかしら?」


「えー? あたしたちまだ一年じゃん。そりゃあ一人二人いたかもしんないけどさ、そろばんとかじゃないの?」


「それもそっか。まだ早かったわね。よかったよかった」


 受験戦争の荒波とやらを、早いうちから経験させたくはないものね。ただ……塾通いのクラスメイトたちに囲まれると、塾に通ったほうが友達と触れ合え、遊べるだなんて現実に、なってほしくもないものね。


 まゆには健やかに育ってほしい。元気でいてほしい。体を壊さずにいてほしい。それだけよ。親が望むのはそれだけ。いい暮らしをさせたいと思うのなら、子供に努力させるのでなく親が努力よ。当たり前の話じゃない。将来いい暮らしを経験するかどうかは、もう大人となった子供の選択よ。それより見識を広めさせるほうがいいわ。それだけじゃないって。いい生活を送るということは、いい大学やいい就職先に就いての安定した暮らしだけじゃないって、やっぱり見聞を広めさせるべきよ、子供のうちはね。百聞は一見にしかず、親からの話だけですべてを決めさせるのは酷じゃあ、ないかしら。


 幼い子供に、親の言葉は絶対だというのに。


「花雪も、よいのですか? 習い事を今でも続けるのは。もうあの家ではないのです。花雪が嫌々と言うのなら無理強いはさせたくありませんわ」


「はい、続けたいのです。お母さまのようにいついつまでも柔らかい体を作りたいのです。少なくともバレエはやめませんわ。お母さまの巨乳の秘密はそこにあると思いますの」


「花雪! な、なんてこと言いますの!」


「あら、その年にもなって垂れていらっしゃらないのは今も続けているバレエの影響でなくて?」


「花雪! お黙りなさい!」


「確かにねえ、たまにぶつかると春花さん柔らかいのよねえ。年齢に負けないためにはバレエなのかしら」


「絵里さんまで……! お、お願いですから黙って下さい!」


 またこんな程度で真っ赤になるのね、信じられないわ。一連の言葉のなにが恥ずかしいのかしら。


「失礼しました。ですけれども、お母さまは少々おかしいということをそろそろ自覚なさってくださいな」


「おかしくありませんっ。このような場所でそんなことを公然と言い放てる花雪のほうこそ改めなさいっ」


「まあまあ、その辺にしとこうよ。憲邇さん遅いなー。ご飯始まっちゃうよ」


「そうねえ、まだかしら……ちょっと電話してやりましょう、遅くなって食べ損ねるのもかわいそうだわ」


「あ、あたしやる! お母さんかけちゃダメだよ!」


 言うが早いかさっさと自分の携帯を取り出してあの人に電話をする。まったくもう、この年から携帯を与えるのは考えものよ、もう少し様子を見てからでいいのに、あの人は甘やかしなんだから……もう三十分、追加ね。


「もしもし憲邇さん? 遅いよこのバカ、早く戻ってこい! ご飯食べれなくなっても知んないぞ!」


 言ってることと顔が違う。さっきはありがとねって、言ってるわ、暗に。まったくもう、うちの子をこんな風に育てて……ダメね、今夜は寝かせない。


 寝かせないわ。
















「意外ね、あんたがそんなひらミニ穿くなんて」


「彼氏の趣味です」


「ふぅん……向こうの広子さんはあれが普通っぽいけど」


 いつものとおりフェミニン満載の広子ちゃんはあたしより長い丈のくせにひらひらとしたプリーツを『短かった……』などと囁く普通にこういうことができない御仁。あれをミニスカと、呼ばない人も多いぐらいなのに。


 見渡せばやはりというか、せんせー宅でないのだからとミニスカをやめロングになっている人ばっかりだった。意気地なしどもめ、あたしはやってんのにさ、けっ。……あれ、あたしだけ? うおーう、そんな恥ずかしいのかいお前さんたち。あ、まゆちゃんしてるわ、えっと、それから静香ちゃんも。え、それだけ? うわーお。うわーお。


「うっせぇぞ、お前さんはおしゃれが向こうから歩いてくるんだろうが、あたしは日々これ精進なの」


「ごめんって。……ね、ねぇ、それさ、もしかして……」


 耳もとで囁かれる言葉に、あたしの産毛がぞくりと立った。……小さく、頷く。お互いに館の熱気で赤くなり、持っていた飲みものを口に含んで、一息つく。あたしと巴ちゃんの二人で壁を背に立ち、久しぶりの帰還に乾杯中なのだ。


「そ、それよりさー、お疲れ様ね! お仕事大変だったんでしょ?」


「そりゃあね。けど、泉ほどじゃないわよ」


「こっ、これは毎日じゃあ」


「……そういう意味じゃなくて」


 うわーしまった、あたしったらまた、くそっ。あの野郎のせいだっ。


「あたしも資格を取ったけどさ、改めて内容を思い返したら大変かもって。なんにも知らなかったなぁ、ほんと」


「慣れればそんなことないけど、お勧めはしませんね。よしんばなったとしても、せんせーと同じ職場は難しいよ?」


「わかってる。うん? なにそれ、あたしじゃ無理みたいなこと言われたかな?」


「あちゃあ、日本語って難しい。あやよあや」


「わかってるって。泉でもこなせるんだから、あたしだってできそう」


「言ったなこの八頭身、お前とりあえずよく効くバストアップ方法教えろよ」


「あれ、あんたの彼氏ならバストダウンじゃない?」


「……それも含めてなっ」


 確かにあいつは、ないちちになったほうが喜びそうではある。奇特な男め、大好きですよー、早く戻って来い。


「あたしは見てのとおりだから試してないし、効果のほどは保証しないけどいくつか、やってみる?」


「おうおう、頼むぜ」


「泉は背もそこそこあるから見栄えはよくなるわね。まずはね、理想系をイメージするの」


「ほうほう」


「その形になりたい、それくらい大きくなりたいって、まず強くイメージするの」


「ほうほう」なら広子ちゃんだな。あの美乳であのサイズ。理想だな。


「そのままの気持ちで、腕立て伏せがまずわかりやすいかな、有名でしょ?」


「あー、聞くかもね」


「やりすぎ厳禁、できる範囲で毎日一定数、
OK?」


「おーけーおーけー」


「もう一つ、さっきと同じ気持ちで胸の前で手のひらをぴったり合わせて、ぐぐっと上に力を込めるの」


「こう?」


「そう、そんな感じ。そのまま大きくなーれーって念じつつ、左右に腕を回転させるの。上体捻っちゃダメよ、腕だけ動かさなくちゃ。こら、ここでやらないの、みっともない。それを毎日五分でも三分でもいいから続けること。毎日が絶対よ、短くていいから。それと毎日イメージして、熱心に念じること。一心不乱なくらいでもいいかもね」


「それ念じるの意味ある?」


「あるわよ」おおしれっと。「思いの力って強いのよ、本当に。肉体改造に関して言えば事実よ。考えてることへ向かって体を動かせば、反応してそうなろうって、当たり前だけど近づいていくんだから」


「へー。あれか、自分の体だけは嘘をつかないってやつか」


「そうそう。本当よ? 動けば動いただけ、きちんと体は変わります。ほかのなにより正直だからね」


「巴ちゃんも?」


「ええ。胸もこのくらいがモデルとしていいなって思うまで大きくなって、そこで止まったの。ちょっとできすぎかなって思うくらい」


「ほえー。信じらんねー。胸の成長とかコントロールできるんだ」


「ある程度はね。あたしは偶然ぴったりだっただけよ。知ってる人でイメージした人としてない人とじゃ、段違いかな」


「マジかよー。ただやるだけじゃダメなのか」


「考えてやらないとね。その辺、メイド長は詳しそうだし実践してそうだけど」


「あー、あいつね。教えてくれなかった。照れて逃げてヒミツですの一点張り。アホか。挙句には恋のパワーですの一言。ふざけんな」


「……それは本当だと思うわよ」


「ええっ? 巴ちゃんまでそんなこと言うの?」


「運動も変わるけど、恋でも体は変わると、思うかな。ほらよくホルモンが出るって言うじゃない。なんかね、ここにいる女の子を見てたらそんな気がしてきた。ほら静香ちゃんいるでしょ? あの子一ヶ月かそこらに会っただけだけど、胸だけじゃなくて全体的に成長してるじゃない?」


「おお、言われてみれば。ほとんど毎日会ってるから気づかなんだわい」


「あと千歳ちゃんも確実に一センチや二センチは膨らんでるわね、ウエストそのままで」


「ほほう、なるほど」


「泉、目線が親父みたいでやらしいわよ」


「うっさいなー、んなこと言うからでしょ」


「それとね、絵里さんも確実に大きくなってるわ。間違いない」


「ああ、なってるな。絶対だな」


 向こうでまゆちゃんの電話に途中で変わり、旦那にお小言を繰り出している女めは絶対に大きくなっている。そうとしか思えない。


「冗談じゃないわよ、本当に大きくなってる。大体見ればスリーサイズくらいはわかるから、あれは大きくなってるわね」


「おお、男みたいなこと言うのな」


「仕事柄よ。……泉もさ、少し、でかくなってんじゃない?」


「……マジ? うわ、ちょっと測りてー」


 気づかなんだ。マジかよ、恋かよ、すげー。


「……もしくは……そんなことしてるから……その……興奮? し、して……るとかかな」


「……」


 浮かれ気分がどこへやら。あっという間に転落したあたくし、沢田泉は……ノーパンにノーブラの自分を見下ろし、乳首が隆起していないことにほっと胸を撫で下ろし、直に近い感触にぞっともし……巴ちゃんでなくとも、見ればわかるとお殿様は言った。つまり……


 衆目の目に晒されている、この大広間。老若男女大勢の人が話している。顔の向きがこっちの人も大勢、いる。通りすがる男の人はもちろん、女の人の顔も途端に見れなく、なって、普通に立っていたはずの両脚がなぜか閉じだし、片手はぴっちりとスカートに添えられ、身を縮こまらせていった。


「ベスト、閉じちゃえば?」


「い、嫌よ、熱いもの……」


 できるわけ、ないじゃない。


 せんせーに確認、してもらなきゃいけないもの。できてなかったらお仕置きよ、もっとひどいこと、されちゃうわ……


 されたい、かも。明らかに海でされてきた全員と同じようなことを。中でも紗絵子さんは一つ上の辱めを、受けてきたはずだから、同じことでも、もっとひどいことでも、あたしは……


 今朝のできごととレポートの送信先は、あっちの携帯でよかったわよね。いじって、もらえるかな。優しく、してもらえるかな。それで今夜また、だなんて、せんせーが我慢できずに、なんてことになったらどうしよう。どうしようかな。二日でそんなにたくさん、持ちやしないわ、あーやばい、ほんとどーしよー……


「泉……顔、やばいわよ」


「え、え? 変な顔してた?」


「うん。なんかを堪えて笑ってるみたいで、でも堪えて我慢してるのが嬉しいみたいな、変な笑いしてた。言いたいことわかるわね?」


「……はい……」


「頼むからそんな顔を表に出すことはやめてよね。そこを我慢なさいよ。その、辛いのは、わかるけど」


「う、うん……」


 できそうにないけど。


 こなしてる喜びに、受けている辱めに、我慢できっこなかった。今朝を……思う存分に知らしめて、いるのだから。


「あーほんと熱いねー巴ちゃんっ」


「い、泉っ」


 ぱたぱたと、チェックのひらミニをひらひらさせ仰ぐ真似をする。……どくどくと心臓が高鳴り、またあたしを昂らせていった。


 大丈夫よ、見えないぎりぎりの線ぐらいわかるわ。ボーダーラインを超えないくらい高校の時分でマスターしてます。誰もこっち見てやしないわよ、これだけ人多いんだから。暑いのは事実なんだし、実際これくらいやって涼みたいわ。


 ……どうしよう……


 
(はずか)しい。
















































































 第四十二話あとがき的戯言




 このお話はお約束で出来ています。いや普通気づくでしょ、とお思いかと存じますが、そこはフィクションのお約束なのです。野外露出でここまでして気づかれないはずないじゃん、すぐそこにいるんでしょ? と、お思いでしょうが少なくとも作中でそのような描写はないのです。気づかれていない体でお話が進むのです。真実はさておき。さて、どうでもいいですねこんなことは。


 こんばんは、
三日月(みかづき)まるるです。ここまで読了くださりありがとうございました。「ごめんなさい」のあとがきは作中がちょっぴりだけ暗く、悲しいお話なのであとがきくらいはとはっちゃけたものを書きたかったために作者とキャラクターの対談などとおふざけをして参りましたが、そろそろ作中も年中無休の春と常夏気分が満載となり、作者的にはとてもとても楽しいお話になっていると思うのでもうあとがきでのおふざけはやめようかと思います。簡潔にしようかなと(また暗くなってきたらやるかもしれませんけれど)。キャラクターのスリーサイズは欠かしませんが(成長しているのなら追記したいですし)、報告事項など蛇足に近いものとしようかと思います。


 では早速。外伝でする予定だったまゆさん絵里さん親子の電車露出は、本編となる予定です。外伝で『電車露出』というごくありふれたテーマで、別にまゆさん絵里さん親子にこだわらずに書こうかと思っております。忘れているわけでは決してないので、今しばらくお待ちください。


 なお、作中のバストアップ運動はうそっぱちです。オリジナルの適当です。効果のほどは保障しません。確か垂れないための運動だったような気がしますが、作者自身うろ覚えなのでわかりません。気にしないでくださいませ。でも、即興で考えたのですけれどなんとなく効きそうな気がしませんか? 念じながら動くとそのとおりに体が変化するのは本当だそうですよ。胸はどうか知りませんが。


 大きくなったとは巴さんも言っていましたが、数値で表せない程度の場合は書きません。
8080.5などになっても、大きくなって見えますけれどここでは書きません。あしからず。完全に蛇足ですが、作中での巴さんの台詞は膨らみだした、大きくなりつつある、という程度と思っていただけると助かります。次話で出せたらいいなと思ってはいますが、はてさて。


 ここまで読了くださりましてありがとうございました。このまま適当に続けていこうかと思いますので、できましたらお付き合いくださるようお願いいたします。見捨てないでください。さようなら。




 
20100422 三日月まるる




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2010/07/25 13:42 | 小説COMMENT(0)TRACKBACK(0)  TOP

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