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「ごめんなさい」その四十四_第四十三話_混浴温泉

 お盆ですがこんばんわ、三日月です。
 インターネットにはお盆休みがないのでこんなことができますね、不思議なものです。
 すみませんでした! 本当にすみません、今気付いたのですが、目次などから四十二話へのリンクが間違っていました! 本当に申しわけありません。言葉もありません。直しておきましたのでどうぞお許しくださいませ。
 それなのに毎度拍手ありがとうございます。嬉しいです。嬉しいです。
 それでは第四十三話です、どうぞ。




















 四十三 混浴温泉








「はいこれ、お母さんにおみやげだよ」


「あら、ありがとう
奈々穂(ななほ)ちゃん」


 なにかしら……うわぁ、綺麗な貝がら……綺麗な波模様……


「みつけるのたいへんだったんだからねっ。どお?」


「うん、綺麗。ありがとう」


「えへへ……こんどはお母さんもいっしょにいこうねっ」


 胸に飛び込んできた。ぐりぐりと谷間に顔を埋め、こちらを見上げてにっこり。……黙ってなさいよ? いいわね?


 奈々穂ちゃんはなにも、知らなかった。桜園へ誰かが来たかどうかなど。というよりも、荷物を置いてすぐ水着を買いに行ったみたい。じゃあ知らないか、
憲邇(けんじ)さんも一緒だったなら二人とも知らないでしょうし、とするとあとは……


「そうね、次のお休みにでも一緒に行こっか」


「うん! あ、お兄ちゃん、じゃないや、せんせぇはね、いそがしいからむりでもいいよ? それにね、せんせぇいっしょだとたいへんだから」


「そうね……次は一緒じゃないから、私たちとお友達誘って行きましょうか」


「うん! あのね、せんせぇね、うみにいっしょはたいへんだよ、お母さんもきをつけなきゃ」


「なにがあったの?」


「あのね──」


 本当に疲れ知らずになっちゃったものね。向こうの桜園の子供たちの半分は遊び疲れて撃沈してるのに、いつの間に……なんて、母親面。本当の母親が傍にいるのに、その人はたおやかに微笑んでいるだけ。いいのかな、言ってもいいと、思うけど。


「そいでね、おっきいこえじゃいえないんだけどね、せんせぇね……」


 すぐ横を、ほかの子供が駆け抜けていった。


「……へ、へぇ、そ、そうなんだ……全員?」


「うん、みーんな」


「それは大変ね……ええ大変ね……」


 向こうの先輩は望むところ、かもしれないけど。なにしろ下着がないのにあんなミニで、暑いからってぱたぱた、はしたなくもスカートを自分ではためかせているのだから。


 ……どう……しよう……できっこない……そんなのできっこないから早く、いっそ早く言ってほしい……どうせできないんだから、強く強く、早くしろよってくらいに強く、言ってほしい……


「やりなさいよ?」びくっとなる、
紗絵子(さえこ)さんの声。「あなただけ免れるわけにはいかないんだから」そんなことしてるくせに、って、暗に言ってる。


「……奈々穂ちゃん、海へは先生は連れていかないようにしよっか」


「えー? だめだよお母さんだけなんてさ。いいじゃん、あのね、しゃしんってさ、すっごくいいよ? おみせのもいいけど、せんせぇのもばっちりなんだから」


「……」


 そこは否定しないけど……でも、無理、無理よ、昨日あんなとんでもない変態的なことした、ばっかりなのに……できるはずないからいっそ早めに、言ってほしい……


「奈々穂ちゃん、大丈夫よ。憲邇くんがいなくても、この調子ならきっと自分からするわ。命令されてね」


「えっ、そ、そんなわけありません!」


「えー? お母さんえっちなの?」


「違うわよー? 大丈夫、紗絵子さんは適当なことばっかり言うから」


「奈々穂ちゃん、今日の
広子(ひろこ)さんのおっぱい柔らかいでしょ?」


 反射的に飛びのいた。胸の中にいた奈々穂ちゃんは不思議そうに見上げ、こちらに歩いてくる。あとずさる。「お母さん? え……? ななほ、いや?」


「あ、ち、ちが……」


 途端に涙ぐむかわいい子供に、覚悟を決めて迎え入れるしかなかった。


「あ、うん。きょうやわかいね、どうしたの?」


 感触を確かめるように何度も何度も、ぐりぐり……恥ずかしさに執拗に頭を撫でてしまった。


「ふふふ。お母さんはね、えっちだからえっちなことを聞くと柔らかくなっちゃうのよ」


「……違います……」親子だ……


「ふぅん、よくわかんないや。おんなの人は大人になるとえっちになるの? おんなの子はえっちじゃあないでしょ?」


「奈々穂ちゃん、ジュース買ってあげるから向こう行きましょうか」


「えー? お母さんへんだよ? どしたの? だいじょおぶ?」


 ぽんぽんと気遣いながらも胸を何度も叩くように触る五歳児に途方に暮れていると憲邇さんが戻ってきた。よかったぁ……救世主です。


「おっそい! ったく、憲邇くんはレディーを待たせるなと
佳乃(よしの)先生に教わらなかったのかしら」


 
静香(しずか)ちゃんのお姉さんの大口(おおぐち)佳乃先生。高校教師、英語の、グラマーの。……グラマラスな、それでいて憲邇さんの学生時代の彼女……という、倫理をちょびっとだけ超えてしまった人(清いお付き合いだったとは、わかるけど)。一度妹さんと一緒に来たときに見かけたけど、まさかのまさか。せっかくのチャンスなので詳しいお話を、この人からもちょっとはほしいなぁ。


「すみません。こちらも今日を逃すと時間がなさそうだったので。ね、
詩音(ふみね)ちゃん?」


「……はぃ……」


 ああ、真っ赤だ。またぞろ車内でなにをしてたのか、想像に難くありませんね、ふんっだ。そんなに固く手を繋いで、手袋越しにも熱が伝わってそう。


「まあいいじゃないですか、夕食にはどうにか間に合ったんだし。紗絵子さんも変わってませんね、口やかましいこと」


「あらぁ? 年下の上に生徒にまで手を出した反面教師のくせによく言うわ」


 それは意味が違うような。


「しつこいですよっ、もう時効です」


「ふふん、新任早々噂が立って揉めたんでしょ? 時効はあるのかしら?」


「母さん、その辺にしておいてくれ」


 憲邇さんが言いようやく矛を収める。やっぱりというか、昔にいろいろあったみたいね。


 仲居さんから声がかかる。夕食の用意ができたみたい。まだ軽く睨め合う大人二人を尻目に、みんなで宴会場のほうへ移動して、一緒に食事だ食事。さっきまで沈んでいた子供たちが浮かび上がり、奈々穂ちゃんと一緒に元気よく走っていく。苦笑したパティちゃんが肩をいからせて追いかけていった。


 今だけは恋人となった
(ともえ)さんがすっと憲邇さんの隣に立ち、空いた手を引いていこうとする。ここぞとばかりに、やっぱりよりを戻したいんですねそうでしょう?


 ああ、恥ずかしそう。て思ってたら引っ込めて反対の詩音ちゃんの手を引いてっちゃった。かわいらしい(おっと失礼、こほん)。でもそうしてると、詩音ちゃんが妹か子供の、若夫婦ですね、ふふ。


 ほかの多くの女の子たちはやっぱり、憲邇さんが先に歩くまで待っていた。なるべく後ろを、それはみんな変わらない。むしろ巴さんのは微笑ましくて助かってるくらい。歩き出さない
千歳(ちとせ)ちゃん静香ちゃんに一緒にいた(ひかる)さん可奈(かな)さん(だったっけ?)が怪訝な顔で何度も振り向いて呼びかけてる。ふふ、ごめんね、私たちはこういう、面倒な女なの。


 でも面倒と思わない、大好きな人が主人なの。だから後ろを、歩かせてもらうの。


 ついていくの。どんなこと、言われても。


 ……海……やっぱり一緒、しようかな……








 先に温泉に入ろうかと思った矢先に憲邇さんが出かけるものだからみんなもまだ入らずじまい。だよね。一緒に入るよね。なんせ女子高生のほうから誘ってるんだから、ここぞとばかりに他人と一緒に混浴、したいよね。へへん。


 そのせいでせっかくの温泉旅館なのに浴衣を着ている人が半分くらいしかおらず、私と
(いずみ)先輩、春花(はるか)さんはもちろんだけどほかにもちらほら、着いてすぐ着替えなかった人がいた。主にぽけぽけと、ぼーっと、にへらっと、してる。……まあ、うん、考えないようにしようかな。どうせ私も同じ境遇になれば同じ顛末をたどるんだろうし。気にしないように。


 それよりも並んである豪勢なお食事に目を奪われる。旅館の華はこれですよね、先輩……温泉ももちろんですけど。大浴場も楽しみ。


 若干座る場所で押し問答になりかけたけど、頑として(恋人だからと)譲らなかった巴さんが憲邇さんの隣、そしてもう片方には紗絵子さんが座り、膝の上には奈々穂ちゃんが陣取った(前に二つお膳を持ってきてまでと、無理言った)。ほかは大体親しい人で集まってる。私と泉先輩は一番端に座り、なるべく人目を避けてしまった。


「いただきます」


 と一斉に合唱すると女子高生二人だけが目を丸くして、すでにつまんだ箸を止めていた。


「……なんちゅう集まりだ……」


「……あ、あたしら育ち悪いみたい。うわ、はず……」


「そうよー、先生の勤めた十一年、女子高生は確実にマナーや態度が悪くなっております。年寄りの戯言だけど、昔は机の上にあぐらをかく女子なんていても中学まで、もしくは不良だけだったのよ」


「休みぐらい先生やめてよー、羽伸ばさせてくれよ」


「逆でしょ、ここは公共の場で、私たちはあなたの家族じゃないのよ。人前を気にせず恥知らずな人間になれって教育してるわけじゃないんだから」


「まあまあ、その辺で。でもやっぱり、いただきますはしたほうがいいよ。おいしい食事には感謝しなきゃね」


「……はーい」


 すごすごと耳に痛い小言を聞き、取ったものを戻していただきますと小さく呟いた。ちょっと悪かったかな、これくらいで。でもやっぱり、あなたたち二人だけお行儀、悪いかも。食べる口、大きいね。


 ただちょっとした小言なんておいしい食事にすぐ消えてなくなり、みんなの目尻が下がる下がる。ああやっぱりこの辺の旅館は質が高いんですねぇ先輩。海が近いから海産物がおいしいこと。うわこのエビ、活き活きしてる。鯛なんてこの辺獲れるのかな? 地元産らしいけど、うわぁおいしい、お刺身がとろける……


「すげーおいしい……地元は泊まらないから、盲点だよなー」


「そうですよね……飛び回ったあとにここに戻ってまで泊まるなんて考えられませんし」


 二人でしみじみ。やはりというか郷土の味が一番舌に馴染みやすく、小旅行に遠出をしたはいいものの評判の旅館がおいしくなかった、なんてことはざらだった。テレビはやっぱり信用ならない、と三回くらい裏切られ、専ら口コミを旅行先で聞きまわりそこへ突撃することになっていき、結局この辺が一番という結論に至りそう。


 ほかのみんなもおいしいと連呼していた。特に目を見張っていたのが春花さん。こういうところは経験がないのか、初めて食べるものに驚愕し、ため息の連続だった。なんて三十九歳……隣の男性に嫌がらせのように「あーん」を繰り返す四十とはえらい違いだわ。


「だめだよっ、せんせぇあーん?」


「あら憲邇くん、私のご飯が食べられないっていうの?」


「あんまりこいつを困らせないでください、奈々穂ちゃんもそうひっきりなしじゃあこいつが困るでしょ?」


 ……らしい巴さん。モトカノめ、ずるいぞ。


「はぁい。どお? おいしい?」


「うん、おいしい」


「えっへっへぇ……こんなにおいしいんだもん、もっとせんせぇにたべてもらわなくっちゃ」


「ダメよ、その辺にしといて奈々穂ちゃんも食べないと。そ、それより、あた、あたしからも、ほ、ほら、あ、あ、あー、あー、あーん……っ」


 今だけのうぶな巴さんだこと。初めて食べさせるとき、あんなに恥じらってたのはみゆちゃんくらいだったかな……みんな嬉しくって、嬉々としてやってたような……
絵里(えり)さんはおかしいから、むしろこんな関係になってから恥じらうようになり、昨日食べさせ合いっこしたとき一度だけに留めて恥ずかしがってたっけ。やっぱりあいつはおかしいわ。おいしい。


 視線をあっちこっち行き来させ、唯一見上げない瞳で窺う巴さんに、にっこり。


「おいしいよ、ありがとう」


「……ううん……ね、ね、ねぇ……」


 ほんのちょっとだけ口を開け、ほんのちょっとだけ、それを突き出す。初めてねだる食べさせてもらうことに、いかに巴さんとはいえ恥じらわないわけはないみたい。初めて、だよね、打ち明ける前の強気な彼女がこんなことをしてたとは思えない。今も強気だけど。


 あんまりにも自然体で運ばれた一切れのお刺身に戸惑い、広がっていく味なんてきっとわからずじまいのまま「おいしい」と呟く彼女。またまたにっこりの彼氏をじっと見たまま噛み締め、すぐになくなってしまったであろうお刺身にしょんぼりと、次をねだろうかと逡巡してお膳と笑顔をいったりきたり。うわぁ、手に取るようにわかるなぁ。最初の頃のみゆちゃん
柚香里(ゆかり)さんそっくり。うまく言えない、もどかしい思いに揺れてる。


 キリッとした美人だから、余計かわいい。


「ちょっと先生、あっちこそ注意すべきじゃない? 公然といちゃいちゃされちゃ困ります」でも箸で人指すのはどうかな、ほら隣の同級生がやめなさいって言うくらいなのよ。


「光、妬まない妬まない。へたに彼氏できるより、片思いのほうが幸せよ?」


「そうかなぁ、恋人のほうが幸せそうだけど」


 また千歳ちゃん。「あれくらいもダメかな? 人前でいちゃいちゃって、キスからじゃない?」


「いいえ、キスのほうが許せます。千歳ちゃんは甘いわ、再教育しないと」


「そうよ
深町(ふかまち)くん、そういうのは二人きりにしときなさい」


「そうだね、あんまりやりすぎるのも……はい、これで最後」


「……ありがと……おいしい……」


 再度ねだられ、断りきれない憲邇さん。ダメですね、
0点です。そんなことしてると、ほら、瞳外しませんよ? 射抜かれますよ? あのモデルの視線に。


「? なんであーんがだめなの?」


「奈々穂ちゃんが大人になったらわかるわ、こればっかりは説明のしようがないわね……巴さん、そんなに見ないの。デートのとき散々見てるでしょ?」


「は、はい……」


 それでもちらちら、追ってしまう。恋人のフリが演技になっていない、ひどい人を。初体験ににやにやしかけ、箸を口に含んだまま目を閉じてそれごと噛み締めてる。みゆちゃんは空いた手をよく頬に寄せてるけど、この人はこうなんだ。ふぅん。メイドは胸に手を当てたり、いろいろあるのね。


「おいしいね、パティちゃん」


 先輩の隣にいる六年生に声をかける。さっきから目を輝かせておいしいお料理に夢中の女の子。ほかのお友達も割とおとなしいので自分の食事に集中できてるみたい。ほんと、お姉さんだわ。


「は、はい……で、でもマスターのが、おいしいな……」


 ぼそっとまあ、ちっちゃい子はみんな同じこと言うのね。「けた、今朝にですね、深町先生に腕を振るってもらったんです。おい、おいしくって……」


「へぇ、いいじゃん。たまにしかしないくせにうまいのよね、せんせー」


「そうですね……」


 男の人の料理は同じものを作ってもどこか野性味といいますか、ワイルドな味になる気がする。若かりし日の父もたまにして、マイルドだった母たちと違い不思議だったっけ。


「深町先生はご自分のこと、器用貧乏だって言ってました。なな、なんでもできることはできるけど、上手じゃないって」


「そう? そーかねー……せんせーは一つのことしかできなさそうだけど」


「ぴ、ピアノ弾けるんですよ、深町先生」


「……なんだと?」


 私も初耳だ。「ががく、楽器は大抵弾けるそうです。ピアノもヴァイオリンも、フルートも」


「ちょっと待ちなさいパティちゃん、そんなはずないわ、あの野郎が楽才あるだなんて信じられない」


「わた、私たちのとこに、古いピアノあるんです。調律もできるし、具合確かめるのに一曲、ひて、披露してくれることがあるんです」


「……嘘だ、絶対嘘。どうせ『猫踏んじゃった』でしょ?」


「いいえ、リクエストしたら、ドラマとか映画の曲を弾いてくれますし、よく演奏してくれるのは『月の光』です。ど、どぶ、なんだったかな、落ち着く静かな曲で、目を閉じたくなるやつです」


「……それ、あれでしょ、結構前の深夜ドラマの主題歌でしょ、美人のお姉ちゃんが歌ってて、ドラマは映画化までした、お見通しだ! ってやつ」


 それは『月光』です。あのちょっと暗い感じの歌ばっかり歌う人でしょ。ていうか、今聞いたのがどんな曲か知ってるんですか?


「いいえ、クラシックのほうです」


「……」


 どうしても先輩は認めたくないみたいだった。苦虫を噛み潰したような顔で悔しいあまりばくばく食べ進めてる。


「あ、あの、でで、でも、そのくらいは、ちょっと習いごとすれば誰でもできるようになるって、いく、言ってましたけど。すごくないって」


「昔取った杵柄にピアノがあるやつが許せないだけよ。憎たらしい、そりゃあ学生時代にピアノ教室にでも通えば弾けるようにはなるでしょーよ。でもね、できるってのがもう、ムカつくの」


「先輩、そこまで言わなくても」


「広子ちゃん『月の光』を知ってるの?」


「いいえ……有名な曲なんですか」


「ドビュッシーの中じゃね。あたしも詳しくないけどさ、あれ弾けないのよね、ムッカちーん」


「……」つっこまないぞ。「先輩、ピアノ習ってましたっけ」


「意地でね、そんなのできっこないだろっておばあちゃんが挑発してきたから、ちょびっとだけ通ってやったのよ。でも無理、あたしゃ演奏するより歌うほうが好きだね」


 初耳です。確かに先輩は歌が上手で、カラオケじゃ感服しっぱなしですけど……


「じゃあせんせーったらピアノにヴァイオリンにフルート、全部習ってたっていうの?」


「は、はい。そう聞きました」


「ありえねぇ……ますますムカつくわ。ちょっとはひけらかしなさいよ。そしたら聞いてへたくそって笑ってやれんのに」


「上手なの、憲邇さんは」


「はいっ。とってもとっても上手ですっ。聞きほれますっ。楽譜見ないで弾けるの、春花さんみたいですごいですっ」


「そっかぁ、それはすごいね。パティちゃん教えてもらったら?」


「えっ……えと、ええ……」


 あ、指つんつんしてる。パティちゃんはこうなのね。


「考えたことなかった……」とぽつり。なんてもったいない、絶好のチャンスなのに。


「やってみようよ、なんでも試しにさ、やってみるとたのしーよ? うまくできなくてもね、あ、これうまい、ん、教えるやつが悪いんだから」


「そそ、そんなことないです。深町先生は、お勉強教えるのとっても上手なんです」


「そーお? ふふ、じゃあピアノも上手だよ、教えてもらおうよ」


「……」


 今度はくるくるしだした、箸持ったまま。考えてる、どうしようって。ふふ。


 甘えなさい。あなたたちのお父さんは甘やかしてくれます。もっとね、子供なんだから甘え方を上手になりなさい。先輩はそう教えてる。


「……おいすが、お忙しいですから、お時間があるときに、もし万が一いいよって、言ってくださるのなら……」


「せんせーは暇よ。内科医と外科医の忙しさは全然違うわ。奪ってやりなさいあの野郎のプライベートを」


 嘘ばっかり。そんなに変わらずどっちも忙しいのに(救急はもっと激務ですけど)。そこまで言ってもまだ、パティちゃんは悩んでる。……本当に、なにもかもを遠慮するのが当たり前なのね。遠慮しないでいいよと、憲邇さんが言うから余計に、なのね、この子たちは。


 絵里さんのように背中をぽんと押さないといけないのね。ああ、だから憲邇さんはそれが簡単にできる彼女に惹かれて、第一夫人にしてるんですね、まったくもう。ちらりと目をやると珍しくあの親子はうるさくはなかった。春花さんみたく物静かでもないですけど、落ち着いてるというか。どうしたんでしょう。


「……わかった、せんせーにお願いして月一ぐらいでピアノ教室を開いてもらいましょう。講師はせんせーと春花さんね、決まり。それでみんなで習いましょうか」


「えっ、で、でも」


「どうせパティちゃんもしばらくあのお家で過ごすんでしょ? だったらみんなが集まってせんせーがお休みの日に、みんなでピアノに触るのもいいじゃない。そうしましょう、それでいちゃいちゃして」ひそひそ声。「上達しなかったらえっちなお仕置きしてもらうのよ、ね?」


「はいっ」あ、これで決心がついたみたい。うわぁ……お仲間ですね、みんな。ド
Mもいいところです。


 それならいいって、途端に目を輝かせてばくばく食べ出してる。かわいい……のに、そうなる原因にちょっと、ううん、それもこれも憲邇さんのせいだからいいっか。いいよね。


 食事中ずっと、どちらかの腕を胸の前にやらないといけなくした、憲邇さんが悪いんです。先輩すごいですよね、よくも平気でしゃあしゃあと晒しますよね……私はわからないけど、ううん。


「逆にあの野郎をスキー教室にでも誘ったらさぞ笑えるだろーなー」


「ああ、でしょうね」


「深町先生運動はからっきしですからね」


 三人で頷き合った。パティちゃんの隣のベッキーちゃんルーシーちゃんもさっきから食事に夢中だけど、きっと同意してくれるはず。


「今日だって海でへたれだったでしょ?」


「い、いいえっ、とってもカッコよく、溺れそうになった柚香里さん助けましたっ」


「ちっ。そーゆーことはね、ちゃんと係の人がいるんだからその人に任せりゃあいいのに。まったくもう、ムカつくわ、どうせむきむきじゃないくせに」


「でで、でも、なんだかたくましくなってた気が、します」


「そうですよ先輩。今までの早朝の成果が出てるんです」


「けっ、けっ。どいつもこいつものぼせやがって。あいつはそんないいやつじゃありませんっ。目を覚ませこのたくらんけ!」


 なんですかそれ、どういう意味ですか? パティちゃんもぱちくり。


「バカ野郎ってことよ。おっかしーなー、あたし広子ちゃんとは同世代のはずなのに」


「先輩はやることなすこと古いんじゃないですか」


「うっさいなー、いーじゃんねー? どーせあたしゃ時代の流れについてけない女よ。どーぞ置いてけぼりにすればいーじゃない」


「不貞腐れないでください、もう」


「だってあたし温泉入ったら帰宅だもの。置いてけぼりで……してもらえなかったらやだわ」


 またボソッと最後だけ。わかりますけど。へへん、私は父がまだ帰れない(でも心配するな、知り合いの家にいる)って連絡くれたからお泊りですけど、先輩は親戚がいるとはいえ帰らないわけにはいかず。先輩昨夜二回もしたのにまだなんですね、ほんと貪欲。


 あの雑誌を買いたい気持ちは、理解できますけど。買って二人で話し合いたいっていうのも、すごくよくわかりますけど。でもやりすぎです、今度は私たちにもですね、ごにょごにょ。


「ああ奈々穂ちゃん、髪が入っちゃうよ」


 向こうじゃみんなの主人が、子供の長い髪がご飯につかないよう持ってあげてる。前にちゃんとしなさいの言い付けてできるようになったのに、また教えないと。


「あ、ほんとだ。ありがと、お兄ちゃんもお母さんみたいなこというね」


「あ、そ、そう?」


「そうだよ、ん、おいしい。あのね、おいしいんだよ。おにいちゃ、せんせぇといっしょのごはんがおいしくって、いつもはしてるんだよ? ほんとだよ?」


「うん、わかってるよ。おいしいね」


「ほんと、ごはんっておいしいなぁ。はい、あーん?」


「……おいしいよ、ありがとう」


「ねぇ、おいしいわねぇ。ね、巴さんも彼氏とご飯はおいしいでしょ?」


「え、ええ、はい。おいしいです、確かに。こんなに味を、感じる食事は久しぶり、かも」


 巴さんもセミロングよりちょっと長く、紗絵子さんも長い。でも大人はきちんと持って食べるから、奈々穂ちゃんのようにかき上げる必要は丼物(うどんとか)でないと平気だけど、お吸い物は熱くて持てないのか顔のほうを近づけて飲もうとしてる。熱くても飲みたいのね、おいしいから。ふうふうしながら飲むとこだけは、本当に子供なのに。そうすると向こう側からは谷間が丸見えよ、もっと注意なさい、もう。ちゃんと言っとかなきゃ、憲邇さんだって困るんだから。


 奈々穂ちゃんは物珍しさから到着と同時に浴衣に着替え、楽しそうにくるくるしていたらしい。ベッキーちゃんとおんなじだねと、手を合わせてはしゃいでたとか。もう、その調子で下着がちらちらしてるって、あんなに言ったのに。


「ふふふ。じゃあ私の茶碗蒸しどうぞ。好きだったわよね? ごめんね、猫舌なの」


「え、い、いいですよ」


「いらないの? じゃあななほもらうね!」


「あっ、もう、しょうがない子ね、ふふ」


 あっという間に奪ってにっこりぱくり。本当に手のかかる子供ですよね、ふふふ。そういう子ほどかわいいっていうの、もう実感してます。


「お母さん、あたしもああやってご飯食べたいからさ、えくすてかしてよ」


「十年早いわ」


 ようやく高い声を出し始めたまゆちゃんに、母親はぴしっとたしなめていた。


「ちぇっ。じゃあおさしみちょうだい、赤いやつ」


「はいはい。白いほうがおいしいのよ。赤身より白身ね」


「そう? そっかなぁ。赤いほうが味あっておいしいよ」


「子供ねえ。みゆちゃんもおんなじかしら?」


「えと、はい、赤いおさしみがおいしいです」


「そう? お母さんは白いほうがおいしいけどなぁ。じゃあみゆには赤いほうあげるわね」


 まゆちゃんの隣にはみゆちゃんがいて、その隣はもちろん母親の柚香里さんがいる。仲のいい子供同士を挟んで、仲のよい母親同士。


「お、多いよぅ、そんなに食べらんない。み、みゆの白いの、あげる」


「あら、ありがとう」


「みゆちゃん食べたほうがいいよ、海もそうだし、朝もさ、ん、おいしいね、あんだけ動いたんだから」


「あ、ううう、そ、そうだけど……」


「まゆは食べすぎ、太るわよ?」


「んだよ、
良子(りょうこ)さんだってめっちゃくちゃ食ってんじゃん、ねー?」


「……ん、そうですよ、ちっちゃい子はよく食べなくっちゃ」


 向こう側のメイドはもぐもぐと飲み込んでから答えをくれる。なんとなく、メイド服でもパジャマでもない私服は違和感があった。


「そうだけどねえ。まゆ、良子さんみたいに、話すときはちゃんと食べてからになさい」


「はーい。みゆちゃんとかすげーよなー……」


「そ、そんなことないよ。け、憲邇さんの前で、おぎょうぎ悪いとこ見せたくないだけ」


「だいじょぶだよ、憲邇さん今彼女さんと奈々穂ちゃんに忙しいからへーきへーき」


「そ、そういうのやなの。見てないからちょっとくらいずぼらでもいいやっていうの、みゆはやりたくないの」


「みゆちゃんいっつもそうだよねぇ。偉いなぁ」


「そうねぇ。偉いわねぇみゆは。でもたまには気を抜いていいのよ? いつもいつも気を張ってちゃ大変でしょう?」


「はってないよ、大丈夫。これが普通なの。お母さんだってそうじゃない」


「そう? そんなことないわよ。みゆと二人っきりは気を抜いてだらだらしてるわ」


「そうかなぁ。お母さん高校生の頃もそういう、はしたないとこなかったんでしょ? あぐらかいたりとか、憲邇さん言ってたよ、乱暴で元気だったけど、きちんとしてたって」


「そうそう! そこの女子はね、変だったわ」


 静香ちゃんのお姉さん、佳乃先生が割って入る。「言葉遣いも態度も乱暴だったのに、どこか油断しないのよ。危なっかしいのに。ほかの女生徒とは一線を画しててね、どこか礼儀正しくて行儀もいいし、今みたいにいただきますは欠かさなくって、だから人気だったのかしら。策士ね」


「わたしが高校生だったのはかなり前ですよ、そんなことありませんし、策士じゃないです」


「そうかしら? 大口開けて笑うくせに、たまにしとやか気取ってたじゃない。椅子に座るときいっつも両足揃えて、大変だったんでしょ?」


「わたしはあれが普通です。子供の頃からずっとですから」


「嘘こけ、男子蹴飛ばしてたくせにそんなわけないじゃない。そうやって姿勢よく背筋伸ばしてるのだって無理してるんでしょ?」


「普通です。そろばん習ってましたから、正座が普通だっただけです」


「え、そろばんって正座しなきゃいけないの? うわ、やってる子すげーな」


「ああ、わたしの通ってたところは畳だったから正座が普通だったの。今はもう違うんじゃないかしら」


「それにしたって、あなたおかしかったのよ? 転校初日でどれだけのいたいけな男子を掻っ攫ったか、先生はまだ覚えてるわ」


「掻っ攫ってませんっ、誇張表現もほどほどにしてくださいっ」


「その中に深町くんがいなかったら全然よかったのよ、あんなにこじれるなんて」


「それは、ごめんなさい。でも当時はばかみたいに憲邇が好き、だったから。奪うようなことして、すみませんでした」


 今もな、くせに。いいですけどねっ。憲邇さんが年上の綺麗なお姉さんに(文字通り)弱いのは仕方ありませんから。


「へえ、でもそれは悪いのは深町憲邇先生でしょ? 先に付き合ってたほうと別れるなんて不誠実じゃない、ねえまゆ?」


「うーん難しいよなー。七、三で憲邇さんが悪いってしようよ。しょうがないじゃん、別の人好きになるのこともさ、あるって」


「ふぅん? まゆちゃんって結構大人びてるのね、おてんばっぽいのに」


 違うんですよ、それには深い理由があってですね、言えませんけど。


「先生もね、わかってるのよ。恋人は所詮恋人だし、夫婦とは違うって。でもね、まゆちゃんたちも大きくなったらわかるわ、恋愛はね、わかっててもダメなのよ。頭でするもんじゃないの、心でしてるから、わかってても嫌なものは嫌だし、許せないこともあるのよ」


「おー。そうなんだ」ちょっぴりにやけ顔。


「当時は先生も若かったし、柚香里さんも若かったから面倒かけたわね、こっちこそ。今だから言いますけど、ごめんなさいね」


「いえ、とんでもありません。やっぱり憲邇のやつが悪いんですよ、じゃあ」


「そうね、そうしときましょうか、ふふ。今の彼女も大変そうね、迷惑をたくさんかけてるわ、ほら」


 再び憲邇さんを見ると隣の紗絵子さんがまたちょっかいをかけていた。明日のある憲邇さんに「ほらほら」と、お酒を注いでってる。又隣の巴さんが「やめてください」って押しやろうとして、「じゃああなたが飲みなさいよ」と、赤ら顔。……ずいぶん飲みましたね、始終にやけてけたけた、笑い上戸でしょうか。


「あんなことされて断れないろくでなしよね、深町くん」


「ええ、まったくもって同意しますね」絵里さんだ。「せめてお酌は彼女にやらせればいいのに、ねえまゆ?」


「そだね、あたしやりたいなぁ」


「十年早いわ」


「……マスター、私にお願いしたのに、紗絵子様はいつも強引だなぁ、羨ましい……」


 と、なにやらパティちゃんが不満げで悲しげに。「なになに、せんせーあなたに晩酌でも頼んだの?」


「あっ、いい、いいえっ! 忘れてくださいっ!」


 ここじゃまずいです、と、目が言ってたので先輩をくいくいしておく。頷いた赤メガネさんはでもにやけて、面白そう。


「パティちゃん、日本酒のお酌はね、ちょっぴり難しいのよ、練習しとく?」


「えっ、え、えっと、えっと、ええ……」


 またつんつん、くるくるしだした。あ、でも今度は早めにお願いします、と先輩の徳利を手に取った。


「ちょっと勢いつけないと注げないのよ、でもおちょこから溢れるのもまずいし、とりあえずやってみてよ」


「は、はい……あっ、ほんとだ、ご、ごめんなさい」


 恐る恐る注ごうとして、うまく出ずに徳利の脇を伝っていく。


「いいのいいの、練習なんだから。今度はちょっと勢いを……そう、それくらいで、あ、もう止めなきゃ」


「はいっ……」


 先輩のおちょこが並々となる。「よくできました」とぽんと頭に手を置いた。口元を緩めたパティちゃんはそのまま、「広子さんもお願いします」とこちらまで立ち上がる。あーあ、こんな健気な子供まで……最低ですねっ、でもお願いしよう。


 隣へ来て今度は一回できちんとお酌ができたパティちゃんに「ありがとう」と言う。コツをつかんだのか何度も頷き、向こうも返してくれた。


「さて、じゃあパティちゃん飲んじゃってよ、あたし今日は飲めないからさ」


「えっ、わわ、私まだ未成年です」


「いーから、ほら一口でも飲んでみなさいよ、ほらほら」


「先輩、紗絵子さんと一緒ですよ。私が飲みますって」


 ちょっとくらいならいつものことですから。


「いーからいーから、女は度胸よ、やってみなさい。お酒をちょっとでも嗜んで、男の人に付き合えると喜ばれるわよ?」


「……」


 ああまた健気な子が騙されていく……恐る恐る、自分で注いだおちょこを手に、小さな口へ。ちょびっとだけ飲み込み、初めてのお酒の味に目を丸くしてすぐに戻した。


「こ、これ、喉にきます……うわ、大人はすごいなぁ……んっ」


 口直しにオレンジをごくごくしてもまだ、苦い顔。


「ほら先輩、ダメですよ無理言っちゃ」


「ごめんね? うぅんパティちゃんもアウトかー。仕方ない、そこのおちびちゃんども! おいしいお飲み物をやろう」


「先輩っ、ちょっと」


 次の獲物を狙いすまして忍び寄る先輩を引きとめに一緒に立ち上がる。この騒がしい空気に当てられた先輩の魔の手から子供たちを守らなきゃ、と駆けつけるより早く、かどわかされたベッキーちゃんもルーシーちゃんも口をつけ、犠牲者は増えていくばかり(ルーシーちゃんはまだ平気そうだった)。ああ今度は目を輝かせて千歳ちゃんのほうへ。先輩、いい加減にしとかないとあとが大変ですよ、こんな状態で、スカートひっらひらなんですってばっ。


 聖徳太子みたいな憲邇さんが、閻魔になっても知りませんよ?
















 旅館の温泉は混浴じゃなく、一緒に入りましょうと言う
東野(ひがしの)さんたちに先生は渋り顔。いけない、よね、普通は。どうするのかな。でもここ、せっかくの大浴場ですし、露天風呂まであるんですよ? すごく広くて、さすがに全員がそっちには無理ですけど、室内と露天に分かれればこんなに大勢でも入りきれるくらい、広いんですって。そこが売りだとか。売り……?


「いいじゃないッスかー、せっかく背中流したげるっつってんのに」


「いや、まさか本気とは」


「あー? 失礼ですね、こっちはもうその気です、今さらわめいてもダメですよ」


 東野さんも
上岡(かみおか)さんもぐいぐい、引っ張ってこうとしてる。男湯ののれんをくぐろうとした先生を女湯のほうへ。つられて一緒に男湯に入ろうとした桜園のちっちゃい子たちもついてくる。あ、そっか。これくらいだといいんだ。


「他のお客さんがいるだろうし、迷惑というか痴漢じゃないですか」


「深町くん、平気よ、今誰もいないから」


「そ、そんなはずないでしょう、この時間に入ってない人がいないはずありません」


 夕食が終わってみんなが一番テレビを見る時間帯。うちでも父や祖父はこの辺でお風呂に入る。


「本当だってば。こんなことで騙くらかしてどうするの、ほらほら、観念なさい」


「いや、でも……」


「ほんとだよー? だーれもいなーい」


 まゆちゃんだ。「いいから早く来てね、あたし先入ってるからさ」とのぞかせた顔を引っ込めた。


「憲邇、身から出た錆よ、あなたが温泉を後回しにするから、ほかのお客さんはもうみんな入っちゃってるの」


「そんなわけ、あの、押さないでください」


「いやそーでしょ、もう一個の宴会場はまだうるさいし、そんなに大口のお客さんはいないから、女のほうは先に温泉を選びますよ」


「でも誰か入ってきたら」


「あたしたちがなんとかしますって」東野さんが痺れを切らして頭を小突いちゃった。「こんなとこに大勢でバカやってるほうが迷惑ですよ」


 先にのれんをくぐっていったのはまゆちゃんと
花織(かおり)ちゃんと奈々穂ちゃんだけ。みんな先生の動向いかんでこれからが激変するから、気になってしょうがないの。


「憲邇、混浴したくないの?」


「……」


「したくないならそう言いなさい、無理強いはしないわ、どうしても嫌なら断ってください」


「……そりゃあ……できるなら、混浴はしたい、です」


 ほっとする。よかった、したくないのかと思っちゃった。


「私も男ですから。でも」


「はいはいはい、言質は取ったわよ、みんな押してー? せー、のっ」


 途端にみんなみんなにやけだして、絵里さんの号令とともに強引に先生を女湯へ運んでしまいました。あ、誰かに見られたけど、いいよね別に、ふふふ。脱衣所の真ん中まで運ばれてようやく、先生は観念して両手を上げた。降参だ。


「じゃあ私はひとまず壁を向いていますから、その間に隠してもらえますか」


「え、別にいいッスけど」


 言うが早いか東野さんは浴衣の帯を解いて下着姿に。それを皮切りににやにやしたままの紗絵子さんもするすると浴衣を落として、同じように愛さんも静香さん泉さんも脱ぎだし、子供たちも躊躇しなかった。あっという間にいっぱい肌色が広がっていくから、先生のほうが恥ずかしがって壁向いてる、ふふふ、かわいい。……春花さんまで、壁向いて両手で顔覆ってまでしてる。あ、耳のほう塞いだ。衣擦れの音もなんだ、ふぅん……花雪さんは違うのに。


 大口先生、静香さんのお姉さんもすぐに脱ぎ出したけど、やっぱりもとかれにはいいって思うのかな。私も先生が壁を見てることを確認してから、浴衣に手をかけていった。良子さんに絵里さん、広子さんや柚香里さんも同じように、一度先生をしっかり確認してから、振り向いてもなるべく見えない場所に位置取って脱ぎだしていった(死角はあるけど、そこに言ったのは詩音さんだけだった)。


 まゆちゃんたちはもうお風呂に入ってる。花織ちゃんはタオル巻いてたけど、まゆちゃんも奈々穂ちゃんも裸んぼだった。すごいなぁ、あんなにバストおっきいんだ。まゆちゃん向こうでつっついてるかも。まゆちゃんの日焼け、すごかったなぁ、とっても健康的。


「……よし」と一声、最後まで躊躇ってた巴さんが気合を入れる声を出して、カッコいい私服を脱いでいく。そっか、巴さんまだだって言ってたっけ。


「あ、そうだ! 今日は泳いできたじゃないですか、今も水着を」


「嫌よ、深町くんたらなに言ってるの? 相変わらず女を知らないのね。一回着た水着を洗わずもう一回なんてできると思う? ねぇみんな?」


 こくこく、うんうん。できないんですよ、先生。女は面倒くさいんです。あ、ちっちゃい子はちらほら、別にいいのにって顔してる。でも水着は嫌でしょ? 先生とは裸のお付き合いしなきゃ。


「え、そ、そうなんですか? もう一着とか」


「諦めなさい憲邇。無理よ、ごめん被ります」


「そうですか……」がっくりしてる、ふふ。


「せんせーも水着なんか着ちゃダメですよ? ところで、おいそこの家政婦、お前そのデカチチどれだけ水で水増ししてんだ?」


 泉さんがじろじろ見ながら言ってる。自分のブラに包まれたバストと見比べて、向こうのブラを。泉さん良子さんはスリップなしですね。泉さんのブラ、真っ白シンプルでなんだかいろんなとこで見かけたような気がする。泉さんは大きさ私と同じくらいだよね。良子さんは相変わらずフリルひらひら、リボンばっちりレースふんだんの純白だ。とんがるくらいツンと張ったおっきなバスト、ふっくら羨ましい。


「し、失礼なこと言わないでください! 本物です!」


「ええー? そうかしら? 良子さんのこんな無駄に大きいおっぱいが天然だっていうの? 信じられないわ」


 紗絵子さんが触ろうとするのを逃げ回る良子さん。……すごい、揺れてる。腕で隠しても、揺れてるの見えてる。いいなぁ、私と大違い。


「水で水増しって、なぁに?」


「みゆは知らなくていいのよ。もう、子供の前でやめてください」


 柚香里さんはそっとみゆちゃんを紗絵子さんから引き離してく。自分にある傷を、晒したまま。すごいなぁ、堂々と。鎖骨のところのは水着のときからわかってたけど、今も二の腕、包帯ぐるぐるだった。脱いでからのぞいたからきっと毎日替えて、ひどい傷なんだ、どうりでシャツ……ちらちら大口先生が見て、口を開けそうになるけど堂々としてるから逆に閉じちゃった。


「いやーでもそれは疑われても仕方ないッスよ、メイドさん。ねぇ?」


「うんうん、でかすぎ。光もまたでかくなったって思ったけど、上には上が」


 上岡さんまた揉んでる。東野さん真っ赤なブラだ、すごいなぁ。上岡さんのは薄い水色。二人とも模様のないシンプルなやつ。私ダメだよ、揉んじゃあ。


「ほんとーよ。広子ちゃんよりおっきいんじゃない? ていうかこの中じゃ一番?」


「先輩っ」


「あそこで耳を塞いでる人も巨乳です!」


 良子さんが指差した先にいる春花さんは、とうとうしゃがみこんでしまった。


「……皆様……お止めになって……お願いですから……」


「そうだよ、ほんと、勘弁してもらえるかな」


 あ、東野さんたちの瞳がからかうのになっちゃった。先生の情けない一言が同級生に火をつけちゃった。


「いーやー広子さんでしたっけ? 着やせするんスねー? すげ、いくつ?」


「あ、あんまり見ないで」


 広子さんのブラも、なんだかあちこちで見かける真っ白な普通のブラに見える。なんでだろう、いつもはもっとかわいいのにしてるのに。


「いーじゃないですか減るもんじゃなし、あたしこれでも
70Dなんです、光は70Cだよね?」


「そーそー。広子さんはおいくつ?」


「……
65D」ぼそっと小さく言ったのに、目を輝かせて東野さんは大声を出した。


Dカップ? 嘘でしょ、それEだよね?」


「そーそー。あたし結構ぎりぎりの
Dなんだけど絶対それはEですよ、ブラきつそー、変えたほうがいいんじゃないですか」


「え、ええ、わかったから、見ないでくれる?」


「やめときなさいよ、広子ちゃんを舐め回すように見ていいのは彼氏だけなんだからさ。こほん、で、広子ちゃんは何
cc入れてるの?」


「先輩っ!」


「そうねぇ、私の読みだと
300ccは増量させてるわね」紗絵子さんが今度は広子さんへ。紗絵子さんは程よい膨らみのまあるい薄肌色に黒いお花のブラ。


「ちょっと! やめてくださいって言ってるでしょう! みゆ、耳を閉じてなさい」


「え、あ、うん」


 柚香里さんはブラの上からでも形のいい美しいバストがありありとわかった。細いからきっと春花さんみたいな特注の丁寧な刺繍のお花と、そっくりな美人さんにはぴったりだ。


 透き通るほど白く、淡い、桜色。


「……うわーお、これはすごいわね、二人とも……先生も巨乳のつもりだったんだけど、静香にも追いつかれそうだしなぁ」


 大口先生も下着の自分と見比べてる。ああ広子さんも恥ずかしがって腕で覆っちゃった。


「お姉ちゃんいくつだっけ?」


「お姉ちゃんも
70Dカップよ、それなりに自慢。静香はいくつになったの?」


C、だったんだけど、この前測ったらぎりぎりDになってた」


 薄く淡いふりふりピンクさん、また大きくなってたんだ、いいなぁ、形もすごくいいし。


「へぇ、そりゃあよかったじゃない」


「おー、巴ちゃんよく気づいたわね。服の上からでも成長振りがわかってたんでしょ?」


「見れば大体は。一応、巨乳さん二人の名誉のために言っておくと、それは本物です。わかるから、偽者見てきたし」


 ……バストの偽物って、なんなんだろう。さっきから言ってるけどよくわからなかった。


「おー、やっぱモデルってすげーなー」東野さん。「つか、みなさん下着かわいー、マジで。どこで売ってんだろ」


「ねー? ほんと、かわいいのばっか、すごーい」


 ああ、大きいとかわいいのがあんまりないんだよね。良子さんのとかもかわいいけど大きいからごてごてでちょっとやだって、言ってたっけ。みんなふりふりだったりふりふりフリルだったり、ふりふりレースだったりして、ふりふりばっかりだ。泉さんはいいとしても、広子さんにふりふりレースやフリルがないのは不思議だった。スリップが多いことにもなぜか二人とも驚いてた。なんでだろ?


「……良子ちゃんめ。さすがに本物だったか」


「あ、愛ちゃん疑ってたの? ひどいなぁ、同じクラスだからわかるでしょ」


「でも小学校の話だよ、あそこで打ち止めかもって、もしかしたらって思いたかった」


 愛さんもオレンジにライン一筋だけのシンプルなものだった。人の好みかなぁ。ちょっぴり、愛さんとんがってる? 控え目だけど。


「あら、二人は小学校の同級生なんだ?」


 大口先生の言葉に二人で頷く。「うわぁ、それはいいわね、今までお付き合いが続くっていうのは素敵よ、大事になさい」


「大口先生、二人とも先生の生徒じゃないですよ」


「あらやだ先生ったら、ごめんね、つい癖で。ふふ、幼なじみがいつまでも仲良しなのはいいわね、静香と一緒だ」


「あいつは男だよ、女のほうがよかった」


「えー? 静香さん幼なじみの男の子いるの? えー聞かせて聞かせて、ドラマみたい」


 みんな話してばっかでなかなか下着姿から進まない。どうしたんだろう、わざとっぽいなぁ。脱いじゃった子供たちは裸でちらちら先生を見て、振り向かないことをちょっと残念そうにタオル巻いて行っちゃった。あ、みゆちゃんまだ途中だね、大変そう。やっぱりすごいなぁ、凹凸ないのに、必死になるべく見られないように隠しながらだ。お母さんと一緒だね。絵里さんも。


「あとで話します、あいつの話は面倒で」


「ま、まだですか? 皆様……」


「女性は脱ぐのにそんなに手間取るんですね……お風呂が長いわけだ」


 くすくすみんな笑ってる。「そーですよー? せんせーなーんも知らないんですねー」


「あーまだまだかかりそうだねー可奈ー?」


「あはは、そうかも。でもあたしはそろそろ入ってこようかな」


 するっと上岡さんがブラを外していった。初めて見たけど、静香さんはやっぱりとびきりピンクだなぁ。上岡さんは肌色だ、ツンと張ってるのは一緒だけど。ほんとに
Dって大きい……外れるときぷるんて、なるんだね。いいなぁ、あれ、先生に見せたいなぁ。あ、でもちっちゃいほうがいいから、えーっと、難しいなぁ。あそこはおんなじだし……


「ち、千歳ちゃん? さ、さすがにあたしも、そこまでじろじろはきついかなぁ」


「あ、ごめん」


 タオル巻いて入ってこうとして、ふと、思い直したのか上岡さんは先生のほうへ。


「深町先生、あの、ちょっと胸にしこり感じたんですけど」


 すぐに振り向く。「どこ? 見せて」


 タオルが広がる。先生が仕事の顔……で触診していった。……顔……


「両方ともです、触って確かめてください」


「……? どっちも……? ん? え、どこもそんな、ここかな? どの辺りにかん」


「やっぱり、お仕事だと平気なんですね」


「……」


 みんなまで黙っちゃう。前を開けたタオルが元に戻って、若干俯き加減の上岡さんがちょっとだけ赤くなって離れてった。


「ごめんなさい、嘘つきました。でも前から不思議だったんです。男のお医者さんって、ほんとにお仕事ならやらしい目で見ないのかって。事件も、よく聞くし」


「……本当に平気なんだね? しこりは感じない?」


「はい、大丈夫です。ごめんなさい、どうしても知りたくって。健康診断の先生の目が、どうしても忘れられなくって」


「いや、それならいいんだ。よかった……」


 本当に安心した先生のため息。ほっと胸を撫で下ろし、目を開けるとみんなのカラフルな下着姿に慌てて、壁に戻った。


「スイッチが入るんですね、すごい……やっぱりこれがプロですよね……」


 上岡さんの先生に対する目つきが変わった。さっきまでクラスの男子へのと一緒だったのに、急に変なのに。


「可奈ちゃん? 本当に平気? ちょっとでも違和感を感じたらすぐ病院行くのよ? 若いからって舐めてかかっちゃダメ、乳がんの発症率はすごいんだから」


 紗絵子さんが心配そうに上岡さんを覗き込んでる。照れくさそうに上岡さんはタオルを直し、深く頭を下げて温泉の扉を開けていった。


「……可奈ね、そういうのに敏感なの。隠し撮りに気づいたの、ほんとは可奈なんだよ、千歳ちゃん」


「そうなんだ」


「その、健康診断もさ、終わったあとに視線感じたんだって。じっとり、舐め回すような、やらしいの」


「うわ、誰それ? ちょっと名前を教えなさい、私詳しいから」


「すいません、そこまでは。でも……だからこそ、可奈が平気なら彼、ほんとにいいお医者さんなんですね」


「あらあら、疑ってたの? ふふ、初対面は仕方ないっか。深町先生、褒められてるわよ? そんなあなただから混浴してもいいって、背中流したげるって言ってるの。いい加減こっち向きなさい、失礼よ」絵里さんったら。


「それとこれとは違いますよ。あたしはいいッスけど。ふふん、胸に違和感感じたらこの人に診てもらおうっと。信頼できるなぁ」


「そうしてもらいたいわねぇ。憲邇、今からでいいから内科に移りなさい」


「今さらできませんよ。その、それより早くしませんか」


「うふふ、そうしましょっか。でもね、胸を見せるのが恥ずかしいけど、憲邇くんならいいって思えるなら、連絡してお願いしなさい。患者さんの要求はなるべく受け入れてくれるわよ。そうだわ、憲邇くんにプライベートでお願いすればいいじゃない。お金もかからないし、異常があったら病院の予約を取ればいいのよ」


「あ、いいですね。深町先生、頼まれてくれますか?」絵里さんもみんなもうんうん。


「それは、診察を受ける人が望ましい形が一番ですけど、私は専門医じゃありませんし、細かい差異は見逃します。恥ずかしいでしょうけどそこは我慢して、勇気を持って診察を受けに入ってください」


「うぅん、でもその前に憲邇にお願いしてもいいでしょう? たくさんのお医者さんにかかったほうがいいって、憲邇だって言ったじゃない」


「そうね、それと、あんたと一緒に行くとあたしは勇気が湧きそうだからさ、みんなも一緒に誰かと行くといいんじゃない? 一人じゃ恥ずかしいし怖いけどさ、誰か一緒についてってくれる人と行けば、怖くないでしょ」


 そっと、先生の袖をつまんだ。またみんなで、うんうん頷き合う。


「詩音さん、一緒にお願いしますわ。よろしいでしょう、深町さま?」


「……はい。私は全然構いません。いつでも、不安に思ったら言ってください。予防と早期発見が一番です」


「ありがとう、あんた」


 巴さんはそのまま、腕を伸ばさずつまめる位置で下着を脱ぎだした。じっと先生の背中を間近で見つめながら、静かに。みんなも距離は違えど、同じ意味の言葉を目で送って、そっと下着を脱いでいった。いつの間にかタオル姿のみゆちゃんとパティちゃんはこっそり胸の前を開け、本当に小さくため息をつきつつ同じ瞳を作り、うんと頷き合って温泉へ。背中にお母さんからの「足もと気をつけてね」と声がかかり、私もブラのホックを外す。


「じゃあ早速。ねぇ憲邇くん、このおっぱいの形できちんと赤ちゃん育てられるか見てくれない? 私ね、今のいい人との間に子を授かりたいの、年だからさぁ」


「母さん、さすがにそれは冗談とわかるよ」


「ちぇっ。じゃあねぇ、このブラ変じゃないかしら? 左右で形違くない? ほらほら、見てみてよ」


 って巴さんの反対からわざわざ先生に見せちゃった。ふいっと逸らした先生の先に巴さんの裸。照れちゃうかわいい先生は下向いて、今度は目を閉じたみたい。


 巴さんはそのまま、微動だにしなかったのに。……そこで脱ぐと、タオル、遠いですね。動こうと、しませんね。綺麗な背中……お尻……


「そうですわ紗絵子さま、私のこのブラ、どうも合っていない気がするのです。見てくださいません? お母さまは恥ずかしがって見てくれませんの」


「当たり前ですっ」


「こっち来なさい、こっちこっち」先生のすぐ傍から動こうとしない紗絵子さん。隣に花雪さんが行って、真っ白のブラジャーを見てもらってた。


「むずむずするのですわ、おかしいでしょう?」


「花雪ちゃんはブラを着けたの最近でしょ? そんなものよ、そのうち合ってくるわ。ほら憲邇くん、こういうことは男のほうが得意でしょ?」


「そんなわけないじゃないか……」


 先生の真横で「外してみて」と言い、胸を出していく。どうですかと紗絵子さんに言うフリして、見てるのは先生だ。花雪さん膨らみかけだね、その時期のブラはむずむずするよね。……雪みたい、白いなぁ……ちっこいバスト、かわいい……


「そんなことないわよ。あら、良子さんも広子さんも大きいから合ってないんじゃない? ちょっとこっち来て見せてちょうだいな」


「……」


 二人揃って眉を曲げてちょっぴり嫌そうな顔、したのに、すぐに微笑んでそっと歩き出してる。同じように先生に見せる位置まで言って、それから外してぷるんってさせてる。うわ、すごい、胸の形って様々で、色も違うんだなぁ。ふぅん……肉まんとあんまんのセットだ、二個ずつ売ってるやつ。よく聞くバストの表現は、事実そうだからなんだ、ふぅん……良子さんのがちょびっと、大きいかなぁ。白いのは広子さんかなぁ。柔らかそうなのは相打ちかなぁ。


「ほら憲邇くん見たげて? 男の人のほうがわかるでしょ? おかしいわよねぇ? ああ愛さんも変だわ、泉さんも、静香ちゃんそれ無理してるでしょ? 見せてご覧なさい、光ちゃんもほら」


「そーなんですよー、こんな感じで、外すとほら、深町先生? 見てくださいよ、異常があったら大変です」


「皆様方! いい加減お止めになって! 私も、私も早く温泉に浸かりたいのですわ、お願いします……恥ずかしい……っ」


 春花さんの悲痛な叫び。とっても恥ずかしがり屋さん。


「その辺にしときましょうよ。柚香里さん入っちゃいましょっか」


「ええ。大口先生も」


「ふふ、そうねぇ、勘弁してあげましょう」


 いつの間にかお母さん二人組とお姉ちゃんは脱ぎ終えてて、タオル姿で扉の向こうへ。三人のバストがどんなのか見逃しちゃった。遠目には控えめ、中くらい、大きいの谷間が三つ。……柚香里さん、本当に細すぎる。大丈夫かな、絵里さんの脚が綺麗なのはいいとして……


 考えながら私もタオルで肌を隠して、最後に髪をまとめていく。温泉に行った長い人はみんなまとめてる。巴さん、タオルより先に髪をしてる。先生の傍を離れずに、お互いの肌の匂いが感じられる場所で。


 私もそこに駆け寄りたい気持ちを抑えて、どうにか髪をまとめ上げる。その間に脱ぎ終えた短めの泉さんたちが入り(泉さんの裸眼も初めてだ)、次いで私たちも道具を持って。詩音さんはもう少しかかるかな、大変そう。巴さんはまとまったのにまだ動かない。


 ほぼ全員が温泉の湯気に曇ってから、ようやく春花さんは立ち上がってた。室内にも檜のお風呂があり、外にはもっと大きな露天風呂がある。みんなそっちへ向かってるので、私たちもそっちへ。かけ湯をしながら前を見ると良子さんも広子さんも、タオルの形が大きなお尻。それと上の立派なものとを支えるのか、太もももむっちりですね。若干広子さんのほうがむっちりが大きめかな? 愛さんといい勝負かも。あ、じろじろ見すぎてる。やめないと。でも花雪さんなんであんなにうなじ綺麗なんだろ……泉さんもだ……あ、みんな見ないでくださいって。ごめんなさい、つい。


「あー、うちの子はスパリゾートに縁がなかったのねー。よしよし、こっち来なさい、あたしのなら存分に眺めていいわよ」


「本当? ありがとう東野さん」


 じゃあと隣に座り込む。
Cカップ、一サイズ違うだけでこうも、違うんだなぁ。ああ、いいお湯……ほわほわする……ほんわりあったか……


 みんな温泉の温かさに、じんとなってた。これなら簡単にぽかぽか体温になっちゃうね。はぁ……久しぶりだなぁ、いつ以来だろう……あったかい……気持ちいい……ここで寝たらさぞ、いい気持ちになれるだろうなぁ……溺れないようにさえすれば……ううんここに住みたい……


 目を閉じて、お湯の音、風の音だけに耳を澄ます。注がれる淡い月光とともに、じわじわと体中に広がっていく温泉の温もりを、十二分に味わっていった。


「こんなに広くていい気持ちなのに、どうして誰もいないのかしらねぇ?」紗絵子さんは渦巻き頭がよく似合うなぁ。私の変じゃないかな、うぅん。


「うぅん、少ないお客さんだと広すぎて侘しいのかしら? いいじゃないですかどうでも、ラッキーと思いましょうよ。はぁ……」


 大口先生もほにゃんってなってる。あんな顔初めて見たなぁ。ふふふ。


 ……しばらく……ため息だけで……子供たちも静かに……温泉を堪能していってた……


「で、深町くんはテクニシャンかしら?」


 目が覚めたように顔が輝いた大口先生は、また元気な声を出す。


「そこまでは……でも、いたわりに満ちた、指でした。ちょっと巴さんが羨ましいな、あれなら、抱きしめられるところっといきそう」


「あーいくいく、いっちゃうよ。憲邇さんの抱きしめるのおかしいもん。ね、奈々穂ちゃん?」


「うん! お兄ちゃんせんせぇのぎゅうはね、すっごいの! おとこの人のごつごつなのに、やーらかくって! えへへ、ななほはめろめろです……」


 ほっぺに手を添えてほんにゃらほんにゃら。かわいい……ああいう子供なら大きくてもいいなぁ。欲しいなぁ。先生……


「ああ奈々穂ちゃん、髪解けちゃうわよ、ちょっと動かないで」


「はぁい。ありがとお母さん」


 広子さんが傍に寄ってお子さんの髪をしっかりとまとめてく。きちんと一人でできるけど、激しく動いちゃうから大変だね。……いいなぁ、動くとおっぱいでお湯が飛ぶの。えっち。やっぱり大きいバストには憧れる。身長が高めだからバランス的に大きいほうがいいし。一番女の子で背の高い巴さんはそんなにだけど……脱衣所を見るとこっちに来てる、先生と一緒だ。こんなに時間かかるんだ、大変ですね。


 髪をまとめた巴さん、カッコいい。素敵な大人の女性だ。……一つしか違わないけど。……谷間は私と同じくらいだな。バストだけは一緒、でも雰囲気、天と地だよねぇ。巴さんの方が背が高いのに、胸が同じくらいなのに、向こうはバランスがよく見えるの、モデルさんで培った力なんだろうなぁ。逆にちょっとだけ、近寄りがたい雰囲気、あるけど。怖くはないの。ただ、神聖に見える。


 神々しいほどの、美しさ。そう形容できるくらいに。


 ……でも。先生の隣だと、小さく見える。先生が小さくさせてるのか、ほんとは小さいのか。そこまではわからないけど。


「お兄ちゃんこっちこっち!」


「いや、奈々穂ちゃんお願いだから裸はよそうよ」


「ちょっとあんた、どこ見てんの? 見るならあたしに、こら目閉じるなっ」


「無茶言わないでください……」


 眼前に広がる大きな温泉と、たくさんの女の子たち。夜空に黒岩、肌色白色がたくさん。みんなが一斉に(面白そうに)唯一の男性を見つめ、そっちのほうが目を開けられないの。あ、上岡さんがタオル直して居住まいを正してる。見えちゃってるのかな、気をつけよう。


「さすがに深町くんには酷だったかしら……刺激が強かったわねぇ、うぅん、巴さん、恥ずかしいことになってたらフォローしてあげて? ほら、手も引いてあげなきゃ」


 恥ずかしいこと? 疑問に思った子供たちが見ると、微笑む絵里さんとまゆちゃんが「しー」って人差し指。なんだろう?


「……こっちよ……転ばないでよね……足元、気をつけなさいよ……」


「はい……ありがとう」


 どうにかお湯まで辿り着いた先生がそろそろとその中へ。途端にすいすいお湯をかき分けて奈々穂ちゃんが近づいていった。温かい温泉に肩まで浸かり、夢気分に浸った先生も一つ、ため息。巴さんも先生のすぐ隣に座り込み、肩と肩を拳一つ分だけ空けて、同じように目を閉じてため息を囁いた。残念、お湯が濁ってるから、底で二人が手を繋いでるの見れないな。組むのかな? 静香さんみたく。


 巴さんの反対へ奈々穂ちゃんが。こっちはぴったり肩をくっつけて(それでもずいぶん下だけど)真似っこしてる。ふふふって、肩の上に乗っからないから、小さな顔を大きな腕に、寄り添えて。……ここから見ると、紗絵子さんの言うとおりらぶらぶハーレムだ、ふふ。


 気を抜いた先生を垣間見て、みんな心底、来てよかったって微笑んだ。


「いやぁ、来てよかったです。ありがとう、
葛西(かさい)さん」


「いえいえ、どういたしまして。ああでも、こっち見て言って欲しいですねぇ、ふふ」


「勘弁してください、本当に」


「お兄ちゃん、あ、せんせぇ目ぇあけて? ななほここにいるよ、て、つなごうよ、あ、くんじゃお?」


「あのね奈々穂ちゃん、お願いだから、裸は隠してもらえるかな」


「えー? ついさっきみずぎでみてたじゃん、どうちがうの?」


「奈々穂ちゃんはお兄ちゃんと裸で一緒にお風呂は入ってなかっただろう?」


「んーん、入ってた」


「くっ……ごめんね、奈々穂ちゃんの裸を見るのが、私は男だから、恥ずかしいんだ。タオルで隠してくれたら、手は、繋げるかな」


「そお? これいろついてるからみえないと思うけどなぁ」


 丸見えだよ、奈々穂ちゃんも巨乳だから、ちょっと動くと浮いたバストが丸見え。ぷかぷかしてるんだから。


「奈々穂ちゃん、許してあげて。こいつはえっちだから、見るとえっちなとこ触ってくるのよ」隣の巴さん、肩ぴったりの奈々穂ちゃんに、ちょびっとだけ自分も寄ってってる。


「そお? お兄ちゃんならいいけどなぁ、どこさわりたい?」


「奈々穂ちゃん、タオル巻いてきましょう。お兄ちゃんを困らせちゃダーメ」


 広子さんが立ち上がって、脱衣所のほうへ連れてった。渋々の奈々穂ちゃん。納得できないみたい。胸の先小さいね、いいな。


「深町くん、今のうちに聞いておくけど、あの子もわけあり?」


「はい。説明すると長いんですけど、精神年齢が五歳なんです」


「ふぅん……いろいろと、あったのね。
草薙(くさなぎ)さんも含めて、まだこっちに来ない彼女も」


 そういえば詩音さん遅いな、やっぱり長い髪が大変なんだ。「十年一昔だ」


「……ごめん、なさい。旦那に……言われて、るの。これを見せていい、のは、俺だけだ、って」


 大口先生の視線の先に、包帯があった。誰もなにも、わかってて言わないことに。……春花さんの言う、とおり。まだ癒えて、いない。ただ耐えられるようになっただけ。先生とえっちをして、どうにか一歩進んだだけ。一歩だけ、それは大切だけど、一歩だけ、なんですね。食後にこっそり、薬を飲んでいたところを、見てもしまった。明るく振舞えるようになっている、けど内実がそのとおりじゃあ、まだない。ぎゅっと隠すように自分の肩を抱いて、娘さんに寄りかかる。


 頬寄せ、頭を預けるみゆちゃんに。かけがえのない温かな、慈しみを感じる。


 先生にそっくりで、あまつさえ母性を、伴い。


 やっぱりみゆちゃんは大人だ、きっと私より、よほど。


「ごめんなさい、二度と触れないわ。むしろ尊敬します、あなたを……先生なんかじゃとても公共のお風呂に入れやしないわ」


「……ありがとう、ございます」


 貫く瞳に、旦那さんのが混ざっていることを、垂れた頭でもきちんとわかっているようだった。あ、見える、先生が撫でてるの。みゆちゃんも一緒だ。


 みんなも同じ、柚香里さんに、微笑みを向けている。温泉効果も相まって、すぐににっこりが浮かび上がってくれた。


「あの、深町先生、あたしも謝っときます、さっきはごめんなさい、騙すようなことして」


「いえ、いいんです。それよりもふしだらな医師のほうが問題です。この状況で私が言えたことじゃありませんけれど」


「ううんあんた、この状況なら言っていいわよ。あんたはね、男にしちゃちょっと情けないけど、医師としては誠実な、できた人よ」


「……ありがとう」


 先生ったら、しっかり巴さんのほう向いて、ちょっとだけ目を開けてお礼言った。急に見つめる先から海がのぞくものだから、今度は巴さんが逸らしちゃってる。


「ふっふっふ。よしここで一席、乳がんはほんと怖いからみんなも気をつけてね? ちょっとでも異常を感じたら即病院へ駆け込んでください」


「先輩?」


「でだ、いざ病にかかったときは、そこの男に慰めてもらうといいよ、巴ちゃん」


「? どうしたの泉」


「そいつさー、過去の女に乳がんで片方、乳房切っちゃった人ともお付き合いしてたんだよ」


「ほほう? それは面白そうね泉さん、詳しく聞かせてもらえるかしら」


 紗絵子さんが近づいてった。それよりも子供たちは乳がんの恐ろしさを聞いてびっくりしてる。大変だ、って。


「あの、
沢田(さわだ)さん、今の恋人の前で前の人の話は遠慮してもらえないかな」


「まー待て、これはプラス材料になるから。んん、あたしもお知り合いになったんだけど、切除する前にね、それでかかっちゃって、切るしかなくなって、その、途方に暮れてたのね。女としてどうしよう、って。命あっての物種って、言うけどさ、やっぱり辛いものは辛いじゃない? 当時彼氏いなくてさー、どうしよう、ってね。その、胸を元通りにする手術がうまくいかなくってね、稀にあるのよ、えぐれたままにするしか、なくなっちゃって」


 語られていく過去の話に、もう先生は仕方ないと黙り込んだ。前にもこんなことあったなぁ。


「結婚したかったのね、その子。というより、好きだった人がいたの。でまあ、応援したのね、紆余曲折、実った、のよ。でも、でもね、相手の人と親しくなって、切ったことを打ち明けると、ごめん、ってさ。ひどい男よね、顔しかめて、抱けないってさ。言ってくれればよかったとか、抜かしたらしいよ、アホか! ああいう男がいっちばん最悪! 傍目に普通のいい人だろうが、優しそうに見えようがそれって見えてるだけね! いざ大変なときに豹変するなんて信じらんない! ほんと、あんなやつは別れて正解よ、ねーみんな?」


 一斉にこくこくと、とっても力強く。口々にひどいひどいと、繰り返し。


 それはそうだ。そんなの、好きでもなんでもない。好意なんて持ってなかった、それだけのひどい人だ。


 えっちは、愛することなのに。そこからはもう、恋は愛なのに。愛するのなら、受け入れる気持ちが、ないといけないのに。それもなくえっちなことをしようとするのは、いけないと思う。


 私は初恋が先生だけど、いい人でよかった。たくさん恋愛をしてきた東野さんや上岡さん、大口先生もみんなしきりに同調してるから、きっとこれはすべての恋愛に通ずることだと思う。


「そこを乗り越えられる人が本物のいい人ね、最低だわまったく。言えるわけないじゃない、ねぇ?」紗絵子さんのあそこまでは初めてだ。


「そうそう。セックスしようって、あ、ごめんなさい、それくらい仲を深めてからじゃないとどっちにしろ受け入れてもらえないし、早くに言って別れたくないしさ、言えっこないよねー?」


 泉さんが憤慨してるところに奈々穂ちゃんが戻ってきた。怒ってるみんなに不思議そうにして、広子さんを見てる。


 後ろから詩音さんと春花さんも一緒に来て、これでようやく全員集合ですね。あ、詩音さん両腕に包帯巻いてる、どこか怪我したのかな? 大丈夫……そっか。


「みんなどうしたの?」


 奈々穂ちゃんはさっきの位置に座り、春花さんたちも不思議そうに温泉に入って目を綻ばせていくのにちょっと引け目を感じてそう。緩やかになりそうな顔を引き締めてる。春花さんは花雪さんの隣へ、詩音さんは紗絵子さんとみゆちゃんの間へ。広子さんは泉さんの隣へと。詩音さんの包帯は……怪我したところを見せたくないって、言っていた。一応水に濡れても痛くないし、包帯も平気なんだって。大変、だね、本当に……先のこともあり、もう誰も詳しく触れようともしなかった。柚香里さんの鎖骨を、詩音さんは食い入るように見つめていた。


 落ち着いたところで、今までの話を説明していく。あんぐりと口を開けそうになった春花さんは慌てて両手で押さえ、でも驚きを隠せないようだった。


「まあ……それは卑劣な男性ですの。泉さんも苦労なさっているのですね」


「ああ違う違う、あたしじゃなくてさ、友達よ、ほら、ちゃんとあるでしょ?」


「みっ、見せなくて結構ですわっ」


 谷間に指を引っかけた泉さんから真っ赤になって目を逸らし、でもと、続きを聞きたそうにちらりと振り向いた。


「それで……? どうなりましたの?」


「がっくりした彼女は男性不信よ、当たり前だけどね。あたしがぶん殴ってやったけど、仕方ないだろって開き直りやがってさ、挙句の果てになまじ整った体してるから余計気持ち悪く思えたとか、抜かすのよ! 階段から突き落としてやろうかと思ったわ!」


 みんなのぷんすかが大変なことになった。まゆちゃんやみゆちゃんがどうどうと、抑えてるくらい。


「みんなもそういう男はやめたほうがいいわよ、んん、それでね、ちょっと心が苦しくなってきたから、精神科を受診したのね、あたしが勧めたんだけどさ、参ってたから」


「さもありなんね。私も勧めるわ、いい医者紹介してあげる」


「で、よ。そこのせんせーは精神科のお医者さんなのよ。今でこそこんな状況ででれでれしてるけどさ、事情を詳しく聞いたら同じように怒ってくれてねー、それはもう親身に、治療に当たってくれたのよ」


「ああ、勘違いさせたのね、静香と一緒だ」


「しちゃいますよ、そんなことになったら。期待します、あたしだってそうだったから」


「そりゃあならざるを得ませんよ、あたしだっていざそうなってさ、こんないい人に巡り会えたら期待しますもん」


 上岡さんもしみじみ。「もしかしたらって、その、お医者さんからしたら迷惑かもしれませんけど、気持ちはすごくわかります。むしろこの人しかいないって、絶対なりますよ」


「まさにそれ! で、都合のいいことにあたしは同局の看護師なのねー。また応援しちゃったわー、ふふ、そっちの紆余曲折はね、大変だったわ。患者と医師ですもの。傍目からはいい目なんてない、あ、ないのよ、疑問に思うかもしれないけどね、大人はいい目で、見てくれないわ」


 不思議がってる東野さんたちにきちんと言ってみる。そうなんだよ、私たちもね、大変だった。


「……なにより、ね、自信なくしちゃってたから、こんな状態で、自分は完全な女じゃないのに、好きになってくれるのかって。もう診察の時点で自分が、かたっぽしかないって向こうは知ってるから、そこは楽かもしれない。けど、逆に壁は高く、溝は深いわ。まず向こうはただの患者さんだし、その、このことを乗り越えて普通の間柄にならなくちゃいけない。トラウマをまず克服しなきゃってね。通院せずに済むようになってから、改めて告白したのよ。『男の人をまた信用しようと、捨てたもんじゃないと思えるようになりました、あなたのおかげです。あなたを……好きになったから』」


 また泉さんの演劇が始まった。うまいなぁ、この声の調子そっくりなんだろうなぁ。露天風呂もお風呂だから、いい声が響いてく。


「まずは友達から、お願いします、ってね。そんでそんで、ふふ、あのねー、惚気やがるのよその子。こう、後ろから抱きしめてもらうときにさ、胸を抱いてって頼むのね、そしたらさ、そこにあったはずの胸の分、間空けるのよ、そこのバカせんせー。『柔らかいのがいっぱいある』ってさ、言ったそうな。たくさん触らせちゃったって、心底誇らしげにね」


 黄色い声、東野さんの。他のみんなも、うっとり見つめちゃう。ため息、いっぱいに。


 先生だ。やっぱり先生は先生だ。やらしい、優しい先生だ。


「すっげ、うわ、女ったらし、ていうか、言うねぇ、うわ、すげ、鳥肌立っちった」


「……言われたい……あの声で……」上岡さん、やっぱり目つき違う。


「ねー? そこまで言われるなんて、してくれるなんて思ってもみなかったその子は泣いちゃってさぁ、惚気ながら涙してるの、拭こうともせずに、『彼氏がやらしくて参っちゃう』って、言いやがるの、うふふ」


「うわ、うわ、それは殴れない、やめろとは言えないわー……すげー、あたし、マジ感動してる……」


 うん、私も。すごい……みんなみんな、惚れ直してる。うん、あとでちっちゃい子たちみんなに、説明しようっと。


 それはとてもとてもすごいことなんだよって。素敵なことなんだよって、教えなくちゃ。


 柚香里さんや詩音さんが、涙ぐむぐらい。


「いいオチねぇ、ふふ、これは巴さんでも百点でしょ?」


「……ええ……」


 ぴとっと、肩がくっついた。こてんと、頭を乗せて、すりすり。ふふふ、いいなぁ。巴さんもぴったりだ。


「んなことされたら首っ丈でしょー? ふふ、相手するのが大変だったわ」


「で、で? それからどうして別れちゃったんですか? 今はどうしてます?」


「ああこれはいっちゃうかも、って思ってたんだけどね。……あ、これは言わないほうがいいですよね、せんせー?」


「うん、よしとこう」


「えー? そこまで言っといてそれはないッスよ! 最後まで言っちゃってくださいっ」


 みんなの目がらんらんと輝いて続きを促してる。どうしてもと、広子さんの反対の良子さんまで引っ張って。仕方なく泉さんは言いにくそうに、最後の言葉をつむいだ。


 悲しいことを。


「……その子はね、もういないの。切除したはずのがんがね、転移して再発して、亡くなったの」


「……」


 みんなが、茫然自失になる。「ごめん……どうしてもって、その」


「いいえ、ぐすっ、すみませんでした、私共の方こそ弁えずにこんな、ああっ! うっ、うっ……」


 春花さんが泣きだした。楽しい気持ちが一気に転落して、つられて紗絵子さんも、絵里さんも目を伏せる。


「あ、あのねっ、最後にね、病室で小さな、式を挙げたのよ? 指輪もせんせーが嵌めてね、たっての願いで、嵌めたまま埋葬、して……そ、その子は、せんせーにはなしですって、指輪、嵌めずに、捨ててさ、次の人、気丈に、笑って……ご、ごめん、あたしも泣けてきた……」


 わんわんと泣き声が……響く、お風呂だった……いいお話なのに……悲しくて、先生に駆け寄りたい気持ちでいっぱい……先生は涙する巴さんを、そっと撫でていた。


 閉じた瞳の奥は、悲しい思い出に潤んでる。


「憲邇くんっ、どうしてそんな大事なこと、言ってくれなかったのっ」


「……ごめん」


「ああごめんなさい、あなたも悲しいに、きまっ……っく、よく乗り越えたわねぇ、偉い子……っ、日本にいればよかったっ」


 ちょうど外国に言ってた時期なんですね、それは間が、悪かったです。


「……ねぇ、あたしがもし乳がんにかかっても、彼氏を続けてくれる?」


「籍を入れるよ」


 ぱちくり、巴さん。開いた先生の、瞳。「彼氏は嫌だ、深いところの病状を聞けないからね。そういうときこそ、傍にいたい、深い仲になりたい。前は遅くまでしなくて、後悔してるんだ。次に同じことが起きたらすぐに入籍をして、本物のいい人になりたい」


「……」ぼろぼろ涙。「じゃあ、じゃあがんになっても、最後まで付き合ってくれるの? ずっと夫でいてくれる?」


「うん」


「じゃあ、じゃあ触ってよ? どんなになっても、あたしの胸」


「うん」


「っ……そっ、そこは照れなさいよ、ば、っ、バッカじゃ、ない……っ、ああよかった、これで胸に異変感じても、安心ね……っ」


 ……あれ、悲しい涙だ……私の嬉しいのと違う……そっか、恋人のフリだから、ほんとじゃないから悔しいんだ……こんなときでも変わらず、嘘を言わない、ほんとにほんとの気持ちを言っちゃう、ちょっと残酷な先生に。自分の大好きな気持ちが破裂しそうで、悔しいんだ。


 今の言葉が自分以外のみんなへのものだから、余計に。……もしも関係を結んだら、きっとそのとおりにしてくれると、わかっているからなおさら。


 ぐいって、肩を持ってくるから。


「冗談でもそんなこと、言わないでくれ、お願いだ」


「……う、っ、うん、ごめん……」


 とうとう、顔をくしゃくしゃにしてそっと先生の胸の中へ。しゃくりあげる巴さんはしっかり腕を回して、抱きしめてしまった。


 優しさが、辛い。なってしまえば、もっとをくれるのに、今はこれだけが辛い。もしも私たちの誰かが彼女役なら、先生はまず間違いなくこの場で唇を奪ってくれる。ううんねだる、上を向いて、閉じて、してくれるまでいやいやをする。そうして、向こうからがしっと、強く強く抱きしめてくれるのに、って。


 誤魔化せば、いいのに。取り繕えば、いいのに。彼女じゃない巴さんには。好きだから、好きな人には、これはひどい、仕打ち。……先生のこの、友達のときの態度は相変わらず。鈍感で、相手が自分のことを好きだと、かけらも思わずにひどく優しくする、から。


 傷つけていることをわかっていても、そうして、離れて欲しいとしたがる、ひどい人。自分を恨んで欲しいと、残酷な優しさを突きつける。


 それは……本当に好きな人には、逆効果なのに。だからこうして、十何人もに、増えたのに。


 嗚咽交じりにぐりぐりと、顔を押し付けていく巴さんも、おんなじことになります、先生。もっと優しくがいいですよ、優しく、肩の手を背中にしたほうがいいですよ……


「……おい可奈、あいつ男前だぞ、ムカつく、どうせ口だけよ」


「光!」ちょっぴり強い声。「そんなわけないでしょ、前の人とああなんだから、巴さんだっておんなじよっ」


「あ、ああ、悪い……可奈が男弁護するとこ初めて見た……」


「そんなことないわよ、それより巴さん、浮気させてください、ぜひっ」


「そうね巴さん、私も深町くんとひとときの情事を楽しみたくなったわ」


「お前ら……そんなにいーかなー? あたしには普通のできた人ってぐらいしか」


 ふふふ、東野さんにはわからないんだね、先生の魅力。教えてあげたいけど、これ以上はなぁ。


「……ダメ……この人は、あたしの……彼氏なの……」


 胸の中のくぐもった声。顔を戻さずに、辛いことを言っちゃう。言いたいんだ、やっぱりなっちゃいますよ、先生。


「こらこら、巴ちゃんもだけどせんせーの意思ってやつも考えてあげなきゃ。っ、ふふ、ねー奈々穂ちゃん?」


「うん? よくわかんないけど。おっぱいさわってほしいんだね、うぅん、へんなの」


 先生の背中を見ていた奈々穂ちゃんは、触ってもらうより自分からくっつけにいった。あ、でも巴さんとぶつかって引っ込めてる。


「奈々穂ちゃん、あとで教えたげる。ふふ、あたしわかっちゃったなぁ、っく、ね、みゆちゃん」


「……っく……っく……う、うん……」


 先生とえっちしたちっちゃい子も、涙がいっぱい。わかるから、わかってしまうから。


 あの指がなくなったバストに、魔法をかけてくれるって。


 全員が涙ながらに、先生を取り囲むようになっていってた。ちょっとずつにじり寄って、なるべく近くに行きたいって。泣きながら、少しずつ。そうしてひしめき合ってひとしきり涙を流して、ようやくと拭き終える。にっこりと笑顔になれる。


 微笑むの。あなたのいい人で幸せです、って。


「深町くん変わってないわね、っ、ううん立派になって……ふう……先生鼻が高いわ、自慢しちゃおう」


「ふふ、そうね、憲邇ったら誠実ないい人になっちゃって。わたしの相手といい勝負ね」


 おんなじなのに。


「でも今こうして、新しい彼女とともにいます。混浴をしていますし、私は不誠実ですよ」


「ふふふ、深町先生、それは違うわ。天国で彼女、ううんお嫁さんもね、喜んでるわよ。あなたがずっと一人でいるほうが、指輪をわざわざ捨てる意味がなくなっちゃうわ、ふふ」


 絵里さんの言うとおりだって、みんなもまたこくこく、うんうん。「そうなんですか?」と不思議がる、先生はやっぱり女心がわかんない。ふふふ……


「そんなに大層なことは、していないと思っています。してやれなかったとも」


「あんたっ、そんなひどいこと言わないのっ」


「そーだぞ、憲邇さんサイッテー!」


「そうですよ深町先生っ」良子さんまで身を乗り出して大声を上げる。先生は困惑してた。


「大切に、したわ。今の彼女の、あたしが保障してあげる。あなたはその人を、とても大事に、大切にしたの。いい? あんたの異論は認めません。普通の彼女を、普通に愛してあげた、そんなにも輝かしいことをしといて、バカなこと言っちゃ、ダメよ……普通の女に、扱っといてさ、それはないわ、ひどい……」


「……ごめん」


「わかれば、いいのよ。うん、ありがとう、もういいわ」


 そっと離れ、涙を拭き、にっこりと笑顔に。


 思わず、数人が唸るほど。


 先生の目尻は、緩々だ。


「こんな人ならタオル邪魔じゃない? ねぇみんな?」


 紗絵子さんが言い出すと上岡さんもそれに乗っかる。


「そうですね、深町先生、背中流してあげます、裸のお付き合い」


「お願いしますから、本当、やめてください! からかうのも大概にしてくださいっ!」


 ああ、脱ぎだしてってる。東野さんも上岡さんも、大口先生まで裸になってくから、みんなも踏ん切りのついた子から順に、タオルを外してった。


「すみません本当に、我慢できなくなるというか生殺しなんですっ、本当、やめて、
竹花(たけはな)さん止めて!」


 視界に入ってくるたくさんのお色気に、先生はまたあっさり目を閉じちゃった。


「えっと、ごめんなさい、こいつもこう言ってるし、さすがにかわいそうかな」


「そう? これくらいサービスなのになー」


 あっという間に裸でばしゃばしゃ、先生をお湯から上がらせようとした東野さんは渋々タオルを拾いに行く。


「憲邇くん、タオル目に巻きなさいよ、それでいいじゃない」


「ごめん、私は男なんだ、見えないと、その、ああもう恥ずかしいけど言います、見えないと余計やばいんですよっ。まだ二十代なんだっ、妄想だってするっ、そっちのほうが辛いっ、今だってぎりぎりなんだっ」


「……ごめんね。そっか、やりすぎて寸止めは辛いのか。先生もまだまだねぇ」


 すごすごと引き下がる女の子たち。やりすぎちゃったと、反省。奈々穂ちゃんだけ、脱いで戻してと忙しないみんなに首を傾げてた。春花さんは唯一、裸になってったみんなから目を背け、また耳を塞いでた。


「でも深町先生、背中は流させてくださいよ。海での約束はやります、やらせてください、ほらみゆちゃんも」


「はいっ」


「ああ、はい、それくらいなら……その、それが終わったら上がっていいですか? 皆さんは時間がかかるでしょうし、正直大変なので、早めに楽になりたい」


「そうね、憲邇も大変だものね。そっか、男の子だったね、ふふ。忘れてたわ、ねぇみゆ?」


「お母さんひどいよっ、もう」


 いそいそとタオルを直しながら、みゆちゃんも背中を流しに上がろうとしてる。


「せんせぇたいへん? みんながはだかだとどっかくるしくなるの?」


「ああ、うん、そうなんだ。胸が動悸してね、ああいや、胸が苦しくなるんだ」


「ふぅん……あっ! だめだよお兄ちゃん! みんなにこいしちゃだめっ!」


「ああ、うん。あの、その辺はお母さんに教えてもらってくれるかな?」


 言いながら上がっちゃった。タオルを巻き終えた東野さんと上岡さんも一緒に、背中を流しに行く。みゆちゃんはその後についてった。いいな、手伝いたいな。でも我慢我慢。


 昨日お風呂で、あんなにしちゃったもんね。しばらくいいかなぁ。私は週に二回、ぐらいがいいな。みゆちゃん並にやっちゃうと大変。体も心も、持たないよ。……で、でも、一回はやだな、二回ぐらいは……


 はぁ。えっちにされてる。ひどい先生だ。


 みんなでやりたそうに見つめさせる、ひどい先生だ。……でも珍しく、まゆちゃんが自分がやるって、言ってないね。ほんのちょっと、海で疲れたのかな、ここに来てからおとなしいかも。


「おー、すげ、背中意外と広いッスねー」


「うん、これはやりがいあるなぁ……たくましい……」


「……ぇへ……」


 順繰りに背中を洗ってあげてる。私が、私がって、取り合いしてるみたい。ハーレム。みゆちゃんも順番で。


「そーか? 締まってるとは、思うけ……たくましいなぁ、へぇ、ほんと意外」


「そんなことないですよ、運動不足がたたる毎日です」


「まったまたー。深町先生そういうことばっかり言うんスねー、めんどくせー」


「こら光、やめときなさい。ねぇ先生、終わったらあたしにもお願いできますか?」


「えっ、そ、それを男に頼むのはどうかと思うよ」


「やってくれないなら脱いじゃおっか、光」


「そうね、脱いで大声出そうかな」


「だ、ダメですよぅ」


「……わかりました……」


 遠くの先生は、やっぱり強気の人にはぐいぐいされる人に見える。不思議だなぁ。先生あんなところもあるのに、どうしてくらくらすること、言ったり、やったり、するんだろ。別人みたいだよねぇ、うぅん。


「あの、さっきは本当に試すようなことしてごめんなさい。初対面の人にすることじゃなかったですよね……」


「気にしないでください、悪いのは医師失格の男ですよ。それに今こうして極楽気分を満喫させてもらっているんです、ありがたいくらいですよ」


「あはは……口ばっかり上手ですねー」


 でも、上岡さんにんまりだ。


「ほんとほんと。よくもまあべらべら回りますよねー。口だけ達者なやつなら蹴飛ばしてやってんだけどなー」


「口だけですよ、なにも大したことは」


 あ、上岡さん小突いた。「してますっ、ほんと、そういうこと言うのは相手の人をバカにしてしまいますから、やめてください」


「……はい……すみません」


 みんなくすくす。謙遜しすぎはダメですよ、自分のしたことには誇りを持って、ですね、ふふふ。


「そういうこと言う人は罰です、髪も洗いますね」


「可奈……? おい、大丈夫か? お前ちょっと調子おかしいぞ?」


「みゆも、みゆもやりますね」


 先生がいいですよと遮ろうとするとタオルの谷間を下げようとして、閉じてる隙にシャンプーを。早い。


「痛かったら言ってくださいね、あと、お医者さんて忙しいですよね? いつ頃ならメールに返事くれます? 相談とか乗ってほしいなー」


「可奈さん可奈さん、あんた彼氏いんじゃないの」


「うん。頼れるお兄さんとして、これから末永くお付き合いがしたいなーって、それだけよ。浮気はしな、うん、しても十回くらいに止めとこうかな。ほんとよ? 彼氏には……うん、できそうにないかな。先生は……温か過ぎて、傍にはいられないと思う。でも親しくなりたいんです、男友達として、信頼できる人だから」


「可奈……」


 そういえばだけど、確かに上岡さんは東野さんと違って、男子と仲良くはないかもしれない。こんなに積極的にお友達になりましょうって、初めてかも。さすが先生。みゆちゃん、浮気の意味は後でお母さんにね。


「それはもちろんいいですよ、嬉しいです。メールは夜がいいかな、返事は遅れるかもしれませんけれど」


「わかりました、ありがとう……目、閉じててくださいね」


 シャンプーをしっかり馴染ませてから、そっとわしゃわしゃをしにいく。優しく、微笑みながら。


「お前……甲斐甲斐しいとこあんじゃん。でもさらっと流したけど十回はやりたいのか、浮気」


「……光、今度から合コンいいわ。先生、中華のほかにいいお店知ってます? 紹介してほしいなー」


「飯も浮気だぞ」


「そんな気は本当にないのよ。仲良くしたいと思ってるだけ。この人ともっと……話がしたいの。それだけ。あいつにはちゃんと説明するわ、信じてもらえないかもしれないけど、好きはあっちよ、この人を慕う気持ちと、それは違うわ。ここにいるみんなそうだと、今思ったんだけど……言いわけかな?」


「珍し、可奈があたしに意見聞くの。いつもは逆なのに。気にすんな、冗談。この堅物先生相手じゃ疑いようもねーだろ、ねー先生?」


「どうですかね、私は助平ですよ。この状況を楽しんでますから」


「あっはは、じゃー脱いでいいよね?」


「すみません調子乗りました」


「……我慢、できてんのな、ふぅん、クラスの奴らとは違うね」


「光っ、どこ見てるのっ」……あそこだ。


「ごめんごめん、すいません。自制心強いんですねー、ムラムラしないんスか?」


「……してないと思います?」


「思わないッス。じゃあ一緒に巴さんもあがったほうがよくない? ねー巴さん?」


「そ、そうね、あたしも一緒が……ああでもお手入れに時間、どうしよ、急がなきゃ」


 慌てて巴さんがお湯から抜け出し、近くの自分用お手入れセットを持って先生の隣まで。


「なんでともえさんいっしょなの?」


「奈々穂ちゃんだって好きな人とお風呂上りに牛乳飲みたいでしょ?」


「そっか。じゃあななほもそろそろあらわなくっちゃ。お母さんてつだって?」


「はーい」


 広子さんと一緒に奈々穂ちゃんも。


「竹花さん、いいですよ急がなくて」


「い、いいわよそれくらい。たまのお出かけだし、もう一回お風呂だって、別に……」


「ここは旅館だよ」


「……一緒には、上がらせて。待ってて、すぐ行くから」


「……うん、わかった」


 あー、東野さんたちにやにやだ。「巴さんだけ、子供たちとおんなじ部屋でいいんじゃない? ほら、お母さん役」


「ああいいね、光冴えてる」


「こ、こら、大人をからかわないで」


 長い髪のお手入れを始めた巴さんは照れちゃって、したくてうずうずのくせに逆のこと言うの。先生もふふふだ。


「ああ、そういえば部屋割りはどうなったんですか?」


「あんただけ桜園の子供たちと一緒よ、奈々穂ちゃんもね、それだけ覚えとけばいいわ」


「そうなんだ、うん、わかった」


「えー? 深町先生彼女と一緒に寝てあげないんですか? ねー奈々穂ちゃん?」


「そおだよ、ともえさんがお兄ちゃんのこいびとならさ、ななほにはおねえちゃんになるんだから、いっしょにねないとだめ。あ、ななほがみぎっかわね? ともえさんはひだりだよ」


「あ、いや奈々穂ちゃん、そういうわけには」


「あら憲邇さん、ダメです、うちの子にはお姉ちゃんが必要です、ねぇパティちゃん?」


 お風呂の響く広子さんの声。慌ててパティちゃんは「はは、はいっ、巴さんがお母さんなら、わくわく、じゃないや若くって、とと、とってもいいと思いますっ」みんなと視線を合わせて嬉しいと微笑んでた。


「ほ、ほらあんた、固いこと言わないの」


「……いいんですか?」みゆちゃんがばっしゃん、髪が洗い終わる。ぱちくりと目を開けた先生がお隣に確認を。「竹花さん、大変ですよ? 休めないかもしれないよ?」


「ええ、構わないわ、それより楽しそう」


「……」


 本当に? って再度確認。ちらりとこっちを見て、みんなを見て。それから元に戻す。


 目でものを言うのが得意な先生は、なにか隣の人にだけ通じることを、話した。


 でも、しっかり頷くの。


「わかった、ありがとう。後で泣いても知らないよ」


 くすぐったそうに笑う先生。


「いいわ、あたし子供は大好きだもの。ほらそれより、可奈さんたちを洗ってあげなきゃ」


「早く早く」


「……」


 巴さんの反対側では、同級生は二人とも背中を見せていた。みゆちゃんも。先生とは全然違う、女の小さい、白い背中を。あ、また照れてる。三人とも一応タオルで前だけを隠すように押さえてるけど、それでも恥ずかしいみたい。


「閉じてちゃできませんよー? ほら、彼女を待たせちゃダメだと思いますけど?」


「……かしこまりました……」


 わぁ、泣きそうな声。初めて聞いた。ちょっと悪いかな、なんて私が考えていると、大口先生も上がって先生たちの隣に座り込んだ。「深町くん、次先生ね」


「……はい……」


「お兄ちゃんしてくれるの? じゃあななほもななほも!」


「そうねぇ、久しぶりに息子にお願いしようっと」


「うし、あたしもー」


 みんなが次々にざばざば、お湯をかき分け突撃していく。残ったのは絵里さん柚香里さん、詩音さんに春花さんと、一応私だけになった。あれ、みゆちゃんもいる。みんなもってなるから戻ってきたんだ? ふぅん……


 向こうの人たちは鏡面の前で、タオルで覆っていないところから順に洗い出していった(全員が座れなかったために順番待ちの子がいるくらい)。……ちょっと、先生の背中から悲愴感が漂ってきていて、やっぱり悪い気がする。


「皆様どうかしておりますっ。はしたないにも程がありますわ」


「まあまあ、許してやってよ。憲邇とこうして一期一会を楽しんでるんだから」


「そうそう、これくらいはね。まあ、まゆにはあとで小言かな」


「……そうですわね……花雪も花織も、弁えるよう後で言っておきましょう」


「あら、春花さんがお願いって甘えたら、憲邇はでれでれして二つ返事だと思うけど?」


「そっ、そんなことできるわけありませんわ。て、手紙、文書にしませんと」


「わぁ、ぃ、いいですね、それ。わたしもそうしよう……」


「うん、いいなぁ。私も綺麗な便箋、買っちゃおう」


「……みゆも、買おうっと……」ちっちゃい声。


「ねぇみゆちゃん、初めての温泉、楽しい?」


「は、はい。とっても楽しいです。こ、こんなに気持ちいいなんて、思いませんでした」


「ふふふ、そうでしょうそうでしょう。みゆ、もっといっぱい来ましょうね?」


「うん。いっぱい来たいな」


 なでこなでこ、にっこり。うわぁ、かわいい……


「で、でも、ちょびっとだけ、海でひりひりするの」


「あらまぁ、みゆは焼けない体質なのね、遺伝しちゃったなぁ」


「まあ柚香里さんもですの? 私も真っ赤となって痛くなるのですわ」


「大変ねえ。春花さんもいい人と海に行くときは相手に塗ってもらわなくっちゃ、ねえ?」


「え、ええ、そうですわね、そうしましょう」


「詩音ちゃん大丈夫? 焼けてない?」


 柚香里さんはみゆちゃんへのと同じ瞳で、詩音さんに声をかけてる。やっぱりだ。


「ぅ、うん、平気。花雪さんの、弱い肌でも大丈夫なやつって言ってたから」


「そっか、よかった。詩音ちゃんも肌弱そうだからね、気をつけないと」


「……はぃ」


 温泉じゃないところから赤く照れる詩音さんも、かわいいなぁ。わくわくしてきて私も声をかけちゃった。


「温泉、どう? いい気持ち?」


「はい、いい気持ちです。あったかい……」


「ふふふ、リフレッシュできるわよねえ、ああいい気持ち。……私も年かしら、ちょっと、背中とかひりひりしてるかも」


「……じ、実はわたしもです。老いたなぁ」


「……お、お母さんも、え、絵里さんも、ほ、ほら、あれです、あれ」


「あれ? ……」


「……」


 二人見つめ合い、真っ赤になって俯きだした。


「み、みゆもですから、きっとそれです」


「そうね! この年で無理するんじゃあなかったわね! みゆちゃんもういいわよ、わかったから」


「? なんのことですの? 詩音さんわかります?」


「ぃ、いいえ。千歳さんわかります?」


「さぁ、うぅん、なんだろ」


 首を捻ってると二人とも慌てて、「それよりみゆ、ここにはカラオケがあるらしいわよ!」


「詩音ちゃん髪をまとめるのも綺麗なのよ!」なんて、必死に別の話を出してきた。なんなんだろう、よくわからない。カラオケを知らないみゆちゃんにお母さんが変な笑顔で教えだし、絵里さんが詩音さんの長髪を羨ましがりながら、春花さんのようにするのもいいわよと勧めてる。なんなんだろう。詩音さん確かにまとめてないけど、それはそれで綺麗だけどなぁ。


「ん、ああっ、んっ、うわ、気持ちいい……」


「光、変な声出てる」


「だってー……ああっ、ああ、ん……整体師、どーッスか? あっ、ぴったりだと思います」


「……次、可奈ちゃんだね」


「はーい、お願いしまーす。……ああ……はぁ……これは気持ちいいなぁ……ん……はぁ……」


「あ、あんたっ、やらしくしてんじゃないでしょうねっ」


「……とんでも……ないです……ただ洗ってるだけじゃないか……からかうのも大概に、して、本当……」


「だって……はぁ、手つき、丁寧で優しくて、マッサージされてるくらい気持ちいいんです……っ、はぁ」


「普通にしてるだけじゃないか、頼むから静かにしてもらえないかな」


「……この手つきでさっきの台詞、言われようもんならそりゃあ号泣するし、惚気るわね、っ、はぁ、ごめんなさい、ほんと、ただ気持ちいいの、ど、どうしてかな、あっ、ん……」


「もう、しょうがないわね、あんたみたいなバカ野郎はっ。次あたしっ、いいわねっ?」


「はい……」


「いや、ダメ、もっと、もっとぉ……」


「はぁ……ん……はぁ……っ、あ、こ、これは、ごめんね、はぁ、これはため息出るわね、っ、ん……っ」


 向こうじゃえっちな声三昧。仕方ないよ、先生の手は魔法使いの手だから。慈しみに満ちた、大きく広がる手なの。


「お兄ちゃん早くぅ、ななほもななほも」


「憲邇さんまだー?」


「深町のお兄さまは大変そうですわね、まゆちゃん、よろしければ私が」


「やーだよー。憲邇さんがいい」


「まあまあ、深町くんったら」


「せんせー大変ねー。ま、いくらでも待つけど」


「そうですね先輩。幸い体は温かいし」


「ええ。ごしゅ、深町先生にはもっと働いてもらいませんと」


 順番待ちのみんなはお手入れに大忙し。鏡の前でタオル姿の肌色が笑い合い、その間をただ一人上半身裸の男性が動き回り背中をはらりと脱がしつつ、そこを洗ってあげている。


 まだまだかかりそう。でも先生が一番、楽しそうだった。
















































































 第四十三話あとがき的戯言




 
三日月(みかづき)です。ああ楽しかった!


 ここまで読了くださり、ありがとうございました。また次回もよろしくお願いします。


 それではさようなら。あ、静香さんは
825782、アンダー65Dカップになりました。どうぞよろしく。


 しかし登場人物が多すぎる……作者の力量が知れるというものですが、いいのです。私は書きたいものを書きたいように書いています。それだけです。文句がある方はそも読んではくださらないでしょうし、これでいいのです。……読みづらいですよね、どうぞ遠慮なく叱咤してくださいませ。これ以上は……書きたかったのです。読みやすい、わかりやすいというのはもちろん読み物の最低条件だと、わかってはいるのですが……ぶつぶつ。




 
20100514 三日月まるる




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テーマ : 官能小説 - ジャンル : アダルト

2010/08/14 21:00 | 小説COMMENT(0)TRACKBACK(0)  TOP

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