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「ごめんなさい」その四十八_第四十七話_朝からこの調子

 こんにちは、三日月です。
 気がつけば二周年ですね。特になにも用意はしていませんけれど、ありがとうございます。これも読者の皆様がいるお陰ですね。これからもどうぞどうぞよろしくお願いします。
 ひとまずは溜まっていた分をなるべく早くに公開したいと思います。
 拍手ありがとうございます。とても嬉しいです。
 それでは第四十七話です、どうぞ。


















 四十七 朝からこの調子








 娘のすぐ隣に押し倒して頂きました。最近とみに雄々しさの増した旦那様が嬉しく、でも見ることが敵わず、目を伏せます。


「ふ、
深町(ふかまち)様、こ、これでその、動きますと、私……」


「あ、ごめん、つい……そうだな、このときになると我を忘れるのをどうにかしないと」


 ゆったりと起こして頂き、そわと撫でてもらいます。ああ風呂場の髪が勿体ない。


「じゃあ椅子に座ってしようか」


 すぐそこから椅子を(わざと)
花雪(かゆき)の隣に置き、その上に座って私を招きます。……雄々しいものが、隠れもせず鎮座し……まともに見ることもできません。


 先ほど見た、雪解けの景色が。瞼に焼き付いているのです。


「ああそうだ、せめてそのままか背中向けてするか、どっちかくらい選ばせよう、正面でやる? それとも背中を預けたい?」


「……」


 そのようなこと、女に選ばせるものではありませんのに、貴方様ときたらお戯れを……


「……や、優しく……」


 至らぬ家内に言えることは、これしかありませんのに。


「……わかったよ、じゃあキスがしたいから、そのまま座ってくれ」


「はい、ただ今……」


 横目で深町様の脚を窺い、そこから辿るように明後日を向きながら、ゆっくりと膝の上に座らせて頂きます。ようやくと正面を向くと、愛し旦那様が、にっこり……


 合わせるために目を閉じ、もう開きません。お菓子でできた家の、入り口からまず、味わってゆくのです……


 おいしさのあまり食べ過ぎてしまいます。ああ太ってしまいますわ、文字通り。


 太らせて下さいな。わ、私も、同じことを。


「見てるよ、花雪」


 びくりとなる、言の葉。「母親が男とキスするのに興味津々みたいだ」


「……様っ」


「自分とどう違うのか見比べてる」


「……ち様っ」


「見られるよ、これから全部」


 また口解け。ああもう、ひどい人……っ。


「花雪はやらしいからね、自分のときは閉じるくせに終わるとじっと見たがるんだ」


「深町さまっ、失礼ですわっ」


「……ゆき……お願い、です……めて……」


「見てくださいと、言うんだ」


 ぞくりと背筋が、伸びます。「私たちの愛の営みを見てくださいと、懇願するんだ」


「……っ」


 わなわなと震えが止まりません。あまりの官能に酔いなど醒め、肩をつかむ深町様に若干の怯えを感じてしまいます。あんなに唇は甘いのに、今の肌はあっという間にビターへ、変わっていました。


「言えたら、花雪に見るなと言うよ」私にだけ届く、囁き声。「見られたくないのはわかるよ、言ってご覧、逆に見させないから」


「……」


 どくんどくんと、心臓が高鳴っております……苦労しますのね、これからもっと、もっと……これが旦那様の、求め……夜の務め、ですのね……


 言えば貴方様が、興奮して下さるのですね? あの温かいものを、下さるのですね? わずかに目を開け、そこから覗く背の高い方へお伺い。


 こくりと、しっかり頷いて頂きました。なんという床上手さんなのでしょう。これは敵いませんわ、教え上手ですわ……


 でも。喉が何度も鳴り、からからと渇きそうなほど、緊張しておりました。言うのです、言うのですっ。
紗絵子(さえこ)様のようにいかなくとも、私なりに、どうかお願い、声が、出なさいっ。


「……か……っ……ゆきっ、みっ、み……見て、下さい、っ……私と……っ、ふ、深町様の、愛の営み、を……っ」


 しどろもどろでした。上手とはとても言えず、そしてぼろぼろと泣く始末。なんと情けのない家内でしょう。こんなこともこなせないなど、恥さらしですわ、ああ花雪の、立派なこと……


「……お母さま……」


 ぽんと頭に、載せられるもの。くるくると私を包み、柔らかくして下さるもの……暗闇の向こうへ倒れ込み、受け止めてもらいました。


 硬い、胸板へ。


「よく言えたね、偉いよ。ごめん、試すような真似をして」


「……いいえ……婦人の、っ、努めですの」


 ごろごろと撫でて頂き、先ほどより甘く感じるムースが次から次へと口に運ばれ、大忙し。背中を下りてゆく指先にはぁとため息が、ああはしたない。


「聞こえたね花雪? 
春花(はるか)がなにを言ったか」


「ええ、しかと耳にしましたわ」


「じゃあ見るな、目を閉じろ。こんなかわいいことを言うやつは私だけが見る、いいな?」


「まあ……うふふ、はい深町さま。あなたさまの言うとおり、目を閉じて向こうを向いていますわね」


 ごろんと寝転がる音がします。言葉のとおり花雪があちらに顔を向けたのでしょう。ありがたいことですわ。やはり立派な娘です。


 拭いて頂く、涙に。そろそろと手を、添えました。一握りの勇気を、褒めて頂きありがとう、ございます。これだけなら、他の女性は、ええみゆさんのような方なら簡単にこなすでしょうに、未熟な女で申し訳ありません。


「これだけ興奮させといてよく言うよ」


 添えた指がまっさかさまに、落下します。落ちたところで触れた、溶岩のような熱いものに。思わず手を引っ込め、身体中が真っ赤に……っ!


「わかった? 私は今とても興奮してる。かわいいお前を、抱くからだ」


「まあ……深町様……んっ、ふぁ、ぁ……」


 なにに指が触れたのかを忘れるために、口付けを続けました。この方の指が私の女性を苛めに来ていることを忘れるためにも、口付けを続けました。舌が、舌が縦横無尽に私の口内を跳ね回り、あちらこちらと舐めに舐め、男の体温を伝えにきます。きっとこの方の唾を、飲み込んでしまいましたわ。私の唾液を、向こうが吸い尽くしていくようでした。吸い、舐め、甘噛みし、味わい尽くされてしまいました。これほどなさると、後日私など飽きてしまいますわ……ほどほどにして下さいまし。


 うっとりと、まあはしたない。


「春花のここはしっかり大人だね、ここが黒くなったのっていくつぐらいかな?」


「そ、そのようなこと……ぁ、っ、ふぁ、ふぁっ」


 三度目ともなれば身体も旦那様を求めているのでしょう、侵入されるも容易く、応じている様子。愉しげな男の手つきに、どこか私まで、ああはしたないっ。


「花雪より前、後?」


「……い、言えません……ぁ、ぁ……っ、ん」


「そうか、悪い、ほんとどうかしてるな……さっきあんなに頑張ってくれた嫁に、こんな早くもっとを要求するなんて……じっくり、言えるようになろうね。そうして一つ一つ、言えるようになる春花がかわいいんだよ」


「まあ……っ、ありがとう、っ、ございますわ……んっ、っ、っ」


 三十九のおばさんにこんな、お褒めを下さるのは貴方様くらいですわ、うふふ。逆ですの、叱って窘めて下さいな、うふふ、っ。


「……おばあさまに聞いてやろうかしら」


「ダメだよ花雪、いつか言えるようになった春花の口から、自己申告してもらわないとね?」


「……はい、深町様……ふぁ、ぁ、ぁ……」


 安心なさい、花雪の頃にはまだでしたわ。子を授かることこそできましたけれど、なかなかと成長しない身体に少し苛立ちを感じていたのは同じですの。


 来年、一気に来ますわよ? あっという間に胸が膨らみ、女としての丸みを帯びてゆきますから。


「春花はきっとここも小さいうちに大きくなってしまったんだろうね」


「ぁっ、ぁぁ、ぁ……んっ、ふぁ、ぁ……」


 胸を揉まれました。わしづかみにされ、どこか乱暴に、揉まれてゆきます……すべてを丸々と収めようとする手のひらより、昂った私の身体が零れ落ちては深町様に掬われる。持ち上げるように揉まれ、叩き潰すように揉まれ、伸縮自在とされてゆきました。と、床上手さんです……っ。


「いたずらされたろう? 男子には格好の的だしね」


「い、いえ、私、っ、卒業まで女子としか、お付き合いはなく、ぁっ、ぁぁ、ぁ……ふぅ、ふぅ」


「ああそうなんだ、ふぅん。だとするとやっかみの的にもなってはないか、道理でこんなにたぷたぷやわ」


「嫌ぁ! よして、よしてっ、ひどい……っ」


「春花のおっぱい柔らかくておっきいよ、花雪」


「嫌、嫌、嫌ですわ、っ、深町様……ふぁ……んっ」


 ダメな家内です。撫でられては許し、キスされては許すのです。それだけでもう、なにを言われようが気にしなくなるのです。どうしてでしょう、これほど恥ずかしいことを言われて、やはり麻痺したのですね……


「弾力抜群でね、これはなんと言えばいいのか、ゼリーみたいにぷるんとしてるんだけどね」


「まあ、まあ……っ」


「……めて……やめて下さい……っ」


「揉んでも揉んでも揉みたくなるんだ、不思議だよ」


「……い……ひどいです、っ、の……んっ、ふぁ、ふぁ、ぁ、ぁぁ……っ」


 こねあげられました……ああ嬉しい……違いますの……深町様が助平なだけですの……嬉しい……こうして頂くためにも、私の胸は膨らんでくれたのですね、ふふふ……


「こんな魅惑的な春花が、好きだよ」


「……はい……たくしも……き……き……好き……」


「まあ、は、はしたないです……」


「今さらなに言ってるんだ、花雪も散々、おっとよそうか。今は春花だけ、ふふ、吸いたいが残念だ」


「そ、それはご勘弁、を……ぁ、ふぅ」


 一息小休止をとりました。その時点でもう、私の準備は整ったようです。ああもう、王子様に改造されてしまったよう。


「朝っぱらからすまない、もうちょっと頑張ってくれ。いくよ、春花」


「はい……っ! ぁ、ぁ、ぁ……ぁ、ぁぁ、ぁ……っ」


 軽々と持って頂き、導かれ、挿入と相成りました……っ……はぁ、さすが三度目です、初めてに比べずいぶんとすんなり、っ、いきましたわね……


 真下からはっきりと、重力を感じます。温かな重力が、こんなにも……しっかりと持って頂き、できるだけやりやすく、且つ気持ちのよいように前でこの方をつかみます……大きな身体の、広がる背中……うっとりとさえ、ああはしたない……でも……吐息のかかる、素敵な距離……これほど多くを、よくご存知ですわ……性に詳しい旦那様のお相手は、大変ですわね……うふふ……はぁ……ふぅ……


 じわじわとこの方の匂いが、鼻を満たしてくれました。落ち着くのにわずか、それからゆっくりと、動き、動かされ……


「……っ、ぁ、っ……はぁ、ま……様、ぁ、ぁ……ぁぁ……」


 どれほど押し殺しても、声は自粛してくれません。聞かせたくないのに、この方にさえもこのような、恥ずかしい声など……高い声はみっともなく、耳障りですら、ありました……


 なのに。「本当、かわいい喘ぎ声だ」


「嫌っ、や、やです、っ……はぁ、ん……っ」


「よかったよこれ、すぐ傍で春花の声が聞こえて。もっと言っていいぞ、もっと喘いで、叫んだっていいんだぞ?」


「……やです、わ……ぁっ、ぁっ、ぁぁっ……」


 きんと頭が鳴ります。私こそこんなにも近い距離で深町様の愛撫を聞き、どうにかなりそうでした。嬉しくて、心地よく……硬く尖った棒が、私の女性をどれだけ下から、強い重力とともに苛めてこようと……声と、撫でで……いいえ、硬く苛めるからこそ、ですわ……きっとそうですの……ごりっ……などと、一段と強くされるから、こそ、ああごりごりとまた、されました、されてしまいました……ぬっちゅぬっちゅとまあ、なんといやらしい……上から下から、囁かれてまたきんと頭が鳴ります……擦れる囁き声が、体内から、ああ奥にごりっとぶつかりましたっ、身体が下に押す力と上に突き上げる力に挟まれ、繋がったところがぶつかるしかありません。押し上げてくる硬いお人を痛いほどつかみ、構いませんと、ぶつけて下さいとしがみついてしまいました。ああはしたない。


「そうか、相変わらず大きな胸がたぷたぷ揺れてるぞ、こんな近くで見れて興奮する、させにきてるんだなっ」


「嫌、ふぁっ、嫌です、っ……ぁ、ふぁ、ぁ、様……んっ、ん……」


 とうとう唇が飽きたのか、今度は首筋を這うように……深町様の硬い舌が、動き回ってゆきます……お風呂の髪でよかった……


「気持ちいいよ春花、春花が気持ちいいっ」


「っ……嫌、です、ですからふぁっ、ぁぁ……っ」


「持ってるとこも気持ちいいぞっ、春花のお尻もっ、意外と大きいんだなっ」


「嫌ぁ! ひどいっ、ひどいですわっ!」


 気にしていることを……っ! どうしてそのような、泣かせるのですかっ!


 心地よく、泣かせないで下さいなっ。


「……深町様……ぁ、深町様……」


「まあ、まあ……っ」


 言葉のとおりお尻を持っても動かされておりました。揉みしだき揺するほどに、お尻からも動かされております。こ、ここも好きなのか、存外楽しそうな呼吸を感じました。ま、まったくもう。


「春花、脚を絡めてくれないか? 全体重でお前を感じたいっ」


「ええ……? え、っ、そ、それは」


 申し訳なく思いますわ。わ、私、重いですもの。


「お前の動きを感じたいんだ、もっともっとっ。頼むっ、絡めてこい、しっかり掴め!」


「はぁっ……はいっ……」


 ああ、ああどうしましょう、がっしりと脚でこの方を、つかんでしまいましたわ。ただでさえ肩にしがみついているというのに、どうしましょう。仕方ありませんもの、旦那様の求めですから、うふふ。


 ですがどうしましょう、とってもキスがしたいのに、そんな顔を正面向けるなどできませんわ。その顔は見られたくないのに、キスがしたいのです。今のせがむ顔を見せたくなく、頬の横へ顔を置きますが、したくてしたくてたまらないのです。足繁くお菓子の家へ通いたいのですが、正面切って見られたくなく、ですけれど、自分から思い切って求めにも、ああこうしている間に、またごりっ、ごり……っ、はぁ、前回までより、激しくは感じません。慣れがようやくでしょうか、それならいいのです、ええ私が欲することの説明ともなりますもの。ああキスが欲しい、口づけが欲しい。温かなものも、ほ、欲しい。撫でて頂きたい、さわさわと触って頂きたい、舐めても、もらいたいほど、この方が欲しい……っ!


「あげるよっ、私を全部っ」


「ぁ……っ



 違いますっ、あげるのは私、身体も心も全部貴方様のものだというのに、下さらなくとも……っ。


「……きっ……好きっ……深町様っ、好きっ、ぁっ、ぁっ、ぁぁっ」


「私も好きだよ、春花が大好きだっ」


 少しずつ、動きが強く、なってゆきます。変則的にぐるぐるとされ、ぐるぐると殿方が回っているような重力が回転しているような、錯覚に陥ります。ああ正気でした、深町様の男性が回すように突き上げております。先ほどと違う擦れに、責めに、また頭の違う部分がきんと鳴りました。自分の女性が、今までと違うところまで真に女性とされ、そんなところまでこの方のものにされるなど、埋め尽くすだけで物足りないのかと、そこまで求めて下さり、光栄で……一層しがみつき、ほとんど叩くように男の背中をさすることしか、できずじまい。応えてあげたい、心地よいですと、嬉しいのですと、教えてあげたい……切にっ。


 貫かれることが悦びですと、声を大にしてっ。


「ぁ、ふぁ、っ……んっ、ぁ、き、ん……ぁっ、ふぅ、きっ……ん、き、き……」


「そんな大声で喘ぐなっ、響くっ。嬉しいぞ春花っ、春花っ、好きだっ、春花っ」


「ぁ、ぁ、ぁ……ん、ん……ま……はぁ……っ」


 嬉しい……本当に心地よく、名を呼ばれることに悦楽を感じそうになります。耳朶に響き渡り、染みこんでゆく波音ですわ……深町様がこれほど盛り上がっていても、それがごりごりと痛いほど強く、硬くっ、私の女性を広げても、この波の音にすべてを委ねると楽でした……やはりまだきつい私を、これほどまでに優しくして下さるなど……ああ返せません、同じように名を、叫んでやりたいくらいですのに……意気地のない女……妾でしょうに、これほど卑猥なことを……わざわざ娘の前でしているというのに、今の今まで忘れて……


 ええ、忘れるほど、夢中でしたわ。突き上げられるたびに、どこか私の女性の、おかしなところが、突起、でしょうか、そこが擦れ、擦れ、擦れに、擦れ、擦れて……おかしく、させていたのです。隠れているところです、見て見ぬフリをしようかと思いましたが、すべての原因はそれですわ。そこが、ぁっ、そこが、擦れるから、挿入したものと、それが、ぁ、突き上げのたびに、擦れるからっ、ぁ、ぁ、ぁ……


 じんと、くるのです。胸が熱く、なるのです。心なしか、いえきっと、旦那様もそことそこが触れ合うと嬉しそうに、ええもちろん悦んでおりますもの。ほうら、動きが、強く、っ、激しく、ああ終わりが近く、硬く、一層、ああ……


「いくよ春花っ、欲しいんだろう?」


「っ、っ……っ、んっ、ふぁっ……っ、っ」


 今度は顔を正面へ置き、強く頷いたつもりが、かすかに振れるだけ。でもそれでもう、心強い旦那様はわかるのです。ええもう、信じ難いほど、硬いものがぼう、ムースが、膨張……っ。


「ありがとう、よく言ったっ、春花……っ」


「んんっ
 ……ふぁぁ ぁっ、ふぁぁ はぁ、ん……っ ん、深町様……


 射精して、頂きました……どくどくと……どく、どく……温かい……どくどくと、どくどくと……ああ……っ……どくっ、どく……どく……はぁ……んっ……どくっ、ええっ、ふ、ふか、どくっ、どくどく、どくどく、どくどくどく……
 ……っ……っ……っ……っ……考える間もなく、次々と注ぎ込まれました……ああ……こんなに優しく、犯されてよいのでしょうか……愛奴隷が、これほど優しくされると、勘違いしますわ……妻でもありますけれど、至らない妻です、ぐずで……どくっ……どうしようもなく、甘えているのに……どく……務めすら満足に果たせぬ……どく、どく……能のないどくっ、ああもうっ、おかし、おかしいですわっ。今朝の深町様は異常ですっ。こ、これほど、どくどくっ、ああっ、どうしましょう、これでお子を授かれぬなど、仮にも妻が名折れですわ、っ、ま、まだ、ああ、ああ……温かい……身体の芯から温かい……温められております……っ……ま、まだ、続いて……お腹の奥から、温められておりますの……っ……お、終わりませんの? は、初めてと違いすぎ、っ、こ、これは病気でなくて? 性病でしょうか? ああっ、花雪はよく、耐えましたわね……っ。


 しばらくの、長い長い射精が、終わりました。その間中震えっぱなしで、みっともなかったことでしょう。弱々しくもこの方をつかむだけで精一杯。膣がどう反応したかも考えられず、ただただ受け止めるに徹し……びくびくと脈動する硬く尖っていた棒にしか、意識がありませんでした。情けのないことです。


 外れると、気が抜けたのか力が入らず、ふらふらと倒れ込んでしまいました。慌てて受け止めて下さる旦那様に旦那様に、


「好き……」


 と、風呂場を反響させていくだけ。それしかできぬ、ぐずな私。本当に疲れたのか指一本動かせず、ゆったりと横たえてもらうだけ。こぽこぽ……また淫猥な音ですこと……ああやはり、この音は専用ですのね、先ほどのはまったく耳に入りませんでしたもの……隣と合わせればさぞ淫靡な光景でしょうが、幸い瞼も重く、開けられません。


 ふんわりとお菓子が降ってきました。なんておいしいのでしょう。うふふ。


「私も好きだよ、春花。よく頑張ったね、少々、無理をしてしまったようだ」


「……いいえ、とんでも、ありませんの……」


 ああ流れてゆきます。勿体ない。や、やはり多すぎたのですわ、入りきらず、ああどんどんと……ああ、ああそんなに、行かないで、お待ちになって……


「……やめなさい春花、脚を動かすのは」


「え? う、動かせるはずありませんの、力が、とても入らず……ん……」


「私の目にはね、溢れ出ていくどろどろを戻そうと必死で脚をくねらせているように見えるんだ、やめなさい、また襲うぞ?」


「っ……そ、そんな……っ」


 はしたないにも、程がありました……ああなんと、なんと恥ずかしい……っ! 淑女たるものが、そのような破廉恥な、ああ、本当ですの? 脚が動く感覚など、温かくしかないのにっ。


「ついでに言うと、その隣にも同じようにどろどろをあそこで受け止めた女がいるんだ。二人の美少女と美女が裸で横たわって、揃いも揃ってぴくぴく蠢きながらあそこから白いものを流して、さっき私に犯されたって教えてるぞ? すごい光景だな」


「嫌……っ! やめて下さいなっ!」


「もう、深町さまったら、ふふ」


 ど、どうして花雪は余裕綽々、うう、ずるいですわっ。


「そうすればよかったのですわね、また襲っていただけるのなら……」


「花雪も無意識にちょっとだけしてたぞ? 安心なさい、やらしいやつだ」


「まあ、もう、ふふふ……」


「春花、横向きになっても変わらないよ、どちらにしろどろどろが内腿伝って流れてるのが見える、寧ろ巨乳がゆっさゆっさ」


「嫌、嫌、見ないで、どうか、お願いっ」


「深町さまは見たいのですか? 私のはもうずいぶんと流れてしまいましたけれど、どの体勢がよく見えます?」


「花雪っ、や、やめてっ」


「楽にしてなさい、なんでもいいよ。しばらく拝ませてもらう。隣に行くのは待ってもらうけど」


「まあ、いやらしい」


「嫌、嫌です、嫌、嫌、嫌……」


 ただ私の悲鳴のような言葉だけが、風呂場に響いて、ゆきました……じっとりとした、愛しい旦那様の視線を……どんな体勢としても、感じすぎるほど、感じ……恥ずかしい……恥ずかしい……そこばっかり、淫靡ですわっ、淫乱なっ、卑猥なっ……もう、バカ……


 ああ嬉しい。


「録れないのが少し残念だよ、またこうして二人をするときは、同じ光景を録るよ、いいよね?」


「はい、深町さま」


「……はい……」


 唇は、嘘つきですの。でも……こんなにも心が繋がったと、記録に残るのは歓迎かもしれません。ああはしたない。ずっとずっと太い線で繋がってはいましたけれども、うふふ。


 次第に邪な女は、寄り添って頂きたいと思うようになりました。欲深すぎて目も当てられませんが、前の二度はどちらも、すぐに肌を寄せ合いに来ましたのにと、同じでなければ不満なのです。ああよしましょう、醜いですわ。


「さて、二人とも充分射精されたことを味わった? ああ面倒だな、これがなんていうのかすらまだ教えられないとは」


「深町様っ」


「え、まだ足りない? そうか、じゃあもう少し眺めさせてもらおう、じっくり感じるといい、下腹部の感触をね。私もしばし、春の花と雪の花から蜜が流れ落ちる様を眺めるとしよう」


「まあ、まったくもう、しょうのない主人ですわね、お母さま?」


「……ええ、もう、ひどい人ですわ……」


 そんなもの……毎度毎度、存分に味わっておりますの。お上手な言葉を紡ぐ方よりの贈り物です、じっくり、ゆっくり、愛を育んだと認識してゆきますわ……ふふ、せっかくですからなんというのか教えてもらいたいほどですの。


膣内射精(なかだし)されてそんなに嬉しいのか、二人とも」


 間に挟まれに来ましたわ、我慢しきれず、ふふ、しょうのない人。あっという間に花雪が抱きつき、私もと、寄り添いにゆきます。そうして肩を寄せられ、満足げに微笑んでゆくのですわ。ああ……女冥利。ん、ちょっと、違いますわね、ふふ。


「なかだし?」


「さっき教えたところに射精されることだよ、精子をおま○こで受け止めただろう?」


「深町様っ、もうっ、よして下さいなっ」


「なかだし、というのですか、はぁ。それはいやらしい……? 本だしのように普通に思えますけれど……?」


「花雪、人前で言うなよ? 絶対にな。こっそりみんなに聞くぐらいにしなさい」


「はい、わかりました。いまいちその、言葉の持つ魔力と言いますか、いやらしさが感じられませんの。不思議なものです。なによりその、え、えっちは、子作りでしょう? これが普通では?」


「そうか……面白いね、花雪も」


「もう、よしてくださいな」


「じゃあ理解できるまで言わせないほうがいいかな、どうしようか……知らぬままにたくさん言わせて、記録しておくのも愉しいんだけれどね」


「……変態さんですこと」


「ええ、深町様の変態さ加減ときたら、末代まで語り継げられますわ」


「う、そこまで言うなよ……」


 ああすみません、妾の癖に生意気な。た、叩いてもよろしくてよ? すみません、しょんぼりした貴方様をかわいいと、不用意にも思ってしまいましたわ。


 ……でも……事後に、撫でられることに……恍惚として、しまいます……この、な、なでなで地獄は……苦しいですわ……心地よすぎて……気持ちよすぎて……幸せ……


「……深町さま、な、なですぎですの……お、おかしくなって、っ、しまいます……」


「ん? そうか? そんなに、普通だろう?」


「……深町様……私も……撫ですぎですの……おかしく、なってしまいますわ……」


 どれほどでも、して頂きたく、存じます……飽きなど、いついつまでもこぬ、優しい、なでなで……ああ、終わってからは、心底、格別ですわ……


 口付けのレモンが、終わってからにぴったりですの。


 めくるめく、夜でした。ええ、夜でした。


「せっかく抱いていただくのですから、めくるめく夜がよかったですわ……めくるめく朝は変ですの。朝日がほら、のぞいています」


 まあ、娘も同じよう。


「すまない、でもこれで気持ちよく仕事に臨めそうだ。朝から悪かった、後はもう、温泉旅館で安らかな休日を過ごしてくれ」


「え、深町様? 二泊でとりましたの?」


「ああ……どうだったっけ、いつまでいるんだろう。忘れたなぁ」


「許されるのでしたら、もう少しここにいたいですわ。この温泉で交流を持ちたいです」


「そうだね、上がってからみんなで考えようか。……そろそろ汗を流して一回湯船に浸かろう。このままの匂いは耐えられそうもない」


 気付きませんでした。そういえばまだ、まだのこ……ああもうっ、これだけでどれほど私は、貞淑を失ったことでしょうっ。旦那様のせいですわっ。


 三人でかいた汗を流しっこします。どこか照れくさく、やはりまた隠そうとして、しまいます。仕方ないねと、苦笑いで許して頂きました。寛大な主人で本当に果報者ですわ。


 それから……贅沢に朝風呂となりました。少々、あまりに長くここにいすぎたためどなたか入ってこないかと心配性が頭をよぎり、でもと仰る強い旦那様に従います。もう少し三人でお風呂を楽しみたいのだとか。仕方ありませんわね。


「多分誰も来やしないさ、開いてすぐだし、男湯も空だったしね」


「まあ、深町さま? 嘘はいけませんわ」


「そう言えば春花だってすんなりしてくれるだろう? 早くやりたかったんだ、どうしても」


「まあ」「まあ」


「しょうがありませんわね」


 二人、間に挟まる男性越しに視線を交わし、くすりと笑い合ってしまいました。花雪ときたらますます腕を絡めて、なんと行動的なのでしょう。私は寄り添うだけで充分ですわ。幸福に浸れます。


「ただ、朝風呂が好きな女性がそこまできても気付かないし、もしかしたら誰か入ってきていたのかもしれないね」


 びくりとなる、言の葉。「交わる三人に慌てて取って返したのかも」


「……っ」


 二人、ごくりと喉が鳴ります。い、今になって言うのは卑怯ですわ、ずるですの。


「ごめんね、正直そこまで考えが回らなかった。夢中だったんだ」


「……しょうがありませんわね」


 再度のコーラスを、今度は艶をつけて。もう、お上手ですこと。そのような狂わせるお言葉を使わないで下さいな、それだけでもう、許してしまいますの。


 ええ、なにをされても。お湯からの温かさとはまた、別の温かさを、お腹の中へ届けて下さいましたもの。なかだし……私もこれにいやらしさは、まるで感じません。当たり前のことですもの。ああいえ、どうかしております。性のことは当たり前こそ、卑猥でしたわ。なんて淫乱な言葉でしょう、二度と思い出さないようにしませんと。


 そうですわ、そのような卑猥の代わり、肩を乗せさせて下さいな、少々、落として、ふふ、無理のある姿勢をとって下さいな。少しでよいのです、わずかな間、貴方様の肩をお借りしたい……


 同じ娘の要望に応えて下さる紳士のご主人様。ひとときの充足を味わい、はぁとため息混じりに、早朝の混浴を楽しんでいきました。


 ずーっと、のぼせておりますの。
















 おんせんのにおいがする。ふわふわでおいしそうなにおい……あっついなぁ、もう……


 おきれた。もうあさ、こわくないな。こわくない。さみしくない。


 お兄ちゃんがとなりに、いるから。


 あさおきて、ななほがまんなかで、となりにお兄ちゃん、はんたいにお母さんがいるから。


 なんでか、また泣きむし……っ、ちょっとまえの、あの、たのしくってしあわせで、たまらなかったときに、やっともどれたんだ……


 お兄ちゃん、ななほね、あのときすっごくしあわせだったんだよ? お兄ちゃんとお母さんががっこうとおしごとでも、おじいさんたちがいっしょいてさ、ひとりじゃなくってさ、ひとりでおるすばんもできたでしょ? かえってくるから、お兄ちゃんがゆうがたかえって、お母さんもよるにかえってくるからね、へえきだったんだよ……おかえりなさいって、まいにちいえたから。そしたらちゅうにかいだから。ね?


 またいっしょあそぼうね、いっぱいあそんでね? ななほもお兄ちゃんも、おっきくなっちゃったから、いろんなことできるよね、ね? えっちなこともいいよ、しようね、いっぱいしようね。


 お母さんもね? またしちゅーたくさんたべたいな、ね? ななほね、おりょうりできるようになったんだよ、ちからつよくなってね、できるんだよ、いっしょしよう? こんなあついときでもしちゅーたべたいな、いっぱいたべたい、お母さんのつくったやつ……お母さんのしちゅーが、いちばんおいしい。


 あ。むこうにもお母さんいるや。もっとさきにおねえちゃんも、いーっぱい。わぁ、わぁ、ななほかぞくいっぱいだねぇ、うれしい……


 ん、おんせんのにおい、せんせぇお兄ちゃんからだ。ふぅん……ななほもいっしょ入りたかったのに、ばかっ。


 ちゅうしてやるぅ。ちゅっ、ちゅっ、えへへ、ちゅぅ、ちゅぅぅ……あー? ふんっ、ちがうおんなの人といっぱいしたでしょ、うわきものっ。


 でもいいや。ななほもこいびとだからね。せんせぇみんなのかれしさん。たいへんだね、ななほはよしよししようっと。


 もうちょっとだけ……お兄ちゃんのうでの中、ねてよ……泣きむしはおしえたくないもんね。


 だいすきだよ、せんせぇ。
















 私は過ちを、犯しました。わずか九つの息子に、欲情をしました。母親のくせに子供を押し倒し、襲い、わけもわからぬ(はずだった)息子から、
奈々穂(ななほ)を、授かりました。


 産んでしまいました。産みたかった。ほかにどんな苦労をしようとも、産みたかった。


 償えるはずもないと、二十年近くの間、罪の意識というものに苛まれてきました。誤魔化し、嘘に嘘を塗り固めて、子供たちを騙し続け、当然の報いに、心折れそうになることもありました。そのたびにかわいい奈々穂に、救われ、凛とした息子に、助けられてきました。少しばかり、息子と仲のよい上の娘に嫉妬し、それも力となっていたのだと、今になって気づきました。


 私はおかしな、女です。異常極まる、変態です。実の息子が、ほしかった。確かにお腹を痛めて産んだ息子が、ほしかった。なぜかわかりません。夫の死が影を落としていた、のでしょうか。幼なじみと結納を交わし、成人してからようやくと、簡単な式をひっそりと済ませた、大切な相手がいなくなったからでしょうか。わかりません。似て非なる息子が、どうして愛しいのでなく、好きなのか。好きから、愛したくなったのか。わかりません。わからないのです。ただもう、どの男性も好きになれませんでした。ふと息子を意識すると、もう誰も意識の中へ入ってこないのです。なによりも息子娘を優先する、親として当たり前だったはずのことに、周囲の恐らくは好意を持ってくれていた人たちが次第に、離れていったのは、悟っていたのでしょう。私のそれは、違うと、おかしいと。目が違うと、男を見ていると。


 時間が経てば、我慢できませんでした。偶然の二人きりをこれ幸いと、息子を犯しました。


 気持ちよかったのです。ええ、それはもう。


 だから、息子も娘と、交わるのです。上の娘も下の娘も、息子と交わりたがるのです。


 因果応報でしょうか。これが罰なのでしょうか。贖うためにどうすればよいのか、もうなにもわかりません。


 ただ……息子は、大きくなった大きな息子は、娘は、私を赦してくれました。一緒くたにしてくれました。いいよと、辛かったねと、あやしにさえ来る始末。


 わかるはずない、のに。私がどれだけ苦しかったのか、わかるはずもないのに。その苦悩も、胸のうちも。


 でも……赦しをもらい心底ほっとしているのも、事実でした。もういいと、隠す必要も我慢も、いらないと、言ってもらえば堰を切りました。ぼろぼろの情けない女が一人、あとに残っただけでした。母の面影のなにひとつない、侘しい女が一人。


 私がもし、自らを赦すことができたのなら。またそこから、母親を取り戻すことができるのかも、しれません。また歩いていけるようになる、お天道様に顔向けできるようになるのかも、しれません。


 こんなに……娘二人を、傷だらけにしてしまったというのに。おかしな子供たちでした。自分のことを気にせず、他人のことばかり、人のことばかり。


 私は自分のことばかり。深町紗絵子のことばかり。母よりもまず女、女、女の、ろくでなし。子を優先できぬ恥さらし。赦せやしません。一生をかけて、子供たちにすべてを捧げないといけません。せめてこれからは。


 今ではもう、孫が二人もいるのです。その子たちを突き放したのも私。彼女たちが傷ついた原因の一つは、私にあるでしょう。二人とも幸せにしなければいけません。せめて子供である、うちは。


 なのに……昨夜またわがままを繰り返し、四人目を授かってしまいました。私がまた先に幸せになってしまいました。下の娘も、幼さ故に私を赦し、笑い、寄り添ってくるのです。すぐ隣ですやすやと、天使の寝顔を見せてくれるのです。


 敵うはずありません。こんなかわいい子供たちに、親が敵う要素がどこにあるでしょう。親はやはり、子に助けられて、救われて生きていくことができるのです。子供から多くを学び、いつしか子供のほうが強く、大きく、優しく……成長していくのです。ね、
憲邇(けんじ)くん? ごめんね、懺悔させてね。あなたと、あなたの隣ですやすやの、奈々穂に。


 隣の部屋の、
柚香里(ゆかり)に、詩音(ふみね)に。……みゆに。


 それから、ここに広がる子供たちに。ママにさせてもらったパティに。


 昨日はごめんなさいと。昨日までのごめんなさいを、込めて。……今日の夜にでも、整理がつきそう。言えるかも、しれない。


 奈々穂のこと、詩音のこと。それから……憲邇くんを犯した、こと。


 言いわけをじっくり考えるために、妊娠三ヶ月の身重を押して外国へ飛び、そこで知った代理母という台本を引っさげてきたことなどを、ね。


 なにより、あなたの子供がお腹にいると、奈々穂が鼓動をしていると、わずか九つの息子に悟られたくは、なかったから。


 まさかその三年後に、上の娘が詩音を授かっていたなんて、思いもしなかったけれど。七つからだなんて、早すぎると、衝撃だったけれど。さもありなんと、柚香里の有り様をどうにもできなかった私は諦めた、っけ。なにせ保育所の頃から、憲邇くんと手を繋いでいない場面のほうが少なかったほどだものね。飽きるほどくっついてたくせに飽き足らず、風邪など同じ布団で寝れないとなってもうつされていいからと潜り込んでいったっけ。憲邇くんは柚香里のほうが多く風邪で寝込んでもそんなのしなくて、ものすごく残念がって一緒に寝ようよとまあ、飽き足らなかったものね。負ける憲邇くんも憲邇くんだけどね、私も一緒したけどね。


 上の娘にはひどいことをしたと、思ってる。近親相姦の果てに小学生で妊娠なんて、と、若かりし頃の私を見ているようで、許せなかった。自分の娘には、ああかわいい娘にはそんなことしてほしくないと、親のわがままのままに別の家へ押しつけて、しまった。堕ろしなさいと、どうしても……言えずに。以後をまったく、知ろうともせずに、入ってくる情報を右から左へ、流していった。生まれた子供の、名前すら……それまでの自分が、どれほど娘に辛く当たってきたか、なにもできなかったかを考えず、そこでこそ、ともに育てて、生きて、いけばよかったのに。当時私は、まだ二十五の若造だった。誰にも相談しようとせず、当時まだ存命の父にも、言えずに……


 最低にも、奈々穂さえいればいいと、奈々穂をこのままずっと嘘をついて、仮面の下で育てていけばいいと、考えさえも、したはず。だからこそ柚香里を突き放し、責任から逃げたんだと、思う。卑劣な親、親ですら、もうない。ええ、ええそう、憲邇くんと奈々穂とで、これで、これでまるで、父母、娘の、家族みたいだと、嬉しいわと、逃避、してた。柚香里がいなくなっても、憲邇くんは自分の責任だとそのときから思い、せめてと、奈々穂をかわいがり、優しくして、いた。本当に時折父のように振る舞い、涙を堪えるのに必死で、お母さんと奈々穂の、高い、声に……


 救われては、畏れていった。いつかくるしっぺ返しの、審判の日に。くりくりとした愛らしい目をした奈々穂が、どう言ってくるのか、どんな態度をとるのか。痛いよと、何度言われても強く抱きしめてしまった。柚香里にできなかったことを、取り返すように。


 その娘も……近親相姦がいけないことであるかの、証明のように、具合の悪く、なってしまっていた。五歳のままいっこうに戻る気配のない、隣の娘。背丈こそあるものの、心は三人で過ごした、あの悲しい日々のまま。この子はただ無邪気に私たちを和ませ、癒し、そして心から支えてくれた。この子に何度助けられたか、元気づけられたかしれない。


 今となって、現実を知って。撫でるしかできない己が恥ずかしい。無理心中を強いられたときに、首を絞められたときにどうして、傍にいなかったのか。悔やまれてしょうがなかった。……奈々穂はあまり、首を見せようとせず、触られるのを、嫌がっている。憲邇くん以外には、
広子(ひろこ)さんでさえ。


 この子が五つの、今の年となったときに。もう誤魔化せないと、憲邇くんは来年高校で、医師になると決意をしていた。そうなれば、知識を手に入れれば気づいてしまう。その前にと……せっかくできた、二人の娘を、自ら手放してしまった。それがどれだけの宝だったのか、考えるまでもないくらい、大切だったはずなのに。あれほど産みたいと、固い決心の果てなのに。当時私は疲れ、体調を崩していたとはいえ、低いテノールの主とどうして協力していこうとしなかったのか、打ち明けられなかったのか。息子は大きかったのに、と。


 きちんと前を見て、成長している息子を、もう押し倒すことはできなかった。見守ろうと、今さら母親ぶっていた。


 別人となった柚香里が、同じ高校へ転校してくるまでは。


 悪夢だと、思った。清く正しく、美しく成長していた娘は、なにも知らぬままに、また、また……憲邇くんを、好きになった。当然のように詩音はそのとき、傍におらず、かわいい孫は親元を離れて暮らしていると、そのときはショックから気づけなかった。


 一週間二週間、いいえもっと、息子と大口論を続けた。やめてと、お願いだからもうやめてと、お母さんを苦しめないでと、ただ喚いていた。あの子とだけは付き合わないで、お願いと。それだけ。憲邇くんの言い分はまるで聞かず、こちらが大声を出し続けるのがしばらく続いた。


 私見たのよと、あの子がごてごてけばけばしい格好で町を歩いてたと、鬼の首を取ったように言い散らし、そんな女やめときなさい、気持ち悪いと、言ってしまった。かわいい娘だと、思っていた母はどこかへ消え、またよくわからない恐怖に支配され、なにもかもを見失っていた。


 耐えられなかった。幼い頃を再現するかのようにまた、娘息子が腕を組んでいる、なんて。また子を作り、あまつさえ、戸籍が違うからと結婚すら、するかもしれない。柚香里は異常なほど普通に、知らぬままに憲邇くんに恋をし、普通の恋人として、好きを重ねていくようだった。


 普通に憲邇くんが好き。ずっと一緒だったからでなく、傍にいたからでなく、守ってくれたからでなく、弟だからでは決して、なく……深町憲邇を、好きになってしまう。


 バカな息子はそんな女に、騙されて。姉であることなど忘れたかのように、
草薙(くさなぎ)柚香里を、好きになって。すべてを知る私はただ、悲愴感から逃げるように日本から飛び出した。時間が解決する、あの柚香里なら、普通に別れることだってあると、時間に解決を委ね、戻ってきたときにはもう、手遅れだった。逃げてうまくいった試しなんて一つもなく、柚香里は心底憲邇くんに惚れ、学校で評判のカップルとなっていた。新米の英語教師と噂だったためか、憲邇くんが柚香里とくっついたヒストリーも噂となり、今の事情を知るには苦労しなかった。


 ……許せなかった。私は憲邇くんとなにも赦されないのに、自分がしたことなのに今では柚香里が、憲邇くんと公然とくっつき、デートをしても、結婚すると言っても誰も、笑いやしない。二人ならいいバカ夫婦になると、誰に聞いても専らの噂。ああいうのが赤い糸なんだと、夢見がちな女子高生はよく言う。


 姉なのよ、弟なのよ。聞いて回った生徒たちの中に小学校が同じ人だって何人もいたのに、そのあまりの変わりようから同じ名前の柚香里だというのに、誰も気づいていなかった。


 もう、止められない。なら、ならせめてと、避妊だけはしてと、せがんで、監視をした。学園祭に邪魔しに行った。姉なのよと、目で何度も教えては、一瞬のかげりと、わかってるでもと、それでもと、今に似る覚悟を背負った憲邇くんの大人に、負けていた。祭りが終わってから電話までかけた。頼むから過ちを犯さないでと、自分を棚に上げ、わかっているのと、しつこく、何度も。


 私にもしてと、撫でてと、デートしてと、繰り返した。柚香里にするなら私にもしなさい、それが付き合う条件と、できないなら許しませんと、自分勝手を押しつけていた。憲邇くんの罪悪感につけ込み、デート中には久方ぶりの腕組みに、はしゃいですら、いた。憲邇くんもきっと楽しいはずと、盲目になっていた。


 今度は向こうが作り笑顔だと、間抜けにも気づけずに。


 二年の交際の果てに……別人となった柚香里は、妊娠を機に、憲邇くんを思うあまり、生まれてくる子を思うあまり、別れを、切り出してくれた。きっとそうだったと、思う。でなかったら憲邇くんが断るはずもない。それを悟っていたから、断腸の思いで受けたに、違いない。その後の柚香里の消息は知れず、私は針の山から降りられたと狂喜乱舞でもする勢いで、また憲邇くんに飛びついた。


 柚香里はまた妊娠したと、当時はまるで気づかなかった。


 その頃から憲邇くんは急激に成長してしまって、あっという間に私の手の届かないところまで行ってしまった。桜園という、施設と交流を持ち始めてからの憲邇くんは、まるで別人のように強く、優しく、たくましく、そして海のように、広く、美しく……立派な大人へと。


 外国へまた逃げるようになったのは、傍にいられなくなったからだった。今の憲邇くんの傍は危険だと、また甘える、今度は襲うではなく、抱いてと、迫りそうだったから。それが怖く、そんなことにでもなったら、憲邇くんから軽蔑され、決別される。別の恐怖を海外へ持ち出し、解消してから帰る。その繰り返し。いつの間にか家にはメイドさんが住まうようになり、そして憲邇くんは精神科医として華々しく活躍をし、同時に、もてにもてだした。何人もとっかえひっかえ、女ったらしになってしまっていた。少し悲しく、情けなかったのに、どうしてか微笑ましいと、思っていた。


 感じなかったの。憲邇くんと彼女たちから、生々しい恋愛感情は、なにも。なにせ憲邇くんときたら下は女子高生から上は私より遥か年上の美人女将(ここの人じゃないけど)とまで、付き合っていたもの。まるで小中学生の、ういういしいものにさえ、思えていた。清い、というよりは、悪く言えばおままごとに近いものだったと、思える。


 なにしろ……憲邇くんはその相手誰とも、寝てはいないのだから。


 わかる。二十年近く思い続けた男性が、もし誰かと一夜を過ごしたのなら。


 昨晩の温泉での、
大口(おおぐち)佳乃(よしの)先生の言葉を借りるなら、誰も彼も憲邇くんの焚き火に、当たりに来ただけだったと、思える。本当に心から、みんな自慢の息子を好きだったと確信できるけど、この火が、強すぎて、自分には温か過ぎて、傍にいられないと、思ったとしても仕方ないと納得はできる。傍にいたら、火の温かさを悪くしてしまう、消してしまう。この人の、大好きな人のためにならないと、自分だけのわがままだって、身を引いたんだと、大口先生を見てもわかりやすかった。


 だけれど……飛び回って飛ばし飛ばしだった誕生日を、なんでもない平日にやろうと、彼が落ち着いてからクラッカーを鳴らされて……また、奔流に押し流された。また元の理由で海外へ逃げ出し、溢れる思いを自慰で紛らし、虚しくなり……


 ようやく、実る。みゆという、世界で一番強く美しい少女が、現れたから。私はきっと、彼女には絶対に、一生涯頭の上がらないことでしょう。続けて出会ったという、詩音という少女も、最も強く、美しく。けして敵うことのないかわいい孫たちには、絶対に文句一つ言えやしない。甘やかして甘やかして、贅沢をさせてろくでなしにしそうだわ。


 それほど、二人は強い。たくましい。憲邇くんでさえ、
絵里(えり)さんでさえ、きっと敵わないほどに。


 今はもう、こうして寄り添い、同じお布団で寝ていられる。ふふふ、ちょっとばかし余計な女の子がいるけどね。


 いいわ。私がしたことを思えば、このくらいへのへのかっぱよ。寝ぼけてこんなに優しく撫でてくれるもの。充分だわ。ああ私も胸をなぞりましょう、奈々穂や広子さんにばっかりさせないわ、ふふ。


 これから大変よ、
(ともえ)さん? 今朝からがんがん行くわよ、昨日のあなたの立ち振る舞いを徹底追及するからね? 覚悟なさい、ふふ、昨日感じたじんじんのほうがよっぽど痛くなかったと、青ざめるがいいわ。


 近いうちに、あなたも含めみんなに、今の勝手な懺悔を、聞かせます。せめてもの贖罪として、すべてを打ち明けます。赦してとは言いませんし、請いません。


 私が私を赦すために、言わせてください。お願いします。


 寝ぼける奈々穂の涙を、しっかりと拭けるようになるために。


「お母さん……しちゅー……しちゅーたべたい……ん……」


「……」


 わかった、作ったげる。この暑いのにバカなリクエストしちゃって、ふふ。


 大好きだったものね。あれだけは絶対に残さず平らげてくれたものね。いいわ、またたくさん作ります。広子お母さんのも、きっとおいしいわよ? 私よりよっぽど、ね。


「うおーら起きろてめーらぁ!」


 ばぁんっ! と襖が叩き開けられ、元気な女子高生の
東野(ひがしの)(ひかる)ちゃんが起こしに来てくれた。


「朝飯食いっぱぐれてもしんねーぞ! おらおらとっとと起きやがれ!」


 ああうるさい。子供たちがごそごそ起き出して、みんなの眠たげな目も開いてく。憲邇くん、奈々穂、今日も一日、よろしくね。昨日はごめんね、仲間入りが嬉しいからって、元鞘に戻った途端母親面の説教なんて。もうしませんから、許してね。


 ぎゅうっと、抱きしめる。心地よい抱き心地。奈々穂はそっと手を重ねつつ、自分は憲邇くんへすりすりと。もう、しょうがないわね。お母さんにもちょうだい、奈々穂をいっぱい、昨日あんなちゅうしたじゃない、ふふ。


 大好きよ、奈々穂……あなたがいくつで、あってもね。あなたが誰と、結ばれようとも、もう……自分の娘は、大好きだから。


 大好き、大好きよ。








 なぜか、でもないけど、桜園の子供たちは目覚めるともじもじと、していた。女子高生が去るとちらちら憲邇くんばかり窺い、そわそわと浴衣の裾をひらひら、させていた。上へ、上へ。めくりたがっているようにすら、見える。


 ……憲邇くん、このどら息子。子供たちですら起こしちゃってたみたいよ? あんなに疲れて泥のように眠ってたはずなのに。意味を知るパティなんかまっかっかじゃない、どら息子。そのくせね、あなた温泉の匂いぷんぷんよ? 誰と朝風呂したの? どうして起こしてくれなかったの? また巴さん? まさか一人でなんて、どすけべのあなたがするわけないでしょう? 綺麗さっぱりの温泉の香りは、女の人の残り香を教えてくれないじゃない。


「みんなおはよう、今日もいい天気だね」


「……おはよう、ございます……」


「ふわぁ、ん……おはよ、せんせぇ。ひろこお母さんに、さえこお母さん。そいからそいから、いーっぱいおねえちゃんも、おはよ」


「おはよう、みんな」


 ぱっちりと巴さんは目覚めがよく、うだうだと広子お母さんは遅かった。……ちょっと、ずるいわ、それ。なに、あせも? あせもなの? あの巨乳のみに許された特権である、伝説のあせもなの? 寝起きにかゆいと噂の、
(めぐみ)さんのバカが羨ましがってたやつなの? あ、ちょっと奈々穂も、はしたないわよっ。


「おはよう、ございます……ああ、温泉のいい匂い……?」


 どうも広子さんは寝起きが悪いようだった。環境の把握に時間がかかり、すぐ傍でうーんと伸びをしている旦那を見て、自分の痴態に気づく。慌てて居住まいを正し、恥ずかしい姿を晒すのをやめていた。


 なにせノーブラ、のぞくは巨乳。起きぬけの扇情的な姿は、朝風呂をしなかった憲邇くんならまた、大汗をかかせたことでしょう。こそこそ隠れて、もういいですよねとブラを装着しだす巨乳さん。見たそうな憲邇くん。こらこら、よしなさい。先顔洗いなさい、次順番ね、私たちはもう済ませたわよ? 遅いんだから。


 それより奈々穂の髪を梳くほうが見惚れるでしょ? ほらほら、今広子お母さんは忙しいのよ、私がやってあげる。あとで二人のお母さんにもしてね? パティにもしなくっちゃ、向こうでこっそり、なにしてるのかしら。


 温泉効果か、憲邇くん好みの長髪にみんなが合わせてるのに(……全員ね)さらさらとすぐに調子を取り戻し、みんなしゃらんと、憲邇くんを呆けさせていった。巴さんは柚香里と違って、自分でこういうことはやりたがるのね。触りたそうに見てた憲邇くんを跳ね除け、ダメよと、強く言ってた。


 浴衣に黒髪って映えるわぁ、最高ねぇ。束ねたり結う必要はないかしら、奈々穂は飾りたいなぁっていろいろ考えてると、


「……マスター、あの、あの、あたしたち、あんまり朝の、あいさつ、する機会ないから、や、やりたい、です……」


 ほらもう、どら息子。ベッキーちゃんが道を踏み外そうとしてるわ。止めなさい。


 あの子たちは、違うわ。あなたをただ、盲信しているだけ。本気で傍にありたいと、一緒に火を強くしようと思っているのはパティだけよ、わかるでしょう? あなたなら。


「あたしたち、巴さんみたいにきれいでないけど、胸もないけど、でも、下着は女の子です……」


「おはようと言ったよ、それが朝の挨拶だ」


「マスター」


「レベッカ。ここは自宅じゃない、旅館だ。それに……君たちを仲間に入れたつもりも、ないよ。パティだけだ」


「……」


 しょんぼりしてる。ええそうよ、あなたたちはここで、自分から浴衣を脱ぎ捨てないでしょ? そこが違うの。もう少し成長したらきっと、いい人を見つけるわ。


「だめだよせんせぇ、たんないよあいさつ」


「え? 奈々穂ちゃん、あのね」


 ちゅっと、諭すために体を落とした憲邇くんのほっぺにキス。にこやかに笑う奈々穂。


「おはようとこれ。りょうほうしなきゃだめ」


「……参ったな……」


 ぞろぞろとまあ、全員がせめてと上を見上げ、唇突き出し、目を閉じる。どさくさに紛れてそこに広子さんが加わり、意を決した巴さんとともに私も、やってしまった。


 だって憲邇くん、どら息子だもの。しっかり全員にキス、くれるんだもの。


 ほらね。あなたたち子供は、それだけでもう満足なの。先がほしくないのよ。我慢なさいね。


「不思議ね……昨日あんなにしたのに、今朝のも、嬉しいわ……」


「そうでしょうそうでしょう、足りないくらいよね?」


「はい……よかった、恋人役」


 にへら、というよりくすりと、こぼれる笑みに骨抜きめ、このどら息子。あなただけのモデルとなってさぞ嬉しいでしょうね、ふんだ。毎日メイド姿拝ませてあげますから、私にも着せてよね? ご奉仕したいわ、毎日毎日。エプロンはお花屋さんのがあるしちょうどいいじゃない、ねぇ? あ、奈々穂はダメよ、早いわ、それに着たらきっとかわいすぎて、昨日以上に泣かせるでしょう、どら息子。


「そうだ、昨日ひどかったじゃないあんた。まだのあたしにさ、ぐちぐち続けさせて。咄嗟にあたし選ばないでよね、もう」


「すみません」


「あたしがどれだけ辛かったか、わかるでしょ? わかるくせにやらせないでよね」


「……言葉もありません」


 それ、憲邇くんのやり口なんだけどなぁ。断り方だったんだけど、逆なのよねぇ。


「だから。今日は巴、ね? いい、あたしの名前は巴よ、ともちゃんでもいいわ」


「と、ともちゃん……?」


 ああ、満面の笑み。「はーい、けんちゃん?」


「う」


「ふふ。やっぱりいいわ、憲邇先生で我慢しようっと」


「ともちゃん、ともちゃんかぁ、うぅん、仕方ない、今日だけだよ?」


「ええ、勘弁したげます」


「えー、いいなぁ、ななほもなんかほしい」


「なな」


 ああ、こっちも満面だわ。ちょっと、お母さんさえがいいわ。さえ、さえ、うん、いい。


「ね、ね、ともえさんもいって? お母さんも、二人ともっ」


「なな」「な、ななちゃん?」


 広子さんはあっさり乗り、巴さんは若干の戸惑い。それでも、言われた本人は至極嬉しそう。「はぁい!」


「ななー? ともちゃんお姉ちゃんが今日は恋人よ、わがまま言わないでね? 言うことちゃーんと聞くの。昨日は、なーんにも聞かなかった。できる?」


「うん、できるよ」よし、意地悪開始。


「うるさかったでしょうけどね」


「紗絵子さんっ」


「うん、うるさかったぁ。どきどきしてね、たいへんだったの」


「ああうるさかったですねぇ、私も目が覚めましたし」


 ここぞとばかりに仕返しを、広子さんもやってくれる。子供たちもみんなうんうんと頷いちゃって。


「そ、それは、あんたがやりすぎたからでしょっ。あ、あたしは頑張って我慢しようとしましたっ」


「えー? ともちゃんお姉ちゃんも楽しかったんでしょ? 嬉しくって気持ちよくって、思わず大声で喘いじゃったんでしょ?」


「紗絵子さんっ」


「ふふふ、そのせいで覚えてますよ? あなたが、足りないと出て行こうとするみんなの旦那を呼び止めたこと。私たち三人とも、見てたわよねぇ?」


 三人でうんうん。ねぇ、うんうん。三人でもう一回、お願いする目を、背中で拒絶したじゃない、ねぇ? 途中入場のパティも、遠くから必死にお願いしてたのよ?


「いや、だって、それは」


「言いわけ無用! 自覚が足りないわ、この人の彼女だという自覚がね! 憲邇くんがお仕事の間、じっくり考えることね!」


「う……はい」


 しょんぼりさせてやったわ。ざまあみなさい。


「……おーい? どうしましたー? 朝飯、できたそうッスよー?」


 今度は恐る恐る、光ちゃんが襖から覗き見、仲居さんも(この様子はハーレムはバレてないわね)。おっかなびっくりの彼女らに、室内の全員がにっこり笑顔で返事だわ。一人除く。


「はーい!」


「……でも、隣座る」


 ああ、やかましい嫁だこと。








 辛抱のできないダメな子の巴さんは、食事の大広間に入る直前、中からきゃいきゃいと騒ぐみんなの声でここしかないと、さっと辺りを確認してから目を閉じ、上を見、唇をちょんとまあ、やりやがる。あのね、あなたの背は大差ないでしょ、見上げたいだけじゃない、ばかちんが。


 足りない気持ちはすごくよく、わかるわ。微笑むみんなが察して襖を開けないうちにと、とんとんと足音を立てる巴さん。美人のくせに、そんなすらっとした細い生脚披露してるくせに、かわいいとこあるじゃない。いいえ、この人にだけ見せるのね。普段はキリッとした威勢のよい人のくせに。ちょっととんがった、つり目っていうのかしら、してるくせに。


 ふんわりふわふわ、キスはアルコールボンボンよ。ほらまた、なぞってる。起きてすぐやって、おはようをもらってまた何度も何度も。ふふふ。小憎らしい。また小言言ってやろうかしら。いえいえ、襖開けちゃえばいいのよ、ほうら慌てて顔に勢いつけちゃった。だらしない顔を真面目に戻して、さぁと張り切るの。


 でも、繋いだ指先は離さない。


「好き、憲邇先生っ」


 聞こえるように声を出すの。困った眉になっちゃうどら息子。「私も好きだよ、ともちゃん」でもどもらないのね、ともちゃんって。


 すると勢いよくなにかが飛び出し、「あたしも憲邇さん好きっ」と大声を上げるまゆちゃんがぶつかってくる。不幸にも入り口のすぐそこにいたらしく、わざとのくせに照れやがる巴さんはぐいぐい、憲邇くんを引っ張ってた。


「おはよ、憲邇さん」


「おはよう、まゆちゃん」


「ねぇ、だっこー」


 浴衣の脚をくいくいしてせがみだしてる。絵里さん、もうちょっと教育をだわねぇ?


「わかった」


 普通にひょいと抱っこをしてあげてる。のに、まゆちゃんはぶうと膨れ顔。


「お姫さまだっこー。お姫さまにしてー?」


「こらまゆ、やめときなさい。深町先生、甘やかさないでくれます?」


 即座に移行しかけた憲邇くんに釘が刺さる。


「えー? いいじゃん、お母さんだってお父さんにいっつもねだってるくせに」


「まゆ! 黙りなさい!」


 子供の腹式呼吸は、開け放たれた室内へとただ漏れします。聞こえちゃった面々はくすりと、大口先生なんか爆笑してしまってた。


「あたしいないときにさ、やってんじゃん。知ってんだぞ? 重いからお父さん大変そう」


「まゆ、こっち来なさい、いいから早く」


「やだー」


「まゆちゃん、ダメだよご両親の秘密を言っちゃあ」


「えー? なんでさ? 別に夫婦ならするでしょー? あり、みんなどうして笑うの?」


「微笑ましいからだよ。ただ、お母さん見なさい、顔赤いだろう? 本人たちはね、やったって他の人に知られると恥ずかしいんだ、大人になるとね」


「ふぅん、へんなの」


「まゆちゃん、あんまし言っちゃダメよ、お母さんかわいそう」


 本当になった途端の、巴さんの役者っぷりは板につきすぎていた。やっぱり意地悪しよう。


「はーい。仕方ないな、えんりょしてやろう。ね、じゃあ、おはようのちゅうー」


「しょうがないなぁ」


 もちろん、見られる手前ほっぺですけど。それでいいのかまゆちゃんたらにっこり。


「ありがとっ! 憲邇さん大好きっ!」


「うん、私も好きだよ」


 返事をきっちり聞いてから下りて、般若の形相の母親をみて「うおっ」と唸る。バツの悪そうに隣に座ると、説教が始まるかと思ったらげんこつで頭のてっぺんをぐりぐりぐりぐり、やっちゃった。


「いた、痛いよっ、わかった、もう言わない」


「絶対よ? 次言ったら三日間おやつ抜きにしますからねっ」


「へーい……」


「返事は『はい』でしょっ!」


「はい……」


 すごすごといい気分から落下し、静かになってしまった。怖いお母さんねぇ。


「……お姉ちゃん、笑いすぎ。ツボだった?」


「……っは、はーっ、はーっ……いや、だって、絵里さん見なさい絵里さんっ、あはははは……っ、はーっ、ふぅ、落ち着いたわ。んん、あのね
静香(しずか)、あの顔で、じゃないお姉ちゃんくらいの年でしょ、絵里さん。その上ね、あの顔で、じゃないほらカッコいい系の美人さんでしょ? 脚細いし、姉さん女房に見えるじゃない? そ、それがさ、旦那に、お姫様抱っこ、子供いないからって、ねだ、ねだる、ぷくく……」


「? おかしいかな、かわいいとこあるって、あのお姉ちゃん、全部聞こえてるよ」


 今度は般若が大口先生へ。それでも笑いを堪えられない高校教師は、声を押し殺して必死に弾けるのだけは我慢していた。


「ああっ、ごめんなさいっ、はい、かわいいとこありますっ、大きい子供いても新婚らぶらぶでいいなー、いいなーっ、ちょっと、やめ、たっ」


 げんこつ一回、容赦のない新妻さん。「私はこの前再婚の、本当に新婚なんです。……悪かったわね、旦那に甘えて」


 不貞腐れちゃった。


「あらやだ、そうだったの? じゃあしょうがないっか。ごめんなさい、本当笑いすぎちゃった。ああでも、久しぶりに笑ったなぁ、こんな面白いのはじめ、はい、ごめんなさい」


 もう一回げんこつにはぁっと息をかけられ、渋々大人しくなる大口先生。まだ笑みが口元に残り、やっと全員が席に着いていただきますをすると、ふと羨ましいと目尻が緩んでた。


 ちなみに、今日も隣は巴さんで(仕方なくね)、反対に絵里さんが座ってしまった。なぜなら旅館の人が気を遣ってくれたのか、昨夜と同じで憲邇くんの前に二つお膳を置いて、予め席を一つ減らしてしまっていたため(楽なのかしらね)、しょうがなく(本当にしょうがなく)まゆちゃんが膝の上へ。奈々穂は今日は私と広子お母さんに挟まれてご飯にしたいみたい。嬉しいわ、ありがとね。


 ……ああ、朝風呂した人が誰か判明したわ。春花さんに花雪ちゃん親子ね。ふらふら、くらくら、でもにこやかに、満足げ。時折頬に手を寄せ、はぁとため息の淑女さん。でも
3pしたでしょ、そういうのね、娼婦っていうのよ。


 朝食は海鮮こそ少量並ぶものの、昨夜とは違う豪勢を取っ払った、質素なものだった。朝に相応しく、そしてシンプルだからおいしい、お料理の数々。箸をぐーで持とうとする奈々穂を何度も直しつつ、食べさせあいっこを三人でこなしていく。


 本当、幸せ。


「……なんか、巴さんますます綺麗になってないスか? すげー、女らしいっつーか」


 バレちゃった。一発ね、そんなに燦々と輝くからよ、芸能人のオーラは消しなさい、ふふ。


「あらあら、温泉効果よ、私もツヤツヤだもの」


「ああそっか。あたしもすべすべなんスよー、嬉しいなぁ」


「これで今日、
住田(すみだ)とデートもばっちりじゃん」


可奈(かな)殿、誤解を招くようなことは、否定しましたよね?」


「光、住田好きなんでしょ?」


 おおっと、みんなの目がらんらん輝いて開いちゃったぞ、大好物だものね。


「東野さん、詳しく教えなさい。えー先生全然気づかなかったわ」


「ちっ、ちゃうわボケッ! なんあたしがそげな男、惚れるっちゅうねん!」


 めちゃくちゃな言葉を突然口走り、動揺してませんと言う口と顔の落差にまた佳乃先生は爆笑してしまう。「バカこくでねーよ!」なんて、大口先生は大口開けてまあ。


千歳(ちとせ)ちゃん、光は今日住田となにするか覚えてる?」


「ちょっとっ、やめてくだされ可奈様っ」


「住田くんとお昼ご飯食べて、えっと、確か水着の撮影会?」


 さぁと青ざめる女子高生。「東野さんの体は綺麗だから、撮りたいんだって。デートだと思うけど……?」さぁかちんこちんと、氷漬けになりました。


「ほほーう、東野さん、水着姿を撮っていただくなど、メイド服に勝るとも劣らぬ恥ずかしい姿では?」


 ここぞとばかりに(昨日なんかあったわね)
良子(りょうこ)さんが攻撃し始める。


「ああ、でも住田くんって写真が趣味だから」


「千歳ちゃん、シャラップ」


 上岡さんが面白がってブレーキをかける。不思議がる純朴な少女を尻目に、好奇心という名の穴開けビームをみんなから浴びせられ、どう言いわけをしようとなにかを話そうとして戻すということを繰り返しの光ちゃん。あるある、他人の恋バナに夢中でずけずけ話すくせに、自分となるとあたふたすることって。


「千歳さん、それって海行くの?」


「え、さぁ、水着を撮るんだから海とかプールじゃないの?」


「ちっち、こいつら入念に打ち合わせしてたですよ。写真撮るなら、できるだけ綺麗にとってほしいと、じゃあ設備があったほうがいいかなぁと、冗談交じりに言った住田を真に受けたですよ、この女」


 可奈ちゃんも若干おかしくなってるわね。


「お兄ちゃんに無理言って、スタジオ借りたんだよねー? お兄ちゃんのつてを頼って、監視つきって条件で。でもお兄ちゃん今日用事入っちゃっていないんでしょー? ああ困ったなーって言ってたよね、千歳ちゃん?」


「そうだっけ、言ってたかも」


「可奈ぁ! おめぇもー、ぜっこーだ!」


 友人が火を吹くもんだから、氷が解けちゃった。


「へーぇ? 光こそ冗談交じりで千歳ちゃんみたくコンテストにでも出してよって言ったじゃない、そしたら住田のやつ、ちょうど今月締め切りのやつがあるけど、どうするって言ったじゃない。光さんは二つ返事で応募してと、言いました。応募してもいいよじゃありません。応募して、お願いと、言いました」


「言ってねぇっ!」


「ねぇ千歳ちゃん、あ、それから大口先生? 静香さんもさ、光の荷物妙に多いと思いませんでした?」


「ああ多かった多かった。妙だと思ったのよねぇ、静香?」


「一応……あ、まさか」


「そうです、この女どっかに泊まることを決めて、少なくともあたしと夜にじっくり相談するつもりで海に来たですよ。海行くからいるよねと、大量の水着を準備して」


「可奈ぁ! なにもかもバラすなぁ! お前はそれでも赤い血が通ってんのか!」


「付き合わされるあたしの身にもなりなさい。よかったわねー海で参考にできる見本がたーくさんあって? こーんなたくさんのお手本と一緒で、目を光らせられたじゃない」


「こっ、こいつっ! その口閉じろっ! 黙れっ! 黙りやがれっ!」


「あはははははは!」


 大口先生の爆笑を皮切りに、みんなも笑っちゃった。私も奈々穂も広子さんも、みーんなみんな。憲邇くんも巴さんも悪いとは思いつつ、口が綻んでる。よくわかってないちっちゃい子たちも、笑いが伝染しちゃった。


 やっぱり、子供は今も昔も、変わってなんかいないわ。かわいいまんま。移り変わりはあっても、本質は変わらないわ。ふふふ。


「くそー……もうしゃあねぇ、バレちまったもんは観念しよう。じゃあさぁ、改めてどんな水着着てけばいいか教えてくださいよ、男が喜びそうなやつ。この際開き直ってやる」


「東野さん住田くん好きなの?」


「それはいいとしてだ。昨日は占いに感けてやれなかったし、期限は昼までなんスよー。助けてくださいよー、可奈がいじめるー」


「はいはい、私やるわ、楽しそう」


 ぴっちぴちの女子高生があれでもないこれでもないと、水着の試着三昧だなんて天国よ。最高だわぁ。ここ、昼までいてもいいのよね? よかった。


「しょうがないわねぇ、先生協力します。恋に助けとなるなら、ええ協力を惜しみませんとも」


「そうですねぇ、何着も着て撮影ですよね? 要は似合わないのを選定か、はい、私も任せてください」


 良子さんも名乗りを上げ、みんなも面白そうと協力をしてくれるみたい。よかったわねぇ、赤っ恥かいたかいがあるじゃない。


「広子さんは? そこの先生もお願いしますよ、男の意見がほしーなー」


「あ、ごめんね光さん。私たちは今日もお仕事なの」


「えーマジ? 今日日曜ッスよ?」


「ひろこお母さんかんごしさんなの。おやすみがね、ふつうじゃないんだって」


「うお、白衣の天使? うわー、うわー、マジいるんだ……」


「あー……こういう人がいるから、男が夢見るのをやめないんですねー」


 女子高生二人は感慨深げに頷くを、広子お母さんはそんなんじゃないわと照れくさそうに、けどまんざらでもない様子。


小林(こばやし)さん、時間は平気ですか? 今日は何時から?」


「大丈夫です、先生のほうが早いでしょう?」


「そうですか、よかった。私もまだ平気ですよ」


 二人は同じ病院勤務と教えておく。休日のお仕事に感服してもらっちゃった。


「あれですね、珍しく日曜開いてる病院か。評判いいッスよー、患者さんに親身になってくれるって、お兄ちゃんが」


「千歳ちゃんもね」


「そだ、憲邇さん今日あたし病院行くよ? 社会見学だねっ」


「ああ、いいよ。自由研究かな?」


「そうそう、病院の人のお仕事を聞かなくっちゃ。憲邇さんばっかりじゃなくって、ほかの人も」


「あら、いいわねまゆ。珍しくいいことするじゃない」


「めずらしいってなんだよ。ね、みゆちゃんも手伝ってくれる?」


「あ、うん、いいよ。みゆのほう、昨日で終わっちゃったし……」


 ちらりと憲邇くん。ほうら、みゆちゃんが一番しっかりしてるわ、憲邇くんのフォローがうますぎよ。


「あんがと。そだ、憲邇さんお弁当どうするの?」


「ああ、そうだったわ。あたしは帰って作らなきゃ」


 まあまあ、こっちの子のフォローも大したものね。


「あ、ね、巴さん、あたしたちと一緒に作ろ? 練習したいの、ね、みゆちゃん?」


「う、うん。したいです」


「そっか、じゃあ三人でお弁当作りましょっか。せっかくだしまゆちゃんみゆちゃんの分も」


「はーい! ありがとねっ」


「あ、ありがとうございます、えへへ……」


「ふふふ、ここにはらぶらぶな人たちしかいないのねぇ、先生目の保養だわぁ」


「巴さんも甲斐甲斐しいッスねー。あたしあいつに弁当とか作る気なんねーッスよ」


「告白する前に一度試しておくことを勧めるわ。実体験よ、ごちそうされると、ころっといくもの」


 それ、巴さんがごちそうされた側でしょ、まったくもう、やな嫁だこと。


「マジかよー、うわー、やっときゃよかったー……」


「住田料理上手じゃん、逆にしてもらえば?」


「おお、そうしようそうしよう。なにもあたしだけがやる必要ねーしな。向こうのを食って、惚れてやればいいな、うん」


「ああ、そういうのもいいですねぇ」


 なんてえびす顔の息子かしら。さっきからだらしないわぁ、しっかりなさい。


「ダメだよ憲邇さん、あたしにごちそうしちゃあ。あたしがやんの、はい、あーん?」


「うん、おいしい」


「へへん、巴さんもやったげる、あーん?」


「え、あ、ありがと……うん、おいしいわ」


「へっへっへ……」


「ちょっと見なさい東野さん、あれ、若夫婦に見えてきたわ、みんならぶらぶしすぎよ、あっちゃーんっ」


「ああ、見えます見えます。まゆちゃんカッコいいお父さんと美人のお母さんでいいねー?」


「うんっ、お父さん大好きっ、おっとと」


 膝の上ではしゃいじゃったためか、うっかりジュースをこぼしちゃった。それなのに憲邇くんたらにこやかにさっと拭いていくの。バカ親ね、仲居さんのお仕事とっちゃダメよ。


「あんた、あまり子供を甘やかさないの。さっきからひどいわよ、いっつもにこにこしてんじゃないの」


「あらあ? 巴さん、そういうのはこの人との間に子供ができてからにしなさいね、ふふ」


 動こうとしたけど先を越された絵里さんも微笑みつつちくちくと姑のようなことを。言ってやれ言ってやれ。昨日誓ったくせに、ついやっちゃうんだから。次はきつくお灸よ、いいわね? と目で教えてやる。ついつい、気をつけるよと返事がきたので、ひとまずよしとしといてやろう。でも次はないわ、ふふふ……


「あ、はい、すいません……が、頑張ろうね」


「うん」


「? お父さんもお母さんもなにないしょ話してんの? なにがんばるのさ?」


「まゆ、しーっ、よ」


 みんながくすくす笑ってる。まだ頑張るはわかんないのねぇ、ふふ。


「巴さん、深町くんは昨日ケダモノだったでしょー? どうだった?」


「えっ、え、っと……ね、寝かせてくれませんでしたっ」


 こら嘘つくなっ。


「ありゃりゃ。ふぅん、深町くんこういうとこでもするんだぁ、へぇ、意外ー」


「昨日みんなで混浴なんかするからですよっ、寝れやしなかった」


 嘘つけ、隈なんかないじゃない。ツヤツヤじゃない。


「いやでもあれは天国と地獄だよ……後で天国だけに行けたからいいものの、あれはひどい生殺しでしたよ……」


「そうなんだ? ふぅん……憲邇さんこんよくいやなの?」


「そういうわけじゃないよ、ええっと……男にも色々あるのさ」


「そっか。んーでも巴さん寝たでしょ? 寝てないって嘘じゃない?」


「まゆちゃん、違うのよ。あのね、好きな人と二人っきりで、夜を明かして過ごすと、寝てなくてもお肌ツヤツヤになるのよ。本当に好きな人と、愛しい人とね、愛を語り合うと、寝てなくてもとても綺麗でいられるの」


「ああ、例のあれッスね……なるほど、美容にいいってのがよくわかります」


 年頃の娘たちがしきりに頷いているわ。ふふふ。照れることないわよ巴さん、あれだけ大声出しといて今さらだわ、よく見てもらいなさい、ふふ。


「いいまゆちゃん、それから将来の美女たちよ、覚えとくといいわ。愛する人と夜をともにすることは、どんなエステにも勝るわ。どれだけ美のためになにかをするよりも、大好きな人と同じ部屋で、同じお布団で一緒に寝て、おやすみのキスをするのが、いっちばんいいの。覚えておきなさい」


 わかるでしょう? 昨日憲邇くんがどれだけ海岸で女の子をえっちっちしたか。した子が今どうなのか、一目瞭然でしょう? ……あら、憲邇くん? ほぼ全員ね? ちょっと、どうかしてるわっ。こ、これから大変じゃないっ、どら息子っ。


 週三よ、お願いね。私はそれくらいがぴったりだから。ろ、露出は控えて、ほしいわ。ね?


「へぇ、そうなんだ。ふぅん……だからお母さんこんなきれいになったんだ?」


「さぁ、どうかしら? 言ったでしょ、まゆのお父さんは面食いなの。それだけよ」


 ふんわりと笑顔の絵里の野郎こそ、一番実証してるけどね。


「そ、そっか。だからお母さん、きれいなんだね」


「あら、ありがとうみゆ。そんなことないのよ、みゆのほうがずぅっと美人さんだわ」


「そうかなぁ、そんなわけないよ」


 ……いいえ。この中で一番女らしく、美しいのは、あなたよ、みゆ。絶対だわ。


 みんな見えてるのよ。あなたの五年後、十年後をね。ここにいるみんなが束になってもきっと敵いっこない、絶世の美少女となるってね。


 柚香里の浴衣姿は昨夜目にすることなく、今朝は髪を結ってあるものの、位置が後頭部でなく、長いのをいいことに腰の辺りと、まるで江戸時代の女の人でも見てるみたいだった。詩音も艶やかな黒髪を同じ位置で結ってあり、ああ、あれ柚香里がやったのね。これはこれで、いいわね。詩音は、だけど。ちらちら、みゆが羨望の眼差しだけれど。リボンかわいいわよ、大丈夫。奈々穂もしてみようかしら。


「千歳ちゃんはそういうことか、くっそー」


「? なにが?」


「ああそっか、道理であっちゃん、やっ、同じお布団の翌日にまたお布団に潜り込もうとするのねぇ。断らないほうがいいのかしら」


「そうよ佳乃先生。そうやってぐるぐる、いい循環を回すことが肝心なの。良循環っていうのかしら? いいほうへどんどん転がるじゃない? こっちが美人になる、向こうが同じお布団を目指してくる、ますます美人になる、ずーっと同じお布団なんて、好きな人とは最高だわ。あと問題なのは男の人を説得して、疲れないようにするだけね」


 疲れる? と首を傾げるまゆちゃんにまたしーっ、の絵里さん。


「うぅんでもずっと同じお布団は飽きますよ、マンネリが早くなるのは困るわ、あっちゃんとは結婚したいもの」


「ああそっか、それも問題ねぇ、難しいわぁ」


 こと私たちに限ったら、心配なさそうだけど。


「大丈夫ですよ、男だって疲れるんだし、ね、憲邇先生?」


「そりゃあ、毎日をずっとはいつまでも続かないとは、思います。仕事疲れもあるでしょうし……でも、私は初めはどうしようもなく猿になると思うので、断られるのは悲しいですね」


「ちょっとっ、やめてよね、バカッ」


「まだなにも言ってないじゃないか……」


「まあまあ、やり方もいろいろあるじゃないの。こんな朝じゃ言えないことがたくさんね。もうよしましょうか。憲邇くんも広子さんも時間平気?」


 時計を見てそろそろかと二人とも腰を上げる。朝食もほぼみんな平らげて、おいしかったわねぇ。ごちそうさま。


「それじゃあ準備して私たちは行ってきますね」


「はい、いってらっしゃい」


 ああ巴さんのいい声だこと。


「いってらっしゃい憲邇さん。あたしたちもお弁当できたら行くね」


「うん、楽しみにしてる」


「それじゃあ光ちゃんの水着を選んでやりましょうか。セクシー多めにしましょう」


「おお、望むところじゃ!」


「せくしーかぁ。ね、巴さん」


「なに?」


 みんなでぞろぞろ、歩き出したところで。


「巴さんなんでそんなせくしーなの?」


「え?」


「ぶらしてないじゃん」


 また落ちてきた爆弾に、このときばかりは子供の通る声が悪いかも、と思わざるをえなかった。


 今度の氷漬けは、多くの女に伝染してしまった。無邪気なそばかすが返事を待っている。


 憲邇くん憲邇くん、こればっかりはあなたのせいよ、フォローなさいよね?


「まゆちゃん、今日もすごく暑いよね? それだけだよ、だから下着を着てないんだ。私もよくやる」


 すぐに動き出せる辺り、やらせた本人ならではね。あれ? 憲邇くんそんなこと言ったかしら。


「あ、そっか。そだね、あたしもよくやるよ」


「……ええっ、そ、そうなのよっ。あ、暑いなぁ、あはははは……」


「でもダメだよ、ここ旅館でしょ? 昨日大口先生言ってたじゃん」


「ええそうねぇ、どうしても暑かったの、ごめんね」


「そっか。そうだよねぇ、暑いもんねぇ。ほら、巴さんすっげー虫さされ」


 指差した首筋に、大きなキスマーク。「あたしもよくさされるんだぁ、暑いと大変だよ」


 さっとすぐに隠すも、もちろんその前に全員の目がいってしまっている。初体験だったというのに、知られまくりの赤面まっしぐらにされてしまう。憲邇くん? あなたわざと残したでしょ? いつもはきちんと抑えるのに、海でえっちしたって全然気づかないぐらいにしてるのに。


「まゆ、ちょっとこっち来なさい」


「なに?」


 廊下の角を曲がり、しーんとした面々になにやらしっかりとお説教をしているよう。子供が反論しようとするのを一喝で抑え、ぶうと不貞腐れた顔で戻ってきた。


「……じゃあ、急ごうか小林さん。早く着いたほうがいいですよね」


「え、ええ、はい」


 何事もなかったかのように先へ進みだす憲邇くん。みんなも続き、全員でそ知らぬフリを押し通していった。まあ、時間もないしね。


 ただ巴さんは背中に浴びるさっきと同じ穴あけビームに耐え切れず、しっかりと憲邇くんの右腕を抱きこんでしまっていた。肩を預けるように、すり寄って。


 どら息子。帰ってからが怖いわよ? もう、意地悪する気なくなったじゃない、バカ。


 それから憲邇くんはさっと準備を終え、広子さんと一緒にいってきますと旅館をあとにした。巴さんとみゆにまゆちゃんもお弁当のために一時帰宅、同時に靴を履いて、


「いってらっしゃい。今日も頑張ってね」


 と仕返したっぷりに、見送るみんなに見せつけるようにいってらっしゃいのちゅうを送ってあげてた。


「いってきます」


 慣れたものの、みんなの亭主。ちょっと困ったように笑うだけで、寧ろ返しに巴さんをそろりと撫でやがる。なにもできずにぴたりと止まった巴さんの頬までさらりと甲で撫で、にっこり。どら息子たちのらぶらぶっぷりに佳乃先生が黄色い声を上げ続けるも、気にせず出て行くどら息子。ほかの女の子たちもじとじと恨めしそうに見ているのに気づいて、ごめんと目で返すどら息子。知らないとぷいっと多くの子が目を逸らし、不思議に女子高生たちが首を傾げていた。


 超がつくどら息子ね! 帰ったら覚えてなさい、バカ。


 巴さんはまた、唇をなぞっているのが背中越しにわかった。それが頬に移行し、髪を整えるフリしてまた余韻を味わっているのもわかった。


 しっかりなさい、あなたそれ、首っ丈過ぎるわっ。


 それなら私だって負けないんだからっ。昨日あんなにナカダシされたのよっ、ながぁくねっ。見なさいこのお腹っ、気づいたらさすりっぱなしなんだからっ。


 ほんと……宿ってるわ、きっと。みんなもね。うふふ。
















『おう、どうした? 今日だっかとデートじゃねぇの? そうか、なに着てけばいいとかいろいろ』


「違うの、
(いさお)ちゃん。水村(みずむら)詩音って、覚えてる?」


『え? なに? なんて?』


「水村詩音ちゃん、覚えてない? ごめん、うるさくて」


 隣では大口先生がわぁわぁといろいろ光さんに話してる。「よかったわぁ、最高だわぁ。東野さん、住田くんとああなりなさい、目指すはあんな理想の新婚さんよ!」と、かなり大声ではしゃいでる。静香さんが抑えてるくらい。この人も紗絵子おか、紗絵子さんみたく、年齢を感じない若い人の印象を受けるな。


 千歳さんの携帯で連絡してもらってる。同じ部屋で光さんが水着を並べだし、まずはとみんなでうんうんうなってた。


 柚香里お母さんと奈々穂さん、それと絵里さんは三人でまた温泉へ。お客さんは結構帰って人がいないから、柚香里お母さんが入るって言うと奈々穂さんが一緒にって、紗絵子さんが行けないって言われたから絵里さんを誘って行っちゃった。春花さんと花雪さんは隣で一休み中。花織ちゃんがここぞとばかりに桜園の子供たちと一緒に遊びまわってた。パティちゃんは紗絵子さんの傍で真剣な顔で水着を見てるから、ちょっと心配。


『おお、もちろん覚えてるぞ。あれを見た
百恵(ももえ)さんが水を得た魚みたいにはしゃいでかわいくって、あたっ、連絡先聞いておけばよかった、公園行ってるんだが、あすこの柳は普通にどじょうが見つからなくてなぁ』


「その子、私とお友達なの。今一緒にいて、勲ちゃんに連絡とって欲しいって」


『なんだ、世間は狭いなぁ。すぐ行く、つうか待ってろ、マジで会いたい、ちょうどカミさんが休みで』


『代わったあたしだ。会わせろ頼む! ようやくやりたいことをできるだけ財がたまったんだ、これ、すごいぞ! 本物の天才だ! おい早く準備しろっ、いいからっ。パリにもいなかったぞっ、おい早くっ』


「あの、百恵さん、場所は」


『なんだ? 聞こえんぞ?』


「ごめんなさい、ちょっと待ってて」


 千歳さんが立ち上がって場所を変えようとしてる。わたしもついてこう。ふすまを開けてなるべく静かなところ、人の少ない廊下で電話を続ける。


「はい、場所は──」


 く、来るんだ、どうしよう。お、お金ないから買ってくださいなんて、言えるかなぁ……なにか描いてほしいものがあっちにあったら、いいよね。試しにできるし。


『わかったすぐ行く、いいか千歳、逃がすなよ? この魚はでかいぞ、ただもんじゃない、おい早くしろっ』


「はぁ……ね、詩音ちゃんそんなにすごい絵、描くの?」


 携帯を離して訊ねられる。でもぶんぶんと、大きく首を振って否定する。そんな風には、とても思えない。


「そっか。そうだよねぇ、わかる人はぴんてくるんだって。私の兄のもわかる人はすごく評価してくれるって言ってた」


「ぉ、お兄さんも、絵を?」


「うぅん、なにか作ってるみたい。これくらいの、よくわからないのをたくさん作ってる」


 大きなボールぐらいの大きさを示されて、ごちゃごちゃといろんなゴミみたいなものを使ってたって、言われてもぴんとこなかった。


『ああ悪い、千歳? 今から行くけど、百恵さんが珍しく興奮してるから気をつけろな』


「うん、わかった。勲ちゃんも気をつけてね」


『おお……はい、はいわかってるって、痛い、痛いっ』


 そこで電話が切れちゃった。だ、大丈夫なのかな、旦那さん。


「心配ないよ、いっつもこうなの。これがあの二人は仲良しさんの証拠なんだって」


「へぇ……」


「ケンカするほど仲がいいの。ほら、絵里さんとまゆちゃんいっつもケンカしてるでしょ? 絵里さんと先生も、紗絵子さんもか、よくわあわあ言っててね、あれとおんなじ」


「そうなんですか……いろいろあるんですね」


 部屋に戻りながらしみじみと感じてる。わたしはとても、憲先生になにか、絵里さんのようなことは、できはしないと思う。調子にのってバカみたいなことは、言えるけど。


 ……巴さんとみゆちゃん、まゆちゃんは憲先生の家で、お弁当作り。そういうことをするくらいしか、してあげられることも言えることも、ないと思う。わ、わたしも、やっときたいなぁ……


 ふと、その三人の絵を描いてみたくなった。簡単に想像つくから、よし、描こう、描きたい。


 少し早足で部屋まで歩き、もうちょっとってとこでまた転んじゃう。ううう、情けない……い、いくつだと思ってるのっ、もう。


「大丈夫? 浴衣って、慣れるまで動き辛いよね」


「ぃ、いえ、そんなこと……」


 すぐにそっと手を差し出してくれる、千歳さん。そんなに年の変わらないのに、ときどきふと、母親のような匂いを、感じてる。


 ……お母さん、か……


 わたしの育ての親が今、どうしてるか。まったく想像がつかなかった。ただ騒がしい部屋に戻り、肌をたくさん見せてる水着姿の人から慌てて目を逸らし、スケッチブックをとって頭にある映像を描きだしていく。


 すらすらと鉛筆が滑る。色もすぐ思いつき、とかく見える映像を思いつくままに描き殴っていった。描きたい色が見えたら先に色を塗り、描きたいものが見えたらそれをあっちこっち鉛筆で作り上げていく。線がいっぱいで色がめちゃくちゃ、でも消したり整えるのも惜しい、早く描きたい、形にしなきゃ。


 向こうの巴さんはもっと、いい笑顔。まゆちゃんはもっと元気、みゆちゃんはもっと……愛らしい。作りかけのお弁当はもっと、おいしそう。台所は綺麗で、それから……


 なにも目に入らず、なにも聞こえない。


 まぶたの下に、ただ彼女たちがいる。それだけ。
















































































 第四十七話あとがき的戯言




 こんばんは、
三日月(みかづき)です。今回は蛇足はなしです、特に書くこともないような、思いつきません。春花さんのファーストキスは憲邇さんです。十四話でなにか書いてあったかもしれませんが、ファーストキスは憲邇さんです。花雪さんもです。多いなぁ。みなさんはファーストキス、覚えていますか?


 字面で見るととみに方言って、違和感の塊ですよね。地元の言葉は愛すべきもののはずなのに、文章に起こすと変なこと極まりない。やれやれといったものです。


 ここまでお読みくださりありがとうございました。また次回もよろしくお願いします。




 
20100619 三日月まるる




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テーマ : 官能小説 - ジャンル : アダルト

2010/11/20 13:22 | 小説COMMENT(0)TRACKBACK(0)  TOP

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