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「ごめんなさい」その四_第四話_間違いを間違いと思わない盲目さ加減は、間違いです

 こんばんは、三日月まるるです。
 本年はありがとうございました。来年もよろしくお願いします。よいお年を。
 それでは第四話です。どうぞ。














 



 四 間違いを間違いと思わない盲目さ加減は、間違いです



 



 



 今日、言おう。今日を、記念日にしよう。受け入れられても、断られても。区切りをつけなきゃいけない。もう、私は人が怖くないのだから。



 先生は何一ついやな顔をしない。突然私が訪ねてきても、仕事の邪魔をしても、軽く笑うだけ。……そういう、重いものになっていないっていう、証。患者以上でも、友達以上でも、ないっていう、印。



 それでも、一歩歩むことの大切さは、あなたが教えてくれました。



 だから。



「……え」



 私は、あなたが、好きです。



 あなたに恋人がいることはわかります。例えあなたが他の誰を好きだとしても、他の誰と恋人だったとしても、私も、同情してくれれば、それで……



 かけらでも触れてくれれば、それで充分ですから。



「……ダメだよ。私はどうしたって医者で、君はどうしたって患者だ」



「違います。一人の男と女です。他のなにも関係ない、好きなら、それでいいんです」



「……」



 先生はそっと、私を抱きしめてくれた。



「私は……君にこれ以上の感情は持ち合わせていないよ。君が……私じゃないとダメだって言うのなら、私にならすべてを捧げてもいいと言うのなら、そう扱うこともできるけど……それじゃ君は嬉しくないだろう? だから……ごめん」



 すべて、捧げる。



 この人に。



 ……その言葉はまるで天啓のように、



 私の体を貫いていった。



「……私が、そう言ったら、すべて捧げますって言ったら、そう扱ってくれるんですか」



 私は、



 そうなりたかったんだ。



 この人に言われたことを、勧められたことをやる。そのことに、充足を覚えていた。安堵していた。被支配欲。



 だから、私はきっと、この人に会うべくして会ったんだ。



 鎖で繋いで、欲しかったんだ。



「……本気かい? 本当に、心の底からそう思えているかい? なにを優先しても、私を想っていられるかい?」



 私は言葉で言うより、行動で現したほうがいいと思った。この日のためにがんばって選んだお洋服を、順に脱いでいく。カーディガンが落ちる。ワンピースが落ちる。どうされてもいいと思ってたから、見栄えのいい下着に手をかけたところで、先生が引き止めた。



「なにやってるんだ。早く」



「これくらいなんでもないです。ここでしてもいい。全部、先生にあげます……」



 幸い、今の時間人はあまりいない。病院の警備の人も、今は遠い。だから、先生に迷惑はかからない。かかったとしても、私が全部被ってあげられる。



 多分、こういう好きなんだ。



「……とにかく、服を着て。君の……覚悟は、わかったから」



「……」



 私はゆっくりと着替えなおしていった。



 帰りの車中。私は乗せてもらっていた。



「……私には、もう深い関係の人がいるんだ。そんなの、嫌だろう」



「言ったはずです。それは別に構いません……看護師さんとか、男を見る目で先生のこと見てたの、わかってましたから」



「はは。そんなわけないじゃないか」



「……」



 ああ、この人は鈍感なんだ。先生の診察を受ける女の人たちは大抵、色めきだっているのに、気付いていないんだ。



 なんだか、おかしい。



「私はそれでも、一年に一回でもいいから、先生が会ってくれて、優しくしてくれて、デートとかしてくれて……できれば、えっちしてくれれば、それでいいです」



「……」



 夜の風景が流れていく。星も月も見えない、中途半端な田舎の風景。家々も造りが古い。それだけに、長く残っていた。こういうところで一緒に暮らしていければ、それは幸せなんだなって、未来のヴィジョンを少し垣間見る。



「……七歳なんだ。私が抱いたのは」



「……」



「七歳が二人、ね。そういう、ロリータコンプレックスなんだよ。それでも」



 七歳。それは確かに普通は異常なのかもしれない。でも、私の従兄弟だって。



「そんなの関係ないです。先生が、将来私を捨てたって、一度でもいいから好きって言ってくれたら、それで充分なんです。あ、で、でも、えっちしてくれるのが、一番ですけど……」



「……」



 先生は、難しい顔をした。困らせてる。だけど、譲りたくはなかった。その人たちと一緒でもいい。その人たちに負けたっていい。それでも、傍にいたかった。



 赤信号になる。「本気?」



 その目が、一直線に私を貫く。私は、心からそれに応えた。



「はい」



 真実、あなたが好きです。



「…………」



 青信号に変わっても、先生は少し、ぼうっとしていた。後ろからクラクションが鳴り、それで車は動き出す。



「……わかった」



「えっ」



「君も、愛してみせるよ、千歳(ちとせ)



 一瞬で心が晴れ晴れとした。周り一面が、コリウスの花が咲いたような、そんな気がする。



 叶わぬ恋が、叶った。



 ……自然と、私は涙していた。私の、初恋が、こんな形で実るなんて……信じられなかった。嘘じゃ……ない、よね? なんだか、嬉しくて、嬉しすぎて、夢見心地で、自分が自分でないような気がしてくる。何度拭いても、雫は溢れて止まらなかった。



 先生の家に着き、車が止まったところで、私は耐え切れずに先生に抱きついてしまった。先生は優しく、やっぱり拒絶なんてしないで、応えてくれる。……愛してくれる。そう言った。何番目でもいい。それでも、それが、証だ。



 暗がりの中、私は先生を求めて、ゆっくりと唇を近付けていった。



 この年になってのファーストキスは、ほんとにレモンみたいな味がして……ただただ、嬉しかった。



 夕食を食べてくといい、と言われたので、甘えることにする。玄関には、私よりちょっとだけ年上のかわいいメイドさんが出迎えに来てくれた。……もしかして、この人が恋人? 羨ましいな、バスト大きいし……でも、すごく若いメイドさん……



「この人は違うよ」



 そっと囁かれた一言で安心する。よかった。こんな人がいたら、私なんてすぐ飽きられる。



「あのー、ご主人様、最近、女のお客様が多すぎますよ。誰なんですか、本命は?」



「秘密」



 そう笑いながらあしらう先生は、仕事のときと変わらず、にこやかだった。誰にでも、こうなんだ。そして、好きな人にはもっとなんだ。



 あんな顔するんだ。



 そして奥からとたとたと子供が二人やってきた。どっちも女の子。確かに七歳ぐらいだと思う。ん? でも、片方の子は七歳にしても小さいような……この子たちが……意外と、かわいい……



 女の子の一人が言う。



「あ、あのー、その人は?」



「今日は快気祝いでね。一緒に食事でもって。君たちが来てるって葛西(かさい)さんから連絡あったから、悪いけど家にしようって。この子は眞鍋(まなべ)みゆちゃん。この子は新垣(あらがき)まゆちゃん。で、この女中さんが」



「メイドですぅ」



「……メイドさんが、葛西良子(りょうこ)さん。みんな、この子は私の元患者で、谷津(やづ)千歳さん」



「はじめまして」



「初めまして」



 笑顔で挨拶をした。これぐらい私もできるようになっている。人と付き合うってどういうことか、少しはわかったんだから。



 みんなで囲む食卓は楽しいものだった。メイドさんの料理もおいしくて、目を見張るほど。歓談も進んで……どうやら、メイドさんも先生に気があるっていうことがわかる。でも、先生は気付いてないんだろうな。



「あの、先生、今日、泊めてもらえますよね?」



「ああ、いいよ」



 その言葉に、小さな子たちの目が色めきだった。ああ、本当に本当なんだ。二人とも、そうしてもらってるんだ。



 その四つの目が先生に向くと、先生は柔らかく微笑んでそれに応えた。それで、みんな察する。……やがて、四つの目線は、仲間を見るものに変わっていった。一応、目礼をしておく。



 順番にお風呂に入ってくださいとメイドさんが言うので、それに従うことになった。先生は最後でいいと言うので、まずはお客扱いの私から。……できたら、先生と一緒がよかったんだけどな。でも、他の二人がいるのにそんなことできないだろうし。仲良くしなきゃね。先生は一人なんだから。



 ……念入りに、綺麗にしとかなきゃ。やってもらえるかもしれないんだから、それなりのものにしないと。汚い女の子を抱きたい男の人はいないと思うし。……体中を見回して、どこかおかしいところはないか何度も確認する。ううん、やっぱりもうちょっとバストが欲しいなぁ。今年十八にもなってこれだけじゃ、満足してもらえないかもしれない。でも、七歳の子だってしてもらえてるんだったら、あんまり関係ないのかも。それより、こっちの匂いかな……



 そういうことをしてると、あっという間に時間が経った。これ以上どうすればいいのかわからない、っていうところまでやって、お風呂から出る。着替えを終えて(急なことなので着替えはメイドさんのものをお借りした)次の人を呼ぶ。みんなリビングでテレビを見ながら談笑していた。



「あがった? じゃ、憲邇(けんじ)さん呼んでたから、案内したげるね」



 憲邇さん……そういえば、そんな名前だったのかもしれない。いけないな、それすらも知らなかったなんて。



 その子は、確かみゆと言ったっけ。どこか、年齢の割に女っぽい雰囲気の漂う子で、小さい子のほう。してもらえるということは、それだけで女を成長させるものなのかしら。



 ノックして、中からの返事を待つ。それを受けて、みゆちゃんは立ち去っていった。中では先生がパソコンの前でなにか作業をしていた。



「ああ、どうだった、湯加減は」



「とてもよかったです」



「そう。それはよかった。話っていうのは、他でもないんだけど、実は寝られる部屋数が足りてなくてね。今日は葛西さんも泊まるって言ってたし、悪いけど泊まるんだったら相部屋になるんだけど……いいかな?」



 その言葉に少し期待が高まった。もしかしたら、もしかするかもしれない。訊いちゃおう。



「……先生と、ですか」



 彼はきょとんとする。「……ああ、ごめんね。そういう訳じゃないんだ。そのことも後でみんなに話すよ」



「そう、ですか」



「みゆと一緒にしてもらいたいんだけど、いいかな」



「はい」



「ごめんね。それじゃ私はちょっとやることがあるから、もう一度みんながお風呂に入ってから呼ぶから、それまで」



「はい。それじゃ、後で」



 お辞儀をして、部屋を後にした。



 リビングでは、みゆちゃんとまゆちゃんがテレビのクイズ番組を面白そうに眺めていた。きっと葛西さんがお風呂なんだろう。それともお仕事かな。



「あっ、ねぇねぇ千歳さん」



「なに?」



 彼女たちは私に気付くと駆け寄ってきた。



「千歳さんはいくつ?」



「今年で十八歳。あなたたちは七歳よね?」



「うん。ふぅん、十一歳も上なんだ。千歳さんも、憲邇さまと一緒にいたいんだよね」



 様……いいかも。呼びたい。「うん。一緒にいたい。いつも。いつまでも」



「じゃ、きらわれないようにがんばろ? 憲邇さま、すごく好みはげしいから」



「……うん」



 そういう風には、見えないけど。



 葛西さんがあがって、みゆちゃんとまゆちゃんが二人でお風呂に入った。



 とりあえず、みんなとは仲良くやってけそうだ。



 みんながお風呂を終えたので、先生の部屋に集まる。……なんだか、二人ともかわいらしいパジャマを着てて、羨ましい。でも、下にスカートなんて……趣味なのかな?



「えっと……その、これは確認なんだけど……本当に、いいのかな? その、三人もいて」



 先生はばつが悪そうに口を開く。確かに、普通ならこんなのありえないと思う。でも、私たちはそういう好きなんだ。だから、みんな首を縦に振る。



「……わかったよ。みんな一緒に、付き合っていこう。ああ、千歳には言ってなかったね。私は……」



 そこで先生は条件を出した。なるほど、これを聞けないと付き合ってくれないと。でも、それぐらいなんとかなりそうだった。みんながスカートなのも理解した。母にたくさん協力してもらわないと。



「それでも、構わない?」



「くどいです」



「……そう。ならもう言わないよ。……ええと、そう、これからだけど、三人もいるから一緒にいられる時間が少なくなったり、とれないことも多くなると思う。なるべく頑張るけど、ごめんね」



「憲邇さまは気にしすぎです。あたしたちは一週間に一度でも、一ヶ月でも一年でも大丈夫ですから」



「……それは、私が嫌だ。なるべく機会は作る。デートだってたくさんしたいしね。だから、気兼ねなくこれまでどおり訪ねてくるといい。遠慮はして欲しくないから」



 みんな頷く。多分、許されるなら同棲がしたい。そう考えていると思う。



「後は、私たちの関係だね。隠していこうと思う。デートぐらいは知られてもいいと思うし、みゆやまゆたちは好きだっていうことを周りに言ったっていいだろう。だけど、深い関係だってことは黙っておこう。知られたら、終わると思うから」



 それはみんなもわかってた。これは許されないってことぐらい。ただでさえ医者と患者。いけないってことぐらい、私だってわかる。



「それと……他に好きな人ができたら、その人と一緒になって欲しい。私のことは考えなくていいから。君たちは、なるべくなら君たち自身の幸せを一番に考えて欲しい。それが、私の願いだよ」



「あたしたちの幸せは、憲邇さまと一緒にいることです。それ以外は考えられません」



「みゆも」



「……私も」



 今は。



「……まあ、私より素敵な男性はたくさんいるから、今はそう言えてもいつか変わると思う。頭の隅に入れといてくれればいい。私は君たちを、ずっと愛し続けるから」



 それはきっと本心。先生は、心からそうしてくれると思う。だから、私もそれに応えなくちゃ。



「……みゆは、そっちが心配です。あ、あの、みゆ、がんばります。がんばって、千歳さんみたいなきれいな女の人になります。だから、だから、きらわないで……ください。す、捨てないで……」



 そう言ってくれると、私も嬉しいけど、この子は、こんなにかわいいのに、自分に自信がないのね……



「捨てないよ」



 先生は、たくさんの思いを込めて、ゆっくりと振りかける。愛しさや、慈しみや、矜持をもって。



「捨てない……捨てたくないからね。嫌いになるのだって、今はもう、難しいから」



 あはは、と先生は笑う。「えっと、そんなところかな。四人一緒にとかはやらない。今日はまゆだよ。まゆだけ残って」



「あ……はいっ」



「それじゃ、他のみんなはおやすみ……頑張りすぎちゃ、いけないよ」



 私はそれで終わりだなんて、嫌だったから、



「あ、あのっ、き、キス、してくれ、ませんかっ」



 そう必死になってしまう。他の二人も続く。先生は、苦笑しながらこっちにやってきて、一人ずつ、右手に口付けをしていった。



「ごめんね。おやすみ」



「……はい」



 その感触で、きっと眠れると思ったから。私は笑顔で、その部屋を去った。



 早く、して欲しいな。



 



 



 



 



 一回転? す、するの? それって、いろいろスカートふわふわって、恥ずかしいような……でも、憲邇さんはにこにことそれを待っている。



 今日は緑のカエルパジャマ。スカートは同じ色だけど普通の。でもあんまり長くないから、もしかしたら見えちゃうかも……



「回ってくれないんだったら下からのぞいちゃおっかなぁ。それとも今日はもう寝ちゃおっかなぁ」



「や、やります」



 すすっと体を下げてきたので、ほんとは、見られたってよかったけど、やめちゃうのはいやだった。



 今日がはじめて。だから、ちょっと怖かったけど……憲邇さんとできるんだったら、きっと気持ちいいと思う。



 あたしは目をつむって、勢いよく回転した。ああっ、スカートふわって、ふわって……



「うん、よくできました。すごくかわいいよ」



「……」



 絶対見えた。きっと見えた。今日のは、普通の白のぱんつ……あんまり、かわいくないかも。でも、憲邇さんは笑顔だった。



 じっと、見つめあう……憲邇さんは、そりゃあ芸能人みたいなカッコよさはないけど、でも、なんていうか……大きな、人に見えるんだ。ほんとの、大人の人。



「目、閉じて」



 言われたとおりにすると、口と口が触れあった。キス……はじめての……憲邇さんのは大きくて、あわなかったけどでも、なんだかしあわせ……



「舌、入れるよ」



 えっ?



 口をこじ開け、舌が入ってきた。



「ひゃうっ」



 あたしは思わずその舌を噛んでしまった。



「っ……」



「あっ、ご、ごめんなさい」



 痛そうに舌を引っこめた憲邇さんに、ちょっと悪い気になっちゃう。でも、だって、なんで舌なんか入れちゃうの? そのままでいいのに……



「……痛いから、まゆの舌で優しく舐めて欲しいな」



「っ!」



 この人はいたずらっぽく笑う。わかってて言ってる。あたしが恥ずかしがってるのに。



「嫌? だったらいいよ。無理してまでやってもらいたくはないし」



「……え、えと、どうして、そんなことするんですか? みんな、誰もそんなこと言わないし、本にも、そんなの書いてなかったのに……」



「あはは。そうだね……どうしてだろうね」



 憲邇さんはそっと頭をなでながら、ベッドまで歩いてく。あたしもそれについてって、胸が高くなってくのを感じた。



「……私の私見だけど……あ、私見っていうのは、自分の考えだね。それだと……たくさん、色んなところで触れ合いたいだけなんだと思うよ。手や、口や、あそこで……その舌で、大好きな人と、触れ合っていたい……そうやって少しでも、共有できるなにかがあると、嬉しいんだよ。まあ、なんといっても気持ちいいしね。それに尽きるかもしれない。あはは。言っててよくわからないな」



「……」



 気持ちいい。ただ、生温かかっただけなのに……それが、気持ちいいことになるの?



「初めは、そうだね。女の子は気持ちいいことなんてないかもしれない。だから、嫌だったらやらないよ。これからすることも、すごく痛いかもしれないから……我慢できなくなったら言ってね」



 憲邇さんは服を脱がしにかかった。どうしよ、どうしよと考えてるうちに、下着に手がかかる。



「あ、えと、なめればいいんですか」



「……いいの?」



 あたしは赤くなったまま頷く。してほしいことは、してあげなきゃ、きっと捨てられちゃう。今はよくても……後でしこりになったらいやだ。



 そっと舌が出てきた。あたしは、自分の口でそれを包んで……自分から、少しずつ触れてった。だ液が混じって、はねる音がしていく。……憲邇さんの舌はやわらかかった。でも、味なんてしなくて……気持ちいいのかな?



「ん……は、は……あ……」



 口をはなすと、間に糸が引く。あの日、みゆちゃんたちはこんなことをしてたんだ……



 そんなことをしてるうちに、憲邇さんはあたしをスカートだけにしていた。気がついたらあそこが丸見えで、やっぱり恥ずかしい。



 ベッドに押し倒される。上に、憲邇さんの大きな体がある。ああ、あたし、えっちなことされるんだ……



「きゃあっ!」



 急にあそこをなめられた。あまりに突然なことだったので、思わず高い声が出てしまう。あ、ダメダメ。聞こえちゃう……でも、憲邇さんはなにひとつ気にせずになめ続けてくる。くすぐったくて、変な感じ。あ、あ、なんか、声出ちゃう。



「あんっ、あんっ、あっ、ああ、あんっ……」



 どうして、どうして? なにこれ、変だ、変だよぅ……



 しばらく、あたしがなにもできずにいる間、憲邇さんはずっとあそこをなめ続けてた。変な感じがずっと続いて、体中がびくびくしちゃう。



 あ、出てる、なにか出てる。なに? なに? あ、飲まないで……



「こ、これ、なんですか」



「愛液っていうんだ。えっちをしやすくするために出るものなんだよ。気にしないで」



 そう言って憲邇さんは顔を体の上のほうにずらしてきた。そのままお腹をなめてくる。お腹がびくついて、飛びはねるみたいになるのに、憲邇さんはまったく気にせずなめ続けてくる。こそばゆい。あ、おへそなめないで……



「そ、そんなとこ、汚くないですか」



「全然」



 なめるのはきっとやめてくれないんだろう。だ液で体がべとべとになっていく。憲邇さんのやわらかい舌が体をはって、なめくじみたいに動いてく。



 と、手があそこに触れた。ああ、やっぱり触るんだ。指が表面をこすっていく。さっき出た液と一緒んなって、なにか妙な音が聞こえてきた。……こすれるたび、また声が出ちゃう。



「……あっ、あっ……あん……やだ……あっ……ああ……っ」



 なんだか、あそこがむずむずしてきた。あ、いや、いや、おしっこ、出ちゃう……!



「憲邇さま、おしっこ、おしっこ出ちゃう」



「出しなさい。気にしないでいっぱい。ちゃんと見ててあげるから」



「いやっ、み、見ない……ああっ! あっ、あっ、あぁー! ……」



 憲邇さんがじっと見つめる中、あたしはおしっこをもらしてしまう。ベッドのシーツが、染まっていった。あたしはあまりの恥ずかしさに、顔をおおって涙ぐんでしまう。こんな恥ずかしいところ、大好きな人に見られたくなかったのに……



「……まゆ。恥ずかしい?」



「……うっ……うっ……」



 なにも答えられない。いやだ。もういやだ。こんなのだったら、えっちなんてしたくない。恥ずかしい……それに、こんなとこ、見られたからきっときらわれちゃう……



「……ごめんね。でも、かわいいよ、まゆ」



「……えっ」



 その言葉に、あたしは目を開く。涙の向こうに、憲邇さんがほほえんでいた。そっと、ほっぺに手を添えてくる。



「かわいくて、愛しいって思った。まゆのこと」



 ほんとに、そう、うれしそうに。



「……」



「ごめんね。そんなに嫌だったら、今度は普通にトイレに行こう。私が見たいだけだからね。そんなのは、やっぱりダメだ」



「……あ……ぇ……」



 でも、でもかわいいの? あんな姿、いいの? 見たいの?



 憲邇さんはそっと涙をふいてくれて、やさしくキスをしてくれた。舌を入れずに。そのあと、きゅって抱きかかえてくれた。



「え、えと、見たいんですか? おしっこ……」



「ん? ああ、うん。私は変態だからね。見られるとすごく嬉しい。でも、嫌ならい」



「いやじゃ! ないです。……み、見てください。憲邇さまなら、恥ずかしいけど……でも、できます」



「本当?」



 頷いた。それに、憲邇さんはおでこを当てて応える。「ありがとう」



 それからまたあそこをいじるのが続いた。……そっと、膣内(なか)に指が入ってきて、押し、あげて、く……



 …………う、あ、げ、



「ごめん、早かったね」



 抜けた。「え、あの」



「やはり、早すぎたんだよ。やめたほうがいい。気持ち悪いのなら」



「ち、違う、ちょっとびっくりしただけっ」



「指でこれで、挿れられる訳がない。異物感による込み上げてくるものは、拒絶そのもの……嫌なんだよ、するのが」



「違う! じゃあどうしてみゆちゃんにはしたんですか!」



「個人差だ」



「一緒です! 同じ誕生日で、同じ女の子で、同じ……好きだって!」



「……」



「好きじゃないんだったら、こんなことしないでよぉ! 嘘つき! 変態! みんなに言ってやる! 大人のく、ああうっ!」



 指が、一気に入ってきた。あ、あ……いやな感じしか、しない。



「無理なんだよ。みゆはやらされていたんだ、こうしてね。一応の準備はあった。今最後までやるのはよそう。少しずつ慣らしていこう」



「……や……やっ! できるもん! これぐらい、気持ちいいから!」



「……」



 喉の奥を押しこめる。あそことお腹に力が入ってく。涙が、ぽろぽろこぼれてく。



「みゆ、ちゃんにしたのに、あたしにしないの、好きじゃないんだよ! 嘘つきになるよ! 大人でしょ! やってよ! ひどい! きらい!」



「……かわいい」



 え? 「あっ、ああっ」指が、指が動いてく。犯されてるんだ、あたし、指で。



「ごめん、もうやめないよ」



 ほんと? 小さく上げる声で訊けないあたしに、憲邇さんはしっかりと頷いてくれた。



「あ、あ、あ……」



 ぐにぐにしてる。押しあってる。いやだから、押しだそうとしてるみたい。ダメ……やりたいから、止めなきゃ。



 舌があちこちなめてきて、体中がなんだかむずがゆい。また少しずつ、あいえきが出てくるのが感じられる。



 ……おっぱいは、触らないのかな。やっぱり、ないから? みゆちゃんは特別で……あたしはいいのかな? なんて、言えないけど……あ、また、声が出ちゃう……



「あっ、ああっ……あうっ、あううっ……あん……ああ、ん……」



 こういうこと、みゆちゃんも、言ってたのかな……あたしもきっと、顔が赤いんだろうな……



 息が切れて、疲れてくる。それを憲邇さんもわかったのか、止めてくれた。



「じゃ、そろそろ挿れるよ」



 うわっ、ひ、久しぶりに見たけど、お父さんの、こんなになってたっけ? なんだか、血管がいっぱい走ってるのがわかる。びくびく動いてて、大丈夫なのか心配にもなってきた。ああ、あれが入るんだ。切れちゃわないかな……血が出ないかな……



 それはゆっくりとあたしの中に侵入してきた。指じゃない、はじめての感覚に体がいやだって拒絶してる。変わんない。でも、これで……あたしと憲邇さんはつながったんだ。せっくすしてるんだ。ほんとの、恋人なんだ。愛してもらってるんだ。お母さん、みゆちゃんの言うとおり。そう考えると、とってもうれしくて、しあわせな気持ちになってくる。あたしはほほえみながら、ぎゅっと憲邇さんの体を引き寄せた。



「……憲邇さま……好き……ありがと……」



「私も、好きだよ」



 ゆっくりと、あそこが動いてく。「痛い?」と訊くので、思わず頷いてしまった。すると憲邇さんは止めて、治まるまで待ってくれる。なんとか慣れてから頷いて、それからまた再開する。あたしは目をつむって、ぎゅっと手に力を入れる。指よりずっとおっきぃ憲邇さんが、入ってくる感覚はいやだって体は言ってる、けど、あたしはうれしい。



 一緒だもん。



 なにか音がして、あたしのあそこから血が流れてきた。……やっぱり、あたしくらいだと怪我しちゃうんだ……



「これは怪我じゃないよ。初めてだった証が失われただけ」



「……そうなん、ですか」



「うん。だから、失敗したとか、そういうのじゃないから」



 なんだ。よかった……間違えたのかもしれなくて、あたしはできない体なのかもしれなかったんだから。



 ゆったりとした振動に包まれて、あたしは声をあげていく。



「んっ……んっ……あっ……あ……」



 変な気持ち。うう、気持ち悪い気がする……ちょっと辛くて、きつくて、自分の体じゃなくなってる気がしてくる……憲邇さんはゆっくり動いてくれるので、思ってたより楽だったけど。でも、全部挿入(はい)ってない。これで、憲邇さんは満足なのかな? これ以上は挿入らなそうだけど……



 なんだかよくわからない感覚が体中を支配してて、だんだん頭がぼうっとして、いやな感覚も消えてなにも考えられなくなる。突かれるたびに声が出て、それを抑えられなくなってしまってた。



「ああっ、ああっ! あっ、あ、あ、あ、ああっ、あんっ! あうっ、う、あ、あっ、ああんっ!」



「いいよ、すごくいい……そろそろ、射精()すよ……まゆ……」



 憲邇さんのが一瞬びくってなって、その先からせいしが出てくる。それは熱くって、お腹の奥にどんどん当たっていった。



「あんっ! あああ……」



 二人で硬直した。射精()るのが終わると、それが動き回るのが感じられる。ああ、終わったんだ。



「……はぁ……はぁ……」



「すごくよかったよ、まゆ」



 口に軽くキスをしてくれる。やっぱり、キスはこっちのほうがいいと思う。あたしも笑えた。



「まゆは、すごく喘ぐんだね。聞いてるこっちが恥ずかしかった。だから、今日はまゆはなにも言わなくていいよ。ちゃんと録音できてるかなぁー」



 憲邇さんは鼻歌を歌いながらビデオをチェックする。……そりゃあ、撮られてるのはわかってたけど、後でそれを自分が聞くのは、ものすごく赤っ恥だ。



「みんな撮るんですか」



「うん」



「……」



「大丈夫。悪用はしないよ。とはいっても、まゆはそういうの想像できないだろうけど……何年か後にね、もし私たちの関係が続いているのなら、こうやって振り返るのもいいかなって。それだけだよ。途切れてたら、ちゃんと捨てる」



「……そうですか」



 なんだ。それなら……それなら……ダメ。やっぱり赤っ恥。



「……憲邇さま、あたし、よかったですか? 気持ちよかったですか?」



「うん。とってもよかったよ」



 そっか。ならそれでいいや。あたしはすごく疲れただけだけど、多分いつか気持ちよくなれる。それまでくらいなら我慢できる。



「そうだ。まゆはどうする? セックスすると赤ちゃんができる、まあ絶対じゃないんだけどできるから、欲しい?」



「……」



 え、え? そ、そうなの? やだ、できちゃったら、どうしよう……



「え、えと、みゆちゃんは?」



「みゆは産むって」



「……」



 すごい。やっぱりみゆちゃんは、どこまでも憲邇さんのことを好きなんだ。あたしは、あたしは……



「まだ、わかりません」



 だって、あたしだって普通に子供なんだ。そんな、学校も出てないのにお母さんになんて、なれるとは思えない……よっぽどの、覚悟がなくちゃ。



「……もう少し、大人になれたら考えます」



「そう。そっちのほうが普通だよね……まあ、どっちがいいって訳じゃないけど……あ、ごめん。赤ちゃんは初潮、生理がこないとできないんだ。生理って知ってる?」



 首を振る。「女の子はある日突然あそこから血が出るんだよ。それが初潮。そうなるまでセックスをしても子供は作れないんだ。普通はできる年齢でやるから、コンドームっていう避妊具付けるんだけどね」



「そうなんですか」



「うん。じゃあまゆは、子供は作らない方向でいこうか。気が変わったらすぐに言ってね。初潮がきたら、安全日か避妊しよう。安全日は、時期がきたら教えてあげる」



「はい」



「さて」



 憲邇さんはそこでビデオを置いた。



「このシーツを片さないとね」



 あたしはばつが悪くなる。



 



 



 



 



「ほら、見なよ千歳ちゃん」



「……」



 手渡された写真には、授業中の私が写っていた。



「……これが?」



「盗撮。勝手に撮ったんだよ、男子が」



「……」



 私のなんか、どうして撮ったんだろう。先生は私の写真はたくさん欲しいって言ってたけど。



「さすがに更衣室のはないけど、でも水泳の授業のまである」



「……?」



「な、なに? 怒んないの? そういう目で見られてるってことだよ? おかずにされてんだよ?」



「おかず?」



「え、知らないの?」



「ご飯のおかず? ごめんなさい、意味がわからない」



「……っ! と、とにかく! やったやつの目星はついてんの。あなた本人から言って。そうすればわかるから」



「……」



 ひとまず、頷いておく。確かに、先生以外に水着姿をとっておかれるのはなんだかいやだ。



 その人に案内された先にいたのは、同じクラスの住田(すみだ)くんだった。私たちに気づくと、少し怯えてしまってた。



「ほら、言って言って」



「……これ、あなたが撮ったの?」



 写真を見せると、更に怯えていた。



「ち、違うよ」



「違うって」



「ちょっと、そんな簡単に引き下がんないの。じゃあ、証拠見せてよ。鞄、見せて」



「な、なんでそこまでしなきゃいけないんだよ。違うって言ってるだろ」



 私も昔、これくらい怯えてたかもしれない。あんまり言うのはかわいそう。



「じゃああんたの鞄に千歳ちゃんの写真がいっぱいあるって言いふらしてもいいんだ?」



「……」



「そんなにきつく言っちゃ、かわいそう」



 こんなに怯えてるのに。



「はぁ? なに言ってんの、このままほっといたらいずれ下着とか裸とか撮られるのよ?」



 あ、それはいや。



「俺はそこまで撮ったりしない!」



 あ、彼女の顔が恐くなった。



「そこまで? じゃどこまでなら撮ったの?」



「……あ、いや……」



 周りの視線がこっちにきてる。この人は声が大きくて少し羨ましい。



「……ごめん。確かに僕が撮った」



「あんたねぇ……! ごめんで済むか! 親にも先生にも言うし、損害賠償も」



 住田くんは椅子から下りて、土下座をした。初めて見た。



「ごめん、ほんっとにごめん! もうしない、絶対しないから!」



「その前にネガか、どうせデータにしてんだからそれも全部よこせ。配ったやつらも全員教えろ」



「ねぇ、どうして私の写真なんか撮ったの?」



「千歳ちゃんは黙ってて!」



 すごい剣幕に、私はあのときのような恐怖を感じ、なにも言えずに床を見つめるしかなかった。



「あ、ごめん、ごめんって。そうよね、あなたの問題だし……なんで撮ったの?」



「……いや、その、なんていうか、綺麗だし……」



 言われている言葉の意味を理解するのに、ちょっと時間がかかった。……そんなこと、言ってくれたのは先生だけだったのに。



「好きなんでしょ? どうせ」



「いやっ、それは、それは……」



「……」



 床に座って、すまなそうに私を見つめてくる。その瞳に、私が先生から感じるものが欠片でもあるかどうか……



 すぐに、わかった。



「私は、好きな人がいるの」



「あ、ああ、そうだよな……」



「もう勝手に写真を撮らないなら、お友達になります。それで我慢してください」



「!」



「ちょっと、なに言ってるのよ!」



「? だって、謝ったから。許してあげようよ」



「あ、ありがとう!」



「……」



 歯軋りの音がする。



「……ネガか、データの処分は絶対よ。示しがつかないわ」



「わかってる、すぐにやる」



「千歳ちゃんが言うなら、大事にはしないであげる。でも、次はないわよ。それにやるなら今すぐ、あたしの見てる前でね」



「わかった、わかったって」



「配った連中も教えなさい。生徒会でちゃんと没収するから。じゃないといやよね? 千歳ちゃん」



「うん。あ、今度から撮るときは、ちゃんと断ってね」



「あ、ああ! わかったよ」



「……千歳ちゃん」



 憎々しげな顔が、横を向いた。



「甘いこと言ってると、いつか痛い目見るわよ」



「……うん」



 先生の注意はちゃんと全部覚えてるから。きっと、守ってくれると信じてるし。



 ……こうやって、人と付き合っていくのは必要だと思う。仲良く、できたらいいな。



 



 



 梅雨の突発的な雨に濡れて、先生の短い髪が跳ねていた。自分のことより私を濡れさせないようにして、高い背で覆ってくれた。逃げるように入った喫茶店の店員さんから、タオルを借りて髪を拭いている先生を見て、視線が交わると思わず逸らしてしまう。まだ、なんていうか、慣れない。



「天気予報って本当に信用ならないね。二十パーセントでも降るときは降るなぁ」



「傘、持ってくればよかったですね。相合傘とか」



「うん、じゃお茶を飲んだら、どこかで買ってやってみようか」



 思わず笑顔になる。色々と私はドラマを見て、恋人たちのやることはかなりたくさんあるということに驚いてた。それができるのは嬉しい。雨の日なのに好きになれそう。



「……谷津、さん?」



 入り口の残響音とともに聞いた声は、学校でよく聞く声だった。



「住田くん、こんにちは」



「……誰、その人」



「私の主治医で、深町先生。今治療の最中」



「こんにちは」



「……こんにちは」



 私は隣の椅子を後ろへ引いた。「一緒にお茶しよう?」



 彼はゆっくりとそこに座ってくれた。



「治療って、なんの病気?」



 言ってもいいんですか、と目で訊ねてみる。私が言うよ、と先生は話してくれた。



「君は他人についてどう思う?」



「え? 他人って、他人は他人ッス」



「そう。じゃあ、他人に叱られたことある?」



「はあ、そりゃまあ」



「千歳ちゃんはね、幼い頃に他人にこっぴどく叱られ、それがトラウマに近い形で残っていたんだ。そのせいで以前は誰とも話さなかっただろう? そういう病気」



「……」



「今はあんまり怖くないの。怖い人もいるけど、話せないわけじゃない」



 そりゃあ、強面の人は怖いけど。同姓ならもうほとんど怖くないし、先生に似てれば、きっとどんな人でも話せると思う。



「今もこうして、一緒にいろんな人と触れ合う手助けをしてくれてるの」



「君とも、仲良くしてもらえると嬉しい」



「……はぁ……お二人は、医者と、患者なんスよね?」



 私は頷く。「じゃあ、別に付き合ってたりとかは、ないんスね?」



「うん、違うよ」



 ただの奴隷だから。



 先生の携帯が鳴った。ごめんね、といったん喫茶店の外へ出てく。



 住田くんは届いたアイスコーヒーをくるくると回しながら、ふと呟く。



「僕、谷津さんの私服見れて嬉しいよ」



「そう? ありがとう」



 今日はミントグリーンのスウィートプルオーバーにふんわりとしたチャコールグレーのプリーツスカート、胸元に小さめのピンクパールのハートネックレスと、ピンクゴールドでスクエアのスワロフスキーネックレスを重ねてる。お化粧は……今日はいっそしないほうがいいと母に言われた。やっぱりまだまだ母の助言に助けられている。ネックレスを二つ付けたのは私の独断で、あんまりよくない気がしてきてた。もう少しマニキュアの練習をしたら、今日もつけてこられたのに。



「ごめん、用事ができちゃった」



 そう、先生が言うと、やっぱりがっくりきてしまう。



「住田くん、今から時間ある?」



「え、はい」



「じゃあ、千歳ちゃんの相手してくれないかな」



「え、いいんスか」



「うん、お願い」



「……じゃあ、わかったッス」



「ごめんね、じゃあ、私はもう行くよ」



「さようなら、先生」



 手を振ってく先生が、さっとお会計を払っていったのを見てまたしまったと思い、「あ、私が」と割ってはいろうとしてもレシートを受け取ってお店から走って出て行ってしまった。また、お世話になっちゃった。私に必要なことだから、自分で払いたかったのに。あのときは払えたのに、また今日はダメだった。



「……いい大人だね」



「うん。大人の先生」



「そういう意味じゃ、ないんだけど」



「?」



「あ、いや、ごめん。……よかったら、写真撮らせてくれないかな」



「うん、いいよ」



「色々いいロケーションがこの近くにあるんだ。そろそろ晴れるはずだし……行こう」



「うん」



 住田くんが家からデジタルカメラを持ってくる頃には雨は上がり、結局相合傘はできなかったなと少し残念な気分。住田くんとしても意味ないし。



「そう。その花時計の前」



「この辺?」



 色とりどりに咲き乱れる赤い青い黄色い花の前に、手を組んで立ってみる。休日、バス停の近くにあるせいか待ち合わせとしても使われる場所はそれなりに人がいて、ちょっと見られてる。



「笑って」



 先生の笑顔を思い浮かべて、笑った。



「……ありがとな」



「? なにが?」



「その、許してくれて。今もこうしてくれて」



「? だって、謝ったじゃない。もうしないんでしょう?」



「ああ、うん」



「じゃあいいじゃない。またやっちゃったら、お友達にはなりたくないけど」



「しないよ。しない。こうして……」



 うるさいトラックが近くを通り抜けていった。



「こうして?」



「なんでもない。つ、次行こう。ここいたらヤバイ」



 やばい? 引かれる手が、ぎゅっと温かくて、男の子の手はみんなこうなのかなと不思議だった。



 展望台にいると少し浮遊感を感じて、ガラス板の上に立つと自分が空に浮かんでいる感覚を覚える。遠くに見える青い山々に白いお化粧や、高いと思っていた学校や病院が実はそれほどでもないことが望遠鏡でわかる。水平線は……引き込まれそう。



「別にいい場所ってわけじゃないけど、やっぱり高いところはいいかなって。この辺ここくらいしかないから」



「いい場所ね。くらくらする」



「そ、そう? はは、そんなこと言ったの谷津さんが初めてだよ」



「写真、撮って。ここ、ここがいい」



「うん。任せて」



 もう一度同じ格好で、笑う。



「あ、あのさ、谷津さんの写真って、結構人気あるんだ。欲しいってやつがいるんだけど、あげてもいい?」



「? どうして私に断るの? あなたの写真でしょう?」



「……いい、か? いや、そういうの、嫌がるかと思って」



「いいよ。水着の写真じゃなかったら」



 商店街を歩いている人たちの流れは本当に小さく、蟻のようだった。なんだかかわいい。



「それと、今度、写真のコンテストがあるんだ。一応、応募しようかと思ってんだけど……できたら、谷津さんの写真を使わせて欲しいんだ」



「私? うん、いいよ」



 なぜか住田くんは驚いてるみたいだった。



「あ、ぬ、ヌードは、ダメだよ。水着もダメ。普通の。普通のね」



 そういうのは、先生だけのものだから。



「あ、うん、そりゃもちろんだよ。普通の、笑ってる顔が撮りたいんだ。憂い顔とか、真剣な顔もいいけど、やっぱり笑顔が」



「そう? ありがとう。でもコンテストか。住田くんは将来写真家になるの?」



「まだそこまでは。夢ではあるけど、最初は趣味で、稼ぎができたらかな」



「ふぅん。真剣に考えてるんだ。偉いね」



「そ、そんなことないよ」



 次はどこ行こうか、と望遠鏡でのぞきながら相談していると、後ろから声をかけられた。



「住田くん、住田だけに君もすみにおけないねぇ」



 彼の肩を叩いたのは同じくらいの年頃の男子二人組だった。住田くんは大げさなくらいにため息をつきながら振り返る。



「十点だな」



「お、お前にゃもったいないくらいかわいい子じゃん」



「お名前は? どこの高校?」



「? この人たちは?」



「中学の頃の友達。高校違うところ選んだらずっと文句言われてる。こいつはチーター、こっちはシャーク」



「初めまして、谷津千歳です。高校は住田くんと同じところ」



「よろしくお願いします!」



 二人とも運動部なのか、きっちりとした礼をしてくれた。



「ったく、一人だけいいとこ行きやがって」



「友情より女子の質か。嫌だねぇ」



「違う。お前らのところには写真部がないんだよ」



「どうせ盗撮だろ?」



 ぐ、と彼は声に詰まる。「お、図星か?」



「してねぇよ! 行こう、谷津さん」



「え、せっかくだから四人で遊ばない?」



「……」



「……」



 あれ、止まった。



「迷惑、かな」



「俺らはいいけど、あれ、住田はその子とデート中だろ?」



「ち、違う!」



「おお、んなむきにならんでも」



「え、違うんスか、えっと」



「谷津です」



「谷津さん?」



「違います。私はちょっと病気で、こうして住田くんと一緒にいることでそれを治していってるんです」



「……へぇ。珍しい病気もあるもんだ」



 深く考えてないみたいだったから、多分、本当に運動部なんだと思う。



「あの、本当によかったら、一緒に遊びませんか? 遊ぶのが治療にもなるんです」



 彼らは顔を見合わせ、住田くんのほうを向いた。



「住田はその子と一緒がいいんじゃねぇの?」



「そんなこと、ねぇよ」



「じゃ遊ぼっか。どうせ俺たち暇すぎてこんなとこ来たんだし」



「谷津さん、住田と同じ学校だったら、かわいい女子たくさんいるっしょ? 紹介してよ」



 かわいい女子……一年に金髪のかわいい人はいる。でも彼女は私と知り合いでもないし……



東野(ひがしの)さんや上岡(かみおか)さんとか紹介したら」



「あ、うん。そうだね。メルアド教えてくれたら、今度一緒に遊ぼうっか」



「お、じゃあ俺教えるよ。ほら、お前も」



「はいはい」



 下降していくエレベーターの中でお互いのメルアドを交換する。住田くんのはもうもらってるし。



「……谷津さんのそういうところ、すごいと思う」



「? なんで?」



 扉が開くと吹きつける風に、思わずスカートを押さえる。この辺は、急に風が強くなるのね。先生とデートしてると覚えちゃった。



「あっはは。女子のそういうの久しぶりに見たな? 最近学校以外じゃみんなパンツばっかりだし」



「やっぱり学校で着飽きてんのかねぇ。かわいいのに」



 やっぱり男の人ってスカートが好きなんだ。先生に限ったことじゃないんだ。ふぅん……あ。



「かわいい女子って、年下とか、年上でもいい?」



「ん? もちろん。あ、俺はむしろ年上がいい」



「俺は同い年か下だな」



 チーターくんが上、シャークくんが下。「住田くんは?」



「俺、僕は年上のほうが好きだけど、今は少し改まってる」



 年上でもいいんだ。ふぅん……



「なに言い直してんだよ。カッコつけんな」



「つけてねぇよ。高校入ったから変えたんだって」



「じゃあ、私の個人的な知り合い、紹介してもいいですか? あ、その子がよかったらですけど」



「全然OK! 年上とか言ったけど、かわいければよしだから俺」



「そうそう。単なる面食いだよ。美人だったら性格最悪でも意地で付き合うから」



「あれはお互い若かったんだよ」



「去年の話じゃねぇか。ねぇ、谷津さんはどう? 男は顔で選ぶ?」



「うーん、私は……」



 そうして、四人で色んな話をしながら風の強い町を歩いてった。時折、スカートがめくれそうになって大変だったけど、男の子と話すのは面白かった。やたら勝ち負けにこだわったり、女の子の話ばっかりしたり、危うくえっちな話題を持ちかけたり。チーターくんもシャークくんも彼女はいないみたい。



 ゲームセンターというところにも初めて連れてってもらい、耳をつんざくような電子音の中を案内してもらった。めまぐるしく動く箱型の画面は、とても目で追いきれないものばかりだった。試しにやった太鼓を叩くものは流行の曲が入ってたみたいだけど全然わからなくて、昔懐かしいものを叩いた。そこそこいい感じだって言ってくれた。プリクラのところにも案内されて、よく撮るのと訊かれたけど私はさっぱりと答えた。結構驚いてた。みんなで撮って、やっぱり住田くんのがいいねって言ってしまった。係りの人が近くにいたのでちょっと悪い気がした。



 また雨が降ってくるとシャッターの閉まったお店の前で雨宿りをした。私が相合傘ってしたことある? って訊くとみんな顔をにやけさせてないないと手を振った。



 屋台のやきそば屋さんでみんなで焼きそばを食べながらお店の人と話をした。雨で引き上げようかと思ったけど、お子さんが親御さんと一緒にカッパで着てくれて、目をきらきらさせたから続けてしまったって。商売あがったりだよ、なんて。



 虹がかかったのでよく見えるように近くのマンションの屋上に登った。住田くんが見つからないように行けるルートを知ってるって言って、四人でこっそり大きな虹を見た。住田くんが何度もシャッターを押してた。綺麗だった。



 ……先生と見たかったなぁ……



 もう一つ、シャッター音。



 また今度、遊ぼうねと、日暮れを背に別れた。



 怖く、なかった。



 



 



 



 



「検査の結果、問題はないと判断できる。……うん、大丈夫。前に君のお母さんがまたやったって言ってたけど、それはそのときから数えても随分前だったみたいだね」



「……ママに見つかる、何ヶ月か前にやって、そこであったのがなくなったんです。その、袋を捨てるの忘れてて、見つかっちゃって」



「そう。新しいものを手に入れようとしなかったのは偉いよ。元々君はそれほど依存性が高くなかったから、よかった。よく頑張った。おめで……あ、いや、それは似つかわしくないな」



「なんでもいいです。今はもう、やりたくもありません」



「よかった。もし、もしも、またやりたいと思ったのなら、また私に相談して欲しい。いいね?」



「はい……」



 じっと見つめてもせんせは視線を外さない。あたしの言いたいこと、伝わってる?



「……前に言ったとおりだよ。医者としてがまず前提で、超えたとしても私は命令ばかりする。従えない、従順でない女性とは付き合いたく」



「命令してください」



「男尊女卑の塊なんだ」



「そういう嘘をつくところも、好きです」



「……」



 辛い顔。あたしに言い寄られて、辛い? ううん、これは、これから伝えることであたしが辛くなるから、辛い顔だ。



「私はね、結婚していないことをいいことに、たくさんの女性と付き合っているんだ。その上、ロリータコンプレックス。小学生とも、なんだ」



「……」



 ちょっと、いいえかなり、会ってみたくなった。会って、少し、ううんたくさん、恨み言も言いたい。……? あれ、でも。



「私に言ったのは、どういうことですか?」



「君なら信用できる、と言えば、満足するだろう?」



「あ、はい。わかりました。せんせって、ちょっと不器用なんですね」



 全員に言ってるんだ。そう言えば、失望してくれると思って。それくらいで、せんせのことを諦められる女の子はそうそういませんよ。



「自分に都合のいいようにしかとらないのは問題だよ」



「自分に都合の悪いように動きたがるのも問題です」



「真実だ」



「恋愛中の女を、甘く見てます」



「……そうかも、しれないね。女性の強さには感服するばかりだ。もちろん、君を含めてね」



 ほら、わかってない。買いかぶってる。あたしのどこが、強いっていうの。



 強かったら最初っから麻薬になんて逃げないのに。



「そうかもしれない。でも、君は強くなった」



「……話を戻します。私はそれでも、それでも……」



 もうたくさんいる。……それは、なんとなくいやだった。麻薬が抜けきると少し心境も変化するのか、ちょっとだけ……でも、せんせと付き合えることと天秤に量って比べると、一目瞭然。わだかまりは残るかもしれない。でも、いやだからってはなれたくはなかった。



「命令されて、他にたくさんいて、等しく好かれなどしないかもしれない。贔屓をする。やがて、勝手に別れたがる。守れなければ、逆恨みをも」



「もう少し上手に嘘をつくか、信憑性のある生き方をしたほうがいいですよ」



 大抵の人って嘘をつくとき、顔や体に変化が現れるんです。先生、まったくないですよ。



「私は、あまり嘘はつかないのだけれど」



「残念でした、あたしはしつこい女なんです。ついでに頑固です」



「別れた後になにかを言いふらせば、恐らく君を」



「そのときは刺してください」



「っ……」



 そうなったらきっと、あたしはあたしを許せません。



「あなたにとって都合の悪いことを言ったり、したりするのなら刺してください。なにされてもいいです。書き残してもいいですよ」



「……」



 ほら、そうやって辛そうな顔をする。



「大体、付き合いたくないんだったら好きじゃないって一言言えばいいのに」



「言ったろう、ロリータコンプレックスだって。君のような若い女の子が、好みなんだよ」



「じゃあ付き合ってください。お願いします」



「だとしても、やはり医者なんだ、私は」



「だからなんだっていうんですか?」



「医者と患者は、付き合っちゃいけない」



「もう患者じゃありません」



「違う、私たちはいついつまでも、医者と患者であることに変わりはないんだよ」



「……なに、それ。関係ない! 好きかどうかでしょ? お互い好きなら、なにも関係ない! 中世や江戸時代じゃないんです! こんなに、こんなにも……」



 こんな断り方、やだ……好きだけどダメだなんて、おかしいよ……



 あの過ごした時間は、医者だからなんて感じなかったのに。



 あなたは一人の人間なのに!



「ありがとう」



 穏やかな、微笑み。



「それが、聞きたかった」



「え?」



 この人はそっと、指で涙をすくってくれる。



「愛してあげるよ、静香(しずか)



「っ……あ、あ、はい……」



 うあ、すごい、や、ぞくって、きちゃった……痺れる、っていうの?



 はじめて聞いた、甘い吐息。



「千歳も君も、変わらないね。負けて嬉しいのは、こういう戦いかな」



「?」



「今日はこれから時間はあるかい? あるなら、泊まって欲しいのだけれど」



「は、はい。喜んで」



「命令するし、守って欲しいこともある。そのとき伝えるから、携帯かなにかにメモしておいて」



「はい」



「隠し事は得意?」



「ちょっと、苦手です」



「頑張ってもらうしかないな。君のほうからなにか言うことはある?」



 なんにもない。あたしが先生に望むことなんて、ただ一つだけ、好きでいてくれるだけなんだか──



「あ、あの、あたし、治ったら引っ越そうかっていう話があるみたいで……」



「ああ、そうだったね。どうしようか……遠距離にする?」



 ぶんぶんする。「いやです。傍にいるから、ここまでがんばってこれたんです。遠くにいて、いつ会えるかわかんないなんて、そんなの、いや」



「そう。わかった。私から説得しておくよ。少し大変かもしれないけど、でも私も、そちらのほうがいいと思う」



「そうですよね、一緒にいたほうがいいですよね?」



 なぜか苦笑。



「ああ、そう思うよ。できるならずっと、一緒にいようね」



 ツヤのない髪にぽんとのせられた大きな手が、優しくなでてくる。ほんとに、ロリコンだ。女の子がなでられていいのは、小学生までですよ。



「……君を……」



「?」



「いや。それじゃ、もうお帰り。私は十時頃には帰られると思うから、早く私の家に着いたなら待っていなさい」



「はい。これからよろしく、お願いします」



「うん」



 深く頭を下げて、軽く手を上げる先生をずっと見ながら後ろ足になる。そして、扉を後ろ手に開けて、出てく直前、



「大好きっ」



 と言い逃げして出て行った。



 周囲の視線が一斉にあたしに刺さり、少しの気恥ずかしさに俯いたまま出口を目指した。



 



 



 



 



 その噂に、思わず持ってたファイルをばたばたと落としてしまった。



「本当? え、だって、今まで食べないか、食べても食堂でさっさと食べてただけなのに」



「おかげでねぇ、一緒に食べても、すぐ終わっちゃって」



「あーあー。家庭的な女の勝利かー」



「大丈夫、広子(ひろこ)ちゃん?」



 沢田(さわだ)先輩が落ちたものを拾いながら声をかけてくれる。「これ、運んでくつもりだったんでしょ? あたしも一緒に行くよ」



「……本当に、深町(ふかまち)先生はお弁当を?」



「確かめればいいじゃない」



「はい……」



 開けっ放しの扉の向こう、カーテンの先で憲邇さんはパソコンの画面をじっと見つめていた。



 その右手に、漆塗りのお箸。



 そして、大きな丸いお弁当箱。



 枝豆ご飯、ハンバーグ、キャベツサラダ、それから……



 ハートの形をした、目玉焼き。



 まるで、愛妻弁当みたい……



「うわー、せんせー、おいしそー。ハンバーグ一口もらっていいですか?」



「……」



 答えを待たず先輩はハンバーグを掴み、一口食べてしまった。



「あれ、これなんかちょっとヘルシーな感じ。でもおいしーです」



「……」



 憲邇さんはじっと画面を見ているだけ。あ、集中してるときだ。必要な情報を、頭の中に刻み込んでる顔だ。



「先輩、行きましょう」



「なーんでよー? 誰が相手が知りたいじゃない。せんせー、これどなたの作品なんですか?」



「行きましょう」



「ああ、ごめんごめん」



 瞬きしなかった目を一度軽く押さえ、横に椅子を回転させてくれた。



「興味深い論文を教えてもらってね。これで精神性大」



「せんせー、これ、誰に作ってもらったんですか」



「? ああ、えっと……諌められてね。無理して、昼食をあまり食べていないことが知られてね。こうやってお弁当を持っていくと、さすがに食べずにはいられないし」



 つまり、それくらい深い関係の人。どうして、今まで気づかなかったの? 私のバカ。



「だーかーらー、誰に作ってもらったんですか?」



「身の回りの世話をしてくれる人がいてね。その人が言い出してくれたんだ」



「同棲相手ですか?」



 どうして先輩はそうも急所を簡単に押し込めるんですか? やめてください、はらはらします。



「そうじゃなくて、女中さんなんだ。色々とお世話になりっぱなしで、頭が上がらないよ」



「女中? メイドさんですか?」



「そうなりますね」



「同棲じゃないってことは、一緒に住んでもいない?」



「時々泊まってもらうよ」



「えっ」



「?」



 私は、それはそうだと心のどこかで予想して諦めていた納得と、現実を目の当たりにしても認めたくない子供のいやいやが追いかけっこをして、転んだ先に、この前テレビで見た若いふりふりのメイド服を着た女の子の乱れた服装に、被さる憲邇さんの姿が見えて、



 動けなくなった。



「……せんせーって堂々とすごいこと言いますよね。今の、あたしたちが言いふらすと大変なことになりますよ」



「? どうして?」



「今から滔々と話して差し上げたいところですけど、あいにく拝聴人がいけません。ちょっと待っててください」



 腕を、持ってかれた。



「悪い想像ばっかりしてると辛いよ。すぐ朗報を知らせてあげる」



 また戻ってく。



 ……他の先生のところに持っていくファイルに力を込めて、下を向きながら矢印の方向に歩いていった。



 わかってたことなのに。結婚していないからチャンスがあるだけで、誰とも付き合っていないはずなんてないって。短い時間でも密度は濃くできる。身の回りのお世話をできて、一緒に泊まれるなら、なおさら忙しさは関係ない。仲が深まるのも自然で、職場恋愛なんかよりよっぽど……



 覚悟してたはずなのに、しきれてないショックの重さをこれからどう処理してこうか、悩んで……患者さんたちに心配されてしまった。



「どうしたんだい? 顔色がよくないじゃないか」



「え……ああ、すいません」



「元気出しなよ。さっき、娘からのど飴もらったんだ。ほれ、一つ」



「……どうも」



 もらった小さな丸い紙袋を、手のひらの中に収めた。



「甘いもんは疲れてるときにはいいんだよ。ダイエットとか、あんたには必要ないでしょうに」



「……どうも」



 こんなの、看護師失格だ。逃げるように遠くを目指し、誰も使わない非常階段を半ば上って、足を止めた。



 顔を上げて。



 次に一歩を踏み出すときには、頭をきちんと切り替えておくことができていた。



「せんせーも、お仕事は一日で終わるしどうして泊まってくのか、わかってないみたい」



 二人、更衣室で帰り支度をしながら今日を振り返る。突然に起こることって、いいことも悪いことも極端な気がする。



「はぁ……」



「つまり、向こうの気持ちに気づいてないってこと。まあ、向こうが好きかどうかもわかんないけど、どっちにしろ恋人よろしく泊まりは楽しみ、なわけじゃないみたいよ?」



「私、振り向いてもらうにはどうしたらいいんでしょう?」



「ん、だから心配いらないと思うけどなー」



「……先生に家まで、送ってもらおうかな……」



「自分を見失うと、結局相手の人を見失うよ」



「えっ」



「確かに、あたしたちにああいうことをずけずけ言う無神経さは腹立たしい。けど、つまりそれはチャンスでもある。落ち着いて。へたを打って、つまづいちゃまずいでしょ」



「そう、ですね」



 なにかすれば、絶対に一緒になれるわけじゃないっか。



「そんでさー、今年二十歳の現十九歳、料理の腕は一流、家事の手際のよさも一流、ご近所付き合いまで良好、まさに、絵に描いたようなメイドさんの鏡。……聞く限り、せんせーに気がないだけで既に妻同然としか思えない。なにより、あーの目玉焼きの形ときたらっ。あーなんでこーもいい女がせんせーの周りに多いかなー」



「先生は、その目玉焼きについてなんて?」



「『かわいいけど、ちょっと恥ずかしいね』ってさ。どうとでもとれるから、都合のいいほうにとらないと」



「……先生こそ、直接言ってもらうのを待ってるんでしょうか」



「ないない。きっとよりどりみどりすぎて、どれにしようか舌なめずりしてるだけなの、よっ」



 沢田先輩は乱暴にロッカーを閉めて、ふんとふんぞり返った。



「つか、お弁当作ろうなんざただの家事手伝いが言い出すわけねーっつーの! 広子ちゃん、こりゃ、せんせーがメール一本で陥落するはずないわ」



「はい。……元々、メールでなんてやろうとしたのがいけなかったんです。先生は、面と向かってか、きっと、ラブレターぐらいじゃないと」



「メールで思わずっていうの、いけないとは思わないけど」



「……帰りましょう」



「そだね。サラダバーつきのレストラン、今日レディースデーじゃなかった?」



「はい、そうです」



 人の好意に気づけない人に恋をするのは初めて。私が恋をした人は、全部すぐに気づいてくれて、雰囲気もすぐよくなって、気がついたら恋人同然、ばっかり。伝わらないのは初めて。私を、好きだって言ってくれる人のは伝わってくるのに。……胸ばっかりの、人が多かったけど。



 看護師が食生活乱れるようじゃおしまいだね、と沢田先輩と頷き合って車に乗せてもらった。



 憲邇さんがお弁当を嫌がらないんなら、それくらい作れるようになったほうがいいかもしれない。あ、でも家事は絶望的だし……



 



 



 



 



 病院でずっと仕事をできればいいのだけれど、そういう訳にもいかない。今日は静香ちゃんが加わったのだから、説明も含めて全員と話さなければ。



 かといって終わってない仕事をやらないわけにもいかず、目処がつくまで彼女たちを放っておくしかなかった。



「ごーしゅーじーんーさーまー?」



 扉の向こうから少し怨嗟のこもった声が聞こえる。「な、なに?」



「お仕事もいい加減にしてください。お湯が冷めちゃいます」



「うちは冷めな」



「入ってください!」



 あれ? なんでこんなに怒っているのだろう。



「ど、どうかしました?」



「! いいから、入ってくださいっ! その後、みなさんとお話してあげてください! 小さい子は寂しいと大変です、病み上がりはちょっとしたことでぶり返します、いいですね?」



「……えっと」



「……ご主人様。好きな人に構ってもらえないのは、女の子は一番辛いんですよ。誰にするにしろ、ちゃんと相手してあげてください……」



「……」



 女性はやはり、勘が鋭い。もしかしたら、すべてわかった上でこう諭してくれているのかもしれない。



「私だって……」



「? すみません、今なんて言いました?」



「な、なんでもないです。いいから、早く入りなさい」



「わかりました。ありがとうございます」



「……」



 扉の向こうでは、ふくれっ面の彼女が腕を組んでいた。「あの?」



「なんでもありません。早く入ってきてください」



「はい、じゃあ」



 首を傾げながら廊下を歩いていても、背中に刺さる彼女の視線が気になって仕方なかった。



 せっかくなのでみゆと一緒に入ろうかと思ったが、葛西さんがいるのでやめておく。どれだけ忙しくても、お風呂には入ったほうが疲れがとれ、翌日にはいい。温かな湯水に浸かっていると、思わずため息が漏れそうで、年寄りくさくなってしまう。それだけ疲れているのだろうか。



 次は葛西さんに入ってもらい(彼女は私が言わない限り先に入ろうとしない。今回のように強引に私に入るよう勧めることも多い)、その間に、全員を紹介しておこう。



 私の部屋に集まったパジャマ姿の四人に、私は少し、罪悪感がよぎってしまった。いけない。そんなもの、余計なものでしかないんだ。



「静香、そこのおちびちゃん二人も、ちょっとだけ年上の人も、私の奴隷だよ」



「……」



 じっと三人を見つめ、彼女はうんと頷いた。



「ちょっとだけ、嘘かなって思ってました。でも、実際に会うとすぐわかりました」



「あたしもすぐわかったよ。葛西さんと一緒で、憲邇さまのことあたしたちとおんなじように好きだと思う」



「……え」



 葛西さんも? な、なに言ってるんだ。確かに、彼女は浮いた話一つ持ち上がらないけれど……



「あ、ごめんなさい。憲邇さま気づいてなかったんだ。気にしないでください。あたしがそう思ってるだけですから」



「……」



 そんなはずは、ないと思う。だったら同じ屋根の下で眠れるはずが……いや、だからこそか? わからない。どうなのだろう。今度訊いて……訊けるわけが……



「憲邇さま? 好きだったら、きっといつか告白されますよ」



「……ああ、うん」



「むしろ、せんせが……」



「私が?」



「……ごめんなさい。なんでもないです」



 いや、彼女がそうなら、すぐ気付くよ。



 よし。今はこっちだ。「君たちはいいのかい? こんなにいても」



「……」



「周りが見えていないと思うよ」



「……」



 ああ、わかったよ。私が悪かった。



「では、説明をしておくね」



 長々と条件を述べていく。彼女は携帯にそれを素早く入力していった。



「守れる?」



「はい。あの、あたしは、処女ですけど、いいですか? それとも、誰かに開発されたほうが……」



「私が開発してあげるよ。処女とか、そういうのは気にしないで」



「……はい。あなた色に、なります」



「わ、私も」



「うん、わかっているよ」



 ああ、みゆとまゆはもうしたから、満足気だね。……わからないのに。



「私は、確かにたくさんの女性を抱けるのは嬉しいよ。でも、好きでないと思」



「好きにさせてみせます。好きじゃなくても、いいんです。傍にいさせてください」



「……本当に、いいのか、君たちは。こんなの、私がいいだけじゃないか……」



「それがうれしいんです。せんせ、憲邇様のしあわせが、あたしたちのしあわせですから」



「うんっ」



「憲邇さま、好き」



「……」



 さっきとは違う、はっきりとした罪悪感を感じる。それも必要のないことだと、彼女たちは笑うのだろうか。ああ、私はやはりサディストにはなれない。



 傷付けるのが、怖い。……ああ、わかっている。本当は怖くなんて──



「……あ、あの、憲邇様」



 ふと、静香ちゃんは上目遣いに私を窺っていた。なに、と目で語ると、おずおずと話し出す。



「あ、あの、憲邇様が許してくれるなら、今日は、一緒に、寝たいなって……」



「あ、私もっ」



「えへへ、みゆはもうたくさん寝てもらってるの」



「いいなぁ、あたしはまだ一回だよ」



 ずるいずるいと彼女たちは言い合い、じっと私を見つめてくる。ああ、本当に、いいのだろうか……



「……わかった。五人で寝よう」



 セックスは遠慮するが。



 まだ仕事は残っていたので、四人には私の寝室で待つように言いつけておいた。その際、くれぐれもそこに入るところは葛西さんに見られないようにして欲しいと言付けておく。楽しみにしてます、と言わんばかりの期待に満ちた瞳で、彼女たちは名残惜しそうに扉を閉じていった。



 四人に襲われたらどうしようか、と思っていたのは一瞬で、すぐに頭を切り替えた。



 ノックが二回。「はい」



 パジャマ姿の葛西さんだ。枕を持っている。



「私です。そろそろおやすみさせていただきます。いい加減にしてくださいね」



「もう終わります。すみません、心配ばかりかけて」



「もう慣れました。……ちゃんと話してあげました?」



「ええ。本当に、あなたの言うとおりです」



「でしょうでしょう。ご主人様のような男の人は、女の忠告を聞いておくものです」



「ははは。はい。心に留めておきます」



「はーい。では、おやすみなさいませ」



「あの、その枕は一体?」



「気にしないでください。メイドなら普通のことです」



 その言葉に、察してしまう。



「……今度の休みには、部屋を整理しましょう。もう少しお客様が泊まってもいいように」



「あ、違い……はい、お願いします。あ、でも、ソファーも、結構寝心地いいんです」



 少し、賭けをする。



「私のベッド、使います?」



「はいっ? あ、やだ、なに言ってるんですか、バカ」



「冗談です。ベッドに挟んである本が見つかると、悲しいですし」



「え、でも、なかったです……あああ、ごめんなさいっ!」



 彼女は予想通り足早に去っていった。やはり女性は、そういうものを探すものなんだな。そこまで掃除は、するものでもないし。



 ようやっと終わらせて、寝室に向かった。部屋の中は真っ暗で、四人がベッドの上でひそひそ話をしていた。



「あ、憲邇さま」



「だ、誰が隣にいて欲しいですか?」



「君たちの好きにしなさい」



「じゃあ、じゃんけんにしよ」



 ひそひそ声でじゃんけんをし、右にみゆ、その隣に静香、左にまゆ、その隣に千歳となった。



 しかし、世の中の女性がみんなこうだとは思わないが、それにしても私の周りだけ、しかも最近になって多すぎる。四人もだ。ありえない。ハーレムなんて……



「あったかい……葛西さんもこうなれるといいですね」



「……そうはいかないと思うよ」



 さすがに、彼女ほど自立した女性が、この状況を見て平生でいられるとは思えない。常識的に考えて、私たちが異常なんだ。そのことをきちんと戒めておかないと、大変なことになる気がする。



 しかし、それはそれとしてひどいことをしたな。みゆとまゆは一緒に寝る……ああいや、元々そうで、それでも足りないんだ。ものぐさと資料を集めたがるのは、両立してはいけないな。



 ……本当にこれでいいのだろうか。これじゃ結婚もできない。それでもいいと、彼女たちは言いそうな気がするけれど……



 これはでも、いつか崩壊する脆い関係だと思う。



「あ、あの、憲邇様……手、伸ばしてくれますか」



「? うん」



 静香ちゃんが言うので、みゆのほうに手を伸ばした。彼女はそれを受け取って、自分の胸に埋める。私は慌ててそれを引き抜いた。



「あっ……ご、ごめんなさい」



「い、いや……どうしたの、急に」



「その……好きな人に、憲邇様に、胸を触ってもらいながら寝るの、夢だったんです。あたしの鼓動を、感じてもらいながら……それぐらい、深い関係がほしくて……」



「……私が変な気を起こすかもしれないじゃないか」



「あたしは、憲邇様が求めてくるなら交差点でもそういうこと、できます。憲邇様は、そういうのを自分から誘うの、好きじゃないみたいだから、自分からは言いませんけど……」



「……自分から誘うから淫乱だとは思わないよ。時と場合や、回数によるけどね」



「ほ、ほんとですかっ? じゃあ抱いてくださいっ! あたしまだ処女だから、その、へただけど……」



 彼女はぐっと手を戻して自分の胸に押し付けてくる。持ってきたパジャマの上からでも、その柔らかさがわかって……だが。



「こらっ! 抜け駆けは禁止だぞ! やるならみんな一緒!」



「自分から言うの、いんらんじゃないんですか? あの、みゆがしたいとき、してほしいって、迷惑じゃないですか?」



「……お願い、します」



 ああ、こうなるんだ。



「いや、ごめん。今日はそういう気分じゃないんだ。また今度ね。ごめん」



「……わかりました」



 四人とも、消沈しながらも言うことを聞いてくれた。私はほっと胸を撫で下ろす。多分、今やったって誰も喜ばないだろう。私が乗らないのだから。



「いつか……抱きたいときに抱いてくださいね。憲邇様が誰を好きになっても、あたしはずっと、憲邇様のことを好きでい続けますから」



 その、自分を捨ててまでというのは多分、よくないよ。



 全員、同じ瞳をしないでくれ。



 それよりも……彼女たちとそういう関係になったら、どう隠していこうか。どう公表していこうか。どう付き合っていこうか……ああ、考えることは山積みな気がする。それでも、彼女たちの柔らかい体と、鼻腔をくすぐるいい匂いで、すぐに眠りに落ちていった。



 



 



 



 



 



 



 



 



 



 



 



 



 



 



 



 



 



 



 



 



 第四話あとがき的戯言



 



 三日月(みかづき)まるる(以下、作者)「女中という呼び方って実は古すぎるのでしょうか、わかりません。古い人間の三日月です。このたびは「ごめんなさい」第四話を読了くださりましてありがとうございます。今回は見事ハーレムの仲間入りを果たした谷津さんにお越しいただきました」



 谷津千歳(以下、千歳)「初めまして、谷津千歳です」



 作者「告白成功おめでとうございます、千歳さん」



 千歳「ありがとうございます」



 作者「成功の秘訣とかありますか?」



 千歳「あの、私あれが初めてだったんですけど……」



 作者「そうでしたっけ。絶対失敗しない告白の仕方が知りたいです」



 千歳「そんなのないと思いますよ」



 作者「そうですよね……では、スリーサイズを」



 千歳「……あの、ここに呼ばれた人全員に聞いているんですか」



 作者「もちろんです。みゆさんにも訊いたのですが、まだ測っていないそうで」



 千歳「身長の割には小さくって……上から806084、アンダー68Bです」



 作者「静香さんもそうでしたけど、どうしてアンダーがそこまで正確にわかるのですか?」



 千歳「……メジャーで、その……し、知りたくなったんです」



 作者「でも、市販のものは5センチ単位ですよね?」



 千歳「こだわりたいんです。自分になるべくフィットしたものが欲しいですから」



 作者「市販だとずれが生じたりするのですか?」



 千歳「私はそれほどでもないんですけど、うちの母が苦労したそうです」



 作者「千歳さんのお母さんはおいくつなのですか?」



 千歳「四十三です」



 作者「まだまだお化粧にもお洋服にも手を抜きたくない年齢ですよね」



 千歳「登場しないんですか?」



 作者「私がそういったことに疎すぎるのできっと出てこないと思います」



 千歳「そうですか……」



 作者「東野さんと上岡さんのスリーサイズはわかりませんよね?」



 千歳「わかるわけないじゃないですか」



 作者「そうですよね。ごめんなさい」



 千歳「あの、『住田くん、住田だけに君もすみにおけないねぇ』って、どういう意味ですか?」



 作者「……」



 千歳「え、わ、わからないと変ですか?」



 作者「親父ギャグ兼嫌味です。わからないほうが素敵ですよ」



 千歳「そう、ですか」



 作者「そんな千歳さんに憲邇さんはなにを教えていくのでしょうか。気になりますね。それでは今回はこの辺で。さようなら」



 千歳「私はなんでもいいです。さようなら」



 



 20081223 三日月まるる



 




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テーマ : 官能小説 - ジャンル : アダルト

2008/12/31 22:29 | 小説COMMENT(0)TRACKBACK(0)  TOP

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