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「ごめんなさい」その七十九_第七十六話_花火露出大会 一 始まり

 こんばんは、三日月です。帰ってきました。
 お待たせして本当にごめんなさい。いろいろありましたが、これからはまた月一くらいでマイペースに更新ができそうなくらいには落ち着きました。これからまたぼちぼち頑張っていきますので、お付き合いいただけたら幸いです。
 拍手コメントメール、本当に本当にありがとうございます。大変励みになっております。お返事が遅れまして本当に申しわけないです。
 次回予告のコーナーはお休みのようなものとなります。なにしろここから数話は花火露出大会ですので。それがしばらく続きます。
 それでは第七十六話です、どうぞ。





















 七十六 花火露出大会 一 始まり








 新調した本日の浴衣は、大人らしく地味な白地に紺のもの。もう子供ではありませんので、柄もシンプルになにもなく(ちらりとだけ点々と小梅は咲いておりますが)、普段着で着るような線の模様のみの、大人の浴衣ですの。


 中等部二年の私、
花雪(かゆき)は本日、四人一緒くたに夏祭りで浴衣露出を命ぜられるほど、大人ですもの。


「花雪ちゃん、いーなー。あたくしも本日、紙がほしかったわ」


 運転してくださる
(いずみ)さんがのりのりですわ。まったくもう、はしたない。たまには家族ばらばらにお車に乗るのも悪くありませんわね、ふふ。泉さんは面白いお方ですわ。


 メガネの看護師さんは本日は黒の浴衣。いくつもの白い綺麗なお花を咲かせ、とてもよくお似合いですわ。大人の風格と子供じみた発言、なんともおかしな方ですの。同じ女同士でも見惚れるほど、お美しいうなじ。


「あら、泉さんもいただいたのでしょう?」


「いやさー、あたくしのえっちっちが一個しかなかったからさー。ね、もっかい見せてよ、どれどれ……わ、わーお。何度見てもすごいや。これ、女子中学生にやらせることじゃあないわよ」


「そうでしょうか。あの方の女ですもの。当然ですわ」


 運転席に見せた紙の内容を、もう一度自分でも確認します。はぁ、はぁ。素敵な殿方、私を女と思うからこその、これだけのご命令。はぁ。ご指令、きちんとこなしますわ。こなせて当たり前、なにもいりません。


 だって……これほど、恥ずかしく、深く激しいことをやりたいと思うほど、私を愛してくださっているのですもの。二人で段々と夜の階段を上っていきたいとおっしゃるからこそ、これほどのご命令をしてくださるのですわ。ええ、一緒に、上がっていきたいですの。


「すごいわねぇ。花雪ちゃんおしとやかなお嬢様なのに。本日の裸エプロンお料理、花雪ちゃんすごかったものね」


「だ、だまらっしゃいなっ。わ、私もあれで、
深町(ふかまち)さまがでれでれしているのを見なければ、あんなに積極的にその、えっちなことはできませんのっ」


「そーでしょーそーでしょーとも。はぁ。あたくしもねー、いざ裸エプロンってさ、すっげー恥ずかしくって、はー……すごいね、
詩音(ふみね)ちゃん。裸よか恥ずかしいわ」


「詩音さんはしょうがありませんわ、最初は脱衣麻雀のせいですし、次はあまりにも深町さまが激しくなさるからですわ」


「そーそー。最近さ、あいつやっべーよなー。いつか殺されるんじゃないかと思うわ」


「ほ、本当ですわ……はぁ、はぁ」


 うっとりと、また何度も紙を読み直してしまいます。はぁ。本日午前のあの調子、はぁ。奴隷たち全員を裸で勤めさせるなど、まったくもってけしからんですわ。


 あの方がずっと笑顔でいられたので、また明日すぐでもこなしますけれど。


「まともに結婚式させてくれるのかなー。あーあ」


「覚悟しておきませんとね」


 二人しげしげと頷き合いました。まったくもう、まったく。


「……な、なんでしたら、その、式の、でもありますし、や、野外露出、練習、します?」


「へ?」


「……一緒に、これをこなしませんか? そうすればきっと、深町さまはお喜びになると思いますの。ひ、一つでいいですわ、泉さんもお恥ずかしいでしょう?」


「……おー! そりゃいーや! へっへっへ、さすがだね、花雪ちゃん。じゃあまず、そうしていいですかってせんせーに聞いとかないとね。お許しをもらわないで勝手にやると、これは怒りそうよ」


「そ、そうですわね。はぁ。う、うまくご一緒できると、よいですわねっ」


「んっ!」


 にこにこ、泉さんこそ大胆ですの。ああ、恥ずかしい。言ってしまいました。思わず。泉さんときたらすぐさまこれがいいと提案し、よくもまあそれをお選びになられますわねと感心しつつ(私のご命令の一つと実は泉さんはほぼ丸被りだったそうな)。


 一団の中ほどに位置した泉さんのお車も、はぐれることなく桜園へたどり着きました。お母さまの運転なさるのには
千歳(ちとせ)さんも乗り、先に上岡(かみおか)さんを乗せてくるので一台だけ遅れております。お母さまは桜園も花火大会の駐車場の場所もわかっておられるので、心配いりません。はしゃいだ桜園の子供たちをそれぞれの車両に乗せて、再度出発進行です。


 子供たちみんなも、浴衣姿でしたわ。ふふふ。かわいらしいですの。桜園のみなさんは浴衣をきちんと着られるお子さんが多いのですね、素晴らしいです。


 ……意外と、泉さんが着付けのできることに、驚きでしたけれど。失礼でしたわね。


「お、そーだ後ろのちびども。お小遣いあげよっか? おねーさん今日はお金持ちなんだー」


「わぁ、うれしいなっ。あ、でも、もらえないよ、えへへ。だってマスターに、いっぱいもらってるから。ありがとう、ごめんなさい」


「そう? ふふ、じゃあおねーさん、実はジュース係だから、みんなに持ってくの手伝ってよ。その代わりジュースいつでも買ったげる。お手伝いしたんだからもらってくれないと困るなー、ねー?」


 初めて聞きましたわ、もう。嘘の上手な方、ふふ。


「ええ」


「そ、そうですか? えへへ、じゃあもらっちゃおうっと」


「ふふふ」


 後ろに浴衣の脚さえぷらぷら、楽しげにしているお子さんがわかるのです。


 お祭り会場、と言っていいのか、河川敷といいますか河原に近づくにつれ、人ごみが多く……は、まだの様子(警官の方々は準備万全のようでした)。気がつけば逸るあまり、まだまだ花火の打ち上がる時間の、何時間も前でした。夏の日は高く、夕方であるはずですがなんと明るいのでしょう。ただ、お祭りの日らしい屋台は既に河原のあちこちに立ち並んでおり、少しの盛況があります。川沿いの土手は並木道となっており、ところどころ林と言ってよいほど木々が生い茂っており、木陰となって涼しそうではあります(そのおかげでちょっと河原の様子が見づらいですが)。


「この辺ほかのお祭りだの花火大会だの、どんどん寂れていっちゃってるから、今日のこれだけはやたら数も多いし派手だし、お店も多いのよねー。いろいろ、一緒くたにしちゃいましょってだけだけど。まだ六時、でもないわ五時二十分なのに。早すぎたかしら」


「ああ、聞きましたわ。なんでも一昨年までは地理を活かして海岸での花火大会もあったそうですが、年々人が減りマナーの悪い人が増え、事件も増えてなくなったのだとか」


「そーなのよねー。砂浜の様子も変わってダメになったってさ。まだ砂はあるのにね。まあ、それで今年は清掃運動が盛んで、そこそこ人が来たみたいだけど。ここ数年でさ、ほんとならちっちゃい町でも縁日はやってたのにさ、そのやる場所がもうないし人もいないっての、寂しいねー」


「お祭りなくなっちゃうの?」


 後ろで悲しげな子供の声がします。私はあわてて、否定するために振り向いて手をぱたぱたさせました。


「いえいえ、なくなりませんわ。今日のお祭りは絶対になくなりませんわ。ほら、あそこのお店もあちらのお店も、わいわいと人が並んでいるでしょう?」


 いつもなら人気のない大きいだけの河に、本日は人が確かにいるのです。遠目でもそれがわかると、後ろの子供たちも安心したようでした。


「あ、ほんとだ。よかったぁ」


「ね。毎年マスターに連れてってもらうの、すっごい楽しみだもんね」


 ほっとします。あわや余計なことを言うところでしたわ。発言には気をつけませんと。大人自ら子供の夢を壊してなんになりますの。


 なんとか本日の駐車場を見つけ、深町さまご一行はなるべく近くへまとめて車を止めておきます。まだ車の数も少ないため、ぞろぞろと駐車場で全員が揃うまで待っていました。シャトルバスもあるにはあるのですが、やはり早くに来たかったのですもの。出店がもう目の前と言っていい距離、うずうずとしてきましたわ。ああ、泉さんが、です。


「千歳ちゃんが車で迎えに来るって言ったときはびっくりしたよ。いつの間に免許取ったのかなって」


 千歳さんのクラスメイトさんたちは到着しており、わいわいと話しておりました。


「あ、そうなんだ。送ってくれる人がいたから」


「うん。……類は友を呼ぶって、今日ほど痛感したことないよ」


「え? なにが?」


 ちらちら、お母さまを見ております。お母さまは不思議そうに、私を見つけると微笑んでくれましたわ。


 千歳さんは白にカラフルなたくさんの大きなお花がいっぱいの浴衣(実はいろんな方とおそろいなのです。ふふふ)。ピンクの帯が本人のかわいらしさをよりいっそう引き立てていますわ。お母さまも本日は泉さんと同じく黒に白のお花を咲かせ、こちらは菖蒲の花。まだ日も高いのでやはり日傘のお世話になっております。クラスメイトの上岡さんは明るい水色に金魚の浴衣で、先日の華やかな水着姿とは打って変わって、年上の学生らしく美しいです。


「おっ、これはこれは女子高生、こんにちは。泉よ。今日はよろしくねっ」


「あ、はいどうぞよろしく。可奈です。千歳ちゃん、もそうだけど、彼氏と一緒じゃあないんだ?」


 そこで全員が打ち合わせをしておいた口裏を合わせるのです。少々、残念ですが。


「うん、残念だけど、都合つかなくって。あ、いない人もいるんだけど」


「ああ、それはそうだけど。そっか。残念だね。男の人って、やっぱ彼女より仕事優先なのかなぁ」


 そういえば上岡さんも彼氏さんがいらっしゃると言っていたような。隣にはいませんわね。


「あら、どうしてそう思うのですか?」お母さまが不思議そうに聞き返しました。「お仕事するのは、好きな女のためでしょう? それを頑張って、都合がつかないとなぜそうお思いに?」


「え、えっと……お姉さんは、悲しくないんですか。だって花火大会ですよ? 浴衣だし、楽しめるし、彼氏だって楽しめるだろうし」


「ええ、それは残念ですわ。けれど花火大会は今年だけではありませんわ。また行けばよいだけではありませんか」


「だ、だってあの、来年も付き合ってるかどうかなんて」


「? お付き合いを、ずっと続けていくと思わずになされるのですか? 少々、おかしいと思いますわ」


「……ごめんなさい」


 すごすご、お母さまはお強いのです。しかし、もっと言葉を選びませんとと、軽く咳払いしておきました。ああと、言いすぎたとわかるお母さまは、人それぞれですわねと、一応のフォローをしていました。


「まーまー。いいじゃないの。ふふふ。それにしてもおっそいなー、みんなのお父さん」


「ねー、おそいねー」


 子供たちが早く深町さまの浴衣姿を見たいと、ちょっとずつぷんぷんしてきました。すぐに来ますわと、どうどうなだめていますと。


 一際丁寧な運転で、一台の車が乗り込んできました。あのお車が誰のものか、わからぬ女の子はここにはおりません。ふふ。あ、一人いました。


 ばたんと、運転席を開けて出てくる殿方に、子供たちがわーっと突撃していました。男らしい落ち着いた黒の浴衣姿、素敵ですの。


「ああよしよし、みんな元気に来れたんだね。よかった、風邪引かなくて」


「お父さん買いすぎちゃダメだよ? 聞いたよ、奥さんにおこづかいちょびっとにされたって」


「あはは、ごめんね、使いすぎると家計にダメージだって言われてね。でも、みんなにはちゃんと買うぞ。みんなこそ自分のお小遣い使いすぎちゃあ、ダメだからね?」


「はーい」


 そう、深町さまにはおごっていただくのです。ふふふ。今日だけは甘えるのですね、彼女らも。


「……ち、千歳ちゃん、深町先生も来るって、どうして言ってくれなかったのっ」


「え、言わなかったっけ。ごめんね」


「う、うわ、危ない危ない。最低限しといてよかった、浴衣で助かったぁ……」


 急に身だしなみを整えだし、まとめた髪を何度か具合を確かめ、さっと手鏡を出してにらめっこしております。まあ、いけませんわこのような場所で、とお母さまが眉を上げ、指摘する前に終わってくれました。


「……あ、あれ? 深町先生って、
(ともえ)さん彼女、え、もうけっこ」


「あ、上岡さんちょっとこっちこっち」


 千歳さんが引っ張っていきました。ごにょごにょ、前回の海水浴でだけの嘘を説明しております。まあ、誤魔化し続けられるわけもありませんものね。


「えっ、じゃあ彼女いないの?」


「うぅん、婚約者がいるの。ほら、一番綺麗なお姉さんいたでしょ? すぐ来るけど、今日は白と紺の浴衣の人」


柚香里(ゆかり)さん? は若すぎるか、じゃあ絵里(えり)さん? 良子(りょうこ)さん? 忘れないわよあの日の人たち、美人過ぎてっ」


「声大きいよ、あのね、実はね──」


 不思議そうな面々にちらと見られつつ、千歳さんは説明しきったようです。はぁと驚くクラスメイトさんは、なぜだかもぞもぞと少し赤くなり、えいと目を閉じて一度手をぐっとさせ、よしと気合を入れていました。変です。さすがの千歳さんでも、ハーレムは言わないでいるとは思いますが、少々心配です。


 そういえば。あの人が深町さまに浮気を迫っていたような。おぼろげに思い出しつつ、まさかと思っていました。


「ああ、上岡さん、こんにちは」


「こ、こんにちは」


谷津(やづ)さんもそうだけど、今年卒業でしょう? 進学にせよ就職にせよ、平気ですか?」


「一日くらい遊ぶ時間ないとつらいんです。ね、千歳ちゃん」


「はい。私は進学は心配要らないって太鼓判押してもらいましたから」


「そっか。余計な心配だったね。じゃあ今日は楽しもうか。ちょっと早かったかな?」


「そ、そんなことないです。お店、ぁ、あるし、楽しみです」


 詩音さんがにっこりと、天女のような微笑みで浴衣姿を披露されました。千歳さん、それにみゆちゃんとおそろいの白にお花いっぱいの浴衣。こちらと目を合わせると、微笑み合い、浴衣ですが少しだけ、ちょんとお着物をつまんで挨拶しておきました。お着物には合いませんので、今回は手袋も外しています。手荷物のバッグには、今日を描き残しておくためのスケッチブックも、いつものようにあるのです。まったく、それは深町さまに持たせないとすねますわよ? ふふ。


「おおそうだ、場所とっておかないとな。今はまだ混んでないけど、今のうちに」


「そーですねー。せんせーお願いしますね。それと──」


 こしょこしょ。内緒話ですわ。うふふ。私を見やり、いいよと、ハーレムの主たる風格が垣間見えますの。えっち。


「そうだね。こっちは大人数だし。お、きたきた」


 続々と車が到着し、全員集合ですわ。みなで挨拶を交わし、では軽く散策しようかと、集団行動になります。ただ、合計四十人ほどもの大所帯、いくつかにグループ分けして回りましょうと意見が一致しました。


 私、花雪は
花織(かおり)の面倒を見るために一緒に、お母さまとは思い切って別行動を取ります。ほかにも一緒に、紗絵子(さえこ)さまとパティさんが、それから巴さんと泉さんと同じグループです。


 千歳さんは上岡さんと一緒に、そこへ柚香里さんとみゆちゃん詩音さん、それから良子さんが同行します。


 絵里さんとまゆちゃんたちはお母さまとご一緒し、それと
奈々穂(ななほ)さんと広子(ひろこ)さん、(めぐみ)さんに加え、最後に静香(しずか)さんと一緒に行動するそうです。


 桜園のみなさんは桜園の子供たちだけで、ちゃんと行動できるそうです。もちろんお目付け役が子供たちの中から選ばれ、責任重大のようでした。しかしちゃあんと、深町さまが全員を見てくれるのですわ。


「じゃあレオン、みんなを頼むよ。あとルーシーもベッキーもね。パティはもうお休みできるように、ちゃんとね」


「はい」年長さんたちがよいお返事です。


 わいわいと向こうは最初は全員で動き、固まっていないと危ないと先にその三人が言っていました。わかったよーっと、お返事だけは元気な子ら、すぐにあっちへ行きたいこっちへ行きたいとがやがやと騒ぎ出します。


 すると高校生のルーシーさんがレオンさんのすぐ傍へ行きました。


「やろ、レオン。今日ちゃんと、お姉さん!」


「ああ、いいよ。じゃあお手本にならないとな、ほら」


 男子高校生がすぐ手を差し出し、人ごみではぐれないよう、手を繋いでいましょうと子供たちへの、お手本を示すようです。


「……」


 予想外だったのか、ルーシーさんは少し固まり、しかしおずおずと、下から手を差し出し、ゆっくり握ってもらっていました。


 ぽっと頬染め。ふふふ。男子も赤いのでこれは相思相愛なのですね。やはりの、パティさん以外は憧れなのでしょう。深町さまにその気さえあれば、この前にきっと桜園全員、レオンさん含め篭絡済みだったと思いますけれど。


 その気がないから、これだけになったのですけれども。うふふ。


 撮影係筆頭の深町さまが、ここでみなで記念撮影を行いました。毎年恒例だそうな。桜園のみんなでぱしゃり、記念の一枚。手もつないだままに、にこにこですの。私たちも含め、何枚か本日の記念が残されていきましたわ。ふふふ。みなさんの素晴らしい笑顔とともに。


 ではと。お祭りの今日のこの日を、全員で歩いて楽しんでいきますの。ああ、からころといい音の下駄。さすがの花織もめちゃくちゃにはしゃげませんの、ふふふ。お天気も快晴に涼しい気温、よい風。奈々穂さんを始め多くの女の子たちが初めての花火大会、そして屋台と、わくわくどきどきがこちらまで伝わってきました。詩音さんと手を振って別れ、驚きを隠せないままそそっと歩いてく同級生に、にっこりします。


 ええ、ここから先は、彼女抜きですもの。


 そそくさと、本日の四名が目と目で会話をします。そうして、ほかのみなさんには少々お待ちを、と言伝をしておいて。


 私、花雪と、柚香里さん、良子さん、そして静香さんの四人が、愛し殿方を呼び止めます。駐車場にはほどよい高さのブロック塀があり、公道をゆく人からは私どもは見えて精々、うなじ程度。そう、塀を背に、四人が並びます。なにごとかとわかっているくせに気づかぬフリで飄々と腕を組む、浴衣美人。


 せーので、声を合わせるのです。


「どうぞ私どもの下着を、見てやってくださいませ……」


 目の前で四人ともが一斉に、一枚、二枚と、浴衣の裾をめくり、たくし上げてゆきます。徐々に露わになる素足、そして本日の下着。私はとっておきの白レース、薔薇模様。少々この年ごろには面積の少ない、セクシーなものを、選び、ましたわ。浴衣といえど下着は現在に合わせますの(さすがにそこまでならうのは大変ですわ)。良子さんは浅黄色の古典柄のお着物をめくり、静香さんは明るい紺に白地の古典柄を、そして柚香里さんも古典柄の白地に薄い紺のお着物を、めくって、いきます。塀一枚の向こうではお祭りへ向かう通行人が幾度も通っているであろう、すぐ傍で。一応声は少し潜めつつ。でも、きちんと見せましたわ。はぁ。


 四人でこうしましょうと、きっとそのほうが旦那さまが喜んでくださると、打ち合わせをしたのです。私が提案するとなんと良子さんは最初から指令に含まれていたとか。羨ましい限りですわ。ふふ。


 どうでしょうとお伺いしていると、旦那さまときたら私どもの瞳と、下着を交互に見るのです。下へ行く視線が上にくるたび、恥ずかしさに俯きそうになりますわ。


 けれど。じっと前を向き、大好きな方の瞳を、注視するのです……


「……本日の浴衣露出、精一杯頑張りますので、どうぞよろしくお願いします……ば、罰ゲームは、嫌ですので……」


 みながちらりと顔合わせ。やっぱり、罰ゲームは嫌なのです。花火大会当日で終わればよいのですが、旦那さまのことですから八月はえっちもえっち、なにをやらされるやら(とは、良子さん談)。……一人だけ、罰ゲームを受けたいと願ってさえいるお方がいらっしゃいますが、そちらのほうが旦那さまは面白くないだろうという、なんとも大した方でしたわ。


「そっか。じゃあ頑張りなさい。ああそうだ、何度でもいいぞ。いつでもどこでも、見せたければ見せてくれていいぞ」


「はい、ご主人様。隙あらばご主人様にパンチラ、いたします」


 メイド長は自ずから宣言をし、残りもそのとおりだと、何度も頷いて答えていました。


「いいよ。お前らは見られたがりだものな」


 もちろんそんなはずのない私。ほかの方もそんなわけのない恥ずかしがり屋さんばかりですのに、なぜか、どうしてか、一切反論できず、ただ頬染め、その羞恥心をいじられていましたの。


 ええ、なぜだか、うっとりとして、しまいますの。


「じゃあ行こうか。露出は時間勝負だよ、大勢でも長くは厳禁。特に良子、お前は長く見せようとしすぎる」


「はいご主人様。見てくださってありがとうございました」


「ありがとうございました」


 ぺこりとお辞儀、それからそそくさと浴衣を直します。ぱっぱとなんとなく手で払い、照れ隠しに全員が困り顔で笑い合いますわ。うふふ。はぁ。みなさん一体どのような下着だったのでしょう。とても恥ずかしくて見られませんわ、本日の裸でいなさいなど、もう。ああ全員、たこさんのように赤く、夏が幸いですわ。


 深町さまもじゃあと手を振りつつ、子供たちの監督をしつつひとまず場所の確保へ。でんとした歩きでどっしりと、黒の浴衣は余裕を感じられます。


 私たちもようやく、少しずつ増える人ごみの中へ歩き出していきました。花織と手をつなぎながら、からころと転ばない程度に急ぎますの。


 河原へは徒歩で十分ほど。すぐに到着するや否や、隣の妹は目を輝かせてはあれやこれやと指差し、はしゃぎ出しました。


「お姉さま、りんごあめ! りんごあめですわ! 食べたいです! わぁ、クレープ、フランクフルト、たいやきっ!」


 まったくもう、かわいい妹ですわ。ふふふ。








 ひとまずなにかを買っておかないといつまでもぶうぶうわーわー、わめいているので、仕方なく先にりんご飴を買い与えておきます。しばらくはこれで持つはず、と、花織もにこにことおいしそうに食べて静かになりましたわ、ふう。


 大きな河原にぱらぱらと人ごみ、それと屋台が立ち並んでいます。その熱気と、屋台ならではの食べものの中をみなで歩いていきます。涼しいはずだった風も、こうも通っていく道がないとなんとも頼りない。時間に関係なくまるでまだ日中のように、日光も元気いっぱいでしたわ。


「しかしまあ、早くからやってるもんですね」


 泉さんもさほどお祭りの経験はないのか、珍しそうでした。


「ああ、屋台はねぇ。割と早くから出てきちゃうものよ。特にこの辺、ほかはどうだか知らないわよ、この辺のお祭りはねぇ、昔から屋台の先行がすごいのよ。ちっちゃい縁日だと昼前からでもやってるの見たことあるわ」


 紗絵子さまは懐かしそうに目を細めていました。


「へー。そんな早くからやっててお客は来るんですかねー」


「来るのよ、見なさいな」


 周りを、と言わんばかりの、まあ続々とやってくる人の群れ。大きいだけが取り柄のような田舎の大河に、次々と人が押し寄せ、並ぶお店を物色していっていました。


「へぇー。この辺の人ってお祭り好きなんですねー」


「そりゃあ好きよ、大好きよ。この河、無駄にやたらと大きいでしょ? 場所取りもそんなに気にしなくていいのよ、だからかしら。それに高い建物がないから、結構どこからでも見えちゃうしねぇ」


「ああ、わかります。この辺もうちょっと発展したほうがいいんじゃあないかって、帰ってきたとき逆に心配になりましたよ」


 巴さんは夕焼けを遮るものの少ない町中が心配だそうです。


「ほんとにねぇ。景色が綺麗なのを喜んでいいやら、人が少ないのを悲しんでいいやら、複雑だわ」


「こく、このままでいゆ、いいよ。電車であっち行くと、けみゅ、煙たいもん」


 パティさんは今のままで充分そうです。


「あはは、そーねー。よーしではここは一発、あたくしが屋台の景品を華麗にとっちゃろう」


 近くの射的にまずは目をつけ、メガネの浴衣美人がふふふと微笑みつつ、代金とおもちゃの銃を交換します。


「花織ちゃん、どれがいい? どーれでもとっちゃるよ?」


「うぅん、そうですわねぇ、あ! あれがいいですわ、あのテディベア!」


 上段中央に位置するあまりにも大きなテディベアを、花織はなにも考えずに言い出しました。うぅん、さしもの泉さんとはいえ、これは不可能では……というか、コルクを撃ち出すのにそれで無理に思える大きな景品の多いこと。


「へぇ、テディベアなんてあるんだ。意外」


「巴さん、あなたはそれより屋台のお約束を知っといたほうがいいわよ、もういい年なんだから」


「むっ、紗絵子さんの半分より若いですっ」


「そういう意味じゃあなくって、あなた都会出たくせにおのぼりさんだって言ってるの」


 なにやらよくわからない言い争いをしているお二人にかまわず、泉さんは片目をつむって、合点承知とばかりにその巨体を狙っていました。


 ぱこん。小さなコルクが撃ち出されるこれまた小さな音がすると、泉さんの狙いはわずかにそれ、テディベアの隣をするりと抜けていきました。


「あら、当てるだけなら簡単そうに見えますけれど、どうしてそんな狙いが際どいのでしょう?」


「ちっち、花雪ちゃんは甘いわ、どこに当てるかよ。ダーツだって当てる場所で得点違うでしょ? これはね、落ちないとこに当てても
0点だわよ」


「はぁ、勉強になります」


 なにしろこのような夏祭り、来たことはあれど屋台はあまり経験してきませんでしたし。大抵いつも花火だけを目的に来たものです。場所とりのシートの周りには誰もいないのが不思議でしたもの。家族三人でお喋りするだけでも楽しくありましたわ(花織は道行く人の食べるものに食欲旺盛でよく買いに行かされましたっけ)。


 でもこのようなものもあるのですね。お祭りのゲーム、とても楽しそうですわ。なるほど屋台勝負とはこのこと、あ、ぱこん、ぱこんぱこんぱこん。五発でおしまいの射的ゲーム、結局泉さんは際どいところしか狙わず、当たらずに終わってしまいました。


「むむ、おじさんもー一回!」


 小銭を叩きつけ、再度チャレンジする泉さん。なぜかしゅんとした巴さんもそれを見に混ざり、紗絵子さまはちょっぴり苦笑い。パティさんは興味津々、花織は……りんご飴ぺろぺろのにっこにこ。はぁ。


 ぱこん、ぱこっ、ぱこっ。ぱこん、ぱこん。二、三発目がどうにかテディベアの頭部を掠めるように命中しましたが、かすかにぐらりと揺れただけで台の上からは落ちようとしません。むむむー、と泉さんは眉を捻じ曲げ、屋台のおじさんに抗議し出しました(大声で)。


「ちょっとおじさんっ、これぜんっぜん落ちやしないじゃない! どーなってんのっ、ちゃんと倒せるようにしてんでしょーねっ?」


「当たり前だろう、イチャモンつけないでもらいたいねぇ嬢ちゃん」


「おっかしーわよこれっ。あんな脚を前に投げ出してる熊が前からぶつけられて体勢崩さなすぎよっ」


 景品のテディベアは確かによくある、両手足を前に出した動かして遊べるタイプでした。けれど大きいものですし、そんなものではないでしょうか。


「まあまあ、いいじゃない泉さん。花織ちゃん、ほかにほしいのあるかしら?」


「んーっと、ではぴかちゅうがよいですわ」


 あれは貯金箱でしょうか。ぬいぐるみではなさそうですわね。


「ふんふん、パティはなにかほしいのある?」


「えっ? え、えと、じゃ、じゃあ、あ、あのあざらし、のキーホルダー、とか、ああちっちゃすぎるかなぁ」


 白あざらしとピンクのあざらしが仲良く隣り合っていました。二人一緒にもらってあげないとかわいそうですわ。


「いいのよ、あれね。さて泉さん、どっちを何回で取れるかしら? ふふふ。私ね、もう三回お金払ってもどっちも取れないに賭けるわ。そうね、泉さんの好きな一升瓶賭けてあげる」


「あーら? 紗絵子さんあたくしと勝負しないで賭けるだけですか? 高みの見物気取ってまー」


 いえいえ、紗絵子さまときたらさすが親子なのですわ。ちらと目配せ、こくりと頷き。泉さんにちょいちょいとお知らせ、ははぁと納得していただきますの。


「では私が勝負いたしますわ。私が妹の目当てを狙いますの。泉さんはパティさんのを」


「ええりょーかいよっ! ふっふっふ、三回勝負ね?」


 しっかと頷き合います。まずは先手を泉さんが。より真剣な目つきで狙いを定めていきましたわ。


「お姉さま、今日は三つより多くがいいです」


「ダメですわ、三つまでです。って、もう食べてしまったのですか?」


 花織ときたらりんご飴をあっという間に平らげておりました。手持ち無沙汰にもう射的に興味をなくし、向こうのわたあめにフランクフルトにと、食べてばっかりです。はぁ。これだからお祭りなど外出で食べるときは制限をかけないといけませんというのに。


「もうちょっと我慢なさい。食べすぎでお腹ぽんぽんになりますわよ」


「むうー。紗絵子さまー」


「こら、よしなさい」


「あらあら、いいわよー? ふふふ。私がいくらでもおごったげる」


「紗絵子さま!」


「えいやっ!」


 ぱこん、と、泉さんはなんとぴかちゅうを前へ落下させていました。ぱちぱちぱちとおじさんが拍手をし、にっかーと満面の笑みを浮かべる泉さんに手渡します。


「ふっふっふ、どーだ! なんとか三回で仕留めたわよ! はい花織ちゃん」


「まあ、ありがとうございますわ。ぴかぴーか」


 どうにかこれでおねだりはなくなったものの、なんと泉さんは取ってしまいました。先ほどのテディベアよりは小さいものの、それでもこの大きさ。むむむ。


「あらあら、賭けは私の負けね。泉さんは確か千枚岳が好きだったかしら」紗絵子さま楽しそうです。ぐう。


「泉すごいのね。コツとかあるの?」


「巴ちゃん、これはね、勘よ、フィーリングよ! できる人はできるの、できない人はできないの」


「へぇー」


「か、花雪さん、頑張ってっ」


 パティさんの声援を受け、いざ屋台の前に立ちます。持ったことのないおもちゃの銃を構え、小さなあざらしに狙いを定めます。


 ぱこん。ぱこん。……ぱこん。ぱこん、ぱこん……なんとまあ、これほど難しいとは。片目でうまく狙いをつけたつもりが、五度ともあらぬ方向にしか飛ばす。なににもかすらずに終わってしまいます。


「ああ残念賞だなぁ嬢ちゃん。こっからどれか持ってってもいいぞ?」おじさんの情けの箱が出てまいりましたが、丁重にお断りしておきました。うう。


「あっらー? あたくしのときになかったわよー?」


「バカ野郎、子供に優しいヨリちゃんで通ってんだ。年功序列ってやつだ」


「それ多分違うわよ。まーいーわ。あたくしの勝ちねー」


 おほほと扇でも持つ真似、悔しいですが負けは負けですわ。はぁ。


「泉、そういうとこが多分」


「あーうるせーうるせー。さーて、んじゃあたしちょっくら」


 と、そこへお母さまがやってきましたわ。日差しもありますし暑いのかもう上気した顔、大丈夫でしょうか。熱中症対策は万全のはずですが。


「ああ、本当にこちらにいらしたのね。ええっと、泉さんと花雪、ジュース係をお願いしたいのですが」


「いーですよ。でもその前に」


 なんとごにょごにょ。お母さまが内密のお話をしています。ちょいちょいと私も招かれ、内緒話。不思議そうな巴さんたちを尻目に、ふんふんと会話をしていきましたわ。


 はぁ。なるほど。さすがといいますか、旦那さまは正直よくよくこういうところに手が回りますわね。はぁ。


 お母さまが本日の伝言係だそうです。その、携帯電話をここで大手を振って大声を出して使うのはマナーが悪いですので、お母さまが直接伝えてくれるそうです。普通のものももちろん、その、えっちな、ものも。


 深町さまに露出を見ていただくために、深町さまが今どこにいらっしゃるかを、お母さまが教えてくださるそうな。罰ゲームとしか指示のない、なにをされるかわからぬご命令も、そのときにお母さまが教えてくださるそうな。た、確かに、お祭りに夢中ですと携帯電話に気づかぬこともままあり、携帯電話で話すと稀に隣に聞こえますものねっ。はぁ(私どもはいまだに持っていませんし。今度買おうかしら)。


 お母さまは災難ですが、本日を軽くにしていただいた代わりになにかできませんかと、またお母さまのほうから勇気を出したそうですわ。はぁ。素晴らしいですわ。とっても。


 ……で、でも、その、どうしてこう、タイミングがばっちりなのでしょう。予知能力でもお持ちなのか、私たちが勝負を終えた途端の登場に、ちょっぴり怖くなりもします。はぁ。ほかの方も屋台勝負をしなさいがあるそうで、そのときにお母さまが遅いようなら、お母さまか深町さまご本人に自分から連絡するようにとの、仰せでしたわ。


 ではと。伝言も終わり、そそくさとお母さまが元のグループへ戻っていきます。不思議そうな巴さんたちに言い淀んでいると、ぴんときた紗絵子さまが面白そうにそっちもこしょこしょ内緒話をしていました。


「っと、んじゃー、あたしたちジュース買ってくるわねー」


「行ってまいりますわ。花織、紗絵子さま……巴さんの言うことをよく聞くのですよ」


「はいな」


「ちょっと、私が信用ならないっていうの?」


「ママ、そろそろ自覚持ちなよ」


「ううっ」


 からころと、私たちは二人で愛しの殿方の元へはせ参じるのです。ここから遠くないところ、焼きとうもろこし屋さんの前。


 二人は微笑み合えるほど、この瞬間を楽しんでいました。


 すぐにお目当ての焼きとうもろこし屋さんにつきます。屋台はどうしてこう、目的のものが見つけやすいのでしょう。深町さまは桜園の子供たちに熱々のとうもろこしを買ってあげ、慌てて食べてはこぼし熱い熱いと悲鳴を上げる彼女たちに四苦八苦していました。


「そんなに急いで食べずとも平気だよ」


 となだめつつ、次々と口も手も汚していく子供らを拭いてあげていましたわ。屋台のおばさんはうれしそうで、うふふ。


「せんせー? あたしたちが面倒みてましょっかー?」


「ああ、いやそれよりジュース買おう、喉渇いた。みんなも飲むよね?」


「はーい!」


「というわけだから、レオン、ルーシー、年長二人でちょっと見ていてくれるかな」


「わかりました。僕コーラがいいです」


「任せる。飲みものも任して」


 わいわいと次々にくっちゃべるお子さまたちの希望をふんふんと頭の中にメモする殿方。なんだかまんじりともせず、待てをされているようでもじもじしてしまいます。


「わかった。ほかのみんなはひとまずあとで、先に買ってこよう。いやでも、こういう屋台で冷やしてあるジュースでどうしてあんなおいしそうなんだろうなぁ……」


「不思議ですよねー」「そんなこともないと思いますけれど」


 と、言いつつ。三人は子供たちから離れると、一旦河原を抜け、近くの草むらに突っ込みます(なるべく見られぬように)。草木に遮られ外からは見えないことを確認し──いえ、人影程度は、のぞいていましたわ。はぁ。致し方ありませんの。ひとまずここの周りに誰もいないことを再三に渡って確認し、奴隷二人が目配せ、今からやりますと、上目遣いになります。


「今日は花火大会だからこういうところ、絶好のスポットなんだ。ほかにいるかもしれないから気をつけようね。さすがにまだ平気だろうけど、花火終わってからは注意かなぁ。どうなんだろ? それまでも花火中も危険かな?」


「……」


「まあ、花火が終わったら帰らないとね。やるにしてもここはほかに人がいそうだから、別のとこがいいかな」


「……」


「早くしないと不審がられるよ?」


 ハッとします。そうですわ、私どものほうから願い出ませんと。せー、の。


「今からご主人様のご命令をこなします。どうぞ見てやってくださいませ」


 私は決めておいた順番どおり、浴衣の裾をたくし上げ、深町さまにもう一度下着をお見せしつつ、それをそっと下へとおいやり、足にも引っ掛けぬようにして、脱ぎ、ました。




 花雪への指令──その四、屋台で誰かと勝負し(私でもいいよ)、勝てばキスか一枚着直してよい。負けたら一枚脱ぐ(浴衣以外)。もう脱げない状態で負けたら君の彼氏に報告、指示を受ける。なお、誰かに勝負を挑まれたら断ってはいけない。




 ええ、先にショーツ、ですわ。そのほうがきっと喜んでくださいますの。思い切って本日は浴衣の下を、ブラとショーツだけに、しましたの。長襦袢も肌襦袢もやめておきまして正解でしたわね。こ、こうなるとは、先に指令の紙を読んだ時点でわかっていたので……こちらのほうが、きっと、よいだろうと、はぁ。


 晴れてのーぱんになり、脱ぎましたと証拠を深町さまの前に出してお見せし、やはり恥ずかしくってしょうがないのですぐさま巾着袋の中へしまいこんでおきます。はぁ。だ、誰もいませんわよね? はぁ。ふぅ。


 ……隣の泉さんは、私が終わるのを待っていました。同時にやると深町さまがきちんとご覧になられないとの配慮、さすがですの。目が合うと照れくさく、すぐさま泉さんのが始まります。


 泉さんは自己申告どおり、勝ったのに恥ずかしいご命令、でした。私と同じように浴衣をたくし上げ、下着を披露なさると(美しい黒色)、少しそのままでじっと見てもらっております。殿方の視線を感じてぽっとうれしく、恥ずかしさの限界までそのままにし、やがてそれを、脱ぎました。同じように前に出してのーぱんを教え、そそくさと巾着袋へ。


 そうして。今度は浴衣を上もはだけさせ、肩を露出させるとぷちん、とブラのホックを外すと(まあ正面)するりと抜き出し、これも同じように俯きつつ前へ出してお見せし、それからまた巾着袋へ。はぁ、なんとまあ。のーぱんのーぶらですわ。勝ちましたのに。


「よく見せて」


 鶴の、一声。私はするすると今一度浴衣をめくり上げ、のーぱんの、まだ茂る前の女性器を、披露しますの。遠くからは喧騒が聞こえ、ここは外。野外、露出。


 隣では泉さんは乳房も露出させるために、花町の女のように肩から浴衣を外し、のーぶらの谷間を露出させつつ同じように下もめくって、艶めかしい素足、はだけた浴衣の艶姿、艶娘に変身し、なんとまあ色っぽい。大人の黒、目標、ああ見てしまいましたっ。


 恥ずかしいですの……


「いいよ、美しい。もう少しそのまま」


「はい……泉さんも同じでしたのね、そちらは勝てばですけれど」


「う、うん、びっくりよ。はぁ……」


 泉さんは興奮を隠せないご様子。以前もそうでしたが、彼女は下着を着けずに淫らに過ごすことに性的興奮を覚えるそうですわ。なにせ自分から告白してくれましたもの。ああはしたない。いけない赤。


 ほんの少し。泉さんの肌に、大人のおもちゃであるろーたーさんがあるかどうか、期待しましたけれど。はぁ。お互い様ですが。見つけられるかしら。でないと私が罰ゲーム、うう……


「ふむ、せっかくだ。人も来ないし、見えにくいし。よし向こう側に出よう、確か道が一つ二つ通っているはずだ」


 どくん。また旦那さまは、いけないことをおっしゃいます。


 歩いてきた方向とは反対側へ、草むらを抜けるとおっしゃるのです。ついてこいと言わんばかりに、返事を待たずに歩き出しますの。


「ああ、歩きにくいなら直していいぞ、いいから早く来い」


「は、はい」


 有無を言わさぬ口調、思わず従ってしまいますわ。ああなんて素敵な言の葉、このまま参りましょうっと。


 がさ、ごそ。草と土を踏みしめ、あっさりと隠される木々から、抜け出ます。河原とは反対側の道が確かに一本、横に通っていました。よく見ればこの道を左へ行けば、河原へ向かう本道、と言いますか、私たちが歩いてきた大きな街道に繋がっているようで、わいわいとそちらへ向かう大勢の人だかりが見えました。幸いにも今は、右からそちらへ合流する人々は見えません。細い抜け道は左右に走っており、正面には建物がいくつか立ち並んでいます。しかし、それらから扉はひとまず見える範囲には存在せず、そのため人が通るとしたらこの道のみで、左の街道の人々は遠く、またこちらになど意識を向けたりはしないでしょう。


 けれど。人がいるのは、明らかです。私たちから見える、つまり……


 それなのに、私も泉さんも、先ほどまでのポーズを変えませんでした。いいえ、変えられませんでした。だって、深町さまがよいとおっしゃりませんでしたもの。


「向こう向け」


 言わずもがな。私どもはしっかと頷き、人が次々と移り変わる街道へと、体を向けました。


 誰かがこちらを向いたのなら……ああ、見られてしまいますわ。なんてことでしょう。私まだ、中等部ですのに、痴女のレッテルを貼られてしまいますわ。愛する旦那さまの調教だというのに……


 恥ずかしくて、こんなもの永遠に慣れなどきはしませんわ。確信します。快楽になど、ええ柚香里さんのようには、なりはしませんわ。きっと。


 ……隣の泉さんは、もううっとりとした恍惚の表情を取り、困ったように眉を曲げて顔を歪めているくせに、それも性的興奮であると、ありありと教えてくれていました。


「ふむ、ゆっくり回ってみようか。辺りをじっくり見渡してみなさい」


 言われたとおり、ゆっくり、ゆっくり、大事なところを見せつけたまま、体を回転させていきましたわ。九十度のところはよかったのですが、反対側を向くと、そちらも道は続き、いつ誰が空いた近道を通るために参上するやら、しれません。そうしてゆっくり回転させられていくと、公の場でなんてことをしているのでしょうと、してはいけないことをしているのですわと、背徳を感じていきました……


 もう一度大きな街道へ向き直り、ご主人様へもうそろそろ、と目で合図を送ると、じゃあと、許しをくれました。


「歩けるだけ向こうへ歩こうか。無理だと思ったらそこで立ち止まっていいよ」


「……」


 見つかって、しまい、ますわ。しまいますわ。そうしたら、見られてしまい、ますわ。しまいますの。ああ、なんてはしたない……


 それ、なのに。足が一歩、動くのです。泉さんと同時に、一歩を踏み出し、また一歩、一歩と、ゆっくり歩いていってしまうのです。そのたびに、なにかよくわからないものがじんじんと風に触れるところから感じ、いけないわ、えっちですわと、赤くなっていくばかりでした。ああ、恥ずかしいのに、歩いてしまいますの……


 私どもは羞恥の遊戯をさせられましたの。旦那さまの求めを誠実にこなしはしましたが、それでも、歩みはやがて止まります。人ごみの喧騒がかすかに耳に届き、これ以上は無理と二人ともが立ち止まります。大声を出せば、誰もがこちらを振り向き、私どもの恥ずかしい姿を目撃してしまうほどの、近距離。いえ今でも誰がこちらを振り向くか、怖くてなりませんわ。それなのに、どうしてでしょう、どきどきが止まりませんの……いけないのに……


 しばらくの、間。旦那さまはそんな私どもの揺れる心を、存分に眺めてくださいましたの。恥ずかしさに震える体を、露出した恥部を、存分に眺め、満足そうに頷いてはなでてくださいましたの。それで充分に幸福を感じる妾ども。眉は困ったままに、でも、微笑み合いましたわ。


「次やるときは、人ごみの中ね」


 びくっ。かあっと、なり……でも、こくんと、二人は頷いてしまいました。頷いてしまいましたの……


「泉は負けたら着け直すんだぞ、花雪は逆な」


「はいご主人様」息の合ったコーラスですの。


「よし、それじゃあ戻ろうか。ジュースを買わないとね」


「はい」


 長い間と思っていたのは私だけで、時間はほとんど経ってはいなかったよう。そそくさと浴衣を戻し、手慣れた様子の泉さんに手伝わずにほっとしつつ、そのまま、ええそのまま戻ります。


 のーぱん浴衣……ああ、なんていやらしい。恥ずかしいですわ……お尻、わかりませんでしょうか? 深町さまは衣類の上からでもはっきりわかるそうな。うう。


 戻る、直前。深町さまは両隣の愛奴隷の、お尻を、なでてくれました。


 直に響く、布の感触……


「……っ」「はぁっ……」


「バレたらわかってるな」


「……はい……」「……はい……」


 うっとりと、その背中の三歩後ろを歩くほかありませんでした……




 泉への指令──どちらがより多くの景品(金魚、水風船、ヨーヨーなど)を取れるか好きな人と勝負(私でもよいぞ)。勝てたらノーパンノーブラになってよい。負けたらそのたびに五分間どこでもいいので座るなどわざとパンツ見せっぱなしにすること。ノーパンノーブラ状態で更に勝てれば、君の願いを一つ叶えてあげる。負けたら下着を着け直さなくてはならない(もちろん人前だろうとどこだろうと、ただし主の前で)。
















「ええ? だからメイド服って、普通にミニスカ、最低でもこれくらいでしょ?」


 上岡
可奈(かな)ちゃん、千歳ちゃんと同じ高校三年生の十七歳。膝小僧付近を手でカットするように差し、おかしいおかしいとなにを話しているものやら。


「んー、それ普通じゃないんじゃあないかなぁ。私が作ったのはこう、浴衣くらい長いので」


 千歳ちゃんは無邪気に足首までを差し、それはおかしいと反論してる。


「ええーっ? それってさぁ、オタクとか男の好み的に外れてないの?」


「そう? うーん、私の好きな人は長いほうが好きだって」


「千歳ちゃんの好きな人は聖人君子よ。今時貴重よ、お互いだけど」


「お互い?」


「あーもうそれはおいといて、じゃあいつ着るの? 
(ひかる)もあたしも、これっくらいのやつは買っちゃったよ?」


 ついでに試着もいっぱいしたよ、と、顔で発言したものの千歳ちゃんは気づかず。じゃあどうしようっかと悩んでいる様子。


「いいじゃないのそんなの合わせなくったって。巴さんだって一緒に着てくれるわよ」


 なにせ今はもう毎日ですから。


 女子高生二人と、みゆに詩音、その母親のわたし、柚香里に、それからさっきから苦笑する良子さんでからころと屋台を見て回っているの。


 可奈ちゃんは明るい水色に金魚の柄、帯は白。良子さんは浅黄色の古典柄で白の帯で、わたしは白地に薄い紺の古典柄、濃い紺の帯、あの高校のときに似合うと言ってもらったかんざし。そして千歳ちゃんと、かわいいかわいいみゆと詩音はみんなお揃いの、白地にカラフルなたくさんの種類のお花柄、ピンクの帯(みゆはピンクのお花の髪飾り)。みんなとってもよく似合っているわ。ふふふ。


「あっまーい! あの巴さんはそこまで揃えないときっと文句一つ一刀両断、着てくれやしないわ、それが一番見たいのに」


 びしっと指を指される。まったくもう、わたし高校のときこうだったかしら。……こうだったわね。


 この前の海水浴で全員でメイド服を着ようの会を作ったはいいものの、なかなか機会に恵まれずまだまだ先は遠いよう。なにをそんなにこだわっているやら、傍から見ると面白いばかりだけれど。


「ああでもそうだわ、みゆも着ないとダメよ、帰ったらお父さんをメイド服でお出迎えなさい。きっとお父さん疲れも吹き飛んでお休みに遊園地でもどこでも連れてってくれるわよ?」


「い、いいよぅ。そ、そっちはいいけど、めいどさんにはなってみようっかな。お父さん好きだもんね」


「ああそうなんだ? へーじゃあメイド服って男は大体好きなのか。みゆちゃんのお父さんならまだ若いだろうし」


「そうなのかなぁ。あ、でも男の人のあれ、えーっと、そう工事の人の作業着とかは好きだなぁ」千歳ちゃんが言う。


「あー、女のほうもそっち系嫌いなの少ないんじゃない? ってそうじゃなくって、あーもういいや。また今度決めましょう」


「うん。あ、輪投げだ。ちょっとやってみようっと」


 千歳ちゃんは本当に無邪気でこちらまで童心に帰らされそうになるわね。入りづらい難しい的だけを狙い、えいやと投げるもまったく命中せず。運動音痴って関係あるのかしら、と眺めているとあっという間に熱が入り出し、真剣な眼差しで高難易度を狙っていたわ。ふふ。


 みゆも詩音も見ているだけではなくうずうずしてきたのか順番待ちをし、はやし立てる可奈ちゃんに負けじと、えいやと声を出して狙っては外し、ああと盛大なため息。かわいいっ。撮影のたびにはにかんだ笑みを浮かべ、『恥ずかしいよぅ』と言うのでなければ撮りまくるのにっ。ぱしゃっ、と一枚。


「お、千歳じゃあないか。おーい」


 人ごみの中から浴衣美人が千歳ちゃんに声をかけてきた。あ、旅館で挨拶だけしたっけ、ええっと……


百恵(ももえ)さん、あいつこういうとき熱中して周り見えなくなるんですよ」


「ふぅん。大したもんだ」


 横からすっと彼氏、ああいや旦那さんが現れてお手上げとでもいうように肩を竦めてた。


「こんばんは。晴れてよかったですね」


「こんばんは」メイド長もあっちには行かず。


「ああこんばんは……ああ、千歳のお知り合い?」


「ええ。今日は一緒に見て回ろうって」


「こんばんは。千歳の従兄妹の
早川(はやかわ)(いさお)です。こっちは妻の百恵」


「こんばんは。深町、じゃないわ
草薙(くさなぎ)柚香里です」


葛西(かさい)良子です」


「一度お会いしてますけれど、今日は見違えました」


「そ、そう? いやぁあたし浴衣に袖通したの久しぶりでさ、変じゃあないかな?」


 百恵さんも黒の浴衣にいっぱいお花を咲かせてた。


「よくお似合いですよ。ご主人も夏らしくしてくればよかったのに」


 早川の旦那さんは照れ隠しに頭をかきつつ、「俺がしたってしょうがないですよ」と恥ずかしがる。


「せっかくあたしが時間取れたのにな、薄情なやつだ」


「わかったわかった、来年は着るよ、悪かったよ」


「ふん。あーあー、ほんとだ。千歳のやつあの年にもなって子供と一緒になってはしゃいでる」


 屋台ではおじさんのほうが困ってそうなほど何度も挑戦しているようだったわ。うぅん、千歳ちゃんも金銭感覚がちょびっとおかしいのかしら。そろそろと控えた娘たちを尻目に、何度も同じ的を狙い続け、そして見事に外しては首を傾げてる。応援され続けるのも考え物なのか、はてさて千歳ちゃんはもう一度チャレンジをしてたわ。


「あ、そうだ。早川さんご夫妻は、詩音の絵画の販売、と言っていいのかしら、取り扱って下すっているんでしょう?」


「ええ、まあ。本当に天才ですよ、あの子」


 詩音は長い髪を綺麗にまとめ、あの子なりにやんややんやと小さい声で応援し続けていた。白の浴衣がよく似合う、絶世の美少女。


「あたしどもでなくとも誰がやっても、あれは売れてますよ、絶対だ」


「前と言ってること微妙に違うぞ」


「うるせーないちいち。こほん。とにかく、うちに任せてください、きっとうまくプロデュースしてみせますから」


「はい、それは信頼しています。あの、ですけど……」少し声のトーンを低くする。「詩音の絵を売買する際、手数料というんですか、その」


「いや! 取りすぎてなんて」


「逆です。売り値は聞いていますし、あの子からいくらもらったかも聞いているんです」


「あ……」


 少し申しわけなく、眉が困りゆく。


「あの子の絵を、素晴らしいと評して下さるのは嬉しいですわ。けれど……もしも、あの子が訳ありだという、同情からなら、やめていただきたいんです。あの子が、悲しみます」


 楽しそうに笑顔で、とうとう一番難しい的をとった千歳ちゃんに拍手を送っている愛娘。曇らせたくない。


「お仕事はお仕事にしないと、いけませんわ。ちゃんとそちらもお金をもらうべきです。丸渡しはいけないと思います」


「……すみません。いやその、言いわけになりますけど、あたしはそんなつもりはまったくなくてですね、ただこれは自分の、わがままで始めたことなんですよ。それで、パートナーには迷惑かけたくない、無償で手伝えたらって、だけだったんですけど……そのとおりです。本当、申しわけない」


 がばっと頭を下げる、見た目どおり男らしい早川の奥さん。合わせて目尻を吊り上げつつ、一緒になって頭を下げてくれる、きっと優しいご主人。


「顔を上げてください、お気持ちはわかりましたから。それだったら、詩音にきちんと説明してくださいね。お互いが納得するように話し合ってください」


「いや申しわけない、そういうところ気が回らなくって」


「本当だよ、百恵さん仕事先でそんなのしないだろう、まったく。俺に黙っとくってのも許せんな、こと彼女のことになると」


「う、うるさい。あとだあと。あーっと、では話し合っておきます。今はまずいと思うので、のちほど」


「はい。お願いしますね」


 子供たちは手に入れた景品をどこに飾ろうか、これまた真剣にその場で悩んでてまだこっちには来そうになかったわね。ふふ。


「でも、この前の購入してくれた人に会わせてくれたのは、感謝しています。……あの子が訳ありなのは事実ですから、世界を広げてくれたのは、とても嬉しい」


 交友関係を増やしてほしい。それこそ学校へ通えば、とは、今はまだ。だから、単純に新しい人との出会いは歓迎だわ。


「いやそんなとんでもない。こちらとしてもぜひ支援したいんだ、詩音さんの才能を埋もれさすには惜しい、惜しすぎる」


「同感だね」


「ええ、わたしも親ばかかもしれないけど、同意します」


「……? えーっと、お母さんはどちらに?」


「え?」


 きょろきょろと、辺りを見渡す早川の奥さん。旦那さんまでつられて、誰を探しているやら。


「一度会っておきたいんですけど」


「あの、わたしが」


「へ? いやだって、お姉さんでしょ? 前のほくろの人も母親じゃあないみたいだったし、話してはくれているのでいることは確かなんですけど……」


「いえ、あの、わたしです」


「へ?」二人しておしどり夫婦ねっ。


「詩音はわたしの、娘です。隣の小さい、お花の髪飾りは次女のみゆです」


 お姉ちゃんとおそろいにしたいなぁとパティちゃんのように指をつんつんした、かわいいピンクの花飾り。


「……ぶぁっはっは! 冗談きついですよ。詩音さん十四だって言ってましたし、へたしなくとも同じ中学生みたいな外見で言われても、なぁ勲?」


「ああ」


「……はぁ。ありがとうございます。若く見えて嬉しいですわ」ええまあ、それは本音の、ごにょごにょ。「では、これからも詩音をよろしくお願いしますね」


 この手の話題は諦めるしかないわ。はぁ。今までもこんなこと、たびたびあったし。ばか弟だって制服着せたら中学のぼうやだし。はぁ。隣の良子さん、若干羨ましそうに見つつ、哀れみも混ぜつつ。


「え、なん、マジ?」


「あ、勲ちゃんだ」


 子供たちが戻ってきたわね(千歳ちゃんは景品のちっちゃいさくらんぼのインテリアにご満悦だわ)。もうこの話題おしまいですよ。


 ……可奈ちゃんも、奥さんがいるとはいえ、メガネのご主人は平気みたいね。確かに嫁にしか興味のない面だわ、憲邇と一緒。


「お前いい加減その呼び方やめないと恥ずかしい過去をこの場で暴露するぞ」


「ええっ。えーっと、だ、ダメだよっ! あれ知ってるの勲ちゃんだけなんだから、黙ってなきゃ!」


「……」がしがしと頭をかくご主人。「お前いろんな意味で無敵だよ。わかったよ、俺の負けでいいよもう」


「そう? よかったぁ」


 なんというかまあ、ご愁傷様ですね。


「あ、こちら私の従兄妹の早川さんご夫妻」


「うん、旅館で会ったし、知ってる。大丈夫だよ」


「こんばんは」


 みんなでご挨拶。詩音はお世話になっている人がらぶらぶでにっこにこ、なんてかわいさ!


「こんばんはー……しかしあれだな、千歳の友人周りはさすがにすごいものだな。あれだ、全盛期のアリとヒクソンと千代の富士と為朝が集まってる最強の軍団」


 いきなりなにを言い出すのかしら。


「なんで最後武将なんだよ、それも鎮西八郎為朝なんだよおかしいだろ、それなら島津の鬼である四兄弟だろどう考えても。それかチャップリンにしようぜ、オサムシくんとか」


「なんでお前こそ文化人なんだよ最強じゃねーだろアホか」


「なに言ってるの二人とも」


 きょとんとした千歳ちゃんが止めに入ると、家ではいつもこうなのかおしどり夫婦を一旦抑え、おほんと咳払いで話題を変えてくれた。


「や、これだけ大勢の美少女が群れを成してたら、逆に誰も手を出さないし声もかけないだろうで安全かもわからんなって。ああそう、女の園の空気だなって。懐かしいな」


「ああ、そういえば百恵さん一応女子校だったっけ。どうしてそこからこう成長したのか、過程が気になるな」


「……ま、今日は気分がいいから見逃してやろう。お前こ男子校出の癖に男くささが足らんぞ。ふんどし締めろよ」


「あーはいはい女々しくてすいませんね。ちょっと千歳にお友達のみなさん、ちったぁこいつに女らしさを分けてやってくれませんかね?」


 ご主人の言葉を聞かずに、ご夫人は言いたいことだけ言うとマイペースにかき氷を購入していたわ。


「ははぁなるほど、かかあ天下ですね? そいでご主人は嫁改造計画をしたいと」


 なぜかにまぁっと可奈ちゃんがほくそえみ、「それならいい案がございますぜ」とまたなにやらおかしな口調。面白がる可奈ちゃん(となぜか混ざり行く良子さん)をよそに、夫人はかき氷を手に戻ってくる。


「……ふん、ふんふん……ええっ? マジ?」


「マジもマジ大マジでございますよ」


「確かにそれは奥さんに効果抜群ですよ、メイド長が保証します」


「な、なるほど……」


「なにやってんだあいつら」


 しゃくしゃくと涼しいかき氷を食べつつ、密談を交わす三人に近づいていくご夫人。よしと掛け声が上がったかと思うと、ご主人ががしっと、かき氷ごと奥さんをつかんでた。


「百恵さんっ、花火終わったら晩飯食いに行こうぜ!」


「外でか? 今日はお前の飯が食いたい」


「ぐっ……」


 作戦失敗なのは明らかでした。可奈ちゃんも良子さんも、料理担当が奥さんだとばっかり思ってたようね。


「じゃ、じゃあそれまでどこか寄ってこう、ほら俺久しぶりに外で遊びたいし」


「構わんぞ、遅いのはいつものことだ、お前がいいならな。せっかくだし材料も買ってくか」


「おお、そうしようそうしよう、今日は盛大によりをかけるぞ!」


 不思議がる奥さんですが、一体なにを吹き込まれたのやら。


「……浴衣のままでお祭りじゃないとこ、恥ずかしくないのかなぁ」


 詩音がぼそっと呟いてる。今日くらい平気よ、浴衣で連れ回されたって……ああ、そういうこと? この早川の奥さん、どう見ても浴衣で連れまわして人目に晒したところで女らしく振舞おうとしないと思うけど。まだ二の矢三の矢があるのでしょうけれど、一体なにをするのやら。


「晩飯なににするかどこ行くか、俺が決めるけどいいよな?」


「ああ、もちろんだ。久しぶりだ、どこでも付き合うぞ。お前の作るうまい飯に文句などあろうはずもない、楽しみだ」


「ぐぐっ……」


 にっこりと笑う奥さんはあまりにも眩しく美しく、よこしまになりつつあったご主人は若干あてられてしまったよう。ふふふ。


「そんじゃあ、あたしらはこれで失礼するよ。二人で楽しもうか、勲」


「あ、うん。じゃあな千歳、友達に迷惑かけんなよ?」


「わかってるよ、もういつまでも子供扱いなんだから」


「……」そればっかりはしてもいいと思う。


 余裕綽々で楽しそうに腕を組んでお祭りを練り歩くご夫人。ご主人はたじたじで、なんだか憲邇に通ずるところがあっておかしいわ。


「なーんか、情けないね、旦那さん」


「そう? 勲ちゃん亭主関白なんだよ」


「ええっ、あれで? どこをどう見たらそうなるのかな……」


「ほんとだよ、奥さんね、旦那さんの言うこと逆らったりしないんだって。旦那さんがね、自分がこうしたいってあえて言ってないけど、たまに言ってくれたら絶対言うこと聞くんだって。奥さん自分のこと従順だって言ってた」


「あ、ああそう」


 可奈ちゃんの顔色どおり、どう考えても千歳ちゃんがやり込められているだけね、ふふ。


「お、いたいたー。はいおみやげー」


「合ってますわよね?」


 泉さんと花雪ちゃんがやってきて、先ほど注文を出したとおりのジュースを持ってきてくれたわ。憲邇のばかはまたぞろいやらしいこと誰かにさせてるのか今はいないけど。いても困るけどね。


 ……二人とも、はぁ。さすがね。わたしもやらされるのかしら、ああやだやだ。み、みゆも詩音も守りたいものねっ。はぁ。


 あの指令の紙は、それどころじゃあないえっちな指令が、ううう……


 ちらり、わたしと視線が合うと、それと気づいている顔色に二人とも真っ赤になって俯きかけ、不審がられるから慌てて笑顔を取り繕ってるわ。はぁ。最低。


「ありがとー。ていうか、ほしいジュースくらい自分で買ってきますのに」


 可奈ちゃんはできた子みたい。お代は払ってるけど、おつかいみたいで申しわけなさそう。


「いやいや、子供たちのついでよ。気にしないでいいの」


「そうですか? じゃあありがたく」


「みゆ、あんまりぐびぐび飲んじゃうとお腹壊すわよ、この前の海みたいに。ゆっくりでいいの」


「ううう、わ、わかってるよぅ」


「本来なら私の役目なんですけどねぇ。今日くらいは無礼講させてもらいましょうっか」


 良子さんも受け取りつつ、苦笑しながら言う。


「そいじゃねっ」「では失礼します」


 そそくささっさ、早足で彼女たちは戻っていっちゃった。戻っても向こうのグループにはいるわけだから、恥ずかしさは一緒だと思うけど。うぅん、痴漢に遭ったら……と思ったけれど、そういえばこんなにも詩音は美少女なのに、良子さんも千歳ちゃんも目を見張るほどの浴衣美人なのに、ちょっかいも声もまだゼロね。早川の奥さんの言うこともあながち間違ってないのかも。いざってときは向こうは紗絵子さんが蹴散らすでしょうしね。


「わ、たこ焼きだ、おいしそう」


「千歳ちゃん、今買うと両手に食べもの飲みもので間抜けになっちゃうよ」


「あ、そっか」


「千歳ちゃんあれでしょ、お買い物で先に荷物を山ほどこさえちゃうでしょ?」


「うん、そうなの。良子さんとかがね、一緒だと言ってくれるんだけど、一人だとつい」


「そうですよ、千歳ちゃんはお店で食べる前に、あ、そういえばあれ買わないとって、荷物を先に作って飲食店へ向かうことしばしばだと聞きます。いけませんね」


「これだから箱入りはもう、しょうがないわね」


「箱入りじゃないってば」


「いーえ箱入りよ。そこな娘たちもどうやら箱入りのようだけれど、うちの子も相当ねっ」


 自分たちのことを言われたのだと、当の本人たちは気づかず。一体誰のことかなぁときょろきょろ、ああかわいいっ。


「みゆも詩音も充分箱入り娘よ」


「ええっ、そ、そんなことないよぅ」


「はこいりむすめってなぁに?」


「ええっと、そうか……みゆはまだ七つだものね、違ったわ。あとで教えたげる」


「あはは、お姉さん大変ですねー」


「そうなのよぉ、うちの子はすっごくかわいいんだけれど、危なっかしいのが玉に瑕でねぇ」


 ちびっ子二人の抗議の目線は受け付けません。


「あたし一人っ子だからわかんないですけど、やっぱり妹ってかわいいですよね、あー姉妹ほしかったなー」


「……えっと、あのね可奈ちゃん、話し合いましょう」


「え? いやでも、あたしなら母親代わりは大変ですよー、自分のお母さんいないことを考えたら、ほら彼氏だって先送りしたくなっちゃうんでしょー?」


「……」良子さんっ、必死に笑いを堪えないのっ。せめて羨ましがりなさいっ。


「あのね、わたし、この二人のははお」


「ねーねー、お姉ちゃんどう? お母さんいなくて大変じゃあない?」


「話を聞いてっ」


「あ、そ、そういうことか。ぇ、えっと」


「? どういう意味ですか? みゆのお母さん」


「大変じゃないですよ、ふふふ」みゆの無邪気さを遮るように、わかってしまった詩音が楽しげに乗っかってしまったわ。話し合いましょう、家族会議よっ。


「柚香里お姉ちゃんとってもやさしいし、厳しいときもあるけど、わたしたちとっても頼りにしてるの。おしとやかだしすっごくかわいくって美人だし、お料理も上手だし、おしゃれだし、教え方上手だし、困ったときは相談に乗ってくれるし、美人だし、家事だっていっつも自分で先に全部やっちゃうし、気配り上手だしそう、気立てもいいし、世話焼きであれこれやっちゃうけど、せいそなお嬢さまだし、スタイル抜群だし、脚細いしウエスト細いし、小顔で色白だし、それからそれから」


「わかったわかった、もういいよ。詩音ちゃんがお姉ちゃん大好きなのはわかった。目標なんだ?」


「うんっ。大好きなのっ。ねっ?」


「……」にっこり、素直にはできないわ。ああもう、いつの間にこんないたずらっ子に。


「あ、そっか。そうかぁ。そうだよね」


 ちらちら、みゆも途端にいたずらっ子の顔になる。やめてみゆ、お願い、ほらそこのクレープおごったげるからっ。


「うふふ。み、みゆも、柚香里お姉ちゃんのこと、大好きなの。目標なのっ」


「そっかぁ、よかったね、こんなお姉ちゃんいてくれて」


「うんっ」


 仲良し姉妹はにっこりと満面の笑みを浮かべ、ああ素晴らしいシャッターチャンス、でした。はぁ。こんな顔されたらもう否定できないわ。かわいいんだからもう。良子さんは助けてくれず、また千歳ちゃんは飲みものをゴミ箱へぽいしたあと、すぐさまたこ焼きを買ってはふはふと頬張っていたのでこんな結末に。はぁ。


「あーでも、本当ウエスト、細いですねー、帯あるからなおさら、いいなー」


 しげしげと感心されてしまう。ううう、弟が姉を妊娠させるからよ。


「で、でしょっ。ゅ、柚香里お姉ちゃんね、ウエスト、四十台なんだよっ」


「ぶっ」危うく飲みものを吹きかけてる。「ええっ? ま、マジ?」


「詩音、いけません。面白がって女の子のスタイルをべらべら言うものじゃありません」


「あ、ごめんなさい」


「否定しないんだ……うわー……千歳ちゃんの周りこういう人ばっかだね。妖精じゃん」


「妖精?」千歳ちゃん、青のり、青のり。呆れ顔の同級生に指摘されて慌てて拭いてる。


「いやいや、ウエストなんて五十台にするのすら難しいじゃない? すごいなー。コルセットですか、やっぱり?」


「もう、やめてちょうだい。あ、ほらみゆ、詩音、あっちのくじ引きでも一回引いてみましょう、運試しよ」


「ぅ、うん」「うん」


 からころ、二人の慣れない下駄でとてとてと歩く背中を軽く押してく。まだ後ろでは感心しきりの可奈ちゃんがウエストラインをちらちら、恥ずかしいわ。


「うぅん、屋台のくじ引きの商品って、なんだかいろいろありすぎて混沌としてるんですねぇ」


 びたん! 良子さんが向かうくじ引きになにかを言ったのとほぼ同時に、詩音が、ああ詩音が、転んじゃった。


「大丈夫?」慌ててすぐに起こしてあげる。どうやら怪我はしてないらしく、「ありがとぅ」と返事をしてくれ、困ったように笑う。かわいいっ……のに。


「ううう、下駄って歩くの大変なんだね」


 よいしょと立ち上がらせ、ぱっぱっと砂を払って一安心。どこも怪我がなくてよかったよかった。……なのに。


 憲邇のばか、変態。ロリコン。大好きだけど、大好きだけど……


「柚香里おか、あ、お姉ちゃん。ど、どれがいいかなぁ? あれ?」


「みゆ、詩音、わたしちょっとお化粧室行ってくるから、いい子にしてるのよ」


 そそくさと今度はわたしがその場を立ち去る。


「うん……? どうしたんだろ、急に。柚香里お姉ちゃん、あんましお化粧してないはずなのに」


「詩音おね、お姉ちゃん、さ、先引いちゃうよ?」


「あ、うん。みゆちゃ、み、みゆなら、ぇと、きっと一等だよ」


 ああ背中からは姉妹になろうと健気な二人の声が聞こえるのに。それを見届けられないなんて。


 からころ、早足にならないぎりぎりで急ぐ。と、なぜか進路に若い男の子が通せんぼ。


「あの、通してもらえます?」


「君どこ中?」


 よく見るまでもなく、まだ中学生と思しき二人組。浴衣でなく普通の私服で、でもちょっと背伸びしてるのがありありわかっちゃう。


「どこちゅう……? えっと、お化粧室行く途中だけど」


「そういう天然ボケはいいからさ、見た目どおりぽけぽけしてんのな」


「……漫画以外で初めて聞いた。やばい、見た目もだし超かわいい」


「あの、通してくれる? なにか用? ちょっと急いでるんだけど」


 早くしないと怒るわ、弟のやつ。せっかくの──




 柚香里への指令──その五、みゆか詩音が転ぶたびに、報告し、渡したペンを君の弟に渡すこと。その際、好きな単語を告げること、もちろんえっちな。君の弟はそれを肌に直接書くので、見せろといったところをはだけさせて見せること。場合によってはその場で脱がせられるので、ちゃんとそのあとに着なおすこと。




「だからどこ中? 俺ら東三中なんだ、二年」


「俺も」


「あずまさんちゅう?」


「そ。もしかしたら同じ学校かと思ってさ。あ、近くでも知り合えるだろ? メアド交換しよーぜ?」


「そうそう。中学っても結構人いるからさ、同じ学校でも知らない女子かと──」


 本日、三回、目……そんなに童顔? これでも二児の母よ? 背だってそこそこあるじゃない。そりゃあ、最近の子は背だって高いでしょうけれどっ。


「夏休みも終わるしさ、その前に仲良くしようぜ?」


「やべーよな、今日のこれ、かわいい子めっちゃいる。来てよかった」


「……彼氏いるの」もうその方が手っ取り早いわ。「ごめんね」


 あからさまに残念な顔して「そっかー」としょぼくれる二人をよそに、隣をすり抜けさせてもらう。


 十は若く見られていることを喜んでいいやら悪いやら。せめて、そうせめて女子高生、よ。どうしてこうも中学生ばかり。ここまでくると若作りが嬉しいわですらないわっ。


 なぜか憲邇はあっさりと見つかった。というか、見つかった瞬間ぷっと吹き出しそうになってた。


「最低っ! 覗き見なんてっ!」


「あはは、いやごめんごめん。いやぁすごいなぁ。背丈自体はそこそこあるのに、細さと小顔でちっちゃく見えて、中学生扱いか」


「うちは童顔の家系よ、しょうがないじゃない。お母さんだって似たような経験たくさんあるんだし」


「あはは、私もだよ。散々学生に間違えられ続きだ」


「ふんっ。……憲邇、一人?」


 いると思った桜園のみんながいなかった。


「ああ、レオンとルーシーがね、一回任せるって言ったら張り切っちゃって、今日は僕たちで最後まで面倒見るから、なにかあるまでほっといてくれだって」


「あら、よかったじゃない。あなたも楽しめて」


「うん、早速草薙さんに会えたしね」


 じっと見つめ合う。くい、と。弟の浴衣をつまむ。こんなとこでは話せないわ、とても報告なんてできやしないわ。向こうの茂み行きましょう?


「やっぱり早速か。あれかなぁ、天才的な才能を持っているから、やっぱりどこかずれてるし、おかしくなってしまうのかなぁ」


「そうね、詩音は才能に溢れているから代わりに転びやすいのかもね。でもすぐ直るわ」


「うん」


 二人河原を抜け、誰にも注目されていないことを確認してから、人気のない林の中へつっこみ、草むらで外が見えないところへ、外からも見えないところまで進んでいく。……憲邇はこういうとき、勝手にエスコートするものだから困りものだわ。先に道を踏みならして作っちゃって、もう。……まあ、泉さんと花雪ちゃんのでしょうけれどっ。


 振り返って面白そうにふんぞり返り、楽しそうに腕を組む弟。変態。ばか。大好き。


「……愛娘の、詩音が、転びました」


「怪我はなかった?」


「ええ、大丈夫よ……」


 ごそごそと巾着袋を探し、渡されたペンを弟に返す。そのとき、なるべく小さな声で、思い切って勇気を出して、言ったの。


「……『愛奴』」


「わかった、太ももにしよう、まずは」


「まずはってなによ、まずはって。何回も書くみたいじゃない、ばか」


「書くんじゃあないかなぁ。詩音は下駄初めてだろう?」


「……鬼畜」


「いやいや、しまったよ。帯あるし、お腹難しいしね、ほら早くめくってめくって」


「……」


 する、する、駐車場のときみたいに浴衣を一枚、二枚、ゆっくりとたくし上げて、いく。……あのときと違う、オレンジの総レース。縁がすべてまるまるフリル尽くし、お気に入り。弟さん、替え、たくさん持ってきたとはいえ、精々十枚ずつ程度だから、お手柔らかにね? ああお外で露出、してるわ。恥ずかしい。誰かがさごそ、同じようなカップルがやってきてえっちでもしだしたらどうしよう。見つかったら、見られたら……赤くなるわ。


 愛し弟はそんなことはお構いなしに、わたしの下着をじっと、興奮丸出しで見つめてくれる。嬉しいわ。けれど、その、早くしないと見つかっちゃう、次もあるし、姉好きなのはわかったからその、恥ずかしいわ。脚が動くわよ。


「動かないでくれよ、書けないじゃあないか」


「……」


 どうしてそう普通の声が出るのよ。おかしいわ。ひそめてよ。


 憲邇はたっぷりとわたしの下着をご覧になったあと、キュポッとペンを取り出し、そうして、太ももにそれを向かわせた……


 普通ならありえない、油性のペンが肌を、滑る。思いのほかつるつると動き回り、思いのほか不快じゃあない。未知の物体が太ももに沈んで、そこに文字を残していく感覚は、なんだかすごく、むずがゆい。お正月の羽根突きで顔に墨を塗られたことあるけど、それよりもっと、異物感があるわ。


 そうして。出来上がりの、『愛奴』が、右の内股に残される。はっきりくっきり、黒い文字で変態の証が刻まれ、わたしはぞくりとした、奴隷である証拠に、息を呑んだ。


 弟の望み、そして、奴隷の服従。ひどい扱いを辱めを受け、でもわたしは、ま、マゾだから、どこかうっとり、ええ嬉しくさえ、あるの……


「うん、ちゃんと見える位置だ。普通に立って見える位置がやっぱりいいかな、次はどこにしよう」


「ちゃんと無害なんでしょうね?」


「うん。そういう風に作った」


 作ったってなによ作ったって。ばかじゃないの。


「相変わらず、字、へたね」


 弟の四角い字、いつ見ても乱暴だわ。


「え、そう? これでも丁寧に書いたつもりなんだけどなぁ」


 だから声でかいわよ、ばか。はぁ。もういいわ。


「じゃあ着替えるから、後ろ向いてて、荷物」


 元々荷物持ち、弟の袖は魔法の空間。そこから下着類を取り出してもらう。あの中にはいろいろと本日のいやらしい品々が大量に隠れてる。わたしの着替えやらなにやらもそこにあるの。それくらいはね。


「うぅん、やっぱりみ」


「向いてて。誰か来たら言ってね」


 二の句を告げさせず、背中を向ける。ため息一つ、憲邇の足音も回転し、わたしは次の下着に着け替えていったの。次はどれがいいかしら、最初に憲邇のお気に入りでわたしのお気に入りだと、すぐ草むらでがばぁで押し倒して草であちこちすりむかせるんだから、最初は抑え目にしないとね。夏だしすっごく汗かいちゃうし、匂いだってむんむんするもの。浴衣、一回崩したほうが着替えやすいけど、経験済みだし、このままブラも着け直しましょうっと。見つかるとことだわ。


「憲邇だって最初にわかっちゃうのはつまんないでしょう?」


「着替えシーンはそれに勝る」


「さいてぇ。変態、やぁらしい」


「なにより着崩れて艶やか美人だぞ? 浴衣だぞ? はだけてるんだぞ? 見たいだろう?」


「なに真面目にばかなこと言ってるのよ。いい? みゆや詩音をこんなとこで押し倒して、あちこち切り傷作ったら承知しないわよ」


「難しいこと言うなぁ」


 どこがよっ。ほんっと、お盛んなんだからっ。はぁ。と、わたしは次のライトグリーンの総レースに着替え終え、ぱっぱと浴衣を整えてから、振り返るの。


「もういいわよ」


「うん」


 我慢できなかったのかばか弟は、こっちを向いた途端唇を奪い、きつく抱きしめた。


「はぁ、んぅ、憲邇ぃ……」


「柚香里……」


 弟とのキスは、無限の時間がする。どんなチョコレートよりも甘いの。それなのにレモンなの。不思議。


「……はぁ……」


 たっぷりとお互いの唇を味わってから、ゆっくりと離れる。じっとり熱い視線、嬉しい。大好きよ、憲邇。


「私も大好きだ。もっかいだよ、ほらキスしたんだ」


「はい弟様」


 するする、キスのお礼にちょっぴり早めに浴衣をたくし上げてあげたの。憲邇はのぞくライトグリーンの刺繍たっぷり総レースに目尻ゆるゆる、かわい。うふふ。


『愛奴』にも。


「お前はそうして今日、どんどんいやらしく卑猥な格好になってくんだぞ? いいな?」


「はいご主人様。わかっておりますわ」


 下ろせと言ってもらえるまで待ち、存分に眺めてもらったあと、そろそろ戻ろうかと許しをもらいます。またぱっぱと浴衣を直し、憲邇の後ろをついていき、みんなの元へ戻りました。


「ちゃんと水分補給するんだぞ」


「ええ、わかってるわ。大丈夫よ、夕方だもの」


「そうだけどさ。多分身重なんだし、きちんとしてもらわないとね」


「うふふ。ありがとう、憲邇」


 背中を追う、充足感。わたし、しあわせものだわ……


「あ、柚香里お姉ちゃん! き、聞いてっ。ゎ、わたし、おまけしてもらっちゃったっ」


 戻ると詩音が、あまりにもかわいいものだから。思わずぎゅっと抱きしめ、撫で繰り回しちゃったわ。ふふふ。


「ほ、ほら、こんなにいっぱい! ど、どうしよぅ、四等だったんだよ?」


「詩音が絶世の美少女だからよ、もらっときなさい、当然だわ」


「お姉ちゃんおべっか言いすぎだよぅ。あ、みゆもね、もらってるの」


「あぅぅ、言わないでって言ったのにぃ」


 ああ二人とも、かわいすぎるっ。撫で放題よっ、お祭りですもの。


 さわ、り。……憲邇ときたらどさくさに紛れ、みゆと詩音はおろか、良子さんも千歳ちゃんも可奈ちゃんもなでなでし、あまつさえ、わたしの頭も、軽々しく撫でやがるの。


「もう、深町先生手癖悪いんですねっ、ふふ」


「ねー」ああ同級生は楽しそう。


 わたし、は。お祭りを行き交う人の群れが、わたしを注視してはいないことを何度も左右を確認して、から。一瞬でいいんだから、と、憲邇に見えるよう、浴衣を素早く、めくってあげた。


 さっきとは違う、見せる下着こそ同じだけれど、完全に人ごみの中……このグループの中では可奈ちゃんの注意がほかへいっているのだけに気をつければいいから、今だけ、と、一瞬だけの露出を終え、すぐさま元に戻す。愛娘二人の顔が急に赤くなってしまい、メイド長も同じ顔になっていたわ。ああ、恥ずかしい……見られたかも、見られてる、ハーレムの女の子たちだけじゃあないわ、きっと通り過ぎる大勢の人たちに、わたしの下着……


 憲邇は容赦なく、また続けて詩音と一緒にわたしを撫で、て、うううと唸りつつもじゃあと、今度はぴったりと背中を憲邇の正面にくっつくほど密着させる。ちら、と、浴衣の合わせる部分をぐいっと前へ押しやり、ブラをちら見せしてあげる。今度は憲邇からだけ見えるように。


 容赦ない弟の視線がちくちくと突き刺さり、今度も一瞬だったのに見られた見られたと恥ずかしい。それなのに、また憲邇はみゆと一緒にわたしを撫で、もう一度を迫る。しょうがなく、しょうがなくわたしはそのままの位置で憲邇を壁にし、左右に愛娘と良子さんを招いてから、ゆっくりとお尻が見えるように浴衣をめくり上げていった。


 弟がいるものの。今度こそもっといっぱい見られちゃう、あの女こんなところでお尻見せてやがる、って。見られるかも、見られるんだわ。ああ、恥ずかしい……後ろから通り過ぎる人たちみんなが、振り返っても振り返らなくても、みんなわたしを見たんだわ、と思うと……内股をすり合わせて、しまうわ。壁があるんですもの、少し、ほんの少し、十数秒、見せ続けなくっちゃ……


 見られてる。何人も横を通り過ぎるたび、こちらを振り返っている、もの。目と目が、合う。ああ、それは憲邇はカッコいいから、女の子も振り返るけれど。いいえ、わたしなんか見ているんじゃあないわ、仲良しななでなでをもらっているみゆと詩音に良子さんの、絶世の美少女たちを見ているんだわ……


「三度も同じのを見せるなんてひどいね、罰ゲームだよ」


 後ろから耳もとで囁かれる。同時に、下ろしなさいと手が浴衣を戻させ、そのあとわたしの右手になにかを手渡してくる。


「ここで」


「……」


 ぞくぞく、してきちゃう、わ。憲邇が、愛する弟が以前から何度も何度も調教して開発してめちゃくちゃにしたんだもの……


 千歳ちゃんと可奈ちゃんが屋台の前にしゃがんで、くじ引きの景品を眺めている隣へ、わたしもお邪魔する。あれはなんですか? と無邪気に訊ねる、千歳ちゃんに答えながら……


 屋台のおじさんからは、景品が並ぶために、角度的に見えや、しない。隣の高校生たちはそこまで詳しく見たり、しないの。だから、わたしは浴衣の裾から手を入れ、もぞもぞと自分の女の子に指を近づけ──


「……っ、はぁっ……」


 くちゅっ、って。嫌な音がお祭りより盛大に、耳朶に響いてしまうの。


 憲邇に、見てほしい。




 柚香里への指令──その二、弟に撫でられるたび、抱きしめられるたび、あるいはキスされるたび、その場で下着を見せること。


 柚香里への指令──その四、一度下着を弟に披露したのなら、同じ下着は、弟には二度と見せてはならない(露出仲間にはよい)。二度見せたならその場で罰ゲーム。
















 ふふん。せんせのハーレムの女の子、やっぱりみーんな(あたし含む!)すれ違う人大体振り向いてる。美人ばっかりだもんね。ふふふんだ。


 静香猫、今だけは人間です。浴衣に首輪で丸見えもいいけどなぁ。あたしの今後まで考えてくれるご主人様、大好き!


 早速まゆちゃんと奈々穂ちゃんがママにわたあめを買ってもらいほくほく顔でむしゃむしゃしてる。絵里さんも広子さんも微笑みながらそれを見守り、春花さんまでうれしそう。愛さんもぽかぽか楽しそう、だけどこの人はいっつもだもんね。


 まゆちゃんはピンクに朝顔の柄、帯もピンクだけどちょっと色が濃い目に、金色のかんざし、奈々穂ちゃんはピンクに蝶柄、濃い目のピンクの帯、ピンクのかんざしとまゆちゃんとほぼおそろ。母親組の絵里さんは黒地に白や藍色っぽい花柄(お花はユリかな)、帯は薄紫、春花さんもほぼ同じ色に、お花は菖蒲、混雑から日傘は畳んで、広子さんは紺に白や薄青系の花柄(お花はなにかわかんない)、帯は黄色と橙の中間くらい。愛さんは落ち着いた赤に、似た暖色系の線模様で、帯は黒。そしてあたしは明るい紺に白の古典柄、帯は濃い目の赤だった。巴さんとおそろなの。


「わったあめっ! わったあめっ! あまぁいあまぁいわったあめっ!」


「あんまり大声で歌うと迷惑よ」


「あ、ごめんなさぁい。えへへ、でもおいしいなぁ」


「ねー」


 奈々穂ちゃんのかわいらしい、アニメのような声はよく響くので、割といろんな人がちらちら流し見をしてた。子供ってどうしてあんなに声が通るんだろ。


「あ」


 ふとぴたっと奈々穂ちゃんの足が止まる。そのまま空を見上げて、夕暮れに染まる景色になぜかあれ、と首を傾げてた。


「ねぇねぇ、さっきおじちゃんがさ、わたあめがたーっくさんあつまってでっかくなって、くもになってあめがざあざあになるって言ってたけど、じゃあなんでおそらのあめはあまくないんだろ」


「あー、しし、それはねー」


 まゆちゃんは奈々穂ちゃんの相手も慣れたもの(というか、一番うまい)、すぐさまいたずらっぽい笑みを浮かべ、流れるように嘘をつむぎ出す。


「あんね、お店で売ってるやつはいいわたあめだからさ。普通のわたあめは甘くないんだよ、たまーにあるお空のあまーいわたあめを、集めてきて売ってるんだ。だからこういうときしか売ってないの。雪も甘くないしね」


「そっかぁ。じゃあだいじにしなくっちゃね」


 はむ、とおいしそうにでも食べる勢いはすごく早い。口の周りを見事にべっとべとにしながら、広子ママを困らせてた。


「あーあー、ちゃんと拭きましょうねー」


「うん。ゆきもさぁ、あまかったらいいのにねっ。しろっぷかけなくてもかきごおりできるのに」


「ダメダメ、あれおいしくないし、すぐおなかぎゅるるーってこわしちゃうの。食べちゃダメだよ」


「ええーっ。ちぇーっ。ななほあれにいちごしろっぷでおなかいっぱいにするのゆめだったのに」


「まあまあ。お姉さんがかき氷おごったげよう、それでいっぱい食べなさい」


 試しに姉ぶってみる。あっという間にわたあめを平らげてごしごしとへたくそに口周りを拭いている奈々穂ちゃんに、次のお菓子をプレゼント。もちろんまゆちゃんにも。


「ありがとっ。えへへ、やっぱりなつはかきごおりだよっ」


「あんがと。ひひん、メロンのがおいしいよー? あげなーい」


「いーもーん。いちごのがおいしーもんねー」


 ……まだあたしにはこの仲良しというか、あんまりにも子供っぽいのを、ママたちのように微笑ましく見守ることはできないかも。だってあたしもまだ十四だし。


「はぁ。頭痛いわ」言いつつ、絵里さんはにこにこ。


「私もです」同じく広子さんも。


「いえいえ、あれだけ腕白なほうがよいですわ。元気でよいですの」


「あらあ? 花織ちゃんはおてんばで困るって言ってたじゃない」


「ええ、それはもう。まゆさんに奈々穂さんのこれはまだまだ、花織のおてんばとは程遠いですわ。かわいらしいですの」


 向こうの妹さんが見ているのが少し心配そう。平気ですよ、体型こそちっちゃいですけど、中身はあたしよりよっぽどしっかりしてます。


「そうかしらあ? 私はねえ、まゆがこのまま男勝りまっしぐらで、兄貴分ならぬ姉御肌の道を行くかと思うと心配で」


「聞こえてんぞっ!」


「あらごめんなさい。その調子で食べるなら、今夜は夕食なしでいいわね」


「えー、そう? 帰っても食べたいなぁ。今日はお母さんじゃなくって、おいしいおいしい人たちの番だし」


「ますます抜きね、そうだ今度ペペロンチーノ食べさせたげる」


「あー! あれだな、すっげーかっらーいパスタだろ! いやがらせだー!」


「がらせだー!」


 奈々穂ちゃんはよくまゆちゃんのあとについてくる。なんだかおかしい(絵的にも)。


「いいえ、夕飯当番であんな甘いカレーライス作ったまゆがいけません」


「なんだよ、カレーだって甘いほうがおいしいじゃん」


「そーだそーだ」


「そうかしら? ここはみんなの意見を聞きましょう、では春花さん」


「えっ。え、えっと……実は私も、その、あんまり辛いカレーライスは苦手でして……」


「まあ春花さんはそうでしょ。続いて広子さん」


「うぅん、どっちかというと辛いほうが好きですね」


「愛さんは?」


「まゆちゃんのカレーおいしかったですよ。あ、でもお店行くと大抵激辛かなぁ。ほら、五辛とか十辛とか選べると、大抵一番辛いの選んじゃうかなぁ」


「へぇ、そうなんですか。あ、あたしも辛いカレーよりはまろやかで甘みもちょっとあるほうが好きです」


 うちでは大体甘口カレーが出てくる。


「ふふん、ほらみなさい、辛いのが好きなのはね、大人の証拠なのよ。まゆはお子ちゃまねっ」


「当たり前だろっ、あたし七歳だぞっ」


「話ずれてますよ」


 この面子でこういう指摘やつっこみをするのは愛さんになってしまうみたい。


「お母さんだって甘いの大好きなくせになに言ってんのさ! お父さんのロールケーキめっちゃくちゃおいしいって食べたい食べたいって言ってるくせにっ!」


「まゆっ! そ、それは黙っときなさいって言ったでしょっ!」


 ははぁん。やっぱりこの亭主大好きな第一夫人め。陰ではこそこそ、旦那様にはあんまし言わないくせに好き好きだのわがまま放題なんですね? わかります、あたしもそんな感じ。


「お母さんさっ、あの味でないかしらって、こそこそ練習してんだよっ。そいでさっ、お父さんびっくりさせようって、お父さんよりおいしくしようって練習してんだよっ」


「まゆっ!」


「まあ、旦那様の手料理を改良しているのですね、素晴らしいですわ」


 ぽけぽけ春花さん。なんていうか、深窓の令嬢は違うなぁ。


「夫婦の共同作業みたいでよいですわね、うふふ。そういうのは、こっそりやりたいものですものね」


「……むー。ふんだ、じゃああたしも一緒にやらせてよ」


「しょうがないわね。お父さんにはヒミツよ?」


「もっちろん。へへへ。あたしもさー、お父さんみたいなおっいしーロールケーキ作れるようになりたいんだー」


「ななほは食べるほうがすきだなぁ」


「ししし、奈々穂ちゃん、自分で作れるようになったらいくらでも食べ放題だよ?」


「ああっ! そっかぁ! うし、ななほもやるやるっ! 広子お母さんおしえてぇ?」


「ええ、いいけど、おいしくないのができても自分でちゃんと食べないとロールケーキが泣いちゃうからね。あと、お母さんはお父さんほどおいしいの作れないから、奈々穂ちゃんがちゃんと頑張るのよ?」


「うん!」


「そうだ、今度みんなで練習しようよ」


 ぽんと愛さんが赤色の浴衣の袖を合わせる。


「憲邇さ、お父さん帰り遅い日があるし、そういうときにお昼に練習できたらいいじゃない? おやつ代わりにもなるよ。明日とか」


 ちょうど明日は日曜日でもあるので、確かに絶好の機会ではありそう。


「いいですね、やりましょう。おいしくできたら、帰ってきたお父さんにごちそうしなきゃ」


「あ、それいい! やろやろ」「うん!」


 二人のお子さんはかき氷のスプーンを天高く掲げ、すぐさま危ないから下ろしなさいと言われてた。


「うぅん、お母さんは明日お仕事だからちょっと無理かなぁ。あ、春花さん見てくれます?」


「……え、えと」


 なぜか言いよどむ黒の浴衣さん(たたんだ日傘がほんと、らしいなぁ)。教師も日曜日はお休みだったはず。


「そ、その、私は明日は難しいので、どなたか別の方を監督に、え、絵里さんでよいでしょう?」


「そりゃ、私もやりますけど。春花さんもせっかくだし作りません? 教えるの楽しいんでしょ?」


「ううっ、あ、明日だけは都合が……」


 あ、あ、この赤面、絶対せんせだ。こういうのににぶちんなほかの人は気づかないから、あたしが言っとこう。


「おほん。春花さんにも用事がありますから、いいじゃないですか。あたしがまとめて面倒見てやりますよ!」


 どんと浴衣で幾分抑えられた胸を叩いてみせます。


「まだ猫さんなので、せんせがどう言うかですけど」


「お、たのもしーじゃん。じゃ、みんなに言わなくっちゃ、あたしが」


「ああ、本日は私がその役割ですので、私が行って参りますわ」


 からころと春花さんが駆け出していった。あの春花さんが少し駆け足になるくらい、明日は大変みたい。


「へんなの」「へんなのー」


「……明日仕事でむしろよかったかも……」


「広子さんはまだなんですか、いろいろと」


 ぎくりと気づいた様子の、浴衣でも豊満な胸の紺浴衣さん。確か前回の露出もあとのほうでしたっけ。


「なっ、なんのことかしら」


「広子お母さん、ななほきんぎょほしい」


「は、はいはいただいまっ」


 からこん、娘さんを押し出ししていった。あの様子じゃあまだかなぁ。


 あ、せっかくだ。奈々穂ちゃんが屋台での勝負の勝ち負けが指令であるなら、やっとこうっと。


 六人でわらわらと金魚すくいの前に陣取る。奈々穂ちゃんはこれも初めてで、ただでさえ大きな瞳を、もっと大きく見開いていた。


「これどうしたらもらえるの? かえるの?」


「こいつで掬うのさ」


 おじさんがポイを見せてくれる。「そんでこのボウルに入れるんだ、そしたら嬢ちゃんのもんだよ」


「ふぅん。あ、でめきんだ。やっぱふつうのきんぎょよかでめきんのがかーいーね。ななほあれほしい」


「じゃあやってみましょう。まずはお母さんがお手本見せてあげる」


 広子ママが一番手を担い、軽く浴衣の袖まくり、ポイを手にこんなの簡単でしょ、と言わんばかりの甘く見た顔で単なる薄布を水につけちゃうと……


 ぽしゃん。お手本どころか、一匹もすくえず金魚は紙を破って水面に落下し、おしまい。
大悟(だいご)が言ってたっけ、こういうの案外と難しいって。


「お母さんへたくそだね」


「そ、そうみたいね。おかしいなぁ」


「広子さん経験あったんですか」


 愛さんの問いにふるふると高をくくったのを教えてくれた。ふんふんと奈々穂ちゃんはでもやり方を把握したようで、次にポイを手にしてた。


「こう、しょっと」


 ぽしゃん。あっさりとまたポイは破れ、金魚はすいすい水中を逃げていく。ふんふんと奈々穂ちゃんはしょげたりもせず不満げな声も上げず、なぜか淡々と「もっかいやらせて」と二個目のポイを手にしてた。一回の代金で二個って安いのかな、高いのかな、なんて考えてると。


 なんと。奈々穂ちゃんはコツをつかんだのか、ひょいっとお目当ての出目金をすくい上げ、ボウルの中に捕らえていた。


「わぁ、とれたとれたー。えへへ、ありがとおじちゃん。こいもらってくねっ」


「ああそのまま持ってかないでくれ、おめでとさん。今そいつを持ってきやすいように袋に入れてやるから」


 慌てたおじさんがてきぱきと手際よく、水の入った透明なビニールの袋に出目金を詰めてくれた。小さな袋、ちょっと奈々穂ちゃんには不安げな広子ママは、「お母さんが持っててあげるね」とすぐさま奪うようにしてとっていってしまった。あれをすぐ落として涙を流すのを避けるナイスプレイ。


「ん、おねがいね。ふふふ。お兄ちゃんにあげるんだぁ。よろこんでくれるかなぁ」


 ふぅん。そっか。ないみたい。しょうがないね、別の人と勝負しようっと。でも奈々穂ちゃん強いなら、挑んじゃおうっかなぁ。


「喜んでくれるよ、でめきんのがいいもんね。でもすごいねー、すぐできるようになっちゃった。どうすんの? ていうかまだ紙やぶけてないよ?」


「いいよ、もうでめきんもらえたし。こいね、こう、ぴょんぴょんってやったらできるの」


「ぴょんぴょん? こう?」


 ぽしゃん。まゆちゃんもすぐに破けて、悪戦苦闘してた。絵里さんからの援護射撃で懐はまだまだ厚く、とれるまでチャレンジするみたい。


「あーあー、袖濡らして。まったく」


 楽しそうなまゆちゃんに水を差したくないのか、絵里さんは一応見守るだけにしてた。わいわい、まゆちゃんと奈々穂ちゃんで金魚すくいを楽しんでると(途中で愛さんも混ざってた)、知ってる顔がこちらにやってきた。


「あら、こんばんは
上山(うえやま)先生。やっぱりいらしてたんですね」


 急によそいきの綺麗な声になる絵里さん。うぅん、こういうの、まだできないなぁ。


「ああやっぱり。こんばんはまゆちゃんのお母さん、と、お友達のみなさん」


「こんばんはー」


 軽くみんなの自己紹介。あっちの大きな子供も、とりあえず紹介しておく。


 上山先生は以前せっかくだから不倫でもしちゃえと思った、あの人だ。よく覚えてる。確かに若く美形、これは女子から絶大な人気を誇るわね。


 でも、隣でこれみよがしに腕を組んでいる彼女さんがもういるみたい。ピンクの浴衣だ。


「あ、こちら僕のフィアンセの
月夜(つくよ)さんです」


「あらどうもこんばんは。仲がよろしいようでよかったわあ」


「あーらまゆちゃんのお母さん、偽りの旦那さんとは一緒じゃないんですねー」


 いきなり険悪なご様子。皮肉っぽい台詞にも絵里さんはまったく動じず、からからと笑い飛ばして、


「そうねー、今じゃ偽りじゃなくて本当のフィアンセに昇格したから、こういうとこに一緒でなくとも許してやってるわ。今度ちゃんと紹介したげる」


 公的な場での自分の有利を堂々と言ってた。やっぱり、いいなぁ。うらやまし。って、どうして一緒に来てるって言わないんだろ。


 むむむ、とフィアンセの女性は面白くなさそうな顔で、大人な切り返しをした絵里さんに苛立ちを隠そうともせず、いきなり腕を引っ張って踵を返し、「いこ!」と大声でその場を立ち去ろうとした。


「あ、えっと、じゃあ。あっ、
尾方(おがた)さん、この前のアドバイス、ありがとうございましたっ。とっても役にたっ」


 思いっきりビンタされてる。


「浮気は針千本飲ますわよっ! よりによって人妻っ! 最低っ!」


「いた、痛いよ月夜さん」


 引きずられるようにして人波に消えてっちゃった。絵里さん、なにかしたな。


「あはは、面白いわねえ」


 って、くすくすおしとやかに袖を口元に当てて笑うばっかりで、きっとなに聞いても答えてくれやしないだろうけど。あ、春花さん戻ってきた。


「あの、なにやら上山先生と婚約者の方がお怒りのようでしたけれど……ご挨拶してもなしのつぶてで」


「ああいいのいいの、大丈夫よ。春花さんが悪いわけじゃあないし、なにかあったわけでもないから」


「そうですか? それならよいのですが」


「なーに、上山先生来てたの?」


 まゆちゃんが戻ってきた。……愛さんはまだ奈々穂ちゃんから指導を受けて、四苦八苦。


「そうよ、会ったらまゆもちゃんとご挨拶するのよ。あら、とれたの?」


「ししし、どーだっ! あたしもでめきんゲットだぜ!」


 ちっちゃなビニール袋にはふよふよと出目金が泳いでた。それも二匹。


「やるじゃない。ちゃんと持てる? 落としたら大変よ?」


「平気だよ、あたしだってお姉さんだかんねっ」


「そう? ならいいけど。あ、ちゃんとまゆが飼うのよ?」


 びくっ。普通の言葉のはずが、あたしの背筋を、伸ばさせる。


「お母さん世話しませんからね」


「あったりまえだよ。あたしのほうこそお母さん勝手になんかしたら許さないかんねっ」


「あらあら、いっちょまえに、ふふふ」


「まあ、まゆさんすごいですわね。実は私、昔飼っていたインコを自分の不注意で大怪我させたことがありまして、はぁ。あんなに大切にかわいがっていたのですけれど、それ以来なんだか怖くってペットは飼っていませんわ。娘たちにもできるだけやめるよう言って、まあ花織はまだよく知らないそうでよかったですの。花雪は元々興味がないみたいで」


 ペット、飼う、かわいがる、世話。言葉の端々にある、一見普通の単語たち、でもそこにある、真実……あたしはどうしても昨晩のことが忘れられず、胸が高鳴ってきていた。


 昨晩は、すごかった。とっても、とっても。なじられるたび、いじめられる、たび、ああ……あたし、今朝の目覚めもどきっとした、もの。ご主人様を見るともう胸がどきどきするばかりで、思わず先に一人で、お目覚めフェラ、した、もの(紗絵子さんもすぐ加わったけど。咥える音で起きる辺り同類です)。ご奉仕したくってしたくって、尽くせるだけ尽くしたくってたまらない。


 ポルノ映画で一人えっちも、お散歩の前に一本分、二時間は止めてくれるってやさしいし。ふふ。……その、お散歩でだけで、濡れちゃうかどうか、確かめるためだっていうけど、違うんだから。やさしいからなの。ポルノ映画鑑賞自体やめさせてくれないから、やさしいの。


 ……お尻でのえっち、も、実はかなり、きつかったから、そこをせんせが半ば強引なら大好きで大好物でどんとこいで反転するんだけど、せんせが好きじゃなくって、実はほっとしてる。かなり、苦しかったし。


 魔法の言葉がたくさん書いてある指示書も何度も読んで読みまくって、どうしたらうまくやれるかと、その先の、自分からこれもやれば、というのをずっと探してる。全然思いつかないけど、でも、思いついたらやるんだ。ご主人様を驚かせて、それかうざったがれてお仕置き、してもらう、の(こういうのがもう、性奴隷としてアウトかも)。


 ほかの三人にすぐにゲームで勝負すればいいかな、と思ったけど、さすがに早いかなぁって。と思ってたらジュースを持ってきたのが泉さんと花雪さんだったし、見た目じゃあわかんなかったけどなにかされたと思ってる。やっぱり今からでも勝負を挑んで、そっちと、ついでにもう一つ……ああでも昨日からこっち、えっちの段階とんでもなく一気に飛んでる気がする……


「だいじょぶだいじょぶ、でめきんだしねっ。ペットかぁ。うーん今はいいかなぁ」


「ぺっと? ななほうさぎさんかいたいな」


 奈々穂ちゃんと愛さん、それに広子さんが戻ってきた。愛さんはまたかわいらしい笑顔で一匹、ちっちゃい金魚を捕まえてた。


「うぅん、こういうの、お祭りのたびに思うけど荷物よね。よし、うちの人呼んできましょう、一旦預けに」


「呼んだ?」


 ひょいっと急に現れたせんせ。やっぱり浴衣、カッコいい。


「お兄ちゃん! あのね、ななほがね、でめきんとったんだよ! すごい?」


「あたしもあたしもっ。二匹もだよっ」


「お、すごいすごい。へぇ、大したもんだ」


「えっへっへぇ。それ、お兄ちゃんにあげるねっ」


「本当かい? 嬉しいな、大事に育てるよ」


 うわぁ、ほんとにうれしそうな笑顔。かわいい。


「あなた、子供たちは見てなくていいの?」


「あはは、お役御免なんだ。手持ち無沙汰でね」なんでもレオンくんとルーシーさんががんばってるとか。


「なにかしてないと体うずいちゃうんでしょ、もう。ちょうどいいわ、これ持ってってちょうだい」


「お、みんな早くも大漁だね。わかった」


「憲邇さん、こういうの置いとけるなにか、ありましたっけ」


「大丈夫、毎年だからちゃんと用意してるよ。じゃあ行ってくるね、また集まったら持ってくから、どんどんとってしまいなさい」


「はぁい!」


 物腰落ち着いてるけど、浴衣だと段違いだなぁ。カッコいい。素敵。大好き。


「ちょっと奥さん聞きました? 下の名前で呼んだですよ」


 なにやら広子さんの背後から怪しげに(装った)声が。あ、千歳さんの同級生の、えっと、可奈さんだ。怪しさ満点に手のひらを(袖でなく)口に当て、おかしな笑み。


「ええ、ええそれはもう聞きましたとも。メイドは地獄耳なのですよ、ふふふ」


 同じようにみょうちきりんな笑顔で良子さんがその隣に。あ、みゆちゃんたち親子もみんないる。


 で、今の言葉を認識した広子さんは真っ赤になってぶんぶんと手を振り、大否定。


「ち、ち、ちが、そういうのじゃ」


「おやおやぁ? 人様の亭主ですよ? それなのに憲邇さんだなんて、『あなた』と同音異義語を使うとは、同僚ですよねー? いいんですかー奥さん?」


「あっはっは! なにを今さら。うちの人がやたらもてるのは今に始まった話じゃなし、下の名前で呼ばれ放題よ。いちいち目くじら立ててたら、あの人の相手は務まりやしないわ」


 うっわー、余裕綽々ですね。小憎らしいです。さすが正妻。


「おお、さすが妻になると違うんだー。すげー、あたしもし自分の彼氏が名前で呼ばれてたら絶対ケンカしちゃうなー」


「え、そう? うぅん私の好きな人がかぁ。うーん、別に気にしないなぁ」


「みゆもお父さん、お母さん以外に名前で呼ばれててもいいでしょう?」


「え、うん。いいんじゃないかな、だって、みゆのお友達も名前で呼んでるもん」


「ちっち、違うでございますよみゆの助」


 可奈さん、ああいう人なのかな。千歳さんも大概だけど(ごめんね)、あの人もなんだか変。……泉さんみたい。


「大人の、特に広子さんや深町先生のような大人の男女間で、下の名前、ファーストネームの称号を使い合うのは、もはや夫婦しかないのでございますよ!」


「うわぁ、微妙に偏見ねえ」


 絵里さんがちょっと苦笑し出したぞ。


「まあでも、そうでない人だって結構いるけど、大体合ってるかしら」


「まあ奥さん? 奥さんだって結婚してから夫婦の呼び名を使っているのでしょう?」


「そ、そうだけどさ、一応、まだ婚約者なだけだし」


 気圧されてる。珍しい。


「ではあたしが名前で呼んでもいいというのですかっ」


「ええ、そりゃ構わないわよ」


 ……ぼっ。なぜだか可奈さんはそこで燃え上がる炎を体から噴き出し、まっかっかに赤面してた。……


「あらあ?」今度は絵里さんがほくそ笑む番。「なあに、うちの人と不倫したいの? ふふふ、うちの人、すごいわよ? 知らないわよどうなっても」


「えっ、い、いや、別にそういうわけじゃあ」


 こういうとき本来なら広子さんが攻撃する番なのに、あの人いっつもしないんだよね。人柄かなぁ。


「聞いちゃダメよみゆ。絵里さん、こういうとこでそんな話よしなさいな」


「あ、ごめんなさい。まゆも聞かなかったことにしてね」


「なんでー? お父さんすっごいじゃん、かっくいーし、お仕事いっつもがんばってるし、お料理上手だし、強いしさ。あ、でも片づけだけはへたくそだけどね、あはは」


「あはは、そうですね。この話はもうよしましょう可奈さん。……やぶ蛇だったようですし」


 良子さんの最後の言葉は聞こえなかったけど、可奈さんもどうやらそこでからかいの矛は収めてくれた。


 少し真顔になった可奈さんは、みんなが次はどこ行こうなにしようとわいわいしだしたところで、こっそり絵里さんに耳打ちしてた。絵里さんの隣にいたあたしには偶然聞こえて、しまう。


「──そんなに不倫してもいいと言うのなら、遠慮はしませんね」


「……」


 絵里さんも目が点のびっくり。本気を感じ、ふぅんと眉根を上げて、こちらも耳打ち。


「望むところよ」


 最終的にはお互い不敵な笑みを浮かべることで決着がついたみたい。あーあ、どうなるのかな。あたしはてっきり、可奈さんどころか桜園の女の子全員抱き込むつもりだとばっかり思ってたけど。それじゃなくても、二十人は軽く見積もってたんだけどな。泉さんのケータイ、たくさんいたしなぁ……


「それじゃあわたしたちあっちのほう見てくるわね。あ、憲邇のやつが戻ってきたらこっち来るよう言っといてくれる? わたしたちも大荷物よ」


 どっさり、詩音さんもみゆちゃんもくじ引きでおまけをもらったみたい。それ以外にも千歳さんも大漁の戦利品を胸に抱えてた。まだまだ手に入れる気満々で、楽しそうに向こうへ歩いてく。


「ええ、わかったわ。ほら可奈ちゃん、柚香里さんみたいにファーストネームの男女もいるのよ。昔馴染みってやつね」


「えーでも高校のモトカノでしょ? それはノーカウントかなー」


 覚えてるもんですね。


「だから、そういうのもあるってことよ。同僚なんだし、私は詳しくないけど名前で呼ぶほうが信頼が深まっていいとかじゃあないかしら」


「えー奥さん、そんなこと言ってるとほんとに浮気しちゃいますよ、ご主人」


「失敬だな」


 うわっと、またせんせが急に現れた。


「ただいま。私は浮気はしないよ。とは男が言っても、信用ないと思うがね」


 ええ。あたしたちみんながせんせのものですから、浮気とかそういう次元じゃあありませんものね。ふふふ。


「お兄ちゃん、つぎななほね、えっとね、わっかぽいぽいなげるの。見てて見ててぇ」


 ぐいぐいと浴衣を引っ張ってく奈々穂ちゃん。既に輪投げの前にはまゆちゃんも、また愛さんも陣取ってた。


「ああ奈々穂ちゃん、柚香里さんが言ってたでしょ。あなた、向こうも大荷物よ。ついでに子供たちと、そう紗絵子さんという大きな子供さんのとこにも顔出しときなさい。そろそろ溜まる頃じゃないかしら」


「ああ、わかった。ごめんね奈々穂ちゃん、また今度」


 からから急ぎ足、せんせは大忙しだ。


「ちえー。じゃあいいもん、ひとりでやっちゃうもん」


「ねーねー、静香さんも輪投げしようよ。あんさ、静香さんこういうの得意でしょ?」


「うん、やるやる。でも屋台のゲーム、全然得意じゃないよ、やったのずいぶん前だし」


「そうそう。なにかね、まゆのやつ静香ちゃんがゲームとか得意だって思ってるらしいのよ。この前もすいか割り、静香さんなら簡単にやっちゃうって言ってて」


「そんな感じしただけだよー。静香さんってさ、大人っぽいし、いろんなことできちゃうじゃん。中学生なのにさー、びしばしって、なんでも片づけちゃってすごいなーって」


「あはは、ありがと」


「あ、そうだったんだ? へぇー、こんな色っぽい中学生初めて見たよ」


「ありがとうございます」


 奈々穂ちゃんがえいやっとわっかを飛ばしているのを眺めながら、ハッと気づく。危うく忘れるところだった。


「奈々穂ちゃん、あたしと勝負しよっか。次からのでいいよ」


「お、いいよお! ななほまけないもん」


「静香さん、私とも勝負、しよう」


 お、愛さんもですか。ふふふ。いいですよー? あたし、負けませんから。


 ……勝っても負けても、あたしには……。




 静香への指令──その一、静香だけ、誰かと勝負して勝っても負けても、相手がするはずだった罰ゲームを受けること。








 お祭り会場近くに人目を避けられるこんな林みたいな場所、あるって便利だなぁ。きっとあたしたち以外にもいるんだ。出会ったらどうしよう。ご挨拶なさいとか、はぁっ……


「それで、どうしたんだい?」


「はい。あたし輪投げで奈々穂ちゃんに負けて、愛さんに勝ちましたっ」


「負けちゃいました」


 愛さんも一緒の三人で誰にも見えない林の中。がさがさすると気づかれるかな、気づかれるかも。はぁ。


「ふぅん? 奈々穂は別に勝負事はないけど、まあ静香のほうがあれだから仕方ないか。じゃあ、罰ゲームは春花から聞いているね?」


「はい」


 二人して言っちゃった。ちょっと声大きいかも、我慢ですよ? 愛さん見つかりたそうな顔して。


 ていうかせんせ、ここまで誘ったときにもう、わかってたくせに。勝負がついたときにすぐ春花さん、あたしにも愛さんにも伝言、きましたよ? ふふふ。


 ではまずあたしからいいですね?


「奈々穂ちゃんに負けたので、罰ゲームとしてお尻を叩いてもらいます。お手柔らかに」


 相手がゲームの指令がない場合は、単に罰ゲームなの。でもこれは彼女の罰ゲームとしてはぴったりだから、仮に奈々穂ちゃんが負けたら、っていうのかも。


「私は」


「こら、一緒にやったらせんせがちゃんと見られないでしょ」


「あ、そっか」


 ご主人様に笑われてる。大好きな人の性奴隷としてはあたしに一日の長があるんだから。


 あたしは近くにあった同じ程度の幅の木と向かい合い、せんせにお尻を向けて、するするとまた一枚二枚、浴衣をたくし上げていった。今日のピンクの下着をもう一度披露する。それからちょっとだけ見てもらう時間をとって、するするとショーツを下げていく。


「あれ、誰が見せていいって言った?」


 びくっ。「ご、ごめんなさいっ」すぐにさっとショーツを履き直す。


「私は浴衣のお尻を叩きたいんだ、それぐらいわかりなさい」


「はいご主人様。申しわけありません」


「……」隣はせん望の眼差し。変態。


 あたしは結局、浴衣のまま単に木に手をつき、お尻だけを突き出してご主人様に愛撫してもらうのを待った。振り向いて見つめると、せんせは焦らす天才で、まずはじっとり、ヒップラインを眺めてくれるの。うれしい……


 ぱしん! 一発、すごくいい音を出して、せんせが叩いてくれた。びりりとした心地よい痛みがお尻から背中を駆け上がり、頭を揺らしてく……あたしはすっごくびくつき、震え上がり、信じられない快感を感じてた……


 えっちな目、なっちゃう。


「一回だけだよ、ひとまず、この音でどうかを出てから見ないとね。祭りの騒がしさで聞こえないかどうかをまず確かめないと。大丈夫なら──」


 わかってるな、の、瞳。大好きな海がなにを言ったのか。わかりすぎるくらい、わかってる。


「はい。叩いていただき、ありがとうございました」


「よろしい」うあ、今手の甲で頬をなでてもらうと、大変だよ……


「いいなぁ……」


「愛はなんだったんだい?」


「あ、はい。えっと……携帯で自分撮りです、えっちなの。さっきのと同じくらい大きい音が出るから外に聞こえないよう気をつけます。あの、それと憲邇様の持ってるカメラでも撮ってみたいんですけど、いいですか?」


「……そういえばカメラ、車の中だ。あちゃあ、罰ゲームとして考えといて情けないね。また次があったらにしよう、ぜひ採用したい。持ってきておくよ」


 意外とせんせは抜けてるんですよね。


「もちろん見つからない注意されないところで撮影しますので、こういうところとか、場所はいくつか見つけてあります。あとそうだ、携帯のえっちな写真、ホームページで見てる人たちにも見せるのって、できるんですか?」


「ああ、携帯版か。確かに携帯だと手軽にエロ写真が撮れるし、そっちもあるといいかもね。手配しておこう」


 言うが早いかぴっぴとケータイでパティちゃんに連絡してた。むむ、愛さんはやたらとえっちな意見ぐいぐい出ますね、そこは見習わないと。


「よし、と。一応通話はよしとこうかな、って、返事早いな……へぇ、普通の画像とかも携帯サイズに変更できるんだって、携帯版もすぐできるそうだ。よかったね愛。これからお前はまたどんどん、全国の名も知らぬ男たちの、慰み者だね」


「……はい……」


 ……同類だ……パティちゃんと仲良くできると思ってたけど……この人とも……


「知らない男に何度おかずにされるんだろうね? それですぐ飽きるような男の使い捨てにされるんだろうね、お前のようないやらしい女は」


「……はい……」


 うわぁ、ぞくぞくしてるの丸わかりだ。いいから早くえっち写メ、撮ってくださいよ。


「今度私も見ておこうかな、お前と一緒に。さて、撮らないのか?」


「あっ、すみませんただいま」


 赤いシンプルな柄の浴衣を肩からまずははだけさせる。あたふた慌ててて、ブラを脱ごうとしてホックを外さずに取り出そうとしていろいろ引っかかって変なことになってる。こほん、と咳払いをすると、気づいた愛さんはなぜか脱ぐのをやめ、はだけた浴衣から下着をのぞかせるだけになって裾をめくり、それはそれで色っぽい着崩れ艶浴衣になってた。赤色に黒の水玉。


「うぅん、片手だと難しい……しょうがないっか」


 片手だと裾は一枚しかめくれず、ショーツがほぼ隠れちゃうので、仕方ないから一旦両手でちゃんとめくって、すぐにさっと片手だけを離して浴衣が戻るまでにかしゃっと大きなケータイの撮影音を響かせた。ショーツはちら見せ状態で一枚になる。さっきのお尻の叩く音よりは小さい、かな。手伝おうかとも思ったけど、せんせの顔を見るにやめたほうがよさそう。なにしろ次は……


「なんとか撮れました。えっ、と、ああ携帯ってすごいな、ちゃんとわかる」


「先にパティに送っておきなさい。もうちょっとお前の着崩した浴衣、見ていたいな」


「もったいないお言葉、ありがとうございます」


 めろめろだ。すぐにちら見せから丸見せにしてる。ふふ。あたしはせんせがちらっとこっちを見た意味がすぐわかったので、一緒にしますと頷いて返したの。


 あたしもよいしょっと、まずは肩を露出させ、さっきのピンクのふりふりブラを見せる。ふっふっふ。谷間は愛さんよりふっくらでしょ?


「あれ、静香ちゃん終わったでしょ?」


「あたし、今日の露出だから。例の指令、誰に勝っても負けても、相手がするはずだった罰ゲームをしなくちゃいけないの」


「……」目がきらきらしてる。完璧同類だ。


「愛、お前も勝てば同じこと命じてやってもいいぞ?」


「ほ、ほんとですか?」


 しっかり頷くせんせにまたきらきら、ますます大好き目線、そしてもっとよく見えるよう裾を太ももが全部わかるまでめくってた。あたしは微笑みながら、同じように片手だけで下をたくし上げた一瞬を作り、ピンクのフリルショーツちら見せ、ケータイで自分を撮った。


 かしゃっ。一際大きな撮影音。確認するとしっかり、着崩れ艶浴衣、あたしバージョン、へへへ。


「できました。ちゃんと映ってます」


 こうして確認すると、なんだかかあって恥ずかしいな。なんでだろ。


「よろしい。そっちは私の二つ目の携帯に送っといてくれ。二人ともかわいい下着だね、綺麗だよ。もうちょっとだけ見てようかな」


「もったいないお言葉……」


 思わずうれしくてあたしはちょっとだけかがんで、谷間を強調しちゃった。ああでしゃばっちゃったかも。でもせんせ、にっこり、こっちうっとり……愛さんもすぐまねっこ、ふふふ。


 愛さんの肌はほかの美しすぎる大多数と比べて、色白でこそないけど大人の十九歳。特にめくって見せた太ももはなんだかむっちりしてて、妙に色っぽい。すらりとした美脚の絵里さんや巴さんと違い、広子さんと同じようなこっちもすべすべっとやわらかそう。あたしの太ももも一応年相応のすべすべだと思うけど、愛さんのとはなんだか違うように見えてくる。はだけた浴衣からのぞく肩とブラジャー、お互い様だけど愛さんのほうがしなを帯びてて、さすがの大人だ。谷間こそ浴衣の似合うそこそこだけど。あたしは実は着慣れない浴衣が窮屈で、胸がちょびっと苦しかったりする。こうして半脱ぎになると開放感があって、それで、外で脱いでる、露出してるいけない感覚……ああ、それを大好きな人に見られてる、男の人のいやらしい視線……同類だけど、同じ女の子にも見られてる……隣はうらやましいだけど、これが、同性の、さげすみや敵意丸出しの女の怖い視線、だったら……


 あたし、変態だ。想像すると、ぞくぞく、して、きた。試しに、試しに隣の愛さん、じとっとさげすんだひどい目で見つめてみる……はぁ。ご主人様しか瞳に映ってないから意味ないや、やめとこ。


「ふむ、よし、じゃあちょっと歩こうか」


「はいご主人様」


 がさごそと来た道を戻っていくせんせに、二人がついていく。がさごそ、がさごそ、ああせんせ、林抜けちゃいます……


 せんせは林を抜け、そこに続く道に出て、しまった。おいでと目が招いてる、そこは通ってきたところ、河原のすぐ近く、土手の並木道へと、出てしまっていた。そこを通る人、もちろん、いる、いるわ、見られちゃう……


 せんせの口が一瞬でいいよと、動く。


 一歩。気づいたら二人とも、林を抜けて、道の上へ。足が、立ってた。もちろん浴衣は、はだけたまま、下着、丸見え……


 人が遠くに小さく見える。すぐ周りにはいない。けど見える、見られちゃう……恥ずかしい……


 私たち二人は、自然、赤面をしつつも、より谷間を、太ももを、強調して、下着をご主人様に見せていきました。一瞬とは言わず、ご主人様が満足してくれるまで……こうしたら楽しんでくれるかなって、あ、あたし、勢い余って愛さんとおっぱい、くっつけるようにしちゃった。ふ、ふふふ。


 にんまり。ああ、うれしい、しあわせ……でも、でも恥ずかしい……


「もういいよ、戻して」


「はいご主人様」


「……」熱視線だ。いそいそあたしは着直しておく。


 愛さんもがさごそえいしょっと着直し、すぐ元通り。こっちはこっちで艶浴衣。愛さんが着付けのできることを意外と思ったことはごめんなさい。


「うまいこと今ので誰も気づいてないみたいだ、よかったね」


 近づいてよしよししてくれるせんせ。少し辺りを見渡し、好奇心の視線がないか確かめる。「大丈夫そうだな。戻ろうか」


「はいせんせ」


「はい憲邇様……」


 じいっと背中見てる。せんせは後ろにも目があるのか、すぐに振り返って困ったように笑った。小声で言う。


「あのね愛、君の望みは大体わかるけど、そんなのできやしないんだよ。ここは近場なんだ。静香のが羨ましいのはわかるけどね」


「愛さん、またわきまえないで自分ばっかり」


「あ、ごめんなさい。お尻……羨ましくって」


「でもね、ここでお前を裸にしてお祭りに放り出すわけにはいかないんだよ」


 そんなこと目で訴えてたんですかっ。まったく、淫乱ですっ。


「お尻叩きからそこまで願うのはどうかしてますよ」


「う、ごめんなさい。憲邇様よくわかりましたね」


「愛の瞳は正直だからなぁ。態度でもありありとわかるというか。お前のね、破滅願望はよくわかっているけれど、それはできない。悪いけれど、そんなものより私の願望が優先だよ。衝動でないだけマシだけどね」


「はい……」しゅんとなってる。


「愛が社会的に終わってしまうというか、周りの目が最悪になるのは、私の気分がよくない。悪いけれど裸で放り出すのは、場所も選ぶしもっとお互いプレイに慣れたらかなぁ。いつになるやら、でも、楽しみには、しておきなさい」


「……はい、憲邇様」


 うれしそ。うふふ。


「あ、憲邇様、思い出しました。いい露出場所見つけたんです」


「ほう、どこだい?」


「コインランドリーです。会社の同僚がよく使ってるんですけど、時間帯によっては利用者がほとんどいないみたいで」


「へぇ、じゃああとでどこのとか、詳しく教えてよ」


「はい」


「……待てよ、コインランドリー……おお、素晴らしいぞ愛! お手柄だ!」


「え?」


 二人できょとんとしてると、せんせはあんまり長居すると大変なのに構わず一人で構想を練っているようだった。えっち。


「楽しみだなぁ、愛はあとのほうだしね。よっと、では長居しすぎた、戻ろうか」


「はい」


 三人でお祭りへ戻っていく。せんせが先に確認した通りどうやら誰も見ていなかったらしく、あたしたちは堂々とお祭りの雑踏へ戻っていきました。これならみんなで何回も使えるかも、あそこ。


 時間は到着からそんなに経っていないけど、人の数は徐々に増えているみたい。ぞろぞろ、こんなにも人がいたんだと、浴衣姿の嵐にちょっとびっくりする。


 でも、せんせの後ろをついてくと、いるわいるわ振り返って雄大な海を見ちゃう人。うふふ。もてもてなんですから。


 ああ、後ろ歩けて、しあわせ……




 愛への指令──景品を一つ取るたび、屋台で誰かと勝負して勝つたびに、軽めのいやらしい命令をしてもらえるよ。そのときそのとき命令をしてあげる。
















 見つけましたっ。ご主人様発見、すぐさま急行します。


「深町先生、ちょっとこっちへ」


「なんだい」


 人ごみから離れ、花火見物席のシートたちがちらほら敷かれているところへ向かいます。林の中からですと、その、遠いですし……ご主人様が確保してくれた、花火のよく見えるいい位置までやってくるのです。


 ここのほう、が。人目が多すぎず少なすぎず、きっとご主人様もお喜びになるはず……


「……ローターを、ください……」


 でも声は、小さいのです。
















































































 第七十六話あとがき的戯言




 こんばんは、
三日月(みかづき)です。


 お祭り行きたい。


 それではここまで読んでくださりありがとうございました。また次回もよろしくお願いします。




 
20130327 三日月まるる






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テーマ : 官能小説 - ジャンル : アダルト

2013/04/15 19:43 | 小説COMMENT(0)TRACKBACK(0)  TOP

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